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エンバー・ラスト

不幸な仲間が一人できました。

エンバーと呼ばれた若者は16歳で、17歳のランよりもずっと大人びて見えた。

長身の痩躯のせいかもしれないし、ギルドと言う世界で自分で自分を養っていると言うのも理由の一つに挙げられるだろう。

チョコレート色の短い髪は自分で切ったのか乱雑に切られていて、鏡を見ないのか気にしてないのか変な癖がついていた。

髪と同じチョコレート色の瞳はどこかめんどくさげなまま軽く体をほぐし、剣を何度か振って握り心地を確かめていた。


「じゃあいつから始める?」

「もちろん今すぐどうぞ」

「俺は構わんが、おねーさん、そんなひらっひらのドレスじゃ動きにくいんじゃない?」

「そう見えるかもしれませんが、生憎このような服ばかりずっと着ていたので動きにくさは感じません」

「ふーん。

 まぁ、男ばかりのギルドであんたみたいな人が来ると気を付けないといけないと俺は思うと注意だけはしておく」

「それは親切にありがとうございます。

 ですが、真にあなたの相手をしてほしいのは弟のこのディータなので、そこはお間違いなく」

「あ、そ」


言いながら準備運動のようにゆっくりと剣を振りかぶったかと思えば突然本気で襲い掛かって来た。

あまりの瞬発力と振り下ろした剣の早さに反応でき、何とか処理できたのは、もうフリュゲールでの修行の成果と言っても間違いないだろう。

剣を受け止め、バックステップで下がりながら受け流しつつも吹き飛ばされると言う動作から一度転がって立ち上がり、驚きの顔を見て満足する。

大丈夫。

これならまだランの方が断然早かったし重かった。

ランならさらに追撃と蹴りと武器破壊と言う三連発の容赦なさが続くのだ。

よく心折れなかったよ俺……

そんな事が当たり前だったのでこの不意打ちには驚きはしたけど、何とか一撃は凌げれたからまあ良しとしよう。


「おお、まさかあの不意打ちを処理できるとは驚きだ」

「そうでしょう。なんせああ見えても私の弟ですので」


なぜかガーネットとルーティアが並んで話していた。

おいちょっと待て。

周囲はもちろんエンバーでさえ、二人してだべってる光景に無言でそこでサボるなと言ってる所だろうが


「所で、ここはいかほどの魔力を封じ込められます?」

「ああ、その確認か。

 私が作った防御壁だから私を倒せる魔力までだな」

「そうですか。でしたら全力でも大丈夫ですね」

「あはは!随分自分を判ってるようだな」

「当然、この世の中上には上がいるをこの目で見てきましたので」

「そりゃすごい説得力だ」

「では私も参りましょう」


言いながら一振りの杖をタクトのように真横に振り払えばそれだけで暴風が俺達に襲い掛かって来て、軽く吹き飛ばされたけど俺達はなんとか無事着地。


「って、俺まで巻き込むのかよ!」


ひどくね?!と苦情を言えば


「この程度で吹き飛ばされる方が悪いのです。

 どうやらここは私でも全力が出せるようなので、生態系の頂点に立てなくても生態系地図を描きかえる程度には実力を示さなくてはいけないでしょうか」

「いや、戦闘センスだけ見たいから怪我をしない程度に抑えてもらえると……」

「おいでなさい。ベーチェ、ミュリエル!」


クロームの声を遮って二体の精霊を呼べば、ガーネットを始めクロームもエンバーもびっくりしていた。

「はーい」とかわいらしい返答と共に発展途上前の幼女が二人突如現れたのだ。

しかも見た目も気配も人ならざる者。

二人はスカートをチョンとつまんで挨拶をし、ルーティアの指先に忠誠のキスを落として俺達にも深々と挨拶をする。


「おい、あれは何だ?魔物には見えんが?」

「精霊だよ。ルゥ姉の炎と風の精霊だ。注意しろ」

「注意しろってどういう意味だ?」

「そんなの決まってるだろ!」


俺は全速力でルゥ姉から逃げるように最大限距離を取って剣を構え直す。


「ルゥ姉がベーチェとミュリエルを召喚したら全力で敵味方を巻き込んでの戦闘開始の合図なんだよ!」

「はあ?」


魔法壁を二重三重に張っている俺を見て意味わかんなーと言った瞬間エンバーがものすごいスピードですぐ真横を通って壁に吹っ飛んで行って、一瞬で気絶をしてしまった。


「おやおや、まだ陽も高いと言うのにもうおねんねですか?

