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まずは茶をくれ

ブックマークと評価ありがとうございます!

楽しんでもらえるように(週一ですが)がんばります!

何て言う呪文か知らないが、目の前のゴブリンとオークの集落は一瞬にして炎に包まれた。

ゲギャ、ゲギャと喚くゴブリンは全く間に炎の中に悶え崩れ落ち、そしてオークも残りの力を振り絞って俺達を見つけ出して棍棒と言うにも無残な棒を振り回しながら襲い掛かって来た。

エンバーはまっすぐ女達の居る小屋を目指し、俺とクレイはただ力任せに棒を振り回すオークをあざ笑うかのようにすばしっこく動いて止めを与えて行く。

力が強いだけの相手は恐るるに足りない。

スピードもなく、見た目が恐ろしくただ大きいだけの相手では俺達に恐怖は与える事は出来ない。

そもそもルゥ姉の精霊を使わない炎の魔法程度で既に致命的な火傷も負っているのだ。

切れ味の強化された剣で切り付ければ恐ろしい顔の魔物と言えどその顔は恐怖に染まる。

逃げようと背中を見せて駆け出すも、クレイがそれを許さない。

一人で止めを刺すには難しいサイズの相手に俺達は協力して確実に仕留めて行く方法をとる、すばしっこさではべヘムウルフの方が上で連携を取る練習をしたのだ。

のろまなオーク相手に俺達の連携は完璧だった。

こんな俺達を見て逃げ出そうとするオークや運よく生き延びたゴブリンを森に逃げる前に仕留めて行く。ゴブリン程度なら一人でもできるから魔法も駆使して一匹も逃がさないように目を光らせる中、小屋の1つが火柱を上げて燃え盛っていた。

そこはエンバーが向かった場所。

火柱を背に俺達と合流したエンバーは苦しそうな、悔しそうな、無力。

俺達を見て唇を噛みしめた顔を隠しもせず


「総て叩き斬るっ!!!」


苦しく、吐き出すような慟哭の宣言の後に彼の姿がぶれる様に消え、次々に逃げだそうとするオーク、ゴブリンを叩き切っていた。

エンバーが見た物を俺は知らない。

多分教えてもくれないのだろう。

一人弔い合戦を始めたエンバーの動きは正直俺の眼では追いかけるのがやっとだった。

叫びながら切り捨てて行くその声を辿り何とか目で追言えると言った程度で。

想像の範囲内でもあの小屋の中にはこの世の地獄があったのだろう。


やがて姿を現した一つ目の巨人にエンバーは二度三度と切り付けて行く。

さすがにあれだけの数のオークやゴブリンを切った後では剣の切れ味が落ちているのか、一撃では仕留められなくなっていたようだ。

それにあんなスピードで動き回っていて肩で息をするようになっているエンバーにクレイが援護しようと駆け出すも


『咲きなさい』


ルゥ姉の炎が爆ぜ、魔物の死骸が転がる暗がりの中どこまでも底冷えするような声が響き渡る。

声と同時に咲いたのは何体もいる一つ目の巨人に刻み込まれた風の刃で小さな肉片が飛び散っていた。


「くぎゃああああああっ!!!」


野太い魔物の声が山間に響く中更に


『舞いなさい』


更に重なる風の魔法で一つ目の巨人の体を斬りつけ


『踊り狂う血風の宴!ブラッディリコリス!』


一つ目の巨人の体から絞り出すように血が舞い上がり、そのさまはまるで曼珠沙華。

なんて物騒なと思うも呪文を唱えたルゥ姉だったが、何体も居た一つ目の巨人をその呪文1つで総て独りで倒してしまった。

あっけない一つ目の巨人の終わりにクレイはもちろんエンバーでさえ動けずに無言でルゥ姉を見つめている中一つの拍手がパチパチと聞こえた。

音を探して視線を走らせれば、空を飛ぶワイバーンの背に立つ男がそこに居た。

燃え盛るゴブリンの巣の炎に照らされた男は上等な服に身を包み、俺達に向かって人間にしては素晴らしいと拍手を送りながら笑っていた。

と言うか、何というか……


「ルゥ姉、なんか恥ずかしー奴がいる……」

「おい……」


緊張感の欠片もない俺の感想にエンバーのツッコミを無視して俺はポケットの中から数の少なくなったナッツバーを口へと放り込んだ。

ルゥ姉も戦闘中に何をと呆れたように俺を見ながらドライフルーツのバーを口へと放り込み


「あれが噂のワイバーンと魔族でしょうか?

