準備はよろしいでしょうか?
ブックマークありがとうございます。
まだまだ旅の途中ですがお付き合いください。
街に戻り先ほど購入した物をクレイがエンバーとルゥ姉に伝えれば野戦経験者の買い物はとにかく豪快だった。
さすがに総て買い占めると言うわけではないが、それに近い状況だった。
食料を中心だが四人分を五日分は買っている。
だけどエンバーは止めず、日持ちのする物を教えてルゥ姉に次々に買わせていく。
気持ちのいい買いっぷりだけど、買った側から荷物が消える。
ルゥ姉の空間魔法に納めてるのだろうけど、あれだけの荷物を入れれるなんてどんだけだよ!と心の中で突っ込んでいれば俺の隣でクレイも冷や汗を流しているあたり俺と同じ心境なんだろうな。
エンバーも似たようなものだけど、こいつの場合は何処か面白がってる節があるから割愛。
それを家の中で広げ並べたらもう爆笑するしかなかった。
「ってか、よくこんなにも入ったなwww」
荷物を避けて床をごろごろ転げながらの大爆笑のエンバーにルゥ姉は
「そうですか?
戦争に駆り出される時は部下の分も協力していたので軽くこれの10倍は入れてましたよ?」
キョトンとした顔で返せばさらに爆笑。
「毛布とかも余裕に入るとか!」
「非常食と自分の分ぐらいはお持ちなさい。
常に満タンにしておくと入る量が増えるので貴方達も訓練しましょうか」
「マジか!今からでもイケるのかよ!
そんな情報聞いた事ねーよ!
だったら早速始めるとか?!」
「次の任務に向けてそうなさい」
そんな事も知らないのかとあきれ顔だった物のエンバーは早速色んな荷物を詰め始める。
笑いながらも詰める横でクレイもエンバーをちらちら見ながら同じように詰めている。
寝袋なんて物はないが俺はルゥ姉だのみなので毛布をくるくる巻く手伝いをしたり保存食を作ったりしている。
「今回の任務で嬉しいのは水の心配が必要ない事でしょうかね」
「ああ、水は腐ると捨てるしかないからな」
「干し肉より高いって一体なんなんだよ」
「っていうか、おれ水係?」
「戦力は期待してないけど水係としては手放したくないくらいに」
良い笑顔でエンバーに断言されてしまった。
肉壁よりも地位が下じゃね?なんていじけそうになる物の、ルゥ姉は気持ちいい位に手早く片付けて
「それよりも貴方達は今日の自分達の寝る場所の整理整頓は出来ているのですか?」
場数の違いを見せるかのようにルゥ姉は俺達を見渡せばクレイが慌てて荷物片づけてくると二階に上がって行く。
あの後クレイの荷物をセイジさんがまとめてくれて部下にそっと運ばしてくれた物が廊下の一角に置いてあった。
荷物はあまり多くはないが、それでも元王子として良い物がちらちらと見える。
きっと王宮で暮しているお母さんが城の外で暮すクレイを思って持たせてくれたものだろう。
良いお母さんじゃないかと思わず涙も出ていないのに涙ぐんでみた。
「所でエンバー、これが今回頂いてきた任務ですがどう片づけるべきですかね」
内容は
①ロンサール、アルカーディア、ドゥーブル三国間の国境に住み着いたゴブリンの巣の駆除と撲滅。
②ロンサール、アルカーディア、ドゥーブル三国間の国境に住み着いたオーガの巣の駆除と撲滅。
③ロンサール、アルカーディア、ドゥーブル三国間の国境に住み着いたウルフ種の駆除。
④ロンサール、アルカーディア、ドゥーブル三国間の国境に住み着いたワイバーンの駆除。
⑤ロンサール、アルカーディア、ドゥーブル三国間の国境に住み着いたドラゴン種の殲滅。
⑥ロンサール、アルカーディア、ドゥーブル三国間の国境に住み着いた一つ目巨人の殲滅。
⑦ロンサール、アルカーディア、ドゥーブル三国間の国境に住み着いた魔族の殲滅。
「って、なんだこれ!
