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灼熱の大地のオアシス

ブックマークありがとうございます!



夕方、エンバーが迎えに来て俺達の姿を頭のてっぺんからつま先まで舐めるように見て一つ頷く。

ルゥ姉はフリュゲールで誂えた騎士団の服に似た物で、詰襟でひざ上までの丈の上着はバックにもサイドにもスリットが入っていて動きやすくなっている。

女性の隊服を模したものだから動きやすさは抜群だ。

軍服以外であまり見ない女性のズボン姿とふくらはぎまで覆うロングブーツは騎乗を想定しての物。

式典用、内勤用、外勤用と用途ごとに別の物が揃えてあるが、今回は馬旅なのでこれを履いていた。

俺もルゥ姉と同様で、二人ともそれに外套を纏っている。

クレイにチェックしてもらった所問題はないとお墨付きをもらって居た為に、エンバーからもすんなりとOKが貰えた。


「にしてもフリュゲールって国は良い服作ってるな」


エンバーがブーツにやたらと視線を送っている。

エンバーのブーツはずいぶんとくたびれていてそろそろ買い替えが必要としているようだ。

多分この任務から帰って来たら買い換える事になりそうだ。


「縫製技術としてはなかなかだと思います。

 この服も一見動きにくそうに見えるかもしれませんがドヴォーと言う魔物の毛織物と言うのは通気性と保温性に優れ、この毛織物を考案した方は生地に新しい伸縮性を考案してくれた物を用いてるので着心地はどの騎士服よりもすばらしいと思っております」

「実際にそうだしな。

 何だったら時間のある時に試してみるか?」


言えばエンバーは苦笑して


「時間がある時にな」


そう言って行こうかと号令をかけて雌黄の剣へと向かった。


雌黄の剣のアジト前では既にクロームが馬の準備をしてくれていて、クレイは手を振って合図を送るも走るような事はしないで合流する事になった。

当然イングリットも睨みつけるような凄い顔をして俺達の到着を待っていた。

よく見ればそこは外へと向かう門の目の前で、門番や見物人がいつでも門を開けれると待機をしている。


「やあ、四人とも準備は出来たか?」


城壁の中の夕暮れは早い物のクロームは一日の疲れなんて知らないと言う顔を俺達へと向けてくれる。


「まぁ、いつも寝ない時間に寝てるからなんか変な感じがするけど、大体問題ないな。

 所で一つ頼みが……」


興味深げに俺達を見上げているシルバーを抱き上げて


「悪いが預かってもらえないだろうか」


クロームはしばらくの間シルバーを無言で見つめていたが、シルバーは嬉しそうな顔で俺の腕をすり抜けてクロームの頭の上にポジションを取る。

クロームの顔が少しだけ難しい顔になった。


「今回の任務じゃ仕方がないか……」


諦めた顔になったクロームに隣にいたセイジはずいぶん懐かれましたねと苦笑している。


「それでは出立前の確認します。

 依頼書はお持ちですか?

 今回の任務完了の目印は難しいですが、この任務の後にランクを下げた任務がいくつか準備させてあるので、その時に任務完了となるでしょう。お支払いは帰って来た時に半額、確認後に残りの半額の支払いとなります。ご質問はよろしいのなら私の方から1つ、荷物はそれだけで?」


セイジもクロームも周囲に居た人達も俺達の荷物が携帯食の入ったカバンだけなのに目を点にしていたが


「ルーティアの魔力空間ってべらぼーにでかいらしくて俺達の荷物の大半は総て持ってもらってる。

 馬の負担は最小限で済んださ」


苦笑するエンバーにクロームの目が大きく見開かれるもルゥ姉は大したことないと言うように視線を馬へと移す。


「私からも一つ質問が。

 任務完了が後の方の確認後となるのが納得いきません。

 私たちは新参者。正当な評価が出来ないと危惧しておりますが?」


ルゥ姉のきっぱりと言った言葉にクロームが苦笑。


「だが、どうやって確認をする?一々魔物の部位を持ってくるつもりか?」


何かいい提案があれば採用すると言うクロームにエンバーが手を上げて


「SSクラスの俺が確認すれば良いだけだろ。

 Sクラスのクロームにはない権限だが、SSクラスになればそれぐらいの裁定権限がある。

 依って、俺が完了と判断すればそこで任務完了とする事が出来る。

 大体、俺らが任務を完了したのちにここに戻って、俺達より足の遅い奴らが確認するってどんな嫌がらせだ?