 随分安っぽそうな服を着ているようですが、やってる事もせこいですね」


ゴブリンとオークに女性を誘拐させて巣をつくらせている事を言ってるのだろう。

あまり魔族と出会ったことない様子のクレイはルゥ姉の言い様にあわわあわわと慌てふためいている。

俺はそんなクレイを見ながらドライフルーツバーを齧り


「まぁ、ワイバーンの背中に立って悦に入ってる時点で残念だろ?」

「世の中それをかっこいいと思う人も居るようなのでそこは黙っててあげなさい」

「いやいや、今時そんな奴いないって」


ルゥ姉に白湯を渡しながら俺も白湯を飲む。

コップを出すのがめんどくさかったので水球のまま直接口に付けた。

ドライフルーツにキャラメルは甘すぎた。

ちょっと改良しようと心に留めておく。


「そこの女子供!

 私を誰だと思ってるっ!!!」


激高する魔族にルゥ姉は残った白湯を捨て小首をかしげる。


「さあ?魔族に知り合いはいませんので誰だと言われても知るわけないでしょ」


さも当然と言った言葉に俺も力強く頷く。

エンバーもクレイも魔族相手に煽るなと何やら背後で言ってるが、アウリールを見慣れた俺達に亜竜のワイバーン何てトカゲに羽が生えた程度の物にしか見えないし、魔族に至ってはどこぞの社交界に一人はいる実力以上に着飾ったピエロみたいな残念な奴の同類だと俺達は判断した。


