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流民の王女

満天の星空の下、魔物を魔法でぶっ飛ばすルゥ姉を夢の中でも眺めながら無事朝を迎えた。

何処か寝不足気味のクローム以外みんなおおむね体調も問題なく馬を連れて出発をする。

クロームは「ありえない」とか「きっと夢だ」とか何やら呪文を唱えているが、それこそ一対一でちまちま魔物と戦う姿の方が「ありえない」し「きっと夢だ」と思うだろう。

ベットでぐっすりと寝てしっかりと食事を摂ったルゥ姉は今日も元気よく魔物を吹き飛ばして行くのを背後から見守りながら


「所で紅緋の翼の人とはどこで落ち合う予定なのさ?」


と、最後尾からルゥ姉の一歩後ろを歩くエンバーに聞けば


「いつだろう?

 まぁ、そのうち会えるさ。

 遅くても現地までにはあえるだろう」

「それ意味あるの?」


思わず突っ込んでしまうが


「この道なき森で出会える確率の方が少ないし、あの奇岩群ならルートが決まっているから会える可能性も高かったけど、そこを抜けたからもうどうだか」


そこは是非とも諦めずに接触してほしかった。


「ま、最悪現地で会えればいいだろう」


それは現地でもあえない事も想定しての言葉なのだろうかと考えあぐねいてしまえば遥か先で一筋の煙が昇るのが見えた。

頑張って山を登っただけに見える山と山の谷間の木々に覆われ隠された村の存在の証明に俺だけでもなくクロームもクレイもルゥ姉ですら到着地点を見つける事が出来て歩きつかれた顔に輝きが戻る。


「なるほど。

 この谷間を下って降りるとなれば後何処かで一泊する必要があるな」

「ああ、斜面もキツイし崖沿いをジグザグに下りながら川を避けるのに迂回して……」


『我が前に 道 切り開け!

 グランウェーブ!』


いきなりルゥ姉が地面に両手をついて、地面をはうように魔法を放った。

地中に魔物がいるのかと思うも、木々は左右に倒れ、地面は波打ち、やがて形となった姿がいわゆる階段で……


「目的地は目の前だと言うのにちまちま遠回りしていられますか。

 行きますよ」


急な階段だがそれでも降りるには苦痛のない段差と言い、きつくなるとずれてまた馬でも降りられる程度となり……


「さすがにありえんだろう……」


エンバーでさえついに零した意見にはクロームに至ってはもはや視点は定まっていなく、一人進むルゥ姉に後ろから馬に早く進めと鼻先でせっつかれて足を運ぶ始末。

それよりも手摺欲しいなとぼんやりと呟きながら笑みを零しているクレイはついに現実逃避に入っている模様。


「それより皆さん何をちんたら歩いているのです!

 せっかくより歩きやすい道を用意したのですからさっさと歩きなさい!」


ルゥ姉の後を追うように馬が待ってーと追いかけて行くのを眺めながら


「これで置いて行かれても文句は言えないから行こうか」


ルゥ姉のやらかす具合についてはいろいろあったがこれもこれでまた問題となるだろう。

だけどやっちまったもんは仕方がないと心の中の幼い俺は何処か達観したようにあぐらをくんでうんうんと頷いていた。


やがて谷底に到着してまたルゥ姉の『グランウェーブ』で階段を上る事になったのだがそこで俺達は気づく。

この魔法便利だ、じゃなくって。

階段は降りた分だけ昇らなければならないと言う当然の事を。

今更気づいた真実に階段を見上げる物の下の方はずいぶん緩やかだったからお馬さん運んでくれるかなー?なんて馬の首筋を撫でておく。


とは言っても谷間から問題の森の中は意外な事に直ぐだった。

降りてきた山とは違いなだらかな丘の様な場所が続き、南側の斜面だった事もあり穏やかな気温と夕方とは言え西日もしっかりと射し込んでいて山奥と言うのを忘れそうなくらい気持ちのいい場所だった。

だけど近づくにつれてエンバーの顔は強張って行き、その雰囲気にのまれるようにクロームもクレイも沈黙に徹する中目の前からヤギみたいな生き物を連れた女性が現れた。


「エンバーじゃないか。

 なんだ?思ったより予定早くないか?

