プリスティアから来た少女
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すっかりふてくされるレツの髪をトリアは眠る我が子の頭を撫でるように優しく撫でながらもどこか疲れた様にふーっと静かに溜息を落とす。
周囲からの苦笑もどこか優しい物で、どれだけレツがこのギルドに溶け込んでいるのかがわかるのをこれでいいのかと悩んでしまうも、まあいいかとだけの判断。
足元にはアウリールもいるし、姿は見えないがシュネルもこの会話をどこかで聞いているのだろう。
あいつらが何もしないと言うのならほかっておけばいいのだろうがそれでも見守るだけなのは良いのだろうかと心配してしまうのもお構いなしに話はどんどんと進んでいく。
結構心配性な性質らしいと自分に苦笑。
「そんなわけでこの魔石を広めているレツをやっと保護して事情を聴いて、ずいぶんとぼったくられてる事を説明して、レツの事情も聴いて、正当な価格で引き取るしアクセサリーの作り方を知ってる腕のいい技術者を紹介するからそこらへんでご飯代で売り払うのは止めてくれってお願いしたのさ」
「まぁ、なんだかんだそーやってレツの目的が達成したんだ」
隣の席の男もあの時は大変だったと溜息を零す。
「そうさ。その次に白い髪のにーちゃんも一緒の時にあたし達も初めて見るような国宝級のいい石を持ってきて何言ったと思う?
これで家を買いたいんだけどって言われた時は眩暈がしたね。
どんな屋敷を買いに来たのか話を聞けばそこそこ安全な場所で石を割ったりする音が響いても文句言われない場所の一軒家がいいって言うんだ。
この石に見合った家を知り合いの商業ギルドの奴を連れて何件かの屋敷を見に行ったんだけどレツの奴どれも嫌だって言ってね。
結局あたし達も疲れたから今日は終わりにしようかって言う所で帰りの途中にレツのあの工房あっただろ?あそこも商業ギルドの奴の物件で冗談半分に進めてみたらこいつここがいいってあっさり決めてよ。
あたし達の苦労は何だったんだって話しさ」
「お屋敷に比べたら随分安上がりだな?」
「差額分は家の補修に家具の購入、防音の魔法を魔石に込めたり、魔法の使えないレツでも使えるように魔道具を幾つか見繕ったり、それでとんとんさ」
「お疲れ様です」
思わずレツの代わりに頭を下げてしまう。
こういう時の保護者はどこに行ったんだと心の中で毒づけば
「いろいろ口をきいたお礼としてレツには黎明の月に入ってもらったんだけど、考えたらそれが一番丸く収まった形なんだよね」
レツの顔を知ってる工房連中が希少な魔石をよこせって脅しに来るわ、紹介したレツの師匠の他のお弟子さんが嫉妬で嫌がらせに来るわ、魔法も使えないこんな小さい子にいい大人が寄ってたかってみっともないって言ったらありゃしないと嘆くトリアに俺は立派な太い梁のむき出しの天井を見上げる。
やたらと俺に向かってレツの説教をたれたり、今もレツを小さな子と言った当たりあれだ。
「言っとくけどレツ兄は俺より4歳年上だよ」
その一言にトリアが固まった。
「ちなみに俺13歳。
だからレツ兄は……」
「うそだ。絶対ユキトの方が年上かと……」
ほぼ並んだ身長とは言え、シュネルとの盟約の効果か、いや、成長しきるまでは普通に成長すると言ってたがそれを知らないどこか幼い顔立ちのレツと俺を何度も見比べて今度はトリアが机に項垂れて息子のようにかわいがっていたのにと泣いていた。
なんとなく失礼な人だ。
「なんかこの机すげー事になってるな……」
若いと言うより、立派な成人男性が少し呆れながらも俺達を見下ろして立っていた。
となりには白髪交じりに背の低い男がぎょろりとした目で俺を見下ろす。
親子じゃないよなともう一人の背の高い男は一房だけ長い髪を無造作に結わえた髪は鮮やかなオレンジ色だった。派手だ。
誰だ?と聞くよりも先に
「カロンとガエル師匠!」
突っ伏してふてくされてたレツがぱっと起き上がって満天の笑顔で二人に挨拶をした。
なるほど。こういう笑顔でトリアを絶望に叩き付けたのかとベビーフェイスって言えばそれだけどこうやって虜にしたんだなーとぼんやりとこの成り行きを眺める。
「さっきレツを見かけたって聞いたから今回はどうするんだって顔を見に来たんだよ」
二人は席に着くことなく立ったまま話をすればレツは顔を曇らせる。
「今回はね、ユキトの思い出づくりに来たから実は何も持ってきてないんだ」
言えばカロンとガエル師匠と呼ばれた二人は顔を見合わせ
「弟子をとるにはちょっと早いぞ?」
何気にカロンが窘めるも
「弟子じゃないよ。
ユキトはね、もうすぐお引越しするんだ。
だから友達に何か思い出に残るように何か残したいって言うから僕の工房に連れてきたんだ」
「じゃあ、なんだ?
