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清らかでありたいのは身体か心か

ガーネットは一晩だけルゥ姉とシアーと三人で酒盛りをし、二人を潰して足取り軽く王都へ帰って行った。

今回はクレイの連れ戻しは見送るから、次誰かこっちに寄越しすから急がずにそれまでに覚悟決めなとクレイの頭を子供を諭すように撫でて行った。

元盗賊の皆さんもすっかり酔っ払いモードのガーネットのおもちゃになって酒をたらふく腹に詰められたようで皆さん揃って二日酔いで潰されている。

完全に使い物にならないね。

ご陽気の振る舞い酒なのはいいが、俺の酒が飲めないのかモードになってから当分お酒の匂いすら嗅ぎたくないぐらいの二日酔いレベルに皆様揃って寝ゲロで口元を汚してらっしゃって……

急性アルコール中毒なんて病名を異世界でも聞きたくなかった身としてはぎりぎりセーフな年齢にガーネットと一緒に酒は飲まないと今から心に誓っておく。

因みに途中から巻き込まれたエンバーは慣れているのか気持ち悪いと言って水を飲んで部屋へと戻って行ってしまった。

さすがギルメン。慣れてたか……

ちなみに最初は俺とクレイとエンバーはカヤに頼んでこっそりとデキャンターに入れて持ってきてくれたものを部屋で楽しんでいたが、エンバーがつまみを食べつくした所で勇敢にもキッチンから何か見繕ってくると旅立って行って以来朝まで帰って来れなかったのを遠くから聞こえた悲鳴で俺達は理解していた。

食べる物もワインもなくなり身の危険を感じたのならばとさっさと寝る事にしたが……

目を覚ませば宴の後に屍累々……

二日酔いでもなくても頭の痛くなる光景に数少ない酒宴に参加していなかったリーナとカヤと一緒にお見送りをさせてもらう事にしたのだ。

見事村中ポンコツとなり、子供達だけ仕事をさせるダメな光景が広がっていた。


それでも昼前にはルゥ姉が起き出して軽く食事をカヤ達に用意させていた。

パンを温めたミルクで浸したパン粥にはナッツの類がトッピングされている。

その匂いにつられてエンバーとシアーもやってきて時間をかけてゆっくりと食べていたが、ごちそうさまをする時にシアーが何やら呪文を唱え、三人が淡く光っていた。


「あー、やっと集中して魔法が使えた」

「助かる。

 やっと気持ち悪いのが収まった……」

「いつもながらこの酔いざめの魔法、便利ですね」


酔いざめの薬ではなくそんな魔法まであるらしい……


「便利か便利じゃないか微妙だな」


そこまで飲むなよと視線で訴えてみるも


「昔から人を酔わせることに喜びを感じる変態はどこにでもいるので、聖女の意地とプライドをかけて二日酔いを一発で直す魔法を開発して見せましたとも!」


そして何故かルゥ姉を睨む。

うん。全部理解した。

この魔法の開発にはルゥ姉が絡んでいた事を。


「仕方がないでしょう?

 王宮からもらえる美味しいお酒をちょびっと何てもったいないじゃないの。

 浴びるほどただ酒が飲めるのなら飲むべきに決まっているでしょ?

 ただ酒ほどうまい酒って他にないでしょ!」

「だからと言って滅多に飲めない上等の酒だからって無理やり飲ますのはどうよ?!」

「通過儀礼として諦めなさい」

「何の?!」


涙目になって抗議するシアーにカヤが三人の食事を下げながら


「ですが昨日一晩でだいぶお酒が無くなってしまいましたよ?」

「でしたらどこからか調達をしに行きましょうか」


食後のお茶を飲みながらルゥ姉がにやりと笑う。

うん。絶対よくない笑みだと何を言いだすのか身構えていれば


「調達ってどこにだよ……」


ビビりながらもクレイがちゃんと聞いてくれる。

そんな役割だなあとでもありがたく耳を傾けていれば


「そんなの決まっています。

 ハウオルティア以外何所があると思いますか?」


誰もが口を開けなかった。

リーナもこの場にちょうどいてぽかんとした顔で何を言っているんだろうという顔でルゥ姉を見ていた。

きっとこれが正しい反応と言う物だろうが、こういう事になれている俺とシアーは


「行くって、俺ハウオルティアの地理何て全く知らないぜ?

