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血の宿命、血の柵

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部屋も決まり三人で協力して間取りの変更をする。

ベットは一台で十分なのでもう一台を廊下に出してルゥ姉に追加で引き取ってもらうようにリストアップしてもらう。

作りつけのクローゼットやチェスト、デスクやライトテーブルはせっかくなので確保しつつ、様子を見に来たルゥ姉は残りの二部屋は何かあった時の客間で保持する方向にしていた。

それから裏方の事務室のいらない花瓶やら台所の食器、どれだけ放置してるかわからない食材を処分したり、納屋に置かれていた予備のテーブルなどを始めほぼ細々した物を処分する方向になっていた。


「見事処分する気満々だな」

「ええ、途中で飽きてしまいまして。

 いっその事すべてなくした方がすっきりするでしょう」


エンバーとクレイの白い視線も気にせずルゥ姉は納屋もわずかな家具を残して綺麗にしていた。


「だけど、他の家もだったけど家財はほとんど残ってるのな?」


俺の感想は埃は積もれど人だけが居なくなったと言うその不気味さを口に出せば


「ああ、突如人が居なくなったし逃げる先もなかったからな。

 火事場泥棒する人間さえいなかったんだ」

「人が居てもみんな疲れ切って片づけ何て気力の居る事誰もできなくてよ」


人が死んでも埋める墓は城壁の外で出入りが制限された獣暴の乱の間は城壁内の一角に墓地を作り、土葬が主流だったこの国で初めての火葬に誰もが悲しみの悲鳴を上げたと言う。


