うずまくうずまつり
うずまきの国に祭りの時期がやってきた。うずまきの国は不思議な国で、海のど真ん中にある。さらに国の中心に巨大な穴が開いていて、その中に海水が渦巻いている。うずまきの国のお祭りはその渦の神様に捧げるお祭りだ。その時期は国中の何処に行ってもお祭り騒ぎ。踊り子が町中で躍り狂い、屋台がでてそこら中によだれを促す匂いが満ちている。
私は親友と一緒に町中を走り回っていた。私たちにとってはお祭りでもお祭りでなくても、見るもの全てが新しかった。まるで光の洪水だ。外の世界がこんなに暴力的なまでに綺麗だったとは。私達は走り回った。全ての出来事が五感をくすぐる。体の中の十何年分の陰鬱な空気を最後の一息まで吐き出さんと走り続けた。
目の前を二人の少女が死に物狂いで走っていた。恐らく巫女だろう。そんなことをしてもこの島から出ることは出来ないというのに。俺は船から積み荷を下ろしながら考えていた。祭りの時期は船が町を訪れることはあるが、出ることはないので密航などは出来ない。なにより、あいつらは出たところで行き場もなく、体の刻印がある限りすぐに島に戻されてキツイ殺され方をする。それをしっているのだろうか?俺は様々な国を船で渡ったが、辺境にあるうずまきの国の事は様々な国が知っていた。どうしてかは知らないがともかく、あいつらには世界の裏側にでもいかない限り逃げ場はないだろう。
町中の喫茶店。外席で珈琲を飲んでいた私の眼前を、二人のみすぼらしい姿の少女が通りすぎる。裸足の足は血に染まっていた。この国の祭りは不思議だ。祭りの開始日と共に町に巫女を解き放つ。巫女は生まれてから外の空気を一切吸っていない子供だ。神殿の地下に幽閉場があるらしいが、そこでどういう扱いを受けているかまでは知らない。だが、彼女らの服装を見る限り、あまり良い扱いを受けていたわけではなさそうだ。それとも同情を引くための演出かなにかだろうか?…わからない。巫女たちが解き放たれた後には兵士達が巫女を捉えにいき、祭りの最終日までに全員を捕まえる。そして渦の神とやらに連行し、生け贄として渦に突き落とされるのが決まりらしい。世界には様々な風習と善悪の判断が存在する。私がその事について言えることは何もないが、こんなに公然と行われて良いものだろうかと思う。まあ、旅の途中とは言えそれを見に来た私も、どこか狂っているのかもしれない。
久しぶりに渦を眺めに歩く私の前を横切って、二人の少女が通り抜けていった。今の私には助ける事が出来ない命だ。自分の無力さに絶望する。この国は占いで生計を立てている国だ。神官が渦の神から受けた啓示が、ことごとく世界の未来を言い当てたのだ。権力者達は未来を手中に収めるべく、この国を援助しだした。大した資源も無いこの国はそれにばかり頼るようになった。この国はそうして発展してきた。だが、占いを正確にするためらしい古い風習はそのままだ。その風習の一例が巫女達の犠牲だろう。 だが、いつか止めさせてみせる。国民達は善悪の感覚が麻痺して、本来の判断が出来ていないだけなのだ。訴えを続ければ皆に、そしていつかは国王に届くだろう。遂に渦にたどり着き私はそれを覗きこむ。そいつはどこまでもいつまでも生命のようにのたうち回り、ゴウゴウという言葉を発していた。ムカつく渦だ。私は誰にも気付かれないようにそいつに小石を投げた。そしてやった後で無性に悲しく虚しくなる。今の自分にはそれぐらいしか出来ないのだ。
私達は捕まった。それでも最終日の夕方まで逃げることが出来た。私は満足だった。私は限界まで生を走り続けたのだ。後は渦の神様だかなんだか知らないが、そいつに喰われるだけ。私の横で彼女は震えていた。彼女は言葉が喋れないので、私の手のひらに文字を書く。……「死ぬのが怖い」…か。私は彼女に優しく話し掛ける。私達は死ぬまで一緒だ。そして、死んでも一緒だ。渦の神様の前に連れてかれたら、二人で一緒に喰われればいい。死んでも二人でいれば怖くないでしょ?彼女は小さくこくこくと頷いた。
祭りの翌日。神官は後悔していた。巫女が勝手に渦の神様に飛び込んでしまったのだ。やってしまった。こんなことになるなら、二人一緒に飛び込ませてやると、慈悲を与えておけばよかった。渦の神様がお怒りになられたらどうすればいいのか。神託が外れれば、援助は打ち切られるだろう。そうしたらこの国は衰退して、他の国に侵略されるだろう。本当にどうしてこうなるのだ!妻は私の地位も知らずに他の男を作っていると噂だし、私のドラ息子は国家転覆でも狙っているのか、町中で市民に演説をしているらしい。本当に上手く行かないときは全く駄目だ。なにか対策を考えねば…。私がそう考えながら玄関のドアを開けると、目の前に銃を持った男が現れた。男はなにか叫ぶ。町中に銃声が響き、私の意識はどんどん遠ざかっていった。薄れる意識の中で彼は、これが神の怒りならば私の命一つで償われるだろうか、と考えていた。
お恥ずかしながら文章の仕事を目指しています。先はまだまだまだ遠いですが、一生懸命1歩ずつ頑張りたいと思います。アドバイス等をどしどし下さると助かります。
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毎日1話以上の投稿を目指していて、今日で8日目、今日1個目の投稿です。