誓い
ブックマークありがとうございます!
まだまだ長い道のりの旅ですがどうぞよろしくお願いします。
黄金の狼・ロンサールは俺達を歓迎すると言い残してまた光に溶ける。
今度はちゃんとドレスを纏い、乾いた風にドレスの裾を翻しながら初めて会った時の知性を伴う瞳の不遜な態度が俺達と見合っていた。
「歓迎ありがとうございます。
よろしければ何故こんな事になったのか私達は聞く権利があると思いますが?」
意外に深かったのか喉から少しずれた胸元は何とか止血し、回復魔法で怪我の痕は無くなっている。
だけど流された血が服に吸い込まれて血の匂いとその色までは隠しきれない。
錆び臭いがた嫌で浄化の魔法で服を洗濯しておく。
帰ったらエンバー達がいるかもしれないしね。
一件落着して暢気なのか俺は少し考えあぐねているガーネットをよそにいそいそと回復魔法と洗濯……もとい、浄化魔法で身なりを整えて行けばルゥ姉のどこか呆れた視線をそっと避けた。
「何から話せばと思うが、まあ最初からだ。
獣暴の乱の時に私が魔法で魔物を退けたという話位は聞いた事あるだろう?」
「ええ、この国の人達はみんなこぞってあなたを英雄としていますようにね」
その答えにガーネットは自嘲するように鼻で笑い
「もともとこのロンサールと言う地は今見ているような荒れ果てた荒野と言う砂漠の地だった。
私の大切な友がこの世界で地を治めると言う話を聞いて物好きだと思ったのだが、友は友の地を愛し、会うたびにそれはそれは嬉しそうに話すのだ。
いつしか私も友のように地を治めるのも悪くないなと考えるようになって、他の精霊すら避けているこの何もない地を受け賜ったのだ。
その時私はもう一つの精霊の姿ならではのように足で駆ける事を好み、どこまでも続くこの荒野が草原ならばと願い、こう見えても私は豊穣を謳う精霊だからな。
乾き切ったこの地を潤う水を与える事を引き替えにこの地を我がロンサールとしたのだ。
もっとも契約とは与えて与えられるという相互関係から成り立つ事を精霊王によって約束されている。
とはいえ、私は人の営みにあまり興味がない。
だからこの砂漠に私好みの草原と喉を潤すための川を巡らす代わりに……
私は人の営みに一切の手を貸さない事で契約とした」
ルゥ姉は隣で何かを考えるように慎重に口を開き
「それは、相互関係になるのですか?」
ルゥ姉の疑問通りに俺も頷くが
「なるさ。
私好みの庭を作る代わりに私の庭を荒らさなければ好きにしろ。恵みも分けてやる。但し私はお前達の願いは聞き入れない。お前達の為に何もしない、とな。
それがこのロンサールの地との私の契約さ」
どこか悲しそうに月明かりの荒野の遠くへと視線を投げながら
「住めば都と人は言うだろ?
私もいつしかこのロンサールと言う国をいつしか愛していたのだ。
陽気な国民性、美味い酒にそれによく合う飯。
何よりこの草原を馬で駆け抜けて行くのが好きな連中ばかりで、男女問わず草原を駆け抜ける事を楽しんでもらえて幸せになってくれる。
私が育てたこの豊かな大地を駆け廻る、それは私の存在意義だ。
その存在意義が認められると嬉しくなるだろ?
