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夢を語れ

王都からギルドの人が来るのにガーネットが去ってから4日ほどかかった。

その中にガーネットとクロームの顔があり、俺達は何故この人がまたここに来たのかと説明はよと言うように顔を見上げていた。


「確か私達がこちらに来る折には王都に残ってらっしゃったと思いましたが?」


ほら、はよ言わないからルゥ姉から切り出しちゃったじゃん。エンバーとクレイと3人でルゥ姉とクロームの顔を交互に眺めていれば


「出発した次の日にイングリットが自殺を図ろうとしてな、当然未遂で済んだがその後イングリットの母親と私の母が何故そうなったのかわからないが話し合いをしてどういった流れか全くわからないが私とイングリットを結婚しようと言う話になっていた」


表情のない顔で淡々と語りだした話に俺達どころかルゥ姉もシアーはもちろんカヤまで目を点にして固まっていた。


「どうやら王族の娘がこのような姿になって夫を得る事も出来ず、ましてや嫁に出す事も出来ない。 

 哀れと思うのなら私の後妻なら問題なかろうと冗談の方がましなくらいの話しをされてな……

 セイジが機転を利かせて私を馬に乗せてここに行くように城壁から逃がしてくれたんだ」


腕を組んで黙ったまま一番背後からソファにゆったりと座りながら


「こっちに来る途中王都から連絡があって、あの荒野からクロームを見つけろなんて無茶な連絡に何事かと思ったが、あの女王も自分が何をしているのか本当にわかってるんだか」


ガーネットでさえ正気じゃないと言うあたり、もうまともな思考じゃないのだろう。

孫が大けがを負い、そして自殺を図ろうとして精神的に不安と言う所なのだろうか。


「そこでルーティア。

 お前にクラナッハが王室に対する反逆罪を与えたぞ」

「クローム、貴方のお母様と弟は想像以上に頭がおかしいようで笑うに笑えませんわ」


反逆罪を負わせられた事を全く気にせずにあきれ返るルゥ姉はただ溜息を一つ零すだけ。


「そもそも、私はロンサールの人間でもなければロンサールの王家に忠誠を誓う義理もありません。

 犯罪は他人の家に乗り込もうとした当人。

 一体何を考えてそのような罪を着せたいのでしょうか」


この国の法律はどうなってるのです?とルゥ姉はクレイに視線を投げるも存続のしでかした事に軽くパニック状態のクレイはただただおろおろとするだけ。


「罪状の破棄と引き換えにクラナッハの妻に、と言うのがあのおめでたい王子の考えのようです」

「ハーレム作ってまだ女を所望するとは、あの城を内側から壊しに行こうかしら」

「国民の皆様がまだいるのでそれはやめていただければ」


元同僚の居るカヤがストップをかける。

やれやれと言うようにルゥ姉は頭痛そうにこめかみを人差し指でささえるものの


「早々この国を出た方がいいですね」


この言葉にクロームが驚いた顔をして俺達を見るも


「とりあえずクレイもあの家に帰るのはおやめなさい。

 今戻るとバカが移りますよ」

「ああ、うん。

 なんかもうこのままロンサールに戻る気無くなったよ。

 自分の母親だけがあれならまだ何とかしたい気もあったけど……

 イングリットの馬鹿さ加減にはもう見るのも嫌だし、声を聞くのも嫌だ。

 おばあ様もあれだけルーティアがあれだけ耳に痛い言葉を口にしてくれたのに、なんでこうなっちゃったんだよ。

 悪いけど、俺まであんな風になれない、なりたくないから、このまま一生縁を切って過ごそうと思う」


この言葉にもクロームは唖然していた。

そこまでこ嫌っていたのかと問うような顔のまま立ち尽くしていた。


「でしたら手紙でも書いて届けてもらいましょうか?」

「そうしてもらえるなお願いしたい。

 お願いついでに、ディータ、ルーティア……」


真剣な目で俺達を見て


「足手まといになるのなら捨てて行ってもらって構わないから、俺を二人の旅に加えてほしい」

「クレイ!」


一際大きなクロームの声に既に決意を決めたクレイはクロームの叱咤にも動じる事無くどこか冷めた眼でクロームを見て


「もし俺を止めると言うのならもう一度帰れる家にしてよ」


はらりと涙が零れ落ちていた。


「叔父上がまだ一緒に居た時はイングリットはどんどんおかしくなってくし、父さんだってあの時までは母さん達を同じように大切にしてくれてたのに、おばあ様もおじい様が居なくなってから自分の言葉を言わなくなっちゃったし、お母様達だってあれだけ仲が良かった姉妹だったのに……」