あそこにある物でこの小僧に好き勝手作らせるって言うのか?」
ガエル師匠は少しだけ目を瞠り
「僕が教えるのは道具の使い方だけのつもりだよ。
だから弟子でもなければ師でもない。
問題ないでしょ?」
コテンと首をかしげて聞くレツにカロンは苦笑する。
それじゃあ仕方がないと。
「じゃが、使うのはあそこの物だろ?」
「僕が自由にできるのはあそこの物ぐらいだし?」
何か駄目なの?とコテント逆に首をかしげるレツにカロンは笑う
「師匠はあそこのお宝を自分にも好き放題触らせろ、自由にさせて欲しいと言ってるんだよ」
苦笑するカロンに
「だったら今から一緒に作る?
あれから随分石も増えたんだ」
言って財布から食事代を置いて店から去ろうとすればトリアがレツの袖をぎゅっと握りしめていた。
「あたしも参加するよ!
レツの工房なんて久しぶりじゃないか!
ちょっと行ってくるから後はよろしくね!」
「おー、夕方までには帰ってこいよ。
所でレツ、今日はどのくらいいるつもりだ?」
真っ白の無骨なエプロンをしたまま厨房から出て来たこの店のシェフのガーリンリッジは筋肉で締まった熊のような体でレツを見下ろす。
スッポリとその陰の中に入ってしまうレツだったが
「明日の晩御飯までには帰るって言ってきちゃったからそれまでには帰るよ」
「じゃあ、今夜の分と明日の朝は運んでやるから昼には店に顔を出せ」
「うん分かった!
ガーリンのご飯今日もおいしかったよ!」
「あたりめーだ!これでも料理だけで店を開いてるんだからな」
グシグシとレツの癖のある髪を撫でつけてまた厨房へと帰って行った店主を見送って俺達は今度こそレツの工房へと足を運ぶのだった。
工房の鍵を開ければガエルとトリアが競って部屋の中に入っていく。
カロンはうちの大将はと呻きながらもやっぱりついてきて、最後に俺とレツが入ってドアを閉める。
来た時はあまりゆっくりと眺める時間はなかったが、改めて見回すとそれなりに年季の入った家は使い込まれた風合いが滲み出ている。
漆喰の壁にむき出しの梁。
二階の様子はわからないが作業場の天井は吹き抜けになってはいるが、二階に上る階段と、吹き抜けの横にはちゃんと部屋があるようだ。それに台所も水場もちゃんと完備してあるし、一階にはもう一つ部屋もある。
そもそもここは店でもやっていたのかこの部屋だけでも十分広いし、裏口から入った時に通った台所の床下には床下収納、もしくは地下室があるような音がした。
裏庭には小さな庭と納屋だろうか小さな小屋がある。
一人では小さいとは言えないが、お屋敷と比べたら圧倒的に小さいこの家に決めた理由はお屋敷では広すぎてたぶん心細いのだろう。
もっともレツ一人ではこれでも広すぎるだろうが、少しずつ物が増えて行けば居心地は良くなるだろう。
人通りも賑やかで、近くのガーリンの食堂も近い。
今もだけど常に人の気配がある。
普通なら鬱陶しく思うはずだがレツにはそれが安心だと言う。
どうしたらそんな風に思い込めるような育ち方をしたんだと思うのだがそれこそ打ち明けられるまで聞いてはいけない話なのだろう。
トリアとガエルが肩を並べての石の品評会にカロンが巻き込まれているのを横目に一枚板のテーブルに俺とレツが並んで座り、取り出された工具箱を目の前に並べられて
「好きに使っていいよ」
丸ペンチや平ペンチ、ニッパーと言ったユキトもおなじみな物から火でも扱うのかやっとこもある。
小さな木槌やトンカチ、そしてすり鉢と言ったものも当然ある。
この辺りはあまり異文化を感じなくほっとするも、もう一つ小さく仕切られた木箱に並べられた色とりどりの小さな石達に俺は目を奪われた。
「ガラス玉……じゃないよな?」
「一応宝石工房ってなってるからね。小さな石をひもを通せる状態に作ってある物なんだ」
いわゆるビーズだ。
別の箱には皮ひもみたいな物も金色の針金もある。
ミサンガみたいに編んでこの石も編み込めばみんなに配れるくらいの数も作れる。
金の針金が本物の金なら耳飾りをペンダントトップも作ってあげる事もできる。
無難で初心者向け過ぎるけど時間との勝負だ。
これで行こうとほぼ直感で紐を編み出せば、少しだけ驚いたような顔を見せたレツは微笑んだまま黙って、別の箱から作りかけなのか石を取り出して何かの皮のようなもので綺麗に磨きだしていた。
