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そろそろこの国滅んだ方がいいんじゃね?と本気で思ってみた

毎回サブタイトルを考えてますが、何で第一章の何々と言うスタンスにしなかったのか今頃気付いて後悔してます。

毎回考えるのも楽しいのですが、ぱっと思い浮かぶ話と思い浮かばない話、今回は後者ですね。

きらりと光るセンスと言う物がないのは判ってますが、さすがにこれは酷いなと思うけど「まずは茶をくれ」よりはまし(そうか?)だと思っております。

淹れたての茶と食器棚の中に置かれていた菓子をテーブルに並べた所でクロームは口を開いた。


「昨夜母上に件の話をしてきた。

 顔を真っ青にして倒れた為にこれだけの時間がかかってしまった。

 有益な情報を貰ったのに返答が遅くなって申し訳ない事をまず最初に謝らせてもらいたい」


元王子様とは思えないくらい丁寧な人だと感心する間にルゥ姉が


「陛下のご様子は?」

「今の所冷静な顔で何とか務めを果たしていると言う状態。

 弟に王位継承の話しが一気に進んだのだが、肝心の祭壇の場所が判らないんだ」

「判らない……とは?」


室内の空気が重くなったのには嫌な予感しかもうない。


「祭壇で王位継承の儀式を執り行うのだが、その場所は王と次期王の二人きりで執り行う聖なる儀式。

 実を言えば既に兄が成人になった時点でその継承を執り行っていたのだ」

「ですが、二人ともすでに亡くなっておられていて」

「儀式どころか場所も判らない。

 最悪を言えば儀式に用いる為の宝剣すら先の獣暴の乱の折りに失っている」

「よくぞそれで国と言えましたね」

「今のような結果になった理由が痛いほど理解できるよ」


俯きながら喉を震わせるクロームに俺は黙って菓子を1人ぱりぱりと食べていた。

なんとなくクロームさんのお隣にいる人達の視線が痛いけどあんたらの不始末の話はちゃんと聞いてるんだからそんな目で見るなと声を大にして言ってやりたい。


「宝剣の行方の手掛かりは?」

「それが……

 持ち出した兄上の鎧は回収できて、多分その近くにあるか、既に盗賊に持ち出された……と言う線は薄いと思っている」


行先が判ってないのによくそこまで言えるなあと感心しながらまた菓子をぱりぱりと噛み砕く。


「半年ほど前だ。エンバーの案内で兄が向かったと思う村へと言って来たのだが、そこは立派な魔物の巣になっていてな。

 人が住んでいた家を使って魔物は巣を作り、多種多様な巣をつくる事で魔物の村となっていたのだ」

「まぁ、今は退治して紅緋の翼の変態がその村に一人暮しているけど、今の所何も連絡ないから無事だろうし剣の回収も任務に与えられていたから返事がない所見つかってないんだろうな」


何処か疲れ果てたようにつぶやいたエンバーにさすが紅緋の翼。変態だ、なんて褒め言葉かどうか微妙な言葉が飛び交ったが、変態って何なんだよと思いながらもあまり深くは知りたくないのでスルーにしよう。


