砂の国ロンサール
ロンサール国編はいります。
ロンサール国はハウオルティアの東南に位置する小さな国だった。
フリュゲールのような大きな森はない緑豊かな草原の国だったとルーティアは言っていた。
だけどだ。
長い船旅を終えて降り立った先は最低限の設備しかない港町でさえ半分砂漠に呑みこまれかけた見渡す限り砂漠の国だった。
人の影もまばらで、この辺りの人達は国境近くに在ると言う森の方から通っていると言う。
やがて砂漠に沈む太陽という神秘的な光景を眺め
「船で集めた情報の通り本当に何もない国ですね」
全身を覆うような大きなマントを頭からかぶり目元以外はすべて隠すルゥ姉だが、メリハリのある悩ましいボディをより際立たせるだけの効果となり、船で知り合った男達は名残惜しそうに再会の約束をするのだった。
とても二人の子持ちの姿でもする事でもねーよなと心の中で突っ込みつつも、しっかりと路銀を稼いだルゥ姉はホクホク顔で船で魔導通信機なる物で執事に予約させておいた馬車へと乗り込むのだった。
ハウオルティアを出てきた頃の初々しさはもうどこにもないなとさすがおっかさんと心の中で褒め称えながら遥か先に在ると言うこの国唯一の人が住むと言う王都はいくら目を凝らしてもどこにも見えない。
「ほんとにこの先に王都ってあるの?」
「わふぅ」
俺もフードつきのローブを頭からすっぽりとかぶり傍目には怪しい人になっている。
と言うか、ここで降りた人すべて似たような恰好なので怪しい集団にしか見えない。
足元にはフリュゲールから一緒についてきたシルバーがこの何もない港町にすでに退屈しているようだった。
「お客さんロンサール国は初めてかね?」
「ええ、王都に凄い魔法使いがいるとお聞きしましてぜひ弟子入りしたく訪問してきました」
「王都の凄い魔法使いって言うとガーネットか。
あれは凄いを通り越してぶっ飛んでるぞ」
げらげらと男は笑う。あまり品は良くない物の育ちの問題だけで犯罪的な暗さはどこにもない。
「この国を救った英雄だ。かなり変わりもんだが、弟子になれなくても側に居るだけで勉強になる変人さ」
護衛二人と馭者が付いた馬車はそれなりに揺れるものの座席もそのまま眠れる広く居心地のよい物。揺れの程度は少し問題な程度だけどね。
船を下りて手続きを完了してくれた執事さんがもし何か困った時はロンサール国のギルド所属を信頼すると安心だと教えてくれた。
もっとも馭者を含めてあまり愛想は良くない物の何度も磁石だろうか何も目印のない風景の中確認しながら馬車を走らせるあたり信頼はしてもいいと思う。
もっともハウオルティアを出る時に一度はでに失敗しているからいつでも攻撃態勢に入れるようにしているけど。
「魔法は使えるので魔物が出た折には我々も戦力として数えてもらっても構いませんよ?」
と、半分脅しもかけていたが……そこまで心配はないだろう。
俺達を狙ってるとするのなら俺達の情報を聞きたがるだろうが、この三人にはそう言った所は全く見当たらない。けどまだ要注意だ。
俺の警戒何て全く信用せずにルーティアは背後の護衛の人と小さな窓を開けて情報を聞きだしていた。
「変人ですか?」
「ああ、何でも酒を飲みたくて店を始めたのに魔獣大暴走だろ?
