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思い出は山のような宝となって

ラトリオ達が帰路へとつき、次第に窓から差し込む朝日に室内も明るくなっていく。

寝ぼけているユキトにアウリールがお茶を入れた後にまた姿を隠し、暫くもしないうちに朝食を持ってきてくれたトリアが家にやって来た。

その手には焼き立てのパンとポタージュ、サラダとフルーツにソーセージがあった。

素晴らしい事にこのソーセージはハーブの何とも言えない香りと程よい塩分にユキトの世界を思い出してしまい、思わず涙ぐんで食べていればレツがそっと俺のプレートにソーセージを置いてくれた。


「昨日の子、ラトリオは?」


自分でレツの家の台所を使て紅茶を入れれば座って食事の相手をしてくれる。

やっぱり孤食じゃ味気ないと言うようにレツの戸棚からフルーツのシロップ漬けを摘まみながら昨夜の様子を聞く。

知り合って間もない子を泊めたのを遠回しに良しとしてない当然な主張の彼女に


「今朝日の出と共に行ったよ。

 マルシェに薬草の買い出しに行って帰るって」

「まぁ、何も問題なく済んだから良かったものの、何かあったらどうするつもりなんだい?」


窘める言葉に肩をすくめるトリアにレツは


「その時はその時だ。僕だって考えるよ。

 それよりも今度彼女が来た時石を見たいって言ったら鍵を貸してあげて。

 石を見せる約束したからお願いね?」


言いながらもレツにそれは一体どういう事だと少し険しい顔をするトリアに青色の紐で作った耳飾りと依頼されていた物をはいと渡す。

小さな石に穴をあけたこの家ではおなじみの物に昨日覚えたばかりの細く編んだ紐で何か船のロープ結びみたいなものだった。


「すごいでしょ!ユキトに紐の編み方教えてもらったんだ!」


嬉しそうに説明するレツだがトリアは俺をじろりと見て説明を求められる。


「ほら、友達との思い出づくりのプレゼントの奴。

 レツにも編み方幾つか教えたんだが……想像以上の事態になったんだ」


何が?と言いながらも耳飾りをレツの物へと付け替えていく当たり嬉しそうな顔を隠せない辺りそうとうレツに毒されていると思う。

どこの国でもレツの保護者は過保護すぎると心の中から盛大に文句を言っておく。

レツは持ってきてもらった朝食を見てお茶を淹れに台所へと向かうのを笑顔で見送ったままトリアに


「その紐、ドラゴンの鬣って知ってた?」

「ああ、着けてみて気づいた。

 一体どこで入手したんだか……」

「家の近くで拾ったんだと……」

「待て、確かに何年か前ドラゴンが東に向かって飛んで行ったと言う報告は聞いているが……」

「そこらへんに落ちている物か?」

「ワイバーン程度ならたまに駆除依頼が来るが、あいつらはもっと束子みたいな鬣だからな……

 とりあえず報告ありがとう……」


そう言ってまた対策考えないとと頭が痛そうにふらふらとした足取りで店に戻って行くのを見送った。

代わりにやってきたレツにトリアは?と聞かれるも店に戻って行ったと答えておく。

少し刺激が強過ぎたかと今も足下でこの会話を聞いているだろうアウリールに少しは自嘲しろと言いたい。いや、それはレツにだろうか。

どちらにしてもレツの取引相手がトリアだとだけと言うのは正直ありがたかった。

それからも俺は黙々と昨日の作業の続きをして、レツに昼食に連れ出されるもすぐに戻って残り少ない時間の間ずっと紐を編み続け、陽が傾き出した頃レツにここでの作業の終わりを告げられた。