 ロンサールの中でも指折りのSSクラスと聞いて楽しみにしていたのに、たかだか不意打ちでダウンとは残念ですね」

「残念じゃねえ!いきなり本気とかありえんだろ!」

「何を言ってるのです?先ほどの彼と同じ戦法をしただけですよ。

 今のが実戦でしたら間違いなく体を真っ二つにしていましたよ?」


彼とて用いた手法だし私も手はちゃんと抜いてますと言うあたり頭を痛めながらもエンバーの頬を叩いて目を覚めさせる。

暫くボーっとしてたけどやがて焦点が俺に合い一瞬で意識を取り戻して戦況を確認する。


「何があった……」


痛みからかゆっくりと体を起こして壁に身体をもたれ掛けさせる。

壁の外からギルドの人達が回ってきて回復に努めながらルーティアを睨んでいた。


「おいお前、一体どういうつもりだ!」


介抱する男が叫んでいたが


「どうもこうも。戦闘センスを見せろと言うので私の戦闘スタイルで怪我をしない程度に行ったまでですが?

 血も出てないでしょう?」


それが何か?と言うルーティアの言葉にエンバーを取り巻く仲間は顔を真っ赤にすれば


「そこまで。

 クロームももういいだろ?

 そこのお嬢ちゃんの魔法の構築の早さも攻撃力も申し分もなしだし、あっちの坊やだってエンバーの本気の不意打ちも凌いで、姉弟とは言えあの攻撃から何とか身を守ったし。

 一番最悪がエンバーだ。

 綺麗なおねーさんとかひらひらーな服にラッキースケベ何て期待したのが運の尽きだ。

 相手をなめて実力も見誤ったのがお前の敗因だ」


ガーネットの評価にエンバーはそっぽを向いて舌を鳴らす。

ガーネットの言う事が少なからず真実だと言う所だろうか。


「だけどお嬢ちゃんも人が悪い。

 前に見た時はそのガキ達はまだ手のひらサイズだったはずなのに、ああ、そうだったか。

 フリュゲールに居たとか言ってたな。

 戻ってるとか噂を聞いていたが……その様子なら本当らしいな。

 まぁ、私にはかんけーない話だけどね」


言いつつ少しだけ考えるそぶりを見せるもゆったりと視線をエンバーに合わせて


「エンバー、分かったかい?

 お前最近あたし以外強い奴に出会ってないから調子乗ってるけど上には上がごろごろいるって事。

 まぁ、ハウオルティアの紅蓮の魔女の実力も噂以上と言うのは正直驚きだったがな」


その言葉で締めくくったガーネットに全員の視線がルーティアに注がれる。


「紅蓮の魔女って、あの女がそうかよ」

「ハウオルティアがブルトランに乗っ取られた時殺されたんじゃねーのかよ」

「生きてるなんて聞いてないぞ?」

「じゃあ、あのガキがハウオルティアの最後の後継者か?」

「確かべらぼーな賞金が……」


「一つ言っておく」


何とも言えない殺伐とした空気の中、ガーネットのどこか気だるげな声がこの場を支配した。


「ギルド紅緋の翼はこの生き残りのハウオルティアのガキを全力で保護する。

 ギルド紅緋の翼はこの生き残りのハウオルティアのガキに害する総てを全力で排除する。

 ギルド紅緋の翼はこの生き残りのハウオルティアのガキに生き延びる術をその身につけさせる。

 以上、これが守れない奴はギルドを辞めてもらう」

「いや、こいつに掛けられた賞金はまあおいしいけどそこまで大したものじゃないし、こいつを守るぐらいならなんて事ないけど、ガーネットが宣言してまで守る理由が判らねーんだけど?」

「それはお前達の勉強不足だ。

 一つ言えばこのガキ一人に二体の精霊の命がかかっている。

 それはこの国にも大いに影響力を持つ精霊だからその精霊の為にもこのガキを何としても生き延びて子供をわんさか作ってもらわないといけない」

「あー、娼館行くか?」


微妙なまでの提案を全員で無視をする。


「お前らが思っている以上にこのガキはハウオルティア周辺に影響を与える事が出来る存在だ。

 当然この国にもだ。

 正直言えば私が保護すればいいのだろうが、そうはいかない事情がある。

 お嬢ちゃんが言うようにに戦闘経験を積ませたいとなるとクロームの所が一番いいだろう。

 そこで提案する。

 この二人に討伐任務を休みなく与えてくれるならこの甘っちょろいエンバーをもれなくおまけで付けてやる。

 どうだ、面倒見てくれるか?」

「それは願ってもない事だが……」

「俺はやだぞ。

 何でこいつらのお守り役みたいな事をしなくちゃいけねーんだよ」

「決まってるだろ。お前が弱いからだ。

 同じ年頃のガキと一緒に訓練して見ろ。

 新鮮だぞ。

 それにこれは命令だ。拒否をするなら出て行け」


その言葉に裏庭は氷りついたように静まり返るが


「行けばいいんだろ。

 ガーネットの事だから何か考えがあるんだろ」

「判ってるじゃないか!