途中トリア達から脱出してきたカロンが歪な形の石の磨き方の指導が入ったり、ブローチでも作るのか一つ一つ微妙に形の違う台座に石を置いて大きさを調整したり、台座の不安定さを指摘したりと指導者らしくレツに教え込んでいた。
レツも素直にはい、はい、と意見を聞き、修正を加えながら形を整えていく。
いつも王様だとかこの事案がとか色々な事に追われていたレツだったが、こう言った息抜きではないが、名前が違うように別人となってのめり込む趣味を見つけたのはレツにとって僥倖だと思う。
それがたまたまの偶然でも、レツにこんな親しい人があのフリュゲールの周辺の人達以外にもいるなんて幸せだよなと微笑ましく見守ってしまう。
「いつかブレッド達にもこの工房に案内しろよ」
「うん。みんなでお揃いのピンじゃないけど、その数がそろったら打ち明けようと思ってるんだ」
別の箱に並べられた金の鳥の羽の所に赤い雫のような形の石をはめ込んだピンが並んでいた。
あの赤い制服の黒い襟にこのフリュゲールを象徴する精霊の姿と宝飾品としても華やかな金は誰の目にもその地位にふさわしく、装飾品としても見事とししか言えないだろう。
純金は柔らかい物の、少し爪を立ててみたが痕がつかない辺りちゃんと何かと合金したのだろうか。
それならやっとこも必要だなと納得しながら、まだまだ数の足りない鳥のピンバッチを指先で突いて遊んでいた。
「みんな手作りなんだろ?
大きさもみんな一緒だ。レツ兄頑張ったんだ」
「うん。今度こそ誰もが羨ましいって思える物をって意気込んでるんだからね」
「あはは、それでもブレッド達は初めてのプレゼントは手放さないと思うぞ」
「うん。あれはもう諦めてるからいいの。
ただ括りつけた皮ひもは結構痛んでるから、それだけは別の物に変えさせてもらうつもりだよ」
「メンテナンス付か。贅沢だな」
「これぐらいの贅沢ならいくらでもやってあげるさ」
嬉しそうに笑いながら石を磨く手を止め、室内に響いていた笑い声もぴたりと止まり、その顔は引きつっている。
一生懸命編み込んでいた手を止めどうしたんだ?と顔を上げれば窓の外に一人の女の子がへばりついていた。
おでこと鼻先を引っ付け、両手で張り付くように窓に張り付けてる姿にさすがに俺も口を閉ざした。
そんな俺達の反応にカロンも気付き眉を顰めトリアとガエルに注意を促していれば、俺達の視線に気づいた女の子はレツと同じくらいの年ごろの少女なのだが……顔を真っ赤に涎を垂れていた口元にやっと気づいて慌てて拭い、それからおもむろに髪を手櫛で整え、身だしなみをチェックしておもむろに扉を開けて入って来た。
「すみませんん!
あまりに素晴らしい石が並んでいたので、見せてもらってもいいですか?!」
残念すぎる女の子だった。
あからさまに自分の失敗を恥じて顔を真っ赤にしながらも声がひっくり返るぐらいの緊張のなかのお願いにレツは怖いと言うように半分逃げ腰で、でも「どうぞ」と言う。
「ありがとうございます!」
女の子は目をキラキラさせて部屋の中の石を一つ一つ目の位置を変えながら覗き込んでいた。
石に触らないだけの常識はあるんだなと感心するも、女の子が背負っていた鞄からあふれ出る葉っぱや木の枝やらが部屋の中で一種の凶器と化していた。
「お嬢ちゃん。その荷物とりゃしないから部屋の隅に置いてもらえるかな?」
さっきからぶつかりそうで危ないって言ったらありゃしないと言うトリアの説明に女の子はまた顔を真っ赤にして言われたとおり部屋の隅にカバンを置いて改めて床に膝をつきながら石が光を受け入れる角度を探しながら一つ一つ真剣に眺めていた。
やがてトリアとガエルの隣にまで並んで眺めていればあまりに真剣に見ていた女の子についにトリアが声をかけた。
「すごい真剣に見てるね」
声を掛けられてようやくそこですぐ隣に人がいる事に気づいたと言うように意識を取り戻した女の子はびっくりして声を上げて飛びのいてしまえば俺達もその声についに集中が切れてしまい、カロンが奥の台所からお茶を沸かすなと言ってお茶を準備してくれた。
「あはははは……
すみません。こんなすごく立派な魔石を初めて見るのでつい……」
俯いてしまう彼女を机に移動してもらい、俺達は机の上を簡単に片づけた。