困った顔のレツは手早く荷物を纏め俺のキリが付いた所で


「みんな待ってるから帰ろう」


部屋の鎧戸まで閉じた所でアウリールも待機していた。

レツは怒ってない物のさすがに我が儘すぎてごめんと謝りれば頭を撫でてくれた。


「戻ればまだ時間はある。休憩も必要だよ」


言われて体が随分と強張っている事に気づいた。

指摘されるまで気づかないほどに夢中になっていた俺は未熟ゆえの恥かしさから頬をひっかいていれば


「急いで帰ろう!ご飯が無くなっちゃうよ!」


引っ張られた手で家の外に出され、鍵を閉めるのを待ってアウリールが光に溶ける。

軽い一瞬の浮遊感の後に見た光景はウィスタリアの城を遥か上空から眺める景色。

レツ改めランは落ちないようにと言って俺事アウリールの鬣の中に潜り込む。

うん。これなら鬣が引っこ抜けても仕方がないなと程よく暖かなそ龍毛(?)100%に包まりながら緩やかな眠りを覚えながらフリュゲールへと戻るのだった。


一日留守にしただけだったのに随分とオルトルートも懐かしく感じる中アウリールは城の天辺から光に溶けながら出発した一階のフロアに居た。

俺達は少しアウリールの鬣の中の暖かさにうとうとしていたせいか何度も欠伸が零していれば


「ようやくお帰りか」


ブレッドが待っていたと言わんばかりに待ち構えていた。


「ただいま!」

「秘密基地はどうだった?」

「今回はお客様をお招きしたんだ。

 ちゃんとできたよ」


何処か自慢げに言うランに少し遅れてやって来たジルが苦笑を零す。


「おやおや、それはなかなか大変でしたね。

 お茶の用意にお菓子もお出しできました?」

「あー、それは先生がちゃんとやってくれたよ……」


おもてなしとしてはまだまだ課題が残ると言う所だろうか。


「で、お客様ってどんな人だい?

 可愛い女の子だったとか」

「あー……可愛いって言うか可愛かったんだけどちょっと変わってるって言った方がいいかも。

 プリスティアから来た魔道具作ってたり魔法薬作ってる子なんだ。

 ラトリオ・クリュヴラータだっけ?

 あと、ラトリオと一緒に騎士様もいた。エリアス何とかさん。

 ラトリオの事お嬢様って呼んでたんだ」


あんまりお嬢様らしくないけどねと付け加えるがブレッドやアルト、そしてジル辺りはどういう人物かトリア同様知っているのだろう。

突き抜けた空を見れる天井を眺め途方に暮れていた。


「どういう子か知ってる?」


かなり古い王族の末裔だと言うのはトリアの説明で知ってはいたが、三人の反応からだとそれだけではないようだ。


「今プリスティアはお家騒動の真っただ中でして……」

「現存する王族は総て血が途絶えてしまっているんだ。

 もちろんこれは一部にしか知られてない機密中の機密だが……」

「つまり現王族は王族でも何でもないわけ。

 世間に知られる前に古く由緒正しい血縁を現王族に混ぜて王にしようとしてるんだが、クリュヴラータ家が初代王の姉の血を引く一番の濃い血統になるわけだ。

 しかもラトリオだったか?

 彼女と祖父が居たか。

 その血ももう二人だけだと言って、現王族の三人の息子と婚約した話を聞いた」

「あー、つまり……政略結婚?」

「長男次男は確か同じ年で、二人とも彼女と同じくらいの子供がいたはずだが?」

「はい。長男次男は正妻、妾共に離縁なされたと報告が上がってます」

「は、はんぱねーな」

「何を言ってるのです。

 これが王族に求められる血の証明なのですから当然です」


ルゥ姉もやってきて俺達を見上げ


「貴方がたもいつまでもふらふら遊んでおらず、子供の一ダースや二ダース揃えてごらんなさい。

 瞬く間に血縁断絶なんてなくなりますよ」

「いや、それ無理だから」


即答で答えるも俺を無視してブレッドにもあなたも同様ですよと被害が広がっていた。


「プリスティアの事は私も聞いてます。

こちらに来る直前にクリュヴラータ家の話題をよく聞くようになりました。

 なんでもクリュヴラータのお嬢様はずいぶんと幻獣と仲がよろしいようで、度々幻獣の召喚があったと間者からの報告を聞いています」

「おお、召喚士ジョブがあるのか」

「妖精を含めた幻獣はあまり人と契約したがらないと聞きましたが、彼女はその古い血を持って契約してるのではないかと予測してますが……」


フリュゲールに来てからはこの知識を少し改めようと思いましたと言うルゥ姉の視線の先にはアウリールが面白くもなさそうな顔をして


「プリスティアにもフリューゲルと同列の精霊が居て、その精霊が幻獣界を管理している。

 もっとも精霊一体が管理するには荷が重すぎて、彼女は維持だけで限界であまり動けないと聞く。

 確かヴェラートと同じくらいのドラゴンが侍っていたはずだから、あれが手助けしているのだろう。

 もっとも精霊の負担を一部引き受けているからあれもあまり身動きできそうもないがな」


精霊側の事情を知ってるアウリールの説明はあまりよくわからなかったが、プリスティアを支えると同時に幻獣界も支えていると言う精霊の凄さにランの頭の上にちょこんと座っているシュネルを見上げ


