半年後の為の
ブックマークありがとうございます。
週一ペースですがどうぞお付き合いください。
「半年ほどでぼっちゃんの誕生日が来て城に乗り込むって事は理解できたが、それまではどうする予定だ?」
クラウスが俺の事をぼっちゃんと揶揄して背後の方々の視線が少しだけ険しくなる。
そりゃそうだ。
国よりも愛を取った女の息子だ。
そんな目で見たくもなるだろうが
「我々は移動しながら開拓と言う名の支援物資、主に食料の栽培に励もうと思っております。
どのみち、地図の書き換えに失敗したのではとばっちりがここにも及ぶと思うので貴方方も移動した方がよろしいでしょう」
何故か協力を得に来たはずなのにルゥ姉は彼らを突っぱねるような事を言い出す。
さすがにフリーデルも予定とは違うのではと言う様に顔を顰めていて
「サファイア、いえ、ルーティアでしたね。
少し向こうで話したいのですが?」
「あまり時間は割けなくても良ければ」
彼はそう言ってルゥ姉の腕と俺の肩に手を置いて部屋の片隅へと移動すれば、すぐに彼らのお姫様は彼らの輪の中へと迎えられる事になった。
因みにエンバーは俺達とアメリアを中心とした輪との距離を眺めながら壁の花になっている。
何も話さないまま彼らを見ながら数分が過ぎて
「なるほど。貴女の言わんとする所はこれですか」
「話が早くて助かります。
貴方方の目標と我々の目標は全くの別物となります。
国を取り戻したいあなた方と王の首が欲しい我々との誤差を埋めなくてはなりませんが、この様子では無理でしょう」
「確かに、我々はアメリアを押してあなた方はディック様を押している。
正統な継承者であらせられるディック様に我々は膝を折らなくてはなりませんが……」
「ごらんの通り。
あちらの方々はアメリアを、素性の知れぬ娘を次なる王にしたいようです」
「今はもう素性も何もないのでは?」
「いいえ。
精霊はとても情深い生き物です。
もし、再契約するとなるとハウオルティア王家のもっとも血の濃いこの子としか再契約はなさらないでしょう。
精霊の情を甘く見ると酷い目を見ますよ?」
「なるほど。
ですが、この状況はどうします?」
歳のせいか目が白っぽく濁っているフリーデルの瞳がこのまま二分したままでいいのかと問いただしてくるが……
「協力を得に来ましたが、共闘と言った方向に修正しましょう。
我々はブルトラン王の首を取る。
貴方達は奪われた王都を奪還する。
それこそ民衆の目にはアメリアを先頭に立たせて戦乙女として城へと向かわせばよろしいでしょう。
我々は貴方達の群れの中から城に潜り込んでブルトラン王の前に立てればいいのです」
その結果がどうなるかなんて知った物ではないがと言う口ぶりに二人はわざと俺を見ようとしない。
「だけど、城壁を超えると言う試練がある」
「その問題については私に一任してください。
ただし、必ず……
そうですね。
ジーグルトとレオンにお願いしましょう。
二人には必ずブルグラント王の前にディックを連れて行くように約束しなくてはいけませんね」
「そこに貴方はいるのですか?」
とんとんと会話していたはずなのにルゥ姉の言葉が詰まった。
今までこんな事はなかったのにと思って、その横顔を見るも
「私は城壁の際に魔力を使い果たすつもりですので戦力として考えてもらうのは無理かと」
「ならば、引きずってでも私が玉座の間まで連れて行きましょう」
またも二人の間に沈黙が下りるが
「そこはせめて抱きかかえてと言ってくださると嬉しいのですが?」
「いやいや、私も結構な年なのですよ?」
ふふふと二人は牽制しあうように静かに笑い
「そうですね。
半年ほどの間は貴方方と開拓の手伝いをさせていただくのがよろしいですね」
「確かに。貴方達の食い扶持ぐらい貴方達で何とかしてもらわないといけませんので。
でしたら、改めてあなた方の村も作らなくてはいけませんね」
「前に偵察をさせていただきましたが、短時間で良い家をお作りになられる」
「ええ、ずいぶんと長い事手入れのされていない森や林が多かったので原料の調達には助かりました」
