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些細な事で構成された物をそう言うのだろう

拍手、評価ありがとうございます。

後書きのおまけは本編の半年前の出来事の話しになります。

既に何話か続いてますが、備考程度にお楽しみください。

「私もご一緒させてください」


最初の一言に誰もがポカンとリーナの顔を眺めるだけなので、聞いてもらえなかったのかと思ったのか、もう一度強くはっきりと言った言葉に俺達はやっと我を取り戻し


「戦うのはリーナの父親だぞ?

 連れて行くわけには……」

「名前すら覚えてもらってない人を父親と私は思いません」


俺の言葉をリーナはバッサリと切り捨ててしまった。


「だけど、女の子を戦場に連れて行くなんて……」

「ルーティア様もシアー様もカヤ様も私とは比べようもないほど素敵な女性です」


クレイの言葉もバッサリ切り捨ててしまう。


「とはいえ、実際殺し合うような戦いなんて出来ないだろう?」

「戦いとは相手と戦う事が総てではありません。

 戦いと戦いの合間の休憩の過ごさせ方や相手の様子を調べたり、今回は市街戦になります。相手陣地に紛れ込んでの情報操作も必要でしょう」


エンバーの言葉もかつて仕入れた教育の前に切り落とされてしまった。


「ですが、万が一我々の中に不穏な空気が流れた時真っ先に疑われるのは貴方ですよ?」

「すでに一度は捨てられた命です。

 貴方方に拾われたこの命、邪魔とあればいつでも捨てて行ってください」


シアーの言葉さえバッサリと切り捨てられてしまう。


「判りました。

 そこまでの決意があるのなら私の言葉を絶対とし、返事は総て『はい』もしくはそれに準じる言葉で返事をするように」

「は……」

「それはちょっと待て」


リーナが返事をする前に俺が割り込む。

何ですか?と言うように視線を俺に向けるルゥ姉にクロームなんかどこかほっとしたように息を吐き出している。


「何でそんな奴隷みたいな扱いを約束させるんだよ」


白い目を向けるもルゥ姉はカヤにお茶のお替りを要求したのちに


「何をおかしな事言っているのです?

 リーナは既にグレゴール家の忠実なる下僕として契約を果たしております。

 下僕が自らの命を顧みずついて来ると言う忠誠心を私は再度確認したまでですが何か疑問が?」


有無を言わさない声に顔を顰めてしまう。

きっとこれがどんな場所でもついて行くしかない今のリーナの身の上なのだろう。


「私こそ貴方に聞きたいのですが、何をそこまでリーナをただの弱い娘と決めつけているのです?