クロームの奴ふっざけんな!!
思いっきり国境問題を丸投げしやがって!!
しかも全部めんどくさい奴ばっかだろ!!」
羊皮紙を丸めて床に叩き付けるも多少の皺は残るもまた元通りに広がってしまう。
「何か問題がありましたか?」
お国事情でもからんでいるのかと聞くルゥ姉に
「まぁ、知ってると思うけどゴブリンとかオーガは小賢しくてめんどくさい。
ウルフ種とワイバーンはすばしっこくてめんどくさい。
ドラゴン種と一つ目巨人は持久戦でめんどくさい。
魔族はもう全部がめんどくさいんだ」
「なるほど。
避けて通りたい物を全部押し付けられたわけですね」
「その結果がアルカーディア、ドゥーブル三国間の国境に住み着いた魔物の数々かよ」
「仕方ないだろ。
国の騎士団も国境侵犯とか言って出せないとか言ってる間に魔族が住み着いてその配下が増えたり統率を始めたりとか……
ロンサールは砂漠があるからこっちに来ないし、俺達も積極的に行かないし、魔族も砂漠は嫌らしくこっちに来ないから放置かと思ってたら……」
「ここぞとばかりに隣国に恩を売る気満々ですね」
「ロンサール国民以外にやらせるのがポイントだな」
ルゥ姉と呆れてため息を吐くも
「そういや俺魔族見た事ないな」
精霊、妖精は在れど魔族はなしだと正直に言えば
「魔族は人と変わらない姿を普段とっていて、戦闘態勢に入ると魔物と混ざったような姿になるぞ」
「もともと精霊から発生した種族だと言われているので、精霊の劣化版と思えばいいでしょう。
凶暴かつずる賢く、そして人の負を好みます。
魔物とまじ合ったような姿をとる所から判るように血肉も好みます。
まぁ、厄介な相手には変わりはないですが、妖精や精霊よりも出会う確率は高いですよ?」
ユキトの世界で描かれる生態そのものだと思っておこう。
「人と同じく男性型と女性型があり、長命でどちらも美形が多いですね」
「人と同じ言葉を使うし、街中に住み着いている奴もいるくらい器用な奴らだ」
「厄介だな」
「快楽思考であるけど、全部が全部殺戮大好きってわけでもない」
「そうそう、確かどこの国の歴史だったか忘れましたが魔道具を作るのが好きな魔族が居てその長命な年月で作り上げた魔道具を当時気に入った国の姫に捧げて愛を乞うたという話もありますし」
「何だそれ……」
「さあ?数百年ほどの前の話しなのでさすがに私も詳しくは知りません。
ですが、その杖でしたね。今もどこかの国が厳重に管理してるとかそんな尾ひれも付いてましたよ」
「ビミョーなさじ加減のリアリティがまた……」
何とも言えんと言えばそれが昔話と言う物ですよと言うルゥ姉の言葉にふーんとだけ返しておく。と言うか何の話をしてたか忘れかけたけど、目の前の依頼書を見て
「で、これはどうやって攻略してくのさ?」
聞けば
「魔族がいるあたりでオーガとゴブリンの巣は集合体化してるでしょう。
そこを一気に焼き上げた頃狼系ワイバーン系がわんさか死肉を荒らしに来ます。
ワイバーンまで倒した所でやっと魔族のお出ましでしょうか。
きっと一つ目の巨人辺りを引き連れてくるでしょう。
一つ目の巨人は頭が緩いので魔族の言いなりになってるので一つ目から魔族と倒します。
これで6つの任務完了と言った所でしょうか。
残りのドラゴンは魔族に組しない相手なので敬意を払って交渉し、駄目なら戦いと言う流れになります。
魔族と付き合うとごっそり魔力を搾り取られると思うので、ドラゴンとは回復してからでも十分でしょう。
質問は?」
「任務が流れ作業になってるのはなんでだ?」
頭を抱えて呻くエンバーに
「どう見てもこの任務ドラゴン以外は総てまとめて一つの任務ではありませんか。
それを6つにわけてクレイのランクアップの条件の水増しになってるのは見ればわかる事でしょ?
