宝箱
・ラッシュ: 黒髪の戦士。主につっこみ役。
・フロウ: 金髪の魔法戦士。美少年。
・サンダー: ドワーフの戦士。白髭でボケ多し。
・エクセ: エルフの魔法使い。常識人。
・アビー: ダークエルフの盗賊。褐色の腹筋美女。
・エリス: 人間の女僧侶。かなりの天然。
バトルが終わり、スケテ……スケルトンをたおした!
スケルトン3体は白い破片となって床に散乱している。そのスケルトンの立っていた場所から、スッと出現した物体がある。
宝箱だ。ダンジョンモンスターは、ごくまれに体からアイテムを落とすことがある。それらすべてのアイテムは、この宝箱の内部に収納されているのだ。
「見てー、宝箱ゲッツですー」
「――さて、ここからがアタシの仕事だね」
指をポキポキと鳴らしながら、シーフのアビーが宝箱に近寄った。宝箱はただ開ければいいというものではない。大抵の場合、意地のわるいトラップが仕掛けられているのだ。
そうした罠を解除するのに特化した職業がシーフであり、このアビーはその道のエキスパートといっていい。
「アビーって腹筋が割れててカッコいいですよねー」
エリスがうらやましそうな口調でつぶやく。
「ウム。腹パンチしてもいいかのう」とサンダー。
「イヤだよ、殺すぞジジイ」
言い捨てて、アビーは慎重に宝箱を探る。
どんな罠が仕掛けてあるかわからない。
まずは軽く揺すったりコツコツ叩いたりして罠を確かめる。
「アビー、宝箱あけるのって、どんな気持ちですー?」
「作業中に話しかけんな」
「やっぱ、何が出るかな何が出るかなって感じか?」
「だまれ。そんなサイコロ感覚で開けるアホがいるか」
「みなさん、作業のジャマはダメですよ」
エクセの一声で、場はシーンと静まった。
ホッとアビーは心中で吐息を漏らした。
これで作業に集中できるな、と鍵穴を覗きこむ。
「アビー、宝箱を開けるのってどんなきも―――」
「作業中に話しかけんなっつーの!!」
耳元で声をかけられ、怒りを隠せないアビー。
「これこれ、娘同士でケンカはいかんじゃのう」
「見当違いの仲裁をするな!」
エリスは目に涙を浮かべている。
アビーは吐息をつきながら、振りかえって諭すように言った。
「あのな、これは慎重な作業なんだ。もしこの宝箱に爆薬とか毒ガスとか仕掛けられてたらどうする?
たちまち全滅だよ。だからアタシは全神経をかたむけてこの作業をやってる。
だからさ、この時だけは話しかけちゃダメなんだ」
「わかりましたー……」
涙目をこすりながらエリス。
「誰だって自分だけの時間は大切ですものー」
「誰がプライベートの話をしている!!!」とアビー。
「まあまあ、落ち着けアビー」とラッシュ。
「もし、仮に爆薬や毒ガスが発生しても誰もお前の事を恨みはしない」
「ラッシュ、あんた……」とアビー。
「そんなもん発生したら、全員死んでるから恨みようがないしな!」
「そりゃちがいないわい!」
ラッシュとサンダーは肩を組んでゲラゲラ笑いだした。
アビーはわなわなと震えながら言った。
「―――そういう問題じゃねえ!!!」
彼女はアビニア・バイアランジ。職業シーフ。
バカダンジョンでは数少ない、常識人枠のダークエルフだ。