 彼女はその年齢では考え付かないほどの苦労をしてきました。

 王族と言うのに爪も割れ、指先もひび割れ、娘と言うのに長い事櫛さえ通さずに結わえただけの髪、こんな何もない場所での生活に泥水さえ啜ってきたでしょう。

 彼女は生きると言う言葉を貴方よりもよく知っています。

 あの方に話せば甘いなんて言われるかもしれませんが……

 その彼女に支えられながら進む戦いにこれ以上の心強い仲間はいないでしょう。

 ごらんなさい。

 私達に付いて行くと言った顔ぶれを」


エンバー、シアー、クレイ、クローム、セイジ、カヤの面々を見る俺に


「この中に癒し系の人物が一人でもいますか?」

「おい!」


エンバーがつっこむも聞こえちゃいないと言うようにスルーして


「誰がどう見ても戦闘馬鹿が顔を並べてる以外見えないでしょう!」

「ルーティア様、それはカヤも含まれているのでしょうか?」

「戦う方法を知ってるなら当然でしょう」


と言って頷くルゥ姉に戦闘馬鹿グループに分けられたとカヤは涙を流す。


「それに私は男の淹れたまずい茶など飲みたくはありません」

「申し訳ありません。さすがに私も専門ではないので……」

「ええ、あの程度で元とは言え王族に茶を出すなど言語道断ですね」


何もそこまできっぱりと言わなくてもと言った言葉にセイジは大人なのでそっと顔を背けるも目尻にはキラリと涙を溜めていた。

おっさんなので無視しておこう。


「つまり、ルゥ姉は戦闘中とはいえその合間と合間にはちゃんとリラックスできる時間と空間が提供できる人材が必要だと?」

「当然です」


そう言ってゆっくりと面々を見ながら


「何度も戦場に立った者なら判るでしょう。

 言葉を交わす事のない魔物と戦った事しかない者には経験がないでしょう。

 私は戦いにおいてもっとも戦いたくない相手は人間だと断言します。

 知人友人血縁見知った顔を殺さなくてはいけません。

 私達の知らない所で身に覚えの無い悪意を広められる事もしょっちゅうです。

 その中で我々に自分を取り戻す時間は戦いと戦いの合間にしかありません。

 戦いと戦いの間の殺気立ったわずかな時間を有意義に過ごす為にもリーナのような無力でも懸命に立って尽す事の出来る人間が居なければ我々の心はすぐに折れるでしょう」

「折れる?

 たった一つだけの誰でも間違える事のない目的があるのに?」


クレイが眉間を寄せて問えば、ルゥ姉はクレイをまっすぐ見て


「人はね、結局最後は守る何かが無ければ強くあれないのです。

 ただ自分の力を誇示したいだけなら人を殺さねばならない旅路に付いて来る事は出来ません。

 貴方だってそうでしょ?」


何がとは言わない。

だけどクレイはただ母親の為をもってこの数年を生きてきたのだ。

酷いトラウマを植え付けられても道を誤らなかったのはただ一人の母の為に歩いてきた道。

ギュッと唇をかんで俯くクレイから視線を外し


「戦う力もないのに、私達の戦いの力になってくれるリーナこそ今の私達に一番必要な存在。

 無力なリーナが戦地まで一緒に来てくれるだけで私達は負けてはいけないと心を鼓舞してくれます」


それからゆっくりと俺を見て


「これが私がリーナを必要とする意見です。

 何か問題でも?」


改めて問われた言葉にこの安全の地で待っていて欲しいなんて陳腐な何の力もない言葉でルゥ姉を説得なんてとてもできない俺はもう問題ないと頭を振るしかない。


「ではクローム。

 後は貴方の連れて来たい人と選びなさい。

 明日の朝には出発します」


そう一言残してルゥ姉は部屋へ行ってしまった。

静かに、まだ誰も口を開く事が出来ない中ガーネットが立ち上がり


「シアー、お前はあのお嬢ちゃんと少しおしゃべりをしておいで。

 紅緋の翼はあっち家の手入れと、同規模の物をもう一つ拠点を作ろうか。

 雌黄の剣の奴ら用のアジトを用意してあげな。

 うちからはシアーとエンバーを出せば十分だ。

 残りの奴らは巨石群のアジトとの連絡とこの集落の警備に当れ」


顎で指示を出せば思わぬ評価に顔を青くしていたリーナにここに来る途中に捕まえた鳥を手渡して何でもいいから食べさせろと、ここは食事をする所じゃないんだと言いたい所だが、今のリーナには何か作業している方がいいだろうと台所へと向かう姿を見送るだけ。


「クロームの所はどうするんだい?」

「セイジに采配を任す事にします。

 私がすると不公平になるだけなので」


やれやれと言うようにガーネットと同じテーブルに着いた姿の後ろではすでにセイジにより采配された進軍チームの顔の明るさと、連絡係兼後方支援チームに分けられた落ち込みぶりの顔ぶれにガーネットは笑う。


「大体私の考えとセイジの考えは一緒だったねぇ」

「だったら良いのですが」


苦笑するクロームに


「人数合わせの数人はどっちでもいいのが入れ替わってるだけで、主要メンバーの選択はあたしも同意見だよ」


更に苦笑。


「実際側に居る奴の考えの方が見えている場合もあるし、遠くから見てる場合の方がよく見えてる事もあるが……この件についてはどっちでもいいって言う顔ぶれだからまずまずの合格点と言ってもいいだろう」