 クローム王子も、ええとクレイ様もご一緒にようこそ。

 他の方達は後からですか?

 今から迎えに行こうと思ってたのに……」


村の入り口ともいえるくらい木が少なくなった場所でエンバーの頭をぐしゃぐしゃと撫でながら


「馬まで連れてきたの?

 この森はヤックルの方が動きやすいって言うのに」

「あー、途中で捕まえる前に着いちまった」


金の髪を乱雑に切りそろえ、大きな剣を腰に佩いて、ヤックルと言われたヤギと馬をたして二で割ったような生き物にわずかな荷物を載せて目の前に立った場違いなまでの美女に


「合流が現地集合になったがこいつがシアーだ。

 通称変態。

 魔物大好きで元々あったこの村に拠点を移してうっはうっはな文字通りの変態だ」


なるほど。

立派な変態だと納得する中


「確かに貴女なら魔物相手なら安全かつ素晴らしい関係を作れそうですね」

「ふぇ?

 ………………………………………」


シアーはルゥ姉の顔をじーっと穴が開くほど、この何とも言えない沈黙が痛いほどに固まった後に


「何でこんな所にサファイアがいるの!!!

 あんた死んだはずじゃなかったの!!!」

「勝手に殺されないでください」

「ただで死んだとは思わなかったけど、港でブルトランが張ってるのを聞いたけどあれからあのおっさん何食わぬ顔で返ってきたのを見たら誰でも死んだかと思ってるわよ!!!」


わあわあと泣くながらルゥ姉の首に抱き着く始末。


「ルゥ姉紹介お願い」


ルゥ姉と同じくらいの妙齢の女性からはまともな会話が出来ないだろうと、呆れ顔で泣きつくシアーに珍しく途方に暮れている姿になんだか助けてあげたくなって切り出せば


「ハウオルティア王宮に居た時の同僚です。

 当時彼女はマルグリット=アイクと言う名前でした。

 別名聖女と呼ばれ、全属性使えるのはもちろん光属性はハウオルティア一と言われています。

 攻撃魔法には少々決定打がありませんでしたが治癒魔法についてはどの国よりもすばらしいセンスを持っているかと思います。

 かつて治癒魔法を教えた時の知人は彼女になります」


「スゲー、ルーティアがべた褒めだ」


エンバーが思わずと言った言葉に俺達全員で頷けばマルグリット改めシアーは標準よりもささやかなサイズの胸を突きだしてふんぞり返る。

判る。

滅多に人を誉めないルゥ姉の手放しの賛辞、ものすごーく嬉しいのはわかるがそれで終わるのがルゥ姉でない事も思い出してくれ……

俺の予想通りルゥ姉の演説はここで終わらずこれからが本番のはず。


「ですが、聖女と呼ばれた彼女の実態は寝汚く、部屋も汚く、貢がれる宝飾にも興味は持てず売り払って酒代に変え、ごらんの通りの美貌で王家の方々を筆頭に星の数ほどの男性からの求婚を断った理由は毛の生えた相手に興味持てないとの性癖。

 そんなの相手するくらいなら魔物の方がましだと城勤めを辞める隙をずっと伺っていたようでしたが、ついに達成できたようでおめでとうございます」

「サファイアちょっとなに言っちゃってくれてるのよ!!!

 あたしの性癖を軽く言いふらさないでよ!!!」

「でも否定しないんだ……」


顔を真っ赤にしてルゥ姉の口を塞ごうとするシアーの手を軽くかわしながら楽しんでる様子のルゥ姉達に俺達のツッコミに彼女は


「別にあんた達に迷惑かけてるわけじゃないからいいでしょ!」


否定もせず目尻に涙をためての抗議に確かにそうだけどさと頷くしかない。


「ですが何時の間にシアーと名前を変えてロンサールでギルドなんてやっていたのですか?」


つまり、ハウオルティアから脱出してきたと言うわけだが、聖女なんて仇名を貰ってる以上簡単にブルトランが手放すとは思わない。

それについてはシアーは顔を歪め


「ブルトラン王が城に乗り込んできた時、一時的に全員捕虜として捕まったんだけど、みんなを助けたかったら聖女の私に妻になれって脅されたの。

 命の問題もあるし、みんなあたしに命乞いするから仕方なくそんな関係になっちゃうしかなかったし。

 ほんと拷問の方がましな日々だったんだよ!