「なんか初めての魔族だって言うのに、がっかりだ……

 ギルドに騙された……」


すっかり期待を裏切られた俺は盛大に溜息を吐く中


「正真正銘の上級魔族は知性的でつま先から髪の一筋にまで気配りします。

 ましてや裸ワイバーンに乗るなんてはしたない事はいたしません。と言うか、ワイバーンになんてまず乗りません。

 下僕も連れてないようですし一人で行動する事もありません。

 何より今から倒す相手にも敬意を表してくれます。

 よって、この魔族はどこぞの成り上がりでしょう」

「おい、いい加減にしてやれ。あの魔族泣いてるぞ?」


エンバーが冷静に魔族を指させばさすがに少し言い過ぎたかと思うより先に


『獄炎なる黒き炎

 我道を阻む物を包み、喰らい、影をも飲み込めファイナブルホール!』


予告もなく突如放った魔法は見事ワイバーンと魔物を包み込み、無駄な足掻きもその呪文の通り黒い炎に呑みこまれるように一瞬にして跡形も何もなくなっていた。


「下級魔族相手にいちいち付き合うなんて私がすると思っておいでですか」


呆れたようにため息を吐くルゥ姉の背後で俺達三人は無言で頷く。

ルゥ姉だけは絶対怒らすまいと。

下級魔族ですら本来恐ろしい存在なのにあまりにも扱いが可愛そうだ。

魔族があんなに弱い挙句にメンタル弱くてどうするんだ。

口には出せない盛大なツッコミを心の中で喚き散らすも、魔族を魔族とすら思わないルゥ姉の度胸に誰もが口を閉ざす。

絶対怒らせるわけにはいかないと。


だけど周囲は未だパチパチと爆ぜる木の音と時折燃え尽きた木が崩れる音が暗闇の中で響き渡る。

未だ降りしきる雨にルゥ姉は取り出した外套を羽織り、無言のまま女達が居た小屋へと足を向ける。

俺達も後ろに続く形で付いて行けば、崩れ落ちた小屋には人の形を残す遺体が無数横たわっていた。

その一つを小屋から引っ張り出そうとするも、まだ燻ってる木材達になかなか足が進められないでいる。

俺はそれを見て集落から外れたひときわ大きな木を見つけ、そこの根元にいくつもの深い穴を魔法で作った。

俺達が何をしようか悟ったエンバーとクレイも魔法で燻っていた木材を消火しながら女達を小屋から解放する。

首に繋がれた鎖、木でつくられた檻らしきもの。

一糸纏わぬ痩せこけた体躯に折り重なるように女達よりも小柄な亡骸は人とは違う異形の姿。

自然に頬を伝う涙を泥だらけの手で拭いながら女達を1人1人丁寧に運びその穴にそっと横たわらせる。

13人の亡骸を運び終えて魔法ではなく近くに在った木材をスコップ代わりに一つ一つ手作業で土を盛る。

誰も無言のまま黙々と作業を進めている間に夜が明けて山間のこの場所にも陽が差すようになっていた。

燻った木々からはまだ白い煙が立ち上る。

何時の間にこの場所から離れていたのかルゥ姉がどこで見つけたかわからないがどこにでも咲いているような野花を見繕って来た。

その両手で抱えれるのは知れた数だが、それでも墓の一つ一つに色とりどりの素朴ながらも名も知らぬ可愛らしい花を添えていた。

俺は出来上がった墓に名もなき墓標の代わりに近くに石を並べ「Rest In Peace」と略さずに一つ一つに刻む。


「それはどういう意味で?」


名も知らぬ女達への墓に刻むには名前ではないようだし、きっと初めて見る文字だろう。

この世界の墓には名前と生まれた年と没年が書かれる程度。

死後の世界までは誰もが墓参りするぐらいで思いを置いてはいかない。

彼女らの名前の代わりに書かれた同じ言葉が並べられた石を見て同じように首をかしげるエンバーやクレイにもなんだと尋ねられれば


「安らかに眠れって意味だよ。

 どこの国の人かも知らないし名前も知らない。

 こんな悲しい人生が最後だなんてあっちゃいけないんだ。

 だから、せめて亡くなった後ぐらい安らかに過ごして欲しいんだ」


何処か遠い国の風習なんだとユキトの世界でも海を渡った先の文化なので、テレビや映画などで仕入れただけの情報を人も来ない山奥の場なので構わないだろうと記してみた。


「では参りましょうか」


何故かこの言葉を気に入ったエンバーとクレイが最後に安らかに眠れと言った所で煤けた集落の跡地と彼女達が眠る場所を離れようと後ろを振り向けば思わず息をのむ。

一難去ってまた一難。

何時の間にそこに居たのか俺達は息を忘れ、完全な不意打ちを受けた形で対面するのだった。


深紅の体の老齢としたドラゴンが俺達を見下ろしていた。


あまりにもの突然の出現は俺達の思考を完全に止めてしまい、ルゥ姉でさえ無理やりにとでもいうように喉を鳴らせて呼吸をするように空気を飲み込むのだった。

俺もエンバーもクレイでさえ、よく大声を出さなかったと褒めちぎりたい所だ。

理性的にドラゴンと向かい合い、クレイはガチガチと歯を鳴らしながらも何とか両足で踏ん張って立っていた。

それからどれだけ時間経ったのか、それともさほど時間が立ってないのか判らないがドラゴンが不意に動いて俺達の頭上にその巨体の頭を持ってきて


『人間とは不思議な事をする。

 これは確か墓と言ったか?』


頭の中に直接言葉が送られてきた。

クレイもエンバーもいきなりの現象にどっと汗を拭きだしていたが俺達は経験がある。


「はい。13人の女性が眠っております。

 所でこれは貴方の念話でしょうか?