イングリットとクレイの母親が姉妹だったのは初耳で無言のままクロームに確認を摂ればそうだと頷く。

呆れたとルゥ姉は無言で溜息を吐くが


「国庫だって大臣たちが持ち逃げしてもう何もない上に、王宮にいる官僚は日に日に数が少なくなっていく。

 一人いなくなったら王宮の物がごっそり何か無くなってたりして、どこもかしこもみんな狂ってて!!!」


ふーっ!ふーっ!!!

息を荒げ誰もまだ知られてない見えない場所の実情にクロームも聞いてないと言うように


「クラナッハは何をやってるんだ!」

「父上が政治に興味ないの知ってるだろ!

 叔父上達がいるからって毎日健やかに過ごせばいって言われてたのは知ってたじゃないか!!!」

「だからって!

 そんな事がっ!!

 王たるものがそんな事許されるはずないだろ!!!」


叫ぶ声に


「それを貴方方が言うなんてちゃんちゃらおかしい話ですね」


空恐ろしく響くルゥ姉の声にクロームとクレイは言葉を失う。

呼吸も忘れてたかもしれない。


「確かに私はクレイに親たちを捨てればいいと言いました。

 ですが、その血に流れるこれはもはや呪いですね。

 その呪いから逃れる事はもちろん、その義務からも逃れる事は出来ません。

 かつて、フリュゲールで知り合った女の子は大層な歴史と力のあるお家の娘さんで、お家騒動の折りにこう言ったそうです。

 『家督は奪い合う物。

  それが正しいとは思ってないけど、真実間違いでない事を理解した。と』

 当時13歳の少女はその後続く茨の道を今も踏みしめながら人材はもちろん財力もほとんど失った家の復興に力を注いでいるそうです。

 頭を下げ、教えを乞い、人に後ろ指刺されながらも背を伸ばし、まだまだ本人自体勉強の途中なのに、数少ない信頼できる方に領地運営を学び、見習いですが騎士と言う務めを果たして信頼を取り戻そうとしております。

 ですがあなたたちは……

 人に押し付けると言うのはロンサール王家の血筋ですか?

 市井に紛れて庶民の暮らしを体験するのもいいでしょう。

 親と家督騒動にやりきれなくて逃げるのも構わないでしょう。

 ですが、貴方達はそれでもロンサールと契約した血を受け継ぐ数少ない王家の血筋です。

 当時13歳の女の子が出来た決断を、なぜ戦う事を知る貴方達が決断できないのでしょう?

 当時13歳の女の子は兄を歩けなくし、領地の辺境の地で幽閉し、今も監視をつけて、その血が残らないようにと子供を作れない体にまでしました。

 貴方達がその気になればいつでも女王を即位させ、クラナッハを追放できたのに……

 お家騒動がとか、騒動後の後始末だとか、弟だからとか遅く生まれて不憫な幼少時代を過ごさせてしまったとかいった言い訳だったら、今私がこの場で貴方方二人を弑して見せましょう」


淡々と語るルゥ姉の瞳は二人から何の希望も未来も見いだせない視線で宣言すればクローム達の背後に立っていたガーネットが申し訳なさそうな顔で口を挟む。


「確かにこんな状態でこっちに逃げてきた王族をハウオルティアの王族と一緒に行動するのはおかしな話だが、殺すのはもうちょっと後からでも充分だろ?」


援護なのか延命なのかよくわからない言葉でルゥ姉とクローム達の間に立ったガーネットに今度は視線が集まる。


「ルーティアの言葉はもっともだけど、今女王とクラナッハを追放しても、既に王都が機能してない以上意味はない。

 それにこんな状況にクロームやクレイが王として立ってもどうせすぐ滅びるんだ。

 別所で保護しているつもりになれば殺す気も失せるだろ?」


なぁみんな?

