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HOW TO 多分正しい魔道具の作り方


何もない空間から取り出した一枚の羊皮紙には複雑な文様のような文字の魔方陣が書かれていて、さすがにこれは何が書いてあるか俺を含めて誰も読み取れなかった。

トリアもガエルも眉をひそめている所二人も知らないと言う物だろう。


「これは私の家に伝わる魔方陣で古い精霊文字だからあまり知られてないと思うの。

 私も読めてないし、おじいちゃんも読めなかったの。

 他の工房にも伝わってない文字だから私の家の独特の物だと思ってもらっていいわ」


言えばぴゅるる……と梁の上からシュネルが下りてきてレツの頭の上に舞い降りた。

ラトリオはシュネルの事なんて気にせず、興奮するまま準備を続ける。

その間レツはふーん、そうなんだ。と返事をしているあたりシュネルはこの文字の事を知っているのだろう。

さすがうっかりで千年過ごす種族だと感心していれば


「さて、この石をどういう形にしたい?」

「え?じゃあ、こう逆三角形みたいな、それを横に伸ばした感じの、とげとげ感のない丸みを帯びた三角形」


机にこんな大きさな感じと手でなぞれば


「それぐらいの大きさだとこの石だけじゃ足りないかも」


うーんと悩むラトリオにレツはまたおもむろに今度はさっきの石よりも大きな紺色の石を掴んで


「じゃあ、この石なら足りる?」

「足りるって言うより相性的にはこっちの緑色の方がいいかしら?

 この水色の石には水の波動を感じるし、この緑色には風の波動を感じるわ。

 その点この紺色は暗い炎の波動を感じるの。

 水と炎の相性より風の方が喧嘩しないわ」

「喧嘩しないって?」

「一つじゃ足りないから二つを混ぜ合わせるの。

 本来混ざり合わない物を混ぜるから、相乗効果が得られる方がいいよね?

 相性が悪い者同士だと本来の効果さえ打ち消しちゃうから、ぜったい相性は考えなくちゃいけないの」

「そんな事も出来るんだ」

「その気になればこの小さな石達を集めて作る事もできるわ。

 これだけごちゃまぜだと逆に相性なんて関係ないわ」

「だったら緑色の石を追加して。効果は?」

「できてみないと判らないけど、一般的な知識から言えば水の回復力と回復力増量、風の防御、そしてスピードアップ、攻撃力の強化ね。

 ランクは仕上がって見ないと判らないけどSクラスは約束できるわ」

「あー、なんかよくわからないけど形になるなら十分だよ。これでお願いするよ」

「じゃあ、この緑色の石と合わせて作るね。始めるね」


そう言ってラトリオはうきうきと耳では聞き取りにくい呪文を口の中で呟き、くぐもった声はそれがどんな呪文かどうかも聞き取れない。

ガエルはさすがにかじっただけあるからかなるほどと頷いていたが、ラトリオが二つの石を掴み羊皮紙の上に持ってこれば指の間からさらさらと石が砂のようになって流れ落ちて行った。

砂よりも細かく粉にようになった魔石は崩れ落ちる合間に混ざりあう。

石が総て羊皮紙の上に落ちれば呪文が変わる。

羊皮紙の魔方陣は新たな呪文に反応して光り輝き、膨大な魔力を彼女から吸い上げていた。

その証拠にラトリオの淡い白銀の髪が淡く金色の魔力で輝いてるようにも見えて、それはシェムブレイバー達が飛行時に残す金の軌跡にも似た物だった。


「なるほど。こんなに大量に魔力が必要になるんじゃ広まらないわね」


トリアが鳥肌が立つと言うように腕をさすりながらラトリオの魔力量に息を呑んでいれば、やがて羊皮紙の上の魔石の粉がラトリオの魔力に反応するように金色に輝き、やがて砂山から一つの形を作り出していく。