だからいつしか私はこの国から国に住む人も愛していった。
そんな時に獣暴の乱は起きた。
精霊の居なき国が隣にあるんだ。当然のように影響を受けて何度も魔獣の大暴走は起きていたんだ。またかとも思ったさ。
大暴走の度に人は手を合わせて乗り越えてきたのだが今回はタイミングが悪かったんだ。
精霊の力が不安定だったハウオルティアで発生した魔物達はハウオルティアの西に向かって大暴走は向かうはずだったのに何故かこちらへと風向きが変わった。
調べてみたら魔族が当時発生しやすいハウオルティアで魔物の卵を大量に孵させてアルカーディアへと送りつけるつもりだったのだ。
途中ロンサールが巻き込まれるのも計算の内で、精霊の居ないアルカーディアを蹂躙する為だけのお遊びだったらしい。
魔物の行動理由なんてそんなものだから考えれば大して珍しくもないけど、それで魔物によって私の庭が荒らされると言うのなら話は別だ。
最近大暴走何て起きてなかったからどれだけの準備期間を用意したのか想像もつかん。
だが、普通なら何とか国の領地単位で処理できる程度なんだ。
大暴走が発生したらどうすればいいかなんて今時どの国にも対応する術を持っているぐらいだから。
しかし今回に限っては予測がすべて外された。
発生した国以外に向かって魔物は暴れ出し、目的地が国を一つ越えた先の場所だ。
そう。今回お前達が依頼に行った先のあの山だ。
魔物を呼び寄せ手駒を増やすつもりだったのだろう。
目的はともあれ、ロンサールを横断する形で魔物は暴走を始めた。
ロンサールと言う平原は魔物達にも走りやすく広範囲に広がって被害が広がった。
何が起きたか詳しく調べようにも我が城と言うべき祭壇はすでに魔物が壊して行った後。
王家の者に何とか状況を伝えようと思うもその手段が紛失されて居た。
愕然とした。
数百年に渡り私が育んできたこの地が一瞬にして滅んでいく姿を見て、悔しくて涙が出た。
私は一つの決断をした。
この地を託した精霊王との約束に背く事を。
愛したこの草原から離れるのは辛い。
草原を走りゆく子供らをもう見る事が出来ないのは身を切り裂かれるほど辛い。
だが、この草原を走る子供達が居なくなれば耐えようがないほど辛い。
私はあの時持てる力の総てを使って魔物を屠る事にした。
この国の子供達、人を守る為に、人の営みを守る為に、愛しい子供の悲鳴のような願いを確かに聞いて精霊の我が力を使った。
既に人はこの城壁の中にしかいないと聞いていた。
城壁内を守るために結界を張り、この周囲に居る魔物総てを焼き殺した。
骨もその灰もなくなるくらいに徹底的に。
結果、魔物はいなくなって大暴走も終わり、後には焼け焦げた平原だけになってしまったがそれでも子供達は生き延びた。
家族を亡くした者は悲しみに泣きくれたが、それでも生き延びた者達は復旧に汗を流し活気はすぐに取り戻された。
私もこの姿で街に潜り込んで、残された子供達を使って酒と食事を楽しんでいたがすぐに違和感に気づいたさ。
消費した魔力がいつまでたっても回復しない。
やがて草原がいつまでたっても荒れ地のまま、井戸は水位が減り枯れて行く。
どうした物かと精霊界に帰ろうとすれど、戻れるだけの精霊力が無くなっていて青ざめたさ。
この異変に友も気付いてくれた。
友も愛しい地で混乱が起きて居た為に私ほどではないが精霊としての力を失っていて、でも駆けつけてくれて私の代わりにこの状況を調べてくれた。
心苦しそうな、泣きだしそうな顔で精霊王との約束を破った罪だと私はもうこの地の守護者ではない精霊界に戻る道も閉ざされたと言われてしまった。
だけど精霊地図には私の名前が書かれている。
私はこの地に縛られてしまった。
これが精霊王との約束を破った私に与えられた罰だった。
私はこの地からの恩恵を受け取れず、そして恩恵を与えられず。
喉を潤す為の豊かな川も枯れ、精霊界と同じように私を満たすはずの魔力の供給方法を失ってしまったのだ。
酒や食事でひと時の空腹は凌げれど、精霊が精霊で居る為の力を補えないのだ。
すぐに気の狂うほどの餓えが私を襲ったさ。
フリューゲルの話しは私も知ってた。
千年。
この餓えに耐えていたのかとぞっとしたし、こう見えても私だって永遠を生きる精霊だ。
これが終わりなく続くと気づいた時もう私は精霊で居られないと悟った。
とりあえず空腹を誤魔化すために酒に溺れ、子供達と遊んで飢えを誤魔化し、途切れた約束、長き年月で培った知識を子供達の為に、この私が壊してしまった人の営みの為に惜しみなく振舞う事にした」
まるで泣いているのではないかと言うような顔で砂漠へと視線を投げながら淡々と長い話を続けてくれた。
まさかこの状況が守護する精霊が守護する地を愛し守った結末に言葉を失ってしまう。
「そんなわけで、私はものすごーく腹が減っている時に、お前がやって来た。
何やらものすごく旨そうなものを持ってるし、その服の下に何を隠している?