「シュネルは幻獣界についてどう思ってるんだよ?」


今後の事で参考に聞かせろと聞けば


「我々6体がそろえば大して負担はない物だが、我々は身勝手な生き物だ。

 幻獣を我が子同然と育むプリス、精霊王が見せてくれたこの世界に魅入られた私、未だに精霊王のそばに子供のように侍ったままの残りの四人。

 アウリール達は私の意志に賛同してついてきてくれたが、この世界では幻獣が生きるのは少し難しい。

 この私の加護の下なら少しも苦にもならないが、やはり人と言う生き物を臆病な幻獣達は恐れて幻獣界から出ようとしない。

 いっその事幻獣界など滅んで精霊界と人間界に振り分けてしまえばいいと思っている」

「何か残酷な選択だな」


ランの口を借りて話すシュネルに他に選択はないのかよと聞けば


「そもそも幻獣界とは精霊王が人間界を作り出したのをプリスが真似して作った世界。

 身の程をわきまえろとあれだけ忠告したにもかかわらず始めてしまった物を今更止める事を幻獣達は許さないだろう。

 おまけにプリスも困った奴でな……

 我々の話しを一行と聞かない性分でな」


自分の主張しか通さないめんどくさい奴なんだと纏めた。


「まぁ、どうなるか見守るしかない」


と言ってシュネルはぴゅるると鳴いて最上階へと向かって飛んで行ってしまった。


「まぁ、我々も何かあるまでプリスティアの事は保留にしておこう。

 それとラトリオだったな。

 彼女とも彼女の婚姻話が落ち着くまであまり接触するな」

「なんで?」


コテンと首をかしげるランにブレッドは溜息を吐く。


「お前の顔はその王族の長男次男に顔がばれている。

 お披露目の時に合ってるからな。

 こんな複雑な時に隣国ではなくても王族同士が出会って何か有ってみろ。

 めんどくさい事になるぞ」


ナチュラルに女の子をひっかけてしまう体質のランに俺はぼそりと呟いてしまう。

時すでに遅しと。

聞き取ったか聞きとらなかったかは聞かないが一瞬落ちた沈黙に誰もが顔を合わせずに歩き出す。


「では参りましょう」


華麗にこの場を無かったことにしたルゥ姉が歩き出せばランはブレッドの隣に並び


「準備は?」

「ばっちり。ランがディータを連れ出してくれて助かったよ」

「やったね」


くるりと振り向いて後ろを歩いていたジルとアルトとハイタッチ。

難しい話を吹き飛ばすようなランのあかるい声に俺が小首を傾げていればついて行った先は玉座の間もある東の外郭。

東南の外郭には迎賓館だとか外交の場としてあるが、東は王族の祭典の場と決めている。その東の外郭へと入るのだ。

一体何があるのかと思えば通された部屋には料理を並べた机がずらりと並び、騎士団の制服を着たままの人から軍隊の制服を着たままの人達はもちろん元老院のローブをまとった人達も当然混ざっていて、アデル達はもちろんなんか、隣国の王様にそっくりの人も居る気がする。

見間違いじゃないよね?どうして?なんていう背後にはきちんとゼゼット隊長が控えているあたり警備は万全と言った所だろうか。否、そうじゃなくってさ……

もう何から突っ込んでいいかわからないよと学院の生徒さん達も一軍となって部屋の一角の若さを主張していた。

あまりの多い人に呆然として何の集りだときっと頭の中でわかっているはずなのに受け止めきれなくて立ちすくんでいればランが玉座へ向かう階段をひょいひょいと俺の手を繋いで駆け上がり