「ありがとうございます」


ぺこりと頭を下げるクローム達の席にクレイもエンバーも一緒の席に着く。

すかさずカヤがお茶と茶菓子をふるまう中、背後の明暗を分けた男共は紅緋の翼の面々によって拠点づくりへと駆り出されるのだった。


静かになった室内、台所にいるリーナの様子を見に覗きに行けば、食堂から見えない場所で鳥を横に置いて涙を流していた。


「リーナ、おい、大丈夫か?!」


目を真っ赤にして目をこすったのか目元も腫れたその顔にそっと手を側に置いて、その目元の腫れを消そうといつもの呪文を唱える。


『いたいのいたいのとんでゆけ』


小さな声で、辛うじてリーナの耳に届くような静かな声に、多分治癒魔法をかけられているとは思っても居ないだろう。

だけど、年下の男の子に心配されたのが恥ずかしいのかすぐに大丈夫ですからと言って顔を背けられてしまうも、それだけでは恥ずかしさは隠しきれていない。

ほんのりと淡く色づく耳に何故か俺も恥ずかしくなってしまうが


「おかしいですね。

 本当なら父を弑す何て決意、恐ろしくて震えてなくてはならないのに、まったくそれが悪い事だとは思えないんです」


床に座り、膝を抱えるリーナとの間に鳥を挟み俺も同じように座る。

どこからかシルバーがやってきて心配そうにリーナの顔を覗き込んでいた。



「父の下に生まれ、あの国ではとても恵まれた環境に居たはずなのに、名も覚えてもらえず、捨てられて、こんな遠くの地まで流れ着いたというのに、憎いなんて思ってないんです。