理性が切れそうなほどの物を隠してのこのこ私の前にやってくるお前が悪いと私は思うんだ!」
神妙な顔を隠し、何故か自己都合の良い言葉を俺へと投げてきた。
おどけた様に、初めて会った時のように余裕ある顔で俺の肩を抱き何を隠してるか見せろと胸元をまさぐってくる。
やめて!
セクハラよ!
そう叫びたかったがセクハラの定義なんてないこの世界では意味をなさない。
寧ろ子供を作れ、産んで増やせが推奨されるこの世界ではそれが切っ掛けだから頑張って来いと応援される始末……
恐ろしい……
なんてぶるりと身をふるわせてる間にもガーネットの長い指が俺の胸元からランがプレゼントしてくれたお守りを引っ張り出していた。
「これは一体なんだ?」
「フリュゲールの友達が俺にプレゼントしてくれたお守りだよ」
「そんなもの見ればアホでもわかる。
一体なんて物で作ってるんだと聞いてるんだ」
プリスティアから来た少女に作ってもらったプレートを指で撫でながらも、その指はやがて空色の紐へとたどり着く。
討伐の間汗を吸い取り、俺の匂いに染まってしまった紐は先ほどお風呂で綺麗に手洗いしておいた俺の宝物。
紐の先っぽに付いた飾り石を人差し指と親指で遊んでいるガーネットの口元からついに溢れだした涎と頭から狐のような狼のような大きな耳がぴょっこりと飛び出していた。
「シュネル……フリューゲルの側にアウリールじゃなくってクヴェルだっけか?
なんか大長とか呼ばれてる竜の奴。同じ精霊なら知ってるだろ?
そいつの鬣を編んだものだよ。
で、その石はランがどこからか見つけてくれた魔石とかいう奴」
「頼みがあるのだが……」
「お断りします」
何故かルゥ姉がバッサリとガーネットの頼みを切り捨ててしまった。
と言うか、俺の存在って……
「何も全部くれって言ってないだろ!」
「いえいえ、なぜあげなくてはいけないのかって言う論点があります」
「指の爪ほどでもいいんだ!
それぐらいケチると男が寄り付かなくなるぞ!」
「いえいえ、夫と息子二人が居るのでそこの問題はどうでもいいので」
「待て!おまえ子持ちなのか?!」
「私ほどの者を放っておくわけないでしょう」
「うわー、なんかむかつく!」
話しがずれている。
と言うか、ルゥ姉は俺の手を握り
「それよりもそろそろ帰りましょう。
寝不足は美容の敵ですので」
城壁へと向かって歩き出す。
「確かに。寝不足は毛並みも悪くなるしな」
「……毛並みなんだ」
思わず聞き直してしまう。
こういうのは髪の艶とかじゃないのかと考えてしまえば返ってきたのはついうっかりとか。
何か話を捻じ曲げながら城壁のすぐ傍らまでくるも
「で、その鬣はくれるのか?くれないのか?」
「チッ、まだ憶えてたか……」
どうやらただ会話を楽しんでいたようだった。
俺はキラキラとした視線を向けて来るガーネットに耐えきれずに
「判ったよ。この一結びだけな」
美人の縋りつくような視線の耐性ゼロの俺の精神はついに妥協してしまった。
ルゥ姉の呆れた溜息が追い打ちを仕掛けてくるも、結び目の隣に結び目を作ってから一つ目の結び目を切り落とす。
俺が昔作った剣では切れなかったがランからもらった剣ではすっぱりと斬れて、剣の性能に感嘆の声を上げた。
「それよりも良い剣を持ってるな。
まさか私が切られるとは思ってもなかったぞ」
「まあ、見ての通り実力以上の武器だからね」
