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下着の奥に夢と希望が詰まってるなんて伝説に決まってる

ブックマーク・評価ありがとうございます。

今年最後の更新となります。

皆様良いお年を。

エンバーが目を覚ましたのは夕食の準備がほぼ終わりかけた時だった。

何処か青ざめた顔で吐き気を催すように這い上がってきた顔を見て


「強制的に眠らされた後は大体吐き気がするから、外で気合入れて吐いてすっきりしておいで」


シアーがエンバーの手を引っ張って家の裏へと連れて行った。

それから暫くの間家の中までえづく音を聞きながらしばらくして戻ってきた青白い顔のままのエンバーはどこかぐったりとしたまま室内を見回していた。


「ここは?」

「彼女達が最初に辿り着いた家になります」


修復した壁に抜ける事のない床。

見上げても星空の見えない天井と天井裏に続く階段。


「村長……の家か?」

「さあ?

 でもこの近辺の廃屋と比べても一番大きなお宅ですよ」

「ならそうだな……」

「聞きにくいのか聞きたくないかは私には関係ないので情報の共有の一環として聞いてください。

 とりあえず数少ない家を所有していた流民を追い出してこの家で貴方の看病をさせていただきました。

 素晴らしい事にこの家には食材が僅かでしたがありましたのでありがたく頂戴させていただいた物で夕食を用意した所なので食べれるのなら食べて体力を取り戻しましょう」


言うも後食べるだけの状態で、エンバーの大切な母親との思い出の家とは知らずに済みついていたカタリーナも未だ顔を青ざめながらも椅子に座らされていた。

あれはトラウマ級だろうとなるべく視線を合わせない位置取りをしたが、彼女はひたすらスープの入った器を眺めるだけだった。

エンバーもあの家から出ればカタリーナは不要のようでゆっくりとスープに口をつけ始めた。

それを食事の合図として各自の食事へと手を伸ばし始める中、本当に食べていいのかというようなカタリーナに隣に座るシアーが冷える前に食べなさいと促されてやっと手を作るのだった。