 突然話しかけられると念話に馴染のない人間は驚きます」

『ああ、すまぬ。我らは基本念話でしか語らないからの』


グルルルル……

何て喉を鳴らして笑うもちっとも可愛くもない。

こんな俺達のやり取りにクレイもエンバーも何とか落ち着いて剣に手がかかっていたがゆっくりと離していく。

ルゥ姉が俺達と二人の間に入って問題ないとの合図を出してくれたからだろう。

そんなやり取りでさえドラゴンの視界にはちゃんと入っていてまたグルルルル……と喉を鳴らしながらその様子を見守っていた。


「所で貴方のような方が何故このような何もない場所に?」


フリュゲールで学んだ通り丁寧な言葉で、礼を持って応対すればドラゴンはふと視線を集落の在った場所へと向けて


『昨夜は何やら賑やかだったからな。

 それに面白い魔法も見れた。

 魔族相手に人間も強くなったと感心していた所だった』


娘、見事だったとルゥ姉を誉めるドラゴンにルゥ姉は淑女の礼をもって深々と頭を下げるのだった。


『それに我のような存在はこの人の世界ではこのような場所にしか居場所がない。

 少し探し物をしたらまたすぐに飛び立つゆえ気にしないでくれ』

「探し物……ですか?」


ドラゴンの姿で探し物をするぐらいなら人の姿の方が探しやすいんじゃないのか?と思うも老齢としたドラゴンは俺を話し相手と決めてその巨体の鼻っ面を目の高さに合わせるのだった。


『小さな鳥をな。

 鳥は空を飛ぶから空から探す方が良かろうとの』


 うんうんと唸るドラゴンにそれだとあんたのスピードなら一瞬で探し物の鳥を見落としてしまうんじゃないだろうかと脳内で突っ込んでいれば


『確かに言われるとその通りだ!

 何で気が付かなかったのかのう……』

「思考を読まれてた……」


びっくりとして唖然としていればドラゴンは一拍置いて俺達の脳内で気持ちいい位声を立てて笑ってから謝罪をした。


『すまない。おぬし達人の声は小さくて聞き取れなくての。

 脳内の思考を読み取らせてもらった。気を悪くしたらすまぬ』

「あー、いえ。

 謝罪を頂いたのでそれはもう終わった事です……」


でいいのかな?なんて考えればドラゴンがまた笑う。

ああ、これも聞こえてるのかと少しだけ後悔してみればドラゴンはさらに笑う。


『気を悪くしたのならすまない。

 人間と話をするのはかなりの久しぶりでの。

 所でおぬしにちと尋ねたい』

「何でしょう?」


ドラゴンは俺の眼の前で少しだけ小首を傾げて


『なぜおぬしから我らが大長の匂いがするのか。

 話によっては我はおぬしを弑しなくてはいけない』


ギロリと光った視線にエンバーとクレイがついに剣を抜いてドラゴンに襲い掛かる所をルゥ姉が辛うじて展開できた防御壁で二人の行動を妨げる。


「ルーティア!なんで邪魔をする!」

「二人とも落ち着きなさい!