「って言うかさ、だいたいどんな剣かも判んないのにそれっぽい剣を探し出してくれって言う方がめちゃくちゃなんだよ」

「それは確かにめちゃくちゃですね」


どんな形か以前に在るかどうかさえあやふやなのだ。

受けるだけ受けたとはいえど、雨風にさらされた剣が土に埋もれた可能性も含めて無事である姿が想像できない。


「そんなこったでその村で一人で開拓している変態が運よく何かを発掘してくれるのの待ちなんだ」

「気の長い話ですねぇ」

「大体、その王子様だって顔も知らんしさ。

 ひょっとしたらあの時の中に居たんだろうけど……」


エンバーがあの村で体験した事を知る者は誰もが視線を反らす。


「その話はまた今度に。

 王族の今後のご予定は?」


ルゥ姉が話を強引に戻せば


「雌黄の剣は当面祭壇の場所を探しに行く。

 確か一日で行って戻って来れる距離だった事は覚えている。

 だが、どこに向かったかは全く知らない。

 その日一日王族は王宮の地下の祭壇で祈りを捧げていたのだから」

「城壁の外ですか、厄介ですね。

 こうなる前のこの国の地図が必要ですね」

「それでしたらお預かりしてきました」


言いながらセイジが先ほどからカバンを下ろさずに斜め掛けした鞄を大切そうに抱きしめている。

出来る人は常に準備万端の体制だ。


「騎士団の方は?」

「表面的な王位継承儀式の祭典の準備にあたってる。

 そこでだ。

 改めて再度紅緋の翼に依頼する事にした。

 エンバー、君の故郷でもう一度剣を探す事にする」


暫くエンバーは黙っていたが


「ガーネットに話を通せ。条件は前回と同じだ。

 あそこは母さんが眠ってる場所だから、あのバカはぜってーお断りだ。

 もし連れてくるようなら俺は降りるぜ」


何があったか知らないが睨みつけるようにクロームを見る顔にクロームも申し訳なく目を閉じ


「あれは外には出せないから。

 それに暫く王宮に戻ってもらわないといけないしな。

 なんせ、ああ見えても弟の長女だから」

「あんな姪が第一王女とは、世も末ですね」


さらりと不敬罪に問われても仕方がない事を涼しげな顔で言うルゥ姉にクロームは苦笑するだけ。

そこはみんな認めてるんだなと呆れながらも


「他に兄弟は?」

「5歳の弟が居るんだが……」

「随分年が離れてますね」

「やっぱり男の子が欲しかったようなので」

「クレイが早くから王族の放棄を言ってたからクラナッハが慌てて本妻との間に儲けた子だ。

 王位継承権2位になったイングリットの様子をみて今クレイに王位継承権を復活させようとしているんだが……」

「あまりよくない反応ですね?」

「イングリットの母とクレイの母はあまり相性が良くない上に気位が高すぎて既にクレイの母は心を病んでいる。国母となるには難しい上に離宮からも出られない状態。

 周囲も嫁いでから仕えてくれている女官がせいぜいで、そんな姿をクレイと引き合わせるのも申し訳ない」

「叔父上、いいんです。

 母上が健やかに過ごしてくれるのなら」

「まぁ、よくある王宮派閥の話しですね」


周囲が殺気立つ中煽るようにルゥ姉が言うあたり溜息が零れてしまうも


「クレイの母上ならこの騒動に関わりがないので国境近くの離宮にでも住まわせた方がましでしょう。

 王宮の王権争いに負けた王妃などどの国も人質としての価値もなので離宮暮らしならそちらの方が過ごしやすいでしょう。

 ただでさえこの地形なので暗殺なんていう心配も多くはないでしょうし」 


言って茶をすするルゥ姉にクローム一同は何か言いたげにルゥ姉を睨むも確かにその通りだから反論もできず、ただただ王家の体面を整える為の行為に彼女を縛り付けているのを理解している面々はやがて視線を反らして席に座りなおす。


「いっその事フリュゲールにでもお預かりお願いしましょうか?

 答えまでは判りませんが口利きはしますよ?」


それでも答えを出せない面々にルゥ姉は溜息を吐き


「所詮は他人事ですか?」

「いや、お願いできるならどうか……」


実子でもあるクレイが立ち上がって頭を下げる。


「母上の王宮での暮らしは見ている方がつらいんだ。

 綺麗なドレスも、こんな時でも豊かな食事も。

 ただ、王宮の話しが聞こえない場所に俺が連れて行きたくても、次期王位の父上の手前それも口に出せなくて……」


親子でしかわからない会話に誰もが目を瞑る。

自分を壊してでも夫を立てるなんてと言いたいのだろうが、既にそれすら口に出せるないほど心は疲れ切っている証拠なのだろう。


「口は利きますが、向こうに行ってものんびり何てできなくてもいいですか?」

「それは一度話を聞いてみる。

 環境が変われば何かやりたい事を見つけられるかもしれないし」


不安げなクレイがクロームに向かって今すぐこの話を母上にしてもいいだろうかと聞いていたが


「いっその事私達を王宮にご案内できないでしょうか?