「今仕事中の人も任務中の人もそうでない人も僕の呼びかけにこの忙しい時間に集まってくれてありがとう!」


簡単な挨拶にそれはいいのかと心の中の俺でなくて思わず突っ込んでしまうもランは笑顔のまま


「これだけの人に呼び掛けようとしたらそんな事にこだわれないよ」


何て少しだけ真面目な声でどうと言う事ないと返されてしまった。


「みんなもすっかり顔なじみになっているディータとルーティアがもうすぐ旅立つのは知っていると思う」


何処か悲しげな声にざわついていた室内が途端に静かになった。

たった二人でハウオルティアを飲み込んだブルトランに立ち向かう意味はただ一つ。

誰もが息を殺してランの次の言葉を待つも、彼は毅然と頭を上げて言い放った。


「かつて僕もガーランドとフリュゲールに戦いを挑んだ事がある。

 35万の命と引き換えに守りたかったのはほんの僅かな、両手で抱きしめられるぐらいの……もうちょっと多いけど。

 数で比べればほんのわずかな大切な人を守りたかった戦いだった。

 結果はみんな知ってる通り語るまでもないだろう。

 戦争とは所詮身勝手な暴力だ。

 相手の事を知らずに戦いに出され、何が起きてるかわからないまま殺されてしまう理解できない行動だ。

 二人はこれから代えがたい大切な約束を果たす為に旅立とうとしている。

 もう旅は既に始まっててこの旅を降りろと僕からは言えない。

 二人は既に抱えきれないほどの代償を受けとっているのだから。

 だけどみんなも知っている通り、二人のこのフリュゲールでの生活は常に未来を目指していた!未来に溢れていた!

 僕はそんな二人に未来を勝ち取って貰う為に彼らの保護をした。

 もちろんいくらかは下心があったけど、無償でと思われて警戒されるよりも正当な取引と割り切ってもらう方が納得もしてもらえると思った。

 だから僕は決めた。

 もし二人がブルグランドの王の前に立つ事が出来た時は僕は僕の持ち得る力の総てを使って二人にブルグランド王との直接対決の場を作ると。

 その為にはきっとみんなの力も必要となる。

 もちろん結果は判らないし、その後のブルグラントとの関係もどうなるかなんてわからない。

 だけどまた再会する為に、またこうやって集まれる日を僕は望む。

 今日はその為にみんなに集まってもらった。

 ひょっとしたらこれは都合のいい夢のような話かもしれない。

 だけどこの夢の続きをまたみんなで見ようと約束したい!

 この夢の続きをみんなでまた見よう!」


そう言ってジルが持って来たグラスを高く掲げればみんな一斉にグラスを掲げて涙混じりの乾杯となった。

アルトの胸で涙を流すルーティアの為にはげますように勢いよく奏でだす楽団の音楽。

隊服ではなくドレスを着飾った女の子は今日はこれが隊服だとドレスの裾を翻して知り合いの手を取り踊りだせば、珍しくブレッドがダンスを片っ端から女の子に申込み、ジルもヤローからのダンスをなるべく避けつつも部下という名の親衛隊の皆さんとは踊り続けていた。女顔でもないのに美形と言うのはこんなシーンでも不憫だ。

ルーティアもアルトを始めとしてブルクハルトを筆頭に元老院の皆さん、声を掛けたくても声を掛けれなかった騎士団の軍隊の皆さんを相手にダンスを踊りに踊りまくる。

小さな子供達もルーティアに踊ってもらって既に玉座のそばで眠りかかっている。こんな大きな音の中でも寝れるとは逞しいと未だに母親とは名乗らないルゥ姉が微笑んでいるのが印象だった。

かくいう俺は何故かランを筆頭に学院のみんなに男女関係なくも申し込まれて一生分踊ったと笑い声を上げるしかない。

ちゃっかり子供達にもアルコールが振舞われ、謎の笑い声が響いているもののみんな見てみないふりをする。

交代時間になってやってきた後半組も容赦なくダンスを申し込んでくる。

楽団の皆様も途中からダンス要因となり、代わりに音楽の経験がある人が混ざって大層雑音の雑じる音楽になっていた。

だけどコルネリウスもランと踊りながらこの陽気な空気の中、年相応に声を上げて笑い、ちゃっかり混ざってるフェルスも女の子達の腰を抱き寄せて踊っている。

よく見ればみんな知った顔だった。

言葉を交わした事が無くてもどれも知っている顔ばかりで、それだけの関係なのに旅の無事を祈ってくれた。

なじみのある人はダンスの合間に服のポケットに旅の途中のお小遣いだとかお守りだとか何かを理由に色々とねじ込んできた。

こんなにも深い付き合いと言うのをした事が無く、自ら心を閉ざしてなかなか友人に恵まれなかったのにここに来てこんなにも友と呼びたい人に恵まれていた事を教えつけられて、ちょうどダンスのパートナーを変えようとしたランを捕まえて抱き着いてしまう。

