西に駆けろ
ブックマークありがとうございます。
ゆっくりお楽しみください。
雌黄の剣は相も変わらず人でごった返していた。
それもそのはず、今回はギルドマスターのクロームの出撃となるのだ。
クロームさん一行約20名のメンバーと俺達四人が合流する場には何やら見物人までどこからか現れていた。
ルゥ姉は最初セイジと何やら話をしていたが、留守を預かる彼は忙しいらしく彼と別れてクロームといろいろ話しを始めるとどこからかイングリットが現れてきて
「ちょっと貴女!新人の癖になにギルドマスターと親しげに話をしてるのよ!」
甲高い声に思わず耳を塞ぐ俺にエンバーが良くわかってるじゃないかと耳をふさぎながら頷いていた。
ルゥ姉はルゥ姉で大人の対応をして
「前回の任務の報奨金と捕獲した魔物を売り払ったのでそれの金額を纏めていただいた所です。
先ほどこちらにお伺いした時に都合が出来ればよろしかったのでしょうが、少々荷物が多くて査定に時間がかかったようでしたので、セイジよりクローム殿に頂くように指示を頂いた所です」
どうやらその事も話をしていたらしい。
言いながらイングリットの目の前で四つに分けた重みのある袋をエンバー、クレイ、俺に渡して
「ご利用は計画的に」
昔聞いた言葉を彼女が知らなくても一言添えるあたりルゥ姉だようなと感心しながらも、俺の魔力収納はパンパンなのでルゥ姉に預かってもらう事になった。
うん。
俺の財産を人任せにするのは良くないとは判っているが、ルゥ姉程信頼できる人はないし、この世界銀行と言う組織はない。
自分で自分の財産を守るしかないこの世界。それなら一番凶暴な門番が居る所に預けるのが筋じゃないか?と言う管理方法のわからない俺は丸投げするしかない。
もっとも、ちょろまかしたりこそっと使ったりする人じゃない事を知ってるからでの話しで、簡単に言えば俺はルゥ姉を信頼していると言うだけの話しだ。
そんな俺の態度をエンバーもクレイも驚いた顔で見てはいたものの自分の空間にしまって、クロームの傍らに立ち、先導者となるべく一番門に近い場所へと陣取っていた。
「イングリット、今から出発なのだから関係ない者は離れてなさい」
「だけど伯父様に何かあると思うと心配で……」
どうやら自分の伯父に恋する女の子のようだ。
おいおい大丈夫かこの国の王族?と思うもルゥ姉はこっそりと
「この国には兄妹結婚とか結構あるんですよ」
呆れたように耳打ちしてくれた。
うん。
さすがに兄妹はちょっと勘弁してほしいなと思うのは俺が一人っ子だからかだろうか。
特殊性癖ではない事は確かなのでこの事はなるべく考えるのを止めておく。
うん。どうせ縁なんてないだろうしと未だにがん無視されてるのにルゥ姉に向かってきゃんきゃん吠えてる王女様(笑)を王女の護衛の人達が下がらせた隙に開門。
じゃららららと派手な音で鎖を巻き上げ開く扉の様子を見守りながら与えられた馬に跨れば
「雌黄の剣、出陣する!」
おおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!
