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墓標に花の名を

タイトルの通り花の名前がいくつか出ますが、総て架空の花の名前です。

引っ越しのペースは大体移動を含めて30日以内には移り住んでいた。

最初は隣の、リーナが最初に辿り着いた村だった。

何もない村はやはり廃村と言う言葉がぴったりで、心苦しそうに村を眺めるリーナは村のとある廃墟の庭先だろう場所に石を運び花壇を作った。

聞くまでもない。

彼女を受け入れ、そして凶刃から守ってくれた人達への弔いの形なのだろう。

ブルトラン式の墓標を知らない俺達だが、彼女もそう言った事とは縁がなくて知らないまま。

それは何処かエンバーの母親が眠る地の物に似ているようにも思えた。

墓標としてひときわ大きな石を懸命に運ぼうとする彼女に俺達は慌てて手を貸して、武骨な石を柱のように切り取り建てかけようとすれば花壇の中央に置いて欲しいと願われるままに置く。その石柱にロンサールの山奥の事ではないが、クレイが代わりに何か刻もうかと聞けば、リーナは石柱の側で咲いていた花にそっと手を添えて


「トゥーリッキ。

 この花の名前なの」


クレイは器用にもナイフでその花の絵を墓標に描き、そして『トゥーリッキ』と、小さな黄色い花の名前を刻まれるのをみんなで静かに見守っていた。

その後は墓標を中心に色とりどりの花々を見付けては移植し、ルゥ姉からは花壇の片隅にリンゴの木の苗木を用意して植える頃、もともと自生していた花達は瑞々しく逞しく根付き、数名のギルドと何人かの流民を残し花の水やりの番をお願いする頃、俺達は移動する事になった。


そうやってハウオルティアの各地を転々とする事になった。

隣同士の村だったり、それから離れた所だったりと移動先は不確定。だが一つ言えるのはブルトランから遠く離れた地が多かったと言う事。

決して人が多い所には近づかず、かといって人の住みそうにない所には立ち寄らず、生活に便利のよさそうな所をチョイスした無人の廃村を1つ1つ生き返らせていく。

リーナも滞在した場所では墓標を必ずつくり、毎日花に水を与え、一人静かに祈りを捧げていた。

俺と大して変わらない年なのに、彼女は今も一人静かに喪に服していた。


「何も一人で背負うことないんだぞ」

「そんな理由ではありません。

 ただ、この地にも私と同じように誰かを守るために命を掛けられた方がいたとしたら、このような寂しい場所であってはならないと思うのです」


それだけなのです。


笑う彼女のどこか儚げな笑みにエンバーは黙ってしまい、それからいつもどこかで咲いていた花を土ごと持ってきてその花壇の片隅にそっと植える姿を俺達は度々目撃する事になった。

その姿につられて俺もクレイも花を苗事運んでは植える。

こんな俺達の姿に偵察部隊もリンゴの苗と一緒に花の苗を見つけては植える。

更にシルバーまでどこかで見付けてきた種の付いた花を地面をほじくってはそこらじゅうに植えている。

見よう見まねで協力をしているようだがシルバーに掘り返された場所は点々と……花壇の枠から外れていて、何が育つか判らないが後ろ足でひっかけた土のこんもりとした具合を俺達は微笑ましく眺めていた。


それでも30日もせずに俺達は移動する。

トゥーリッキ、ウルリカ、メリッサ、リズベット……

色々な花の名前をリーナに教えてもらい、墓標に刻みながら俺達は移動する。


こんな事を一年ほどしていればやがて俺達の事が噂になり出していた。


花の名前を頂いた廃村の畑を耕し、水路を切り開いていつ人が移り住んでも良い様に整えられている。

既に人もどこからか流れ着き、畑を耕して住んでいる。

噂にならないわけがない。

連絡では細々とだけど生活が出来ているようで、細分化された流民達も今では使用人のように従順となり、与えられた仕事を真面目にこなしているという。

竹の骨組みに草を練り込んだ土壁は流民達の手によりかなり上手に作る事が出来るようになり、一番最初に着いた村ではロンサールから移民してきた人達に教えるレベルまで上達していつの間にか本当にかつての村が再現されたかのように家が点在しているという。

