Episode4 ミラーハウス
うわー、三人称、やっぱり難しい(笑)
これでも昔は三人称派だったんですけどね。一人称の練習してたらこっちを書き慣れちゃって……(汗)
次回はちょっと短めになる、かもしれない。
お待たせしました。第5話です。どうぞー……。
この遊園地には、七つの噂がある。
一つ、観覧車で声が聞こえる。
一つ、アクアツアーで謎の生物が見える。
一つ、ドリームキャッスルの地下に拷問部屋がある。
一つ、ジェットコースターで起きた事故は人によって見え方が違っていた。
一つ、夜に誰もいないメリーゴーラウンドが光りながら回っている。
一つ、ミラーハウスに入ると人格を乗っ取られる。
一つ、子供が消える。
「だが、どの事象にも、今のところ説明がつく」
とは、アイのセリフ。
観覧車で声などしなかったし、データにも取れていない。さらに、どこから仕入れた情報なのか、これは廃園になった後に出た噂らしい。よって、信憑性は薄いのだとか。
他に、後から出てきた噂ーーつまり、それまでの噂が出回り、人々のイメージから勝手に生まれた噂であるーーは、ドリームキャッスルの件だと予想される。
ドリームキャッスルの地下に部屋があるのかどうかーーまだ本格的な調査話されていないため不明だが、恐らくこれも観覧車と同じだろう、という。
そして次にアクアツアー。こちらもかの勇敢な女性によって解決した。
「あ、レミさん」
「やっほー、たっだいまー」
語尾に星マークでも付きそうな勢いでメリーゴーラウンドの横の管制室に飛び込んできたのは、見知らぬ男を引きずったレミだった。
何があったのだろう、と、若干引きつった笑みでレミを見上げた可奈は、直後、「アクアツアーの方で追いつかれて、蹴ってみたらクリーンヒットしてね。気絶しちゃったから連れてきたよー」と、褒めてと言わんばかりに誇らしげに語ったのである。
可奈は一瞬、アイの苦労を垣間見た気がしていた。
もっとも、アイ本人にそれを気にした様子はなく、ただただデータが書き換えられていくのを見つめるだけである。
可奈は実のところ、命名をアイではなく、データにすればよかったと後悔し始めていたところである。
ジェットコースターと子供が消える、という点についても説明が出来たそうだ。レミが帰ってきてから報告をアイが聞き終わった後ーー本当に聞いてるのかどうかなんて知らないけどーーアイのスマートフォンがなり、何やら話し込んでいたのだが、どうやら外部に協力者がいるらしく、その人からの報告だったらしい。
曰く、ジェットコースターの事故は全部で3回起こっているとのこと。その他、死者は出なかったものの、コースターが停止したのが一回。
具体的に当時の噂について知っているという人物に話を聞くと、四つの意見しか出てきなかったという。過去のデータに一致するとして、この件は片付いた。
要するに、ジェットコースターの事故は見る人によって内容が変わっていたのではなく、そもそも事故の内容が違ったのだ。
10年前、事故があった時は、丁度他の大きな事件と重なっており、幸か不幸か、ニュースでの報道はなかったのだとか。
さらに、当時のスタッフは園長以外は引き継ぎだったため、バイト以外、皆高齢。アイとレミの仮説によると、「子供が消えるというより、若い人が消えていた」という事らしい。
皆高齢であるという事は、彼らにとっての子供の幅が広くなる事だと仮定し、今、過去の入場者の年齢を割り出してもらっているところである。
そして現在、陽がまた登り、土曜日の昼である。
学校は休みだったが、可奈は廃園の前にやってきていた。
昨日は夜も遅くなってしまったため、レミが彼女を家まで送ったのだ。
強制送還、とも言う。