月明かりに反射して輝く魔石の美しさに溜息さえ零しているガーネットだが、今ではどう見てもうまそうとしか言いようがない。
「それよりも昼間のドラゴンも言ってたけどクヴェルってそんなにすごい奴なのか?」
俺のイメージの中ではコック長、もしくは乗り物、それか護衛。
口数こそ少なかったが毎日同じ釜の飯を食ってる仲だ。
今一つ馴染みすぎてその凄さが判らないが、ガーネットはあきれ返った視線で俺を見下ろし
「お前は始祖の精霊の一体に数千年寄り添うように守り続けているドラゴンを何と思ってる。
私よりも何倍も生き、私よりも魔力量も多く、そしてフリューゲルへの忠誠ぶりは千年前の事件でも色褪せる事なく、一族を捨ててまで無力な鳥に成り果てたフリューゲルを守り続けた誇り高い精神のドラゴンをなんだと思ってるのだ」
それは怒りとも言ってもいい物だろう。
「知っていると思うが妖精とはとても打算的な生き物だ。
クヴェルが聖獣と呼ばれていれど所詮は幻獣だ。我々から見れば親から生まれる妖精と何ら変わりはない。
なのに、フリューゲルがただの鳥に成り下がってもあいつの忠誠は欠片も変わらなかった。
妖精達はもちろん精霊達ですらフリューゲルを見捨てて離れて行ったのにあいつだけは今もひと時も離れず傍らにいる。
私とて力が封じられた哀れなフリューゲルを見た時には人間と慣れ合うからだと呆れて手さえ差し伸べなかったのに……」
「ひょっとして羨ましいのか?」
聞けば視線を反らされた。
つまり、そう言う事なのだろう。
「精霊にとって妖精とは目であり耳であり、手足であった。
私が人間界に来る事を継げて私の元を去って行った妖精達は当然いたが、去る者あれば残る者もいる。
私の城と言うべき祭壇にはたくさんの妖精達がこの広大な草原でのびやかに暮らしていた。
だが、あの日以降妖精達の姿はすべて消えて行ってしまった。
あんなにも賑やかな草原が今のこの枯れ果てた大地のように静まり返っていた。
私には誰にも残らず、総て離れて行ってしまった」
何かが溢れ出していた。
俺もルゥ姉もそれを見ないようにして荒野へと視線を向ける。
「こんなにも子供達に囲まれているのに孤独を、誰も手を差し伸べてもらえない恐怖が私は今ものすごく恐ろしい。
友の声も聞こえなくなり、餓えが私の理性を奪っていく。
魔物と成り果てるのはすぐ目前の出来事だ」
「そんな時にクヴェルの鬣をもった俺が現れた……か」
「ああ、この一筋一筋にどれだけの魔力が籠っているか想像できるか?
先ほどの精霊が精根尽きるまで与えてくれた力を軽く超えるだけの密度の代物だ」
言いながら結び目を解いて一筋だけを口へと、それこそ極上の料理のようにゆっくりと味わうように咀嚼して喉を鳴らして飲み込んだ。
良くはわからないがなんとなく彼女の血色がよくなったような気がした。
何かが満たされたように恍惚とした表情で笑みを浮かべ満足げに体を震わせる。
何か見てはいけない物を見たような気をしたのはドラゴンの鬣を上手そうに食べた所を見てしまったからであってほしい。
もんもんと考えるなかガーネットは残りの鬣を自分の魔法空間の中に片づけ
「満腹とまでは言わない。
先ほどより餓えを忘れる程度には回復は出来た」
「そりゃ何よりで」
「さすが私よりも長生きしてるクヴェルの鬣だ。半端な魔力ではなかった」
「って言うか、あいつ一体何歳だよ……」
まともに数えている奴なんて心当たりもないが
「そのお守りは大切な物だったのだろう?
