戦闘開始
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月明かりに照らされながらも星が瞬く一面の夜空の下を俺達は駆け抜けていた。
ルゥ姉達を起こして食事をし、暇を持て余した俺達は予定よりも早く出発をする事にした。
予定を繰り上げて俺達の実戦での実力を見たいとのエンバーの申し出に、ルゥ姉も改めて貴方達の実力を見たいと言い、なら魔物退治をしようと言う事になった。
エンバーは俺達が離れない様に上手く馬の早さを調整しながら星空の下を案内していく。
草原のロンサールと言う名前の通りなら本来ここは見渡す限りの草原だったのだろう。
草原はなくなり、むき出しの、表面が風で削り取られて砂埃の舞う荒野の砂漠と言った物はアスファルトの上を走るようなものかと考えれば馬の脚の負担は半端ないよなと、馬を大切にするエンバーの気持ちも理解できる。
そんな中数時間ほど走らせ、丑三つ時と言う時間の頃に何もない風景の遠くに黒々とした森が見えてきた。
思わず馬をクレイの横に付ければ
「あの森の奥の山が目的の辺りだ」
やっと何もない光景から起伏のある光景が見え、それから数時間後に嵌ったいらな荒れ地から起伏に富み、そして植物が地面をはう生命の息づく森の入り口に降り立つのだった。
「なんか久しぶりに森を見たかも」
深い緑の匂いと、豊かな大地の匂い。それにどこからかやってくる水を含む風の匂いにもうすぐ雨がやってくる事を知らせている。
「そうですね。少し前はいつも森の中にいたと思ってたのに」
ルゥ姉も森の匂いに何を思い出しているのか、懐かしそうに目を細めて森の入り口の背の低い木々を見上げていた。
「懐かしがってるのは良いが、この先に洞窟がある。
雨が降りだす前にそこまで移動しよう」
馬を歩かせながら木の枝に引っかからない様に先導するエンバーの後をついて行く。
やがてぽつりぽつりと雨に打たれ出した頃、やっと洞窟のある崖にまでたどり着いた。
洞窟と言うよりも岩の裂け目と言う場所は天井が高く、容赦なく振り出した雨も中まで吹き込んでくる。
だけど置くも深い洞窟の中に魔法石で明かりを照らせば紛った先は雨の吹き込まない十分休憩するに足りる場所になっていた。
「こんな雨じゃ魔物の相手は無理だな。
朝までここで休もう」
「だな。雨が酷くなる前にここに来れて助かったよ」
ほっとしたようなクレイは興味深げに探検をする。
「貴方もここは初めてですか?」
ルゥ姉は体を乾かしながらクレイに聞けば
「ああ、ここは紅緋の翼のポイントだから雌黄の剣の知るポイントじゃない。
砂漠を越えるのは大規模な任務になるから、早々あるわけでもないし、紅緋の翼みたいに砂漠の向こう側にしょっちゅう出かける奴らはめったにいないんだ。
まぁ、港までの往復する運送ギルドの奴らは奴らで独自のポイントを持ってるらしいが、それは俺達の取り扱うルートとは違うからそこに転がり込むのはマナー違反だな。
まぁ、緊急の時は仕方がないが、それはお互い様って事になっている」
洞窟の奥はすぐに行き止まりになるも天井が高い為狭苦しさは感じる事はない。
馬を奥に連れて体をブラッシングしているクレイの側で、ルゥ姉は俺が作り置きしておいた食事を摂り出し、鍋に熱湯を所望された。
紅茶を淹れた缶を持っていたのですぐに熱湯を用意しているのをエンバーが便利だなと眺めていた。
エンバーはお茶と食事を受けとり入口の見張りに行くと言うから俺も一緒について行く事にする。
なんとなくこの心に傷を負ってるエンバーが気になると言うか目が離せられないと言うか、なんとなくだよなんとなく。
誰か側に居てあげなければと心はおっさんの俺は思う。
例えば、帰ったら俺達がいる間だけでも強引に引越しさせようとかそんな簡単な事しか出来ないが、エンバーには人の温もりが必要だと思う。
彼にはガーネットと言う保護者がいるが、彼女は違う。
エンバーの為と言うのはもう彼女には済んでしまった事。