 ああ、今思い出しても鳥肌が……

 何とか耐えに耐えたある日ハウゼルの弟が見つかったってエレミヤ領からの魔法通信を受け取ってブルトランが出陣していったの」


エレミヤ領からの魔法通信となればあの場に居た誰かが密告したなと考えれば今はもう顔を思い出せない港まで見送りに来たストーカーの奴かと思わずにはいられない。

別れ際のあの今にも殺しにかかって来そうな視線にはそれほどの恨みが込められているのだけは今も覚えている。


「悪いけどそこをチャンスと思って城を脱出したわ。

 みんな私を止めにかかったけど、サファイア仕込みの攻撃魔法に耐えれる人物何てもう残ってなくって、厩から馬を掻っ攫ってロンサールに逃げ込んだわ。

ロンサールも酷い時って言ったら酷い時だったけど、今よりもましな状況で怪我人の面倒見てたらガーネットにスカウトされて仲間になったけど、やっぱり男だらけの集団だったからね。

 顔色悪くしていたら一人で生き抜く力を欲するのなら森に行ってらっしゃい。

 たまにハウオルティアの様子を報告してくれると助かるわ。

 って感じでパン屋にお使いに出される位の気軽さで放り出されたのよ!

 もっとも街での生活よりもこっちの生活の方が私にあってたのがすごく悔しいけどね!!!」


フーッ、フーッ、と息を荒げての説明に俺達は誰ともなく座ってシアーの過去バナを楽しく聞く間にお茶とクッキーも摘まませてもらった。

クロームはなんか眉間に皺を寄せていたけど、黙って食べてる当たりだいぶ俺達に染まってきてる証拠だろう。


シアーもずーっと黙っていた鬱憤を吐き出したようで糸が切れた人形のようにペタンと地面に座り、ルゥ姉が差し出したお茶とクッキーを当たり前のように受け取って喉を潤している。

類は友を呼ぶって言うか、ルゥ姉の友達をやってただけあるなと妙な関心をしながらクッキーを追加しておいた。


「言い忘れましたが今私はルーティア・グレゴールと名乗っています。

 サファイアと言う名前は忘れてください」

「ふーん。

 で、ハウゼルの弟名前なんだっけ?まあいいや」

「相変わらずいい加減ですね。

 この子はディータ・グレゴールと名乗らせています。

 ギルドではディックで登録してます」

「あー、なんとなく思い出した。

 リーディックだったか、って結構そのまんまじゃん。

 大丈夫なの?」

「いずれは何処かでばれるでしょうから別にいいのでは?」

「だよね。これだけ強くグレゴールの血を引いてたら嫌でも気付くよね」


なんだかすごくまったりとした時間が流れているのは気のせいか。

馬達はその辺の草を食みながらきゃっきゃきゃっきゃと駆けまわっている。

意識は遠くにあるが平和だ……

やがてやってきた夕闇には遠い時間でも暗くなる山間の時間をどこか懐かしくユキトの世界でもそうだったなとぼんやりと飲み干したお茶のお替りをしていれば


「それよりも夜になるから一度村の様子を見たい。

 村に拠点があるのなら俺達の寝る場所もあるんだろうな?」


エンバーの言葉にシアーの額に汗が一筋流れるのを誰もが見逃さなかった。

見逃せなかったと言うくらいにあからさまに挙動不審な彼女の様子にエンバーは黙って立ち上がり村へと向かう。


「あー!分かった!