 一度直に在って話をお伺いしたいし、私達もクロームの母君にフリュゲールがどんな所かお話しする必要もありましょう。

 それにあなたの弟と言う時期国王の顔も一度見ておきたいですしね」


多分これが一番の本音だろう。

クロームの視線が一瞬彷徨ったものの


「では、クローム様とクレイ様、ルーティア様、ディック様は王宮にこのまま向っていただきましょう。

 エンバーには今一筆書きますのでガーネット様に一応貴方の宝剣探索の参加の旨を伝えてください。

 あちらに居る紅緋の翼の方にもご助力を頂かなくてはいけないので。

 それと先ほど我々も地図と見比べて多分セーブポイントのある場所のどれかと私は推測をします。

 祭壇らしき場所がないか雌黄の剣総力を挙げて探索をしますが、地図にはないポイントの場所をお教え願わねばならない場合もあるのでその事もお伝えください。」


セイジの采配にこういう頭脳役って重要だよなと行き当たりばったりの俺達の旅に致命的な欠点は今始まった事ではないがそれでも必要性を覚えてしまう。

エンバーとクレイを見ても頭脳役や指揮者には適してはないのは見ても判り過ぎて頭の痛い問題だと心に留めておく。

俺がやるのか?どう考えても無理だ。

クラス委員長はもちろんグループ行動の班長にすらなった事のない俺にそんな物も止められてもただ混乱させるだけで。

現に室内はセイジの指示に従って動き出している。

俺達はカヤに後の事を頼んでクロームに連れられて王宮へと足を向ける事になった。

その前にルゥ姉がいくらかのお金を預けて夕食の買い出しを頼んでいた。

やっぱり誰か家事を引き受けてくれる人がいると便利だよなと、この国らしい食べ物をお願いしておいた。




王宮の中には不安にも顔パスで入る事が出来た。

街中と同じように緑は少なく、水路を張り巡らせた庭園だったのだろう。

今では干上がってしまったが池や水路などの側にはちゃんと休む場所が用意されていた。

一番大きなお城ではなく、城に寄り添うよう少し離されて作られた建物へと向かって足を向けているようだった。


「この離宮が母上が住んでいる所なんだ」


三階建てだろうか。

それでもこじんまりとして見えるのは王宮が大きすぎるからだけの話し。

クレイが俺達を案内する傍らクロームは部下の一人を王宮へと走らせていた。

彼にとっては歩きなれた廊下なのだろう。光と影が織りなす廊下を迷うことなく歩き


「母上、本日は友人を連れてまいりました」


真っ白な大理石で作られた離宮の中は涼しく、石造りなので薄暗いと思っていたものの白い石が反射して離宮の中は本を読むにも不具合がないほど明るい。

その中を迷う事なく足を進めるクレイは美しいまでに優しい淡いブルーの部屋へと案内してくれて、ここで少し待ってくれと一言残して室内で少数のメイドに囲まれてお茶を飲んでいた一人の女性の下へと駆け寄った。