と言うように周囲に視線で訴えながら同情を買う。

確かにルゥ姉の言葉は短絡的だが、伸ばし伸ばしするロンサール王家の原点はこの精霊様のせいかとなんとなく思ってみたり。


「それに何事も順番と言う物がある。

 ルーティア、お前達の一番はまずこのディータを使ってブルトランの王を殺す事だ。

 ブルトラン唯一の王族を殺し、ハウオルティアの玉座にディータを置いて、王の居なくなったブルトランへの復習は終わる。

 そうだろ?」


改めてガーネットが口にした言葉でルーティアが俺を連れだした旅の始まりを思い出した。

忘れていたわけじゃない。

ただ、今までが平和で幸せもあったために復習と言う言葉を意識しなくなたていた事だった。

あの優しかった家族を、ディックの思い出にしまいこんである幸せを奪われた苦しみは今も忘れたわけじゃない。

ただ、俺達が今生きてこの幸せを堪能していたのは家族、そして命かながらのがしてくれた人達の命の上に在って、俺達が生きて行けるようにと指し伸ばされた手に支えてもらった上のこの命が続いていて。

そのさきにふこうになるひとがいるのはわかっていたけど、それがザマアで終わるには関係ない人達が数えきれないほどいて。


一年の半分以上を雪と氷に閉ざされたブルトラン。

俺がまだハウオルティアで暮してた時でさえブルトランの冬は普通に凍えて亡くなる人が少なくなかった。

それがブレッドが書類に混ぜ込んで教えてくれたここ数年の状況は夏でさえ植物が育たないほど冬が長くなっているという。

国の大半をハウオルティアに移住させているらしいが、移住できない人、長く暮らした地を去りがたい人、もしくは移住を許されない罪人。

理由はそれぞれだが、流刑の地としてハウオルティア人を次々送り込まれる方としては、この地に住む事によって罪人と一緒にされてたまらないと逃げ出してくる者もいる。

当初ブルトラン王はブルトランとハウオルティアを統合すると言って周辺各国を突然の巨大国家の誕生に色めき立ったものの、この大陸には精霊地図があり、それに記された国が総てなのだ。

地図に記載されない小国は属国扱いとなり、ブルトランでは移住を許される事無く、王都の変更により物流はブルトラン中に行き渡らなくなり、手入れされない畑や森はどんどんと荒れて行く。

