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後利益は何でしょう?

ブックマークありがとうございます!

大体週一更新(良い意味でも悪い意味でもここ重要)を目指しているのでよければお付き合いください。

ガエルとカロンはそれを期に自分の工房へと戻って行き今後の相談、顧客の挨拶、材料の購入先への挨拶と紹介を始めると言う。

当分忙しそうだねと言うレツにそれでもレツが来てないかのチェックは変らないさと言うトリアの呆れた言葉にこいつらほんと仕事しているのかと要らん心配をしてしまう。

ガーリンの食堂に食事に来て仕事に戻ったトリアと別れた後はラトリオは思わず食べ過ぎてしまって苦しいと呻きながらレツの家に置きっぱなしの薬草を取りに戻ってきた。


「これから帰るの?」


レツはプリスティアってここからどれぐらいになるのかと聞けば


「いえ、今日はもう暗いですからね。

 宿を探して明日もう一度薬草を探してから戻る事にします」

「宿ならさっきのガーリンの食堂の上が……安全は保障するけど賑やかで寝れるかちょっとわからないけど泊まれるはずだよ?

 あ、そうだ。良かったらここに泊まってかない?

 何か僕が原因で帰るの遅くなっちゃったみたいだし宿代も浮くよ」

「い、いえ!私が勝手に早とちりをして約束の時間を忘れちゃって……」


エリアスにもごめんなさいと言うラトリオに謝らないでくださいと慌てるあたり、本当に大切なお嬢様なんだなと感心してしまう。

二人のやり取りに仲が良いなあと女の子の兄弟が居たらこうなるのかと、俺とルゥ姉の関係を改めて見つめ直すもそこまで可愛がられた覚えはない。

いや、可愛がられているのは理解しているが、意味は180度違う意味で可愛がられていると思っている。

悪い意味じゃないんだけどねと改めて俺達の関係に甘さや優しさは必要ない事を思い出させるも、やっぱり姉でなくて妹だったらと考えは尽きない。

妹ならアルトの所に嫁には行かせないだろう……

何かブレッドとキャラがかぶった気がした。


話が変な方に曲がって行って宿をどうするかと論争に発展した二人を眺めていたレツは二人の手を引っ張って


「誘っておいてもベットも狭いし、部屋もごちゃごちゃしてて申し訳ないんだけど……」


俺も一緒に初めての二階へとついて行けば二つの部屋と屋根裏に続く細い階段があった。

二つの部屋の手前の部屋を開ければ


「ここが僕の部屋だけど寝るだけなら問題ないし、奥にはお客様用の部屋もあるんだ」


こっちの方が綺麗だから女の子のラトリオが使ってと言って奥の部屋を開ければごく普通の2台のベットが並ぶ宿泊施設のような間取りの部屋があった。

あの聖獣が絡んでいる割には普通だと感心する中、ラトリオはレツの部屋を覗いたまま体が動かないと言うように棒立ちになっていた。

確かにごちゃごちゃと何かがあった部屋だったがラトリオの後ろから部屋を改めて覗けば納得した。


「あれも魔石?」

「たぶん。色別に仕分けてないし綺麗に洗ったけど細かな砂もまだ付いてるだろうしね。

 発掘して仕分ける段階なんだ」

「レツ兄、普通そう言うのは一階の水場の近くでやるもんじゃね?」


砂まみれになって部屋が汚れて掃除ばっかしないといけないだろと心の中の俺が盛大に突っ込むも


「水場の近くの部屋はまた別の目的の部屋にしちゃったから……

 それに隣の部屋も誰か来た時の為に綺麗な状態で確保しておきたかったし……」


しょぼんと項垂れるレツ兄の姿になんとなく納得する物の


「で、下の部屋は……」


どうなってるんだ?と聞こうと思ったらラトリオがレツの肩をガシッと掴み、深い森のような瞳は新緑の若葉のようにキラキラと輝やかせて


「お願いがあるの。

 私、今日この部屋に泊まってもいいかな?」


女の子が男の子の部屋に泊まるとはどういう意味かとエリアスの様子をちらりと見れば案の定顔を真っ青にしていた。

良かった。

普通のまともな常識を持ってる人がここに居てとストッパーの確保にほっとしていても話は二人の間で勝手に進む。


「ここでよければ使って。

 僕はユキトと下の工房に居るから。

