黄金のロンサール
ブックマークと評価ありがとうございます。
13日の金曜日ですがどうぞ楽しんでいってください。
広間にオイル漬けとワインを樽のまま並べる。
ピクルスも出し、食事班が持参した物はもちろん俺達の家の食料も使って15人分の食事を手早く作り上げるのだった。
その間ガーネットは女王様のように優雅にワインを傾けクロームとルゥ姉とセイジさんやエンバーと言った顔ぶれでこの家の残された食材を堪能していた。
この中にイングリットが居ないのが幸いだった。
それからしばらく料理を堪能したのちに
「話は変るけど何でクレイはさっきこの家を飛び出してどこへ行こうとしたのさ?」
未だがっちりとクレイの首根っこを抱きかかえているガーネットの突然の質問にルゥ姉は素直に夕食前と後の話をした。
関係ないけどクレイはそろそろ茹で上がるか窒息しそうなので放してやって欲しい。
クロームを始めとした全員があっけにとられながらも最後まで話を聞いてくれたのには驚いたが、代わりにさっきまでの陽気な空気はなくなり、みんな視線を合わせないように金箔とした空気で沈黙を保っていた。
「つまり、早急に新王による精霊ロンサールへの祭壇による奉納を急げと言う事か?」
「精霊の居るフリュゲールで仕入れた知識です。
たぶん間違いはないでしょう。
精霊フリューゲルも契約者と密接であればあるほど恩恵が強まると言っていましたが、契約の内容をもう一度洗い直しましょう」
クロームの眉間に皺が寄る。
「契約の内容?」
どうやら聞き覚えのない言葉のようだった。
ルゥ姉は言葉を選ぶように口を開き
「この国を作る時、今の王族の方はこの国に何か恩恵を貰ったと思うのです。
例えば以前のような緑豊かな草原だとしましょう。
ですが、精霊の力は無尽蔵には在りません。
精霊一体が支えれるのは一つの国程度と聞きます。
フリューゲルの契約は皆様ご存じかと思いますが国に魔物が出没しないと言う事です。
これは有名なので改めて言う必要もないし、隠す必要もないし、誰もが推測すれば辿り着く内容かと思います。
つまり、契約者は何かをフリューゲルに返しているはずです。
契約が守られているので千年の間、契約者と精霊が国を離れていても恩恵は継続しています。
さて、この国では例として緑豊かな草原と上げましたが、それに対して精霊側も何かを要求したはずです。
それは一体なんなのでしょう?」
クロームをサファイアの瞳がヒタリと見据えて
「これが判らなくては国は崩壊の一途です。
既に契約は無くなってしまったと考えましょう。
ですが、それは精霊側にも予想外と思ってもいいと思います。
なんせ、王族がこの国の中心にいるだけでまだ被害を最小限で押さえている状況なので精霊の恩恵が途切れきってないと言うか、予想外の出来事に精霊が身を切ってこの国を守ってる状況だと私は考えております」
「す、すぐに母上に奏上を……」
既に腰を上げてうわ言のように城に急がねばと言うクロームの腕にしがみつくようにして留めようとするセイジは
「落ち着いてください!
クラナッハ様の王位は何時でも就く事が出来ます!
それよりも大切なのは精霊ロンサール様への祭壇が必要になります!
