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ルゥ姉がいろいろと変な原因はあの人でしたと言う人のせいにしてはいけません。

俺達の拠点が大きくなった。


小さい頃家に在ったゲームで確か仲間の数が増えて行くと拠点が大きく立派になって行くと言うゲームがあったが今まさにそれを体験していた。

一昼夜かけて戻ってくれば既に大半が戻ってきていた揚句に、ガーネットまでさすがにこの様子を気にかけて来てくれていた中、俺達が神妙な顔をしていたので心配をさせてしまっていた。

とりあえず馬に水を与えて全員に外に出て来てもらいお互い簡単な自己紹介をして何やらと語る前にルゥ姉が持ち帰った新たな拠点を見てもらう事になった。


「あっはははは!!!

 さすがシュネルだったか?

 鍛えられただけあって随分人外な魔力を持つようになったな!!!」


誰もがポカンと城塞を見上げる中、一人目から涙を零し腹を抱えて笑い転げるガーネットにルゥ姉は納得しきれなくても無理やり納得するような顔で


「やはりあの方が原因でしたか」

「お前達オルトルートに住んでたんだろ?

 あれはフリューゲルの魔力の結晶体の家だ。

 高密度の魔力の中で暮すだけでも人間の弱い魔力は感化されて引き上げられていく。

 お前の所のチビ共が良い例でルーティアも例外ではないと言う事だ」


って言う事は俺もかと思うも俺はそこそこ程度でルゥ姉程の変化はなかったはず。

どうしてと思うも、その前にガーネットが俺を見て口の端を上げて


「お前はハウオルティアの者だからな。

 ルーティア程の恩恵はもらえなかったんだよ」

「イミわかんねー」

「判りやすく言えば別の精霊の唾付だって言うのに何故愛でてあげないといけないのかって理由だ。

 ルーティアはどちらかと言えばまだ精霊に恩恵を与えている側だ。

 あの二体から恩恵を貰えるようになれば話は変っていただろうけどね」

「なんか損した気分だー」

「判らない所で得してる事があるんだよ」

「人生波乱万丈だけどな」


一人だけハズレくじを引いた気分でどんよりとしているさなかも皆さんまだ城砦をぼんやりと見上げている。


「何はともあれ、これを持ち運びできるのなら拠点はこの城塞にしよう。

 引っ越しでもするか?」

「そうですね。

 石の家なら虫に齧られる事もないでしょうし」


「ああ、虫の件なんだが……」


辛うじて話している間に自分を取り戻したクロームが虫の件について話し出した。

そう言えばこの人も結構経験値積んでいるからなーと、ドラゴン遭遇の直後に対面でのお話と言うピンチも乗り越えているしねと考えれば今回は命にかかわる話じゃないから冷静で居られるんだよなきっと……なんて考えながらも城塞の大広間に移動してリーナからお茶を貰う。

皆さんにはお茶よりもお酒の方が必要かもと思うもクロームもお茶を一口飲む中ガーネットはどこからか酒瓶を見つけ出して一人笑って喉が渇いたと言う様に飲んでいた。


「聞いた通り虫は通った所は総て草木が残らないと言う状態だ。

 卵を産み付けられた事を想定して、通過した所を紅緋の方々に焼いてもらっているが、まだ時間はかかりそうだ。

 虫の通過経路で開拓した村はこの村だけで被害はおおむね最小限だと今現在の情報ではそう言う事になっている。

 来春からの被害を考えると最小限かは判らないが、今一番ひどい王都の事を考えると他の小さな町は村もまだましと言ってもいいだろう」

「王都の様子は

 我々の向った所からでは少々離れていて詳しくは見えませんでしたが」


クロームの視線が一人の紅緋に向けられた。

説明を求める前から既に目を真っ赤にした男は鼻声のまま語り出した。


「城壁の周囲の、追い出された住民達の集落に潜り込んできましたが、そりゃもう悲惨でしたぁ。

 食料はなく、布で作った屋根も服もあらかた齧られて辛うじて服と言うべきものを纏ってると言っていい状態でさぁ。

 死人が出てももう誰も埋めないから鳥達がそこらじゅうで啄んでいる。

 異臭もひどいってもんじゃねえんだよぉ。

 今も鼻の奥に匂いがこびりついてて、暴獣の乱の時よりも酷い状態だぁ。

 誰も彼もやる気どころか生きる気力も失ってよぉ。

 飢餓もひどくみんな奪い合ったり隠れたり、残飯もねぇから木の皮を喰ってやがった。

 どのガキもみんなアバラが浮き出てて足なんか棒みたいでエンバーが初めて来た時よりも酷いありさまだったよぉ。

 で、恐ろしいのが誰もがそこらで横になって死にそうになってるガキ何て気にしてないし、目を背けるんじゃなくってそこらに転がってる石ころとおんなじで気にもしないって状況だぁ。