でしたらまとめて任務完了すればいいだけの事です。
話した通り上手くいくとは思いませんが、とりあえず焼いて壊して殺しまくれば任務完了です。簡単ですね」
これぐらいなら私一人でも問題ありませんと言うルゥ姉の言葉にもエンバーは頭を抱えて呻くが
「ですがここで一つ大切な任務が混ざってます。
クレイのランクアップと言う大きな目的があります。
これが無ければ先ほど言ったような流れ作業で十分ですが、今回はクレイ中心に任務を遂行しなくてはいけません。
多少の手間は在りますが、私が程よく半殺しにするので貴方達で仕上げてください」
「丸投げかよ」
「って言うか逆にその状況の方があぶねーんだけど!」
「人間パニックになった時こそ真価が問われます。
クレイを指揮官クラスにしたいのなら当然それくらいの事はやってもらいましょう」
この場に居ない当人の予定を次々と決めるルゥ姉に、今頃自室で引っ越し作業を1人でしているクレイをエンバーと二人で可哀想にと憐れんでみる。
「さて、とりあえずこんばんは適当に夕食を済ませて明日に備えましょう」
「ああ、夕方に出発して一晩馬で走り続ける。
今の季節だと太陽が昇って一刻もしないうちにセーフティーポイントに到着予定だ。
そこから夜になってから出発すれば朝までには目的の国境までたどり着くさ」
エンバーの説明に
「二日でこの荒野を切り抜けれるのですか」
「馬車との差だな。
仙斎の風の馬車で三日って言うのも相当だけどよ。
クロームの所の馬は夜でも怯えずに走るように訓練してるからな。
安心して駆け抜けれる」
馬が好きなのだろうか、今にも馬で駆け抜けて行きたいと言うような顔をしているエンバーにつられるように俺も笑みが浮かぶ。
「所で馬には?」
「私は大丈夫です」
「俺も訓練してもらったから大丈夫だと思う」
「そりゃよかった。ちんたら走ってたらセーフティーポイントに着く前に干からびちまうからな」
安心だと言う顔で立ち上がり
「じゃあ、俺はもう帰るな。
明日は一度呼びに来るからそれまでに準備を終えておくように。
あと、そのひらっひらの服は止めとけ。
夜は寒いし、時間の遅れも予想して日焼けは火傷にもなる。肌は出さない格好をしておけよ」
言いながらまた明日とこの家を出て行くエンバーを玄関で見送れば二階からクレイのまたなーと言う声が届いた。
面白いとくすくすと笑うルゥ姉は二人をまだまだ子供ですね評しながら
「さて、悪いけど風呂の準備をお願いします。
こうも砂だらけなのは正直つらいですね」
「まあ、慣れるまでの心棒さ。
当然だけどフリュゲールと何もかも違う」
「ええ、この国が砂漠化して何年経ちましたか……
精霊が守護する国と聞いてたのにおかしいとは思いませんか?」
ルゥ姉が指摘してその歪さに俺も顔をゆがめる。
「フリュゲールでさえランが王位につく事になった戦争の痕さえもう草花が育ち、移植された木々も青々としています。
ですが同時期頃起きた魔獣大暴走の傷跡は未だに片づけた程度に収まってます。
精霊に何かあったのでしょうか」
難しい顔をするルゥ姉はその顔を隠さずに二階にいるクレイに声をかける。
「少しいろいろお話したいのでまずは食事の準備をお願いします」
「ほーい」
何て暢気な声が聞こえたけどあいつ判ってるのだろうか。
ルゥ姉のメシ役になった事を……
とばっちりを食わぬ前に俺は風呂場へと向かう。
下手に役目を押し付けられる前に風呂でも沸かしてルゥ姉を風呂場に押し込めてしまえと風呂場へと向かう足は自然に駆け足になってしまう。
やがてルゥ姉が風呂から上がってきた頃にはクレイが手早く食事を作ってくれていた。
