渡部瑛太の場合 中編2
3話、更新です
『全員が幼稚に見える』
そう言い放った彼女に何を言い返せばいいのか、俺は少し迷ったがとりあえず気になったことを聞いてみる。
「あれ?じゃあなんで俺とは喋ってるの?」
あんなに他者と関わることから避けていた彼女が、俺と話していることは実に不自然極まりない。
もしかして、俺には特別な感情を抱いているのでは……!!
そんな淡い期待を抱いていると、彼女は顔色も変えずに俺の問いに答えるべく、口を開いた。
「えーと……わたなべくん?」
「名前覚えてないんだったら無理しなくていいよ…。」
前言撤回、彼女は俺に特別な感情どころか存在すら認識されていないとわかった。
期待なんて報われた試しがないから問題は無いけど。
「別にあなただから話せるわけじゃありません。
簡単な会話なら、誰とでも普通にこなせます。」
「なんかアンドロイドみたいな返し方だなぁ。」
そうか、人と喋れないわけじゃないんだな。と納得していると、
「でも。」
と、そこで彼女は言葉を切った。
「でも?」
オウム返しで言葉の続きを促すと、彼女は言おうか言わまいか迷った末、意を決したように俺に言葉を放った。
「そうやって話してみて分かったのは、みんな自分のためだけに日々を過ごしているということです。」
彼女の語りはまだ終わらない。
「自己の為に生きるだなんて、幼児と同じです。友達のため、恋人のためとか言いながら、結局は自分が可愛いだけなんです。」
自分が可愛い。
そう言われてドキリとした。
自分が一人にならないために何でもした自分の性分は、彼女の目にはどう映ったのだろう。
「じゃあ、俺と話すのも苦痛なんじゃないの?」
もし彼女が苦痛に感じているのなら、キッパリと彼女への気持ちを諦めよう。そう決心していたのだが、
「正直、今も幼稚園児と話しているような錯覚が起きるくらいですが……」
「ストップ! もう心折れそう。」
想像以上にハートに刺さってくる。
「しかし、あなたはあの日私があれだけ酷いことを言っても臆せず私に話しかけてくれました。
名前は存じ上げませんが、ほかの方より大人びていると思いました。」
「酷いこと言った自覚があるのと、まだ俺の名前思い出せないんだね……。」
そう思ってもらえていたんだ。
場違いとはわかっていても頬が緩んでしまう。
あれ、そういえばさっきから違和感が付きまとっているような……。
「あっ!?」
「な、なんですか……?」
しまった、笹木がドン引きしている。
「いや、俺女子と喋るの苦手じゃん?」
「いや、知りませんけど。」
「でも今! 佐々木と自然に喋れてる!」
「はぁ…。」
これも恋の力だろうか、今は言わないけどいつかこの胸の気持ちを打ち明けてみようか。
………キーンコーンカーンコーン。
下校を促すチャイムが後者に鳴り響いた。
「では私はそろそろ。」
彼女は保健室の備品整理を終えて帰宅準備をしていた。
「あのさ。」
その前に彼女に伝えなければいけないことがある。
「また、ここに来て笹木と喋っていいかな?」
俺のあまりにも稚拙なお願いに、
「いいですよ。昔から子守は得意なので。」
夕日が差し込む保健室で、彼女は微笑を浮かべて答えてくれた。
保健室に至る前の気分はどこへやら、満ち足りた気持ちで俺は家に帰り、今度はいつ彼女と喋れるのだろう。とワクワクして眠りについた。
でも………
次の日、彼女がいじめられ始めていることを知った。