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類は友を呼ぶとは言うが、面倒なのが増えるのは勘弁してください。

朝もやが立つ、まだ陽が昇る時刻の前に俺達は出立となった。

見送るのはガーネットと雌黄の剣、紅緋の翼の面々。

遠くからこの騒がしさに流民の人達が行くならこの人達も全員連れて行ってと言うような縋る眼をしていたがそんな物スルーに決まっている。


「エンバー、この旅の話しを楽しみにしてるぞ」

「ガーネットも移動するならその時は連絡をくれ。

 方法は任せるから」


ガーネットとエンバーのやり取りの横で俺はルゥ姉の家を収納する瞬間を見ていた。

するりと、まるで背景だけを残して家を消しゴムで消すように一瞬にしてその姿が消えて行く。

何と言うか、相変わらずでたらめと言うか、非常識と言うか、理不尽と言えばいいのかよくわからないものの、無事収納してしまったルゥ姉はわざわざ見学する物でもないでしょうと言うようにまるで何もなかったかのように馬に乗る。

これを二度目に見た連中は目尻に涙を湛えて大笑いしていたが、これもやがてどこでも見れる光景になるんだろうなと、非常識が日常に変る日を想像してしまう。

頭の痛い懸案が増えたけど、別に俺に関わる事じゃないからいいかと視線を外せば巨大な胸が待ち構えていた。もとい、ガーネットだった。


「ディック、あたしとの約束覚えてるかい?」

「約束って、あの日の礼には礼でって言う奴?」

「ああそうだ。ちゃんと覚えてるな?」


満天の星空の下での約束。

狂った黄金のロンサールから正気を取り戻した時に交わした言葉。

幻想的なあの夜は忘れる事が出来ない夜の出来事で。


「何かあった時は何時でもどんな状態でもどこからでも呼べ。

 お前の願いを一つだけ聞いてやる。

 よく考えろよ?

 一つだけだ」


酷く真剣な視線に俺は一瞬気圧され言葉を失くすも


「願いはただ一つだ。

 この戦いの中で何が一番重要なのかよく考えるんだ」


それでも真剣に目と目を睨み合っての言葉は酷く重みがあり、俺の心の底まで深く突き刺す言葉となって記憶に刻みつく。


「さ、後は万全な体調を維持しな。

 15歳の日まではまだ時間はある。

 それまで会う事はないだろうから、次に会った時はどれだけいい男になってるか楽しみにしてるよ」


頭をポンポンと叩いた後シアーへと絡みに行く後姿を見送ればルゥ姉が隣に並び、惨い事にシアーの頭をおもむろに掴んだと思ったらその頭を胸の谷の合間に埋めて別れを惜しんでいた。

周囲の憐みの視線とシアーの絶望の声にやがて動かなくなっていくのを誰ともなく黙って視線を外す事になった。


「結局色々と教えてはくれませんでしたね」

「墓所の位置とか、ガーネットを呼ぶタイミングだとか。

 ここまで思わせぶりな事を言うのなら最後までちゃんと言えよって言いたいんだけど、そう言う事じゃないんだろうな」

 

きっと何かを感じ取って、その何かの為にロンサールの力を使えと言いたいのだろう。


「ブルトランを討ちハウオルティアを取り戻す。

 わかってはいるつもりでしたがそれが本当に正解なのかは実際この目で見て見ないと判らない事だらけなのでしょう。

 それにそれぐらいの事はお前達でやれ。

 他にどうしようもない懸案ならばロンサールが力になるという意味だと私は思いますが……」


そうなるとどこでロンサールの力を使えばいいのか判らなくなる。


「予測不能な事態の時にロンサールを使えって事でいいのかな?」

「精霊の力は人の想像も超える力なので、我々がどうしようにならなくなった時の保険でしょうか」

「でもロンサールだぞ?