ほほほと今度は楽しそうに笑う。
「この子の提案です。
前にもお話しましたがロンサールの方々の緊急の受け入れにはちょうどいいかと」
「その割にはずいぶんと立派な家が出来てましたね?」
「ええ、ちょっとした遊び心が随分本格的になったようで私も目を疑いました」
はははと声高らかに笑うフリーデルにこの場に居る誰もが目を向ければ、あの人だって笑うんだとどこから聞こえてきた声にかなり珍しい現象を目の当たりにしているんだとぼんやり考える。
「所でアメリアはどういたしましょう?」
「そうですね」
いつの間にかテーブルの所に椅子を用意してもらったと思ったらそこに座っている彼女はさらに飲み物とお菓子を用意してもらい、周囲の男性に囲まれ談話しながら笑みが溢れていた。
何処か自信に満ちた、俺達といた時には見せなかったそんな笑みに、彼女のステイタスと言う物を見た気がした。
やっぱり苦手だ。
一応婚約者とした形はある物の、まったく意味を理解してないし、今の環境が大好きらしい。
「ねえルゥ姉。俺、無理なんだけど」
思わずぽつりと出た言葉に二人とも苦笑を零す。
「やはり今時の若い者でも無理でしたか」
「私とて無理です。
ですが、形と言う物が必要なだけなので貴方が気にする必要はありません」
男達に囲まれてちやほやとされ自信に溢れるアメリアの顔ははっきり言って拒絶しかしない。
男に媚びた顔、甘ったるい声、私か弱いのと言わんばかりに身体をしならせ男心をくすぐるその仕草総てが俺には無理で鳥肌さえ立っている始末。
「どこかでコロッと逝ってもらえると一番いいのですが……」
「そんな都合よくいくわけないでしょう。
一応あれらの数少ない生きがいなのだから、あの阿保共も命を懸けて守りますぞ」
そう言って疲れた様に笑うフリーデルにルゥ姉も困ったかのように笑う。
「それではここからは私に一存してもらっても?」
「あの阿保共には少々躾が必要ですか」
「まずは少々小分けにしなくてはなりませんね」
言いながらフリーデルと俺を連れてまたテーブルを中心とした話へと戻る。
さて手始めに何をするのかと思えば黙ったままアメリアを見るだけ。
先程まで沢山の男達に囲まれて蕩けるよな笑みを振りまいていた彼女はその視線に顔を青くし笑みを引き攣らせながら立ち上がった。
周囲の男共は不思議そうにいきなり立ちだしたアメリアを眺めていたものの、彼女がスカートの皺を叩いて伸ばしながらも俺の背後に並んで立つ当たり、まだ躾は完璧とは言えない状況だ。
驚きの眼差しから俺への嫉妬を向ける視線にどうしてこうなるんだと思ってしまうも
「これから貴方方には我々の指揮下で行動をしてもらう事になりました。
当面は半年後の決戦の日までの準備となります。
偵察や諜報は既に我々も動いているのでもう少し人数を増やして調べたく思います。
その間他の方々にはこの騒動で減ってしまった食料の確保、そして戦闘の鍛練など改めて鍛え直しが必要となります。
一騎千頭とまでは要求しません。ですが、王都に乗り込む以上それぐらいの実力を兼ね備えてもらいたいと思っております。
勝つために、そして生き残る為の自衛手段として残り半年、得意分野で十分です。
勝ち残る為に鍛え上げてください。
それと一度はっきりと言っておきましょう。
この娘アメリアは王族とは全く関係のない身分にもかかわらず王族を語る不届きものです。
王族の身分詐称はどの国でも極刑に当ります。
が、彼女はそれでも我々との橋渡しと言う功労をたたえ、この動乱の後にハウオルティア唯一の王族となったディックの妻と言う王妃の座を与えられます。
既に婚約者と言う身分。
皆さんご存知だと思いますが婚約者と言う物はまだ結婚はしていないけど妻と同等として取り扱われる身分。
彼女にもし何かしてみなさい。
王族の妃に手を出した罪はわざわざ言わなくても皆さんご存知でしょう。
そしてアメリアも覚えておきなさい。
王族を裏切れば今度こそ次はありません。
毒杯をご用意しますので、自分の言動には慎重とするように」
シンとした空気を破るように一拍置いて
「ちょっと待て!