それはさっきレツとラトリオが机の上でなぞっていた形で、水色と緑色の混じった柔らかな色合いは少しまろい三角形の形となって姿を現した。

やがて光も消えて疲れたと言うようにラトリオも椅子に座り、できた魔石をレツに手渡せば魔方陣をさっと片づけてしまった。


「さすがこんなにもすごい石だと持ってかれる魔力も半端ないわね」


びっくりしたと言う顔をするも、やりきった満足感を浮かべるラトリオの顔は至福そのものだ。


「と言うか、ずいぶん小っちゃくなったな」


思わず俺が言ってしまえば


「この方法だと魔石は再構築中に大気中に魔力が抜けて行っちゃうのよ。

 だけど一つの石から削り出すのと違っていくつもの石をかき集めて再構築もできるって言う利点もあるわ」


1つを削るのと、寄せ集めの数で同等の物が出来ると言う。勿論密度は石本来の密度に左右される。再構築法だと純度の高い物が出来るが密度がどうしても薄くなる欠点はあり、削りだしの方法だと密度はそのままだが、既にある傷や異物がきっかけで破損を起こす原因になる。

ラトリオは破損された魔石を集めて再構築すればいいけど、どうしても最初の物より質は落ちてしまうと言う。


「簡単にいうとお互いこんなふうな欠点があるんだけど、そこでさっきの魔方陣が役に立つの。

 流れ出てしまう石の魔力をあの魔方陣の中に閉じ込めてしまえば大気中に拡散してしまう魔力を再度取り込む事が出来るらしいの」

「だからあんな風にキラキラ光ってたんだね」

「いつもなら光が漏れないように屋根裏部屋だったり地下室で作ってるんだけどね」

「こんなに明るけりゃ逆に誰も気付きはしないわね」

「はい。盲点でした」


しょぼんと肩をすくめるラトリオだがそれをよそにランはいそいそと別の工具箱を取り出して白銀色の板を取り出してきた。

綺麗に磨かれた美しい白銀の板の上にラトリオが作ったばかりの魔石を置いて器用に切り抜いて行く。切口を磨き上げ三角形の量端には紐を通す穴を作り、カロンが指導する中器用にもひょいひょいと白銀の板を石の隅をがっちりと包み込みブレもズレも遊びすらなく微かな隙間さえつくらずにまるで最初から一つの物でしたと言わんばかりの一体感のあるプレートが出来上がっていた。

そして別の箱から取り出したのは一本の紐。

鮮やかなまでの青空を切りぬいたような糸を組集めた物。

見覚えのある青に思わず呼吸が止まりそうになる物でレツは紐を穴に通し、別の正方形に切り出した真っ白な石で通した穴を隠してそれを俺の首にかけ、長さを調節して結び、美しい糸の余分な長さはわざと遊ばせるようにして、先端の結び目が目立たない様に正方形の白い石で隠してしまう。

それでも長い分は切り取った所で完成。

首に掛けられた時点で魔石の加護をぶわっと受け取る。

体が軽いって言うか、魔力が増幅されたって言うか、視界が広がったって言うか、総ての感覚がクリアになった感じで驚きの中に居る俺をレツは満足げに眺め


「完璧だね」

「自分で言うのもなんだけど、最高傑作のような気がする」


ラトリオに続きレツも満面の笑みを浮かべる。


「え、これって……」

「僕からのプレゼントだよ。

 本当は石の所も作りたかったんだけど、どうしても上手くいかなくってカロンにも何度も手伝ってもらっても失敗しちゃって。

 だけどラトリオが居てくれたから完成できたんだ。

 旅立つ前に渡す事が出来て本当に良かった」


職人としては石の削りだしを成功させて完璧と言いたい所だったのだろう。

だけど次会う事が出来て、再び会った時に手渡せる可能性何て恐ろしく低くて、自分の未熟な実力の成長を待ってとは言えないレツの苦肉の策。

切り出した石も、美しく均等に伸ばされた白金の板も、どれだけ俺達が離れた場所に居ようとも続く青空のようなこの紐も総てレツが時間をかけて用意した物なんだろう。

俺を本当の弟のように扱ってくれて、俺の両手じゃ受け取れないくらいのたくさんの物を与えてくれたレツの優しさが今になって急に思い出して込み上げる物を抑え込む事なんて出来なくて