 餌にしっぽ振るワンコみたいな状態の残念な精霊だぞ?」


言えばあの夜の飢餓に陥って制御不能状態までに魔力の空っぽになった精霊がなんの役に立つと言うのだろうか。

ルゥ姉も俺の言いたい事に気づいてか目を瞑って何かを考えるようにこめかみに手を添える。

本当に頼っていいのだろうかと。


「それについてはおいおい考えましょう。

 せっかく好きにしていいと言ってくださったのだからゆっくり考えましょう」

「誰も好きにしていいとは言ってないぞ……」


ルゥ姉の解釈に俺も頭が痛くなるが、この頃には既に準備が整っていたようで、出発を待つクロームに視線を促されて俺達も馬に乗る。


カヤは馬に乗れるらしく馬上の人となっていたが、リーナはシアーとタンデムする事になったらしい。

体重の軽いカヤと一緒に乗る予定だったらしいのだが、万が一の時を考えカヤに二人分は難しいだろうとのシアーの提案に承諾した後ルゥ姉は出発後の指示を出した。


「まず我々はこの山を抜けた先に在る村へと向かいます。

 ルートは私も何度か通った事がありますし皆さんもご存じでしょう。

 が、既に長い事使われてなかったために足元は不安定なのでゆっくりと進む事にします。

 昼過ぎには到着して今夜の拠点と周囲の確認をします。

 リーナが前に住んでいた村と言う事で到着までに大体の地形を確認しましょう。

 ここに残る方はキリクの指示に従ってください。

 キリクは何かあればガーネットに指示を。

 奇岩群との連絡係の方は終始キリクに報告を。

 ギルドが違うからと言う理由で情報の共有化の拒否は許されません。

 なるべく早くこちら側に逃げてきたロンサールの方々の受け入れをハウオルティア側に準備したいのですが、それはおいおいでよろしいでしょう。

 なんせ国を乗っ取った挙句暮して行けなくって逃げてきた方です。

 自業自得と言う事で畑でも耕す労働力として送り込んでいただければ結構です。

 家ぐらい自力で立てるように学ばせてからこちらに送ってください。

 それではガーネット、あとはエンバーのお母様の墓標の番をお願いします」

「ああ、それぐらい引き受けたよ。

 私の可愛い息子の総てだ。

 今いる奴らにも後から来る奴らにもエンバーの聖域は踏みにじらせないさ。

 だからエンバー」


何か続けて言葉を言おうとしたガーネットだが一度口を閉じてにんまりと笑みを浮かべる。


「何年かかっても構わないから、お前の目で見て来た事、耳で聞いた事、肌で感じた事をこの旅が終わったらお前の口で総て私に語っておくれ」


まるで母親が旅立つ息子にいつでも帰って来る時を楽しみにしているよと言うような慈しみを持っての言葉にエンバーは視線を少し彷徨わせるも


「無事帰ってきたらな」


それだけの短い返答にガーネットは声を立てて笑い


「さあいけ!