彼女の今の役目は独り立ちした子供を見守る母親の役なのだから。
二人して黙って雨の森を眺めている。
少し風があるのか入口から中ほどの所で外を見守っていれば洞窟の奥から馬の鳴き声が聞こえた。
途端にエンバーの顔が厳しくなり
「クレイ、魔物だっ!」
確認よりも直感で判断したのか、緊張した声が洞窟内に響く。
慌てておくからやって来たルゥ姉とクレイは既に武器を手に持ち
「相手は?!」
「判らん!馬は危険を感知してるんだ。
くそっ!腕を見る間もなくお出迎えかよ!」
馬の鳴き声で判断できるのかよと驚くも、すぐにその得体のしれない恐怖が姿を現してきた。
低いうなり声と幾つもの足音。
赤く爛々と輝く対の瞳は両手では数えられない。
「何ていうお名前かご存じで?」
ルゥ姉がやがて見えかけたその姿に杖を取り出す。
「べヘムウルフってことろか。
奴らは臆病で集団生活をする。
集団で狩りをしてこの辺りでは一番出会う奴らだ」
「俺は初めて会ったな」
「聞いたことない名前ですね。ですが一番出会うと言うなら簡単ですね」
「べヘム森林にすむウルフでべヘムウルフって言うんだが実は世に一般的に知られているグレイウルフだ。
難易度で言うならBランクで、簡単でもない」
Bランクと聞いて剣を構え直すクレイにエンバーは少しだけ引きつった顔をして
「こいつら臆病だから自分達の分が悪いと思うとすぐ仲間を呼ぶんだ!」
「どれだけチキンだよ!」
言えばいきなりグレイウルフの一匹が遠吠えをする。
その途端色んな所から山なりのような声の返事が聞こえてきてエンバーはうわあああ……とうめき声をこぼした。
「信じられん!あいつらいきなり俺達を敵認定して仲間を呼びやがった!!!
馬は放っておけば逃げれるから洞窟から出るぞ!」
エンバーの指示に俺達はその後に続いて雨の中の森へと飛び出して行った。
「馬の逃げ場を作る!
ここにいる奴らを殲滅する!」
エンバーの指示に俺は風魔法を放とうとするも、それより先にグレイウルフの首が飛び交っていた。
「グレイウルフ如きに体力を使う事はありません。むしろここで待ち伏せするのが得策では?」
「あああ……あんたみたいな非常識な奴がいると俺達はホント助かる。
だけど本当に怖いのはまれにこの群れの中にシルバーウルフとかプラチナウルフが混ざってる時がある。
そうなるとこの洞窟は潰れるかもしれないから俺達の拠点の為にもここを潰すのは非常にまずい」
次に来た時に休まる場所がないと言うのは非常に疲れる。
確かにエンバーの言い分も納得できるのでルゥ姉は仕方がないと言うように山の方へと顔を向け
「では今からこのウルフ達を連れて魔物退治と行きましょう。
なに、パーティーは多ければ多い方が盛り上がりますのでね。
荷物を纏めましょう。馬達は貴方達が一番安全だと言う場所でお待ちなさい」
月の明かりも星の明かりも分厚い雲に覆い隠されているのに、俺達は何故かルゥ姉が楽しそうに微笑んでいるのを無言で理解した。
これ、やる気満々の時の顔だ……
無言のエンバーとクレイの視線がちょっと痛かったけど俺達に実害はない……と思いたい。
実害なかったためしないからなー、などと言う言葉は是非とも巻き込まれて欲しいので黙っているが、これでルゥ姉の人と言う物を理解してもらうにはこの先もある付き合いにはぜひとも乗り越えてほしい所だ。
準備すると同じぐらいのスピードで片づけると言う手際の良さにクレイが何故か感心していたが、それもここまでだ。
馬と別れて山道をどんどん昇って行く。
やがて姿を現したべヘムウルフをルゥ姉が魔法で倒して行く。
俺達はその後ろについてべヘムウルフと同時に切り倒されてできた道をただ歩くだけ。
「いいですか。山道は歩くだけで体力を消費します。
体力温存するとなると誰かが一人で戦い、周囲の方が目となり盾となって戦い手を集中させます」
「ルゥ姉、目となるのは良いけど盾はどうかと思うんだけど」
「私の攻撃を妨害させなければいいのです」
「無詠唱の魔法に妨害できる隙ってあるか?」
