星空の誓い
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週一での更新目指してますが(ここポイント)よろしくお願いします。
沈黙とは時にして耳が痛いほどの静寂だ。
たとえすぐ隣で魔物が出たからと魔法をぶっ放したり、群れを成してきた魔物に魔法をぶっ放したり、うっかり遭遇してしまった魔物に魔法をぶっ放してみたりと身も蓋もない展開が目の前で繰り返していてもだ。
見えない、聞こえない、気のせいだろうと現実逃避すれば目の前の惨事さえ小鳥が通り過ぎて行く物に等しいだろう。
こんな理不尽さは悲しい事に俺は慣れているものの、まだ一度や二度の経験では納得できていないエンバーとクレイは置いといて、魔物の気配を察しては剣を構え何やら呪文を唱え始めるクロームの……
向ける先のない力の矛先は毎度ながら気の抜けた炭酸のようにしゅわんと消えて行き、そして次々に起きるルゥ姉の一人舞台に現実を理解していくイケメンはまるで修行僧のような達観した顔になって行く。
一気に老けた感じだが、全力で見ないふりをする。
魔物ごと道を切り開き、有言実行と言わんばかりの馬車の通れる広さを確保しながら何事もなく進むルゥ姉と殿を務めるクロームとの間で俺は居た堪れなさに何事もなく何事にも気付かないと言うスタイルでもくもくとルゥ姉の背後を着いて行く道を選んだ。
奇岩と奇岩の間をすり抜けるように、そしてなだらかな坂道は容赦なく俺達の体力を削って行く。
足元は砂礫にとられ、荒野ほどではない物の薄い木の枝から差し込む容赦ない日差しは肌から水分を奪っていく。
だけど王都よりも少しだけ和らぐ体感温度にルゥ姉は足をどんどん進めるが……
「ルーティア、少し休憩しよう」
エンバーの声に後ろを振り向けばかなり離れた所にクレイとクロームの姿が見えた。
「随分離れてるではありませんか」
「あんたの足が速すぎるんだよ」
「何でもっと早く言わないのです」
「さすがに限界だから今言った所だ」
「なるほど。
ですが、せめて限界前までに仰ってくれればよかったのに」
俺を挟んでエンバーとルゥ姉はいい合うが十分もした頃二人がようやく合流し
「一応ここは魔物の住む地域だ。
戦力が小さくならないように分断しない速度で進行する。
一人もはぐれ落ちないように、常にお互いが目の届く距離にいる事が絶対だ」
珍しく険しい表情で強く言うエンバーに俺でなくともルゥ姉も彼の主張は正しくて言い返せれなく
「悪い。ちょっと身勝手なペースだった」
「申し訳ございません。背後で付いてくる足音が聞こえていたのでしっかりついてきている物だと思っておりました。
全体の様子の確認を疎かにしてしまいました。
無事なようで何よりでしたが、このような事態は二度と起こさないように注意します」
息を切らせて合流した二人は俺達の謝罪は良いと手で止めるもその半端ない汗にエンバーがどこかで休憩しようと提案をする。
「とはいえ、どこか休む場所あるのか?」
奇岩の連続の地に木陰は少なく、また正午に近い時間。
太陽が大体天頂に近い場所にあるだけに影は少なく休むにも体力を削られるのは目に見えていたが
「水を飲みながら歩いてから少し休もう。
もう少し先に崩れた奇岩があるからその場所が休憩所になる」
エンバーの言葉に俺は小さな水球をみんなに配り、そしてビスケットを大きな塊で焼いた物を包丁で棒のように切った物も配る。
ナッツと表面に塩を振ったちょっとしょっぱいものだが、流れる汗に塩は絶対必要な物で、わざと食べにくいようにばさばさのやや硬い物を作っておいた。
ルゥ姉が顔を顰めて食べているが、クロームやクレイは食べにくそうにゆっくりと、そして水が一気に飲めないように妨害するビスケットの存在感になるほどと一人納得しながらもそもそと配当分を食べつくしていた。
「とりあえずここから先はエンバー、貴方が案内しなさい。
クローム達は私の後に、ディックが殿を務めましょう。
ディックはクロームとクレイと離れずに一緒に歩くように」
