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森林破壊はほどほどに

西の森、通称ベルンとの森へと朝日が薄っすらと背中から射す頃になってようやくついた。


「まぁ、前回と同じぐらいに付いたか」


ひとまずほっとしたような顔のエンバーは森の中を馬から下りて木々の枝で作られたトンネルのような獣道っぽい道を半刻ほど進めば切り立った崖に辿り着き、その隙間に馬の手綱を手放して滑り込むのだった。

クレイも着いて行って暫くして


「大丈夫。

 馬を連れて休憩をしよう」


いくら馬に乗り慣れた人達でもさすがに一晩中馬上の人と生れば体にかかる負担は半端ない。

馬から鞍を外し、ちょうど良い窪みに水を張ってやれば馬達は美味しそうに水を飲み始め、ルゥ姉はコンロを用意はじめた。

最も俺達の分はコップに水を注いで別にある薬缶に時短を兼ねてお湯を入れてお茶を用意すると言う手早さにクロームは失笑していたが、すぐにありつけた食事の用意に誰もが率先して手伝いに来てくれた。

俺もカヤが焼いてくれたパンに鶏肉を挟んだものを食べてお茶を貰うと言う食事にありつけたところでエンバーに休むようにと言われたが、横になって絶壁の崖を見上げ


「ロンサールに来てから平らな所ばかり見てたからこう言った立体的な自然を見るとなんか……不思議な気分だ」


思わず口にした言葉にクロームが俺と同じサンドイッチを食べながら隣に座り


「ああ、この国に住んでいる私もそう思うよ。

 ロンサールが荒野になる前も一面の草原だったから、こんな見上げるような崖を見た時は口を開けたまま随分と見上げていたらしい」

「らしい?」


思わず聞き返してしまえば


「兄がな、森を初めてみた時も崖を見た時も、この先にある滝を見た時もお前はいつも口を開けて動かなくってな……って言うのがお約束だった」


今は亡き人を偲んでくすくすと笑いながら語る話は彼の心の中で整理が出来た人になっているのだろう。


「この森自体がロンサールでは珍しい所ですよね」


ルゥ姉までやって来た。

その手には三人分の暖かな茶を持っていた。


「一度この森を通ってロンサールに来た事がありましたが、奇岩と言ったでしょうか。

 山ではなく切り立った崖が連なる森と言っていいのでしょうか。

 ハウオルティア側は小さな山々となっていて、途中から山が切り崩されたようにこのような地形となる切たった岩々の巨石群。

 地質学者達も他国でなければ研究にと言ってはいましたが?」

「この森は今では魔物の巣窟だ。

 命がけになる」

「はい。

 ので、指をくわえて眺めていましたよ」


呆れたように溜息を吐いて笑うルゥ姉だが「当時は大した魔物なんていませんでしたのにねぇ」と言うもルゥ姉の戦闘力を考えたら真に受けてはならない言葉だ。

そんな奇岩群の話しをルゥ姉と聞いてる間に俺はいつのまにか寝ていて、目が覚めたら隣にはクレイが寝ていた。


ここ何所だっけ?


陽射しの射し込まない薄暗い岩と岩の合間を眺めながら少し遠くからの談笑する声が聞こえた。

体を起こしてそちらへと向かえば


「おや、もう起きましたか。

 もう少し休んでいてもいいのですよ?」


ルゥ姉が疲れのとれたすっきりとした顔で食事を俺へと差し出してくれた。


「ルゥ姉は休んだの?」

「ええ、クロームから興味深い話を聞いた後に休ませてもらいまして、先ほど食事を終えた所です」


なるほどと聞いたものの当の話し相手はまだ寝ているようだが……


「クロームなら俺が起きてから休んだから、まだやっと眠ったって所だ。

 それよりもこの女ベットを持って来たぞ……」


信じられんと言う顔で俺に訴えるエンバーにルゥ姉は当然と言った顔で


「持ち運びできるのなら寝袋より快適です。

 前回の反省より今回は実験的に試してみましたが……

 野宿にベットはいささか変な気分でしたね」


寝心地は悪くないのですがと言われても俺もエンバー同様白い目を向けるしか出来ず、絶対収納力は上げてやると密かに決意する。

ほら、やっぱり背中痛いしね。

と言うか、クロームがエンバーが起きるまで頑張った理由はここか?と頭の中で冷や汗を流す。

雌黄の剣の頭をここまで酷使できるルゥ姉に頭痛を覚えつつも、どこか営業スマイルの皆様に盛大に謝罪をする。心の中で。


「所でここからどうやって行くのさ?