暫くしてやってきたカロンがお茶の用意とドライフルーツと木の実のシロップ漬けを見つけ出し、保存の効く事でどの家も常備してある乾パンを並べてくれた。
というかここでもシロップ漬けが氾濫している様子の証拠と言うように並べられた瓶の種類に苦笑するなか、レツは女の子に色々なシロップ漬けを勧めていた。
「改めましてラトリオと言います。魔道具とか魔法薬とか作ったりしてます。
今日は王都に用事のあった知り合いに頼み込んで魔法薬の材料の調達にプリスティアから来ました。
だけどたまたま通りかかったこの店の魔石の凄さに目が奪われて、ごめんなさい。営業妨害でした。
あまりにも凄い石ばかりで敷居が高くて中々入り辛くって……
やっぱりお値段書いてないのは交渉販売ですか?」
えへへと笑って誤魔化そうとするラトリオに俺達は簡単な自己紹介をした後残酷な事実を打ち明けなくてはいけない。
「お嬢ちゃん。折角だけど……」
「やっぱり一見さんはお断りですか?!」
「いや、そうじゃなくて」
「ここはこのレツの家なんだ」
「つまり店じゃなくて、この石はレツのコレクションなだけなんだ」
「ごめん。売り物じゃないんだ」
え?と固まる彼女は手を伸ばそうとした乾パンに手を届かせることない姿勢でしばらく動けずにいた。
やがて事態を理解して動き出した彼女の視線は挙動不審と言うように周囲を探っているけど机に突っ伏して
「どうしてこんな見た事もない位立派な石が部屋の装飾品なのよ!」
なんて泣き出した。
今日はこんな光景よく見るなぁ。
乾パンにシロップのドライフルーツ付けを乗せて食べる咀嚼音を誰ともなく慣らしていれば
「そういやお嬢ちゃんは魔道具作ってるって言ったよな?」
カロンが何気なく言えば涙をぬぐったラトリオははいと小さく頷く。
「前から気になってたんだけどよ、プリスティアの魔道具の作り方ってウィスタリアと違うんだよな?
ウィスタリアは魔石をカッティングして磨くって言う手法だけど、プリスティアはちょっと違うって言うか」
「カロンは知らんのか?
プリスティアはこのウィスタリア同様の手法と魔石を再構築させる技法の二種類がある。
お嬢ちゃんのストールについてるブローチなんかよく見てみろ。
天然の石には絶対あるはずの傷も罅もなければ不純物もない。
異物を総て抜き去るプリスティアでも一部の技術者だけが持つ技能だ」
「ししょー、知ってるなら何で教えてくれないんすか?」
「俺には再構築させるだけの魔力もなければ、異物を抜き去る繊細な腕もねーんだよ」
「おやまあ、魔武器を作らせたらこのウィスタリアの三本指に入るガエルにも苦手な事があったんだねぇ」
「若い頃に修行してみたんだけどよ、このまま続けると死ぬからって破門されたんだよ」
苦々しい顔でつぶやいたガエルだが、あの時があったからこそ今の俺がいるんだけどなと挫折を武器に這いあがって来た過去に誰もが口を閉ざす。
「初めて聞いた」
「ああ、俺も初めて、やっと口に出せて言えた。
俺のような凡才とお嬢ちゃんみたいな若い子でも作れるこの差に師匠の優しさをやっと理解できたよ」
にかりと笑うガエルの顔は吹っ切れたと言うように晴れやかな物だった。
「じゃあ、お嬢ちゃんはそのブローチをその再構築させて作ったって事かい?」
「あの、ええと、はい」
凄いねぇと言う視線を集めて体を小さくさせてしまった彼女にランはおもむろに近くに在った水色の魔石を取り出して彼女の前に置いた。
「だったらさ、どうやってやるか見せてよ!」
キラキラとした好奇心の視線がラトリオを覗き込みながらお願い!と言う。
好奇心旺盛と言うか、こう言った行動をガエルやカロン、トリアもすでに何度か見てきたのかあちゃーと言うように手で目を覆いながらも好きにしろと言うようにレツをほかっている。
取り扱い判ってるじゃんと言うように二人の様子を見ていれば
「い、いいの?!
こんなすごくいい石を実験みたいに気軽に使っちゃっていいの?!」
「ラトリオが使わなかったら僕がカッティングするだけなんだし?」
「そうね!そうだよね!カッティングで研磨するなら再構築するのも同じよね!」
物凄く加工したいと言う彼女の好奇心もすごい物で、何もない空間から一筋の光を描いて一枚の羊皮紙を取り出した。