小麦粉に塩とバターとわずかな水を混ぜてこねて焼いたナンみたいなパンと挽肉と野菜を幾つものスパイスで味付けしたカレーのような匂いのするスープ。
野菜の水分だけで作ったスープは濃厚で、そして僅かな肉は野菜に程よく絡まっている。
「器用な物ですね」
ルゥ姉はナンに似た物を一口切り取り口へと運ぶ。
「せっかくこの国に来たんだ。
この国の一般的な料理を食べさせたかったんだよ」
言いながら主食はこのナンみたいなパンがメインとなり、水分の少ないスープがメインとなり、後は肉を焼いたり豆のサラダをつけたりとなるらしい。
元王族としてそれ以外の料理を知っているクレイだから昼間のような麺料理も知っているのだろうと推測する。
「それにしても香辛料をたくさん使うのですね」
複雑な香りは香水とは違い直接胃袋を刺激する臭いの為に俺はスープをお替りしてしまう。
「ああ、今では香辛料も入手しにくくなって国境近くの森や元村に残された香辛料の畑から野生化した物を貰うのがせいぜいなんだ。
あ、でもガーネットの所の変態が香辛料の畑を育てているらしいからまだましかも」
「変態って……」
何じゃそれはと思えば
「SSランクの一人だけどな、ずいぶん変わり者で自分の畑を持つのが夢らしく未だに魔物が跋扈する森に一人で暮してるんだ。
朽ちた村を拠点に畑を耕して魔物を駆除して暮してる。
俺が思うにはエンバーよりも強いぜ」
精神面は最強だと笑って言うクレイに
「ひとつお尋ねしたいのですが、本当に一人で森に?」
なんて無謀な事をとルゥ姉でさえあきれ果てるが
「まぁ、そこは人それぞれの事情だ。
あの人は、まあ、変態って言われる位で、人社会の中じゃ生きる事の出来ないタイプだ。
それでもまだ村を拠点に動いてくれてるから、何かあった時は助けてもらえるからありがたい」
「そうですか。何かあったかはお聞きしませんが一度お会いしたいですね」
言えば顔を顰めて
「多分合う事になるぞ。
その村はハウオルティアとの国境に近い村だ。
そしてエンバーの故郷だから……できたらあいつからこの話を打ち明けられるまで何も聞かないでほしい」
何故と小首をかしげるルゥ姉に
「きっと俺以外からもいろんな話を聞かされると思う。
悪意を持った言葉で言う奴もいる。
エンバーは未だあの時の事と向かい合う事が出来ないくらい悲惨な出来事があったらしくって、何が起きていたかエンバーがしゃべるかわからないけど直接語ってくれる言葉がきっと正しい事実だから、二人には周りのいい加減な情報に振り回されて欲しくないって言う、俺からの願いかな……」
そう言って俯くクレイに俺はなんとなくルゥ姉を見上げればルゥ姉はクレイに気づかれずに優しげな笑みを浮かべ、俺はエンバーがなんだかんだ言いながらあの賑やかな店の屋根裏を気に入っていたり、こうやって人の輪に入ってこない理由を考えてみたりして少しさみしい気分になりながらも、こうやって気にかけているクレイの存在に少しだけ心が温かくなるのだ。
「そう言う事なら承知しました。
最も私は自分で見た物聞いた物しか信頼しないのでエンバーへの悪意ある風評被害などあなたが気にする必要ありません。
それにこう見えても私の中ではこの国で出会った人達の好意的順位はうなぎのぼりです。
エンバーを思っての言葉、確かに承りました」
言いながらグラスにワインを注ぐ。
地下室のワインだが、水が貴重なこの国ではわずかな水程度で取れる葡萄から作るワインを水代わりにしている。
俺にも注がれたワインにルゥ姉を見れば
「貴方達の友情に我々も祝福しましょう」
ワイングラスでもないただのゴブレットだが、カチンとぶつけ鈍い音を鳴らしてルゥ姉はワインを飲み干し、俺達も見習って飲み干すのだった。