 最初の説明だと森沿いに北上するとか言っていたけど……」


この森の大きさがどれほどの規模か知らないがだいぶ森の中に入っている。

もう一度砂漠まで歩いて出るのかと思うと少しうんざりしていたが


「この岩の合間を縫って行くんだ。

そうするとだいたい森沿いに北上すると言う形になる」

「なんか詐欺っぽい話し方だな」


思わずジト目でにらんでしまえば


「あんな熱い中歩いてられるか。

 数年もすれば荒野もこっちまで広がってくる。

 風にこの岩も削られてそのうち何もなくなる物さ」

「削れてなくなるって……」


唖然として聞き直してしまう。


「まだあまり知られてないけど最初はこうじゃなかったんだ。

 大体まだ馬を一日は知らせれば森に到着……

 最初休んだセーブポイントまでは森があったらしいんだ。

 その頃俺はまだガキだったから城壁の外には出た事なかったから知らないが、この辺りはクロームに聞くと良い。

 港の周辺もまだ木々が茂っていて砂に埋もれるような事はなかったんだ。

 わずか数年で荒野がここまで広がって、この奇岩群もずっとセーブポイントに近い所まであったって聞いてる」


エンバーの説明に雌黄の剣の一人が、数年程度で狩りも難しくなったとぼやくのを息をのみながら聞く。

だって、それはなんというか……


「まるでカウントダウンだな……」


ぽつりと呟いた言葉に誰もが首を傾げる中、俺同様真っ青な顔でルゥ姉が息をのむ。


「そのカウントダウンって一体どういう意味で?」


賑やかに衰退していくかつての森の光景を語る一角の隣で俺とルゥ姉そして位置的にたまたま居残ってしまったエンバーが俺のなんとなく小さくなっていく声に懸命に耳を傾けていた。


「そんなのそのままだ。

 ロンサールが我が子可愛さに精霊王との契約を破った。

 それはロンサールとこの土地に……罰だよな。

 約束を守らなかった罰が降りかかってきてるんだ。

 きっとこの森もそのまた昔は何もないただの裸の崖、それこそ奇岩群かなんかで、ロンサールとの契約を期に草が生えて木が育ち、豊かな平原の国になったんだろうが、ロンサールも精霊としての力もほぼない状態だし、この衰退ぶりを見るとロンサールの精霊としての……」


終わりまでの時間と言うを最後まで口に出せなかった。

それからそんな最悪な事を間違いだと言うように頭を振って


「あくまでも俺の推論だ。

 さすがにこんな事フリュゲールでも聞いた事ない。

 だけどあのロンサールの様子からだとあながち間違いじゃないし……」

「あの延命作業はただの時間稼ぎにしかならないと?」

「本格的に延命作業が必要なら、この国自体を何とかこうなる以前のようにしないとけないんじゃないかな?

 国と精霊があっての恩恵だ。

 精霊王との契約はそれだけ影響を与えるぐらい重要な物だったんだろうな」


黙ってしまうルゥ姉の代わりにエンバーが俺達と同じように声を潜めてのり出してきた。


「お前ら一体何の話してるんだよ……」


一体何のことを言ってるんだと、頭では理解していてもそんな事ありえる分けねえだろとどこかまだ何かを信じたいと言うような縋る視線から俺はそっと視線を反らせ


「ただの推論だ。

 ひょっとしたらロンサールは国がつぶれて行く様を今体験しているって事だ。

 五年で国の三分の二を失ったんだ。

 あと5年ほどで国は丸裸になるだろう。

 もっとも隣国には影響は出ないはずだ。

 フリュゲールとガーランドが国境沿いできっぱりと環境が変わるように……」


「なんで……

 なんでロンサールはそんな……」


顔を青ざめてがくがく震えながら呻くエンバー。

すぐ隣では昔語りの賑やかな一団。

この温度差は一体何なんだろうと頭の片隅で考えながらも


「だからただの推論だって。

 誰にも言うなよ。

 よそ者の俺達がこんな話をしてるとどんな目に遭いかわからんからな」


言えば青い顔をしたままのエンバーはこくこくと首を縦に振って何度も頷いていたがちゃんと理解できているのか今一つ信用性がないのは確かだが……


「この間のロンサールの襲撃の裏にこんな話があったのかよ……」


俺達の顔を覗いてぼそりと呟いた暗い表情でも頭脳の方は最悪を想定に過去の出来事と照らしあわして仮定を作り上げている。


「おいおい、先走るなよ……」


慌てて止めに入れば「ああ、そうだな……」と思いっきり動揺を隠せない顔のまま項垂れ


「何でこんな事になったのか想像つくか?」


思わずと言うように零れ落ちた声にルゥ姉はお茶を入れてきますと言って席を外してくれた。


「やっぱり獣暴の乱が発端だったんだよ。

 でもそれが原因じゃない。

 ボロボロになって魔獣に総て潰されてしまう前に精霊ロンサールは何とか救いたくて、何とかした結果こうなったんだ。

 本当ならもっと早く国がしかるべき行動に出ていれば精霊ロンサールは今までのように守護者として見守る立場を貫き通せたのかもしれないが、何もしなかったから精霊ロンサールはロンサールの国民が総ての我が子だ。