泣きついてしまうと言っても間違いではない。

珍しく息を切らしていたランはこんな俺に一瞬驚いた顔を見せるも何も言わずに俺を抱き返して、賑やかな音楽の中俺をあやすように踊るのだった。


夜は更けて次第に閑散となっていく。

学院生は既に帰らされ、明日休みの皆様と、酔っ払って休んでいる人が壁際を飾っていた。うん。綺麗とは言い難い光景だ。

楽隊の皆様もそろそろお開きの音楽を奏で、泣き続けていた俺はランに手を引っ張られて二人玉座の裏の間であれからずっと隠れていた。

ルゥ姉、アルトはどこに行ったか大体想像つくが、ブレッドは飲んで踊って気持ち悪いと俺達が来た時にはすでにここで隠れて潰れていた。

玉座の裏に隠れるなんて考える奴いないと思ったらちゃっかりとこの国の重鎮はもぐりこんでいるのだから呆れるしかない。

ジルは最後までこのお別れ会の指揮をテキパキと指示しているようで隙間からちらりと見れば救護班に酔いつぶれた一行を運び出し、あれだけの大量の食事と酒はほぼなくなっているらしくそれを片付けさせ、明かりを薄暗くするようにと指示をし、楽隊の人達にもお疲れさまと挨拶をしているようだった。

出来る人だとは判っていたがこれほどまでとは驚かずにはいられない。

アルトとブレッドの無能ぶりにしっかりするしかない人は今もきびきびと歩いて俺達の所にやって来た。

水差しをもってやって来たかと思えばブレッドの口に懐から取り出した薬を無理やり口の中に入れて水を飲ませ


「まずい……」

「薬とは二度と厄介になりたくならない様にまずくできている物なんですよ」

「確かに、二度とこんな無謀な事したくねえ……」


酒を飲みながら踊るなんて無謀過ぎたと言いつつもまた床に寝転び唸っていた。

だけど暫くするうちに唸り声はなくなり静かな寝息に変って行く。


「また後で回収に来ますね」


俺達二人の頭をなでなでと撫でてから水差しを置いてまた救護班と合流していく後姿に尊敬してしまうのは仕方がない。

国の重要施設はと言えば玉座の間と上がるくらい重要度が高い場所でこんな階級問わずのパーティーをしたのだ。

たぶんフリュゲールの歴史に残ってもいいくらいのゲロパーティーだろう。

玉座の間であってはならない光景だ。

シュネルも大泣きだろう。

アルコール入れてのダンスはいろいろ危険と言うのを身を持って誰もが知った。

知っていたかもしれないが改めて思い知らされた。

当分はないだろうなと思ってはいるが、これも良い思い出となるだろう。

というか、無事再会となったらこの夜を再びなのだろうか?

再度こそーっと広間の様子を見れば更なる惨劇。

残りの料理を平らげる楽団の方達に絡むお姉さま方。

普段出会わない形の方達に肉食のお姉さま方は楽器片手の楽団の方々をお持ち帰ると言う暴挙に楽団の方々のちょっと嬉しそうな悲鳴が木霊している。

その木霊にさらにお姉さま方はやる気を出したようで……ここからは見なかった事にしよう。

どう見ても奥さんいそうな方や子供がいる方も持ち帰られて……あ、ジルも巻き込まれた。

無事帰ってこいよとエールを送りつつ明日の事なんて知らねえと視線を逸らせた。

周囲もだいぶ静かになりいつまでもここに居ても仕方がないと泣き腫らした目のままブレッドを二人で両肩を支えて引きづりながら内郭へと入って行き、あまり入った事はないけど本が山ほど並ぶブレッドの部屋のベットに放り込めばかわいそうな事にランが抱き枕要因として抱え込まれ、酒臭い!助けて!と必死に手を伸ばす様子を笑顔でお休みと挨拶をして俺は自分の部屋に戻る。

静かな室内。

さっきまでの騒がしさとは縁のない静けさに俺は定位置となった机の椅子に座る。

相変らずここがホームポジションで、ほんわりと暖かな明かりを発する広い室内を眺める。

部屋には鞄一つから始まった旅からこの四年ほど過ごした物であふれていた。

この成長目まぐるしい時期に与えられた服から、ブレッドから読めと押し付けられた本。ランが持ち込んだおやつの空き瓶から森の中で拾ってきた何かの木。抽斗の中にはどうして持ち帰ったのか記念のただの石とかドヴォーの毛玉とか何かの種とか使いかけの蝋燭とか……

あれ?