そのような配置になぜか馬達が喜んだ。
さすがに出来たばかりの安全が保障されていない道に馬に乗っては危なく、馬は勝手について来るからまてが効くはずもなく、ゆっくりとついて来てはいるがさすがに馬達もクローム達を乗せてまでは難しいようだった。
荷物こそ背負ってくれるが、俺の背後では遊んでと髪を食んだり馬っ面を押し付けたりとやたらとやんちゃな馬達に溜息を零しながら顔を押しやったりすれば遊んでもらえてると言わんばかりにさらに顔を押し付けてくる。
もう好きにしてくれ。
何度かの休憩を挟んでの道中は当然のようにルゥ姉の魔法が炸裂して生まれたての道ができて埃の舞う中背後から馬に構って遊んでとド突かれる道中……
疲れないわけがない。
辿り着いた休憩所ごとにぐったりと小一時間ほど眠らせてもらった。
夕方には奇岩群を抜けてさっきよりも厳しい勾配を上る事になり
「もう少し先に洞窟がある。
今日はそこまで行くぞ」
薄暗くなり足元も危うい中エンバーは知った場所と言わんばかりに足を進める。
黙々と歩きながら周囲も真っ暗になり月明かりは木々の枝に隠されてしまう。
隙間からは満天の星空が覗き、この世界ではあまりの星の多さに眩暈すら起きそうになる。
やがてついた洞窟でキャンプの準備をする合間に星空を見上げていれば
「ここはまた街中と違って星が多いだろう」
エンバーが俺と並んで星を見上げていた。
「うん。
砂漠よりも空が近いのもあるのかな?
フリュゲールはオルトルートが明るくてあまり星空とか見上げた事なかったけど、そういや雲も多かったな」
「ああ、この国は乾ききってるから雲すらもう長い事見てないからな。
砂漠と星空がこの国の名物だ」
「お金かかってなくていいじゃん」
「自然の恵み……なのか?」
「昔は空なんて見上げた事なかったから、ロンサールには悪いけどこの星空ばかりは感謝してる」
「星好きなのか?」
「まぁ、好きだな。
って言うか、そうだな……」
そう言って口を閉ざしてしまったものの、ルゥ姉が持って来た食事と暖かなお茶を星が見える所で並んで食べはじめながらエンバーがぽつりぽつりと語り出した。
「獣暴の乱があって、俺は森の中を彷徨っていた所を運よく騎士団に発見されて、気絶している間に王都へと運ばれてたんだ。
その後孤児院に収容されたんだけど、国中がボロボロでどこの街が無くなったとか、どの村が無くなったとかそんな話しかなかった頃。
親が亡くなった子供が珍しくもなく、親からはぐれた子供が攫われるのも珍しくなく、親が子供を殺すのも珍しくなくなった一番最悪の頃だ。
俺は孤児院で無気力に、床に座って壁にもたれた状態で一日を過ごしていた。
孤児院の院長が子供を売りとばしているのを目の前で見ながらもその様子をただ眺めてたんだ……」
運がいいのか悪いのか判らないが、骨を折り、顔どころか体中あざだらけの俺は商品としては誰も価値を見出さなかった。
大体の子供が労働力として、運が良ければ養子に、最悪なのが娼館に売られる事だ。
どの家も子供を失った家が多く、そして働き手を失った家も多い。
それを埋める為にわずかな金銭で子供達は手ごろな商品として扱われ、それすらの価値がなかった俺はただ売れ残りとしてわずかな食事も与えられずにもっと客に媚びてもらい先を必死に見つけろと折れた骨を蹴られないように蹲って耐えるのが日常だった。
当然だが、そんな悪い奴らは何時までものさばる事は出来なかった。
ある日の夕方、半分脱水症状で朦朧としていた中扉が吹っ飛んでいくのをついに幻覚が見えるようになったと思った。
だけどその夕日を背負うように、夕日色のドレスと夕日よりも赤い髪を揺らしながら、逆光で顔が良く見えないにもかかわらず赤い紅を引いたかのような口がにやりと笑うのを俺は座る事も辛くて横たわった体で見上げていた。
それは床を鳴らして室内の真ん中まで着た頃、それが人でやたらとこんな時だと言うのに綺麗な女だとぼんやりと理解していた。
女はぐるりと室内を見渡して
「院長。
少しおいたが過ぎたようだね?
