胡散臭い英雄の作り方
久し振りに魔力の使い過ぎでぶっ倒れた俺はルゥ姉にガッツリと無理しすぎは命を縮めますよとどうでもよさ気に叱られた挙句に何をやったのか食事の後に実演させられた。
勿論規模は小さく、そして枯れた川での実演。
一切の無駄はないなと、いつの間にか戻ってきていたエンバー達もルゥ姉の「貴方達も学びなさい」の一言で練習させられていた。
ひと眠りしてすっきりしたと思ってたけど二晩ほど爆睡をしていたらしい。
すっきりもするはずだなと寝起き直後に派手に腹を鳴らして無事目が覚めたと大騒ぎになる前に軽く10人前ほどの料理を頂くと言う、感動もどこかへ行ってしまった目覚めに皆さん畑仕事に出かけて行ってしまった。
「とにかく、今日は一日大人しくしてなさい」
ルゥ姉の書斎のソファに座らされてルゥ姉の入れた紅茶を頂いている。
ちょっと薬臭い所を考えれば紅茶と言うより薬湯だろう。
うん、まずい。
味よりも効能重視というのが匂いからも判った。
「これ飲んだら体が重いからあとで畑を見回す程度に身体を動かしてくるよ」
「それぐらいなら許可しましょう。
クローム達の様子をついでに見てくれるとありがたいのですが?」
「相談ぐらいなら乗ってくるよ」
クローム達と見る地図よりも精密に描かれた地図は今のハウオルティアの勢力と状況。
紅緋の翼の人達が偵察から戻って来るたびに書き加えられる情報はブルトランの兵の配置まで書いてある。
だんだん物々しい様子もあらわになって行く様子にルゥ姉は地図に視線を落として
「早いうちに移動した方がよろしいでしょうね」
「もう?」
ここに来てまだ10日も過ぎてないのに引っ越しの予定を立てるルゥ姉にそんなにも早く移動しなくちゃいけないのかと思うも
「とりあえず、ここでしでかした事についてはこちら側に来てもらった方々に身代わりを頼みましょう。
大丈夫です。
伝令係を何人かおいて行くので悪戯なんてさせません」
「ああ、うん。
その点は心配してないし、心配する案件じゃないと思うけど。
急ぐ理由は?」
見つかって捕まる恐れ何て今更言われなくても理解している。
「まさかこれだけの人数で乗り込むつもりじゃないでしょ?
どこかで戦力を集めなくてはなりません。
当然協力者も必要となります。
裏切り者も出るでしょう。
貴方の15の誕生日までに王都近辺に拠点を作らなくてはいけません。
王都の中に入る事の可能な協力者も必要となるでしょう。
情報はナマモノです。
新鮮な生きてる情報ではなくては意味は成しません。
なので、このような田舎でいつまでも情報収集しているわけにはいきません」
「確かにそうだけどよ……」
なんとなく釈然としない。
直ぐ移動すると言うのに道路整備や川の復旧。さらに畑を耕してすぐ何か植える事が出来るように準備したり、まだ見つかるわけにいかないのに目立つ足跡を残していくのだ。
「ひょっとして立派に育った王族がブルトランからハウオルティアを取り戻しに来たと言うデマでも流そうと言う気か?」
「立派かどうかはわかりませんが、多少のゆさぶりにもなるでしょう。
貴方がフリュゲールに逃げた事は誰もが知ってる事実です。
そんなあなたが戻ってきて、荒れ果てたとは言い難いですが貴方の通った後には人が住んでいた頃の村が最低限の状態で住めるようになってます。
この地の農業に失敗したブルトランとしてはたとえ温暖なハウオルティアでもこの冬は飢饉に見舞われる以上決して穏やかではいられないだろうし、生きる気力を失ったハウオルティア人には希望となりましょう。
たとえ、この村にブルトランからまた盗賊団が派遣されても、一騎千頭の紅緋の翼や雌黄の剣の方々が村を守ってくれます。
植物も実り、貴方の名の下に集う守護者に守られた地。
虐げられた民には希望の地ともみえましょう。
貴方をブルトランを討ちとる英雄として迎え入れる器は作っておくべきかと思います」
「うわっ、何その胡散臭い称号……」
「希望と言う縋れば千切れてしまう身勝手な淡い期待と言うものです。
別に貴方の事を指して行ったわけではありません。
英雄とは成し遂げた者だけに与えられる称号。
英雄になれる素質の者へと与えられる称号ではありません。
その点フリュゲールの王は見事英雄となる事が出来ました。
