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ハエは農業の救世主となりうるのか。

近年、セイヨウミツバチがなんらかの原因により激減している。
セイヨウミツバチの場合、ただハチミツの採取だけが目的ではなく受粉など農業には絶対に欠かせない作業に用いるため、激減に伴う価格の上昇や絶滅やレッドリスト認定などの最悪の場合を想定した対策を講じなければならない。

こういった中で日本が試みている代替案としては「ニホンミツバチなどを使う」といった他のハチを用いる方法だが、効率を考えるとそこまで良くなく、もっと違う方向性からのアプローチが求められていた。
(冗談抜きでクマンバチなどで実験されたことがあったが大した成果とならなかった)

そんな中で注目されたのは……信じられないことに「ハエ」である。

ハエというと、大体のイメージでは「糞や死骸にたかって病原菌などを媒介してしまうロクでもないイメージ」しかない。
そもそも彼らは生き残るために2つの手段を得た昆虫だ。

1つは「天敵が嫌うような過酷な環境をあえて選ぶことによって生存戦略とした」種類と、もう1つは「天敵となりうる者の体内にあろうことか寄生してしまう」という極めて凶悪な性質を持つタイプである。

日本国内には存在しないが、アメリカ大陸などにも存在する寄生型のハエはその種の名前で検索などすると吐き気を催しかねない画像が大量に出てくる危険生物である一方、全体総数からすると7:3程度で、割と寄生型は少ないタイプだったりする。

さらに「寄生型」を「一般的に認知されるタイプ」は捕食したりする種がおり、不思議なことに身内が天敵となっていたりする。(ちなみに、寄生型は同属がいると寄生を避ける傾向があり、国外の農業においてはあえて死骸などにたかるタイプのハエを大量に寄せ集めてウマやウシが寄生されるのを防ごうとする試みもある)

そんなハエだが、「過酷な環境」で生存するために得た能力が却って人間のために良い効果を発揮することがわかっている。
数千年前から知られている「マーゴットセラピー」という治療法だ。

これはwikipediaなどにも書いてあるとおり、元来は腐敗し、雑菌だらけの中で生きねばならないハエが生き残るために獲得した能力を応用したもので、
「腐敗した組織しか食べない」「腐敗した組織の中で生き残るために体を抗菌物質で覆う」という2つの能力を生かし、治療に用いるもの。

戦時中の日本では頻繁に用いられた治療法であるが、今日では保険外治療となっているためお世話になった者は殆どいないと思われる。

そんなマーゴットセラピーに用いられてきたハエだが、マーゴットセラピーの研究開発によってある習性があることが判明していた。

それは「彼らはなぜか幼虫の頃に食した餌を成虫になった際に積極的に捕食しようとする」というものだった。

これは「寄生型」を「寄生しないようにしよう」と試みる研究においても見つかっていて、寄生型は「どう足掻いても寄生する」一方、そうでないタイプは「栄養分さえ獲得できれば死骸や糞などで産卵しない」という不思議な特性をもっていたことが研究で報告されている。

マーゴットセラピーにおいて重要なのは「幼虫自体が無菌状態でなければならない」ということだ。
雑菌まみれの状態では最悪治療前より状況が悪化し、感染症によって死を招く可能性もある。

だから、「花のミツ」といった衛生管理しやすいモノを用いてハエの幼虫を育成したらどうなるか。
そんなことを試した者が研究者がいたのだが、

その場合、「本来、生き残って子を生み出すためには動物性たんぱく質が必要なのにも関わらず、餓死するまで花のミツを追い求め続ける」ようになるのだった。

彼らにとって花のミツは麻薬同然のようだ。

さらに言うと、その際「まるでハチのように受粉活動も行う」ことが判明した。
1980年代頃の話である。

その頃は「いや別にこいつらがそんな事できたってハチよりコストが高すぎて使い物にならんでしょ」と思われていたのだが、今やコストはハチと並ぶレベルにまでハチが高騰。

その結果、ハエが持つ能力によって元来は蛹の段階で処理されてしまう者達に光が当たったのだった。

ハエの持つスペックというと。
「成虫も極めて雑菌や病気に強く、無菌状態で育てたといっても野生の者と比較して基本的な抵抗力が低くなるというようなハチやカブトムシなど、一般的に知られる昆虫の持つ弱点、というか我々哺乳類も含めた弱点というものが無い」よって「極めて過酷な環境でも受粉活動を続けられる」

「刺さないので受粉中にも農作業が容易」(いくらミツバチは大人しいといっても、やはり受粉作業中は気を使う)