エンバーを筆頭にすぐ後ろに付いたクロームと通称副隊長さんが並び、後は三列に並んだギルドの人が拳を突き上げる。
周囲から鬨の声と歓声で地鳴りがするので湧ないかと言う歓声の中クレイが
「これが雌黄の剣名物出陣の式さ。
一体感生まれるだろ?」
開かれた門から夕日を浴びて笑顔と共に馬の腹を蹴り走り出した後姿にどこか呆れ顔のルゥ姉と共に馬の腹を蹴ってついて行く。
先頭を一人で夕日に向かって突き進むエンバーの濃い影の隣にクロームが金の髪に夕日が反射してどこまでも眩しい。
ルゥ姉と二人で今日の予定はどうなってるんだと話していれば
「セーブポイントに着いたら話してやるよ。舌噛むから黙ってエンバーについてきな」
俺達の世話役としてクレイが俺を挟むように話しかけてくれる。
「セーブポイントと言うのはまた前のように穴の中に潜るのですか?」
疾走する馬上でルゥ姉の赤い髪が靡かないようにフードとマフラーで押さえつけている。一見女性の姿とも判らないほどのひどい格好だ。
前回この荒野を髪をたなびかせて走っていたら、感想と砂塵で酷く傷んだのを反省しての格好である。
何だかかわいそうな子を見る目の周囲の方々から目を反らしつつ黙々と馬を走らせること半日ほど。
空が薄っすらと明るくなった頃エンバーは今回わりとゆっくり目の移動を更にゆっくりと走らせて、並足の頃に地面がパックリ問われた場所へと潜り込む事になった。
途端に真っ暗な視界に目が慣れるのに時間は少しかかったが、このセーブポイントも前回同様ヒカリゴケで室内が薄っすらと明るくなっていた。
誰ともなく転げ落ちるように馬から下りて、流れる地下水へと向かい頭から突っ込んで水を飲んだり顔を洗ったりしていた。
当然お馬様も水を飲んで池のように溜まっている場所で水浴びをしたりと大はしゃぎだが、前回同行した馬達がひとしきり遊んだ頃俺の側に寄ってきて鼻っ面を押し付けてきた。
馬に懐かれる様子が面白いのか、野営の準備を手伝えと言う視線なのかはたまた両方なのか、両方だよなと思われる視線の中仕方がなくちょうど良さ気の窪みにお湯を張ってあげた。
待ってましたと言わんばかりに馬は飛び込んで今までの移動の疲れもなんのその。4頭のはしゃぎっぷりの他の馬達も集まる始末。
うん。あれだ。
どう見ても風呂係が決定したなと20頭を超える大所帯の面倒係に自らなったも同然の瞬間だった。
「馬を甘やかすからこんな目になるんだぞ」
なんて今にも眠ろうとしているエンバーにクローム達が簡単に作った食事を無理やり食べるように進めていた。
「馬達が調子に乗る前に君も寝てしまいなさい」
なんて腹はすけど疲れすぎてあまり食欲のない俺はルゥ姉にいろいろ口に詰められて、いつの間にか眠りに就いてるエンバーの横に毛布にぐるぐる巻きにされていた。
「こんなんじゃ寝るしかねーじゃん……」
言いつつも欠伸は零れ、最年少の俺に仕方がないと言うように周囲の生暖かい視線のなかゆっくりと瞼を閉じた。
それから何やらと人の声で意識が浮上した。
すぐ横ではルゥ姉が頭から毛布をすっぽりとかぶり、その横ではエンバーとクレイが見張り番となって座っていた。
二人は暖かなココアをすすりつつ、火の番をしている連中と何やら声を潜めて話をしていた。
毛布をかぶった状態で俺も火の側へと向かえば
「やあ、やっと目が覚めたか?」
クロームも何処かすっきりとした顔で俺にコップを渡してくれた。
中には水が入っていて、それをゆっくりと飲んでいる間にスープの入ったコップを渡してくれた。
小さく切った肉やら野菜やらが入ったスープをゆっくりと飲んでいる合間に少し火であぶったパンを手渡された。
カヤが作ってくれたパンをゆっくりと食べながら
「ひょっとして随分寝てた?」
「かなりな。でもみんなこの移動についてこれたのを誉めてたぞ」
13歳の子供が遅れる事無くついてきたと言う方が重要だったと言うエンバーの向こう側になんかキャンプにはあるまじき景色が見えた。
思わず目をこすってエンバーの向こう側の景色を眺めていれば、やがて気付いたクレイが呆れた様に笑う。
「ルーティアが用意してくれたんだ。
キャンプするならそれなりに楽しみましょうってね」
煉瓦造りの簡易コンロがそこには場違いな風にどでんと構えて在った。
そこでは雌黄の剣のメンバーが薬缶で水を沸かし、鍋でスープを煮込み、隣に設置されたテーブルでは氷づけにされていた肉を切り分けながら野菜を切って料理をしていたのを見た時には眩暈がしそうだったとの告白を聞いていた。
「何でこんな事になった……」
まだ夢であってほしいと願うも
「どうやら君の姉君はあの呆れるほどの収容能力を持って快適に暮らす事を選んだらしい」
呆れを通り越したクロームが静かにだが楽しそうに笑いながら
「前に厄介になったと言っていたたしかランとか言ったかな?