 国民を顧みず、愛した方の為に妻達娘達を道具とし、国が傾こうが一向に建て直そうともしない愚王と他人のように感じてるのです」


好きの反対は嫌いではなく、そんな言葉をふと思い出したが、もう赤の他人と成り果てた関係では興味どころか関心のない状況まで成り下がっていた。


「申し訳ありません。

 ディック様にお聞かせするお話ではないですね」

「それは、多分俺も知らないといけない話なんだよ。

 リーナの父親が愛した人は俺の母上なんだ。

 母上は一目ぼれした父上に、王女としての役目を放棄して強硬手段に出たんだ。

 ルゥ姉が言うには第一候補はブルトランの王の子になるはずだったって言ってた」


驚いて息を飲む音が横に聞こえた。

見開く瞳が戸惑い、迷い、怒りさえ隠せずにいたが


「俺を身ごもった時にリーナの父親と何かあったらしい。

 決定的な何かだ。

 俺が生まれる事によって、二つの国が潰れようとしている……」


「そんな……」


この事はさすがに知らなかったようで、リーナの戸惑う声に俺は心配ないよと言う事は出来ない。

だって今その為に俺達は一国を相手とする力を求めているのだから。


「共倒れを防ぐためにもどちらかの国が残らないといけない。

 どっちが残っても精霊の加護の無い苦しい時代がやってくる。

 このロンサールのように、ガーランドのように。

 それから立て直すなんて孫、ひ孫の代までかかるだろう。

 俺は何とかしてブルトラン王を討ち、荒れ果てた国を纏め、この生涯を国に尽くさなくてはいけない。

 今更だけど恨みも買うだろうし、何度も殺される事にもなるだろう。

 だけどだ。

 この体には精霊ハウオルティアとの契約した一族の血が流れている。

 この血だけは何としても守り受け継いで行かないといけないんだ」


じっと俺を見つめる視線から逃れるように、リーナの顔を覗き込んでいるシルバーを捕まえて抱き寄せて、陽だまりの様な匂いと獣の匂いが交わる毛並みに顔をうずめて


「俺は国に戦争を起こして国を滅ぼす存在なんだ。

 だけど、まだ死にたくないし、生きろって言ってくれる人もいる。

 うん。俺はまだ生きたいから、生きる為にリーナの父親も殺さなくてはいけない。

 恨んでいいよ。

 だけど俺だってまだこの世界をもっと知りたいし、もっと見たいんだ。

 あのハウオルティアの屋敷で過ごしていた時みたいに何も知らず何も聞かされず何も見る事もなく、ただ人形のように育てられて生きるだけの一生は嫌なんだ。

 どんなに恨まれても、どんなに蔑まされても、それすら俺の眼で見て、耳で聞いて、全身で受け止めなくちゃいけないんだ」


俺の生きるべき道を語れば、まるでリーナの生きる道のように涙をぽろぽろと流し、顔を青くしている彼女に笑いかける。


「俺の為に泣いてくれてありがとう。

 俺はもうその選択もしたし、付いて来てくれる馬鹿な奴らも居る。

 一人じゃないし、遠くから応援してくれる連中もいる。

 もう止まる事は出来ないんだ。

 成功の確率すらない旅に希望を持ってる奴らがいる以上俺は……」


全力で生きないとな


そう言って立ち上がり、シルバーを持ち上げるようにして体を伸ばす。

旅が始まって落ち着いてからずっと考えて来た事。

たった二人からの旅は出会った人の分だけ選択肢が増え、考える事もそれだけ増えた。

悶々とした思考はいつの間にか未来を想像し、いつの間にかそこにはすぐ隣にいるリーナも加わっていた。


「無事戦いが終わったらリーナは何をしてみたい?」


ふとついた言葉にリーナは思考を切り替える為に何度かパチパチと瞬きをして少しだけ考えて


「そうですね。

 どこかで畑を耕しながら子供達に文字や計算を教えてあげたいです」


それはハウオルティアに来てからロンサールに逃げる間のひと時の時間。

彼女の幸せはきっとそこで生まれたのだろう。


「もし戦いに勝ったらその夢を叶えよう」


約束だと言えば


「ディック様の夢は?」


キョトンとした顔。

すぐに難しい顔になるも


「やる事がいっぱいだし夢なんて語る暇なんてあるかな?」

「夢なんです。

 簡単に叶わないから夢を見るのです」


思わぬ正論に俺は思わず笑い声をあげてしまう。

何かおかしなことを言ったのかと慌てふためいて顔を赤らめるリーナだったが


「そうだな。

 もし夢が叶うなら、どこかの田舎でのんびりと過ごしたいな。

 ほら、なんだかんだ言ってここ数年毎日を駆け足で過ごしてきたから、ゆっくり歩いて花が咲くのを眺めたり、のんびり風呂に浸かるのもわるくないしな」


この世界の不便さを解消するために研究と発明するのも悪くない。

異世界の無駄知識を持ち込み赤い髪の少年を楽しませるのも面白い。

出会ってからどんどん綺麗になって行く彼女をますます磨きをかけさせるのも眼福だ。

お兄ちゃんと駆け寄ってくる小さな血縁の無い甥っ子の悩みも一つぐらい聞いて一緒に頭を悩ましたい。


「何だ。俺の夢って結構些細な事で構成されているな」

「でしたら、全部叶うと良いですね」


俺の夢が何かなんて知らないだろう、総て叶えれば楽しいですねと笑みを浮かべるリーナに、さすがに全部は無理だよと何とも言えない気恥ずかしさに苦笑して誤魔化してしまう。


「さあ、ガーネット所望の鳥料理をそろそろ手を付けようか」


シルバーを頭の上において鳥を手に取りその羽を毟り取る。


「あ、あの私が……」

「鳥は俺が捌くよ。ラン兄に捌き方をみっちり仕込まれたんだ」


ユキトのじいさんにも何度も手伝わされたし、お手の物だ。


「リーナは鍋に湯を沸かして添える物を作ってよ」

「ですが……」

「たまには俺も料理したいしな」

「はあ……」


瞬く間に羽を毟り、ナイフで綺麗に臓物を取り出す。

絞めたばかりだったらレバーペーストでも作ろうと思ったが、どれだけ時間が経ってるかわからない以上シルバーのメシにするのが最善だ。

変な寄生虫がいるかもしれないからさっと魔法で火を通してシルバーの口の前に持って行けばぱくりと食べてしまう。

俺の頭の上で。

嬉しいのか美味いのかわからないが、パタパタとリズム良く背中を叩く心地よさに味見は終わりだと言い聞かせてる。


「所で何を作るのです?」


それが判らなければ添え物も何を作ればいいかわからないと言った所か。


「そうだな……

 せっかくの鶏肉だしフライドチキンにしようか」

「ふらいどちきん?」


何それ?と言うように小首かしげるリーナに俺は笑う。


「まぁ、楽しみにしててよ」


添え物は肉料理の定番の物で良いよと指示を出して、昔ばあちゃんがよく作ってくれたなんちゃってケン〇ッ〇ー・フライド・チキン風な物を俺は披露する事にした。

 