まずは祭壇を至急ご用意しなくては!」
全身全霊で足止めするにはふさわしい言葉がセイジから飛び出し、俺達も弟さんを王位につける事で頭がいっぱいだった為に王位に着くまでにしなくてはある事が山ほどある事を理解して、崩れ落ちるようにすとんと椅子に座るのだった。
「クローム様落ち着いてください。
まずは落ち着きましょう」
その言葉を切っ掛けに雌黄の剣の人が俺達全員にお茶を配るのだった。
元王子様の周囲は気の利く人ばかりである。
「クラナッハ様の王位継承はこの事態が落ち着いてからと言う事でしたが、こういう事なら待つ必要はありませんすぐにでも王位継承を形だけでも済ませましょう。
その後報告と言う形で精霊ロンサール様の祭壇へと報告になりますが、肝心の祭壇の場所は王家の最大の秘密とされています。
まずは祭壇がご無事か一番に確認いたしましょう。
そして修復が必要となればそれこそ大急ぎで、資材が必要となればギルドも使ってでもかき集めさせましょう」
冷静にこれからの準備を並べるセイジに力なく頷くクロームはようやく立ち上がってクレイを伴いセイジ達雌黄の剣の人達と城へと向かうのだった。
大丈夫かと眺めていたが、そばにいたあの5人は元々王子時代からの側近だったとエンバーが教えてくれた。
誰よりも信頼厚い部下達に囲まれて市井に降りたのなら安心だろうなと納得しながらこの様子をただただ眺めていたガーネットはようやく静かにワインを傾け
「精霊と国の成り立ちに随分詳しいんだな?」
「これでも万が一の為に、ハウオルティアで何があっても良い様に勉強をしてきました」
「嘘を教えられてるとは思わないのか?」
警戒しているガーネットにルゥ姉は少しだけ悔しそうな顔をして
「あの方達が本気になれば私など一撃で葬られましょう。
あの方達が知恵を絞り出せばそれこそ武力すら使わず国ぐらい滅ぼせましょう。
あの方達が真面目に戦争を起こそうとすれば大陸の半分ぐらいは軽く制圧できるでしょ。
そのような方達が無力な私達に何を偽る必要があるのでしょうか」
ルゥ姉の言葉にルゥ姉の強さを少しでも知ってる紅緋の翼の面々は顔を顰める。
魔法を使えない最弱国とされているフリュゲールの真の実力はその力を使えば周辺国など軽くあしらえると言う言葉に息をのむ。
それほどの一般常識とのギャップに理解が追いつかないと言う面々を背後に
「なるほど。
お前達があの国をそう判断したのならきっとそれが正しい価値なのだろう。
とはいえ、貴重な情報をありがとうよ」
「そのようなお顔をしてる所を見るとすでにご存じのように見えますが?」
挑発的なルゥ姉の言葉に紅緋の翼はガーネットを見る中、肩を少し竦めるだけで
「これぐらいの事ウィスタリアの図書館に行けばすぐに調べられる事だよ。
むしろこの結果はお前達の言った言葉を忘れたロンサール王家の責任だ。
契約を穢したのならその血を持って贖うしかないだろ」
それが精霊との契約じゃないのか?と言うガーネットの言葉にルゥ姉は苦虫を潰したような顔で確かにと言う。
「ロンサールの人達にはご存じかは判りませんが、現在ブルトランでも同じような現象が起きています。
王家の男性が次々に亡くなり今ではブルトラン王しかいないと聞きます。
たくさんの妾達に子供を産ませど生まれるのは女児ばかり。
フリュゲールではこの状態の精霊を歪んでいるとおっしゃってましたが……」
「ロンサールの精霊もとっくに歪んでいるんだろうねぇ」
切なそうな声でワインの樽を抱えながら先ほどよりワインを独り占めしているガーネットに誰ともなく視線を反らす。