 後は任された。

 お前達こそ道を間違えるなよ!」

「当然!」


俺の返答にさらにガーネットはさらに笑い


「さあナンバー2、お前が道を切り開く先陣となって無事こいつらをブルトランの前に立てるようにお膳立てしてあげな」

「やれやら、とんだ大役だ」


その言葉を後に誰よりも早く馬を走らせてハウオルティアへと走り出した。

続く形で紅緋の翼が続き、雌黄の剣も追いかけて行く。


「では行っておいでハウオルティアの子よ」

「ああ、あんたも非常食大切にしろよ」


言えばガーネットは笑い、早く行けと追い払うしぐさに俺達は殿を務めるように走り出した。







元々道が出来て居た為に安定した走りが出来た。

整備不良な所がいくつもあったが、馬で走れない事もなく、もともと馬車も通っていた道だ。

広い道幅は木々の枝にさえぎられる事もなく明るく、でも頭上は枝に覆われているというトンネルの中を突き進む事になった。


「この道もいつかはちゃんと整備しなくてはいけませんね」

「整備が先か崩壊が先かどっちだと思う?」

「崩壊後でしたら整備する必要がないのでその時は道なんて必要なくなるでしょう」


思い浮かぶのはロンサールに向かう時のあの移動方法。

砂煙をあげ、馬車の振動に耐え、舌を咬まないように頑張ったあの時間。

今も目の前を走る馬達が巻き上げる砂ぼこりに辟易としているが、森の湿った空気と乾燥した砂漠とでは全く持って嫌悪感は違う。

方や全身砂まみれ、方や泥まみれ……

イーブンだねと乾いた笑みをこぼしてしまう為に誰ともなく無口になってしまう。


無言のまま長い事走っていたが、突然目の前が明るくなったと思えば景色が切り開かれた。

森が終わり草原が広がっている。

わずか半年と少し。

手入れの行き届いてない畑が視界いっぱいに広がり、焼け焦げて、雑草と蔦に覆われた廃屋がぽつんぽつんと寂しげに建っていた。

草原に入った所で全員一度足を止めて周囲を警戒しながら


「リーナ、村長の屋敷は何所でしたか?」


ルゥ姉の指示にリーナはひときわ大きな建物を指さす。


「あの建物だった所が村長の屋敷だった所です」


見る影もない廃墟。

既に長い事手入れされていないのが良く理解できる姿だった。


「では次の村に向かうまでの拠点にしましょう。

 周囲の見通しも良ければ、村長の屋敷跡なら拠点を作るにはちょうどいい平地があるはずです。

 雌黄の剣は昼食後に周囲の警戒を。

 紅緋の翼も昼食後にリーナより周囲の森の位置を聞いて偵察を」


言えば雌黄の剣は先行して魔物が居ないか、道は大丈夫かと馬を下りて剣で腰より高くなった草を薙ぎ払いながら進んでいく。


「まったく、そんなちまちました事を……」


横一列に並んで剣で草をかき分けて行くその軍隊仕様の行動にルゥ姉は溜息を零し


「貴方達も魔術を使えるなら効率よく、そしてぶっ倒れるまで魔力を使い果たして見なさい!」


クローム達に向かって訓練が必要ですね!と言い切ってから横一列の間に割り込み


『風よ走れ、総てを裂く刃となれ

 ウインドカッター』


真横に振り切った手から研ぎ澄まされた風が放たれて……


遥か遠い先の崖に当って爆発しているのを雌黄の剣の皆様も紅緋の翼の皆様も含めて無表情、無言で眺めていた。

リーナも固まって風の通り道の出来上がった剥げた場所を眺めていた。


「剣で切るなんて何日かけるつもりですか?

 魔術をたしなむ者ならば魔術で何とかしてごらんなさい。

 これも訓練の一環で向こうの崖まで先ほどのウインドカッターの練習です」


それが出来たらご飯ですよとカヤとリーナを連れて村長の家の跡地へと向かうルゥ姉を見送れば誰ともなくルゥ姉の呪文を唱えて草を刈り出す。


ドッゴーーーーッッッ!!!


「ノルマ達成」


早々に崖に一発当てたのはエンバーだった。

それを見て俺もとウインドカッターを飛ばすも残念ながら届かず……


「ちょっとこれ、難易度どうよ?」


初の成功者に誰となく耳を傾ければ


「ウインドカッターは魔術師として一番最初に覚える風の魔術だ。

 魔法と言うにも拙い、ただ集めた風を目標に向かって押し出すだけの術」


へー、と思わず声を出してしまえば


「魔法使いがこう言う基本位学んできただろ?」


何所かエンバーの冷たい視線に俺は首を横に振り


「ルゥ姉が基本から教えてくれるわけないだろ?

 本で読んで実践の繰り返しだよ」


しかもイメージを力説するイメージのごり押しと言う魔術も魔法もそれでいいのかと頭の痛くなる教本はフリュゲールの質の良い紙で俺の掴んだイメージを誰が読んでもイメージしやすいように書き直した。

悲しい事にそれを実践できる人材がフリュゲールに居なかったのが残念だったが、天才様に見せた所こういう感じかと何故か使えないのに読み込まれてしまい、俺に合っているのかと言うように論文形式で書かれた物の方が判りやすかったという屈辱を味わってきた。