 ちゃんと説明するから剣と魔法だけは使わないで!!!」


慌てて止めるシアーの慌てぶりにルゥ姉が嬉しそうな顔で立ち上がる。


「では休憩は終わりです。皆さん参りましょう」


茶器を手に取りくいっと一気に飲み干しての姿に俺達は心の中で会話をする。


行くのか。

行かねばな。

行かないと何するかわからないからな。


念話なんてできないけど確かに俺達は今心で会話が出来た瞬間だと確信した。




そこからは誰の案内もなくても村の位置はすぐに分かった。

エンバーの罵声が耳を塞いでもこの静かな森に響き渡っていたから。

誰ともなく首を傾げながら小走りで向かえばそこには確かに村があった。

作りかけの家が点在し、その中央だろう広場でエンバーは村人達に剣を抜いて罵声を浴びせていた。

全力でシアーが抱きしめて止めにかかっているがエンバーの怒りはそれでは押し留まらなかった。


「何でこんな所にハウオルティア人が勝手に村に住み着いてるんだよ!!!」


悲鳴のような叫びは俺達に総てに理解させるには十分だった。


「シアー、説明しなさい。

 エンバーも落ち着きなさい」


ルゥ姉の絶対命令のような声にエンバーはとりあえず掴みかかるような真似だけは押さえるように地面に座り、シアーも視線を彷徨わせながらエンバーと村人達の間に入って俺達を見て


「前回の探索任務の時魔物をやっつけた所まではみんな知ってるよね?」


聞かれればクロームもクレイもみんな頷いて見せる。


「そのちょっと後、ここで私の拠点を作ろうとしたらこの人達が住み着いていたの。

 ハウオルティアの国境沿いの村に住ん出た人達だったんだけど、ブルトランの悪政と魔物と山賊の襲撃から逃げてきたの。

 実際私も様子を見に行ったから村が魔物に滅ぼされた様子は確認したわ。

 ハウオルティア居ても地獄、どこに居ても地獄。

 だったらここに一緒に住まわせてほしいって言われたの。

 もちろんここはロンサール国だからダメだって言ったし、私にそんな権限はないとも言ったわ。

 だけどこの人達ほとんど戦闘力もないしここでどこか行けって言っても直ぐ魔物に殺されるのは考えなくても判る話じゃないの。

 だから、次に行くまでの休憩ならって言ってほかっておいたらいつの間にか村みたいになっちゃったの……」


しゅんと項垂れるシアーにクロームは仕方がないと言いつつも彼女の前に立ち


「私はクローム・フロスだ。

 ロンサール国のギルド・雌黄の剣のギルドマスターを務めている。

 私の出自はロンサール現女王の二番目の息子になる。

 わけあって王家を出たが、それで王族としての務めが免除されたわけではない。

 ハウオルティアより国境を越えて居住区を作るのはどの国に置いても違法とみなし、流民としての認定をさせてもらう。

 当国は流民に対し何の束縛も納税の義務も与えない。

 代わりにどのような事が起きても一切関知せず、たとえロンサール国民に殺されるような事件が起きたとしても我々はその者に一切の処分を与える事はない。

 なぜなら我が国では流民とは人ではなく物と言う扱いとなる。

 牛や馬、鳥と言った動物と同じ存在とし、持ち主の居ないそれらには耳を傾ける存在でもない事を覚えておいてほしい。

 それでもここに居つくと言うのならたとえ作った家や畑が破壊されようが貴殿の申し出は一切受け付けず、そして申し立ても一切認めない。

 それでよければこの森にひっそりと隠れ住むぐらい目を瞑ろう」


どの国でもだいたい流民の立場はこんな感じだ。

改めて自分達が流民認定されてショックな顔をしているがクロームは知った事ではないと、いつの間にか住み着いて開拓しているよそ者になんとなくご立腹のようだ。

当然だ。

移動できない国の中枢はあれだけ貧困に喘いでいるのに流民たちの方がよっぽど立派な人の暮らしをしていると言う現実を目の当たりにすれば彼の冷たい言い様にも納得は出来よう。


エンバーは釈然としないと言う顔で何処かへと歩き出したが、すぐに俺達にまた押さえつけられる事になった。


「誰だ!

