黎明の月
久し振りにレツとユキトで登場します!
ややこしいですが暫くレツとユキトが続きます。
一泊二日の寄り道旅行としてレツとユキトが常識を試されます。
復習(私的メモ)ですがただいまレツ(17才)ユキト(13才)です。
この世界で記憶を取り戻して以来、ひょっとしたらフリュゲールよりも大きな街へとたどり着き、人の少ないと言うより、小さな家の庭に人目をくらましながら音もなく一筋の光になって舞い降りた。
「なあ、ここまずいんじゃないかラ……」
名前を呼ぼうとしたら口を手で塞がれた。
それからしーと言うように口に指を一本立てて、アウリールはどこからか取り出した一本の鍵をその建物の裏口のカギ穴に入れて、二人は俺を招き入れてくれた。
アウリールは魔道具で作られた部屋の明かりをつけて回る間に、その特徴的な床に着きそうな長い髪をざっくりとルゥ姉のように結い上げて、適当に毛先の方だけ編み込む。
ほんと適当だが、手慣れた手つきに感心すれば、近くの椅子にランは俺を座らせてやがて窓の開けてない薄暗い室内の中が良く見えるように目が慣れてきた。
「いい?ここは僕達の秘密の基地だ。
秘密だから名前も変えなくちゃいけない。
僕の名前はレツ・セラート。
となると名前は?」
すかさず
「ユキト・セリザワ」
言えばそうだと言うようにランは頷く。
「ここはね、フリュゲールの隣国、ウィスタリア国の王都シュルドチアだ。
百万人都市って言われる位のこの大陸一の大都市だ」
「ジルが教えてくれた本にも書いてあった。
精霊王の住まう国だったか?」
アウリールに聞けばたしかにとコクンと頷く。
「とわ言え、王はほとんど精霊界に住まわれている。
気が向いた時ふらりとこちらにお姿を現すようだが、私も長い事お会いしてない」
へーと聞きながらシュネルはと視線を向ければレツが困った顔をして
「もう千年ほどお会いしてないってさ」
「そんなにも経ったか、いや、そうだな。精霊界を出て以来お会いしてないな」
一度ご挨拶に行かなくてはと言うアウリールのどこか難しい顔を見て心の中で突っ込んでしまう。
お前ら一体幾つだよ!
千年単位をうっかりそんな程度で表現できるっていったいどういう事だよと心の中で盛大に上手く表現できない俺の小さな分身が小気味よく文句を並べるも
「まぁ、運が良ければそのうちお会いできるだろう」
ぴゅるる……
すかさずシュネルも賛同するその返事に王様に対するテキトーさ加減の原点を見た気がした。
「で、ここは一体なんなのさ?」
ぐるりとあまり広いとは言えない室内を見渡せば、ランはカーテンを開けて窓と鎧戸を開けた。
外から入る光の眩しさと、活気づいた街の陽気な喧騒に驚いてしまえば、してやったりと言った顔でレツは俺を見て笑う。
「ここが僕の宝石工房さ!」
魔石の明かりだけではなかなか見えづらかった壁一面の棚にずらりと並ぶ宝石の原石。
そしてさっきまでいた椅子の前に置かれたテーブルはただのガラスのテーブルではなく、ショーケースになっていて、その中には見覚えのあるデザインの指輪やイヤリング、そしてネックレスがならべられていた。
部屋はこの部屋と、奥に台所とは別にもう一つ部屋もあり、さらに二階につながる階段も見つけていたから上にも部屋があるのだろう。
「驚いた?」
すかさず顔を覗き込んでくるレツにはもう頷かずにはいられなくて、驚きすぎて言葉も出せずにこくこくと頭を振る。
「って、言うか、一体いつの間にこんなもんそろえるくらい、何やってたんだよ」
多分ここ数年の話しだと思う。
ブレッド達は何か感づいてるようだがまともには調べず、レツの好きなようにさせてる節がある。
ここまでしてる事を知ってるのか知らないのかまでは知らないが、それでも一国一城の主が別の国でも一国一城の主をしているとはさすがに思わないだろう。
「ユキトが来る前の話しだけどフリュゲールとガーランドの戦争があって、そこで僕達は山を一つばかりじゃないけど壊しちゃったんだ」
「山を壊しちゃったじゃないだろ」
その規模の感覚はダメだろうとすかさず心の中に居る小さな勇気に頼るまでもなく突っ込んでしまえばレツは笑い
「そうしたらさ、鉱石の鉱脈らしきものがあったんだよ」
「さすが元鉱山夫。目の付け所が違うな」
「うん。さすがに僕もそう思ったさ。
戦争が終わって、国があわただしくって、すこし現実から逃げ出したとかいうわけじゃないけど、たくさんの人を殺してまで戦争なんかして、ほんとに良かったのかなってって考えちゃって」
少しだけ俯いたレツの頭をアウリールが優しくなでる。
大丈夫。後悔はしてないと小さな声で呟いたレツは顔を上げて俺と視線を合わせて
「たくさん掛替えのない物を奪った。
だからかわりにってわけじゃない。
だけど、失った分を埋める何かを自分で生み出したかったんだ。
それが何か何て考えもつかなかった時に鉱脈を見つけて、もともと石とは相性が良かったんだと、僕は思ってるだけなんだけど。
女の人も男の人も宝石って好きだろ?