主要産業だった鉱山も大半が閉ざされ、ブルトランに住む者達は文字通り取り残されてしまったのだ。


「俺としては……」


ガーネットとルゥ姉が何やら話し合っていたが


「本音を言えばハウオルティアなんてどうでもいい」


すぐそばでいくつもの息をのむ音を聞いた。


「生まれて屋敷の中と屋敷の人間しか知らないんだ。

 同情するのは家族の死とルゥ姉のお父さんぐらいしか悲しむ相手を知らない。 

 おじい様もおばあ様も会った記憶はないし、記憶に在るのはカヤ達みたいな優しい人達と、糞みたいな家庭教師達位しか知らない。

 港であった奴らも逃げれるのに逃げなかった連中だ。

 好んで残った奴らの言葉を聞く理由なんてない」


心がどんどん冷めて行くのが判る。

きっと顔にも出てるのだろう。

あっけにとられる顔ばかりが俺を見ているのを見返し


「逃げなかった平和ボケしてる奴らに同情の余地もないし、王都に居る連中だって戦争が起きているのに自分の財産の方が大事で遠くへ逃げなかった末の結果だ。

 よく戦争は弱者が被害を被る身勝手な暴力だって言ってた人を知ってる。

 戦争にあるのは自分勝手な正義だって。

 随分冷めた考え方してるなって思ってたけど、こうやって当事者になって理解できたかも。

 よくよく考えればブルトランもハウオルティアも滅びるしかない状況になっているんだ。

 ハウオルティアの精霊も知らなければ地図も知らないし、城がどんなふうになってるかも知らない。

 一度も足を運んだ事のない場所に何の感情を入れる事かも理解できない。

 町がどんなつくりになってるのかも知らないし、待っている人も知らない顔ばかり。

 期待されてもなんで俺ってしか理解できないし、ルゥ姉との誓いだけがブルトラン王を打つ動機になっている」


リーナもカヤも驚きに口を手で塞いで声を失っていて


「フリュゲールで俺が新しい王と立つ事を前提に守ってもらってここまで来たのはありがたいし、恩を返せるのはそれでしかないと思ってる。

 あの時死ぬか15歳で死ぬかの差だけど、それでも今ここまで色んな事を体験して体感した事には生きていてよかったと思う日々の連続だった」


一同の顔を見渡して


「ブルトランの王を殺す。

 ブルトラン王の前まで辿り着くかも判らないがその後もいろいろ考えてみた。

 この大陸では国は精霊と王都の契約で成り立っている。

 ブルトラン王を倒す事が出来たらまず精霊と会って今後の方針を決める」


「え?そんな事できるの?」


嬉しい事にクレイが小さな疑問を口に出して聞いてくれた。

正直俺も判らないが


「とりあえず交渉はしてみる物だよ。

 それで国の運営について方針を決める」


「国の運営にまで精霊に問うのか?」


さすが血縁。

ツッコミ精神まで行き渡っているようだった。


「当然だよ。

 精霊一体でこの国を支える力があるんだ。

 これからはこの国に来たブルトラン人と言うマンパワーもある」


「まんぱわーですか?