 だったらエリアスは隣の部屋を使ってね」

「ですが、お嬢様より、その……お客様のお部屋を頂くのは……」

「エアリス気にせずに使って!」


ラトリオの強引さに本当に良いのかとレツを困惑気に見下ろしていたのだがレツの背後からおれが諦めろとゼスチャーを送ればさらに困惑顔。

仕方がなくと提案を受け入れればレツはニコニコとお客様を1人でお招きできたと自信に満ちた笑顔をしている。

というか、女の子に詰め寄られても通常モードのレツの鋼の精神に勿体ねーと呟くのは仕方がないだろう。

と言うか、何をそんなにラトリオを虜にしたんだと改めて部屋の中に入ってよくよく見れば部屋の奥には俺みたいな素人が見ても判るくらいの特上な魔石がごろごろと転がっていた。

下に置いてある物とは比べ物にならないくらいの、そして外から見られたら絶対ドロボーが入りそうなあんたどこの宝石商ですかと言う立派な物が部屋の一角に無造作に転がされているのだから、魔道具を作っている彼女にはここが天国だとその目には映っているのだろう。

再度涎を垂らして女の子らしからぬ笑みをこぼすラトリオの不気味さに距離を取り、とりあえず関わるなとレツを連れ出して部屋のドアを閉める。

エリアスに階下まで来てもらい、トイレや風呂場と言った所から自由に使ってと台所のお茶の場所と軽食の場所、寝るまでに時間を潰したかったらこちらからどうぞと一階の残りの部屋を案内していた。

そこは両壁に本棚を並べ最奥の窓の下にゆったりとしたついごろりと寝転びたくなるソファを置いただけの部屋と言うつくりになっていた。

小さな机には読みかけなのか本が置いてあったり、いつでも使えるようにコップと空の水差しが置いてある。


「なんかブレッドの部屋を思い出すな」

「うん。なんだかんだ言ってブレッドの部屋に一番多く居たからこう言った部屋があると安心するんだ」


天井までびっしりとまでは行かないものの、何とか半分ほどを埋めた本棚の蔵書は童話から物語、事典からよくわからない言葉の本も並んでいる。

適当に集めた感半端ないけど共通して言えるのはどれもとても高級な本と言う物だった。

驚くほど綺麗な紙の表紙だったり、美しい皮を張ったものや、本物の金が飾る本だったり、エリアスと二人であっけにとられていれば


「古本屋のおじさんが言うにはどこかの貴族の家を取り壊した時に買い取った本なんだって。

 これだけ立派だと高価すぎて誰も買わないからって笑ってたけど、ブレッドの部屋でも見た事ない本ばかりだから、いつかここに呼べるようになったら見せてあげたいんだ」


えへへと驚きに見開くブレッドの瞳の瞬間を待ち望む笑みに確かにと頷く。


「さっきから言うブレッドと言うのは?」


エリアスの問いにレツは笑う。


「僕の命の恩人!

 森の中で崖から落ちて気を失ってた僕を助けてくれて、治療してくれて、学院に通わせてくれてる人。

 住む場所も新しい服も用意してくれた無愛想だけど本当に優しい人。

 奴隷だった僕に自由を教えてくれた人なんだ」


レツが元奴隷だけどねと付け加えて言えばエリアスの目が見開く。

奴隷のエリアスはレツの笑顔と明るい声に思わずと言うように息をのみ、そしてさっと視線をそらしていた。

この人もなんか複雑そうな人だなーなんてその大きな背中を眺めながらレツってブレッドの事無愛想って思ってたんだと一緒に過ごして数年目に知った初めての真実にこれは墓場まで持っていくべきかどうかと少しだけ悩んでみた。


「さて、ユキトは工房の方でさっきの続きだよ。時間は限られているんだ。急がなきゃ!

 僕も頼まれてたやつ作らないといけないから、エリアスはお風呂を使って明日に向けて休んでよ」


遠慮しないでねと言いながら俺の手を取って工房へと向かうのを微妙な視線が眺めていたのを俺だけが気付いた。

うん。手だよね。

レツ兄の手を繋ぐ癖、結局出会ってから未だに治らず。

さすがに俺は勘違いしないけど、俺が年下だからとかそう言う次元の話しじゃなくって、未だにブレッドとかアルト、ジルとも俺が出会った頃から変わらず普通に手を繋いで……と言うか、引っ張って歩いているのはよく見る光景だ。

あのブレッドが!あのアルトが!あのジルが!