「俺はちょっと無理かな?」
「何を言ってるのです。無詠唱と言えど仲間と連携して中断させてつっこまなくてはいつ攻撃するのです?」
黙々と道もない山を進むルゥ姉の背中を見てそれは正論だけど誰がその役をやると言うのを無言で訴える。
「ルゥ姉の敵でなくてよかったよ」
心からそう思うと言えばエンバー、クレイと同じように心からうんうんと頷くのだった。
「それにしてもべヘムウルフって言うのがこの山にはたくさん住みついているのですね」
また来た一軍を瞬殺して溜息を吐くルゥ姉。
その顔はつまらないと言った物だろうか。
「ああ、今何かシルバーウルフっぽいのが居たような気がしたんだけど気のせいだったかな?」
「気のせいにしよう。あまり考えると疲れるからべヘムウルフの変異種って事で納得しとけ」
世はそれをシルバーウルフもしくはプラチナウルフと言うが、、雨が降る夜の山道の歩きにくさにどうでもよくなってきたようだ。
「それにしても、冒険者と言うのならもう少しシャキッと歩きなさい。
女子供に後れを取るとはどういう事ですか」
先頭にルゥ姉、俺、クレイ、エンバーと続く縦列に
「山道とこの道なき道の歩き方を知ってる技術をぜひ教えてもらいたいぐらいだよ」
何故か1人だけ疲れ切ってるクレイにルゥ姉はあの大木まで行って一休みしましょうと提案するのを聞きながら
「フリュゲールの友達に山歩きとか道なき道を歩くのが得意な奴がいて、ずいぶんと鍛えられた」
「そりゃまた、すごい友達だな」
主に二人の後ろをついて行くのがやっとだったって事までは語らないが
「ええ、私も鍛えられました。
技術云々よりこう言った事が普通に出来るぐらいに慣れただけです。
ので、貴方達も私達を見習って休憩の後先頭に立ってもらいましょう」
「うげー……」
「下手に好奇心を見せるんじゃなかった……」
軍行と言っても間違いない位のかなりのハイペースの登山に二人の息はかなり上がっている。
俺達も息がはずんでいるがこれくらいのペースならの呼吸のリズムなのでルゥ姉もこのペースを守っている。
暫くもしない間にエンバーとクレイは全くしゃべらなくなってしまい、着いて来るのがやっとという所だった。
特にクレイは少しずつ遅れだしたのでクレイの足を休めない程度にペースを落として離れ離れにならないように注意する。
外套を着てても隙間から雨がしみ込んだ服は重みを増して、エンバーやクレイのショートブーツの中は歩くたびに水が縫い目から溢れ出している。
フリュゲール製の俺達のブーツは未だに水気を感じない辺りかなりいいつくりだと実感せずにはいられないでいる。
どうしたものかと悩んでいる合間に目的の大きな木の下に着いた。
天上のように大きく枝を広げた木には俺達が入っても十分余裕があるくらいの洞があり、この雨で湿っぽさはぬぐえなかったが、それでも雨にぬられる事のない空間に俺達は人心地がついた。
とりあえず体を冷やさない様に服や靴を乾かして、簡単な食事を摂る。
体を温めるには温かい物もそうだがエネルギーも必要だ。
主にナッツやビスケットなどを砕いてキャラメルで絡めてまとめただけの非常食だが、見た目は小さなお菓子だがそれなりにハイカロリーのエネルギー爆弾だった。
出かけの朝に用意しておいたものだったが、良い感じに仕上がっていて誰もが黙々と食べていた。
フリュゲールではこれに刻んだチョコレートを混ぜて森の探索に行く時のランのおやつにしていたが、ここでも好評でちょっと安心する。極甘だからね。
ゆっくり紅茶をすすりたい所だが、そこは戦闘中と言う事で白湯で我慢してもらう。
少し温めにしてすぐ飲めるようにと用意した物で口の中の甘いキャラメルやぼそぼそのビスケットを洗い流す。
「これうまいな。腹は膨れねーけど、甘くて贅沢だ」
「確かに。市井に降りてからキャラメル何て食べたのは久しぶりだな」
「ええ、もっと食べたい所ですが……」
と言ってルゥ姉も一緒になって俺を見つめる視線にすっかり忘れていたが、この世界では甘い物は贅沢品だった事を。