 貴方達が勝てる相手ではありません!!!」

「だけどディックが!!!」

「大丈夫です!私をディックを信じて剣を引きなさい!!!」


すぐ背後でそんな事になっているのをドラゴンのぬるりと濡れた鼻っ面に反射する光景を見る事が出来たが


「大長とは……ドラゴンでいいのでしょうか?」

『心当たりがあるのか?』


グルルルル……と、さっきとは違う喉の鳴らし方に思わず冷や汗が流れる。

大長って一体なんなんだよと思うし、大体ドラゴンだって退治した事が無い。

知り合いにドラゴンはいたけど良好な関係だったし、そもそもあいつら以外のドラゴンに合った事なんてない。

ひょっとしてさっきのワイバーンかと思うも多分違うだろうし……


脳内で最大スピードで何があったかと考えていればしびれを切らしたドラゴンが鼻っ面を胸元へと押し付けてきた。

それだけで俺は尻餅をつく羽目になったが


『そこの辺りから大長の匂いがする。

 一体何を隠し持っている』


言われて慌てて胸元のボタンをはずせばそこに在ったのはランからもらったお守りがあるだけ。

これか?と首にかけたまま見せればドラゴンは目をひん剥いて


『なぜ大長の鬣を!!!』


空に向かってドラゴンブレスを吐きながら吠え、脳内に響き渡る絶叫に俺達は頭を抱え


「大長ってアウリールの事かよ!クヴェルとか俺達にも判りやすい名前を言えっ!!!」


あまりの横暴な態度に俺は逆切れ反論をした。


『く、クヴェルなどと!大長の名を軽々しく口に出せるわけないだろっ!!!』

「んなの俺が知るわけねーよっ!」


俺も声を枯らしながらドラゴンへと叫ぶがこのドラゴンは尚も大きな声で叫びまくる。

その怒号の勢いで髪が総て抜け落ちてもおかしくはない勢いだった。


「大体シュネル、あんたにはフリューゲルの方が判りやすいだろうが、もう何年も前からクヴェル達と一緒にフリュゲールで暮しているぞ!」


クヴェルと言うワードが出て鳥と言えばやっぱりシュネルしかない。

最も最後まで正式にシュネル≠フリューゲルと言う紹介はしてもらえなかったが、あれだけ一緒に居れば気付かないわけがない。


ドラゴンの欲しい情報を与えれば固まったように動かなくなり俺をしげしげと眺めていた。


『驚いたわい。

 フリューゲル様までご存じか?』

「俺達が世話になった恩人達だ!」


それから大きく息を掃出せばドラゴンは俺から距離を取り、その姿が光に溶けて一人の初老の姿になった。


「何か大変な誤解を申した。

 すまぬがもう一度その首飾りの所以をお教え願いた」


直接頭の中に響く声とはまた違う声がその口から出て俺たちはまた戸惑うも、べつにこんな失礼なドラゴンに礼を尽くす必要な今更どこにもない。


「別にいいが後で一つ頼まれごとをされてほしい。

 ただ俺達と一緒にボスの所に入って話をする程度だ」

「そんな事ならいくらでも!だからフリューゲル様のお話を!」


ガッツリと肩を掴まれて前後に揺す振らされては嫌だとは言わせてもらえない。

おじいちゃんの姿でも中身は確かにドラゴンだった。


「フリューゲルは今フリュゲールでクヴェルとかアリシアってヴェラードだったか?それとウェルキィのフェルスと一緒にオルトルートで暮してる」

「なんと!あの花城がまた咲いたか!」

「そんで、何であんたはこんな所に居るんだよ」


最初の質問に戻った。


ドラゴンは今度こそ冷静になって話してくれた。


「そなた達は面識もあるようなので大体の話しは知っているだろうが、もう数十年にもなる話だ。

 ただの鳥になってしまったフリューゲル様を長い間お守りしていた大長はある嵐の晩フリューゲル様を見失ってしまったのだ。 

 大長はそれは顔を真っ白にされて我ら一族総てにこの世界のどこかにいるフリューゲル様をお探しする様に命じられ、この人間界のどこにいるかわからないかの方を探す事になったのだが、精霊プリスティア様が人の世界にこれだけの人間が押しかけると混乱に陥る、我らにも危険が及ぶかも、と忠告を受けて交代交代で探す事になったのだ。