獣暴の乱でこの国を守ったというのに国の内側からもこの国が滅んでいくのを一番肌で感じているだろうガーネットは席を立ち
「今夜はクロームとも話が出来なくなった。
改めて明日出直すか」
ふらりと気持ちよさそうに酔いながらもワインの樽を軽々と担いで出て行ってしまったガーネットを見送れば紅緋の翼の四人も申し訳なさそうについて行く。
と言うか
「あのワインの樽ほぼいっぱいじゃなかったっけ?」
「ガーネットに常識を求めるな。
これぐらいいつもの事だ」
そう言ってエンバーはピッチャーに残ったワインを持って
「悪いけど俺も今日は帰る。
また改めて明日合流してからクロームの所に行こうか」
それだけを言って家を後にしてしまった。
仕方ないと言いつつルゥ姉も今夜は何もできないので寝ると言う。
寝て起きたばかりだと言うのによく眠れるなと思うが、やはり昨夜の徹夜は体に堪えてる。
俺も寝るかと思うも水場のバスタブにお湯をため、服を脱いでゆったりと浸かる。
「疲れた時は寝るのも大切だけどやっぱこれだよなー」
と、バスタブからつま先と頭だけをちょこんと出して横たわる。
勿論近くに置かれたコップには氷の入った水が満たされてる。
「静かだ」
さっきまでの喧騒も日暮れと共に声は遠のきやがて虫の声しか聞こえなくなった。
ルゥ姉も部屋に戻ったし、クレイも今夜は帰ってこないだろう。
心地よさにうつらうつらとしてしまう無防備さはこの数日の旅で経験した事と比べれば非常に贅沢で、少し意識が飛んでしまった。
飛んだと理解できたのは急激に意識が引き戻されるくらいの恐怖を感じたから。
とっさに部屋中を見回し、手探りで服を着る。
どうやらそれくらいの時間は与えてもらえたようだ。
ズボンとシャツを着て靴を履いた時点で派手にガラスが割れる音がこの水場を中心に響いた。
「誰だっ!!!」
とっさにランからもらった剣を取出しその一撃を辛うじて凌ぐも、その力押しにぶっ飛ばされて俺は別の窓から外へと叩き出された。
フリュゲールでの訓練が効いていて、これも辛うじて風の防御壁で全身にガラスを刻む事は避けたものの、周囲の家からも悲鳴とどこからか俺の無事を確認するルゥ姉の悲鳴が聞こえてきた。
「ルゥ姉!外!逃げる!!!」
正直にバケモノ級と俺は判断して少ない言葉で人の多い密集地を出る事を言えば、窓から身を乗り出したルゥ姉に城壁の外へ行くと言い残し、風の魔法の力を借りて家の屋根伝いに城壁の外へと向かうのだった。
だけど、俺を襲った何かは確実に俺を狙うように着いてきてる。
ルゥ姉も慌てて家を飛び出して来たようだけど、何かの力はその足で屋根が吹き飛ぶほどだ。
待ってらんないとまっすぐに城壁へと向かい、外へと飛び出す。
城壁からも十分距離を取り利き足を軸に反転してようやく魔物と対峙をすればそこには巨大な狼が対峙していた。
「ははは……
なんつーバケモノサイズだよ……」
ルゥ姉はまだ来ない。
城に向かってるクレイや今頃酔っぱらって寝ているだろうエンバーの応援は無理だろう。
一人で何とかしのがないとと剣を構え直す。
やがて雲の隙間から月明かりが零れ落ちれば現れた全貌は黄金の狼だった。
俺達を見下ろすような体躯、一口で俺を食べるようなだらだらと涎を垂らす大きな口とぶっとい足。
ぼそぼそとした箒のような毛並みの悪いしっぽだがその一振りで俺達は吹っ飛ばされそうで、見た目は狼だろうが、キツネのよなスマートさと鋭い瞳には理性が見当たらない。
特徴なのは片耳から何故か一房だけたらりと短いしっぽの様な物が垂れている。
一体なんだ?