 また妙な言葉を……」


ルゥ姉の指摘はユキトの国の言葉をおいそれと使うなと言う事だろうか。

だけどそんなのは軽く無視して


「俺もラン兄を見習って……

 エレミヤの名前はもう二度と名乗らない。

 ただの一般市民としてハウオルティアを乗っ取る。

 その結果、滅ぶ事になるブルトランも、精霊の力に頼ることなく面倒を見る」


「それは……随分壮大な夢だな」


ロンサールでもあるガーネットは精霊としての立場を否定されたのが不愉快なのか眉を顰めるも


「あの氷の地でどうやれば人の力だけで面倒見る気なんだい?」


怒りを買ったかと思ったが杞憂だったようで、精霊のない世界が想像つかないからその先を早く聞かせろと促される始末。


「そこで必要になるのがマンパワーだ。

 人の力。

 人海戦術で何とかしてしまえと言う作戦にもならない人数のごり押しだ」


言い切ればなんだそれはとあきれ返るガーネットだが、だけど陽気に笑ってくれた。


「正直ロンサールももうどうしようもない所まで来ていて、近い将来ロンサールの人達も面倒見なくてはいけない事になるだろう」


「一体何を考えてるのですか」


頭痛そうにこめかみを人差し指で支えるルゥ姉さえももう考えが及び付かないと言った所だろう。


「無事ハウオルティアを乗っ取ることに成功すればそれだけの人がハウオルティアに集まるって言う事だよ。

 それを使わずに復興計画何て立てる事なんてできない。

 奴隷なんて俺はごめんだ。

 それよりも貴族階級だってごめんだ。

 フリュゲールみたいな特殊事情があるのなら仕方がないけど、ただの一般市民として乗り込もうとしている俺達にとって、貴族階級何て意味をなさない」


そう言う物か?なんて雌黄の翼の面々が小首かしげていたが


「まずインフラ整備、つまり道路を整理したり、居住区などの区画整備をする。

 区画整備をし改めて住民票を作る事にする。

 家の持ち主の登記、そして家族の名前と生まれた月日。

 税金は15歳の成人の日を持って住民税として一人一人取るつもりだ。

 納税は国民の義務だと思って欲しい。

 その税金は当面インフラ整備代に充てる。

 川から水路を作り、町中の人達に綺麗な水が行き渡るようにする。

 貴族社会なんてないから金のない人達が泥水をすするなんて事はさせない。

 それと同じぐらいに下水管理もする。

 この世界の死亡理由の大半が飲み水に利用する川の中に洗濯した水など不衛生な水を流し込むのが原因の一つだ。

 魔法で水を手に入れれるごく一部の人達は綺麗な水を使うが、ルゥ姉から聞いた話でもロンサールで見た普通に砂交じりの水を飲んでいる。

 そんな不衛生が小さな子供や年寄りの死につながるなんて考えた事もないだろう。

 これだけでも死亡率が減れば子供の死亡率が減り住民が増えて行く。

 その為にも人の手はどれだけあっても足りない位だ。

 ブルトランもロンサールもどんと来いって奴だ。

 同時に法整備も必要になる。

 貴族平民の格差が無くなれば法は総ての住民に等しく則る事になる。

 新たな住民も増えればそれだけトラブルも増える。

 それを警備する組織も必要だ。

 騎士団でもいいしギルドでもいい。

 治安維持は組織形態はなるべく早く、チンピラに場を取り仕切られる前に広く配置したい。

 治安の為に学問も必要だ。

 これが一番この大陸には不足している事をフリュゲールで体感した。

 未成年の間は総ての子供は義務として学問を学ぶ事を法によって課す事にする。

 強制はしない。

 でも子供なら学問をおさめた事前提で成人として働く事になれば避けて通れない道となるだろう。

 人も増えてトラブルも増えてそれに伴い食料が圧倒的に不足するはずだ。

 大陸の食料庫と言われるハウオルティアだが精霊の協力が得られなければ害虫と病気との戦いになる。

 害虫に強く、病気になり難い品種の食物の開発はもちろん、未だに人の手だけの農作業をもっと考えて楽にしなくちゃいけない。

 そうそう、精霊の協力が得られなかった場合魔物の退治も重要になる。

 魔物の適正価格と退治するハンターへの教育する組織、ギルドも作らなくてはいけないし……」


「ちょっと待ちなさい!

 一体何の話をしているのですか?!」


シアーの悲鳴に俺はずいぶんと思い切った事を口に出していたようだった。

随分前から頭の中で考えていた事を言ったつもりだったが、どうやら皆さんには刺激が強かったようだ。


「何て言うの?

 寝物語って言うのかな……

 よく国作りって何だろうって相談していたんだけど、まず必要なものは何かって話しから始まってそれは王ではなく人だっていう人がいたんだよ。

 この大陸は精霊との契約があるけど、結局の所、人が国を支えて国を作る。

 これは精霊が居ようが居なかろうが関係なく必要な物だと言いきってくれた人がいたんだよ。

 だったら次に必要なのは何か?

 人が暮らしやすいようにしてあげる事だって。

 その後暮らしが豊かになるように経済を回して行けばいいって言ってた。

 俺の知識を合わせて、俺が国を作る以上国民には教育、労働、納税の義務を三大義務を課せる事にする。

 まぁ、簡単に言えば税金を払う為に仕事をし、仕事を与え請け負う為に勉強をする。

 こう言った事を国民全員で意識して努めれば俺が死ぬ頃には精霊が居なくても豊かな国が出来上がるだろうと言う試算になっている」


「気の長い計画ですねぇ」


ルゥ姉の呆れたような声誰もが笑う。

具体的な未来像はぼんやりとながら誰もが思い浮かべる事が出来る。

戦争後の荒廃とした国を建てなおす方向性はもう決まっている。

他にもまだ口に出してない事も、もし新たな貴族社会が必要になった場合も想定してある。

だからと言ってそれが総てかなうわけではない。

寧ろすべて反発されると考えた方がいい。

それだけ物を一から始めるって言うのは大変な事で、現実は理想からどんどん離れて行く物で。

だけど描く未来ぐらい夢に溢れさせてもらいたい。

だって、それだけでみんなの顔に笑顔が戻っているのだから。

問題は山済みだけど、やりがいはある。

フリュゲールでさえ未だ手探りだけど確実に形になっていて、時間をかけてじっくりと育てて行く物だと教えてくれた年上の茶飲み友達は急ぐことはない後言ってくれた。

多分それが近道のない答えなのだろう。









あれから5年……



 魔物はあれから殺戮衝動のまま仲間同士を殺し始め、今では山や森の奥に、海の底にわずかにいる程度にまで数を減らした。

 村も街もなくなり国は王都の復興を第一にと、唯一人が生存している場所の守りを固め、かつて程まではないけど人は周辺国の援助もあり人の営みを取り戻すようになった。

 俺は奇跡的にもあの騎士から一足遅れて応援に来た騎士団に助けられロンサール国王都ロンサールで暮らす事になった。

 あの時抱えた剣は今ではついていた宝石は動乱のどさくさになくなり、金色に輝いていた柄は手のサイズに合わないからと手のサイズに合った物に変えた時に紛失し、成長と共に取り換えられ、皮で出来た鞘に包まれて俺の腰に佩いでいる。