 魔物が新たに住み着くには十分な時間があるぞ」

「そんなの任務失敗に決まってるでしょう!」


あきれ果てた顔をクロームに向ければ視界の隅でイングリットが何やらと喚いている。

なぜかごく普通に周囲も王女様の事を綺麗に無視しているから俺達も無視して居よう。


「確かにSSクラスならそれぐらいの権限があるが、お前の信頼問題にもなる。良いのか?」

「俺の眼が信じられないのなら誰かついて来ればいい」


「だったら私がずるしないか見てやるんだから!」


緊迫する空気の中イングリットの空気を読まない声が響くも、エンバーはゆったりとした動きでイングリットへと視線を向ける。


「だったら着いて来い。

 この任務について来ると言う以上俺達はお前の荷物も食料も責任は取らないし、お前程度の馬術にそろえるつもりもない。

 お前を守る理由もなければ、お前の都合に付き合う理由もない。

 それでよければ着いて来い」

「何よそんな生意気なこと言って!

 私を誰だと思ってるの!

 ちゃんと護衛をしな……」

「雌黄の剣の冒険者のイングリットだろ?冒険者なら護衛は必要ないな。

 今から出発だからついて来るなら勝手に着いて来い」


そう言ってエンバーはクロームに門を開けるように言う。

俺達はなんとなく黙ったまま馬に跨りそのまま門をくぐる事になり、何やら背後で喚いているが、エンバーはいつもの事だ気にするなと馬を走らせた。


エンバー、俺、ルゥ姉、クレイと言う順番で馬を走らせ、やがて顔をのぞかせた月明かりの下俺達は夕焼けの時間が終わり少し速度を落として足並みをそろえる。

道案内のエンバーを先頭に続く形で横並びで続けば、馬を走らせながら水を飲み、軽食を取る。

馬の足をひたすら休ませる事無くやがて明るくなりだした世界の中、太陽の熱さを感じる頃エンバーは馬の脚の速度を並足まで落としてやがてぱっくりと地面が開いた場所へと馬に乗りながらもぐり込んだ。

地形がもたらす自然の神秘に俺達もクレイに背中を押されながら地底へと潜り込めば、そこはヒカリゴケで明るく、そして地下水がわいているのかそれとも水脈の通る場所のせいか外とは違い寒い位に涼しく、そしてじりじりと肌を焼く外の世界とは隔絶されたしっとりとした空気の生命の休まる場所だった。


「仙斎の風の時にも感心しましたが、ほんとに良くこんな素晴らしいセーブポイントを知ってますね」


水辺に馬を案内すれば馬達は水辺に飛び込み豪快な水遊びを始める。

一晩走らせた彼らに水を飲ませて良く頑張ったと誉めるエンバーはヒカリゴケのわずかな明かりの中少しだけ誇らしげに胸を張り、ルゥ姉は良い走りでしたと褒め称え馬のエサの準備をしていた。