 そして今年は我の番。長年お過ごしになっているこの大陸をくまなく探していたのだ」

「あー、とりあえず人の姿でフリュゲールのオルトルートに行ってくれ。

 なんかあったみたいで古い知人も入れないとか言っていたが、あいつらあそこに住んでいるから辛抱よく待っていればそのうち誰かに会えるだろ……」


うっかりで千年過ごせるドラゴン時間にたかが数年の出来事に俺達が干渉できるわけがない。

と言うか、あのうっかりドラゴンが大長って呼ばれる位ご高齢かよと思えば、この首にかかってるプレートの由来を思い出した。


「これ、今お前の大長に新しく名前を付けた契約者が居てよ、そいつからもらった物なんだ」

「大長に新しい名前……あの方は承知で?!」

「総て承知だよ。

 大切にみんなで新しい主のお世話をしてる」

「……なんと」


目玉が落ちるのではないかと言う驚きようだったが、しばし逡巡したのち


「可能な限り早く大長にお会いしたい。

 おぬしの頼まれごとやらを早く済まそう」

「そりゃ歓迎だが馬を探さないとな。借りものなんだ」

「判った。そうと決まれば背に乗るがいい」


言葉と同時にその姿が光に溶けてドラゴンへと変わる。

ドラゴンは乗りやすいようにしっぽから上りやすいように身をかがめてくれた。

俺とルゥ姉はアウリールのおかげで乗り慣れているものの、ドラゴン≠魔物と言う意識が強いエンバーとクレイはおっかなびっくりと見よう見まねで背中に乗るのだった。

ふわりと浮かび、強い羽ばたきと同時にあっという間に高い木々を見下ろすまでの所まで上昇した。


『して、馬はどの辺に?』

「ロンサール側の森の入り口当たり」


なるほど、あの辺かと言うあたり既に目星がついているようだった。

森の入り口辺りを周回する様に飛べば、きっとドラゴンと言う存在に怯えた馬達は一番安全だと思うロンサールの馬小屋を思い出したのだろう。

四頭そろって砂漠に出てきた所をドラゴンは魔法だろうかシャボン玉のようなもので捕獲し、自分の周囲に浮かべてそのまま俺の思考を読み取ってロンサールの雌黄の剣の本部へと向かう。

流れるような景色を眺めながら陽が南天から傾き出した頃城壁に囲まれたロンサール国が見えてきた。


「ありえない。何日もかかって砂漠を通過しないといけないのに……」

「魔物がやってこないのが売りだったのに……」


愕然としているエンバーとクレイとは別にルゥ姉は


「ドラゴンと言えどアウリールほど早くは飛べないようですね。

 フェルス並みですか?」

「大長と一緒にしないでくだされ。

 フェルスとやらはウェルキィの若長の事か?

 たしか俺と同じ年ぐらいだったかのう……」


こいつらの寿命感覚まったくわかんねー……

冷静にスピードの感覚を確かめていたが、ドラゴンはスピードを落とすために何週かロンサールの周りを飛んでからゆっくりと雌黄の剣の訓練場の庭に舞い降りたのだった。

上空から見ていてわかっていたがもう町は立派にパニックになっていた。

先ず馬が解放されたが、どこかガクガクとした足取りでまっすぐ小屋へと向かうのだった。

腰が抜けたとか言わないでくれよと心配しながら後で風呂でも入れてあげるかと思う間にも俺達は地上にそっと降ろされ、ドラゴンも光に溶けながら人の姿を取るのだった。

そんな中俺とルゥ姉は平然とした態度で


「クロームただいま!

 今回の任務で俺達の仕事ぶりを保障してくれるドラゴンを連れてきたから話を聞いてくれないか?」

「ただ今戻りました。後任務の結果を報告する場はどちらに?」


さすがに悲鳴を上げるような事はなかったが暫しの間俺達と言うか人型になったドラゴンを見ていたと言うか目に映していただけのようだが、時間をかけて我を取り戻した元王子様は丁重な対応で城壁に中の、彼の執務室へと案内してくれるのだった。




城壁の外側に窓がある為に明るい執務室は異様な空気に押しつぶされそうになっていた。

とりあえず室内にいるのは俺とルゥ姉とエンバーとクレイと名称不明のドラゴン。

向かいにクロームとセイジが座って後は何かあってもいけない様にと人払いを徹底とさせてあった。

城壁には誰もおらず、城壁外も何かあった時の為にと城の方に避難してもらっている。

ピッチャーに用意されているジャスミンティーのようなものをクロームは何度もお替りをながら俺達の話しに黙って耳を傾けるだけで質問もなく聞いていた。


「……と言う事がありました。

 ゴブリンの耳や手と言った証明する物は一切持ち帰る事は出来ませんでしたが、我々の行動はこちらのドラゴンが保証してくれると言います」

「悪い。俺が知ってる中でも最大規模なゴブリン村が出来ていた。

 まともな方法じゃ数でこっちの分が悪すぎる」


エンバーもそう言ってルゥ姉の攻撃の正当性を述べるのだったが、ジャスミンティーを気に入ったらしいドラゴンはピッチャーから自分でグラスに注ぎながらふむふむと何度も感心して口にするのを俺とルゥ姉以外はびくびくして警戒し、たぶん俺達の話しを誰もまともに聞いちゃいない状態だった。