「母上!」

「まぁ、先ほどお帰りになったと思ったのに」


しっとりとした優しい声と、肌を出してない衣装に身を包んでも判るほどの線の細い彼女に王宮の争いには向かない人間と一瞬で判断してしまい瞠目する。

この部屋には一番ふさわしい人だが、この場には一番似つかわしくない人だと。


「実は昨日の話しの続きではありませんが、友人が母上にぜひ提案したいと少しお話を聞いていただければと」


最初に断りを入れて、俺とルゥ姉、そしてクロームを室内に招き入れてくれた。

クレイは二人がクロームのギルドの人間だと言う事と、俺達の名前を紹介する。

最初は顔を強張らしていた彼女だったが、あわててやってきたクロームによく似た弟のクラナッハの姿に少しだけホッとしたように落ち着きを見せてくれた。

これが第三王子様ねえと、ルゥ姉と頭のてっぺんからつま先まで吟味するように眺めてしまった。

さて、どうやって話を始めるかと思うも先に


「昨夜、クロームからしていただいたお話は皆様は聞いていただいてしょうか?」


ですよねーと、先陣を切り裂いたのはやはりルゥ姉だった。

クラナッハは破顔して


「貴方があの希少な情報を伝えてくれたルーティア殿ですか?」


何故かルゥ姉の手を握って感謝するクラナッハにクレイの母エルミーラは鋭い目つきでルゥ姉を睨んでいた。

と言うか、ものすごい形相。

膝の上に添えてある手が服に皺が寄るんじゃないかと言うくらい握りしめていた。

ややこしい話になりそうだが、ルゥ姉からその手を乱雑に払った。


「はい。ルーティア・グレゴールと申します。

 昨夜の話しは私がフリュゲールで仕入れてきた貴重な情報の一端です」


そっけない態度にエルミーラは驚きの顔を隠さずあっけにとられたままルゥ姉の一挙一動を見守り始めた。

だけどクラナッハはルゥ姉の隣にわざわざ座りなおして顔を覗き込むようにして「ありがとう」と言う。

またまた厳しい目つきになったエルミーラだったが、今度はルゥ姉が席を立ちエルミーラとクロームの手を引いて何故か二人の間に座るのだった。

そこまでしてようやく拒絶されているのが理解できたクラナッハのようだが、如何せん。

クロームさんの弟と言うのにこの人はかなりおかしい人のようだ。

机を挟みルーティアの膝の上に手を置いて


「その情報をもっと詳しく聞きたい。

 どこか、情報の洩れない場所で、二人きりで」


嫁さんと兄さんを目の前に口説く神経にさすがにあっけにとられるも


「私が次の王になる。

 ぜひ我が王妃に。

 望みのままの暮しを約束しよう」


甘く囁くような言葉にエルミーラもクロームも妻の前でなんて事をと激怒に顔を真っ赤にするが


「このような吹き飛ばせばなくなる国から何を望む物がありましょう」


鼻で笑い、ピシリと手を叩きはらった挙句に防御壁を立てて触れるなと壁を作った。

これ絶対不敬罪だよねと逃走ルートを考えてしまうのは仕方がないだろう。

当然、このような事はされた事のないだろうクラナッハさんは顔を真っ赤にして


「私に恥をかかせるつもりかっ!!」

「すげ替えの利く首の分際で軽々しくこの私に触れる罪、その命で償ってもらいましょうか?」


ルゥ姉の毅然とした態度にエルミーラさんもクロームさんも冷や汗を流してしまう始末。

どうやらこの国にはルゥ姉のような強気の女性はいないらしい。

と言うか、世界を探しても滅多にお目にかからないだろう……


「さすがイングリットの父親とでも言いましょうか、この親にしてあの娘になったようですね」


とクロームに確認を取るように首を向ければ、クロームもそのままそっぽを向くように首を反らせた。俺に聞くなと……


「クラナッハ、国の大事に救いの手を伸ばしてくれる相手にその態度は一体なんだ」


クロームも窘めるが


「その恩に報いるべく我妻として迎え入れようと言ってるのだ!」

「お断りします」


あまりのきっぱりとした早さのお断りににエルミーラさんもクロームさんを始めその場にいた人達全員ぷっと小さく噴き出していた。


「我を誰だと思っている?」

「ロンサール国の三番目の王子ですね」

「私はこの国の王になるのだぞ?!」

「まだ第一候補者でしかありませんですし、私もこの国の人間ではありません。

 貴方にひれ伏しこの国の為に身を捧げる道理もありません」