家の作りは全く別物だが、これなら壊されてもまたすぐに作りなおせるし、材料費も労働力だけだから苦労しないと流民達は言って、俺が見本で作った家よりもはるかに立派な物を作り上げている事を移住者達によって聞かされるのだった。


結局の所、流民の人達はなんで盗賊なんぞに身を落したかと言えば仕事がなかったからだ。

自前の技術も持ち合わせておらず、土地を持っている家柄でもなかった。

何処かの家に雇われるほどの身の上でもなく仕事にありつけるほどの器用さと、そもそも人を雇うほどの雇用がなかった。

食べるに困り、そんな人達が集まる所で小さなコミュニティが出来て疑似家族が出来上がった。

親の居ない子供は距離感に戸惑うも大人の庇護に入れて安心し、子供を失った大人はその悲しみを埋める存在として抱きしめてあげて。

揃っていれば親子に見られて一人でいるより周囲の警戒も和らぎ、同情も買う事も出来た。


だけどブルトランの侵略によってそんな疑似家族はそこらじゅうに溢れ、やがて、ついに人様の物に手を付ける事を始めてしまった。

そうなると後はもうただ転がり落ちるだけ。


人の命を奪うまではあまり時間がかからなかった。


街の風紀も秩序も乱れていた。

物を奪っても誰も止めはしないし取り締まる者もいない。

暴力だって常にどこかで起きていて、人が人に怯える様子は当たり前の光景になっていった。

最後は力の序列によって弱き者がはみ出される事になるのは当然の成り行きだ。

同じような仲間も直ぐに見つけ出し、行動に出るのは躊躇いもなくなっていた。

街中では生きづらくても田舎の、どこか都会から隔絶された様な場所なら弱者としてはみ出された者でも生きて行けると確信したと言う。


物を奪うのは当たり前で、邪魔なら排除すればいい。


いつの間にかそれが当たり前の様な生き方になっていた事に疑問を覚えず、生きる為だと言う言い訳は既に記憶の彼方に消え去っていた。


だけどロンサールでルゥ姉に掴まり、ガーネットに調教され、ギルドの人間に馬車馬のように働かされ、偽りの家族を解体された中で労働の報酬とまともな食事を食べさせてもらううちに今までの自分達の生活を振り返る時間が増えてやっと気づいたという。


何て恐ろしい事をしていたのかと。


長い時間をかけてやっと気づいた事はとても許されるよな事ではないと涙ながらに語る流民の話しをリーナは震える手を握りしめ、歯を食いしばったまま聞いた後どこかへと行ってしまい、あわてて追いかければ墓標の前で一人泣いていた。


「あの人達に私を大切にしてくれた人を殺されたのに!

 私の素性を知ってても受け入れてくれた人もあの人達に殺されたのに!

 愛した人を殺されて!母のように慕った人も殺された!

 あんな酷い事もされたのに!あんな酷い事を!

 だけど、あの人達をそうさせたのはあの男のせいで!!

 私の事を娘とも名前も呼んでくれないのに、それでもあの男は私の父親で、この国をこうした張本人なのに!」


どこに向ければいいか判らない苦しみを吐き出すように打ち明け、ぼろぼろ涙を零しながら泣いて一人自分を抱きしめていたリーナを俺はそっと包み込むように胸元へと抱き寄せる。

最初こそ驚いたように震えて見せたものの、子供をあやすようにそっと背を優しくなで、落ち着くように軽く叩いていればさっきとは違う慟哭ではなく、大切な人を失くしたと言う純粋な哀しみが溢れだしたというように声を立てて泣きだした。


