最悪は既に迎えていた
案内されたのはハウオルティア城も眺める事の出来る森の中の小高い位置にある城塞だった。
「ここはかつてウィスタリアへと向かう街道がありました。
このブリッタ城壁からこの一帯は畑が広がっていて、森を通過しないといけないのでスライムなどの弱い魔物もですが安全を配慮して監視するための物になります」
ぽっくりぽっくりと馬を進めさせながら生まれたばかりの朝日を浴びる荒れ果てた大地を眺める。
ここに来る森は既にまる裸となりこれから葉っぱが紅葉して落ちると言う季節を迎えると言うのに、ほぼ何もない状態になっていた。
葉っぱの無い枝を広がせた木々の山々はどこか寒々しく、群に取り残されたバッタが僅かに残っていた食べこぼしの葉っぱを食い荒らしていた。
バッタの来る方向へと向かって馬を走らせていたけど、通過した後の何も残ってない光景を初めて見るクラウス、アメリア、ルゥ姉は言葉を失くしていた。
「ロンサールの砂漠が広がっていった頃の景色に似てるな」
エンバーのどこか苦しげな言葉から、かつてロンサールでも同じような事が起きてその頃は何もできなかった無力な子供だったのだろうと察する。
「いつまでも眺めてないで入ってくれ。
ここだっていつ見つかるか……
既にばれているけど泳がせてもらえてるんだ。手短に物事は済ませたいんだよ」
クラウスに早くと促されて城塞の中へと入って行く。
城塞と言うだけにそれなりの広さを持ち、二階に上がる階段ではなく地下へと続く階段へと案内された。
「悪いな。明かりがついてると居るのがばれるから夜の間は地下にみんな籠ってる」
そう言いながら仄かに光る光の魔石が薄っすらと階段を照らす僅かな明かりを頼りに階段を下りて行けば黴臭い一室へと続く扉を開けてくれた。
「かつての食料庫をこう使いましたか」
エンバーをしんがりにして階段で足を滑らしそうなアメリアに手を指し伸ばして降りて行けば所々石の柱が立ってはいるが巨大な一室が広がっていて、
「皆さんお久しぶりです。
初めましての方もいらっしゃると思いますが、ここはあえて初めましてと言いましょう。
改めてルーティア・グレゴールです。
これはディータ・グレゴールです」
「どうも」
ルゥ姉の簡単な挨拶に相槌討つ程度にしておく。
驚きの視線が集まる居心地の悪さを無視して
「そして彼はロンサールのギルド所属のエンバーです。
道中の護衛として着いて来てもらいました」
そんな紹介にエンバーは慣れた様に会釈をするだけ。
心象はよろしくないだろうが、それがこの場では部外者だと言う彼の立場と言う物をはっきり言い表してもいた。
「サファイア……いや、ルーティアだったな。
生きて会えるとは思わなかった」
嬉しそうな顔で両手を広げて抱きしめようとするガタイのいい男に
「イヴァン・カファーですか、お久しぶりです。
私としてはよくぞ生き恥を掻いてまで残っててくれましたと感謝するべきでしょうか」
どこまでも底冷えする声音にイヴァン・カファーと呼ばれた男は両手を広げたまま固まっていた。
彼の背後でざわりと剣呑な気配が生まれる。
「おやおや、レオン、ルーカス、オスヴァルト、ジーグルトまでお揃いで。
かつての隊長クラスがよくもまあ雁首並べてお元気そうで何より」
あまりに見え透いた売り言葉に俺とエンバーは途方に暮れるが、名前を上げられた彼らの背後は殺気立ってると言っても間違いはないだろう。
仲間ともいえない相手を煽らないでくれと頭が痛くなる。
名を呼ばれた彼らも一瞬その強面の顔に緊張が走るがジーグルトと最後に呼ばれた彼はイヴァンの肩を引っ張って立ち位置を替える。
「久しぶりの紅蓮の言葉を聞く所、お前も相変らずのようだな」
緊張した顔を隠さずに俺達をテーブルへと案内してくれた。
席も進められたけど、このような場所に長居をするつもりはないと言う様に断れば、後ろに居た奴に椅子を総て片付けさせる。
ルゥ姉の取り扱い判ってる人だなあと少しだけこの人は話が出来そうだと思ったけれど……
やっぱり謎のイケメンどもくたばれ!!!
口には出さずに心の中の俺が叫びまくっていた。
うん。
何でこんなにも女の子の遭遇率少ないんだよ……
転生って言うワードに美少女とか女の子の出会いとか絶対ワンセットである物じゃん?