いつの間にか託児所になった挙句ギルドを立ち上げたんだ。
今ではこの国のギルド長となって、この国の女王でさえ頭を下げる存在だ」
「それは……凄いですね」
つい先日まで王様を顎で使っていた人物の演技力は呆れるほど見事な物だった。
それから男達はロンサール初めての俺達にこの国の事を教えてくれる。
大体が船で仕入れてこれた話ばかりだが、多少自国の事は盛りたい話がいくつかあるのが定番だが、そのうち一つがとんでもない規模の真実だと疑わずにはいられなかった。
港からの王都へ向かう事三日目。
後半日と言う所で朝を迎え、フリュゲールよりも陽射しも気温の厳しいロンサールでは真昼間にこの砂漠と言う名の荒野を突き進むのは無謀なので夜を待つと言う事になった。
一人が魔物避けの魔法薬を撒き、一人が食事を作り、一人が護衛として周囲を警戒するという仕事ぶりを見ながらルーティアはわずかな小高い丘のような場所から遥か遠く見える街の明かりを睨みつけていた。
「ルーティアさんよ、そんなに睨み付けなくても王都は逃げないっすよ」
護衛の男が丘の上に登りルーティアと一緒の方角を見る。
「いえ、貴方達の馬車と護衛を信頼しているのでそこは焦ってません。
が、この規模には呆れるしかないと言う物でしょう」
見渡す限りの荒野。
風に表面を削り取られて出来た砂漠。
人はもちろん魔物さえ暮らす事の厳しいこの国では魔物もこの荒野を足で突っ切る真似はしないと言う。
「まぁ、ガーネットなら何でもありだけどよ」
「どうすればこんな風景を作れるのか……」
「ああ?そんなの魔法で一発ドカンとできあがりっとさ」
一瞬の出来事さと言う男はその場に居た者の感想だった。
「王都に結界を張ってその真上に火炎系の魔法を落せば王都中心に熱で魔獣大暴走の魔物を殺して爆風で魔物どころか周囲の地面事薙ぎ払ってこの通り。
一見近くに見えてもこの国の飛行系の魔物でさえ一晩ではこの荒野は渡りきれない距離がある。
もっとも人間と馬でもそうだが、俺達ギルドの間じゃ協力し合って、たとえば此処みたいな天然の要塞のようなセーフティーポイントを共有してるのさ。
もちろん信頼度によって所持できるポイントが違ってくる。
この国じゃその数でギルドの信頼度を見るのさ」
「船旅の間でもギルドを信頼しろと言われましたが、なるほど。そう言った細かい所がポイントですね。闇雲に信頼すると危険でしたね」
「ああ、ガーネットが作ったギルド紅緋の翼は実質ロンサールのナンバーワンギルドだ。
ただし、魔物討伐専門のギルドだから、あんたらみたいな細腕じゃあどうだかなぁ」
女性としてではなく魔術師として腕を見ているようだが
「それこそ望む所。
私達に欲しいのはどのような魔物ですら屠るだけの力と心ですので」
「それはそれは。
まぁ、紅緋の翼に行きたいのは判るけど、もし断られるようだったら雌黄の剣って言う所もお薦めだよ。
来るもの拒まずが売りだが、適材適所に振り分けるからちゃんと戦闘要員として入ればそう振り分けてくれるさ。
それにマスターのクローム・フロスは……」
「ロンサール国元第二王子。
確かに信頼が服を着てるようなものですね」
「勉強はして来たみたいだな。
クロームさんはガーネットとも仲が良い。
良く一緒に討伐に出かけているから知り合える確率も上がるし、そこから移籍の話しにもつながる」
「やけに親切ですね」
「なーに、もし俺達が必要になったらギルド仙斎の風をご指名してくれればいいさ。
おまけに人に進めてもらえるとありがたいが?」
「その程度。
知り合いもいないこの国なので心に留めておきましょう」
顧客集めだったようで何気に話を聞いていた俺さえもほっとしておく。
「それにここで下手に戦闘になれば貴重なポイントを魔物に気づかれて乗っ取られる。
それだけは勘弁してほしいから、この荒野の怖さを知る者達は下世話なつまらん仕事はしないのさ」
「おやおや、警戒してるのが丸わかりでしたか?」
「女子供の旅ならそのくらいの警戒心は持っててほしい物さ。
殺戮王の国から逃げてきたのなら警戒心は半端ないだろうが、この国も貧困に見舞われているから、警戒に警戒は越した物じゃねえって……
ねーさん、この手は何だ?」
ルーティアが男の手首を握りしめて険しい顔をしていた。
男の警戒する声に準備と警護をしていた男達も集まってくる。
かく言う俺さえ眉間にしわを寄せて男を眺めていた。
全員が集まった所でルーティアは男の手を放し
「少しおしゃべりしましょう。
お聞きしたいのですが、殺戮王とは一体どなたの事をおっしゃってるのですか?」
強張ったルーティアの声に男達はそんなのと切り出し
「フリュゲールの新しい王様の事に決まってるだろう」
「50万の人間を殺して国を乗っ取った魔物使いの王様」
「なんでも破壊と殺戮と恐怖で国を統一してるって噂だ」
男達の厳しい声に俺はもちろんルーティアも力なくその言葉に耳を傾ける。
「何か違ったか?」
それが世界共通の認識だと言う男にルーティアは地面が抉れ、その上に岩が折り重なって屋根となった自然の要塞の中で焚いた焚火の方に向い男に飲み物を所望する。
微妙な空気の中で全員の手に暖かな紅茶が渡れば
「我々がフリュゲール国から来たのはご存じだと思います」
「ああ、依頼主から聞いていたからな」
「私達はハウオルティアから脱出し、ブルトランの手から逃げるさなか偶然居合わせたフリュゲール王に保護をしていただきました」
偶然ではないが真実を簡単に語るほどの優しさは持ち合わせてないらしい。
三人の男は驚きに目を見開いていたが
「フリュゲール王のした事は消して良い戦術とは言えません。
フリュゲール王はその事についても今も心を痛めておいでです。
ですが、双方合わせて50万の敵を1人で挑むならそれぐらいの力を持って殲滅しなければ戦争は止まらなかったでしょう。
ちなみに実際にはガーランド兵35万人が両国が確認した公式記録です。
その後のいざこざだったりで追加があっても一万には上りませんでしょう。
尾ひれの付きすぎです。
国を乗っ取ったと言いましたが、本人は王様になるつもりもなく、気付いたら祭り上げられていたと言うのが正しいでしょう。
もっともこれは忘れないでください。
フリュゲール王こそフリュゲール国が成った時の正当な血統を持つお方。
千年の時を経てフリュゲール国の精霊を連れて帰還された真実の王です。
それに魔物使いとおっしゃいますが、フリュゲール国には魔物が居ないのはこの大陸共通の認識では?