こんな小さな子供を他国に売り飛ばすなんて許されてると思ってるのかい?」
女を筆頭に何人もの男が室内に入って来た。
その中にクロームが居て、女はクロームにあいつを捕まえて騎士団に渡せと指示していた。
クロームは室内に転がっている俺とほかの子供を呆然とした顔で眺め、それから見た事もない位怒った顔で院長に飛びかかっていた。
「ったく、こんなやせ細っちまって……
セイジ!治療班を、そして子供達にたんまりとご飯を食べさせてやんな!」
女はセイジと呼んだ何処か気弱をうな男が引きつれた男達にここに居た子供達を孤児院から抱きかかえながら連れ出して行った。
その中で俺の番となった時、その女が俺の前に立ち顔を歪め
「骨が折れてるじゃないか。
治療してやるよ」
初めてみた魔法はキラキラしてて幻想的なくらいに眩しくて
「ありがとう」
って言えば唇が割れたけど、それでも美しい光景にこの体のどこにまだ残っていたのか涙が溢れて、治療が終わるまでの景色をずっと見てたんだ。
だけどそれもわずかな間で、途端に痛みが無くなった体に女は立ち上がって俺を抱き上げてくれた。
「なぁクローム、一人ぐらい家で面倒見ても構わないだろ?」
「一人ぐらい……って、ガーネット。
貴女が子供を育てられるのですか?」
やたらと身なりのいい男、クロームと呼ばれていた奴は戸惑いながらも長い事風呂どころか身体を清めてもない俺を頬擦りする女から身体を一歩引いている中
「子供は自分で勝手に育つ物さ。
あたしはこの子に寝る場所と暖かいご飯を食べさせてやって、道が外れそうになったら怒ってやるくらいしかできないさ」
「それを育てるとは言えないと思いますが……」
「なあに、細かい事は周りの奴らにやらせればいい。
たくさんの人間で面倒見れば何とかなるってもんだよ」
そう言ってわけもわからないまま俺は女に抱きかかえられたまま一緒に連れてきた男達を置いてきぼりにして一軒の家へと連れてこられた。
今でこそ我が家だが初めて見たそこはやたらと物騒な物を抜き身で持ち、生傷絶えない姿と小さな子供から見れば見上げるような体格の男ばかりで
「ただいまー!
今日はこの子供を貰って来たぞー!」
住んでいた村にはないような大きな食堂のような家に付いた途端ガーネットと呼ばれた女は俺を片手で持ち上げてまるで猫や犬のようにみんなに見せびらかしてくれた。
当然だが食堂のような家、改めギルドの拠点に居た連中はガーネットの子供の扱いに顔を青くして、俺をガーネットから奪い取り正しい子供の抱き方で抱えて
「子供は猫や犬じゃねーんだ!
こうやって抱っこするんだ!」
膝の裏に腕を回してそこに座らせるように俺を抱え上げ、俺は慌てて男の頭にしがみついて落ちそうになる体を男に縫いとめるも、長い事動かずにいた体を急に動かしたために眩暈がして、周囲が騒々しい中ついに意識を飛ばしていた。
長い事眠った後は陽射しの匂いの残るシーツに埋もれて俺は目を覚ました。
室内からは何やら美味しそうな匂いがして、何とか体を起こしてそちらを見れば、昨日俺を抱きかかえていた男が台所で食事を作っていた。
筋肉だるまがあまりにも手馴れた様子での料理風景はまだ何か夢を見ているのかと思うも、俺の眼が覚めた気配に料理を器に盛ってやってきた。
「やっと目が覚めたか。
ガーネットから起きたら飯を食べさせてやれって言われてるんだ」
野菜と肉がわずかに入ったスープをテーブルに並べて薄っぺらいパンを添えて食べろと言う。
久し振りのまともな食事に俺はスプーンも使わず器に直接口をつけて、咽ながらもスープを一気に飲む。
俺のこの急な行動に男は驚いていたものの笑いながらおかわりをよそってくれた。
それからパンを食べ、スープを飲み、パンを飲み込んだらまたパンを口に詰めてスープを飲んで……
久し振りの食事に胃袋が「いきなりは止めてぇ!」と拒絶してパンを三枚食べた所で吐き出してしまう事になったが、俺の当時のあんまりな姿と、食事への執着ぶりに男はなるほどねと何か勝手に納得して、それから俺はその男、当時の紅緋の翼のナンバー2のウード・ウーヴェに長い事面倒を見てもらう事になった。