 そんな城壁の外側だがに内側も散々な様子だと思うんだなぁ。

 城門はがっちり閉まってるんだけどなぁ、時々城壁の上から内側で死んだ奴を放り投げて来るんだぁ。

 ちげぇ。

 ありゃあ、まだ生きてたはずだ。

 見ちまったんだよ。必死に城壁にしがみつこうって足掻いてる手をよぉ……

 もちろんそれが家族から意に反していると見えてすげー叫び声でやめてって言っているのが聞こえるんだ。

 ありゃどう言う事だって、危険だけどそこらにいる奴らに聞けば城壁の内側では病気が酷いらしくって、人にすぐうつるらしくって、必ず死ぬんだと。

 その病人を見付けたら治療なんてしないですぐに城門から放り投げるって言ってた。

 んで、外の奴らはそうやって放り投げられた奴らの身ぐるみをはぎに奪い取りに来たらしい。

 自分が病気になるのも覚悟して自分の嫁さんや子供に持って帰るんだって折れて錆びの付いた剣を持って奪い合いをしてるんだよぉ……」


涙と鼻水を垂れ流しながらの説明に誰もが耳を疑う。

少し前まではそこまでひどくなかったはずだ。

何があったかなんてそんな物ただ一つの理由。


精霊と国の繋がりが消えた


思わず低い天井を見上げる。

たったそれだけの事なのにあっという間に王都の大半の人が死に、そして人は人を慈しむ事を忘れてしまった。

ただ獣のように、ただ本能に忠実に生きる事を望む獣と成り果ててしまっていた。


「精霊と契約が切れるってこんな事が起きるなんて……」

「精霊ばかりに頼ってはいけません。

 精霊がいなければとっくに起きていた事象でしょう。

 先延ばしになってただけですので我々側に問題があったと言う事です。

 精霊の加護を忘れてしまった愚かな人間の行く末がこうだったと言うだけの話しです」


疲れた様に肘をついた手の上に顎を乗せて目を伏せるルゥ姉の様子に今一つ精霊の恩恵を理解できなかった人達にもようやく危機感が顔に浮き出ていた。


「一つ聞くが、本当に半年も、彼の誕生日を待たないといけないのか?」


フリーデルさえ悠長な事を言ってられないと言うが


「確かに我々と精霊は切れてしまいました。

 ですが、ハウオルティア国の名を語る以上、王位継承は16歳を迎えた王族という決まり事。

 きっとこれは精霊との約束の1つなのでしょう。

 そしてずっと男性が王だった事を考えるとブルトラン同様我が国も男性が条件なのでしょう。

 少なくともこの二つが条件だと判っている以上違えるわけには行けません。

 むしろ、ディックの誕生日まで無事過ごしてもらわないといけない方が大事です。

 疫病が広まっている以上、あまり王都には近寄らない方が良いかと思います。

 そしてこの村も作りかけですが春からの収穫が見込めない以上ここは放棄します。

 どこか、虫達が通らなかった村へ移りましょう。

 行先は決定次第また連絡します」


厚手の木の窓だった故にまだ窓として使える窓を開いて見える光景はこれから紅葉を迎えようとするはずの木々の丸裸の姿。

落ちた葉っぱの絨毯が大地を染めているはずなのに、それすらも食い尽くした虫達の食欲は恐ろしいまでに貪欲で。

既に大地を耕して焼いただろう畑は真っ黒になっていて、収穫直前だった恵みどころか生命の息吹すらここにはどこにもない。


ルゥ姉が立ち上がり城塞を運ぶので全員退出してくださいと言いながらもガーネットがルゥ姉を引っ張って何処かへと行ってしまった。

おっかない女が二人そろってなにこそこそ話をしてるんだと不安になる俺以上にエンバーが神経質になっているようだけど、俺はさっきから見かけない姿を探してリーナを呼び止める。


「カヤを知らない?