っていうか、澄んでた家もどこにあるのか知らないぜ?」

「ここから近い村々はすべて盗賊や魔物によって崩壊してます。

 一番近い所でもブルトランが支配してます」


俺達の建設的な話し合いの展開にエンバーもクレイもまだ付いてこれなくて傍観に徹する側になってしまっていた。

付いて来ないと自分に有利な懸案を潰されるぞと心の中から注意を促すが、さすがに伝わってはいない。

シュネル達が使う念話も俺も使えたらいいのになと思うも上手くイメージが出来ずに未だ成功できず。

テレビのような一方的な送信だけではダメなようで電話のように送り返してくれる要素も必要で、脳内電話のようなイメージで念話っぽく話を掛けるも相手はどれもスルー。

うん。

この場合相手も電話と言うイメージが必要な気がして断念したイメージだった。

因みにフェルスにコツを教えてもらったけど『んなの相手にちゃんと伝わってる事が前提だからそんなの考えた事ねぇよ』とのありがたい返答。

ラン兄にも聞いたけど『最初から聞こえてたから考えた事なかった』とのアンサー。

いらん先入観が原因かと項垂れてしまうも今も密かにこつこつとルゥ姉相手に練習をしている。

勿論未だに気づかれる事も電波を送ってる事も知られてない。

うん。

ちょっと虚しい……


それはさておき、気が付けばテーブルにはハウオルティアの地図が広げられていた。

地図の隅っこに書かれたバツ印がこのコルドラ村だと言う。

ほとんど国境沿いだと言ってもいい場所だった。


「エンバーは小さかったから知らなかったかもしれないが、ここから半日も歩かないうちにハウオルティアへと入る事が出来る。

 近くに在った村はすでに滅んでしまったが……

 人が住んでいた跡があるから辛うじて歩きやすい道とかはまだ残っている。

 と言っても、既に畑は雑草だらけで川は砂利で魚も泳げず、家はなく、人も居ない。

 時折縁のある人間が足を運んでいるようだが、あの土地をどうこうするつもりはないようね」


シアーがいくつもの名前の書いてある文字にバツ印を付けて行く。

消滅した村の数にルゥ姉は顔を顰め、そして次に加える三角印に難しい顔をする。

それはロンサールから一定の距離を置いて国を仕切るように描かれていて、三角印を繋ぎ合わせ


「ここから先はもうブルトランの支配地。

 そして城と城壁内は完全にブルトランの支配下になってるわ。

 ハウオルティア人は総て着の身着のまま追い出されて今ではブルトラン人が住んでいるわ。

 城壁にはウィスタリアから招かれた魔導師が施した魔法のせいでハウオルティア人が許可なく入れば即死何て呪いが施されている。

 もちろん私みたいな例外もあるけど、腕に魔法を刻まれて……

 死を免れたわ。

 ただし、城壁の外に出れば死ぬって言う魔法だけど、それは何とか対処できたわ」

「つまり、貴方でももう二度と城壁内に入る事が出来ないと?」

「残念な事にそう言う事」


こんな事になるならもっと上手くやっとけばよかったというシアーだが、そもそもこれは何とか対処して同行できる問題なのかと考えていれば期待通りにクレイが口を挟んでくれた。


「因みにだけど脱出する時はどうやって?」


何気ない質問だったけどシアーはちょっとその時を思い出してか顔を歪め


「こう見えても聖女なんて呼ばれてたからね……

 城壁する時に腕を剣でスパッと切り落として白魔法で腕を再構築してみせたわよ」

「よくその時点で死にませんでしたね」


ルゥ姉の突っ込みに俺も思わずと言うように頷いてしまったが


「そうなのよ。

 だけどよくよく考えると私のおばあちゃんって言う人ブルトラン人だったのよね。

 そのおかげで村に居た頃はよくいじめられたけど、一応ブルトラン人の血も入ってるから呪いの魔法が効かなかったみたいでねぇ……

 確証はないけど」

「うわー、切り損かぁ」

「痛かった分更に損してますね」


うっかり話を聞いていただけのリーナは顔を真っ青にしている。

俺の周りでこう言った事に免疫のない珍しい子の為に俺はリーナの空っぽのカップに白湯を入れて


「大丈夫?」

「はい。ありがとうございます……」


全く大丈夫そうじゃない顔色で言う間にさらに話は盛り上がる。


「この方法なら何とかいけるかもって思ってさ、思い切って再生構築魔法掛けながら下半身ぶった切ってみたのよ!