 首飾りだけは奪われないようにと誰の目にも触れずに今も服の中で長い紐の先にひっそりと揺れている。

 『忘れてかまわない』と言われたが、あの時の穏やかな顔の騎士の顔は今でも忘れる事は出来ない。

 忘れる事が出来ない。

 出来るなんて出来ない。

 今も鮮烈な記憶としてその時の事を夢に見る。

 今日も涙を流して目が覚めた俺は胸元で揺れる首飾りを握りしめて大きく深呼吸をし、忘れられない思い出を胸に俺は今日も一つの門をくぐった。


 ギルド・紅緋の翼


 数あるギルドの中でも魔物を相手とした依頼のみを受け入れる討伐専門ギルド。

 数は少なくなったとはいえまだまだ魔物が跋扈するこの国では一匹でも驚異であるには変わらない。

 人が居なくなり、森は深くなり、それに伴い魔物の活動範囲も広がった。

当たり前の事なのだが、それに伴い危険も増えた。

 魔物の恐ろしさをまだ肌身で覚えている人達は国の騎士団だけでなくこういったギルドに討伐依頼を願うのは当たり前の日常。

 なんせまだあの時の被害の爪痕はそこらじゅうに散らばり、騎士団が中心となって道路、河川、城壁の修復と言った作業に追われているのだから。

 知らず知らずに分けられた作業は今では当然の事だった。

 あの日助けられた俺はあの騎士の代わりとは烏滸がましいが、魔物がこの世界からいなくなるまでこの剣を振るおうと決意した。


 ギルド本部の賑やかなホールを抜けて壁の一角、ボードに張られた討伐依頼書に何かないかと覗きに行く。

 壁に貼られた依頼書はどれも依頼済みだったり、遂行中だったりと高額依頼の為に人気は高い。

 その仕事の中から自分の技量と難易度を見比べながら依頼書を探していれば


「おや、エンバー仕事探しかい?」


 肩をむき出しに胸元をぎりぎりまで見せつけ、細い腰と深くスリットの入ったタイトなスカートからは引き締まった素足を覗かせ、鮮紅の髪を無造作に束ねた婀娜っぽい女が俺の背中に伸し掛かるように抱きしめてきた。

初めの頃は背中にあたる柔らかさとどこに合わせればいいのかわからない外見に視線を彷徨わせ、一人茹蛸になっていたものだが今ではそれも慣れ見慣れいつの間にか動じなくなっていた。


「うーん。冬が来る前に少し大物を狩りに行きたいかなーって?」

「たーんまりため込んでるくせに?」

「そろそろ防具一式を取り換えようかなって思って」

「そういや、ずいぶんと大きくなったものね」


 前はこんなふうだったのにと俺の頭を無造作に掴んだかと思えば、蒸れる果実のごとく柔らかな谷間に俺の顔を正面からねじ込まれた。


「がっ!ガーネット苦しいッ!!窒息する!!!」

「嬉しいくせに照れるんじゃないよ」

「誰がだっ!もう飽きたっ!」


 むせ返るような香水と、直接触れ合う人の肌の柔らかな温度に恥ずかしいと口には出さずにガーネットの肩を押すもびくともしない。


「ははは、ガーネットにかかればエンバーもまだまだお子様だな」

「っていうかガーネットに敵う奴いるのか?」

「若干数名……っているか?」

「じゃあ、俺らじゃ無理だな」

「エンバーがんばれ!育ちざかりのお前が俺らの期待の星だ!」

「そんな期待背負いたくない!!」


 やっとの事で天国と地獄から無事帰還した俺は周囲の茶化す声に大声で否定した。


「あら?それもつれないねぇ」


 ガーネットは寂しそうな言葉を漏らすも雰囲気はさらさらなく何所までも楽しそうだ。


「私としてはその若干数名に含まれているのか含まれていないのか……含まれてない事を祈っているのだが。

 いたいけな青少年を私の目の前でたぶらかすような真似だけはしないでほしい」

「相変わらずクロームは頭が固いねえ」


 突如現れた声を見上げればギルド・雌黄の剣のギルドマスター、クローム・フロスが立っていた。


「君もギルドマスターならそれなりの教育をする側のなのではないか?」


 我等が紅緋の翼のギルドマスター、ガーネット・マダーはひょいと肩をすぼめ


「ギルドマスターらしく私の家族に愛を注いでいるだけじゃない」


 そう。

 恐ろしい事にこの艶やかな女性こそが騎士団さえ一目置き、この国の数あるギルドの頂点に立つ女帝ガーネットと呼ばれるその人なのだ。


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