ハイソな人達の中で普通に甘い物を食べていたが、市井では飴玉やクッキーだって贅沢な事を失念していた。
「まだあるぞ」
言って包みにくるんでいた物を四人で分けて
「ポケットかなんかに入れてすぐ食べれるようにしておこう」
「いいのか?これ、高級なんじゃ……」
「こういう時の為の非常食だし、俺の手作りだから家に帰ればまた作ればいい」
「王宮の菓子より美味いのにディックの手作りだなんて……」
ナッツをバットで砕いて、ミルクと砂糖とバターだけで作ったキャラメルにビスケットを入れてかき混ぜただけの物。
砂糖はフリュゲールから持って来たもので十分間に合ったし、ミルクとバターもこの国でも手に入ったのは僥倖だった。
雌黄の剣の庭に牛がモーモーと飼われてたからあるかな?なんて期待すればちゃんとミルクはあるだろうと思っていたけどバターも作られていて安心した。
「雌黄の剣にも広めたいな……」
沢山の仲間に食べさせたいと言うクレイの言葉だが
「こんなのべつに雌黄の剣じゃなくてもいいだろ。
広めたいなら買い物に行った先の店先で広めればいいじゃないか。
ギルド経由で広めると値段がつり上がって広まらないぞ」
ポカンと見るクレイの視線に
「驚く事じゃないだろ。
こんなお手軽な菓子はただの生活の知恵だし、子供でも買えなきゃ意味がない。
それに作る人の手によって中身は色々と変るんだ。
ギルドで利権ばかり争う人間に作らせるよりも常日頃から台所に立つ人間に作らせた方が美味い物が出来るのは当然の事だろ?」
パチパチと瞬きするその顔は
「国の安全の為にギルドが動くのは素晴らしい事かもしれないが、何でもかんでもギルドが率先して動くと人は受動的になる。簡単に常習化する。
それは得策じゃないと俺は思うんだ」
段々と難しそうな顔に変り悩んだ顔のまま俯いてしまう。
「うん。心に留めておくよ」
難しい顔のまま白湯を飲むのだった。
黙って俺達を見ていたエンバーが
「随分政治的な事を言うんだな?」
ゆっくりと白湯を飲みながらクレイの嗜好を邪魔しない様にこっそりと話しかけてきたエンバーには
「フリュゲールでは出来る人に出来る仕事を与える、得意な事に誰もがのめり込んでいく傾向が顕著に表れます。
かなり偏りはありますが、それでも皆さん職人肌と言えばいいのか自分らしさを表そうと必死です。
これも国が長く続いている恩恵でしょうね」
何て簡単にルゥ姉は言うが、物が溢れたあの国では如何に新しく便利で斬新な物を探す方が難しいか理解できるだろうか。
エンバーまで難しい顔になってしまっているもすぐに肩をすくめて
「俺はみんなが安全に暮らせればそれでいいから。
そう言うのは頭のいい奴に任せるさ」
「だからそう言う考えが良くないんだって。
せめて自分が生きやすいように考えてみろよ」
視線を反らされてしまうも
「考えておく」
白湯を飲み干して自分の荷物を再確認はじめた。
俺とルゥ姉は受動的になっている彼らを見てそっと溜息を吐き出すも、雨の降り方は変わらない為に早々に出発をする事にする。
だけどその前に
「試してみたい魔法がある。
一つ実験台になってもらえないだろうか」
訝しげな三人分の視線が俺に突き刺さる。
それを今言うのかと。
「無駄に魔力を使って魔物の相手に後れを取ったと言うのは止めてほしいですが」
「ああ、うん。
多分そこまで魔力使わないと思う。
ほんのちょっとこの雨をどうにかしたいんだ。
ほら、俺水魔法は得意だから」
ルゥ姉の眉間がきゅっと狭まる。
この自然の現象をどうにかしたいなんて何を言っているのかと。
「まぁ、まずは試しに」
言いながらイメージを湧き起こす。
思い浮かべるイメージは雨の日に学校に向った時に御厄介になった防水性抜群のナイロンのレインウェア。
この外套でも悪くはなないが、やはり雨を吸って重くなるのはいただけない。
重くなるたびに乾燥させるのも手間だしすぐに濡れるので意味がない。
なので、浸み込む前に弾いてしまえな考えが正しいだろう。