代わりにはならない。だけどこれだって僕は思ったわけだ。
綺麗にして、紐をつけてブレッドとアルトとジルに初めてプレゼントしたんだ。
いつも貰ってばかりだし、お金も結局の所ブレット達からもらってるだろ?
拾ったとは言え綺麗に磨いて、紐が買える位のお金の分だけその店でお手伝いをしてお礼に紐を貰って作ったんだ。
三人とも王様なのにって呆れてたけど凄く喜んでくれた。
だけど、よくよく考えたら三人が持ってる宝石ってすごくキラキラしてて、すごく凝った作りをしてて、紐につけられただけの物と比べるなんて出来なくて、三人ともいつも持っててくれて、だけど騎士団の立派なな服には似合ってなくて」
しょぼんという表現が似合いすぎるその落ち込み具合に俺の手はどうするべきかと彷徨うも、アウリールがレツの癖のある髪を撫でる。
気持ちよさそうに目を細めるレツは少しだけ元気を取り戻し、また俺と視線を合わせて話を続ける。
「別の物を作るからってなんとかしてとりかえそうとしたんだけど、こんな時みんなは手伝ってくれないし、ブレッド達も返してくれない。
恥ずかしいからやめてくれって泣くくらいお願いしたのに……」
「いや、だってそれは無理だろう?
初めてのプレゼントなら余計に返せないだろ?」
言えば少しだけばつの悪そうな顔をしてユキトまで同じこと言うんだとガクリと項垂れてしまった。
「あんな石ころに紐をくっつけただけであんなにも喜んでもらえるって事を僕は知らなかったんだ。
それがどれだけかけがえのない物かなんて、考えた事もなくって、ブレッド達がどれだけ嬉しかったかなんて事も僕は知りもしなくって。
だからかな、今度何かプレゼントする時はもうちょっとましな物をプレゼントしたいって思うようになったんだ」
「そしてこの工房ってわけか」
なるほどと、部屋の中を見回しながら、思わぬ話にツンとした何かを誤魔化すように押し込める。
「最初は部屋の片隅で作ってたけど、やっぱり独学じゃ無理でどうしようって悩んでたらフェルスがウィスタリアだったら顔もばれてないし、宝石屋もたくさんあるから教えてくれる人も居るからって連れて来てもらったんだ」
「まぁ、国内じゃいずれ顔はばれるな」
「でしょ?
とりあえず、掘り出した石をお金の代わりに教えてもらって、だけど行ったり来たりの短い滞在時間とかいろいろこっちで買いそろえた道具の持ち運びとか、段々量が大きくなってこれ以上は無理かなって思ってたらフェルスが僕が見つけた石を一つ持って知り合ったお姉さんにギルドって言う所を紹介してもらって、ギルドって言うのは僕が掘った石をお金に換金してくれる所なんだ」
「多分それ凄く違う」
換金所みたいな言い方にレツはそうなの?とアウリールを見上げればアウリールも違うと言う。
少しだけ困った顔のレツだったが、大した差はないから気にするなと説明を放棄したアウリールを俺は思わず睨んでしまう。
フリュゲール人の原点を見た気がした。
だけど、大した差じゃないと言われたレツは気を取り戻して話に戻る。
「フェルスが換金してくれた石なんだけど魔石って知ってる?
魔力を閉じ込めた、この部屋のランプにも使われているような石を魔石と言って、どうやら僕が掘り当てたのはただの綺麗な石じゃなくって魔石だったんだ。
見た事もない位のお金になって、どうしようと思ったらフェルスは知り合ったおねーさんについでに家の紹介をしてもらったんだ」
「それがここか?」
「何件か見たんだけど、石を割ったりするから煩くしても大丈夫な所で、それなりに治安のいい場所で、小さくてもいいから一軒家で、できたら庭がある家が良いってフェルスが譲らなくってさ」
「ランの好みよりもフェルスの好みが反映されたわけか」
「最後は僕が選んだんだけどね。
ほら見て、近くに美味しい食堂があるんだ。ガーリンって言うごついおじさんの居る店だけど、すごーく美味しくって、決め手になったんだ」
えへへと笑うレツは俺の手を取って早速食べに行こうと言う。
アウリールはいつもみたいにレツの影に潜り込み気配を消して、レツは引き出しから財布と鍵を持って食堂へと行くのだった。
引っ張られて家から走って一分もしない所に在る店は食堂と言う割にはおしゃれとは縁遠いものの小奇麗とされた活気のある店だった。
パタパタと軽快な足音で店の中に入れば
「いらっしゃい!