                

 








 そういえばと隣を歩く男を視界の端でとらえて思う。

 噂を聞いた事はあるしすれ違った事も集会で顔を合わせた事も何度もあるのにこうして一緒に行動した覚えはない。

 雌黄の剣は警邏を中心とした、本来騎士団がするような王都の警備にあたっているギルドだ。

 なんせ、騎士団は日々国の整備に追われていて警備所ではないのだから。

 要所要所には騎士団が立つものの、細やかな治安を守るには完全に人手不足。

 その点を元王族出身のクロームが退役兵を中心に始めたギルドが補い、ギルドと騎士団の橋渡し役までしてくれるようになっていた。

 ちらりと背の高い男を見上げればクロームは俺の視線に気づいて視線を返す。


「何か買い物でも?」

「あー……そういや詳しい事聞いてなかったけど期間と報酬は?」


 男の様子をうかがうだけに見ていたとは言いづらく、ガーネットの説明不足を補うように聞けば


「まずは先払いで30,000ギル。これは支度金と思ってくれていい。

 期間は往復に10日ずつ、回収作業に何日か…最大30日と考えてもらえばいい。

 無事帰還した時に内容にかかわらず50,0000ギルを用意する」

「ずいぶんと奮発するな」

「まぁ、それだけ危険だという事だ」


 1日1,000ギルもあればお釣りが返ってくるこのロンサールではいかに高額な依頼か嫌でも判ってしまう。

 言って懐から取り出した袋を俺の目の前に差し出し


「手短に準備を頼む」


 言えば目の前には旅人が愛用する雑貨屋があった。


「雌黄の剣御用達の雑貨屋だ。多少の融通は利くぞ」


 にやりと笑うクロームに俺も笑う。

 しっかり庶民に溶け込んでるじゃないか王子様と感心さえして買い物をする事にした。


 おかげで家には旅用のカバンを取りに帰るだけになった。

 小さな食堂の屋根裏部屋が俺のアジトだ。

 クロームはそれを面白そうに眺めて俺の準備を待っていた。

 ベットと簡単な家具しかない家だが、ほとんどがギルドの依頼で家にいないのだからこれぐらいがちょうどいい。

 初めて俺の家に入った時にはクロームが何か言いたそうだったがあえては口にしなかった。

 たぶん『何もないな』とでも言いたかったのだろう。

 その点は俺も大いに頷く所だ。

 なんせこの部屋の家具だって大家のお古なのだから俺の物は本当に着る物と身の回りの物しかないのだから。

 なんでかガーネットからもらった本だけが枕元に一冊に在るが、既に劣化を初めていておっかなくて触らないようにしている。

 ろくに文字は読めないが、物語は何度も語ってもらって頭に入っているこの国の成り立ちの物語だ。

 それに気づいてか微笑ましそうな視線をクロームは俺に向けて来るが、知った事じゃねえと気付かないふりをする。

 腰に剣を刺してない鞘の付いたベルトだけを巻き、魔物から切り出した皮の袋に先ほど買った薬や携帯食などを手早く詰め込んでいく。


「慣れているのだな」


 ふいにクロームが声をかけてきた。


「まあな。討伐の時は帰り道は私物は袋ぐらいしかない事ばっかりだからな」


 魔物討伐の任務がどれだけ失う事だらけかと言えば彼は小さく頷く。


「だが、今回は回収が目的だ」

「それは雌黄の剣の目的であって、俺には関係ない」


 鞄の口をぎゅっと結んで頭一つ高いクロームを見上げれば彼は眉間に皺を寄せるも


「ああ、そうだな」


 どこか納得しない顔だが自分の都合のよさばかりを指摘され、無理やり当然だと納得したと言うような返事をした。

 そんな短い会話のやり取りの後に大家のおばちゃんに一声かけて雌黄の剣のアジトでもあるギルド本部へと向かった。

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