 さすが私のエンバーだ。

 私が良いと言うまで暫くこの二人の護衛とお守りをしておいで。いや、されておいで。

 何を見て何を聞いたか最後まで総て報告する所までが今回のお前の任務だ」

「了解。で、依頼料とか準備金の前金は?」

「んなものお前の経験値に決まってる」

「あのな、いくら何でも装備品買う金とか必要になるだろ」

「でしたらご希望に添えるか判りませんが依頼主でもある私達がお支払いしましょう。

 現金ではありませんがディータ」

「俺かよ。

 適当な奴でいいか?」

「そうですね。このうっすい黄色の奴ぐらいが妥当でしょう」


言いながらルゥ姉に預けていた俺の小さな小袋を取り出してその中を物色した物を差し出した。

金色にも見える透明なのに屈折して向こうが見えない不思議な石をエンバーに差し出す。

小指の爪程度の大きさで一番数の多い物だが、もちろんこれはランがくれた物。

ランの経験から言えば高額なお金よりもこういった物の方が手早く話を進めれる時もあると、それぼったくられてるんじゃね?と心の中で突っ込むも、確かにこれなら手持ちの現金が少ない時ならアリだなと納得する。

エンバーは目を見開いて差し出された小石を両手で受け取れば何度も俺と小石を見比べて


「いいのかよ。釣りは出せねーぞ?

 絶対返せって言っても二度と返さねーぞ!」

「あ、いや、別にそれで納得してくれるならいいんだけど……」


驚くよりも先にガーネットがエンバーの手の中を覗き込んでいた。


「何て魔石だ。

 こんな見事な魔石滅多にお目にかかれる物じゃないぞ……」


ランの部屋にはこれより巨大な結晶がごろごろしているのは黙っていよう。

シュネルが時折気に入ったのを塔の天辺に在る住処に運んでいるのも黙っておこう。

砕いた時の小さな破片とか、もっと小さなものはビオトープの池に捨ててる事は黙っていよう。

ガーネットの言葉に誰ともなく集まってワイワイと騒ぎになる中俺は聞いた。


「何て美味そうな魔石……」


あまりの小さな声で聞き違えじゃないかと思ったが確かにガーネットの声で、彼女は俺の視線すら気にせず魔石をひたすら見つめていた。

俺はルゥ姉に視線を送るもルゥ姉は今の小さな声には気づかなかったのか同じ色の石を取出し


「ではもうひとつお願いが。

 当面の私達の住む場所の紹介と保障を。

 雌黄の剣のギルドの側がよろしいのでしょうが、貴方の家との距離の問題もあるかと思いますのでお勧めの物件とかがあれば良いのですが」

「あーそれならクロームの方が詳しいかも?」

「現金の持ち合わせがないのでまた石になってしまいますが」

「それなら私の方で現金化しよう。

 何か希望は?」

「とりあえず私とディータの部屋は別々で、あと台所があれば助かります。

 風呂場もあるいいですね。

 可能なら一軒家を希望します」

「すぐに手配しよう。追加でもらうかもしれないが?」

「この小石一つで小さな城が建つと聞いています。

 あばら家でも困りますが城でも困りますのでこの石以内で全部揃えれる程度の物件でお願いします」


ルゥ姉の言葉にクロームは失笑。


「悪いお方だ。

 この石の正しい価値を知って我々をからかうとは」

「何をおっしゃいます。

 現金化するとおっしゃって、王室にこの石を届けるつもりでしょう?

 親切を装って自分達の内側を強化する貴方こそ悪いお人」


そう言いながらクロームの頬を一撫でして微笑みながら去って行くさながらの悪女に俺はルゥ姉が楽しそうで何よりとあまりかかわらない方向で行こうと決意すればあれ良いのかとエンバーに耳打ちされるも


「ああ見えて二人の子持ちだから見て見ない振りするのが最大の防衛だぞ」


巻き込まれるのは目に見えているが、そんな返しにエンバーは呆れたと溜息を吐いて


「とりあえず家が決まるまで安心して休める宿に案内しよう。

 それと俺の家と、おい、クローム!

 雌黄の剣に案内しろ!行くぞ!」


鼻の下を伸ばしているクロームも既婚者だったが既に妻を失っている。

子供もおらず、雌黄の剣が我が家我が子だ。


「めんどくさい展開になりそうだなぁ」


エンバーの呟きに盛大に頷きながら


「ルゥ姉が絡んだ時点でそんなの決定だよ」


諦めきった俺の言葉にお前も苦労するなと出会って一時間もしない相手から同情を貰う羽目になった。





ブックマークありがとうございます!

のんびりお付き合いください。

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