隣国からの脅威を取り除き、独自解釈がまかり通ってしまう悪政と名前ばかりの法律を排除し、あるべき四公八家の存在理由と王制の法治国家として生まれ変わりましたが、まだ生まれたばかりの赤子の様な国に周囲は英雄排除を訴える状況です。
が、血なまぐさくも濃い付き合いのガーランドと和解がなされた以上、周辺国との付き合いの薄い国でしたので付き合いのない国に言われる筋合いはないの一言で終わらせてます。
当然ですね。
貴方も英雄となれる素質の持ち主。
せいぜい華やかな経歴位私達に作らせてください」
「指さして笑われない経歴なら大歓迎だけど、詐称もいいとこだろ」
「何を言っているのです」
そう言って両手を腰に、胸を張って
「貴方も言ったではないですか。
胡散臭いぐらいがちょうどいいのですよ」
「やっぱりそうなったか……」
思わず項垂れてしまう俺の前に影が落ちる。
気が付けばいつの間にかルゥ姉が目の前に立っていた。
「一つ聞いてもよろしいでしょうか?」
「何を?」
珍しくもそんな前置きのある問いに眉をひそめてしまえば
「貴方の意志どころか意見を聞きもしないで仇討の旅に出た事、ご迷惑でしたか?」
ご迷惑でしたか?
そんな今更な事聞かれても既に止まれぬ所に俺達はいる。
今更だ。
何で俺がと言う気持ちは今もないとは言い切れないが、すでに青田買いをされ呆れるほどの報酬も受け取っている。
身一つで返せる金額ではない事だけは判っている。
迷惑だなんて……
「ルゥ姉も知ってるだろ?
もともとリーディックが生まれて以来意志何て誰も必要としていなかった事を。
それどころか俺の存在すら疑問がある状況からのスタートだった事も。
家族には多少の恩があれど、命をかけるほど情はない。
どちらかと言うと俺の存在を隠して身を挺してここまで連れてきてくれたルゥ姉の為に仇討の旅は続いていると俺は思ってる。
だから、迷惑なんて何もない。
むしろいろんな国を見て回れて楽しいとも思ってる。
ろくでもない奴らも多いが、ラン兄とかエンバーとかいい奴もいるし、リーナみたいな子が笑ってくれるようになって……
トラブルは多かったけど、迷惑って思った事は一度もないし、多分これからもないだろうな」
思い返してみれば散々な事があった。
これからも当然のようにあるのだろう。
判りきってるトラブルに頭を突っ込んでいったり、煽ったり。
少しは丸くなったかと思えば気のせいだったり。
見てて飽きないなぁと感心しながらもルゥ姉を女の人と見た覚えはない。
ばいんぼいんな胸のたわみとか、ばいんぼいんなのにきゅっとくびれた腰回りにすらりと伸びた足だとか、十分眼福過ぎる物をお持ちなはずなのに手を出す気になれないのはハウオルティアを逃げ出す時のあの山での出来事のせいだけではないはずだと信じれば、叩き出される答えはルゥ姉は既に『家族』なのだという一言のみ。
うん。
これを女と見れるアルトにそう言う所は一任し、なんだかんだ見目麗しい相棒と言う位置となってるルゥ姉とはまあ、馬が合う程度だろうか。
だからやっていける。
そんな所だろう。
「迷惑じゃない。
だから、さっさとこんな仇討何て終わらせてアルトの所に行ってユリウスとコルネリウスの顔を見に行こう。
大きくなってるの楽しみだな」
「ですね」
なるべく考えないようにしている二人の子供の事を思い出す顔はいつも母親の顔だ。
幼すぎて親を自覚しない頃に数度しか抱いた姿しか見た事のない、別れが前提のそんな切ない光景を思い出してはもう一度、今度こそ母親だと名乗らせてあの二人を抱きしめさせてあげたい気持ちは俺だけではない。
仇討よりもその瞬間の為に俺はこの旅の続けていると言っても今は思っている。
フリュゲールを出てまだ数か月。
船旅の時みたいなぼんやりした顔は回数こそ減ったものの、ぼんやりとしている顔は今もたまにだがある。
もっとも、このくそ忙しさで紛らわせているって言うのが一番だが、それでも東の空を見る事を止められないルゥ姉は間違いなくあの二人の母親だと俺は胸を張って言える。
「じゃあ、そろそろクロームの所に行ってくるな」
「よろしくお願いします」
そんな簡単な見送りの言葉と共にドアを出れば駆け足で階段を下りる。
勢いよくドアを飛び出してクロームとクレイ、数人の騎士の皆さんと、畑を図面化しているセイジさんにそろって不思議そうな顔をされた。
何かあったのか?