「紅緋の翼の持つセーブポイントは総てガーネットからの情報だからな。

 一番網羅しているのが自慢だ」

「なるほど。ナンバーワンギルドと言うわけですね」

「そう言うこと。

 さて、俺達もメシを食べたらひと眠りしよう。

 あんた達の馬術だと真夜中に出れば明け方にちょうどつくだろう。

 馬に乗るのが上手くて助かった」

「こちらも思ってたよりも無茶な移動ではなく助かりました」

「って、これ以上無茶な移動ってあるのかよ」


火を熾しながら笑うクレイに


「さっきぐらいのペースで山の尾根を縦走とか、雪山を走らされたり、普段からさっきのペースで移動したり……」

「フリュゲールって馬鹿の集団か?」

「平和ですので無駄に鍛える事にしか異議を見出だせない悲しい集団です」


俺ですらおかしいと気づくのにルゥ姉からの視点からでもちゃんとおかしいらしい。

軍のトップの人曰く、普通のレベルは学院で鍛えてる程度で軍はその延長にあたる。

ただし騎士団は軍の上に立つ立場なのでそれ以上が要求されるために通常よりも厳しい訓練をこなさなくてはいけない。

ここ数年で騎士団の武力が底上げされているのでそれに合わせて難易度も上げてみたと言っていた。

原因はあの王様しか思い当たらず、子供が出来て大人が出来ないとはプライドが許せなかったのだろう。

ルゥ姉ですら頭を痛そうにこめかみを抑えているが


「ですが、おかげで私もディックも無事貴方達のお目に叶う程度にはあると言う物だと思っております」

「十分すぎるよ」


苦笑を零すエンバーだが、火を熾して川から水をくみ、食事の準備をしてくれているクレイを誰ともなく視線を向ける。


「よく働く方ですね」

「ああ、少しでも今まで出来なかった事をする事で周囲との差を埋めないとと頑張ってるんだ」

「一人暮らしが目標ですものね。

 身の回りの事、ご自身の事、そして周囲の方の事。

 ちゃんと気配りできるようになろうと頑張られてるすばらしい精神ですね。

 半分血を分けた方に爪の垢でも煎じて飲ませたいくらいです」

「ああ、まったくだ。

 どうすれば半分同じ血が流れてああなるのか詳しく聞いてみたい所だな」


さすがにあの性格はエンバー達でさえ目に余る物があるようで、眉間がきゅっと寄っているところを見ると友人としてもクレイの置かれている状況をそれなりに心配なのだろう。

当人は細かく切った野菜に干し肉を入れてスープを作り、別の深型のフライパンで小麦粉と水で練り、それを焼いて行く。

簡単な食事を作る横で俺はルゥ姉から受け取った食料の中から芋を取出し火の中に放り込む。

エンバーが何を始めたと言う視線で俺を見ていたが、俺は気にすることなくクレイから使い終わったフライパンに野菜と肉と果物を詰めて弱火でゆっくりと焼いて行く。

水も入れずにと不安げな視線を受け止めながらもフリュゲールからふんだんに持って来た塩を一振り、バターを一欠けだけ入れてクレイの食事を頂く事にした。


「何やら作ってましたがそちらは良いのですか?」

「明日の朝になったら食べごろだから良いんだよ」

「随分と気の長い料理ですね」

「上手い物食べたけりゃ時間をかけないとな」

「スゲーいい匂いしてるんだけど?」

「空腹と我慢が最大のごちそうです」


と答えれば声を立てて笑うクレイが


「じゃあ、御馳走じゃないが俺の料理から食べようか」

「立派な御馳走じゃないか」


ナンみたいな平らなパンに汁気の少ないスープ。

何処かの国の料理みたいだと思いながらどこだったかと考えている間に食べ終わったエンバーが


「悪いが先に寝させてもらうが構わないか?」

「ええ、でしたらディックも食べたら寝てしまいなさい。

 クレイと私は後ほどクレイの判断で交代させてもらいましょう」

「すまない。さすがに眠い……」

「ここまで先頭で気を使ってくださってありがとうございました」


ルゥ姉が感謝をすれば焚火から遠い場所に陣取ってごろりと毛布だけを体に巻いてすぐに眠りに就いてしまっていた。


「目標物のない旅ほど自分の感覚を澄まして方向感覚に集中しなくてはいけません。

 ましてや馬の足で、そして夜と言う時間帯。

 平野とは言え馬が転ばない道を選んだり、陰で見えにくい溝を避けたり、ずいぶんと気を使ってくださったようですね」

「エンバーのSSクラスたる所以さ」


何故かクレイに自慢げに言われてしまった。

その誇らしげな顔をしげしげと見ていればルゥ姉にさっさと食べて眠りなさいと言われた。

毛布を貰って焚火のそばで包まれば、やはり一晩中馬を走らせていた体は想像以上に疲れていたらしくエンバーではないが気を失うように眠りに就き、ルゥ姉に肩をゆすられるまで夢も見ないでひたすら眠っていた。