それじゃアメリアの意志はどうなるんだよ!」
「無理やり何て可哀想じゃないか!」
「年増が嫉妬するなんてみっともないぞ!」
一斉に喚き散らかされるも言いたい所は大体そんな所。
確かにと頷きたくなるもルゥ姉の評価が間違っている。
とりあえず手を上げれば誰もが剣呑な目を向けるも黙ってくれていた。
「一つ訂正。
残念か喜ばしいか判断は任せるけど、ルゥ姉はこう見えて子供も二人いるし、イケメン金持ちなんてクタバレな旦那さんも捕獲してるし、フリュゲールの王様もてなづける前に懐いて操れる始末。
年相応の幸せも掴んでいるルゥ姉がいつその服を着替えたのかわからないような臭いのするお前ら相手に嫉妬する要素がどこにあるのか逆に教えてほしいんだけど」
「こら。虚しい一人身の多い連中に要らない事を言ってはいけません」
しれっと溢れんばかりの幸せと彼らの現実と比べさせる当たり訂正入れない方が良かったかなというか、予想通りの言葉に少しだけ鬱憤が張らせてすっきりとした。
並ぶ顔が驚きと信じられないと言う顔と何処か数名の悔しそうなと言うより泣き出しそうな顔。
「隊長、マジっすか?」
「こんな事に嘘ついてどうするのです。
ちなみに母親がいなくても優秀なメイド達が甘やかす事も厳しすぎる事もなく伸び伸びと跡継ぎとして育てられているので何一つ不憫はさせてませんよ」
と言うも誰もが母親不在というのは良いのかよと非難の目をむけるも、何も貴族なんて親に育てらる方が珍しい人種だ。
母親不在のその地位は何故かラン兄が埋めているし、オリヴィアもあの子供達の世話を率先して面倒を見ている。
もっともルゥ姉を除けばジルに一番懐いていて、二人の嫉妬の眼差しに苦笑を隠せずにいる。
肝心の父親はただ見てるだけだが、それでも穏やかそうなあの視線こそ正しき貴族の父親と言う物だろう。
「そんなわけで我々は早々に失礼させていただきたいとおもってます。
その前にフリーデルからの要請で貴方方には鍛える以外に少々働いてもらう事になりました。
我々が村を開拓しているのはご存じだと思いますがその手伝いをしていただきたく存じます」
言えばフリーデルもやってきて
「先日の虫のせいで我々の食料庫も全て食い尽くされここに在った食料はみんなも知ってのとおり数日分しかない。
我々はルーティア殿の案に乗るしかないようだ。
まずは指定の10班に分かれよ」
「ザックスとジーグルトの班は私と一緒に。
残りの班は一度拠点に戻って我々の仲間を紹介してから各地へと配置いたします。
10分後には出発をします。
拠点を放棄するので必要な物、持ち運びに難があるような物があれば私が協力します」
まるでこれが合図のように一斉にバタバタと走り出す姿に腐っても騎士だった名残があった。
アメリアとエンバーを連れてフリーデルと共に要塞の外で待っていれば10分もしないうちにちらほらと荷物を小さくまとめて並び立つ姿もあった。
「隊長、少々大き目の物もあるのですがお願いしていいですか?」
ジーグルトの指示の下いくつかの木箱を並んでいくのを見ていたが
「中身はなんです?」
「見ての通り剣の予備とかですよ」
1つを開けて見せてくれた。
「集めに集めてやっとこれだけ確保できました」
中には金属の鍋とか農機具とか、ユキトの祖母から聞いた時代を思い浮かべてしまう。
「主だった武器はブルトランに徴収されたのでどの領地でもブルトランの兵士以外は武器を持ってないんですよ」
「魔法だってあるのに武器だけを徴収してどうするのですか」
「魔武器を持たずに殺傷能力を持つ魔法を使えるのは貴方ぐらいですよ」
相変わらずでたらめなんですねと疲れた様に笑うジーグルトに心の中から盛大に突っ込む。
そんな奴結構居るぞ?!