 俺と母さんの家に勝手に住み着いた奴!」


それはもう悲鳴と言っても良かった。

裏返った声と共に彼からあふれ出た怒りに満ちた魔力の波動に一瞬呼吸を忘れる中シアーが「あああ、やばい!言い忘れてた……」なんて顔を真っ青にして駆けて行くから、ビビッて固まってる村人たちを置いて追いかける羽目になった。


そこで見たのは俺とそうたいして変わらない女の子が怯え、恐怖に粗相をし、泣きじゃくりながら蹲り、小さな水たまりの中で頭を地に着けて許しを請う姿だった。

エンバーはその女の子のすぐ横に剣を突き立てて建物らしき場所から髪をひっつかみ、彼女の髪が抜けるのもお構いなしにボールのように彼女を叩き出していた様子にさすがのルゥ姉も駆け寄ってエンバーを全身で抱きとめていた。


「落ち着きなさい!

 貴方らしくない!!!」


犬歯までむき出しにして、泣いて吠えながら今にも噛み付かんと言わんばかりのその姿にシアーも泥だらけになってる女の子をなだめさせながら、呆然と見守るしかない俺達はただ突っ立ってるだけ。


「落ち着いていられるか!

 ここは母さんが髪を売って、爪を何度も剥がせながら俺の為に建ててくれた家なんだ!

 俺と同じ黒髪だからって安くされて、移民だからって村の奴らの協力どころか何度も建て掛けた柱を蹴り倒されたりされても作ってくれた家なんだ!

 地面じゃ寒いだろうって、風が冷たいだろうって、雨に濡れるだろうって、陽が昇ってから沈むまで村長の畑で働かされたあと真っ暗な中で作ってくれた家なんだ!

 そして魔物がこの村を襲って来た時、隠れていたけど見つかった時……

 母さんが食べられている間に逃げなさいって、命を引き替えに俺を逃がしてくれたのもこの家の、この場の出来事なのに!

 それなのに誰が許して住み着いてやがる!!!」


あまりの壮絶な過去に言葉を失い、クレイなんかは涙まで流していた。

シアーもそこまでエンバーの過去を知らなかったのか絶句して驚きの顔を隠せずにいるその腕の中で叩き出された少女も自分がどんな思いで建てられた場所に居たかを理解して


「ごめんなさい!ごめんなさい!」


繰り返し泣きながら謝る中、掴みかかろうとするエンバーをルゥ姉はさらに強く抱きしめて


「もう彼女はもちろん誰も貴方のお母様の眠りを妨げるような事はしません。

 貴方を生かせるために命を捧げたお母様の大切な墓標を穢すような真似は致しません」

「勝手に住み着いてた奴らなんて信じられるか!」

「信じなくても構いません。

 ですが少し貴方には休む必要があるようです」


そう言ってルゥ姉はエンバーの耳元に口元を寄せて何か、俺達にも聞こえないくらいの小さな声で魔術を使った。

瞬間的にぐらりと体が傾き、涙を流しながら強制的に眠らされたその姿を見てやっと大きく息を吐き出す事が出来た。


「シアーは知ってましたか?」

「この村で何かあった事は知ってましたが……

 あんなふうに離別していたとまでは……」


同じようにクロームに視線を移すも彼も知らなかったようで青ざめた顔を隠せずに頭を振るだけ。


「まだおふくろさん失くした悲しみに向き合えてなかったんだな」


ギルド紅緋の翼のホープのイメージが強く、ここまで心に傷を負ってるなんて想像もつかない普段の彼の様子にクロームはルゥ姉からエンバーを受けとり


「少し休ませる場所はどこに?」

「だったら私の家にしよう。

 カタリーナ、貴女も来なさい。とりあえずその姿を何とかしなきゃ」


粗相をして、泥だらけになり、髪をぐしゃぐしゃにされ、顔も涙と顔面から地面に飛び込んだのか鼻血と擦り傷で酷い事になっていた。


「だけど……」

「関係ない。

 貴女がたとえみんなからどれだけ嫌われようともロンサールの民から見れば変りはないのだから」


どうやらこのカタリーナと言われた女の子は村八分と言うか微妙な立場のようだった。


「二人とも怒らないで聞いてね。

 この子、ブルトランの子なの。

 ブルトラン王の娘カタリーナ=ヴィレン=ブルトラン。

 23番目の正真正銘のブルトラン王女なの」


シアーの言葉の後に吹いた一陣の風が俺達の間を認識させるように通り過ぎて行く中、身動きもできずに視線を合わす事の出来ない彼女をただ見つめていた。




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