 そしたら成功したのよ!」

「貴女馬鹿でしょう!

 いくらあの男に穢されたからってそんな事してもし死んだらどうなると思ってたのですか!!!」


珍しくルゥ姉が真剣に感情むき出しにして怒るもシアーはどこ吹く顔で


「さすがに暫くぶっ倒れてたみたいだけど、成功するって判ってたし、実験ももうしてたし、それにあたって準備万全で挑んだんですもの。

 聖女とまで呼ばれた私の白魔法、見くびらないでよー」

「実験の内容なんて聞きたくないですね」


呆れたと言わんばかりにルゥ姉は椅子に座り直し、俺に白湯を無言で催促するも、シアーはそれこそ嬉しそうにエンバーとクレイにふふふと笑みを向けて


「これで私の下半身まっさらの処女よ~

 綺麗なものよ~」

「シアーとだなんて悪夢決定だ」

「あんた達位ならまだ行けるって思うんだけど」

「お断り一択でお願いします」


エンバーとクレイの拒否に気を悪くする事もなくニヤニヤ笑っているあたり、いつもの会話の様な物だろう。

ルゥ姉も呆れて


「25も過ぎて処女とかもうだめでしょう……」

「おや?

 ルーティアこそ男がらみの発言なんて珍しい」

「そうですか?

 こう見えても私2児の母をしてます。

 ちなみに子供は優秀な乳母と家庭教師を雇ってくれる父親に預けてますので問題ありません」


誇らしげに胸を張って説明するルゥ姉にシアーはさっきまでの機嫌良さそうな顔から涙を流して机に突っ伏して


「しょせん男なんて体目当てだよね」

「何気に失礼ですね。

 ですが安心してください。

 貴女みたいな方を熱望する方も何人か知ってますのでご紹介いたしますよ」

「私の方からお断りします」


二人して顔を見合わせてふっふっふーなんて笑ってるけど、貴方の知らない世界と言うかまだ未知の世界と言うか、今度は顔を真っ赤に染めたリーナが会話を一生懸命聞いていた。

俺より一つ年上ならこう言った話に興味あるわなと中身は30過ぎたおっさんとしてはリーナの反応こそ初々しくてかわいいですねーと微笑ましく見ておくことにする。

俺ロリじゃないし、どちらかと言えば巨乳派だし、俺の基本はルゥ姉のおっぱいだし。

ドレスの着付けの時に何度かポロリと見た事はあったけど、服の採寸する時に堂々と触ったりもしたけど、紳士的な態度を貫いて見なかったふりと言うか、作業的に仕方がないだろうと言うか、正直それどころじゃなかったというか、まあ後から処理しとけばいいかと割り切れたお子様の体のおかげでスルーしてこれた俺を本気で偉いと褒め称えてしまった過去は墓場まで持っておく事にして。


で、話もそれにそれた所で俺が話を引き戻す。

じゃないと頭の中がルゥ姉のおっぱいでいっぱいになりそうだしね。

お子様仕様のこの体も成長期を迎えてお子様仕様とは言い難くなったしね……

お願いだからシアーさん。

舌なめずりして俺を見るのはやめてくださいと本気で思う。


「で、ハウオルティアのどこに行くつもりさ?」


思考がおっぱいでいっぱいになっていた所でクレイが話を戻してくれた。

おんぶにだっこのお荷物君かと思ってたらこういう所はしっかりしててほんと頼もしいと脳内のお子様の俺が顔を真っ赤にしながらおっぱいを追い払うと言う謎の脳内小劇場に笑いながら