代わりと言ったらなんだが私に出来る事なら何か願いを一つ叶えてやろう。
この大陸の内側ならどこからでもお前の声ぐらい聞き分けてやる。
実際には出来ない事もあるがそれは勘弁してくれ。
ディータ。
礼には礼で尽す。
これが私の精霊としての誇りだ」
言いながら俺のおでこに唇を押し付けた。
まだ何も知らなかった頃なら美女のキスに顔を真っ赤にする所だったが、実物は巨大な黄金の狼だ。
鼻先と鼻先をくっつけての挨拶ではないが、その程度に思えてしまうと顔を赤くする理由もなくどこかさびしい。
「紅蓮の魔女。
いいかい?精霊には親切にするもんだよ」
何処か満たされた顔で雌黄の剣が管理する門まで来て、門の上で番をしていた男に開けろと声を張り上げていた。
だけど男は時間が時間だし、許可がないととごにょごにょと何やら言い訳を始めたためにガーネットは溜息を一つ零して仕方がないと言う。
仕方がないとはどういう?と思ったとたん、ガーネットはその門を片手で持ち上げたのだ。
門の内側に居た雌黄の剣の人達の驚いた顔ぶれと対面する中、偶然そこにいたイングリットと目があって思わず視線を反らす。
俺達は不可抗力だと言うように。
「ったく、男のくせに女に力仕事させるなよ?」
俺達はガーネットに促されるままに門の内側に入れば門をゆっくりと下ろす。
門は壊れなかったようだ。
周囲の驚く視線の中を悠然とした態度で歩くガーネットの後について行き、家まで送ってもらった。
壊れた窓を見て申し訳ないと直そうとするのをルゥ姉が止める。
「無暗に魔力を使わないでください。
ご存じのように魔力には底があります。
これぐらいは人の手でも直せるものです」
やんわりとその手を下ろさせれば少しだけ考えた様に首を巡らすガーネットは静かに笑みを浮かべる。
「人間とは逞しいな」
「それが人間と言う生き物です」
なるほどと頷いてロビーへと入り
「私はこれで帰るが一つ頼みがある。
どうか私が精霊ロンサールと言う事は内密にしてもらいたい」
「どうしてです?」
言えば誰もが手助けをしてくれるだろう。
自国の精霊を敬うのはこの国で生きるなら当然の事だ。
今あるのは精霊ロンサールの恩恵でもあり、こうなってしまったのも精霊ロンサールの愛ゆえだ。
話せばわかってもらえるだろうと言うも
「私はこの国の人の営みに手を出さないと言って来た。
だから、今頃助けてくれなんて言えるはずもない」
「確かに、カッコ悪いですしね」
ルゥ姉の辛口が冴えわたる。
もうちょっと穏便な会話にならないかもと思うもガーネットは否定することなく1つ頷き
「私はカッコ悪いんだ。
妖精に見捨てられ、大切な子供達の悲鳴に何もできなくて、自我を失うほど自分の面倒もできない。
だから、せめてこの状況から脱却できるまで何とか黙っていて欲しい。
精霊界に戻り精霊王にお会いする事が出来た時、今度こそ私はこのロンサールの主として子供達の暮らしと沿うように生きてみたいんだ」
今度こそと力強く言葉を吐き出したガーネットからはもう今までの傲慢な態度を改める意志が溢れ出している。
「だったらさ、もし、俺達がハウオルティアを取り戻したら俺達と一緒に一度フリュゲールに行ってみないか?」
キョトンとする彼女に
「一人だと同じ事をぐるぐると考えて解決策何て思いつかない。
いいアイディアだって出てこないし、選択が広がらない。
フリュゲールには同じこの世界に魅せられたフリューゲルがいる。
精霊王との間に入ってもらいたいとはあんたは思わないだろうけど、一人で考えるよりよっぽどましだ。
同じ苦しみを知ってる者同士、話を聞いてもらうだけでも価値はある。
あんたがカッコ悪さに断るのなら話は別だけど」
どうする?と言う問いにガーネットは少しだけ悩み
「ああ、ほんと、ここで断るほどカッコ悪い物はないな。
良ければ私をフリューゲルに改めて紹介してもらいたい。
そして感謝を。
あの二体の精霊は私の状態を案じてくれたフリューゲルが与えた知恵だろう。
私は一人ぼっちだと思っていたが……私は知らないうちにフリューゲルに守られていた。
たぶん見えない所で私の様子を見ていたのだろう。
だが、これは私が解決しなくてはいけない問題で……
見ていてくれ。
私がこの地を取り戻すさまを」
それだけを言い残してガーネットは去って行ってしまった。
後姿を見送った後、とりあえず壊れた窓の方を見に行けば風呂場はガラスの破片だらけで、まずは窓を外してガラスを拾ってと考える中ルゥ姉は庭の納屋から板を持ってきて
「とりあえず今夜はこれで凌ぎましょうか」
「だね。
って言うか、もう明日で良いよね?
今日どれだけ俺達働いたんだ?」
「まさか私が張った防犯結界が突破されるとは……
ガーネットなら仕方がないと言う物でしょうか?」
板と一緒に釘とトンカチも見つけ出して来たルゥ姉に板を抑えてもらいながら打ち付けていれば、心配になっていたご近所さんが夜中だと言うのに手伝いに来てくれて、思わぬ事が切っ掛けでご近所付き合いが出来るようになった。