ここまでくると美少女っていう希少生物何て高望みしないよ。
自分はどうなんだよと言われるかもしれないがせめてまともな普通の子と出会いたいんだよ。
ルゥ姉みたいな美人なのに取り扱いに要注意とか、フリュゲールで知り合った既にラン兄にメロメロで俺はラン兄のおまけ程度にしか取り扱ってくれない美少女とか、ロンサールのなんで色々と突出しすぎてる個性的な方達とか、カヤ、リーナとか手は出しても本気にしてはいけない人とか……強制的に婚約者にされたアメリアみたいなクラスのヒエラルキーの頂点に君臨するようなまさに俺の苦手とするタイプは逃げてもいいですかとスタンバイしてる状態なのに、なぜにこの世界の男共は無駄にイケメンなんだよと、まあ、そうでもない人も居るけどねとウードの顔をもいだしてほっこりとした。
やっぱりじゃがいも顔って世の中必要だなと心の中の俺とそうだねーと頷き合ってしまう。
「所で、この状況はどこまで調べてますか?」
俺の心の葛藤何て全く気付きたくもないと言う様にルゥ姉の淡々とした声に、この件について考えるとただただ悲しくなるだけだからもうやめようと目尻に浮かんだ涙をそっと吹いてルゥ姉の声に集中する。
どうやら蝗害について話しているようだ。
何時からこんな様子だったのか、原因はと言った所だろうが
「それは俺達にもさっぱり」
ジーグルトもハウオルティアの地図だが机に広げて既に被害があった所を書き込んでいた。
「とりあえず今の所調べられた所はこんな風だが……」
北西側の海岸から王都を通り過ぎて南東の海岸へと抜けて行ったようだ。
と言うか、こんなにも移動するものか?とぞっとしてしまえば
「ロンサールにはいかなかったな……」
ロンサールが無事だった事にほっとしたような声にジーグルトの後ろの奴らが睨みつけるようにエンバーを見ていた。
「ジーグルト、後ろの方々の躾がなってませんね」
すかさずルゥ姉の注意が飛ぶが
「すまん。俺は貴女ほど部下の指導に向いてなかったんだよ」
「自分のふがいなさを盾にするのはやめなさい。聞いてると腹が立ちます」
どこからか生意気な女だと言う声が聞こえたがルゥ姉は一切無視してジーグルトに何とかしろと視線を向ければ
「元ハウオルティア王国ハウオルティア騎士団筆頭第一師団隊長兼ハウオルティア王国魔導師団団長サファイア・リドレッド改めルーティア・グレゴール殿、これでも貴女の後釜を引き継いだ魔導師団団長ですよ。
部下の指導するより魔導の研究をする方が大好きなのですので、指導何て無理に決まってるではないですか」
「久しぶりに昔の長ったらしい役職を舌を噛まず間違えることなく言えた人物に会えましたので貴方の言い訳位認めてあげましょう」
ハウオルティア以下略の長ったらしい役名に彼らの背後が息をのみ込みながらも次第にざわついて行くのを二人は綺麗に無視していたが
「二人とも知り合いなんだ?」
思わず聞いてしまう。
主にどんな関係かと。
「私が騎士団長を纏める前の只の魔導師団の一隊長の時の副隊長を務めてくれました。
書類関係が得意分野だったので大変役に立ってくれました」
言えば違うと首を振る。
「貴女が私に書類押し付けるから他に何もできなくなってずっと机に縛られてただけです」
「そうとも言ったわね」
「やっぱり苦労した人か……」
返事をする代わりに小さく苦笑した傍らで「おかげで城の内情はほぼ把握できたでしょ?」といえば彼は更に苦笑するだけ。
きっと既に歪だった国の状態をそう言った所から調べさせたのはルゥ姉なら当然の調査だろう。
「とりあえず、ここ最近のブルトランに何か大きな変化は?」
「ウィスタリアから魔導師団を呼んで何やらやっていたようでしたが、噂では失敗の模様。
何をしたかまでは判らないけど、相当大がかりな事かと」
その言葉にルゥ姉は机に両手を置いて
「フリーデル確かで?」
「私の集めた最新の情報でも城壁の中はそれ以降病人や死人が続出していると」
このまま全滅してくれないかなーなんて声が遠くから聞こえてくる傍ら、ずっとルゥ姉は難しい顔をしている。
黙ったまま
何かを考え込む様に
顎の下に手を置いてずっと地図を眺め
視線はただ地図の中央を眺めたまま長い事睨みつけて
「仮定の話をしてもよろしいでしょうか?」
答えは出ていないようだが、何か頭の中でまとまったらしい。
その言葉とともに元部下のジーグルトさんは大量の紙とペンとインク壺をとりだして準備万端とかつての部下時代のようにルゥ姉の側でただ耳を傾けていた。
「簡単に言いますと、ブルグラントの王はどうやらこのハウオルティアの精霊地図を見つけ出し、精霊地図を書き変えようとして失敗した模様です。
この状況は間違える事を許されない失敗の代償なのでしょう」
一番考えないようにしていた事を聞いて低い天井を見上げる。
この蝗害はハウオルティアの精霊の悲鳴なのだと理解すれば、どこにいるのか見た事もない精霊に間に合わなくてすまなかったと、既に耐え難い狂いそうなほどの飢えとの戦いに耐えているハウオルティアに心の中から届く事のない謝罪を送るのだった。
ロンサール組の話しを今の所毎日アップしています(奇跡☆)
お時間があればゴールデンウイークにでも読んでいただければ幸いです。