「レツ兄ぃ……」


しがみついて泣いてしゃくりあげて。

こんなにも泣いたのはいつ以来かと、あの夜ルゥ姉と二人で逃げ出した時よりも声を立てて泣けばレツの手が俺の頭をあやすように優しくなでてくれる。


「本当ならいかないでくれって言いたいんだ。

 今だっていかないでくれって言いたいんだ。

 だけど、ユキトは足を止めない人だ。

 どこまでもその足で駆け抜けていく人だから、お守りじゃないけど、今日この場に集まった人が君と出会った証を持って行ってほしいんだ」


全員初対面だが、それでも一つのテーブルで食事をし、ごく一部にしか伝わってない奇跡を目にし、そしてこの首飾りの完成を全員で見守ったのだ。

誰ともなく間もなく旅立ち、別れる友情を見守るしかない無力さにつられるように目元を光らせる。

ガエルはもうボロボロに涙を流しているのは年齢からくるものだと思いたいぐらいだ。

その豪快な泣き方に逆に俺達の方が冷静になってしまう。

と言うか、トリアが頭痛そうに蹲ってる様子を見てこれはとんでもない物ではないかとおもうも、レツの優しさに感激してそんな事は後日考える事にする。

カロンはそんなガエルを引っ張ってそろそろ帰りましょうとドアの前まで引っ張ってくればぶつかるかどうかギリギリのところでバンと派手な音を鳴らしてドアが開き


「お嬢様大丈夫ですか!!!」

「エ、エリアス?!一体そんな慌ててどうしたの!」

「どうしたも何も、いつまで待っても約束した場所に時間になっても現れないのにお嬢様の魔力を感じたので何か事件に巻き込まれたの……かと……」


と言った所で慌てて駆け寄ったラトリオの無事な姿にやっと冷静になって部屋の中を見回す。

ガエルを家に連れて帰ろうとするカロンと思わぬ贈り物に感動して未だにレツにしがみついているユキト。その二組を見守るトリアの姿。テーブルの上にはお茶のセットが人数分あり……


「ひょっとして早とちりでしたか?」


恐る恐ると言うように顔を上げる男は精悍な若者と言ってもいいだろう。

イケメンと言った方が早い。

この世界イケメン率高い。くそったれ!

腰に剣も佩いている所を見るとお嬢様と呼んだラトリオの護衛か騎士かはお約束か。

確かにラトリオは守ってあげたくなるような細身の女性だが、持ってる魔力はルゥ姉並みに半端ない。

護衛とか必要かと悩んでしまう。


「早とちりも何も。

 こちらのレツのお家をお店と間違えてお邪魔した挙句お茶を頂いた所です」

「えーと……」

「いわゆる不法侵入って奴だよおにーさん」


トリアが意味ありげにふふふと笑えば、汗が噴き出るくらいに顔を真っ青にした男はいきなり


「申し訳ありませんっ!!!」


と頭を床にこすり付けるようにして謝罪をするいわゆる土下座を人目もはばからず晒すのだった。


「うわー、土下座何て風習あったんだ」

「聞いた事あるよ。プリスティアじゃ今も残る奴隷制度に奴隷は椅子に座らせるものではなく床に座らせるんだって……って、ひょっとして奴隷とか?」

「ガーラントの奴隷制度とプリスティアの奴隷制度は全く違いますのでそんな目で見るのは止めてください!」


未だ床に頭をこすり付けてピクリと動かないエリアスさんの頭を上げようとするラトリオの力ではピクリとも動いていない。

俺もさすがにその異様な光景に涙が止まってしまう。


「奴隷制度って国ごとに違うの?」


レツが何気なく聞けば


「有名な所でガーランドはいわゆる家畜同様の扱いだけど、プリスティアは従業員扱いって言う方が近いかねぇ?

 結婚もできるけど子供は自動的にその家の隷属として生まれるんだったよね?」


確かと言えばラトリオはそうなんですーと今も頑張ってピクリともしないエリアスさんの頭を上げさせようと奮闘している。


「よく違いが分からないけど?」


レツがコテンと首を傾げれば


「簡単に言えばガーランドでは金銭で売買が出来るけどプリスティアでは国に登録して、購入した家の財産に数えられるはずだよ?

 少ないけど給料ももらえるはずだし、希望すれば奴隷から解放も出来たはずだ。

 もっとも居心地がよくってずっと住み込む奴隷も少なくないとは聞いた事があるんだが……」

「はい!エリアスはその典型的な見本です!」


むきー!なんて肩を引っ張ったりするも相変らずピクリともしない。

寧ろエリアスとかいう人の体制を崩す方が難しいんじゃね?なんて必死のラトリオを生暖かい目で見守っている。


「なほどねえ。通りで身なりも立派だし、奴隷に剣なんて不釣り合いだしねぇ」

「そうなの?」

「反乱されたり逆に脅迫してきたりされたらたまったもんじゃないだろ?」

「エリアスはそんな事しません!