あまりの物の見事なお断りの言葉にクラナッハは顔を真っ赤にするもそこで口を開けようとした瞬間


「にぎやかですね」


しっとりとした女性の静かな声が室内に広がった。

誰もが起立して頭を下げるのを見よう見まねで俺も立ち上がり一礼する。


「みなさん楽にして」


そう言いながらも女性はソファに優雅に座り、クローム、クレイ、エルミーラの三人はソファの傍らに立ち、クラナッハは次席に座る。


「貴方達がクロームの話しに聞くルーティアとディックですね。

 フリュゲールより貴重な進言をありがとうございます。

 私はリーゼロッテ・アメルング・ロンサール。

 ロンサール国女王、あなた方が言う所の偽りの女王です」


疲れを隠しきれないどこか青白い顔でその事実を受け入れた言葉を口に出すが、その隣でクラナッハが


「母上は誰よりも誉れ高い、あの動乱を支えて下さった畏き賢王でございます」


と褒め称えるが、女王は首をふり母を支えようとするクラナッハの手をやんわりと振りほどいた。


「ルーティアでしたね。

 貴女にはこのクラナッハが不快な事を申しましてさぞお怒りでしょう。

 末の息子ゆえに甘やかした非は私にあります。

 愚かな息子の戯言と思い聞かなかった事にしてくださいまし」


頭を下げる女王に


「母上!母上がそんな事せずとも……

 このルーティアは私の妻に、そして母上の新しい義娘になるのですよ!

 そのように頭を下げる事など、一国の王が軽々しくしないでください」


あまりの話しの異次元っぷりに頭が真っ白になった。

クロームも護衛の人も慣れているとは言えども唖然としていたものの、女王はテーブルの上に置いてあった冷めかけの茶を手に取りクラナッハの頭からそれを全身くまなくかかるようにかけて


「あら大変。服が汚れてしまったようですね。

 誰かクラナッハの服を綺麗な物に」

「は、母上?!」

「髪も汚れてしまったようね。

 お風呂でも入って綺麗になってらっしゃい。

 王子ともあろう立場の人間が人前でこのような姿でいつまでも居てはいけませんよ」


そう言って廊下で待機していた王子の護衛の人が何か喚くクラナッハを無理やり何処かへと連れさるように行ってしまった。

誰ともなく空になった茶器を除く女王に視線を注ぎ


「誰か私に飲み物を。

 冷えた物でなく温かい物がいいわ」

「母上、さっきのが熱かったらどうするつもりですか?」


クロームの何とも言い難い声に女王は目を瞑り


「あの子の一番大切な時母として何もできず、それどころか動乱にかまけて放置したツケです。

 今更ながらとあなたもエルミーラも思おいでしょう。

 ですが、このような時だからこそ改める必要性があるのです」


あのような者を王にできないでしょ?と言う女王は改めてルーティアと俺を見て


「どうか愚かとおもおいでしょうが我らロンサールに正しき知識と国の行方についてお話をお願いしたい」


何処か濡れた瞳で俺達をじっと見つめる視線にルゥ姉は少し首を傾げ


「あのような者が王となるなら滅びてしまえばいいと思います。

 改めて王の選出を考え直してから話し合いをいたしましょう」


そうでなければどのみち滅びの一途だと言うルゥ姉の意見には賛成だと頷けば


「なら、このクロームを次期王にならばいかがでしょう」


静かに提言する女王に室内は誰もが息をのむ。


「彼には子供が居ません。

 王族でありながら妻を失って次の妻を娶らず、その役目を全うできない者に王は難しいでしょう。混乱を招くだけになります。

 それに市井の中で民を導いている彼が居なくなればどうなる事でしょうか?」


手厳しいルゥ姉の指摘にクロームも瞠目。

王族の一番の仕事はその血を絶やさない事。

それを放棄した男に王位を与えるのはいかがでしょうかと言う物だが


「ギルドでしたね。それならクレイが引き継げばよろしいかと」

「ギルドはクロームだけで保っているわけではありません。

 クロームとその周囲の方々が支えてようやくギルドと言う組織が成り立っています。

 その部品の1つとしか言えないクレイがとてもギルドを運営どころか市井の中で民を導くには笑い話にもなりません」


女王の甘い思考をぴしゃりとはねのけたルゥ姉の言葉に女王は掌で顔を覆い


「ならどうすれば……」

「そう言って貴女は獣暴の乱をガーネット一人に押し付けたのでしょう?