そう言えばリーナが家族を思って泣いてる姿見た事なかったかも……


墓標の前で祈りは捧げていたものの、それは大切にしてくれた家族を思っての物ではなくて、リーナと関わった人達が亡くなった事に対しての祈りだったのだ。

女の子は繊細だとは言う物の、ここまで割り切っている彼女はたぶんまだ大切な、夫だった人と心からの母と言える人への悲しみと向き合えていなかったのだろう。


哀しみに暮れる時間は与えてもらえなかった。

その後自分で望んだとはいえ俺達に連れまわされ心にゆとりもなかったのだろう。

一年この暮らしを続けて、このパターンにも慣れて、そんな生活に馴染んで、やっと心にゆとりが出来たのだろう。


良く考えればまだこんな年だと言うのに波乱に満ちた人生だよなと、まだ胸元で嗚咽を零しているリーナが落ち着くまでずっと震える肩をあやしていれば、いつの間にか俺同様に追いかけて来ていたはずのエンバーとクレイの姿は消えていた。

気を効かしてくれたと言うのか何か勘違いしているんじゃないかとか、ついに俺にも女の子運が発生したとか少しだけ邪な事を加えて考えていれば、やっと落ち着いたリーナが俺の胸を軽くとんと押して、へたくそな笑みを向けて


「ごめんなさい。

 今はもう大丈夫だから」


そんな笑みにつられるように俺もどこかぎこちない笑みを浮かべてしまうも


「辛い事が会った時は吐きだすに限るんだ。

 よかったらまた……付き合うから」


さすがに胸を貸すよとは言えなくて、我慢するぐらいなら話を聞くよと言えば少しだけ恥ずかしそうに俯いてしまったリーナに少し散歩してから戻ろうかと提案する。

泣き腫らした顔では帰り難いだろうし、まだ夕食の準備をするには早い時間。

こんな事があったんじゃカヤも許してくれるだろうし、怒られることになってもこれぐらい気を回さなくてはルゥ姉に怒られてしまう。

どっちを選択しても怒られる位ならリーナの気が休まる方を取ろう。

リーナはお仕事がと躊躇ってる物の、俺はこの手を引っ張って花壇の花を探しに行こうとさそう。


だけど森に向けて少し足を向けた所で嫌な気配を感じた。

森の木々の隙間から伺うような視線。

規則正しく、等しく開けられた距離の気配は間違っても魔物が作り出す距離ではない。

例えばだ。

よく訓練された人達の奇襲にとられる陣形に標的に対して対等の距離を置く形がある。

フリュゲールで学んだ奇襲作戦の陣形の1つ。

気付いた瞬間、考えるよりも体が動いていた。


『爆ぜろ!シェムブレイバー!』


空に向かって二つの空気の刃を飛ばして上空で叫んだ通りにぶち当てて爆発させる。

空気の衝突が爆風と振動を発生させて、相手はもちろん俺達も軽く吹き飛ばされる。辛うじて抱きとめて俺が下敷きとなって吹き飛ばされれば、リーナが無事怪我する事が無くて安心した。

いきなりの俺の魔法の発動にリーナは驚いてみせたものの、既に見慣れた魔法に怯えるよりもこのルゥ姉に禁止された魔法を使う時は格上の相手に使う、もしくは緊急時の合図と言う事を思い出して顔を青くする。


森の中から魔法を見て逃げるよりも奇襲と言う選択をした一団に俺はリーナの手を引いて後方の地面に向かってもう一度


『フレイムバード!』


足止め代わりに魔法を放つ。

一団の前を横切るように炎の鳥を飛ばして熱によって地面を焼いて一瞬のためらいを生む程度の足止めを図る。


「ディック!」


手を引っ張られながらも懸命に走るリーナの恐怖に歪み、どこか泣き出しそうな声に俺は何とか笑みを作って


「ルゥ姉達の所まで頑張れ!」


励ますように声をかけている間にも、家の方ではシェムブレイバーに気づいたみんなが飛び出してきてくれて、エンバーとシアー、そしてウードさん達もシェムブレイバーを披露してくれた。

