切実に専門家が欲しいと願っております。
カヤとリーナが出してくれた茶を飲みながら三大義務について話をするも、労働と納税はセットでも教育は難しいのでは?もっと安定してからでもいいのでは?と言われるが、最初にこれをおろそかにすると後に続かない。
お金のない子が、そして女の子がと、この世界でも弱者が損をする事になり、女の子はただ結婚の道具となり、子供を産むための存在価値となる。
でも俺は知っている。
女の人だって教養があれば男の人並みに稼げる仕事にありつける事を。
男女平等という当たり前の事がまだまだ難しいこの世界で、第一の目標はフリュゲール並みになる事としている。
さすがにちょっと目標高すぎるけど、既にフリュゲールはそうなっている。
一気に高みを目指せば問題は発生するが、いつかわと考えればやりがいがあるってものだ。
だけど、そんな国作りなんて専門知識のない俺の夢を一人で再度確認している間に周囲は現実的に国土の様子に移り変わっていて生産の話しに変っていた。
主要農作物の麦について。
生産量が減っているのは戦争ばかりしていたからではない。
国民が追い出され、麦の育て方を知らないブルトランによって壊滅的な状況になって放置されている現状に誰もが溜息を落していた。
「それだけハウオルティアは国として放置されているって事だ。
畑だって何年も手入れしてなかったら、まともな畑になるのに最低三年はかかる。
川だってちゃんと砂底をあさらないと川としての機能も……話を聞いている限り無くなっているようだしね。
川がないと魚も取れない、畑に必要な水も得る事が出来ない、人の口にだって入らない。
そうなるとまともに暮らせるようになるのは何年かかるかって話だ」
この中で畑仕事に唯一従事していたリーナに向かって言えばその通りと力強く頷いてくれた。
「国自体は豊かになる。
だけどこう言った所は精霊様のあずかり知らぬ所だ。
人の生活は人が支える。
これを忘れて精霊様頼みにすれば、すぐにブルトランのようになる」
結果、精霊は弱り、鉱脈は枯渇。
豊かな資源に頼った為に金に物を言わせて嫁がせた娘達は嫁ぎ先で援助の打ち切りのせいで随分肩身の狭い思いをしているとかの国の情報部の報告にやっぱりそうなったかと思わずにはいられなかった。
国の貧困具合を他国に渡った事で理解できたリーナは悔しそうに唇を噛みしめ、でも目を背けないと言うように小さく頷いた勇気は彼女本来の王女としての教育のたまものだろう。
誰ともなく俺の計画を耳にして何やらと小声で話をしてる一同を見回し
「何事も順番と言う物があるって言った、これが俺の順番だ。
ブルトランからハウオルティアを奪い、地図上はともかくブルトランの地を実行支配する。
次にさっき言った国作りを実行して、ロンサールの人達を受け入れる。
女王達には悪いが国に残ってもらおう。
ハウオルティアにロンサールの王族は必要ないから。
10年。
それだけあればロンサールは何もなくなるだろう。
厳しいかもしれないがそれから祭壇を探す。
もっと早く見つければそれでいいが……
10年あれば女王もクラナッハも、新しく生まれるだろう子供達ももう意味のない存在になる。
残酷だけど悪く思わないでくれ」
言ってクロームとクレイに向かって謝罪する。
「あの親子だけは俺は受け入れる事が出来ない。
女王には……王と名乗る以上最後の務めとして最後を見届けてもらう義務だと思って欲しい。
嫌なら……このまま黙って去って行ってほしい」
返答に困る二人がもたらす重苦しい沈黙が室内を支配するも何だか外が騒がしくなっていた。
ちょうどいいタイミングとしてガーネットもいるタイミングでこれからの俺達の方針を聞いてもらったのだが、ガーネットは難しい顔をして口を挟まず、自分の国の行方を考えているようだったが、それもこの騒ぎで中断された。
「一体なんです?」
ルゥ姉が空気を入れ替えるように大きく窓を広げて外へと体を傾ければ、暫くもしないうちに賑やかな原因が姿を現した。
そこには紅緋の翼のマントを纏った三人の男を筆頭に雌黄の剣のメンバーが10人ほど揃っていた。
「一体何なんだいこの騒動は?」
ガーネットがロビーの扉を大きく広げて、よほど急いできたのか、馬を下りた途端崩れ落ちる人物に目を止める。