レツに手を引っ張られてきゃっきゃ、うふふと笑いながら歩いている光景は微妙だ。

初めてみた時でさえ微妙な光景だと思って眺めていたが既に皆様にはおなじみの光景で、もう誰も疑問を持たずに当たり前の事として受け入れている光景に愕然としたのはルゥ姉も同じだったようで。

やがて俺達も仲間入りするのだが、これはこれで懐かれている証拠だと判断している。

俺は閉まった扉にエリアスの視線を遮ってもらった所で意識を切り替え、工房に戻って紐を編み始めて選んだ石を通していく。

その横で俺の方をちらちら見ながらも石を何かの皮のようなもので磨いて光沢を出していた。

しばらくしたら金色のフレームのようなものを取出し、石の大きさを磨きながら微調整していく。

フレーム側も熱を加えて柔らかくして、厚いヌメ皮みたいなものでそっと形を整えていく。

見ていれば息を詰めるような細かな仕事をレツは次々に進めていく。

俺も負けるかと紐を編み、そして小さな石を通して一本のいわゆるミサンガを作り上げた。

小学生の時、まだ親が健在で普通に誰にでも心が開けていた時、小学校のクラスの中でミサンガ作りは流行っていた。

女の子達はこぞって作り、男の子達は巻き込まれて手伝わされるそんな日常。

俺も見事巻き込まれて編み方を覚えさせられたのが今編み上がったこれだ。

色違いの紐でカラフルに編み、アクセントにレツの作ったビーズが三つ編み込まれている。

作りとしては基本の基本で、久しぶりに作ったにしてはまあまあな出来だった。

仕上がったミサンガをレツはへえ、と面白そうな視線で俺の手つきを真似して作るのだった。

三本の皮ひもで見よう見まねで作るも上手く力加減がバラバラになり上手く模様のようにならなく紐をほどいて最初からやり直し。

それを何度か繰り返せばそれなりに上手く編み上げる事が出来るようになる物の紐の方がよれよれとなり微妙な状態になっていた。

だけど手先が器用なせいか俺の手元を見ながらあっという間にいくつかの編み方をマスターしていく。

この子の才能恐ろしい……

正直王様には必要のないスキルなのだが、いわゆるファンタジーお約束のギルドカードがあればレツのカードには何が記載されているのか気にならないと言えば嘘になる。

と言うか、確か黎明の月に所属してたんだよな。

だったらギルドカード持ってるはずだよな?

って言うか本当にギルドカードってあるのか?

そんな疑問が溢れだしたら止まらなくなり


「なぁ、レツ兄。

 レツ兄って黎明の月のギルドカード持ってる?」


ポロリと口からあふれ出した言葉にレツは作業していた手を止めて


「うん持ってるよ。

 身分と所属を証明するカードだからって作ってもらったんだ」


言いながら財布を片付けてある抽斗をあけて一枚の金属製ぽいカードを取り出した。

その片面には剣と月をモチーフにしたギルドの紋章が描かれてあり


「見てもいい?」


うずうずとこらえきれない様に手を指し伸ばせば苦笑しながら「見ても面白くないよ」と言う。

本当にギルドカードなんてあるんだなんて感動しながら裏面に書いてあるだろうレツ兄のステイタスを見れば思わず眉をひそめてしまう。


レツ・セラート

 クラス : --

 レベル : --

 スキル : --

 称号 : --

 状態 : --


……ナニコレ?

カードの下に矢印があるからそこを指で触れば


レツ・セラート

 体力 : --

 耐久 : --

 魔力 : --

 耐魔 : --

 敏捷 : --

 幸運 : --


みんな横棒って……

更に矢印を押せば最初所に戻る二画面式。

項目ごとに押せばきっと詳しく表記されるのだろうが、その項目は横線すらないまっさらなまま。

これは一体なんなんだろうと小首を傾げてレツ兄に無言で訴えれば


「ほら、僕魔力がないからね。

 魔力を介して作る物らしいから一切表記されなかったんだ。

 名前の所は作ってくれたトリアがあまりに不憫だからって書きこんでくれたんだけど」


ね?面白くないでしょと言うも


「これ一枚あるだけでこの国の街の出入りは自由だし、正当な金額で魔石の売買が出来る身分証明書なんだ。

 この人物についてはギルドが保証するって言う証明書で、たとえば宿を借りるとすればこれ一枚でまず断られる事もないし、この家の購入する時もお金が支払えなくなった時はギルドに保証人になってもらうとか、ギルドもこのカードの発行