「食べながらではありますが、全員そろっている場なので食べながら話させていただきます。

 ここはエンバーが言うには元村長の屋敷らしく、当面ここを拠点に動こうかと思います」

「流民は?」


エンバーが誰とも視線を合わせずに食事を摂る中


「叩き出して別に建てた土で作った家に閉じ込めて在ります。

 朝には出して差し上げますので心配はありません。

 エンバーの家の事は皆さん顛末をご存じなので近寄らない事を約束させました。

 侵入したら命の保証はしないと」

「まぁ、流民の立場じゃ仕方ない処遇よね」


無難な判断だと言うシアーにそんなもんなのか?とディックはクレイに確認取ればそんなもんだと頷くだけ。

如何に流民の立場が弱いかよくわかる立ち位置だがそれ以上は流民については誰も口に出さずに


「突然ですがこのように流民が住み着いているので、私とクローム、そしてエンバー。

 明日の朝にはここを出て王都まで戻ります。

 雌黄の剣は勿論、紅緋の翼にもご助力を頂きましょう」

「ガーネットに言えば面白そうだからやってくると思うぞ……」

「それはそれで楽しそうなのでお迎えの準備をしなくてはいけませんね。

 留守番にはシアーを中心にクレイとディックでこの村の完全制圧をお願いします」

「留守番か制圧のどちらかにしてください」


ディックは思わずと言うように手を上げるが


「では少々教育が行き届いてないようなので制圧の方で。

 そうそう、カタリーナと言う流民ですがエンバーが寝ているうちに我々の下女として働く事で話しが付きました。

 おめでとうございます。

 これで流民ではなく使用人に格上げされました」

「王女の地位から比べたらずいぶん底辺に来ちまったな……」


エンバーが哀れな視線を向けるも


「少なくとも我々の庇護下、ロンサールの法の下の者になる。

 私の使用人だがクレイ、しばらく預かってくれ」

「まぁ、さっき話し合って納得したからいいけどさ……」


あまり納得してないと言うクレイはスープの野菜をぐるぐるとかき回して王女様を使用人扱いって何だかなぁとぼやいていた。


「カタリーナ、貴女もすでにいつまでも王女気分ではなくなってると思いますが、ここは心機一転の意味も込めてリーナとでも名乗りなさい」

「またいきなり何を」


ちょっと待てと割り込めば


「いきなりではありません。

 ブルトラン人はハウオルティア人よりも肌が白くあります。

 彼女は良く働いているようですので日焼けして違和感はありませんが、これからのロンサールの事を考えればあまりブルトラン人と言うのは判らない方がいいでしょう。

 今ブルトランとハウオルティアとロンサール三国間の状況は知らないと思いますから聞きなさい。

 ブルトランがハウオルティアを制圧したころロンサールが魔獣の暴走に巻き込まれました。

 ブルトランが精霊ハウオルティアと契約した一族を皆殺しした頃と魔獣が一気に増えた頃と一致してます。

 精霊ハウオルティアとの契約の力が弱まった事により起きた事象としてまちがいありません。

 ブルトラン王がハウオルティア王族を総て殺そうとしなければここまでの事にはならなかったととある精霊は仰ってました。

 そうそう、未成年だった唯一のディックはカウント外なので数に考えないようにしてください。

 ハウオルティア人は国を滅ぼしたブルトラン人を憎み、そしてブルトラン人は敗戦国のハウオルティア人は忌み嫌う奴隷と言う扱いとなっております。

 もっとも今はある程度の財産没収と爵位の取り消しをし、総ての国民に準市民としての地位を与え王都の城壁外へと住いを移させたと聞きます。

 ハウオルティア人のブルトランへの恨みは今にも爆発寸前らしいのですが、それもどうやら段々と立ち消えているらしいです。

 理由は簡単。

 ブルトラン王が次々にハウオルティア人の希望となる人物を捕まえては理由をつけて処刑しているからです。

 そこにロンサール人がどこに関係するでしょうかと言いますと、ロンサール国はアルカーディア国とドゥーブル国と三国同盟を結んでいます。

 ですがこの獣暴の乱よりアルカーディア国とドゥーブル国より同盟から切り離されてしまいました。

 隣国のこの二か国から援助は求められないでしょう。

 ウィスタリア国からは援助を頂いているそうですが、既に奴隷契約と化した援助にこれ以上の物はもう求められません。

 そんな中ハウオルティア国を乗っ取ったブルトラン国はハウオルティアの中枢にブルトランの国の中枢を移して今では両国を一つにまとめている状態。

 ウィスタリア国と同等の広大な国土と肥沃な土地を手に入れたブルトラン王は我が国がこの大陸一の大国になったと思い込んでいらっしゃるようで、ロンサール国からの援助にその国をブルトランの属国とする事で民をこの温暖な気候のこの国への移住を受け入れよう。