 それにこの剣はエリアスのお仕事用なので帯剣はいつも装備が基本なのです!」


むきになるラトリオにトリアはなるほどと視線を細めた。

あ、これ、ルゥ姉も良くやる悪い事をする時の目だ。


「どこかで見た事あると思ったらひょっとしたらあんたエリアス・フライムって名前だろ?

 奴隷出身だけどプリスティアの騎士団の隊長までのし上がったプリスティア指折りの魔法剣士の。

 確かクリュヴラータ家に仕えていたな?

 王家ケリーラングの初代の姉の血の流れをくむ家柄だったはずだ」

「なんで、それを……」


ラトリオがどうやっても顔を上げさせれなかったエリアスが驚愕の顔でトリアを見上げていた。

その勢い余ってラトリオの頭が壁にぶつけて蹲ってしまうが、エリアスは気づかないままトリアを凝視していた。


「こう見えてもウィスタリアギルド協会の長を務めてるんだよ?

 それぐらいのお隣の国の知識は予備知識として知ってて当然だろ?

 ましてや話題の隊長さん。

 あたしが知ってなきゃいけない内容じゃないかい?」


ニヤニヤと笑うトリアにエリアスは顔を真っ青にして何気なくトリアとラトリオの間にゆっくりと移動し、守ろうとする体制に何とも言えない緊張感に室内が包まれる中


「ってことは、ラトリオはお姫様?

 でもなんかお姫様って感じじゃないね」


ねーなんてこのタイミングで俺に振らないでくれと心の中で突っ込むも


「私はお姫様じゃないよ。

 小さい頃からずっとガーランドとの国境に近い山奥に住んでたしね」


最近知った血統だけは良い古い家柄だけなので姫様ではありませんと主張するラトリオにレツはそうなの?と返事。

少しだけ空気が和らいだ。


「それに将来は魔道具とか魔法薬を作ったりしてレツのこの家みたいな自分の作ったものでお店を開いてみたいの!」

「お店開くの?!」

「この天井みたいな梁から乾燥させた薬草をつりさげて、レツの魔石みたいに作った魔石と魔道具を並べて、真ん中に大きな机を置いて魔法薬を作ったり、お客様とお話ししたり。

 小さな店でいいんだ。自分の目が届いて自信のある物だけを並べて、手の届くぐらいでいいの。これが私のお城よって感じで素敵でしょ?」

「夢が詰まってるねぇ」

「まぁ、商売っ気がないって言うのが欠点だが、あれほどの技術があるんだ。

 自分の城ぐらい作れるんじゃね?」


トリアもカロンもラトリオの夢の国に賛同する中


「カロン、おめーも早くひとり立ちして自分の城を建てろや」


ガエルがこの緊迫した空気を更に断ち切るように話を変える。


「ししょー、それは言わない約束でしょ?

