迷路
・ラッシュ: 黒髪の戦士。主につっこみ役。
・フロウ: 金髪の魔法戦士。美少年。
・ダー: ドワーフの戦士。白髭で基本ボケ役。
・エクセ: エルフの魔法使い。常識人。
・アビー: ダークエルフの盗賊。褐色の腹筋美女。
・エリス: 人間の女僧侶。かなりの天然。
長い銀の前髪をわずらわしそうにかきあげ、エクセリアン――通称エクセが懐から地図を取り出した。
「今のところ順調にきていますね」とにっこり。
何度も出入りしているローズダンジョンだが、エクセは常に最悪の事態を想定して行動するため、
現在地の把握には余念がない。
「右手をついて歩いていけば、確実に出口へ出られるって言うじゃない?」
ふとフロウが思いついたようにいった。
「あれは本当のことなのかな?」
「本当ですよ」とエクセが即答した。
「迷路の切れ目というのは入り口と出口しかありませんからね、片手を常に壁面につけて歩けば、遠回りになるかもしれませんが、最終的に出口か入り口に到着するはずです」
「入り口にもどったら意味ないじゃん」とラッシュ。
「入り口から右手法をとって、入り口に帰ってきたなら出口はなかったことになります」
「なるほどな、唯一の出入り口が入り口って事になるのか」
「しかしそうとも限らんぞ」とダー。
「たとえば壁の一部が異世界に繋がっていたとしたら――どうじゃ?」
「――どうじゃ? じゃねーよ。したり顔でアホな事言うな」
「そして、わしらを待ってる異世界転生・・・」
「またあなたはくだらない事を・・・そんな法則性のない話をされてもこまります」
「じゃが可能性は排除できないじゃろ。可能性はムゲンダイ」
「やかましい」
「たとえばこの何気ない壁面に、異世界に通じる穴が続いてる可能性も」
「ねーよ」
とラッシュが答えた矢先、ふっとダーの姿が消えた。
「なっ、なんじゃあこりゃあ!?」
「ダー、どうした、異世界か?」
「ち、ちがう・・・こりゃあれじゃ」
ダーのくぐもった声が通路の向こう側から聞こえる。
「どんでん返しによる隠し通路ですね、これはまだ発見されてません!」
いささか興奮気味にエクセは地図にペンを走らせている。
「新発見の通路には発見者の名前が付けられます。よかったですね」
「ダー通路か、ワシはついに歴史に名を刻んだようじゃな」
「え、なに、聞こえない」とラッシュ。
「それより、中はどんな様子です、ダー?」
「まっくらで何も見えんわい」
「そらそうだ」
基本暗いダンジョン内部だ。
彼らはエクセの光の魔法で周囲を照らしている。
その範囲から外れると、まっくら闇にほうり出されてしまうのだ。
遅れて全員がどんでん返しを抜けて隠し通路を歩く。
しかし、ほんの十歩ほど歩いたところで行き止まりになった。
さらに隠し通路がないものかと、シーフのアビーが念入りに探したが、
「これは完璧な行き止まりだね」と答えた。
「なんだー、何の意味もない隠し通路でしたねー」
「さすが『ダー通路』でしたね。まるで中身がなかった・・・」
と、落胆をかくせないエクセ。
さすがに仲間からさんざん言われたドワーフは意気消沈し、
「これはもう、発見しなかったことにした方がよさそうじゃ・・・」
と珍しく殊勝なことをつぶやいた。
―――その後、別の冒険者がこの通路を発見し、その冒険者の名にちなんで、この通路は「ブラウン通路」という名となった。
新しい通路が発見されたとの報を受けた冒険者たちが、ドッとこの通路に押し寄せたものの、あまりの通路のしょぼさから、
「しょぼー! 冒険者ブラウンしょぼすぎ!」
と、訪れた冒険者たちの間でブラウン氏は大いに評判を落とし、ダーは自らの判断は正しかったと、大いに胸を撫で下ろしたのであった・・・。