 買うのはもちろん売った先でも記録するらしく、これをギルドで照会すれば正当に売買されたか判るんだって。

 とはいっても僕はトリアとしか取引しないから心配はしてないんだけど」


むーんとカードを睨みながらレツの話を聞く。

これは何なんだろうか。

ルゥ姉曰く魔力は誰もが持っている物。

魔力を扱う器官は総ての人間が持っている物。

その器官が発達すれば発達するほど魔力の扱いに長け、使わなければ使わないほどその器官は退化していく。

レツは少なくとも後者だが、魔力の扱いに長けた聖獣や精霊と契約を交わす者だ。

全くもって魔力を扱えないわけはないだろうと考えるも、あれだけ密着した生活の中で魔法はもちろん魔術を扱った所を見た事は一度もない。

誰でも使える魔道具は使えているが……

ひょっとしてと一瞬このカードが真実映しているとしたらと思うとぞっとする。

実力は知ってるつもりだけどまさか総てカンストしてるとか冗談じゃないよなといつの間にか干からびていた口でゆっくりと息をのむも称号とか状態とかスキルには関係ないはずだからと逆に最悪な事を考えてみる。

ひょっとしてその場に……


「カード作る時アウリールか誰かいたか?」

「シュネルとフェルスは居たよ?」


小首かしげるレツ兄に俺の予想の斜め上を行く答えを見た気がした。

犯人はこいつらだ。

レツのステイタスを総て横線で消した犯人はと工房の上の梁で羽を休め、俺達の様子を覗いていたシュネルと一瞬視線がぶつかって暫くしたのちそーっと視線を避けられてしまった。

犯人はお前か……

こうなるとレツが不憫でしかないなと苦笑を零しながら「見せてくれてありがとう」と言葉を添えてカードを返すのだった。

ギルドに所属はちょっと無理そうだけどギルドカードは欲しいなとぽつりと呟けばギルドは国の所属だから他国では使えないとのレツの言葉に身分証明書代わりに作ってもらおうかなと考えるだけに止まった。

ああ、でも、もし俺の旅が続く事があればギルドを作って見るのも悪くないかも……

少しその後の未来を見つけて何か軽くなった心に紐を編む手が楽しむように動くのだった。


それからは黙々と作業をこなし、レツは頼まれていた物を総て作り終えたからお風呂入って寝るねと奥の本の部屋を指さしていた。

俺ももう少し作ったら休むからと言うも、誰もが寝静まった時間になってようやく手が止まり、休憩の代わりじゃないけど机に伏した状態でそのまま寝てしまっていたようだった。