時が過ぎて俺が13歳になって初めてギルドの城壁外への任務に連れてもらえることになった。
食材探しと言う魔物の討伐についに参加の許可が下りてウードについて行く形で初めて城壁の外へと出た。
城の外はまっ平で、どこまでも荒野で、遠い夕日が一番近くにある物と錯覚をしてあっけにとられている中一晩中馬を走らせながら、本当なら真っ暗で怖いはずなのに全力で馬を走らせる楽しさに夢中になったさ。
だけど一晩中走らせるのは結構無茶な事で、俺は一番最初のセーブポイントで熱を出して今回はここまでってお目付け役をつけられてリタイアとなったんだ。
凄く悔しくて、何もできなくて、ただ馬を走らせただけの結果に落ち込んで。
お目付け役のルッツは初めてでここまでみんなに追いついて着いてこれれば十分だって慰めてくれたけど、俺より3つ年上で少し前に城壁外に出たルッツは余裕笏癪な顔で俺の世話をしてくれたのがまたひどく落ち込ませてさ。
みんなが戻って来る間の五日間ずっとふてくされて寝たふりをしてルッツを困らせてたんだ。
だけどみんなが戻ってきて明日の夜には出発するって決まった夜にルッツは俺を外へと引っ張りだしてきたんだ。
「エンバー、お前はせっかく城壁の外に出てきたのに凄く勿体ない事をしている」
ギルドのメンバーとして受け入れてくれたのにガキみたいに一人ふてくされてセーブポイントでルッツに全然協力しなくて、蹴り倒されても文句が言えない事を俺はしてたはずなんだ。
だけどルッツは満面の笑顔で手を真上に伸ばすもんだから俺は反射的に殴られると思って目を瞑っていたんだ。
待てども頭を叩かれるはずのげんこつは振ってこなくて、不思議になってそっと目を開ければルッツはただただ笑みを浮かべた顔で手を空へと向けていて、俺はやっとずっと眺めていていた地面からルッツの手の先へと視線を上げたんだ。
そしたら今夜と同じような満面の星空だろ?
森の中で育っていた俺には見る事が出来なかった景色で、今にも落ちて来そうな光の粒が、初めてガーネットと出会った時に見た魔法とそっくりで。
この夜空を見ると思いだすんだよ。
あの日、初めて出会ったガーネットが見せてくれた魔法と同じものがこの空に広がっててさ。
城壁の中では見えない世界って言うのかな。
それを教えてくれたルッツに泣きついて謝って、何事かとみんな洞窟から出てきてようやく紅緋の翼の一因になろうって、決意したんだ」
二人肩を並べて星空を見上げるも
「スゲー感動的な話を聞いたばかりで聞くのもなんだが、一員になろうとした前まではどんな思いで紅緋の翼に居たんだよ」
聞けばエンバーはなんとなく恥ずかしそうな顔をして
「最後の一匹まで魔物を殺す為……」
なるほど。
そりゃ恥ずかしいわな。
身の程知らずと言うか、世界を知らないと言うか……
「そこからは必死だったさ。
母さんの仇をすべて殺す事しか考えてなかった俺がこんな綺麗な世界の中で生きている奇跡に気づいて、その世界を教えてくれたルッツが暫くして魔物に殺されたんだけど復讐だけじゃダメだって間際にルッツに教えられて、守るだけでも導くだけでもダメだって。
自分から歩みながら考えないと自分すら助ける事は出来ないって教えてくれたんだ。
だから俺はギルドに属して同じ志を持つ仲間と、たとえそれが茨の道でも自分の目で見て自分の耳で聞いて自分の心で正しいと信じた道を突き進む事を貫く事にしたんだ。
ルッツが死んだ時にも広がっていたこの星空に誓ったんだ。
だから、星が好きとかいう以前に星を見ると……
自分の誓いを今も守り続けているのを確認してる。
星が好きなのには違いないんだけどな」
最後はなんかあやふやにはぐらかそうとするも彼は少し柄にもなく照れていたが、きっと滅多に言わない本音とやらをうっかり口を滑らせて止める所を見つけれなくて全部話してしまった所なのだろう。
いつものつんけんとしたぶっきらぼうななりはなく、珍しいまでの饒舌ぶりに後ろではクレイもクロームもどこか嬉しそうに微笑んでいた。
ルゥ姉もいつもならどこかで話を面白そうに色んな所を聞き出そうとする所だが、まるで黙ってても全てを話してくれると知っていたように黙って耳を傾けるだけで笑みを浮かべていた。