まぁ無いとは思うが、ハエは放射線などの耐性が極めて強い事から、放射線と放射性物質満載の場所でも受粉活動が出来る。(ハチはそこまで頑丈ではない)

ハチと比較した場合の効率では、1匹単位の受粉能力はハチと殆ど変わらない。(体の大きさの影響が考えられると思われたが、ハチはミツを巣に持って帰って往復する一方でコイツらはそういう行動を示さないため)

最期に最も異なるのが「ミツバチは冬に活動できない、ないし冬に活動させるのは巣が全滅する可能性もあり極めて危険」一方、彼らは「オールシーズン活動可能」という差もある。

その一方で「現在用いられる一般的な農薬は対ハエ用に非常に効果があるため、受粉後まで農薬を散布できずアブラムシなどの害虫が発生した場合の対処が現状では困難」という、それまで害虫扱いだった存在故の弱点があった。

ついでにいうと「餓死するまで約10日間活動し続けるが、10日後は全て全滅してしまう」というハチとは異なり「消耗品」に近い使い方になり、コストを抑制しにくいという弱点もあった。(ハチの場合は巣と往復させるだけで良いので、巣が存続する限りは何度も受粉作業に用いられる)

それでも国産でハエを養育して扱ったほうがハチより安い場合があるというのだから、ハチの高騰化とそれに伴う全体総数の激減というのは割とシャレになっていない。

ちなみにこれらの研究は農水省や農協などが協力して行っていたものだが、
研究を行っていた10年以上前の頃は「日本国内にそのようなハエを育成する業者がなく輸入頼り」だったのだが、現在ではすでに国内にて専門業者が誕生したため、価格は当時よりさらに下がっている。

そのため、現在では一部農家ですでに実用化されているが、ハチと違って育成や受粉作業にコツがいるため、大規模に広がっているわけではない。

他方、それらを用いて活動する農家からの評価としては「不満は成虫の羽音と幼虫の見た目がグロテスクすぎるぐらい」と概ね好評である。

現在の状況においては国内業者は蛹状態で納入するため、(幼虫はマーゴットセラピーに使うので、元来は廃棄予定の蛹を農家に納入している)上の2つのうち1つの弱点は緩和された。

研究時には農家が1から育てていたが、非効率ということで1から育成する方法は見送られたのである。

農水省では「ハエには効果が薄いような農薬を新たに作らねば」ということで別の需要が発生しているが、今後注目されていくかもしれない。

最期に余談だが、マーゴットセラピーと受粉作業に用いられるのは「ヒロズキンバエ」というキンバエの一種である。

彼らが利用される理由は「最も多くの抗菌物質を幼虫が放出する」のと「ハエの中でも特に育てやすく体が丈夫」なのと「日本国内にも大量にいて、仮に外に逃げても生態系を崩すという恐れはない」などといった理由によるもの。

元々ヒロズキンバエ自体が世界各国のマーゴットセラピーで用いられてきた種なのだが、日本にも全国的に多く分布するためセイヨウミツバチの野生化による日本人への人的被害などといった危険性が生じない。

ついでに言うとこの「ヒロズキンバエ」、見た目がやや特徴的。
キンバエという名前の由来は「体全体が黄金色だから」なのだが、それ以外に特色として
特にオスのヒロズキンバエはハエにしては比較的珍しく複眼同士が離れた状態に形成されるため、真上から見ると「仮面ライダーをSDにデフォルメさせたような」顔つきに見える。

横顔も、個体によっては「顔が非常に丸くなる」ためか、ハエらしからぬ見た目に見える奴らもいる。
通常のハエはクチの部分が尖って凄く見た目が悪いのだが、キンバエの中でも特にヒロズキンバエにおいては「顔が丸くなりやすい」らしく、顔が丸い連中はそこまで不快に感じない(見た目だけ)

これは農家側からも指摘されており「特徴的な顔の影響で害虫の方のクロバエなどと極めて見分けやすい」と好評である。

害虫側はハエタタキで簡単に駆除できるというのは立派な利点である。(ただし野生のヒロズキンバエは一般的なハエと同じ生活様式のため、混ざると見分けがつかない)


30年ぐらいしてハチが受粉に用いられることが無くなったらこいつらがガチで仮面ライダーになってしまうかもしれない。

そうそう。
ニュースで「これからイチゴの季節です」なんて言われてたけど。
ハエの受粉で現在最も活用されているのは「イチゴの受粉」なので、

ハウスの中に黄金色の奴らがいたら「多分生き残りか作業中」なので花にたかっていても見守ってあげよう。

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