かたかたと二階から下りてくる足音に意識が浮上し、レツが何やら会話をしていた。

陽が昇る前の薄明かりが広がるどこか澄んだ空気が世界を満たす時間。

裏の出口の方が静かに騒がしかった。

重い足取りで様子を伺いに行けば、朝のマルシェに寄ってから隣国プリスティアへと向かう二人の姿と見送るレツの姿がそこに並んでいた。


「あ、こんな早くに行くんだった?」


まだしっかりと働いてない頭の中を伝える言葉は何処かたどたどしくラトリオは騒がしくしてごめんなさいとボーっとしている俺に苦笑気味に謝る。


「工房の方の扉じゃユキトが起きちゃうから裏からってお願いしたの」

「気にしなくても良かったのに……」


と言いつつも欠伸が一つ零れる。

気にしないでと言った言葉の意味が無くなった瞬間だ。


「お嬢様、ユキト様ともご挨拶が出来るのでここで失礼しましょう」

「はい。

 レツ、突然押しかけてしまったのに一晩泊めて下さってありがとう。

 それにこんな美味しい木の実のシロップ漬けまでいただいて、今度お伺いした時には何かお土産持ってきますね」

「そんな事気にしないで。

 僕の方こそなんかすごいお願いをしちゃったみたいだったし。

 首飾りの問題を解決してくれてホント助かったよ」


ありがとうとニコニコと笑うレツにラトリオは顔を赤らめてもじもじとしだし


「あの、今度はいつごろお伺いしてもいいかな?」


耳まで真っ赤にして、よほど勇気を絞り出したのだろうか、握りしめた服の裾がすごい事になっているのをエリアスと二人で注目していた。

けど


「あー、ごめん。ここには10日に1日来るかどうかわからなくて、居ても大体一日か一晩泊まるぐらいだからいつって約束はできないかも……

 ここには本当にトリアと取引をしに来るか、工房の工具を使うぐらいしか来ないから……

 あ、ひょっとして石を見に来たかった?」


レツが的外れな事を言えばラトリオは一瞬ショックな顔を見せるも、そこはしっかりと恋する女の子。

そんな動揺なんて見せないように「もうちょっと眺めてたかった……かな?」と何処か挙動不審な返事をする。

エリアスはまた微妙な視線を二人に向けながら「確かに無害ですが、ある意味有害ですね」と困り果てた顔になっていた。


「この家の鍵をトリアにも預かってもらってるんだ。

 後からトリアに言っておくから、今度来た時会えなかったらトリアに鍵を借りて見てもいいよ」

「え……その……ありがとうございます」


しょぼんと撃沈したラトリオからそっと視線を外してエリアスにこんなレツ兄ですみませんと盛大に謝っておく。

だけど恋する女の子と言う者はどの世界でも無敵で、改めて顔をレツへと向ければ


「今度もし会えたら私の作った魔道具を見てくれる?」


笑顔を添えて再会の約束を結ぼうとすればレツは何かを思い出して工房へと走っていく。

ラトリオは一瞬レツの行動に拒否されたのかもと石化するもすぐに戻ってきた足音に笑顔が復活した。

恋する女の子って怖い……

エリアスと二人で一歩逃げてしまうのは仕方がないだろう。

そんなラトリオの変化を知らない幸せなレツは


「これ、あれから作ってみたんだ」


そう言って二本の首飾りを二人に手渡していた。


「ユキトの紐の残りで作ってみたんだ。

 編み方教わったばかりで均等にそろってなくってあまり綺麗じゃないけど、お土産にどうぞ」


空色の紐にエリアスには四角いフレームに薄い黄緑色の石がはめ込んであり、ラトリオには同じく空色の紐に薄桃色や薄紫と言った可愛らしい色合いの花のように石が細工してあるチョーカーみたいな首飾りを手渡していた。


「これって……」

「もともと練習で作ったもので昨日の夜急いで作ったからちょっと不恰好かもしれないけど、良かったら使ってくれると嬉しいな?」


照れた様に頬を染めるレツにラトリオはレツに顔を真っ赤にして首飾りをつけてとお願いする。この子そろそろ血管切れてもおかしくないんじゃね?とエリアスと遠くに意識を飛ばしながら見守っていれば、レツはすぐに任せてとラトリオの後ろに回ってチョーカーを着け、その姿を一番にレツに披露していた。

俺達完全に空気でちょっとさみしい……


「どう?」

「ラトリオの肌ってほんと白いから、こう言った優しい色合いが良く似合うよ。

 作った自分が言うのもあれだけど、すごく似合ってるよ」


あ、これ良くアルトが女の子にプレゼントしている時の言葉だと心の中で盛大に突っ込むも、それを知らない真っ赤になったラトリオはエリアスからネックレスを取り、その首にかけてあげる。


「エリアスはお仕事してるから服の中に隠せるように少し長めにしてみたんだ。

 お休みの日にでも使ってもらえると嬉しいかな?」


意外と様になるじゃん色男と口に出さずに突っ込むも、明らかに照れ隠しのようによく似合うと褒めちぎるラトリオにエリアスは逆に困惑気味だ。

だけどエリアスはそれでも冷静で、奴隷でも騎士団の隊長席に座る人なだけに貰ったばかりの首飾りをよく吟味して


「ひょっとしてこれはレツの魔石ですか?」

「うん。磨き方とか石の削りだす場所とか見極める練習してた頃のだから気軽に使って」


とは言えトリアがガエルと石を眺めながらぶつぶつといい合っていた石の値段から軽く見積もっても給料三か月分はあるだろう。

これ何かの申込みですかと口に出せずに突っ込むが


「気軽に使ってと申しましても、この紐も……ドラゴンの鬣……では……

 騎士団の務めで何度か王族の秘宝を見る機会があり、それによく似ているような感じの魔力の波動を……」


その言葉に俺達三人は黙ってしまった。

二人はこの希少な魔石以上に希少なドラゴンの鬣を、国宝級と言っても良い物を気軽に贈られた事に絶句しているようだが、俺としてはやっぱりこの色からアウリールだよな?アウリールから引っこ抜いたのか?それともこっそり切ったのか?一体どうやって入手したんだとその経路が気になってしまっていた。