「セイジじゃないか。
王都の留守番組がどうしたって言うんだい?」
あまり馬には乗り慣れていないのか、止まった途端馬から転げ落ち、四つん這いになりながらもクロームの前まで這ってきて
「早急にご報告があります。
王都は陥落いたしました」
誰もが息を飲んだ。
見捨てる計画は出来ていたが、まさか先に王都が陥落するとは思ってなかった。
「誰が?何で?母上達は?」
クロームの矢継ぎ早の質問にセイジにとりあえず水を飲まして椅子よりも今は床の方がいいだろう。
立ち上がれなくて、でも寝そべってる状態は失礼すぎると何とか膝を着こうにも腰が抜けていて仕方がなく床に座ってクロームへと報告をする。
後から来たギルドの人達も水を飲みながら体を休めていて、この人達に話はいいだろうと彼らはほっといてセイジの声に耳を傾けた。
「暴動はクローム様が出立した直後に起きました。
もともと王族に対する暴動の準備は出来てたのでしょう。
そう言った噂は耳にしてましたから……」
ロンサールに来た時に出会った人達の顔を思い出す。
そこまで追い詰められてたのかと何もしてやれなかった後悔が沸き起こるもそれは俺の義務じゃない。
ただの思い上がりだ、偽善だと後悔を打ち消してセイジの言葉に集中する。
「ガーネット様が留守で、エンバー様も留守。
市井に降りたクローム様とクレイ様も留守と言う機会を伺っていたようで、ほぼ戦力のない城壁内と判断した南城壁街の住人達が一気に押し寄せました。
数は、管理が出来てませんでした。
いつの間にか城壁内よりも人数が多くなり、最近女子供が少なくなっていたのは気付いてましたが、別所で鍛えた男達がまぎれ込んでいて、城壁内の人間だけでは対応が出来ず……
私はクローム様に指示を仰げと紅緋の翼の面々と共にガーネット様に報告も兼ねて一緒に連れ立っていただきました。
その交渉をしている途中に城から火が昇りました。
すぐに人づてで女王を殺した、クラナッハ王子を殺したと……
今なら城の女達をと、恐ろしい言葉が次々に耳に入ってきました。
急遽城内に潜り込んでもらった紅緋の翼の方々が戻ってきて見てきた話では、エルミーラ王女も、イングリット様もそのお母様もすでに自害なされた後でした」
「母上……が……」
「セイジ!騎士団は何をしていた!」
「城壁内にしかいなかった騎士団に城壁の外で力をつけた者達にどうやって勝てると思ってるんだい?」
ガーネットの当然と言った言葉に誰もが言葉を見つけられなかった
目を離した隙に起きた惨劇にガーネットはどうするべきかと考え込んでしまった。
それもそうだ。
初めて心を許し、愛した者の末裔の最後が暴動の惨殺ではやりきれない。
沈痛な空気が室内を支配し、セイジとしてはこれからの事を指示が欲しい所なのだろう。
だけどその前にだ。
「城壁内の人はどうなってるの?」
俺の声に誰もがはっと顔を上げる。
肉親の死、親族の死、王子と呼ばれ過ごした城の崩壊。
そして城内に務める達の聞くに堪えない末路。
あまりにもショックの出来事にその周囲まで気配りが出来ないようだった。
「紅緋の翼はガーネットと合流しやすいように西の奇岩の拠点に全員移動する話になってる。
集まったらこっちに来るようにしてある」
「雌黄の剣の動けない方達は戦闘は放棄していつも通りの仕事をするように言ってきました。
クローム様とクレイ様には安全の為に当分戻す事は出来ないので、見捨てられたとおもわずに何とか生きるように言ってあります」
一緒に来た元騎士の人達がセイジの代弁をする。
「勝手な事を言って申し訳ありません。
ですが、残してきた者達はみなあの砂漠の移動に耐える事の出来ない者ばかり。
馬の数も足りなく、食料も水も人数分もなく、不憫な体でこの荒野を歩いて渡れとは言えませんでした」
仕方がないと言う言葉に、せめて悪い待遇にならないようにと願うしかない。
「他の者は?」
「一部は城に、女王を救出しに行きましたが……」
「……」
無言の返答の意味する所はその後の消息はつかめてないと言う所だろう。
「それよりもクロームが出立してすぐなのに、よくこんな早くつけたな」
エンバーの意見に紅緋と翼の面々が顔を顰め
「なんか、やたらと馬でさえ走りやすい道が出来ていたので……」
誰の仕業と言うのを今更問わない彼らの心労に心の中からお疲れさまとだけ言っておいた。