収納魔法が面白くっていろんな物を収納されられた物の出し忘れとか言ってたな」
くすくすと笑い続けるクロームに軽く頭痛。
確かに魔法を面白がってはいたが……
「ラン兄……
一体何を基準に荷物を詰めさせてたんだよ……」
彼女の収納の中に何が詰まっているのか本気で全部出させたいが、見たくもないのもたくさんありそうでそれも怖い。
普通に骨や木の枝もありそうだし、あの時は意味不明だったが改めてみるとそんな貴重な物を……なんて体験もざらにあった。
「食事の準備を終えて食べてから休んだから起きるまで静かにしてあげなさい」
その結果が焚火の向こう側で楽しく食後のお茶をする面々と言うわけかと妙な納得をしながらゆっくりとパンを食べる。
「所で今何時ごろ?」
「いわゆる昼飯時を終えた所。
のんびりする昼寝の時間さ」
ごろんと横になるクレイに起きたばかりの体はさすがに眠気を欲していない。
「外見て見たいんだけど?」
言えば
「じゃあ、着いてってやる」
エンバーが腰を上げた所でクレイも慌てて体を起こして付いてきた。
熱いからほどほどにしなさいとクロームの忠告を受けて洞窟の入り口へと向かう。
ヒカリゴケが少なくなると同時に外の陽射しの強さを感じるようになった。
むわっとする湿度は外に一歩踏み出すたびに蒸発してからりとした乾燥した空気へと変って行く。
埃っぽいような砂っぽいような。
肺を焼き尽くすような熱い空気はさすがに体感した事はない。
ユキトも体験した事の在る摂氏40度の世界よりもはるかに強烈な熱さは肌が焼けるようで、見上げる雲一つない空はどこまでも青かった。
雨の降る予定のない空。
恵みを忘れられた大地。
生きる物を拒絶したこの世界に息づく者は地上のどこにもない。
立ち枯れして倒れた木々の痕跡がぽつんぽつんと残り、見渡す限りの荒野は陽炎の向こう側まで無限に広がっている。はるか遠くに見えるはずの森もまだどこにも見えず、雨の中魔物に追いかけられながら登った山の姿はどこにもない。
精霊ロンサールが作り出した無限に広がる世界に一人取り残されたような気分を勝手に想像して同調してしまい孤独の恐怖にぶるりと身を振るわせれば
「大丈夫か?顔が青いぞ……」
エンバーがそっと腕を掴んで俺の顔を覗いていた。
その後ろにはクレイの心配気な顔があり、ゆっくりと視線を二人に合わすように動かして無理やり笑みを作る。
「急に暑くなったから眩暈がしたのかも」
二人はそんなわけないだろうと訝しげな視線を俺に向けるが、俺は無理やり
「寝不足だからかな。もうちょっと横になっててもいい?」
重い足を無理やり洞窟の方に向けて歩き出せば二人のついてくる足音。
想定よりも早く帰り過ぎた為にクロームもまだ席を動いておらず、俺がさっきまで横になっていた場所に戻って横になるのを小首かしげている始末。
「外が暑すぎて眩暈がしたんだと。
もう一眠りするってさ」
エンバーの隠すつもりのない説明にクロームも少し驚いたようだったが
「やっぱり13歳にはちょっと早すぎたかな?」
「まぁ、この国来てこの暑さに慣れきってないのもあるしな」
エンバーが下手に起きてると馬達がはしゃぐから横になってるだけでも面倒がないと言って俺の隣に腰を下ろす。
「それに、夜になるまでやる事はないんだ。
食べれる時に食べる、寝れる時に寝るのが鉄則だ」
エンバーもごろんと横になり
「俺ももうちょっと寝る。
何かあったら起こしてくれ」
「道先案内人はゆっくりしてくれ」
言いつつもクロームはエンバーの頭をくしゃくしゃとなでくり回してから取り出した本の様な物を読みだし始めた。
うん。
今頃になって気付いたけど移動の途中見た事もなかったランプがそこらじゅうにあるのは絶対ルゥ姉の仕業だよな?