 もちろん王族の方も国民も全て準国民とさせてもらうとの宣言。

 返答できずにいるのがロンサール国の状況です。

 ロンサールとしてはすぐにでもブルトランに民を移したいそうですが、準国民の立場は流民と同様の立場だと聞いています。

 ロンサール女王は移住させても民に今以上に、人以下の暮らしにさせるくらいならと返答はギリギリまで待ってもらいたいとのお考え。

 そんな状況に忘れられたブルトランの王女が一人。

 王に見放された王女に二国の恨みが総てぶつけられるのは考えるよりも容易いでしょう。

 なので、貴女は一度死んだ事にして新たにロンサールでの住民として別の姓、別の名で生きる事が最善だと私は思っております」


長い説明に思わずいつ仕入れてきたネタだよと考えてしまうも、うんうんと無意識に頷くクロームに俺達が居ない合間……ですね?と納得してしまう。

カタリーナはそこまで恨まれているとは思っても居なかったようで、ただでさえ青い顔を更に青くし、もう生きていてもしょうがないと言うような顔をしていた。


俺も覚えがある。

ユキトの記憶だ。


交通事故に遭った母さんと父さんの遺体を見た時だった。

母さんと父さんを求めて泣き止む事が出来なかった俺は止めるじいさんとばあさんの手を振りはらって二人の亡骸を見た時。

事故の傷跡は無残さを言い表すように、総て回収できなかった欠けた体が横たわっていて、氷を詰めた棺桶からの異臭は既に親しんだ親の物とは別の物だった。

痛み、苦しみ、生への渇望を浮かべた二人の顔に二度と戻らない事を知るには簡単で、そんな知らない親の姿に俺はしばらくの間心を病んでいた。

何度も爪を剥がそうとか、肌を傷つけようとか、刃物を長い事見つめていたりとか、今では当時の記憶はぼんやりとした物のたまにやってきた親族とばあさんがひそひそ話をしているのを聞いて、あれは夢だったようなとぼんやりとした記憶が確かだった事を知っただけだった。

そうやって現実を一つ一つ知り、向き合う事で俺は少しずつ事故前の日常を取り戻して行ったのだが、怯えきって視線を上にあげる事の出来ないカタリーナは未だ悪夢の中に居るのだろう。


「俺もルゥ姉の意見に賛成。

 カタリーナは畑仕事を教えてもらった事に苦痛を覚えた?

 従者達との生活が苦痛だった?

 もし違うと言うのなら、カタリーナはもうとっくに王女ではなく、従者の家族だったんだ。

 従者達を失って苦しいのは理解できる。

 だけど、いつまでも苦しんでたら従者親子はそれこそ心苦しいだろう。

 前を向いて生きる意欲を今すぐ持てとは言わない。

 カタリーナはもうハウオルティアともブルトランとも関係ない所で自分の足で立たなきゃいけないんだ。

 クロームもそれに手を貸してくれるって言うんだから、クロームの使用人と言う仕事を通して自分で立つ事を覚えないと、こんなチャンスが何度もあるとは限らない。

 ここで断るって言うなら、俺達はあんたをこの家から追い出してルゥ姉の作った家に押し込めるだけだ」


選択の余地の無い二択を提示すれば彼女は真っ青な顔のまま姿勢を正し


「クローム様、リーナと名を改め誠心誠意をもって一生懸命お仕えさせていただきます」


深々と頭を下げるカタリーナ改めリーナに


「ロンサールとの風習の違いに戸惑う事もあるだろう。

 だけど何事も始まりはあるのだ。

 一つ一つ慣れて行く事から始めよう」


クロームも笑顔を浮かべ頷き


「折角の食事が冷める。

 では頂こうか」


そう言って少し冷めてしまったスープを掬って口へと運ぶのを見て、やっとなんか穏やかな日常に戻った気がした。



食事が終わり、手っ取り早くとルゥ姉がみんなを魔法で綺麗にしてくれた。

うん。風呂ないから諦めるしかない……

風呂入りてー……

だけど、綺麗になったから感じる違和感がある。

リーナの姿だった。

色々裾が破けて糸がほつれているが、何度も繕い直された跡はもちろん褪せた染色もあらわになり、体の大きさにあってないのが嫌でも目に付く事になった。


「あー、あれだ。

 フリュゲールだから当たり前だけど、ハウオルティアもブルトランも顔と指先以外服で隠してたんだっけ……」

「そう言えばそんな風習でしたね」


すでに旅だったあの時の可愛さの欠片もないルゥ姉を思わず「何をおっしゃってるんです?」と視線で訴えてみるも俺の視線何て一瞥するだけですぐに顔を反らし


「私はロンサールのあの熱さに耐えれずすぐにこんな恰好を選べたわ」


シアーの格好と言えばすらりとした足を見せつけるようかのタイトなズボンにショートブーツで足首をガードし、腕は肩からむき出し、襟はある物のいわゆる第二ボタンを外したような首回りのチュニックはひざ上まで。髪はバッサリと肩までの長さに切りそろえサイドはあまたの男性から求婚されるにふさわしい美貌を額縁のように飾っている一件男性のような姿……