王都陥落の知らせを聞いて3日。
宝玉の収穫もないまま紅緋の翼と雌黄の剣の脱出組がついに揃った。
総勢50名を超える集団に、流民の連中はびくびくとしていた。
ガーネットがかけた呪いにこの場を離れたら2度と戻って来れなくなるというわけのわからない呪いのせいで落とし穴からすこし待遇をよくしようと作ったのは竹のような……竹みたいな竹そのものの植物がこの世界にもあったんだねと言うまごう事なき竹を細く割り、紐でマス目上に組んだものを地面にたてて、マス目を埋めるように泥に植物を混ぜ込み作り上げたユキトの世界でも数十年前にはよく見かけた土壁で出来た、窓と扉のある小屋に押し込んでいた。
屋根は気の皮を幾重にもしけば立派に夜露にも濡れる事もないし、さすがに糞尿くさい落とし穴生活は嫌だと見えて、誰ともなく率先して小屋を作っていた。
そんなこの世界にはあまり浸透してない小屋を不思議そうに見る連中をよそに
「俺としては竹の這えるような放置された山林はあまりよろしくないと思うのだが」
「何を馬鹿なこと言ってるのです。
人が入れる山林何てほんのわずかな場所だけですよ」
確かにそうかもしれないが、竹みたいな資源を使わない手はないしあるなら有効に使いたいのは俺だけだろうか。
竹の子なんて焼いてよし煮て良し、新鮮なら生でもいけるの繊維質豊富な春の食材の代表格なのに……
こっちに来て初めての食材だけど記憶が竹の子を求めています。
皮ごと焼いて、取り出した竹の子をわさび醤油でとぅるんと食べたり、沢山の鰹節と一緒にしみしみに煮た出汁ごと堪能するぐらい煮込んだ煮物。竹の伐採の途中に見つけた竹の子をそのままバリバリおやつ代わりに齧ったり、ああ、竹の子ご飯も忘れちゃいけないよねとばあさんが作ってくれたメニューを思い出しながら涎を垂らしてしまう。
カヤがすごく不審人物を見る目で俺を見るけど、竹の子なんて食用の時期を逃した奴はみんな踏んで生長点を潰さないと大きく育って切るのも面倒な食物じゃないかと、カヤの思いとは別に俺は竹の子への思いを主張しておく。
別にいちいち掘らなくても美味しい所だけ削り取って食べる田舎暮らしの贅沢なんて誰も迷惑かけないんだしさーと……口に出しても誰も理解してくれない事なので心の中で熱く語っておく。
うん。
今頃ちょっと懐かしくなっただけよ……
「それで、これからどうするつもりなんだい?」
「ディータ、指示を」
ルゥ姉のご指名に俺はみんなが集結する三日の間に考えていた事を口にする。
「先ず大きく四班に分ける」
何処か疲れ切った顔色のクロームがすっと手を上げて
「どういうように?」
此処でも意見がある時は手を上げるらしい。
なんかいい大人が手を上げるって言う動作ってかわいいよなと生暖かい目で見ながらも
「まず一つは王都の状況と王都と奇岩群からのルートからやってくる奴らの監視が一つ。
こちらは行動力と戦闘力の高い紅緋の翼にやってもらいたい。
一つはこの拠点の管理と流民の監視。
情報能力に長けた雌黄の剣にその役をお願いしたい。
ここに在ると思われる宝玉もまだ見つかってないから、それもお願いする事になる。
もう一つは俺達ハウオルティアへ進軍するチームと一緒に来てもらって、俺達の足取りと状況をこの拠点への連絡係となってもらいたい。
戦闘能力の高い紅緋の翼と、ハウオルティアの状況を推測できそうな、セイジみたいな人がいるといい。
だけどセイジはここに残ってもらって総合的な指示を出してもらいたいから……」
「でしたらその役目はキリクにお願いしましょう。
ここ一年ほど私の補佐を務めさせています。
指示を出すだけならキリクにもできましょう。
私はよろしければクローム様とご一緒にハウオルティア進軍のチームに入れていただきたいのですが」
珍しく自分を売り込むセイジに驚きは隠せない。
だけど考えもなく言ってるわけでもないので好奇心がその先を聞きたいと言う。
「だったら、セイジならどんなメンバーを分けるんだ?」
俺の言葉に小さく頷き
「まずこの拠点のボスとしてガーネット様とキリクについてもらいます。
ここが一番危ない拠点なのは判ってますが、ガーネット様も居ていただければそれほど心配な事はないでしょう。
むしろハウオルティア進軍チームの選出です。