そんな視線を向けられるも俺は笑みを浮かべ
「こっちの様子を見て来いってさ。
ったく、人使いが荒いよな」
空回りした明るさにクロームとセイジは眉をひそめるも、言葉通り受け取ったクレイは溜息を吐き
「それは今さらだろ?
人使いが上手いを通り越してるから、期待されたら応えなきゃいけないって思うよな」
「ああ、ぜってー人が出来る限界を超すまで使えるって事、ルゥ姉は知ってるんだよ」
「それに応えるディータも見事だけどね」
「悪いな、とばっちりが行って」
「気にしてないよ。
自分の限界を超えていく。
なんかかっこいいじゃないか」
「クレイは成長期か?」
「伸ばし時なので調子づけたいだけです」
なんせお年頃ですのでと言って笑うクレイは背筋をすっと伸ばして歩いて止まり手に持っていた棒を地面に刺して
「やっぱりこの歩き方は背中をぴんと伸ばさないとね」
彼の歩いてきた方向を見れば等間隔で棒が刺さっており、それを確認する様にクレイや騎士団の人が歩いている。
みんな同じ歩幅なのに感心していれば騎士団だけどクレイ達の歩き方が出来ない人達が訓練をしている。
「少しでも効率よく出来るようにみんなで練習してるんだ。
だってほら……」
そう言ってクレイが指を指した方向では『フレイムバード』を自分の物にしているエンバーとシアーが二人してどれだけ鳥を器用に多く飛ばせるかと競い合っていた。
一面に広がる焼け野原に皆さんのお仕事は無くなってしまって歩幅の訓練をするしかない状況になっていた。
「あの二人って、馬鹿だな」
「うん。なんていうかさ、馬鹿だよね」
シアーは器用にもフレイムバードを左右に飛ばしたり、エンバーは森から出て来た魔物を複数のフレイムバードで追いかけまわしている。
「これってこんな魔法だっけ?」
きっとシュネルにこれを見られたらものすごい勢いで髪を毟り取られるような気しかしなくて……
乾いた笑いしか出ない俺をクレイは不思議そうな顔で見ているだけだった。
くっくっくと喉を鳴らして笑うクロームに当時を知る者はうんうんと頷き、クレイのように城の庭に居なかった者達は物語を聞くように目をキラキラとさせて話の続きを待っていた。
「彼女の魔法の結果は見ての通り、王都周辺一帯の荒野はあの時の魔法1発で出来た物だ。
城から一夜馬で駆けても辿り着かないほどの広範囲の魔法に誰もが目を疑った。
植物、生き物がすべて焼け、更地になった荒野に遠い森から魔物達は姿を隠す場所がなくやってこなくなった。
ただ、翼をもつ魔物が運よく魔法を逃れて城へとやってきたものの、それすらガーネットの魔法で殲滅されてしまったが、あまりの圧倒すべき力に誰もが彼女に畏怖の念を抱いたさ」
喉を震わせて笑うクロームは冷めた紅茶を一口含んだのち、私はガーネットに言ったよと話を繋げる。
『なんでこんな事ができるのならこんな事態になる前に!
なぜもっと早く手を貸してくれなかったのか!』
と。
だけど彼女は胡乱な目をお私達に向けてこう返したんだ。
『女子供は魔物に見つからないように隠れてろって言ったのはどこの男だ?
魔物なんてすぐに全部片づけると言ったのはどこの騎士だ?
できもしない約束で民を縛ったのはどこの王の言葉だ?』
「言われて絶望したさ。
その時になって初めて言葉の重みと言うものを知った。
できない約束とあるはずもない希望を与えてきた王族としての自分の無力さに私は王位継承権を返上し、年の離れた弟を次期国王とすることで無意味な継承争いを避ける事しか私には王族としての務めが残ってない事を理解した」
と、そこで話を結べばどこからか緊張の解けたため息がちらほらと聞こえてきた。