某女性歌劇集団のような華のある男前の出で立ちだった。

うん。

男役だったらいそうな感じ。

だけどありがたい事にこの世界では女性が男役をやるのはめったにないらしく、逆はあれどよほどの事情がないとしないのが通例だ。


「私はフリュゲールの気候と文化に合わせてこうなりました」


ここに来る道中は騎士服にも似た格好だったが、今ではフリュゲールでもよく来ていたマーメードラインのワンピースは当然素足も見えるし、袖も肘までをかくす程度の袖丈。

首回りに至ってはシンプルなレースが縁取った鎖骨も見える、いわゆるフリュゲールに居た時の普通の格好をしている。

勿論これがハウオルティアなら「はしたない」と誰もが言うのだろう。


「よく似合ってるのにね」

「私の物でよければお貸ししますよ」

「その喧嘩、私が買うと思ってるの?」


言いながらお互い顔を見て、邪悪な笑みを浮かべる。

シアーの胸は男性役を演じるにはぴったりで……


この件に関しては二人の間で何があったか聞いてはいけない事だと俺は判断した。


「所でその髪型はずいぶんとさっぱりされて」

「私の元々の出自知ってるでしょ?

 領主に推薦されて王都まで来たけどそれから伸ばした髪だからね。

 慣れなくっていつか絶対切ってやるってずーっと思ってた所で今回の一件があったからね。

 心機一転新天地で新しい自分探しの為の決別よ」

「相変わらず男前で」


ルゥ姉にそれを言わせるシアーって一体……

俺達は女二人の話しをただただ眺めるだけの傍観者になるしかなく、そしてなぜか話しながら黙々と俺の……フリュゲールで着ていた小さくなった服を空間から取り出してはシアーと二人リーナの体に合わせては取り替えてと言う作業に没頭していた。


「女の人ってすごいよね。

 口と手が別々に動いて頭の中はさらに違う事を考えてるんだよ」

「更に足はじっとしてないし」

「尊敬するね。って、尊敬していいの?」


シアーもどこからか裁縫道具を取出しリーナの体に合わせてサイズを整えて行く横で俺達はクロームから肩を叩かれる。


「そしてこれ以上この場にいると私達に災厄が降りかかる。

 自然の理なので我々は家の警護と就寝に別れよう」

「だったら俺が先に警護するよ。

 クレイは後半で、エンバーとクロームは明日移動だから一度しっかりと休んでおこうか」

「悪いな。その提案飲ませてもらう」


言いながらエンバーはクレイを連れて屋根裏の一角で寝させてもらうと引き上げて行った所で俺には扉を開ければクロームが付いてきて


「ところで君はルーティアと離れて大丈夫か?」


それなりの心配をしてくれたようだが心配ないと扉に背中を預けるように座る。


「フリュゲールでは最初でこそ一緒に行動したけど、ここ数年の大半は別行動ばかりだ。

 むしろ久しぶりに一緒にいるって感じ。

 それだけフリュゲールの治安が良かったって言うのもあったけどね」


言えばだまって俺の隣に座り


「フリュゲールと言う国、外交がなくあまり知らないがどういった国なのかな?

 その、君の目をから見て」


チラリとその隣を伺えば見知らぬ国を思うただの人の瞳で、俺はそれをこの国に来てから何人か見てきた。

この家で眠る二人、そして王都と砂漠に埋もれかけた港を往復する人達。

あの国を知ってもらいたい。

ユキトの記憶を取りもどして半年ほどを過ごしたハウオルティアよりも印象深い緑あふれる国。

あの国をもっと知ってもらいたい。

たとえ、国の成り立ちにおぞましいほどの人の命の上に出来た国だとしてもだ。


「フリュゲールって国はたった一人の気弱な男の子が勇気を振り絞って大切な物を守るために立ち上がってできた国なんだ。

 最初はただ友達の国を見て見たくて、そして誰もが勉強を学べるって聞いて。

 だけど千年の歴史を持つフリュゲールは四公八家っていう特殊な政治のせいで貴族階級が可笑しなくらいはっきりしていて、四公八家とそれ以下って言ってもいい位きっぱりと別れてる。