 なんか帰ってから全然会ってないようなんだけど」


カヤならまず一番に俺達を迎えに来てくれるはずだ。

そしてお茶も彼女自ら淹れた物を俺とルゥ姉に出してくれるはずなのに、総てリーナが代役を務めていた。

出かける前から体調を悪そうにしてたからもしかしてと思って聞けば案の定リーナも昏い顔をしていた。


「会えるかな?」

「疫病の話しが出てたので万が一を考えるとあまりお会いさせたくないのですが……」

「それほど悪いの?」


躊躇うリーナに思わず彼女の腕を力強くつかんでしまえば、その顔が歪むのを見て慌てて手を放した。


「ごめん。だけど心配だったから」


少なくともリーディックを知る数少ない人物だ。

時期的には俺の記憶を取り戻してからしか直接は知らないが、それでも俺の身の回りの世話をしてくれたり、子供相手に世間話もしてくれたお姉さん的な存在。

ずっと調子が悪かったと聞かされて心配しないわけがない。


「お会いになりますか?」

「カヤが良ければ」


そう言って城塞の隣のロンサールの家へと入って二階に上がる。

カヤとリーナの相部屋の前でノックをすれば小さな声ではいと返事。

入っていいかと聞く前にカヤの方からドアを開けてくれて、驚きに目が真ん丸に見開いていた。


「気分はどう?」


寝癖の残る髪型を少しだけ珍しく眺めていれば慌てて手櫛で整え始めるももう遅いですよとは言わずに微笑んでおく。


「坊ちゃまおかえりなさいませ。

 お迎えに出れず……」

「ただいま。お土産じゃないけど、途中運よく甘い木の実を見つけたからリーナに皮をむいてもらって食べて。

 さすがにまだリンゴは実ってなかったからね。

 ルゥ姉がまたおかしな事したけど、お土産をゆっくり食べてからでもいいから会いに行こうか」


謝ろうとする彼女の言葉に言葉を重ねてそれ以上の言葉は言わせないまま、彼女の働き者の手の平に甘い匂いを放つ果実を置いた。

帰り道に木々の影を選んで進んでいれば虫達の進路から少し外れた所で梨のような果実を見つけた。

ルゥ姉が瑞々しくておいしいですよと勧めて来たので齧ってみれば梨のような食感に洋ナシのような甘さが合わさった驚きの美味しさに思わず目を瞠ってしまえば「カヤとリーナのお土産にしなさい」と言われて少しの休憩時間を貰って鳥につつかれてない綺麗な実をエンバーと共にもぎとっていた。

 

「ありがとうございます」


熱っぽいのか少し潤む瞳でほほ笑むカヤの可愛らしさに年上と判っていても思わず俺まで照れてしまうほどの印象がある。


「リーナから聞いたけど調子悪いのはどう?

 食欲は?」

「ご心配おかけします。

 食欲は少しないけどちゃんと三食いただけるので問題はないと思います」


チラリとリーナを見れば確かにと頷いてくれた。

信用してもよさそうだとほっと溜息を零してしまう。


「だけど、その体調の悪さ随分続いてるみたいだけど本当に大丈夫?」


既に10日以上続いているのだ。

性質の悪い風邪でもそこまで続くような事はまずない。

ましてや20代と言う若さと言う体力、そして妊娠の兆候はないと言う。

周囲も王都で流行っているような病はまだ誰も見かけられないし、水も何時も瓶を綺麗にして煮沸した水を一日何回も汲替えているし、水の管理、食材の管理も担当はカヤ本人だ。

それに万が一何かあればシアーもいるし、シアーの治療も何度か受けている。


『ここまで来ると心因的な物でしょう。

 ずっと移動移動で心休まる所がない所であんな大量の虫に襲われれもすれば緊張がはじけて体調が悪くなっても仕方がないわ』


元聖女様の治療ももうお手上げというように、こればかりは本人がどうにかして自分に折り合いをつけなくてはいけない物だと言う。

それを言われるとロンサールからずっと引っ張りまわしていたからなと反省してしまうしかない物だろう。

女性はか弱い生き物だ?と言わんばかりの見本にばかり囲まれていたせいか少し反省するしかない。


だけどだ。


「調子が悪い所で言うのもなんだけど、ルゥ姉が虫の害がない村に移動するって言ってた。

 暫くそこで腰を落ち着けて春を待とうって話になってるけど大丈夫?」


ここを拠点にしてもいいんだよと言うもカヤは首を横に振り


「ここはあまりよくない気がします。

 移動するならいち早く、今夜にでも移動しましょう。

 ルーティア様にどうか御進言を」


不安げな眼差しを隠さず、そして怯えるかのように外へと視線を投げるカヤを見て、この強行軍がどれだけ彼女に怖い思いをさせていたのか改めてこんな風になるまで振り回してしまったのかと考えずにはいられない。


「ああ、すぐに言おう」


今から言いに行ってくると言えば


「よろしくお願いします。

 できれば、ハウオルティアに戻ってきた時の、一番最初の村をお勧めします」


果実を持ったままお願いされればリーナにも残りの果実を分けてまた後で報告に来るからゆっくりしててと隣の城塞へと足を向けた。




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