これがおしゃれなのかと思うも多分違うだろう。
なんか妙にこの部分だけが気になり違和感を感じるも、真っ赤な口の端から更にだらりと垂れた涎が現実を見せつけていた。
「喰らえ!『シェムブレイバー!!!』」
魔石が俺の魔力に反応して輝き、刀身に魔力の波動を乗せて思い切り切り付ける。
悲鳴のように叫んであの不可視の羽を叩き付けるも、足を止め、くるりと回転した反動でしっぽが俺の渾身の一撃を叩き落とし、金色の毛並みの一部を裂いただけでわずかな血をその黄金に滲ませる程度。
それどころかその風圧で俺はごろごろと吹っ飛んで転がる始末。
明後日の方に吹っ飛んで行ったシェムブレイバーは大地に巨大な溝を掘っていた。
「どんだけ堅いんだよっ!」
黄金の狼は一度俺から距離を取るも、再度獲物をとるように軽く跳ねて真上から俺を捕まえに来た。
「狼の図体で狐の狩りの仕方かよっ!!!」
食べられたと思う瞬間その真っ赤に開かれた口に向かって
『水球!』
身体が大きくて全身何てとっさにはできなかったがそれでも口と鼻の周りには水球を撒きつける事が出来た。
着地した時にはクレーターかというような衝撃が地面に伝わり歪なまでにボコッと地面が抉れ、巻き込まれないように逃げるのが精いっぱいだった。
巻き上がる砂煙にとっさに防壁貼ってなかったらどうなってたかと冷や汗を流しながら黄金の狼を睨みつける。
隙は作らないと次の動作に目を光らせておく。
しかし黄金の狼は何度も水を飲んでも減らない水球にやがて口からも鼻からも息が出来なくて前足だったり地面に転がって何とかしようとするも、この枯れ果てた大地でもわずかにただよう水分はその程度では拭えたりしない。
振り払おうと頭を振ったりするだけで空気が震えるし、外そうと後ろ足で地団駄するだけで大地が揺れる。転がるだけで巻き上がる砂礫が防御壁を貫き皮膚を傷つけて行く。
どんだけバケモノ級だよと呆れるも黄金の狼はひっきりなしに暴れまわるので、口と鼻から水球が外れないように、水量を維持するだけのコントロールをするのが俺には精いっぱいだった。
やがてゴロゴロと転がり、苦しそうに唸り、やがて痙攣を始めた頃ルゥ姉がやって来た。
「ディータっ!!!」
着の身着のまま来たって所だろうが、とりあえず取り繕う程度に身に纏うマントがなんともちぐはぐで可笑しな姿になっていた。
「ルゥ姉、気を付けて!」
ひょっとしたらこの魔物はこんな状態でも対抗策を探しているかもしれないと最大限に警戒をする。
ルゥ姉も俺が持ってる剣を見て、ランがルゥ姉様に誂えた杖を構える。
だけど、黄金の狼はわずかに手足を痙攣する程度となり、しっぽも耳の横の一房もすでに力なく、口を覆った水球に胃の中の物だろう何かが混ざり合っていた。
正直ゲロはあまり見たくないなと、こんな姿でも月明かりに照らされた黄金の狼を美しいと思う俺はどうかしていると思う。
「ルゥ姉、この狼ギルドで高く買い取ってもらえるかな……」
「これだけ美しい魔物だと切り裂かれるのも哀れになりますね」
弾む息を何とか落ち付けさせながら黄金の狼の最後を見守っていれば、月明かりの中その姿が光と共に溶けて行き……
「これって……」
「待ってください。こんな事って……」
一人の女性の姿になった。
それはほんの数刻前に会っていた人物で、出会って間もない人物だがそれでもよく知る相手で。
「何で紅緋の翼のガーネットが魔物の姿になってるんだよ……」
絞り出すように、見た物が間違いではないようにとルゥ姉に確認をとれば
「すぐに魔法から解放してください。
今ならきっと大丈夫でしょう」
慌ててルゥ姉はマントを脱いで何故か全裸のガーネットの体をそれで包む。
俺は魔法を解除して、異様に膨れ上がった腹を見てルゥ姉にガーネットを横向きにするようにさせた。
程よいチューブはないから軌道をまっすぐにして、さっき俺を食べようとした口に躊躇いながらも指を突っ込んだ。
少しの刺激でガーネットはすぐにえづいて、大量に呑み込んだ水を吐き出すと同時に意識を取り戻した。
名前の通りの柘榴石の瞳が宙をさまよう。
それはまるで泣いているような虚ろな視線。
だけどゆっくり俺を見つめたかと思ったらいきなり飛びついてきて
「うわああっ!!!」
「ディータっ!!!