「俺はあの時この城壁の外の村に居たから。

 偶然助けてもらえてここに連れられてきたけど……

 ガーネットが居なかったら今もきっと立ち直れなかったと思う」

「俺はまだ城に住んでいたからな。

 祖父でもあった国王が死んで、宰相までも城の中を殺気立って走り回っていて、俺達子供は息を潜めて言葉も出せない位部屋の隅に隠れて過ごしてたな」


あの時は城の中も外も子供はみんな息を潜めて飢えを我慢させられて帰らぬ両親をずっと待っていたと言う話にどれだけ酷い事になるのか理解せずにはいられない。


「そうですね。

 戦争なら相手もはっきりしてるぶん割り切る事も出来ますが、魔獣の大暴走は自然が生み出した災厄以外何でもありません。

 魔物を恨むのは当然ですが何でこの国に、何でここに来るんだって偶然の確立には何を恨めばいいか判りませんものね」


要る物要らない物を仕分けながらルゥ姉はどこで見つけたシーツのストックを大量に見つけ出していた。

半分ほどをキープして残りを売り払うつもりらしい。

おまけと言うか予備のカーテンや体を拭う物まで見つけ出していた。

と言うか、どこから見つけ出してくるのかルゥ姉の家探しの技術には謎の能力を感じずにはいられない。

その足元に入るシルバーの鼻を頼ってるのか、彼女の感か……考えるのはやめておこう。


「でもよぉ、何かを恨まずにはいられない。

 恨む先があれば生きていく気力にもつながると思わねえかルゥ姉?」

「誰が貴方にルゥ姉と呼ぶ事を許しました?」


言って持っていたカーテンの塊りをエンバーは顔面で受け取る事になっていた。


「別にいいだろ、チームだし?」

「同じチームでも年上に対して敬うと言う事を教えるのもしつけの一環です」

「敬うって、何を敬えばいいんだか」


でかい乳にかと笑うエンバーに


「私に瞬殺された分際でその体が真っ二つにならなかった感謝で十分だと思いますが?」


SSクラスと聞いたのにがっかりですと逆にルゥ姉に鼻で笑われるエンバーは苦虫を潰した顔をして見せるもクレイもこの状況を見てこくりと息を飲み込む音を鳴らすのだった。


「弱肉強食のこの家の中での順位が決まった所でクレイはディックを連れて買い出しに行って来てください。

 初任務の事はまだ聞いてませんが、それまでに準備出来る物は準備しましょう

 エンバーは少々躾が必要です。私の補佐を務めなさい」

「了解」

「うげー……」

「そうそう、これがとりあえずの予算として金貨10枚ほどお渡ししておきます。

 ディックは物価を見ながら決定してください」

「はいよ」


言った所で金貨の詰まった袋を手渡された。


「今日明日の食事の分もお願いします。

 武器などの高額な物は改めて出直すようにしてください。

 そうそう少し待ってください。

 欲しい薬草のリストを上げますので見つけたら買ってきてください」

「結構大荷物になるな?」

「腕力のトレーニングと思って頑張りなさい」


言いながらもさらさらと買い物リストを作り上げるルゥ姉の仕事の早さにクレイも感心する合間に買い物に出かける事となった。

不安なコンビの二人を残していくのが心配だが、逆にあの場に居ないのが心労が少なくて済むと言う物。

いや、心配で早く買い物を済ませなくてはエンバーが……となんとなくクレイと視線で意見が一致して、なんとなく早足で市場へと向かうのだった。




市場はやはりと言うか閑散としていた。

並べてある物はどれも品薄で、雑貨もあまり興味を持つ物がない。

それでも目新しい物を見つけたのか、クレイは自分の財布からドライフルーツみたいなものを買い、そばにいた子供が羨ましそうな視線で見上げていた。


「ほら、おやつじゃないけど」


苦笑まみれに出された黄色の干からびた果物を口にすれば甘酸っぱい桃にも似た香りのくだものに思わず笑みが浮かぶ。


「甘いだけじゃなくっていいな」

「ああ、紅茶の中で戻してぷりっぷりにしたのを齧るのが好きなんだけど、暫く落ち着くまでゆっくりお茶なんて言ってられないし」

「まぁ、ルゥ姉が相手だしな」


苦笑を零しつつもクレイは育ちの良い顔で爽やかに笑い


「なぁ、フリュゲールってどんな国だ?」

「興味あるのか?」

「まぁ謎な国だし。

 でもルーティアとディックから聞くには悪い国じゃないし、何時か一度見に行きたいな」

「何て言うか、ここに来る時知り合ったギルドの人も同じこと言ってた」

「草原のロンサールって言われるようにどこまでもこの草原を馬で駆けて行くのが国民性みたいなものでさ、気になった場所へは行かずにはいられないんだよ」