強制送還された可奈は、現在、裏のドリームランドの正門から裏門に周り、運良く門が開いている事を祈ってーー別に開いてなかったら帰るだけだけどーーぼんやりと空を見上げていた。
「あ、可奈ちゃん?」
唐突に声が聞こえ、可奈はそれの主を探して視線を一瞬彷徨わせ、すぐに裏門の鍵を右手に持ち、左手を元気良く振るレミを見つけたのだった。
「レミさん」
「やっほー! 今開けるからちょっと待っててねー」
「あ、いや、別にーー」
別にわざわざ開けてくれなくても、帰るだけですからーー
そう言おうとした可奈だったが、レミが口を開く方が早かった。
「だいじょーぶ、だいじーぶ。私は今から帰るところだし?」
「え? 帰っちゃうんですか?」
「うん。嬉しい? アイと二人っきりだよ?」
(……一体何を考えているんだ、このお方は)
可奈の呆れを知らないままにーー知っていてこの反応をして楽しんでいるのかもしれないけど。なんとなく、レミさんって怖いんだよねー……ーーレミは話を続ける。
「私はね、もともと情報担当なのよ。だから、本来なら昨日のp、電話かけてくれた子いたでしょ? あの子はまだ見習いだから、私がそばにいる事が前提なんだけどねー、たまにはいいかな、って」
「……け、経験を積ませるって……いう事ですよね?」
「あ、そっか。そう言い訳すればいいのか。さっすが可奈ちゃーん!」
笑いながら背を叩いてくるレミに、可奈は訳がわからないままに、とりあえず、ありがとうと言っておくのだった。
「ま、そーゆうわけだから。次に来る時はまた機材持ってくるから、あの電話の相手、きになるでしょ?」
「……はぁ」
(あの電話の相手……とは、もう一人の情報担当の?)
昨日連絡をよこした人といえば、レミ以外にはその人しかいない。
「じゃ、デート頑張ってぇ〜」
レミが後ろ向きに手を振りながら去っていくのをどこか唖然と見送りながら、まるで嵐のような人だと、可奈は裏門から、かの廃園に足を踏み入れたのだったーー
そして。
「え、なんで来て早々当たり前みたいに手伝わされてるわけ?」
現在可奈は、アイと共にミラーハウスに来ていた。
アイはご丁寧に何日か前から機材を設置してデータを取っていたらしく、昼間は確実に問題がない、との事で調査に乗り出していた。
だが、万が一に備え、一枚ずつ、鏡を外す作業をしながらの進行である。決してデートなどという雰囲気ではない。もっとも、可奈はデートなどとは考えていなかったのだが。
そして丁度、不運な事に、ミラーハウスは裏門からすぐ近くだったのである。
可奈が裏門を潜りミラーハウスを目に留めた時に、アイが何故か背後から声をかけてきたのだ。
ちなみに、第一声は「誰だ?」である。
その後、数秒二人で見つめ合い、アイがようやく思い出し、今に至る。
「で、この鏡、どこに置けばいいのー?」
昨晩同様、もはやこいつに敬語なんぞ使うものか、といった勢いーーっていうか、ノリ? やけくそって言うんだっけ?ーーで、大声で可奈が問いかける。可奈がいるのはミラーハウスの入り口、つい先ほど作業を始めたばかりで、アイの位置と可奈のいる入り口は、さほど距離がない。
「何かハプニングがあった時に、逃げるのに邪魔にならない位置」
「逃げるって……」
慎重なのか、臆病なのか。
「そういえばさー」
よっ、と自分の背丈より少しばかり低い姿見を入り口の外にあった受付の面影の上に被せながら、可奈が問うた。
「あの、男の人、結局なんだったの?」
「レミから聞いてないのか?」
「聞いてない」
可奈がレミと鉢合わせした事も知っているあたり、どうやら可奈に声をかける以前からあの場にはいたようだ。
話し声が聞こえたのかもしれない。
「そう」
そして落ちる沈黙。
「いや、話さないのっ!?」