そして靴も俺達のブーツは良いが、エンバー達の頑丈な作りを重視したブーツではすぐに水たまりになってしまうのは考えなくも想像が出来る。
ので、ブーツの形のままこれまた農作業で御厄介になっていた長靴をイメージして靴に向かって念じ込む。
お前は長靴だ!と……
呪文はない。
何て言ったらよいのか判らないのが正しいのだがイメージだけで「ふぬー!」「うおー!」とわけのわからん気合を送って完成させてみた。完成できる当たり魔法って本当は結構いい加減じゃね?なんて思ってしまうのは仕方がないだろう。
「一体何をやったのですか?」
「成功するかどうかわからない事」
三人のあきれ返った顔がなんともいえなかったけど……暫くして俺に感謝すればいいと洞を出るのだった。
それからどれだけたっても外套は重くならず、そしてブーツの中にも水が浸み込んでこない事に気づいた三人はやっと納得してくれた。
ぬかるんだ地面だけは何ともならなかったが俺達の足取りはそれなりに軽くなっていた。
濡れた靴のせいで足の踏ん張りがきかないと言う最悪な事だけでも回避できたエンバーやクレイはルゥ姉の指示の下次々にべヘムウルフを倒して行く。
俺も三人ほどではないが援護したり、倒せる奴は倒して行く。
少しずつエンバーとクレイの戦闘スタイルに慣れ、それに俺も加えた戦闘訓練が何とか様になった頃魔物達の空気が変わって来た。
しだいにべヘムウルフが減って行き、ゴブリンを見かけるようになってきた。
「目的地に近づいてきたようですね」
一度目の休憩から三度ほど休憩を入れて半日かけて山を越えた所まで来ていた。
ペースはフリュゲールでの訓練ペースだったが、エンバーとクレイは無事について来る事が出来ていた。
疲れたら渡しておいたナッツバーを齧って魔法で体力回復、そして白湯を飲んでとその繰り返しに息を弾ませながらも俺達から遅れる事無くついてこれた。
最もルゥ姉の戦力があったからこのペースを守れたのだが、ルゥ姉もナッツバーを齧っている所を見ると魔力の消費だけはどうしようもないと言う所だろう。
ポーションとかエリクサーなんてないかなーと思うも魔法使いの居ないフリュゲールではあまり見かけなかったものに知識の偏りを恨んでも仕方がない。
そもそもあるのならエンバー達も持っているだろうし、必要なら自分達で使うだろうと考えておく。
そのうち俺も開発しておこうと思うもすでに栄養ドリンクの一種、エナジードリンクの一種と固定概念が出来ているので多分俺には作る事の出来ないアイテムだと思っている。
24時間戦いたくないしね。
やがて見えてきたゴブリンの巣にはオークも住み着いていて、一つ目の巨人がそれらを従えていた。
柵に囲まれ、松明で周囲を照らし、粗末な小屋みたいな物が点在し、女のすすり泣く声の中、絶叫する声まで聞こえてきた。
あまりの悲痛な悲鳴にエンバー達を見れば
「どこからか攫われてきた女だろうな。
ゴブリン達の苗床にされてるんだろう」
「苗床……?」
ユキトの良く知っているファンタジーお約束のアレかと真っ白の頭の中で知識だけを並べていれば
「人間の女をさらって子供を孕ませる。
ゴブリンやオークの出産周期は人間より早いからな。年に何度も産まされる。
休みなく絶え間なくだ。
子供が産めなくなるまでそれは続き、死んだら死んだで最後はあいつらの腹に収まる。
胸糞悪い……」
「ゴブリン退治に女の人を連れてくるのは本当は賛成しなかったんだ。
ルーティアもいくら強いからといって……気を付けて」
クレイの不安げな視線にルゥ姉は首を振り心配には及びませんと言う。
「私も何度かゴブリンではないですがこういう輩の退治をした事はあります。
心配は無用です」
「本当かよ」
思わずハウオルティアを抜け出したあの夜を思い出したのをルーティアは察しただろうけど
「こちらも万全の状態で挑みましょう。
一度どこかで休憩を取りますか?」
「いや、ここで休憩しても神経が磨り減るだけだ。
このまま一気に畳み込もう」