「国民性あるな。

 フリュゲールは剣と知の国って言われててものすごく好奇心旺盛な国民性なんだ。

 物を一教えたら十にも百にも勝手に開発していくと言う、気が付いたら色んな応用されてたり、新たな発想を勝手に開発してて頭が痛かったなー」

「ちなみにハウオルティアの国民性は?」

「俺はあまり気にした事ないけどよく緊張感がないとか、楽しみすぎだろとか言われてる」

「あー、なんかわかった気がしたかも……」

「ハウオルティア人知ってるのか?」

「ロンサールの王宮に家庭教師で雇われてるカヤ・エンデがそんな感じ」

「え?カヤが居るの?」


思わず無言で二人で見つめ合う。


「知ってるの?」

「前、うちで雇ってたんだ。

 良く本談義をしたんだ」

「ああ、俺に勉強教える片手間に本を読んでたな」

「優秀だから文句言う隙なくて」

「かなり絞られたな」

「ご愁傷様」


思わぬ知人の出現に後でルゥ姉に教えなきゃと思いつつもそれなりに購入したもので両手がふさがる頃一軒のギルドの前までやって来た事に気づいた。


「おや、迷子かい?」


窓からワインを傾けながらガーネットが手を振っていた。

俺は荷物を抱えたまま


「ルゥ姉のお使いの途中と言っても後は帰るだけ」

「二人とも城壁住いかい?」


狭くて大変だろうと笑うガーネットの正面に座る男も良い感じに酔って笑っていた。


「この通りの一本入った所に在る元宿屋を買い取って住み着く事にしたんだ」

「あー、三階建ての?」

「そこ。俺もクロームの指名でこいつらとチーム組む事になったからその間そこに住み着く事にしたんだ」

「イングリットの魔の手から脱出できてよかったな」


あははと笑う声はみんなイングリットの意地の悪さを知ってるのだろうか。

他人事と見守っている段階ならまだかわいいものか?と思うも当人には死活問題でもあるだろう。


「こいつらとの任務をこなしてSランクになったら俺も外に部屋を持つ事にしようと思ってた所」

「それもいいけどあまり母親と伯父を心配させるなよ」

「そうだぞ。何かあったらお前の継承権は復活させなくちゃいけないんだからな」

「弟の方を期待してくれ」


和やかに笑う話を聞きながら王位継承権って復活できるんだと驚いていればガーネットが訳知り顔で


「王族は希少な血族だからな。

 絶やす位なら恥を塗っても血の確保を優先するのさ」


何処かでも聞いたような話に俺は顔をゆがめる。


「そう、この大陸では精霊と契約した一族の血が続く限り安寧が約束される地。

 ガーランドやドゥーブルをみてみろ。

 精霊が居ないだけであんなにも暮らしにくい地になっている」


哀れだよなと言うガーネットになら今のハウオルティアはどうなってるんだと顔を青ざめてしまえば


「なーに、唯一の血族が残ってる。まだ大丈夫。

 お前の仕事はとにかく血族を増やす事。

 ブルトランを討ちとる事じゃないぞ」


ワインのような視線が俺に忠告をする。

確かにそうかもしれないけど……


「まぁ、私の見立てだとお前は強運に守られている。

 フリュゲールと知り合ったのも、ルーティアにこの国に連れてこられたのも何かの縁。

 あたしは運命何て気にしないけど、強運に守られるのも気付くか気付かないかで天と地ほどの差が生まれる。

 望みを叶えたいのならそれに見合わった何かを差し出して釣り合いをとらないと大変な事になるぞ」


まるで占い師のような漠然とした答えだが、彼女の言葉は確かに忠告だ。

随分と気味の悪い物でワインのような視線はこの体に潜む魂が別物な事さえ見透かしているようで……


「ありがとう。

 気を付けとくよ」


忠告ならばありがたく受け取っておこう。

忠告でもなくても自分を戒める言葉として受け取っておこう。


「じゃあ、荷物重いから行くよ」

「ああ、またな。

 落ち着いたら新居に呼んどくれよ」


そう言いながらワインが少し残ったグラスを揺らして別れの挨拶となった。

それからしばらく沈黙のまま通りを歩いて、新居が見えかけた所でクレイがはーと体中の空気を抜かんばかりに息を吐き出していた。


「な、なんだ?」

「なんだじゃないだろう……

 お前よくガーネットとまともに話出来るな?」

「はあ?

 口は悪いが普通の事を話してただけだろ?」


言えば信じられんと言う視線で俺を見て


「血族とか精霊とか、良く話になるな……」

「ああ、まあ、フリュゲールじゃ普通に話に上るし?

 フリュゲールの四公八家って言う独特な政治体制知ってるだろ?