可奈が戻りながら突っ込めば、アイは若干顔をしかめ、作業を続けながら淡々と話し始めた。
「昨日の夜、真夜中に奴の目が覚めたから、話を聞いた。どうやら、犯罪組織の一員だったらしい」
「……ふーんーーはぁっ!?」
犯罪組織の一員。何故アイはここまで平然と話せるのだろう、と、可奈は引きつった笑みでおののきながら、けれど二枚目の鏡を足元に落とすことはなくーーだって痛いじゃないーー、外に運び出した。
「他にも仲間がいるかもしれないから、気をつけるように」
「いや、私にはどうしようもないんですけど?」
「僕から離れないように」
「……はーい」
離れるとはどこまで許されるのだろうかーーそんな可奈の心の声が聞こえたのか、アイは「離れすぎたら忠告する」と、口の中で呟いた。
「なんでこんな場所にいたの? ってか、何してたの?」
「ここが廃園だから。犯罪」
「分かりにくい回答をどうも。よっ、と」
三枚目に鏡を持ち上げる可奈を一瞥して、アイはやはり平然と、「そう」とだけ言って作業を続行した。
「しっかし、数多いなぁ……」
なんせ一枚ずつ鏡を外して行っているのである。ネジはどうやら四つで、安全策なのか、手を伸ばせば普通に届くだろうに、アイはわざわざ椅子に上って上の二つのネジを外している。
ドライバーで一つずつ。
つける時はともかく、外すのは大変なのだ。
「確かに、量が多いな。全く……。早く……が見つかれば」
「へ?」
(今のセリフ、アイっ!?)
初めてまともな感情を表したセリフを聞いたような気がする、というのが可奈の感想。だが相変わらず、表情に変化はない。ただ、若干雰囲気が柔らかくなっただろうか……?
それより、早くなにが見つかればいいのだろう。
可奈が再び口を開こうとするも、丁度アイが次の鏡を外し終えてしまった。
「次」
「あ、はい!」
心の片隅で、なぜ従っているんだろう、と悩ましく思った可奈だったが、また別の場所ではそれもいいと思っている自分がいる事に驚かされた。
(人の心って、不思議だなぁ)
しみじみと胸中で呟く可奈であった。
「次に来る機材っていうのは?」
「次?」
「レミさんが言ってた」
「ふーん」
そして落ちる沈黙。
可奈の靴音が反響して、余計静かなのが分かりやすかった。
「いやだから、話さないのっ!?」
「うるさい。ここは音が響くんだ」
「あ、ご、ごめん……」
とっさに謝った後にはっと何かを思い立ち、この扱いの理不尽さに不機嫌そうに頬を膨らませた可奈だったが、次の瞬間には、話し始めたアイに視線を向けていた。
「予定、3装」
「はい?」
主に、意味が分からないという方向でアイに視線を向けていた。
「3次元空洞調査装置を使う」
「何で?」
「ドリームキャッスル。まだ調べてない」
ーー地下室のことか。
「いつ届くの?」
「準備が出来次第」
何とも曖昧な答えに感じたが、案外そんなものかもしれない。
可奈はせっせと鏡を運ぶ。途中、本来なら力仕事は男の役目ではとアイに問いかけ、適所適材、新人は黙って雑用、と言われ、思わず口を噤んでしまった。
だが、実を言うと可奈は新人というよりボランティアである。もっとも、可奈本人がそれに気付いたようなそぶりは見せていないのだが。
なんだかんだと作業を続け、2時間ほど経った頃だろうか。
あれほど道に迷うミラーハウスだが、解体していけばあっけなく、分かれ道も簡単に識別できた。
「どっちから外すの?」
「……右」
「りょーかい」
そう答えた時だった。
サァッと血の気が引いていく感覚ーーこれは?ーー貧血か、珍しいーー違うーーあれ、どうしーー気付いてーーノイズがーー
ーーごめんなさいーー
「カナ?」
アイの声が、遠くで聞こえた。
乾燥その他コメント、待ってます!
ちなみに今、まだ海の向こうです……間に合わない〜(泣)