「まあ、ルーティアの事だからお前に固定概念を植え付けたくなかったんだろうが、にしてもここで基本か……」


すぐ横でエンバーが厄介な事になったかと呟いて居たが反対側からクレイが


「飛距離は風の魔術を押し出す魔力の量で決まるから、その距離感の感覚を掴むのがちょっとコツが必要かな?」

「ってか、今までだいたいどんな感覚でやって来たんだよ」


呆れるエンバーに俺は昔を思い出す。

クラーケンを始めとした海の魔物とロンサールとか、あとあの胸糞悪いギルドの依頼の時とかを思い出し


「一撃一殺的な?」


だいたいどれも格上の余裕のない戦いばかり。

海では散々鍛えられたからギルドの依頼もある程度調節できたが、周囲の白い目に俺は今から反省するしかない状態に陥っていた。


「一撃一殺はまずいだろ。

 何時か大失敗するぞ」


エンバーの忠告に俺も思い出す。


「うん。

 前にルゥ姉に規模、範囲、威力、持続力をコントロールするために呪文って言葉で縛るって言ってた。

 大体いつも格上の相手ばっかりだったから全力一択だったからね」


注意されたのはシェムブレイバーを初めて放った時だったと思い出した。


「そういや、あの時はまだ魔法を学び始めたばかりで魔力何てまだ大したことなかったからな」


クレイも注意してくれたけど、大失敗と言うほどまではならなかったのだ。

なるほどとシアーは頷く。


「つまり、ブルトラン王の前に立つ前に完全なコントロールを学びなさいと言うのね。

 魔力も今ではそれなりに在るようだし、属性も全て使えるのでしたっけ。

 ルーティアが言ってたわ。

 随分と器用なんですってね?」

「褒められてる気がしないのは俺だけか?」


言えば周囲も笑う。


「とりあえずまずは全力で崖までぶつけてみなさい。

 気まぐれな風こそ取り扱いが難しい物だから、風を掴む頃には他の属性のコントロールは上達するでしょう」


そう言って周囲の連中にもウインドカッターを崖に向けて草刈りをしろと言う。

一発で成功する者もいれば、何度か調節して成功する者もいる。

かく言う俺も一発で成功したが……


「あのね、私は魔術のウインドカッターを使えって言ってるのに、何で魔法にレベルアップしてるのよ」

「いや、あれ?

 魔術と魔法の違いって何だっけ?

 っていうか……あれ?」

「無駄に魔力を込め過ぎてるのよ!

 あの紅蓮の魔女の弟子だけあるわね!

 ばかすか魔力ばっかり使ってね!」

「魔力のごり押しが師匠の教えなので」


キリッとした顔で言い訳したらそうだったわねと何故か納得されてしまうも


「だったら節約する事も私が教えてあげるわ!」

「じゃあ、ご飯食べたら……」

「ご飯食べる前に魔術で崖ドン出来たらね!」


壁ドンではなく崖ドンですか。

どんなドンですか?と思うも下手に突っ込まない方が身の為だろう。

なんせルゥ姉のご友人だ。

へそ曲げたらものすごく厄介になりそうって言うか、既になってるし……

瞬く間に皆さん逃げるようにクリアしてご飯を食べに行くのを後姿を無言で見送り、意外にもスパルタな元聖女様に夕方までみっちりと教え込まれるのだった。







 雌黄の剣のアジトは町外れにあり、とにかく敷地面積が広かった。

 そして建物もデカかった。

 初めてではないものの思わず見上げながら


「いつ見ても思うんだが城みたいだな」


 言えばクロームは機嫌よく笑い


「城の方が何倍も豪華だ。

 かつてここは外壁の城塞として使われていたんだが5年前の戦いで城塞としての機能が無くなりただの城壁となったから我々が住み着く事にしたのだ」

「住み着く?」


 聞き直せばなんとこの壁の中にギルドメンバーが寝起きし生活していると言う。

 それならこれだけ大きな城壁を持て余さないだろうなと納得してればさらにでこぼこの壁をクロームは指を差し、本当ならここにはこの壁よりさらに高い壁があったと言う。

 崩壊後の王都しか知らない俺はホントかよと半信半疑で案内されるまま門の中に入れば壁と壁の間に大きな庭があり、既に出立の準備が整っていると言うように馬と50人ほどの雌黄の剣のギルドメンバーがそろっていた。