あの方が連れておられるのは精霊とその下僕。
このシルバーを含めてあの国は妖精の国ですよ?
魔物使いとはとんだ笑い話ですね」
そこまで言い切ってルーティアは紅茶を飲み、少し薄いですねと文句をつけた。
男共はあっけにとられるもすぐに真実は受け入る事が出来ない。
「脱出したと貴方達は認識してるようですが、船の手配も総て我々の旅を案じてフリュゲール王が裏で指示をしてくださったもの。
貴方達は実際フリュゲール国を見た事ないでしょう?
かつてのハウオルティアはもちろん、今ならひょっとしたらウィスタリアよりも活気のある国でしょう。
ガーランドとも和解をし、周知の認識ではフリュゲールの支配下となってますが、フリュゲールの支援が在ってようやく新規の産業の発展と独立と言う希望が見えてきた所です。
両国の王同士も時折遊びに行ったり来たりとそれは仲睦まじく、弟も良く巻き込まれてよく連れ出されてました」
三人の驚きに見開いた目が俺を見る。
男に見つめられてもうれしくもない。
「情報に踊らされるのも結構ですが、自分の目で見て、自分の耳で聞いた話以外に振り回されるとは、ギルドとはずいぶん滑稽な組織ですね」
皮肉を込めてルーティアは立ち上がる。
「ディック、お気をつけなさい。
この方は恩あるフリュゲール王に悪意を持つ方達。
最大限に警戒しなさい」
そう言ってルーティアは馬車へと動きやすい服に着替えてきますと行ってしまった。
俺もシルバーを抱き上げ
「おっさん達に今すぐに真実に気付けって言うのは難しいけど、あの王様は国ではすげー人気があるんだ。
ルーティアも言った通り、戦術も破壊した規模も桁外れかもしれないけど、それでも守りたかった人達を守るために選んだ戦法なんだ。
12歳のガキだったあいつがただ必死で、それだけだったんだ。
ガーネットだっけ?
他所から来た俺が言うのもなんだが魔獣大暴走があったとはいえこんな人の住めない国を作り上げておいてあんたらはそいつを英雄って呼ぶんだろ?
俺には国の為とか残り少ない生き残った人の為とかで魔法でこんな陸の孤島を作り上げた女と差が判らないんだけど……」
ルーティアの居る馬車を守るつもりではないが、大きな車輪に背中を預けてシルバーを放す。
警戒は頼むぞと天然の要塞が作る影の中でうとうととして目を瞑る。
男達は何か言いたげな顔をしていたが、暫くしたのちまた三人は仕事へと戻って行った。
夜を迎え、朝の一件から居心地の悪いまままた出発をする事になった。
最低限の会話のみの胃が痛くなる環境だったが、とりあえずロンサール唯一の街へ向かうしかない。
救いはこの三人がビジネスストライクで寝る前に起きたあの一件をどう思おうが知らないが、俺達をちゃんと王都まで運んでくれた。
ルーティアは成功報酬として乗る前に渡した金額と同額の残りの金額を渡して俺達は社交辞令の別れをすれば、男達はどこか気まずそうに
「恩人の悪口を言って悪かった。
言われてみればあんたらの言う言葉は正しくて、でも俺達にはガーネットこそ英雄なんだ。
つまりそう言う事だ」
「俺達あれから話をして金がたまったら一度フリュゲールを見に行ってみようかって話をしたんだ。
旅費がちょっと高いけど、あんたらの身なりや、フリュゲールからの他の客を見ればわかる。
ブルトランや他の南方諸国と比べるとずっと裕福で、港での仕事も丁寧だからさ……」
「俺達噂と真実を見極めようって、まだ目標だな。
俺達のギルドはこのたった三人と相棒の馬二頭だけの小さなギルドだから。
でも手が届かない目標でもない」
三人は顔をあげて笑う。
「これからも仙斎の風をよろしく」
それだけを言って去って行ってしまった。
顔を真っ赤にして謝罪を下あたりガラでもない事をやって照れているのだろうが
「せめてガーネットの所まで送って下さればいいのに。
気の利かない人達ですね」
ルーティアの評価は低かった。
が、まあ悪くはないって所だろう。
既に新たな客を見つけてまた港へと向かおうとしているあたり、そこそこ営業も上手く行っている小規模ながらもギルド仙斎の風、馬車の運転は雑だけど堅実なギルドだったのだろう。
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