 王家も在れど後継者不在という状態も数百年続いていたし、それが余計四公八家と言うより四公の力が増長する結果となった」


「ああ、四公八家と言う変わった政治形態なのは有名だが、どうしてそこまで力の差が生まれたのか教えてもらっても?」


他所の国の王族が知ってもいい物だろうかと言うクロームの遠慮がちな言葉に俺は肩をすくめて


「もともとはフリュゲールと言う国が出来た時の王の兄弟が五人兄弟だったところかは始まるんだ。

 フリュゲールと契約した長兄家族を王族として、他の四人が国を四つに分けて治める事にしたんだ。これが四公。

 だけど地図で見てもらっても判るように広大な国土を四人だけでは治めるには厳しくて、四公の子供達に土地の半分を任す事にした。この四人の子供達の土地を八家。

 四家じゃないのは半分任せたといっても親でもある四公の物だぞと言う脅しも半分含まれてるらしい。

 ちなみに最初あったフリュゲールの集落が後の王都。

 最初は王都を中心に地図にバッテンを書いて四公の地。

 王都を中心に十字を書きくわえて八家。

 二番目のレオンハルトを東の地、三番目のリズルラント、四番目のアレグローザを北に、山しかない何もない西の地を末のエンダース。

 こうやって兄弟の力関係を表すように子供達を自分の隣の地を与え温暖な気候と貿易に有意な土地、何より海に面している場所をレオンハルトとリズルラントの子供が占めるような形で四公の間間に八家が収まったというわけ」


「なるほど。

 四人の兄弟とその四人の子供で八家か。

 ずーっと疑問だったんだが、なるほど。

 所でフリュゲールの王は本当にフリュゲールの王族なのか?」

「不謹慎なこと言うなよ。

 ばれたら国と国の大問題になるぞ」

「ああ、すまない。 

 だが、数百年も居ないのにひょっこり現れたって言う方が信じるには無理があるのでは?」

「王族の家系は王になった直後子供を人質に島流しされたのが一番最初の王なんだ。

 東の大陸に無事たどり着いてまた家庭を持って沢山の子供に恵まれた暮らしをしていたらしい。

 らしいって言うのは、そこで精霊と契約した王が寿命で死んだ事で契約は切れる事になる。

 よって後は『ああ、我々とかかわってしまった為に可哀想な運命を背負う事になった子供がぶじ命を繋げている』って言う確認って言うのか、精霊様の言う事には魔力の波動かなんかでわかるらしい。

 それから長い事会う事はなかったらしいが、ばったりと千年後に出会ったあげく、千年前の名前を正しく受け継いでいたって言うから人間の律義さには驚かされたと言っていた」

「……それは、驚かされるな」

真ん丸に目を見開いて驚くクロームに俺は声を立てて笑い、つられるようにクロームも笑う。


「我が国の精霊ロンサールはどんな方なのだろうか……」


笑った声とは似つかわないほどのしんみりとした声で溜息を零すように言った。


「噂は私も聞いた事がある。

 黄金の、それは美しい狼の姿をしていると」

「へえ?」


実物を知る者としては顔の筋肉に出番だぞと号令を掛ける。


「旅の安全の守る精霊だとか、草原の主だとか、この世とは思えぬ美しい女性の精霊だとかいろいろある。

 美しい精霊って言うのは国として誇らしいから狼よりいいよな」


普段は元王族としたすました顔をしてているも、一人身にはやはり伴侶が欲しいようで、やっぱり男として美しい女性と言う言葉は大好物なようで。

でも実物はあれだぞ。

真昼間っから酒をかっくらい、男共を顎で使い、独自の理論を力技で遂行し……

あれ?

これもっと身近にいなくない?

木の扉越し一枚の向こうから聞こえる楽しげな声に耳を澄ませていれば


「リーナもそろそろ大人用の下着を準備しましょう。

 今はまだシアーの物で十分ですが、フリュゲールで作られた胸あてなどいかがです?

 ブラジャーと言うようですよ?