ディック様、ルーティア様、そして……」
「俺も行く」
口を挟んだクレイにセイジは頷いて
「今はこの国に居ない方がよろしいでしょうクローム様とクレイ様もご同行お願いします」
「エンバーも進軍チームだよ」
ガーネットに行っておいでと言われればそうだと頷く。
「じゃあ、みんな怪我一杯しそうだからあたしもだね」
シアーも手を上げればカヤも手を上げる。
「私の生まれたお国の事でもあるのでご一緒に」
言えば
「でしたら……私もご一緒してもよろしいでしょうか」
意外にもリーナが名乗りを上げた。
雌黄の剣のクロームも黄金の剣聖と揶揄されるが、五年前の騒乱の折りにはガーネットにただ守られると言う屈辱を味わっている。
もちろんほかの五指に数えられるギルドマスターでさえ彼女の背中に守られていたのだから……
誰もが認める豪傑以外なく、ギルドで王位を差す敬称を与えられてるのはガーネットただ一人のみ。
そんな彼女はご満悦に微笑む様子にクロームは少しだけ納得いかないような顔をするも
「ところで私の依頼はどうなったのかな?」
言えばガーネットは艶やかな唇で優美な笑みを作れば、俺達がいるギルドのアジトのホールが一斉にざわついた。
なんせギルドが他所のギルドに頼る事などまずない。
ガーネットはそのざわつく空気の中階段を上り、踊り場から俺達を見下ろして
「皆よくお聞き、雌黄の剣から正式な依頼があった。
この王都ロンサールから北西の森の奥にかつて村があり、そこに赴いた騎士団と住民の遺体の回収に向かう」
どこからかやっとかと小さな声が聞こえる中俺の頭の中は冷たく凍り付いていた。
「雌黄の剣の護衛にあたる仕事だから雌黄から救援は一切期待しないことが前提だ。
まぁ、急な話だから馬や宿泊の準備は用意してくれるそうだ。
遺体はすでに腐乱しきって骨だけだろうし、森の獣や魔物に食い荒らされて残っているのかも不明。
人の味を覚えた魔物が徘徊する地域に行ってもらう事になる。
よって、この依頼を私はSランクに指定した。
参加したい奴は名乗り出な」
ホールが静まり返った。
紅緋の翼には貴重なSランクのギルドメンバーがいる。
だが、残念なことに今この場にはSランクの仕事を引き受ける事が出来るのは1人しかいなく俺は冷たく凍えきった思考を吹き飛ばすように頭を振り
「出立はいつだ?」
クロームの視線がやっと微笑んだ。
「準備出来次第すぐに」
つまり彼は俺を引っ張っていくために自らここに乗り込んできたのだ。
「30分後にまたここで……」
「いや、私も着いて行こう。時間短縮になる」
「せっかちな男だねぇ。そんなんじゃかわいこちゃんに振られるよ」
言っていつの間にか階段を下りてきたガーネットはまた俺の頭を掴み胸元に頭をぐっと押さえつけられた。
何故かガーネットの細腕に誰もがあがらう事は出来ず、何故か毎回のように胸に押し付けられるのかは甚だ疑問だが、馬鹿力の一言で俺、いや、ギルドの中では完結している。
「ふん。今更別に問題はない」
小ざっぱりと短く切りそろえた金の髪を持つ男は常に清潔で品が良く、とてもギルドを立ち上げたような男とは思えない。
騎士と言われた方が納得できるのだが、何を隠そうクロームはつい数年前までは王位継承第二位を持つ人物だったのだから……この世の中職業選択は自由すぎだと俺は思っている。
しかし流行病で亡くしてしまったかつての奥さんはギルドの近所のパン屋の娘と言う、聞いた話ではクロームの一目惚れらしい。
あるんだなそんな事が、と感心するもこっそりギルド仲間と覗きに行った時に納得はできた。
良く笑うかわいらしい人なのだったから。
そんなわけで俺の理想の人も笑顔が良く似合う人となった。
単純だななんてツッコまれたけど俺は気にしない。
なんせ俺のすぐそばには犬歯をちらつかせる笑みの良く似合う女性しかいないのだから、可愛い笑顔を向けてくれるなら大歓迎と言う物だ。
奮闘する事数分、ガーネットの腕から何とかのがれて俺はその今は亡き愛妻家に向かって歩く。
「急ぐなら早く行こうか。ここにいるとガーネットのおもちゃになる」
「それは賛成だ」
「ふふふ。早く行って早く帰っておいで。そしてまた私を楽しませておくれ」
冗談じゃないと誰もが身震いする中、俺はクロームとギルドを足取り早く出ることにした。