ガーネットもいい加減にしなさい!!!」
言いながら俺の喉元にかみ付いてきたガーネットを引きはがすように力任せに髪を引っ張ってくれた。
ブチブチと髪が切れる音を聞いたがそれでもガーネットは俺めがけて牙を向け、長く綺麗に整えられた爪で俺を追いつめ、馬鹿力で大地に縫い付ける。
「いい加減にしなさいっ!!!」
マントも外れた全裸の迫力美女に襲われると言う光景だが、それにも劣らぬルゥ姉とのキャットファイトは第三者ならさぞ楽しめただろう。
だが残念な事に俺は獲物で、制御不能な状態のガーネットにただの人間のルゥ姉も一人では手も足も出なく
「ベーチェ!ミュリエル!来なさい!」
現れた二体の幼い精霊は俺達を見て息をのむ。
「ガーネットに何とか一撃入れてディータから引き離して!」
いえばミュリエルが風の塊りを容赦なく……ガーネットの頬に叩き付けた。
ぐらんと人の動きではない感じに頭がぶれたが、一瞬ふらふらしながらもガーネットは俺を何としても食べようとその牙を俺の首筋にたてようとする。
その姿にベーチェがガーネットの正面に立ち
「食らいなさい」
規模的には手のひらサイズで小さいけど、俺の眼の前で眼球が一瞬で乾燥するくらいの、触れれば一瞬で焼き尽くすと言わんばかりの熱量の火の塊りを手ごと口の中に突っ込んだのだ。
「やり過ぎだ!!!」
慌てて止めようとするも炎を口の中に突っ込んで、もれないようにご丁寧にその小さな両手で口を閉ざすと言う荒業を披露。
俺もルゥ姉もあまりの攻撃方法にあっけにとられ、その体を一瞬出来た隙に地面の上に払いのけるも、それで何とかガーネットは静かになった。
と言うか、生きていた。
ぶじだった。
火傷一つなかった。
おかしくないか?
俺はルゥ姉と二人少しずつガーネットの様子を見るのに近寄るも、ゆっくりと身じろぎするガーネットは四つん這いとなり、顔を上げて俺達を、その理性のともる柘榴石の瞳で見上げていた。
「私は一体……」
ゆっくりと乱れた髪を振り払うように頭を持ち上げれば、風の塊りと炎の塊りをもつミュリエルとベーチェを見て。ゆっくりとその手の中の塊に向かって手を伸ばし、俺達が見守る中わき目もふらず貪るように食べ始めた。
「ガーネット……
貴方は一体……」
次々に塊を作るミュリエルとベーチェの魔力の塊りともいえる物をパクパクと見てる方が気持ちいいほどに魔力の塊りを食べているガーネットはルゥ姉を見てから俺をゆっくりと見て
「すまない。長い事魔力切れを起こしていてまともな回復ができていなかったんだ。
何とか耐えていたがついに自我を失うとは思ってなかった……」
言いつつもミュリエルとベーチェの魔力の塊りを今も食べ続けていれば先にチビ共の方が魔力切れを起こしたようだった。
「ああ、悪い。
すまなかったな。餓えは辛うじて凌げた。
フリューゲルに会ったら感謝を。二人とも休んでくれ」
言えばミュリエルとベーチェはルゥ姉に挨拶をして精霊の住む世界に帰って行ってしまった。
月光を浴びているガーネットはその瑞々しい裸体を隠すことなく立ち上がり、光に溶けて一体の黄金の獣の姿になり
『まあ、言いたい事は判るが……
改めて挨拶だ。
ようこそ我が地、ロンサールへ。
精霊ロンサールはこの恩に応えるべく二人を歓迎しよう』
月へ向かって遠吠えをする。
まるで遠くの誰かに向かって俺達がこの地へと無事たどり着いた事を伝えるように。
太く、長く、そしてどこまでも遠くへと澄んだ遠吠えが高音や低音を奏でながら、まるで歌を歌うようにこの何もない荒野に広がるのだった。