 あれもフリュゲールの豊かさを守るための血族に与えられた使命だとさ」

「うえー。

 どう考えても生贄じゃねーかよ」

「詳しく言うと、精霊を怒らせた呪いだと」

「……まじか?!」

「精霊は優しくも親切だけでもなく、ただ対等な取引をしてその盟約を穢す者には罰を与える、ただそれだけの話しだと」

「規模がでかくてよくわからん」

「一言言えるのはお前もその一端に居るって事だ。

 いくら王席抜いて関係ないと言っても、その体に流れる血が許さないと言う物だよ」


最も俺もそのシステムの中に入っているのだが、子どもなんて沢山作ってどうすればいいのか悩んでしまう。

ユキトが一人っ子だったのもあるし、あまりに暗い性格だったのもあったし、あまりに一人の世界に引きこもっていた事もあるし……

楽しい子供時代が幼少期ばかりだった事を考えると子育て何て想像がつかんと頭が痛くなってきた。

そうこうもんもんと考えているうちに家についてしまい、荷物を食堂へと運びこめばどこからか埃まみれのシルバーがやってきて無邪気に俺に突進してきた。


「シルバー、ルゥ姉は?」


はちきれんばかりにしっぽを振り回し、綿埃をまき散らすもルゥ姉の一言にそのしっぽは鳴りを潜めて視線を反らされてしまった。


「エンバーが居ない辺り不安だな」

「とりあえず案内してくれ」


言えば恐る恐ると案内をしてくれた。

そこは地下に続く扉で、薄暗い階段に魔光が所々明るくする先をクレイと共に足を進める。


「かび臭いな……」

「ルゥ姉の魔法ですら綺麗にならなかったか……」

「いや、ルーティアの魔法が原因ではなさそうだが……」


一番下まで降りた先に在ったのは色々な壺とか樽とか瓶とかの保存食がずらりと並んであった。


「ルゥ姉」


鼻をつまんで声を掛ければルゥ姉も鼻をつまんでしかめっ面になっていた。


「ちょうどいい所に」

「って、これなんなんだよ?」

「さあ?

 エンバーが言うにはこの国の伝統保存食だそうです」

「となると発酵食品か?」

「チーズみたいな?」

「いや、もっとなんていうか……」

「すごいじゃないか!

 サッシュのオイル漬けとかキャロルのピクルスとかこんなにもあるなんて驚いたよ!」

「ああ、クレイか?

 さっき摘まんでみたんだが何年も放置されてるのに良い感じに食べれるぜ」

「俺も一口良いか?」


言うも我慢できないと言うようにサッシュのオイル漬けと言う物を食べていた。

イワシのオイルに漬けた様な物を指先でつまんで美味しそうにぺろりと食べてしまう。

こう言った食べ方に縁がなかった俺達は思わず口元を抑えてしまうも、二人はキラキラとした少年の目でオイル漬けの美味さを絶賛していた。


「どうやら前の住人の置き土産のようですね。

 どうもこの匂いには耐えれないのでこれも売り払いましょう」

「えー?!勿体ない!!」

「そうだよ!コレたかだか10匹で一食分の食事の料金ぐらい軽く取られるんだぞ!」

「だったら自分達の分を確保して残りを売り……」

「俺達の分を確保したら売る分なんてなくなった」

「全部売りましょう」


えー?!と二人は不満を上げる中俺は折衷案で半分売って半分うちの物にしようと強引に決めつけた。


「ルゥ姉だってあの樽のワインぐらいとっておきたいだろ?」

「とは言っても全部はいりません。

 一年も居ないのでさすがに全部は飲めないでしょう」


何て言うも10樽以上あるワインを誰が全部飲めと言ったんだと心の中で盛大に文句言う俺は溜息を吐きながら


「だったらここは俺達がこの国を出る時に残りの物を売り払うって事にしようか。

 今まで問題がなかったんだからたかだか一年で品質なんて変るもんじゃないだろう」


既にこの屋敷の主が居なくなって5年は経っている。

そう考えると5年前前後は大陸中でいろいろあった年なんだなとこの大陸の最近歴史は波乱に富んでいるなと感心さえしてしまう。


「それよりも荷物の仕分けするぞ。

 クレイも荷物持ってくるなり口じゃなく手足動かせー」


クレイとエンバーはいわゆるオイルサーディンをもごもごと口に詰め込んで片手にピクルスが待機と言う呆れる姿が並んでいた。

16歳かそこらの二人にはこれが正しい生態なのだろう。

二人ともそれなりのイケメンなのに残念な姿すぎる。

いや、これこそ正しい16歳の真の姿だと俺は過去の自分を思い返して世界は変れどティーンズの胃袋はどの世界でも同じだとそっと溜息を吐き出した。

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