 同じ過ちを何度繰り返すのです?」


その言葉についに女王はついに泣き始めてしまった。

廊下の外ではこの様子に殺気立つ物の


「ご存知ですか?

 国は無くなれど精霊地図がある限りロンサール国はこの世界に残ります。

 どれだけ人が住めない砂漠になろうともロンサールの名前は残り続け、精霊ロンサールは誰も住まないこの地を一人永遠に守護し続けなければなりません。

 力が無くなろうとも契約に縛られたままこの地の為に孤独に、その悠久の命をこの地の為に捧げなくてはいけません。

 たかだか100年も生きる事の出来ない我々人間には理解すらできないのでしょう。

 さてお聞きします。

 ロンサールの『王』とは何を持って王を名乗りますか?」


正面から女王に向かって問う視線に女王は息をのむも


「そんなの『王の血を引く者が受け継ぐ』に決まってるだろ」


当然と言った顔で服を着替えてやってきたクラナッハは答えた。

いやいや、早すぎだろあんたと心の中で盛大につっこむもルゥ姉は確かにと頷き


「王の血を引く事。それが大前提です。

 たとえ、王位を返上しても、辞退しても、その体に血が流れてる事を知らなくても血の盟約により王位継承は存在します。

 政治上の詭弁何て正直精霊との契約には何の意味を持ちません。

 改めて問いましょう。

 私の知る限り先代の王の血を引く者はクラナッハ様、クローム様、クレイ、そしてイングリット。

 後、お名前は存じませんがもう一人ご子息がいたとか。

 精霊の為にも、精霊と共にあるこの地の方の為にも誰がこの国の王位に相応しいかもう一度よくお考えください」


そこで息を一つ吸って


「本当ならエルミーラ様にここでの暮らしが辛いと聞いたのでフリュゲールに伝手を頼ってお住まいを移してもらおうかと思いクレイと相談しましたが、そのご様子では杞憂でしたね。