何かデジャブが……

思い出すのは記憶が甦った頃のリーディックの部屋。

机の引き出しに詰め込まれた謎のガラクタの数々。

ぽいっと捨ててしまったけど、今こうやって謎のガラクタを見てはその時その時の思い出を思い出し、苦い思いが広がる。

あの広い屋敷が世界の総てだったリーディックの思い出を俺は気にも留めずに何も考えずガラクタと決めて捨ててしまった。

だけどこうやって室内に並ぶガラクタの数々は間違いなく思い出の詰まった宝物で……


「捨てれるわけないよな……」


船で初めて出会った時にもらったビー玉のような飴の詰まったキャンディーの瓶。

木の棒をタクト代わりに振るいながら歌を歌いながら歩いた森の道。

ノヴァエスの国境に近い川で水切りをして遊んだ石。

ドヴォーの毛刈りでプードルカットを披露した折りの服に引っ付いてきた綿毛。

他にも連れてってもらった森で作った押し花や既に枯れてしまった花輪のドライフラワー、森で見つけた蔦で作ったリースだったり、鍵編みが主流だったためにあまり知られてなかった棒編みを披露した時の編み棒だったり、何事も夢中になりやすいフリュゲール人の知識欲を満たすために色々と試行錯誤の原因となった俺の試作品の山々だったり……


「捨てれねえよ……」


どれも思い出の詰まった宝物だ。

リーディックは何を思ってあの時の俺を見ていたかなんて今では知る事が出来ない。

だけどその思いの欠片ぐらいには触れたと思う。

これらを総て置いていかなくてはならない旅が始まるのかと思うと、無言で別れを告げるしかないのだから。

優しいランはきっとこの部屋の物を片付ける事もせず一つも捨てずにずっと大切に置いてくれるのだろう。

暫くの間じっと思い出たちを見つめているも、大切に残して貰えるのなら俺がいた証明がそこにずっと残るわけで……

それで十分だ。

なのにたくさんの人に俺がいた証明を残したいと心が訴える。

ああ、だから、手作りのこれを作るようにランは勧めたんだ。

抽斗の中から取り出した作りかけのミサンガを並べる。

既に出来上がっているのもあり、色とりどりの糸が机の上をカラフルに彩る。

深い赤色の石を編み込んだランのミサンガ。

空色の瞳を思い出すような石を編み込んだブレッドのミサンガ。

黄色がかった薄茶の榛色を持つアルトのミサンガ。

銀の髪なんて珍しい色には白乳色の石と白銀色した謎の金属を使ってのジルのミサンガ。

なんだかんだいって船旅からの付き合いのあるブルクハルトさんにも元老院のイメージカラーの青を使ってのミサンガ。

他にも女の子達には可愛らしくピンクを使ってみたり、騎士団の隊室で一緒に仕事をしていた人達には朱色とか、なんだかんだしょっちゅう顔を合わせていた四公八家の人達にも作ってみたり、そして忘れてはいけない我が血のつながらない甥っ子達にもルゥ姉の青を忘れないようにとサファイアの瞳を思い出すような青い石と、紅蓮の魔女と呼ばれた赤い紐で作ったものをそろえて用意する。

時間はまだある。

作れるだけ作ろうと一人夜が更けるのもお構いなしにミサンガを作り続ける。

当然だがウィスタリアとの移動距離とか、前日の寝不足とか、全力疾走のようなパーティーのダンスとか、時々飲み物に紛れ込んでいたアルコールとか。

今夜はさすがにこれ以上は無理なようで、机の上にコテンと頭を乗せてしまう。

あ、昨日の夜もこんな感じだったな・……

当然のように意識は遠くなり、すぐそばに在るベットまで足が運べずに目の前が薄暗くなっていくのだった。

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