 可愛くて仕方がない我が子の為にその後何が起きるか想像の付かない未来を深く考える前にロンサール国の我が子を助ける為に動いたんだ。

 それが精霊王との契約を履行する事になってもだ。

 どのみちロンサール国にはあの時点ですでに滅ぶしか選択がなく、それが今起きるか、10年後かって言う話だったんだよ」

「そんな……

 そもそも獣暴の乱が……」


「あれは魔族の仕組まれた罠だったんだ」


ぽつりと魔物の大暴走の原因を口に出し


「ロンサールが言うには当時のハウオルティアで魔物の卵を大量に孵させてアルカーディアへと送りつけるつもりだった。

 途中ロンサールが巻き込まれるのも計算の内で、精霊の居ないアルカーディアを蹂躙する為だけのお遊びだったらしい。だと」


愕然としたエンバーが「そんな事の為に母さんは……」と振るえる体を抱きしめて膝に顔をうずめていた。


「つまり、今回の捜索はそれだけ重要になる。

 長期捜索に変更していっその事二手に分かれて現地に留まるチームと連絡チームに分けてもいいかもしれない。

 現地チームはお前を中心に、王都にはクロームを、その間を信頼のおける奴らにしないとな……」

「無理だ。

 この荒野を二日で俺達のペースで走れる度胸のある奴なんていない。

 ましてやこのルートで三日かかるのにどれだけの魔物に会うか、その護衛も必要数集めるのは難しい。

 さらに言えば俺メインで捜索してもあの場所に一緒に残ってくれる奴らなんていないだろ?」


全滅した村は魔物の巣になって、魔物を滅ぼしたとは言っても人の住める場所じゃない場所に誰が居たいと言うんだと涙ながらに語る口調は当時や前回の捜索を思い出しての事だろう。


「まぁ、いざとなったら私とディックで森の開拓のお手伝いをしてあげましょう。

 砂漠を越えるのに二日もかかり、自由に出入りもできないのでは多少魔物が居ようがこちらの方が自由が利きます」


そう言って持って来たのはお茶ではなく


「スープだ……」

「はい。出掛けに近くの食堂で用意してもらって鍋ごと買い取ってきました。

 ですが、そろそろ食べてしまわないといけないのを思い出したので食べてください」


よく見ればいつの間にか周囲にもスープが振舞われていて、あつあつのスープを片手にみんな和やかな顔で談笑していた。


「お話は出来ましたか?」

「ああ、だいたい」

「突拍子が無くて思わず冷静になる為に大切な食料をふるまってしまいましたが、私も少し冷静になりましたのでお話に加えさせてもらいましょう。

 連絡係の事ですがこちらに来る時にお世話になった仙斎の風はいかがでしょう?

 馬車を走らせて王都と港まで三日。

 馬車が無ければもっと早く走らせることができるかと」


キョトンと俺とエンバーはルゥ姉の話しを理解するのに時間をかけて


「無理だろ。あいつら三人ともDクラスだぞ……」

「他所のギルドを巻き込むのはどうかと……」


二人そろってそれはダメだろうと遠回しに言えば


「荒野を走る間は魔物は出ないのでしたよね?」

「ああ、まったくないわけじゃないが森から追い出された弱ってる奴だったり逃げてきたような魔物だからそこまで強いのはいない」


「他のギルドと言いましたが同じ国民でしょう?

 走れるのなら走らせればいいでしょう。

 何だったら私が雇ってもいいのですよ?」

「資産の出どころは前回の討伐か?

 今回も稼ぐつもりか?

 って言うか、半分脅迫だよな?」


何かまたしでかそうとしているルゥ姉に警戒するのは仕方がないだろう。

今までが今までだっただけに今度はどれだけ斜め上いく事を言い出すのかと構えていれば


「エンバーの言い方ですと魔物は森から離れれば少ないと言う事で間違いないでしょうか?」


聞かれて素直に頷くエンバー。

この状態のルゥ姉に素直に答えるなんて、ルゥ姉のイベント決定した瞬間だよな?と脳内の自分に確認を取れば決定しましたと涙ながらに判定してくれた脳内の自分の言葉にうなだれてしまう。

既に決定事項かよ、と。


「では、王都と昨日休憩したセーブポイントの往復を彼らにお願いしましょう。

 そうそう、何かあった時の為にも雌黄の剣からも一人一緒に走ってもらわなくてはいけませんね。

 セーブポイントからこの森まで……いえ、この場までを雌黄の剣の方に、そしてここから村までを最短のルートを築きながら村までの道を作りましょう。

 あと数年ほどで砂漠化してしまうのなら遠慮なくできますしね」


「自然は大切にしよーぜー」


思わず抗議の声を上げるも


「時間との戦いにもなります。

 三日かかる所が二日に短縮できれば少しぐらい気にしてはいけません。

 この国はあと10年、いえ、5年も持たないかもしれません。

 壊した森は国を何とかした後回復に努めましょう。

 いえ、いっその事ハウオルティアまでの陸路に使うのもいいかもしれません。

 エンバーの故郷辺りを宿場町にして貴方の母上の為にも慰霊塔を作りましょう」


このような魔獣の暴走を忘れないように。

ここに村があった事を忘れないように。

ここで人の営みがあった事を忘れないようにと砂漠に呑まれていつしか森に変ってしまったとしても、残る塔を作り魔獣に襲われる恐怖とそれでも生き残った人間の悲しみを形とし、後世に残し伝えようとルゥ姉はエンバーに向かって計画を告げた。

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