 クレイ、愛する方の側に居る事がどれほど周囲に何を思わせているのか自覚のないお母様のようですが……

 申し訳ありませんがこのお話はなかったことにしてください」


何の話をしているのかとエルミーラはきょとんとしていたが、クレイは俯き違うんだと言うように首を横に振る。

無理やりにでも引き離して母に興味を失くした夫に執着している姿を見たくなかったのだろう。

ルゥ姉もどこか憐れむような視線でクレイ親子を見つめるも


「申し訳ありません。

 どこまでも添い遂げる意志がある以上私にはどうしようもありません」


判っていたと言うように項垂れるクレイにすでに察している女王が自分の事でまだ涙が止まらないと言うのにクレイを優しく抱きしめていた。

興味なさ気のクラナッハにエルミーラもクラナッハがいかに有能な王になれるのかとクロームに再度王位を放棄してくれと説得していると言う異様な光景。


「ねえ、ルゥ姉。

 そろそろ帰ろうか」

「そうですね。

 他人が居て良い場ではありませんね」


そっと席を立とうとするも、女王はクレイを連れて屋敷の外まで見送りに来てくれた。


「どうか、この子に家庭の温かみと言う幸せを教えてあげてください」


涙ながらにクレイの背中を押してくれるものの


「それはクレイしだいでしょう。

 なんせ幸せは人の数だけありますのでクレイの幸せはクレイしか見つけ出せない物なのでそれはクレイが探し出すしかありません」


相変らずの言い分だけど、寧ろこの状況なのに変わらないスタンスに感心してしまう俺にクレイは俯き加減のまま。

きっと王子としてこの城で暮していた時からずっと親から与えられない愛情をずっと我慢していたのだろう。

王子ゆえに親でもなくとも育ててもらえる環境に親と言う温もりをずっと我慢しながら憧れていたのだろう。

一人ぼっちで耐え続けた幼い頃の寂しさを抱えたままのクレイの様子にふと思い出す。

強く引っ張られた手の優しさと心強さを。

俺は顔を上げて


「ルゥ姉。俺達先何かおやつ買ってから帰るな」


クレイの手を強引に掴んで引っ張って、いきなり走り出した俺に驚きながらも着いてきたクレイは慌てながらも足並みをそろえてくれる。


「おやおや、どこかで見た光景。

 ご飯が食べれる程度になさいなさい」


はーいと返事をしてどこか驚いている女王の隣でさようならの挨拶をしているルゥ姉達に手を振る。

すぐ後ろではクレイが何やら「走り辛い」とか「手!」とか、何か喚いているけど動揺するクレイに笑い声を立てながら街中を走ればすぐに知った顔に出会った。


「なんだい?二人して逃避行でもするのかい?」


ギルド紅緋の翼のテラスに置かれたテーブルでワインを傾けるガーネットと一緒にワインを傾けているエンバー達面々が居た。

俺は迷わずクレイの手を引いてテラスに乗り込み


「ふっふっふ……

 今からおやつを探しに行く所なんだよ」


何て謎のしたり顔で言えば誰もがクレイにお前も災難だなと視線を向ける。


「王宮での話はどうなったんだ?」


エンバーの疑問に


「まぁ、どうしようもないって言うのと王位継承をもう一度改めた方がいいって事になったと思う。

 もっとも話が通じそうもない相手なだけに苦労はするかもな」


クラナッハと言う男の思考回路がおかしすぎて話にならない事をなんとなく知っている皆様方は苦笑するわけもなく納得して


「そうなるとフリードリーン王子の噂の隠し子に希望を持つしかないな」

「フリードリーン?隠し子?」


初耳だ。何その楽しそうなルゥ姉なら絶対食らいつくワードはとギルドの人に視線を向ければ


「噂だよ。

 フリードリーン第一王子が向かった村に愛人とその子供がいるって言う」

「でなきゃあんな一番危険な場所に王位継承者が行くわけないからな」

「ちなみに噂がほんとなら年の頃はクレイと同じくらいか少し上って話」

「庶民との格差を越えた愛!」

「結ばれる事を許されない二人!」

「切ねえ!」


げらげらと笑いながら盛り上がるギルドの連中にエンバーが呆れた視線を向ける。


「俺の記憶じゃクロームやクレイに似た特徴のある奴なんていなかったぞ」


ため息交じりの数少ない情報を持つエンバーはあきれ返る。


「別にいいだろ。王族のゴシップ何て庶民の娯楽なんだから」

「みんな知ってる有名な話だし」

「当人の目の前で言うのだけは止めてやれ」


クレイも微妙な顔で紅緋の翼を見ていたが


「それで故郷にはいつ行くんだい?」


ガーネットがエンバーから聞いてた話を俺にふり


「さあ?詳しくはまだ。

 でも準備出来次第じゃないかな」


ルゥ姉の気性の問題もあるし、この事は一日でも早い方がいいに決まっている。


「なら、最短で今夜か」


疲れたと言うようにエンバーが溜息を吐き出せば


「なら、今夜には連絡を取っておくさ」

「ありがと」


連絡とはどんな方法かと思うもエンバーは仲間達に俺も準備しに行くなと言って席を立ち、未だ手を放してないもう片方の手でエンバーの手を掴んで走り出す。


「俺も巻き込まれた?!」

「あはははは!楽しい光景じゃないか!」

「ちょっと!手!走り辛い!」

「ガキっていいなぁ!」

「ころぶなよー」


酒のつまみに笑いを提供して俺達は相変わらず商品の少ない店を冷やかして回るのだった。



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