どれだけのオーバーキルをしでかすつもりなのか。

思わず待てと言いたかったが、その前に彼らの方が魔法を脅しで使った為に血の雨を見る事にはならずに済んだようだ。


三人からの大技にさすがに奇襲を仕掛けた一団は負けると思って逃げだそうとしたものの、いつの間にか彼らの背後にミュリエルとベーチェがそろって並んでいた。

人質のチャンスだと思っ他のか二二体に向かって走って行くも、近づいて気付いたのだろう。

その人ならざる姿に、羽をもつ人型と言う姿についに逃げ場を失ったかのように恐怖の色を隠す事も出来ずに足を止めた。


「おやおや、襲ってきておいて逃げ出すとは。

 男の風上にも置けませんね」


ゆっくりと最後に登場したルゥ姉はクロームとクレイを引き連れてゆったりとした足取りでやってきた。

その間にも雌黄の剣の人達によって手早くロープでしばられてしまう顔ぶれを眺めながらルゥ姉は一瞬だけ息を止める。


「まさか、こんな所で盗賊まがいな事をしているとは……

 お久しぶりですと言いたいのですが、どこまでも落ちた者ですね、元騎士団長殿」


「ああ、俺もこんな所で殺されたと噂されていた元騎士団長殿に合うとは思わなかったぞ」


サファイア


長い事聞いてなかった名前が風に乗ってみんなの耳に届く頃、俺達はハウオルティア人同士の殺し合いを始め得ずに済んでよかったと小さく胸をなでおろすのだった。













 セイジ・ドーミーが改めて熱いお茶を全員にふるまえばクロームの話がまだまだ続く。

 ただ、さっきのような重苦しい話ではなく、いたって普通に話をするような軽い口調で


「私とガーネットの付き合いはそこから始まったのさ。

 彼女は誰もいない酒場で1人で孤児となった子供達の世話をしていた。

 それを見て私は理解したよ。

 子供が30人も40人もいれば彼女の酒場に男どもが寄り付くはずもない。

 目を点にして子供達に食事を与える風景を見ていた私に彼女は言ったよ。


『国はまずこういった子供達を保護する所から始めるんじゃないのかい?』


 痛い一言だった。

 戦いで人が死ぬ事に慣れすぎた私はまだ人は黙ってても増えるものだとどこかで思っていたんだろうな。

 それから私は彼女に学ぶ事があると気づいて毎日彼女の酒場にかよう事にした。

 彼女は子供の面倒を夫を亡くした女達に面倒を見させ、どこからか狩ってきた魔物を家を失った女達に処理の仕方を教え、難民としてやってきた者達に処理した魔物の加工を教えていたのを私も同じように学んだ。

 だけどガーネットは彼女達からこの仕事を奪う気かと私を一喝してね、なら私はどうしたらいいとついに泣きついてしまった。


『手や足や目玉が無くなったくらいで人は死なん。

 何時までも床に寝かして少ない物資を消費させるくらいならとっとと働けと言って回れ!』


 この時初めて文字通りの尻を蹴られると言う体験をしたよ」


 心から楽しそうに声を立てて笑うクロームにどう反応すればいいか迷うも彼の話は構わず続く。


「彼女は私と、ああ、この時だったな。

 ガーネットが家名に縛られない低い地位の官吏でいい。

 記憶力のいい若い奴を連れて来いと言われて、城ではちょっと有名だったセイジを無理やり辞職させて三人で歩き回ったよ」

「はい。うちは兄弟が多いのであの時はやっと就いた城勤めを離職する事を家族に説得させるのは、もうほんと大変でした」


 苦笑交じりの9人弟妹の長兄のセイジの言葉には同情するしかなかった。


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