やけに明るいのはルゥ姉の仕業だよな?
その大元が楽しそうな顔でルゥ姉に魔法を見せてもらっているさまを思い出すとちょっと楽しくなって……目を瞑った拍子に眠りに誘われるまままた意識を手放すのだった。
次に起きた時は俺以外全員が起きていて、俺が起きた事に気づいたエンバーは心配げに俺の顔を覗いてきた。
「随分すっきりしたからもう大丈夫」
さっきの疲れはもうないと誤魔化せばルゥ姉の全く俺の言葉を信じてない視線。
寝起きだが食事をしなさいとテーブルに連れて行かれて俺の分だろうプレートを差し出してくれた。
完全にユキトの世界のキャンプだよなと至れり尽せりの体一つでキャンプ状態の再現にここ何所だっけと考えてしまう。
「さあ、ディックも目が覚めた所でこれからの打ち合わせをしよう」
手をパンと叩いてクロームは全員の注意を引く。
みんなは馬の面倒とか、馬具の点検とかしていた手を止めてクロームに注目していた。
「前回の経験もあるからみんなも判っているとおもうがこれから昨夜と同じくらいの移動で明け方には西の森に到着を目標とする。
そこでガーネットから連絡を入れてもらった紅緋の翼のメンバーのシアーと合流してエンバーの故郷でもあるコルドラ村へと向かう。
前回同様森沿いに北上し、2泊かけて村に到着の予定だ。
質問は?」
一度経験した者達は問題ないと言うように納得する周囲の中ルゥ姉が手を上げて
「そのシアーと言う人とはどこで合流予定ですか?」
目印のない以前に森沿いに北上ってそれだけかよと思っている中
「相手は……変態だ。
北上している間に向こうが私達を見つけ出してくれる手はずになっている。
シアー、彼女は紅緋の翼ではSSランクに認定されていて、実力をいうとエンバーと同等と思ってもらっても構わない」
「あー、多分森で暮しているからフィールド的にも変態のテリトリーだから俺より上と思ってもらってもいいぞ」
「って言うか、変態って何なんだよ……」
思わず突っ込めば誰もが顔を反らし、クロームの部下らしい人がポンと俺の肩に手を置く。
「ま、食われないように注意する事だな」
確かに変態だなと納得して頷きながらスープを飲み干した所でルゥ姉が杖を取出し纏めてもらった荷物をちょんちょんと叩きながら収納していく。
気持ちいいほどポンポンと言う効果音はないけど瞬間的に消える収納の光景にランでなくても皆さん釘づけだった。
ランプもテーブルもなんか見覚えのある冷凍庫も煉瓦のコンロも瞬間的に片づけられていき、総てが無くなった所で何故か誰もが拍手をすると言う謎の光景を見守ったエンバーが馬を引き連れて外へと足を向ける。
俺も一緒に馬を連れて外へと出ればいつの間にか隣に来たクレイが
「あの荷物を出した時もみんな拍手喝采だったんだ」
旅の中で一番の苦痛は暖かな食事にありつけないと言う事だろうか。
問題の1つを解消したルゥ姉というか、謎の荷物に感謝しつつまた夕日に向かって馬を走らせるのであった。
うん。
何の青春ドラマなんだろうねと眩しくて目を細めながらこの世界サングラスはないのかと考えながらなければ作ればいいと帰宅したら頑張ってみようかと脳内メモ帳に書いておいた。