 あんたの世話を俺がしなけりゃ誰がやるんだって言うんだよ」

「そんなの適当な奴に任せればいいだろ」

「あのね、あんたの弟子は今俺以外居ないでしょ。

 もうちょっと俺を親切にしないと罰が当たるぞ」

「なあに、お前が残ってくれたんだから無事お前に引き継げりゃそれで満足さ」


ニヤリと笑うガエルの継承者指名を受けた男は少しの間呆けた顔をするもだんだん力強い視線になって


「俺の目標はあんたを超える事なんだからいつでも死んで構わねえぜ」


言葉は悪いがただ継承者になるわけではなく発展させるって言う強い言葉にガエルはそっぽを向いて何を言うわけでもなく鼻を鳴らしてレツへと向きなおす。


「これで俺の工房はカロンに引き継ぐことになった。

 残りの人生はお前さんのこの家で余生を過ごさせてくれ」


どっかりと椅子に座りなおすガロンにレツはえー?と困惑顔になる。


「留守番を雇ったって思ってくれりゃいいさ。

 なーに、俺もたんまり金を溜めてあるから日がな一日この石を眺めながら暮させてくれればいいだけさ。

 そしてちょっと石を弄らせてもらえりゃ大歓迎さ」

「それはちょっと嫌かな?」

「って言うか、何勝手に人んち乗っ取ろうとしてるんですか。

 シショーはうちで老後も働くに決まってるでしょ」


なに今からぼけた事を言ってるんですかと厳しい弟子の指摘に


「ワシじゃって少しは楽したいんじゃよ」


と反論。

誰もが苦笑しながら二人のやり取りを眺めていればまたレツの家の扉が開く。

何事かと思っていれば


「トリア、そろそろ帰ってこい……

 なんだ?珍しいな。ガエルとトリア以外に人がいる光景は」

「なんかお店と間違えて入って来ちゃったんだって」


ざっくりとラトリオとエリアスの事を紹介して、二人にもガーリンの事を紹介する。

こう言う事もレツは手慣れてきたなと感心していれば


「じゃあ、二人分のメシだけじゃ少ないか?」

「あー、だったらお店の方に食べに行くよ」

「そうしてくれると助かる」

「今日のご飯は何かなー?」

「昼に肉にシチューだった?

 だから魚料理と野菜と肉をソースをかけて焼いた奴だ」


言いながら片手で二人分の食事を持っていたガーリンはそのまま持って帰ってしまうのをレツは餌につられるようについて行こうとする中ふとラトリオの前で止まり


「ガーリンのご飯って本当においしいんだ!

 よかったら一緒に食べよう!」


そう言ってごく自然に当たり前と言うように手を繋いでラトリオを連れて行ってしまった。

それをエリアスはぽかんと何が起きたのかわからないと言うように見送っていたが


「エリアスさんごめんなさい。

 レツ兄天然なんだ。無害だから安心して」


多分これはラトリオの勘違いコース確定するぞとあの軍曹アデラも二人きりの時は彼女は完全に恋する乙女だし、オリヴィアも二人きりの空間を作り上げて普段の悪役令嬢的なきっつい性格は鳴りを潜めて良き妻と言わんばかりにレツのお世話をしている。

そんな二人が出会ったルゥ姉の結婚式はかなりの緊迫感があったが、そんな二人の手を引いてレツはその場を丸く収めて見せたのだ。

これがハーレムの作り方か?

んなわけあるかと判ってるが、その後も二人が出会っても妙な緊張感はなく、寧ろ妙な連帯感が生まれた所何かの結託があったのだろう。

例えばこのように新しい勘違いをした女の子がこれ以上増えない様にとか。

悲しい事に彼女らの知らない所の出来事なので妨害は失敗とされるだろうが、ここはひとつエリアスさんに頑張ってもらうしかない。


「天然とは?」


何がとまだわかってない彼に急いでついてきてと俺達も駆け足でレツ達の後を追いかければ二人は既にテーブルに向かい合って座っていた。

メニューを見てレツはラトリオに料理の紹介をしていく。

ラトリオも真剣に説明を聞きながら、でも既に用意されているレツの料理を見て同じものを食べたいと注文をしていた。

俺達も隣に座り、エリアスと二人同じものを注文すればラトリオの料理が用意されるまでレツは料理が冷めるのもお構いなしに待ち、そして一緒に食べ始めるのだった。

隣でエリアスと食べるも二人の料理を絶賛する怒涛の会話から途切れる事無く石の加工についての話しに入る事が出来なく、エリアスはやっとなるほどと納得し、俺はなんとなく慣れてるからレツ兄のパン皿から失敬してこっそりパンを食べている。

エリアスも料理の美味さに驚き俺の不作法に目を点にしてるも、レツ兄にはこれでちょうどいい位。

寧ろラトリオが俺達の三倍の量を食べたのが意外と言うか


「魔力沢山使ったからお腹が……」


魔術師の避けられない運命にレツが何気にみんなで取り分ける事の出来る料理をさらに追加すると言うスマートさを発揮していた。

うん、知ってる。これ良くジルが気を利かせてくれる時のパターンだって。

気配りできるようになったんだなと、周囲に気配りの達人の見本が山ほどいるのだ。自然に出来て当然。

悪い見本に囲まれてるなとレツの将来を心配してしまうのは仕方がないだろう。

魔法使いの宿命はたとえ好きになった人の前でもあがらえません悲しき宿命です。

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