 レースをふんだんに使った布地で、裏地との間には魔物の皮を縫い込んで作ってあるので安定して安心です。

 きゅっと持ち上げてボリュームが出るので見た目も自然で美しい状態がキープできます。

 コルセットなんて絶対身体に悪いので私はこちらをお勧めします。

 むしろ男はコルセットで作られた形よりも触れた時の肌の温度の方が簡単に落とせます。

 そうそう、下ばきもお揃いでレースを使ったものがあります。

 最初は少しスースーするかもしれませんが、ブライズと違って下半身がもっさりしなくて美しい足のラインで世の男の視線を釘付けですよ。ほんと男ってちょろいですね。

 シアーにも勧めたいのですが胸部は脂肪で出来ているので筋肉しかない貴女にはちょっと難しいですかね?」

「たいちょー、そろそろ殴りかかっていいですか?

 の前に、子供の教育的にあまりよくない発言を聞いてる気がするのですが」

「何を言っているのです。

 ダンスをする時の申し込みの数での結果です。

 それに隊長は止めなさい」

「あうう……

 なんて言うかさ、身に付いた癖って抜けないのよ」

「ルーティア様は隊長でしたの?」

「違うわよー。

 魔法師団団長で、王族を警護する第一師団隊長だったのよー。

 その中で私は第一師団アイク隊隊長なんて呼ばれてたの」

「最終的にはですね。

 ですが任命式から十日後にはとあるお屋敷で家庭教師のお話が来ましたので返上いたしました。

 実質は第五師団隊長の席の方が長かったのですよ」

「私は第三師団、いわゆる衛生班ね。

 そこの副隊長だったの。

 女性が出世するとどこでも叩かれるって言うのが社会の洗礼で、衛生班の時は遊撃部隊と同行する機会の多かったサファイアと一緒に組み込まれる機会が多くてね」

「あまりの見え透いた嫌がらせに私が炎の称号を頂いて黙らせただけです」

「炎の称号?」

「ええ、称号欲しさに男共がたった一人のか弱い女性に剣を向けて来るので、私は正しく炎の使い方を教えてあげたのです」

「あれは酷かったよね。

 今思い出しても腹抱えて笑えるけどさー。

 全員耐火装備で12対1って状況だったんだけどね、隊長ったら炎の魔法の爆発力を使って闘技場の敷き詰められた石畳を相手にぶつけたり、床を炎で溶かしてどろどろのマグマに変えたり、壁の崩して埋めたり、最後は魔力のごり押しで相手の耐火装備を破壊する炎の強さでこんがり焼いたり、治療にあたったうちの部隊の子達が夢でうなされたり……

 私絶対逆らわないってあの時心に誓ったわぁ」

「確かに、今思い出しても大人げなかったですねぇ」


しみじみと語る会話の内容が何かおかしい。

リーナの声も聞こえなくなり、隣に座るクロームの息をのむ音がやけに響く。


「まぁ、どれも懐かしい思い出です。

 さて、これぐらいでちょうどいいはずですよ」

「あ、ありがとうございます……」

「あら可愛い。

 もともと男の子の服だったとは思えないわね。

 それにしてもいい素材ねぇ。

 私も何か欲しいわ」

「サイズが合えばディックのを手直ししますのでよろしければいくらでもどうぞ」

「隊長どれだけケンカ買わせたいのですか?」

「勝てると思うならたまには買ってください」

「リーナ!今日は一緒に寝ようね!

 お姉さん物凄ーーーーーく寂しいの!!!」

「寝ている方もいるので少しは静かにしなさい」

「ほっといて!」


なんて叫びの後に派手な足音を聞きながら少しの間二人並んで星空を眺め


「では、私もそろそろ休ませてもらおうとしようか」

「うん。嵐も去ったようだしね」


何故か疲れたような顔をして家の中に入って行ったクロームを見送りながら俺も立ち、そこらへんに落ちていた木の枝を持って地面に突き立てそのまま跡を残しながらぐるりと一周する。

始点と終点を繋ぎ合わせて巨大な輪を眺め、


『この内側に何かが入れませんように、

 この内側に何かが入って来ませんように、バリア』


言いながら線に魔力を走らせるイメージで魔力を送る。

やがて始点から流れた魔力が終点へとたどり着きそしてまた始点から終点へと向かって走るのを感じながら


「我ながらセンスなさすぎだろ……」


こんな適当な言葉でも魔法として成立してしまうこの世界のいい加減な魔法事情に星を見上げる事で泣きたくなる心を誤魔化すのだった。






 

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