「この者達は勇敢だった。

 いつの間にか拠点にしていた山で魔族がゴブリン達を飼い始めた時は驚いたが、それを一掃し、くさい臭いをまき散らす魔族も居なくなった。

 空気がまた清浄と化して心地よい森になったぞ」


言いながらもドラゴンはまたジャスミンティーをピッチャーから注ぐのだった。

飲みすぎだろ……


「所で、おぬし達の働きをこの者達に伝えるのが我に与えられた謝罪の方法だと思ったが、これでよかったか?」


ドラゴンは俺達に確認する様に聞けば


「あ、あの……これからまたあの山に?」


セイジが勇気を出して職務を全うしようとしていた。


「いいや。実は我はあるお方を探していたのだが、どうやらその方は無事発見され保護されているとこの者達から聞いた。

 我らが大長もそこにいると聞いているからの。

 無事の帰還をお祝いにご挨拶をしたのちに我ら同胞にこの喜びを伝えに幻獣界に帰還する事にしている」

「と言う事はもうこちらには?」

「詳しく話す理由はないが我らとてこちらの人の世界に来るにあたって色々と制約に縛られている。

 よほどの事が無い限り来る事はないだろう」

「よ、よほどと申しますと?」


あんた勇者だと言うようにクロームから尊敬のまなざしを受けているセイジさんはそれには気づかずになおドラゴンから情報を摂ろうとしていた。


「こちらの世界に住まうあの方や我らの大長に何かあった時、今回のように大長からの要請を受けた時、子供達が番を探しにとか、幻獣界で何かあった場合とか、そのような事が無い限りまずないだろう」

「いやいや、番を探しに来る事がよっぽどなのか?」


思わず突っ込まずにはいられない。


「我らドラゴンはこの長命をただ一体の番に捧げる身。

 それはもう命がけの探索なのだ。

 故にこちらの世界に流れ着いた可能性も加えてこちらに来る許可を得る場合がある」

「なかなかのロマンスですね」


ルゥ姉からロマンスなんて言葉が出るのにはびっくりだが


「我妻も幼い頃精霊のいざこざに巻き込まれてこちらの世界に押し出されてしまったのだよ。

 それがちょうどおぬし達と出会ったあの山当たりでの。

 あの山を住処にしていた妻に出会った時はそれこそあの山こそ聖域だと思えた」


遠い昔の話だと言うのに昨日のように話をするドラゴンはそれでも子供を8体も育て上げ、今は幻獣界で老いた体を休ませていると言うどこか幸せそうな話を少しさみしそうな顔で話すのはたぶんあがらえない終わりが近づいていると言う事だろう。


「最後に故郷の様子をお話しできそうで良かったですね」

「そうだの。初めて出会った頃と変わらない森の話しが出来そうで安心した」


言いながら席を立つ。


「それでは我はこのまま出立する」

「ええ、我々の為に御足労お願いしてありがとうございました」

「いや、我の浅はかな行動ゆえに迷惑をかけた。

 我らが大長のご友人よ。大長の髪を持つ人の子よ。

 我らがグリン・グレイムの祝福を」


言いながら城壁の外へと続く窓を開け、この部屋の主でもあり、最後まで結局声を発さなかったクロームに当然ながら頭を下げる事無いものの「よい茶をありがとう」と謝辞を述べてそのまま光に溶けながら遥か上空でドラゴンの姿となって東の空へと向かって飛び立ったのだ。


「セイジ、悪いがまずは茶をくれ」


何も言わず何度もずっと空になってまでも飲んでいたジャスミンティーを再度所望するも


「今の貴方には茶よりも酒の方がよろしいでしょう」


戸棚から深い緑色のボトルを取出し、ジャスミンティーを飲んでいたグラスに注げば一気にすべて呷り、二度三度繰り返したのち


「この事は明日改めてでも構わないだろうか」


ずっと見ているのも申し訳ない状態に俺達も一度失礼しようと改めて明日報酬の話し合いをしようと約束を取り付けてこの場を辞するのだった。



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