だけどレツはあっけらかんと


「僕の住んでる近くにはよーく注意して見ていれば結構落ちてるんだ」


ああ、確かに落ちてるわな、鬣ぐらい……

ここに来た時みたいにドラゴン状態のアウリールの鬣に潜り込んで寝てたりすれば抜け毛や絡まった毛ぐらい持ち帰るのは当然か?と、相変わらず残念な価値観のレツにそっと溜息を落とす。

というか、あまりに身近な所に居ただけに俺の感覚も十分おかしくなってる事に気づいた。

だってやっぱりドラゴンって獣臭いって言うかなんて言うかさ。


「ドラゴンの鬣ってそんな珍しい物なの?」


聞けば二人は俺を睨みつけ


「幻獣界に住むと言われるドラゴンがこちらの世界に姿を現すだけでも珍しいと言うのに、これだけの長い鬣を持つのは翼竜と決まってます。

 一見鮮やかな青色に見えますが陽の光に当ると深い青色に変る所をみるとバハムートでしょうか。

 何年か前に東に向かって飛んでいく姿を見たと言う報告がありましたが、報告書が真実だとすればその通りかと。

 そしてこの鬣の長さから想像するに十分成体に値する年齢だと思います」

「私もプリスティアに時々見かける白龍を知ってますが、さすがにこれだけ編み込んで三人分の首飾りになる長さではない事ぐらい知ってます。 

 それほどに希少な物なのに……」

 

あわあわと慌てる二人の言う事が今一つ伝わってないレツ兄は小首かしげながら


「とりあえず、ご利益在りそうだね?」


やっぱりと言うか、理解して無いようでのほほんと笑っていたら


「ご利益どころか、これだけで魔法防衛と魔力増強、毒も麻痺も問題なしな凄い効果を今俺は体感しています」

「エリアス良い?絶対こんなにも素晴らしいプレゼントを生涯肌身離しちゃだめよ!」

「お嬢様、俺には分不相応というか、どこに置いたらいいのかわからないです」

「私もよ!あああ……レツ、私二度と、一生外さないから!」


力説するラトリオと軽くパニックになってるエリアスにレツはどこか逃げ腰になって「たまには別の物も着ける気分転換も必要だよ?」と言うも軽く無視された。


「レツ。

 今度私も力作を作るから、良かったら貰ってね!」

「う、うん。魔法は使えないけど期待してるよ……

 それよりも買い物しなくちゃいけなかったんじゃない?」


忘れてないよね?と言えばラトリオは思い出したと言う顔をしたのちにお別れの時間に悲しそうな顔を隠せずにレツのプレゼントを一撫でして


「本当はもっとお礼を言いたいけどそれは今度させてね。

 会えなかったら手紙を置いておくから読んでくれるとうれしいかな?

 じゃあ……

 薬草を買わなくちゃいけないから行くね」


少し名残惜しそうにまたねと別れの言葉を継げて旅立って行ってしまった。

何度も振り返る少女に何度も手を振って、やがて姿が見えなくなった所で家の中に入る。


「なんか凄いかわいい子だったけど変ってたね」

「うん。凄いかわいいのに残念な子だね」


二人でぐったりと疲れたと椅子に座れば、どこからか現れたアウリールがお茶を持ってきてくれた。

暖かくて柔らかな香りの紅茶をゆったりと一口飲んで


「アウリールの鬣ってすごいご利益在ったんだね?」

「絡まって洗うのも面倒なのにああやってありがたく思ってくれると申し訳ないな」


玲瓏とした顔がそっと視線をそらすあたりあの会話を聞いていたのだろう。

たまには水浴びでもするかとうっかり千年を過ごす生物の恐ろしい感覚の言葉を再度聞くのだった。


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