って言うか、魔武器使わないと殺傷能力ないとか初めて聞いたんだけど?!
思わずルゥ姉を見上げるが、俺を一瞥して知らん顔をしていた。
この顔知ってる。
肝心な事を教え忘れた時の顔だと睨まれても気にしない彼女にせいぜい睨むしか出来ない俺だけど一応睨んでおく。
次々と並べられた物をルゥ姉が片づけて行くのをクラウスは相変わらず冗談みたいだなと笑っていたが
「なんか面倒だからいっその事この城塞事持っていけば?」
家一軒丸飲みできるルゥ姉の収納力にエンバーも段々感覚がマヒしているのか冗談のように言う。
「さすがにこのような城塞は無理でしょう。
でも試してみるのも面白いですね。
ちなみに無理ならそのまま恥ずかしさと一緒に城塞も残ると言う何とも言えない空気が漂うだけですが……」
ルゥ姉もみんなも知ってる収納できなかった時のあの虚しさを上げてさすがにこれはいくらなんでも無理でしょうとみんなで笑いながら城塞の片隅に手を置いてすっと手を横に薙ぎ払った。
ポカンと青空を見上げる。
木々の隙間から見える白い雲を浮かべた青空は冬の始まりの小春日和と言うにふさわしい爽やかな色合いだった。
ぽっくりぽっくりと馬の蹄が鳴らす音を聞きながら木々の影に隠れ、人目に付かない様に集団での移動は慎重を求められていた。
人っ子一人、魔物も少ないこの森で途中にたまに出会う魔物は先頭を行くエンバーが時折退治し捕まえた魔物を馬車チームが幌の付いた荷台の中で血抜きをしながら臓物を取り出し解体をしていた。
貴重なタンパク源だからね。
100人もいきなり増えたとならそれなりに食料って必要だからね。
血と臓物は壺に集めて時折川に流して処分している。
魔物が集まっちゃうからね。
俺も荷台の中で食料チームの方と一緒に解体を手伝っているけど、少し前を馬にまたがるルゥ姉の背中を無言で眺めていた。
俺だけではない。
誰もがルゥ姉を意識するように眺めていた。
仕方がないだろう。
やっちまったんだよ……
エンバーにそそのかされて遊び半分で城塞を収納してみたらできちゃったんだよ……
当人含めた周囲の当惑に城塞の後地が残るむき出しの大地を暫し眺める中、何事もなかった顔でいち早く指示を出したのはエンバーで
「忘れ物はないな。
じゃあ出発するぞ、案内する」
忘れようもないこの状況にエンバーが号令をかければ誰ともなく号令には反射的に従うと言う悲しくも身に付いた習性と言う様に馬に跨り、または馬車に乗りこんでエンバーに案内されるまま後をついて行く事になっていた。
さすがのルゥ姉も自分の身に起きているこの状況に頭の中が整理がつかないのか先ほどから何度も小首をかしげているようで。
いち早くこの状況に関して考える事を放棄したクラウスがお前スゲーなとエンバーを誉めていたが
「あの女に関しては驚く事はもうやめたんだ」
達観したようなどこを見ているか判らないような視線で返した言葉に
「それでも驚かずにはいられないだろ?」
「ああ。
けど今は護衛任務の途中だから、だから驚くのは後回しする事にした」
一応驚いているのは確かなようで、そんな感情も律する事が出来るエンバーに思わず
「さすがSSランク。
修羅場の場数が違ったか」
風に乗って聞こえた会話に思わず呟いてしまえば誰ともなく確かにと頷くのを視界の端がとらえていた。