「とりあえずはここ。

 国境を越えたすぐそばの村。

 ヘーゲン村を拠点として偵察に行きましょう」


誰ともなくルゥ姉が指を置いた地図の名前を見て、リーナを見る。

リーナはきゅっと閉じた口をゆっくりと時間をかけて開いて


「ここに来る前に居た村です。

 案内なら出来ます」


重そうに開いた口にルゥ姉は満足そうに口を釣り上げて笑みを作る。


「よろしい。

 あの何日かしたらギルドの方がこちらに到着します。

 到着次第出発しますので必要な物はこの家に荷物を移してください。

 そしてあの家はギルドの拠点となります。

 エンバー、よろしいですか?」


この村に次々新しい人が来る事になる。

エンバーのたった一人の大切な肉親の眠る場所も人の目に触れることになる。

ルゥ姉はそれでもかまわないかと言っているのだろう。

エンバーも言葉足らずのルゥ姉の質問の意味を正しく理解し、ゆっくりと時間をかけて頷いた。


「ああ、構わないぜ。

 むしろ、誰かが住み着かないように頼めて安心だ」


この言葉にリーナは強張った顔をしていたが、それでも知らない奴が来るわけではないだろうからとエンバーは自分を納得させているようにも見えた。



 炎に爆ぜる森。

 空一面を覆う灰に苦しみと恐怖の絶叫。

 形あるものは次々と崩壊し、生命あるものは活動を停止していく。

 原因は突如大量発生をした魔物の出現だった。

 瞬く間に世界を死で汚染し、人里から離れた場所にまで現れるようになった。

 国は崩壊したと聞いた。 

 何れと恐怖しつつ、まだ大丈夫と平穏な日々に我関せずと暮らしていた罰だろうか。

 ついに現れた魔物に蹂躙される友人知人、そして家族。

 助けに来たわずかな騎士団も瞬く間に数を減らし、数分後の全滅を待つのみ。

 絶望と死の予感に虚ろとなり呼吸をするだけとなった自分に残される最後の刻。

 傍らに横たわる騎士が落とした剣をふと手にし、自分へと切っ先を向ける。


「だ、駄目だ…」


 ヒューヒューと咽を鳴らしながら座り込んだ俺の脚を掴み悲しげな顔をする。


「頼むから…生きてくれ」


 懇願に似た言葉は耳を素通りする。

 喉元にプツリと刺した切っ先に騎士は言葉を重ねる。

 頼みがある、と…


「その命捨てるなら、その前に私に止めを…」


 言ってることがわからなくて首を傾げれば


「このまま生きていれば地獄を見る。

 せめて友の手で終わりにしてほしい」


 今初めて知り合ったばかりだと言うのに俺を友と言う可笑しな騎士をよく見れば片足はなく、止めどもなくあふれる腹からの出血に止めを刺すまでもないだろうと思うも、彼は器用に懐から血に染まったかのような深紅のガラス玉の首飾りを取り出し


「形見……じゃないが、よかったら受け取ってくれ…… 

 大切な、物なんだ」


 血で汚れた押し付けるように差し出された物を躊躇いがちに受け取り


「私の事は忘れてかまわない。

 が、これを持つ者がここに来た事だけを覚えていてくれ。

 それ以上は望まない……」


 身体から息が漏れ落ちるような荒い呼吸をしながらどこか愛おしそうに、まるで別の誰かを見るように、たとえば我が子のように俺を見る瞳に俺は自分に向けていた剣を騎士へと向ける。

 銀の鎧はよく見れば数えるのもばかばかしいほどの傷と、致命傷になった大きなキズの下には豪奢で細かい彫刻さえ施されていて、手にした剣にも同じような彫刻と宝石がはめ込まれていた。

 きっと城の中も歩ける身分の人なんだろうとぼんやりと考えながら剣をその体に突きつける。

 心の臓を貫くのが一番なのだろうが、彼がきっと愛用しただろう鎧にこれ以上キズつけるのは悲しむと思うし、鎧を貫通させるまでの力はまだ俺にはない。

 結局むき出しの喉に剣を突き立てて一気に貫いた。

最後に彼は俺に向かって微笑み、無言のまま涙を流した騎士の頭がごろんと傾いて、ひゅーひゅーと音を立てていた呼吸が止まった。




 その途端さっきまで隣にあった死が急に恐ろしくなり、俺は震える足を叱咤して握りしめたままの首飾りとこれも騎士が愛用しただろう剣を抱きしめて炎が渦巻く森へと逃げるように絶叫と共に駆け出していた……





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