周囲は相変わらず暗く馬も思い思いの場所で休んでいた。

クレイは既に毛布で包まっていて今すぐにでも眠りに就く所。

俺はルゥ姉に食材を出してもらい、朝食と昼食の準備をしておくと伝えた。

エンバーは洞窟周辺から薪を集めてくると言って出かけてしまい、俺は焚火の晩と食事の準備をするのだった。

とはいっても準備するには早すぎるのでドライフルーツをお湯で戻し、そこに茶葉を入れて紅茶をゆっくりと飲んだ。

それから寝る前に準備した鍋の様子を見れば無事焦げる事無く煮詰まっているようだった。

これ以上火の側に置くと勿体ない事になるので火から遠ざけておく。

洞窟の入り口はルゥ姉の生活魔法とか言う俺達しか潜る事の出来ない見えないドアを閉めている状態なので心配はなく、警備の必要はないと言う。

と言う事なので、洞窟の隅っこに在る岩の窪みを見つけてそこにお湯を張る。

さすがに一日馬と走れば汗もかくし、匂いもキツイ。

仕方ないじゃん。

こう見えても思春期真っ盛りのお年頃なので。

体臭とかそう言うのも男らしい匂いがするようになって、一言で言えば臭い。

フリュゲールに居た時はあまり気にした事はなかったけど、成長期を迎えた頃から自分で自分の匂いが気になるようになったのだ。

服を全部脱いで服は手っ取り早く魔法で綺麗にする。

湯船で身体を伸ばして、騎乗状態の凝り固まった筋肉をゆっくりと解して行けば、馬達が興味深げに覗きに来た。


「温泉じゃないがお前達も入るか?」


しっかりとあったまった体を風呂から引き上げれば、その残り湯で馬達が遊びだした。

温かいお湯は馬にも好評なようで代わる代わる湯の中に入り、やがてぬるくなったお湯に馬達はどこか悲しそうな顔で俺を見る。

うん。

止めてよ、そう言う目を向けてくるのは……

仕方なくもう一度温め直せばまた馬達は代わる代わるお湯で遊ぶのを楽しむのだった。

幾ら暑い国とは言え地下を流れる川の水は冷たい。

顔を洗うぐらいならさっぱりするけど何が悲しくて体を拭う為に冷えなくてはいけないのかとお湯を使っただけなのだが……

やがてあきるまで馬達は暖かなお湯で遊ぶのだった。


洞窟内の遠くから焚火から遠い所で風呂作ってよかったと思いながらも食事の準備を始める。

鶏肉を焼いて薄くスライスする。

クレイの調理法を見て覚えたナンみたいなものを焼き、膨れた中間部分を上手に開いてその中に肉や昨日からの煮詰めた果物を詰めていく。

そういった物を作って洞窟の外にいるエンバーを探せば、意外な事に薪を抱えて戻ってきたエンバーと出くわす羽目になった。


「何かあったか?」

「いや、少し食べておこうかと思って」


俺が手にしていた何て料理かわからない物を見て少し感心した顔をする。


「馬にも乗れて料理もできて何時でも一人暮らし出来るな?」

「料理が出来るとモテるんだよ」


確かそんな事を言った天才様がいたが実際はまだモテたような経験はない。

よろしくて軍や騎士団のおねー様方にランと一緒に愛でられるだけ……

あれ、なんかおかしくね?

血統が良くても料理が出来ても魔法が使えてもモテないなんてどうよ……

やっぱり大人の世界でローティーンって言うのがネックだったかなーと中身だけは大人なのでやはり持てないと言うのはつらい。

なんせ彼女いない歴ユキト没年+今の年齢……

見た目はぴちぴちなのに三十数年彼女いない歴とか女性経験ないとかせめてチューとかハグとか……


「俺、一生彼女出来ない気がしてきた……」

「藪から棒に一体どうしたんだよ」


途端に胡散臭そうな顔を始めたエンバーに何でもないと洞窟内に戻って薪を足しながら食事を始める。


「あー、なんかわからん料理だけど美味いな。

 フリュゲールの料理か?」

「どうだろ?サンドイッチになるんだろうけどね」

「ふーん。これなら手も汚れなくって助かるな」

「ああ、馬で走りながらでも食べれるだろうし」


紅茶を淹れ氷で冷やした物を渡せば喉が渇いたのか一気に飲み干していた。


「こんな荒野にでも薪の材料はあるんだな」

「ああ、だんだん少なくなってるが以前育っていた木が立ち枯れした物だ。

 近くから伐採して使ってるから最近はかなり遠くまで行かないと見つからないんだ」

「馬は連れて行かなかったの?」

「ああ、馬にはあの灼熱は可哀想だからな。

 俺は慣れているから気にしないが、借りた馬に何かあったら謝っても謝りきれん」

「ロンサールってほんと馬を大切にする国だな」

「ああ、草原の国って名乗ってたくらいだからな。

 馬と共にどこまでも駆け抜けて行く、って国だったのに今では荒野の砂漠で馬を走らせるって、子供の頃憧れてたのとは変っちまってよ」


苦笑しているエンバーだが、そう言えば昨日であったばかりでまだゆっくりとも話をした事が無い。

クレイに至っては初日に引っ越しの手伝いをしながらそのまま話し込んで爆睡と言う……あれ?これもどこかで経験済みの生活パターンとか?