エンバーの提案にルゥ姉も反論せず、クレイもただ頷くだけ。
「所で捕まった女の人達はどうするの?」
その後の看病とか大変だし、彼女らを連れて任務続行するのかと聞けば誰ともなく俺から視線を反らし
「こういう場合は彼女達には楽にしてあげるのが一番かと思います」
「楽?」
意味が判らずに首を傾げていれば
「家に帰ってももう家族とは思われないでしょう。
村でも町でも人とはもう見なされないでしょう。
何より彼女達自身が生きる意味を見いだせないでしょう。
自分自身を呪い続けるでしょう。
ですので、彼女達が求める事はその生から解放される事。
ゴブリンやオークを生み続けるだけの家畜となってしまった今ではそれが一番の安らぎです」
「そんなっ!!!」
「そんな彼女達を今までたくさん見てきて懇願されました。
相手が魔物ならなおの事、その命すら穢された彼女達には幸せはただ一つです」
瞳に暗い色を灯して語るルゥ姉の言葉にそれが真実だと理解せざるを得ない。
だけど、本当にそれが真実なのか、まだ現実を見た事のない俺は納得できない。
何とか彼女たちを助ける術を考えてみるもそれはただの想像でしかない。
エンバーは集落と化したゴブリンとオークの巣の片隅に建てられた柵で囲まれた小屋が多分女性達が居る所だろうと推測する。
「ゴブリンにだってメスがいるだろう。
なんでメスに産ませないんだよ!」
吐き捨てるように言えば
「メスには子供を産む能力がありません。
なので人間などを苗床に産ませてメスが育て上げると言う生態です。
当然生まれた子供の父親なんてわかるはずもなく、集団で育て上げます。
人よりも早い出産に回数を重ねて増殖してきます。
それはもう、ゴブリン5匹見たら巣が出来上がってると思ってもいい位にあっという間に増えて行きます」
「聞けば聞くほど腹が立つな!」
「はい。なのでまずは食事をしましょう。
その後、殲滅の時間です」
ルゥ姉の静かな怒りに思わず肌がぞわりと泡立つ。
考えてみれば一番怒り狂っているのは同じ女性のルゥ姉のはずだ。
人としての尊厳を、女性としての喜びをすべて奪われた彼女達の悲しみに一番寄り添えるのは同じ女性だけなのだから。
「悪い。冷静になれた」
砂漠のセーフティーポイントで作り置きしておいた軽食を無理やり腹に収めて謝罪すれば
「それは何より。
怒るのも悲しむのも総て終わってからでも遅くはありません」
「ああ……」
感情をコントロールするルゥ姉を真似るように黙々と食事を続ける。
白湯だけでは少し物足りないだろうとそこにチョコレートを落して解いて渡す。
ほんのりと甘い香りに誰もが少しだけ顔を上げる中、俺は静かに切り出した。
「さて、今回の作戦は?」
俺の問いにルゥ姉が真っ先に応える。
「まずは大きな術でこの集落ごと焼き尽くします」
「なら俺は女達を確実に自由にしてくる」
と言ったのはエンバーだった。
「これだけは女のあんたにはさせれない」
まっすぐルゥ姉の視線と合わせての言葉にルゥ姉は「ではお願いします」と言うだけ。
「俺は逃げて行く奴を確実に仕留めよう。
ディックも手伝って欲しい」
「了解。
所でみんなさっきのナッツバーはまだあるか?」
聞けば少し物足りないと言った所だろうか。
その手持ちぶたさに俺はルゥ姉に預けた食料のストックを出してもらって別の包みを取り出すのだった。
「さっきとは違うのだけどよかったら持って行ってくれ」
キャラメルで柔らかなドライフルーツとビスケットを固めてまとめた高カロリーの食べ物。
甘いだけじゃ飽きるからと表面にはぽつぽつと塩を振ってある。
生きて行く上で塩分は必要だからね。
誰ともなく試食すれば無言でポケットの中へと詰めるのだった。
「これで準備は良いですね?」
「ああ、ワイバーンと魔族がお出ましになる前に決着をつける!」
ルゥ姉の合図にエンバーが全力で叩き斬る!と俺達の顔を見て力強く宣言する。
俺もクレイも当然と言うように頷いて、ルゥ姉の編みあげる炎の魔法の呪文が解き放たれるのと同時に駆け出すのだった。