 俺とクロームが現れた事にその視線がすべて集まるが


「なんか数多くね?」

「有志を募ったらこの数になったのだが……やっぱり多いか?」

「多い。

 これじゃ、魔物に見つけてくれ、襲ってくれって言ってるものだぞ」


 思わず呆れてしまえばクロームはすまんと前置きをし


「今日集まったメンバーは5年前の戦いで王都に残った者達が主なメンバーだ」

「まあ、聞いた話だと王都から出た奴らは軒並み死んでいったんだってな」


 ギルドマスターとの会話に耳を傾け剣呑とした表情を作る雌黄の剣に俺は知らん顔をする。


「どうすればいいだろうか?」


 これでも大分絞ったんだと言って困った顔をする元王子様に


「とりあえず今回の任務はAランク以上で編成しなおしてくれ」


 言えばざわりと空気が揺らめく。

 その雰囲気にクロームは顔を少し歪め


「それは重要な事なのか?」

「俺の他に護衛は他にいるのか?」


 質問を質問で返すのもあれだが聞けばクロームの顔はどこか苦しそうで


「国境に近い所までは予算が合わなくてな」


 誰もが行きたがらない王都から遠く離れた場所。

 王都周辺は5年前の戦いで見渡す限りの焼け野原となった。

 遠くに見える森からが魔物の住処。

 入口はまだ低級の魔物ばかりだが奥に向かえば奥に向かうほど魔物は強くなり、森を抜けた隣国は戦争中の為に魔物すら寄り付かない場所になっていた。

 荒れ果てたかつての村には今では人の代わりに魔物が住み、目的の村の数少ない住人達は今では生活の質を落しこの王都で保護、もしくは隣国ハウオルティアで何の保証もないまま保護されている。


「つまり俺一人だろ?いくらなんでも限度がある。

 20名程度に絞ってほしい」


 ざわりとさざめくような反論にクロームも板挟みとなり苦しい顔をしていれば


「貴様は一体何者のつもりだ!我らが雌黄の剣の決定に文句があるというのか!」


 歳は俺と同じ頃。

 クロームと同じ金の髪の線の細い女の子だった。

 華やかな装飾が施された剣を腰に佩き、軽装備ともいえる出で立ちで今回の任務に着いて来るつもりだろうか。 

 どこに遊びに行くのかと少し悩んで溜息をこぼす。

 雌黄の剣のギルドメンバーに向かって


「俺は紅緋の翼から派遣されたエンバー・ラストだ。

 今回の任務の護衛を請け負った。

 ここで生きて帰れる可能性を少しでも高める為に提案させてもらう。

 メンバーは俺を抜いてAランク以上の20名以内に。

 回復要因はいらない。

 Aランクなら自分で回復ぐらい何とかできるだろうから戦闘要員のみで構成だ。

 片道10日の日程の為女性は外れてもらう。

 差別と思わないでほしい。

 15日間は森の中で野宿となる。

 どんな規律にのっとった清廉な強者でも緊張の中では過ちを起こすものだと思って欲しい。

 以上だ」


 言えばそれこそ顔を真っ赤にした真っ先に反論した女の子はお前に指図されるいわれはないとさらなる憤怒の形相になるが


「了解した」

「出来ればあらかじめ5名ずつのグループ分けをしてほしい」

「今より班編成をする」

「ちょっと待って伯父上!本当にこんな奴の言う事を聞くのですか?!」


 伯父?

 道理で同じ明るい金の髪だと思った。


「だがなイングリット。

 折角ガーネットが貴重なSSクラスのギルドメンバーを破格な契約料で貸してくれたのだ。

 その彼が我々が生きて帰る為に提案してくれている。

 今の王都の外を知らない我々より王都の外にいる方が多い彼らの言う事は絶対の信頼がある」


 その一言にざわついていた空気は収まりクロームは一人の線の細い男を連れてギルドメンバーと向き合って名前を呼び上げて瞬く間に5名1チームに編成してくれた。

 その間俺はいたたまれないくらいイングリットに睨まれ続けたのだが……

 この気の短い彼女が王族の一員だとすればこの国の未来が不安になる。

 それはさておき、5分もしないうちにクロームは作業を終えて入って来たばかりの門を出る事になった。

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