まあ、気にしないでおこう。うん。


「エンバーは城壁の外の生まれだっけ?」

「生まれは王都らしいけど、育ちはハウオルティアとの国境にも近い村だな。

 今うちのメンバーが一人で住み着いてるけど、まあ、運よくそっち方面の任務があったら紹介するよ」

「あー、悪い。ひょっとして変な事聞いたか?」

「この国全体で起きた出来事だ。みんな知ってるし、俺は運が良かったんだ」


言いながらも腰に佩いている剣の柄をきゅっと握りしめる。


「お父さんの形見?」

「いや、父親は居ない。

 これはその時助けに来てくれた騎士の、形見だな」

「わりぃ」


重ね重ね俺は彼の神経を逆なでするような事ばかり聞いてるようで視線すらそらせてしまうのにエンバーは笑みを零して


「あの時10だったか。

 助けに来てくれた騎士は既に瀕死の状態でよ、俺にこれを託してくれたんだ。

 だから俺はこの剣と共にその騎士の思いを受け継ぐ。

 なんてかっこいい生き様を目指しているんだが……

 金欠といつも任務でどこか出かけてる方が多い状態で本当にあの騎士に近づいているのか判りゃしない」


二杯目の紅茶をゆっくりと飲みながらどこか遠い所を見る目で語るエンバーはゆっくりと目を閉じ


「お前は人を殺した事があるか?

 俺はこの仕事柄人を殺した事が何度かある。

 だが、初めて殺したのはその騎士だ。

 虫の息で、周囲では魔物がまだ暴れていて、魔物に吹き飛ばされて林の影に隠れてた場所で偶然知り合った騎士だ。

 回復の見込みがないから止めをって言われて、言われるままこの剣で殺したんだ」


膝に顔をうずめて告白するかのような会話を俺は黙って耳を傾ける。


「こんな俺を怖いと思うか?」


顔を上げずに問いかける声は丸で泣いているようにも聞こえたが


「俺も人を殺した事がある。

 ルゥ姉に乱暴しようとした人達、大切な友達が殺されそうになった時、他にも陰謀に巻き込まれた時とか俺が生きる為に見殺しにした人達もいる。

 この世界は人の命が随分と軽い。

 そしてその罪に対しても人の命は軽くできている。

 こんな世界の中で、エンバーの行為は救済だ。

 エンバーは人を殺す事がいけない事だと言うのも判っているし、その時その場の判断なんだ。しかたがないと言うのも変な話だけど、そう言う事なんだろ?

 むしろそんな小さい子供相手に願う方が間違っている。

 だから俺はエンバーを怖いとは思わないし、後から何か言ってくる奴の言葉に耳を傾ける理由もない」


膝に顔をうずめていたと思っていたのにいつの間にか驚きの表情と共に俺を見つめていた。

間抜けな顔で、思わず俺の方が顔を顰めてしまうも、エンバーはやはり少しだけ泣きだしそうな顔をして


「俺より年下の奴に言われるとは思わなかった」


ありがとうとも違う言葉だが、何やら随分とすっきりした顔をしていた。

少しは彼の何かに触れる言葉を言えたのかと思いながらも馬達が遊んでいた窪みとは違う岩場の窪みに向かってお湯を張る。


「言葉だけなら誰でもどれだけでも言えるさ。

 それよりも汗ばんだのなら風呂に入ってさっぱりしとけ」


言ってエンバーを招いて風呂へと突き落す。

慌てて服を着たまま湯船の中に尻もちついていたが、暖かなお湯に驚く顔を見ながら


「馬達に気付かれる前に楽しみな」


俺は火の番に戻ると言って焚火の側にまた座るのだった。







そのうちまたエンバーの話しでも書いてみたいと思っております。

ええ、思ってる段階なのでどうなる事やら……

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