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Episode2 美しき銃声よ

 わーい、宿題がー!


 「ある日王女に転生しまして」はポイントとかもらえてて嬉しいんですが、こっちはそもそも読んでくれてる方が少ないようですね……。


 まぁ、ともかく、頑張りますよ!

 レッツ、ゴー!!

 扉の向こうにはーーゾンビがいた。


「走れ!」


 可奈の足は動こうとはしない。頭では走るという行為もその理由も、何もかも理解できているというのに、体はまるでそこに結い付けられたかのように動かない。そして次第に、思考も麻痺していくーー


「カナ!」


 今までの出来事が走馬灯のように、可奈の頭の中を、瞼の奥を走り抜ける。

 海外にいる両親、カナ自身の引越しによって別れてしまった海外の友人や同じく海外に住む一人の親友、二度目の引越しに伴い連絡の途絶えてしまった日本の友人やクラスメイト達、レミさんやーーアイ。


 ーーあぁ、結局本名知らないやーー


 気付けば眼前に、ゾンビがいた。

 不思議と恐怖は感じない。

 まるで、いや、きっと。

 ショートしたんだろうーー


 パン、と、乾いた音が響いた。


「え……」


 無意識のうちに、弱気な驚きの声が漏れた。


 ズル、とでも音がしそうな勢いで黒い影がずり落ちる。崩れ落ちていく。

 それを追って地面に目を向ければ、そこにはもう、何もないーー


「……無事だったか」

「……うん」


 カチャリとアイの手元から音がした。何かを右手に持っている。

 アイはそれに左手を添え、僅かに上下させた。

 そうせれば、カチャリという音の後に、カラン、と何かが地面に転がる軽い音がした。


 カラン、カランーー


 狭い洞窟にも似たここには、その音が不気味なほど綺麗に、美しく響いていた。


 まるで鈴のようだーーなんて、思ってしまう。


「ーーアイ……っ!」


 のそりといくつもの影が動いた。

 先ほどのは、あれは、きっとあれだけじゃ、あれだけじゃなかたんだっ!


「後ろにっ!」

「叫ばなくても聞こえる」


 ーーパンーー


 カランと音が響く。


「……ここは音が響くんだ」


 そうして彼は、どこかで聞いた事があるようなセリフを述べた。


「……さ、サバイバルゲーム?」

「は?」

「プロ?」

「……は?」


 勇気を振り絞って明かりを扉の方に向けた。そうしなければ、きっとアイは相手の姿を、直前になるまで見る事ができない。危険だ。

 可奈はそう考えたのだ。


 ゆっくりと前方を照らすように高くなっていく明かりに、アイは驚きの表情を隠さなかった。


 そして不敵な笑みを浮かべると、彼はスッと手に持つピストルを構えた。


「音には慣れたか?」


 それが、誰に対するセリフだったのか、可奈には分からなかった。


 暗闇の中で、スポットライトに照らされた役者が華麗にアクションを織りなしている。

 スポットライトは激動する戦場を見失わないように、その動きに若干遅れながらも必死に右に左にと揺れている。


 虚しく銃声が木霊すれば、一つずつ異形の者達が消えていく。


 シンーーと辺りが静まり返った。

 再び、ポチャン、と水の音がどこかからかやってくる。


 しばらく無言が続いた。

 その場には何も残らない。


「ガーディアン、か……」


 沈黙を破ったのは、アイの方だった。


「守護者……?」

「そう。いわゆる心霊現象が起こるような場所で、物や場所に固執しているせいでその場を離れられなくなってしまった霊は、侵入者から自分の居場所や、とにかく、この世に残るための、この世に自身をつなぎとめている何かを守ろうと、他者を攻撃する事がある。そうでない霊は、基本、いきなり見ず知らずの他人が来たら、萎縮するなりなんなりして、警戒するんだ。その警戒を振り切ってでも守りたいものが、きっと、ここにあるーー」


 この、鉄の扉の先にーー。


「行くの?」


 まだ、何かいるかもしれない。


「いや、行かない」

「え、行かないの?」

「当然だ。エキスパートを待って突入する」

「え、エキスパートぉ?」


 また人が増えるのか、と、カナは若干顔を引きつらせたが、アイからは逆光になっていたため、彼女の表情は見えなかった。

 尤も、表情が見えていたところで、彼が意見を曲げるとは思えないが。


「私が知ってる人?」

「レミではない」

「ですよね〜」


 要するに、可奈が知らない人物である、という事だ。


「戻るぞ」

「離れていいの?」

「僕は自分の身の安全を優先する。僕は飽くまで、戦闘においてはサポート要員に過ぎないんだ」

「え、じゃあ、主戦力は?」

「だから、そのエキスパートを呼ぶんだ。……君はバカなのか?」

「……」


 カナは頭の回転が遅い方ではないと自負していたが、彼と比べれば遅いのだろうと項垂れた。それを見たアイはされど何をするでもなく、行くぞ、と彼女を急かした。

 そして二人は、アイを先頭に、先ほどの一本道を戻っていく。


「割とあっけなかったな」

「あっけなかったの!?」

「あぁ。弱かった」


 ーーそんな会話で、可奈の頭を抱えさせながら。

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