おや、レツ久しぶりじゃないか!」
「トリア久しぶり!ご飯食べに来たよ!」
言いながら適当に空いてた席に座ればサービスと言って水の入ったコップが置かれた。
「珍しいじゃないか友達連れてくるなんて。
いつもの白髪のにーさんはどうしたんだ?」
「今日は急いでたから置いてきぼりにしたの。
代わりにユキトを連れてきたんだ」
言いながらもメニューを見ながらどれにしようと真剣に悩んでいた。
文字はフリュゲールと共通の文字のようで難なく読めるも、とりあえず鶏肉のローストっぽい絵の描かれた物をお願いする。
レツは同じものと肉を煮込んだシチューを二つ頼むと言う無謀な挑戦に小食なのに大丈夫かと心配するも俺の分もあるのか?と考えてしまう。
やがて運ばれてきた料理の香ばしさとシンプルながらもくどくない香草の香りに思わず涎を垂らしてレツ同様手づかみでローストにかぶりついてしまった。
トリアとレツが呼んでいた女性は小気味よく笑いながらレツの隣に座り
「ご飯食べたら少し時間くれないか?商談がしたいんだ」
「少しだよ?」
「メモを書いておくから単純に説明だけで終わるようにしとくよ」
そんな会話を聞きながら一心不乱にローストにかぶりついてしまうも、瞬く間に骨だけの姿になってしまった。
机の上にはパンとサラダだけ。
だけどレツの机の上には濃厚に煮込んだシチューがあり、いつもの小食ぶりはどうしたのか、俺同様ローストは骨だけの姿を残し、ごつい塊の肉なのにスプーンでほろほろと崩れるそれを上手そうに口へと運ぶのだった。
思わず涙目になってじーっとレツを見つめていれば
「トリア、悪いけどシチューをもう一ついいかな?」
「ああ、それじゃあゆっくり食べれそうもないからね」
気が付けば俺はだらだらと涎を垂らしてレツを見つめていた。
そんな俺に店内の至る所から笑い声が響く中、運ばれていたシチューは俺の予想を通り越した旨さにそんな笑い越えなんて問題になりもしない。
というか、なんつー厳つくごっついおっさんがこんな繊細な料理作るんだと思わず呻いてしまうも、何杯でもイケそうなシチューの後にはもう終わりと小さなケーキを早々に置いて行った。
危うくシチューまでお替りする所だった為に正直助かったが……残ったパンでシチューの最後の一滴まで綺麗にふき取って食べるレツの姿はとてもどこぞの国の王様には思えなかった。
俺も同じ事しているけど。
「あー!レツがいる!
ねえねえ!今日こそ私にもアミュレット作ってよ!」
「まてまて!今度こそ俺に毒耐性の指輪を作ってもらうんだ!」
「あ、あの!私に虫除けのお守りを!」
「いや、待て。ここは俺の攻撃力を上げる腕輪だろ!」
「ト、トリア―!!!」
「あー、はいはい。お前達レツがまだ食事中だろ?!
それに私の目の前で何勝手に依頼してるんだい?」
店のドアから入って来たレツと同じくらいの年ごろの男女4人がレツを見つけた途端、魔物を片手に机にかけよってきたのだが、討伐した魔物の返り血を全身浴びた四人の姿に抱き着かんばかりに攻寄られればこれはレツではなくても泣いて助けを呼びたくなると言う物だ。
ご指名を受けたトリアが四人に拳骨を落せば床の上に蹲って四人はごめんなさいと涙を落していたが、それにしてもげんこつの音がすごかったと、もそもそパンを食べながらこの事態を眺めている。
途端に静かになった店内に俺のパンを咀嚼する音と、トリアにしがみついて泣いているレツの泣き声が響く中
「いいかい。改めて言うよ。
レツには魔力がない!戦闘要員じゃないがこのギルド黎明の月に所属する理由はレツが持ってくる魔石とその販売の公平性と平等の為だ!
それを真っ先にこの黎明の月でルール違反する奴は一発でクビにしてやる。
レツに何か作って欲しい依頼をするならまず唯一の窓口の私に相談して全額一括で前払いの金を用意しな!」
レツの頭を撫でながらトリアは話はそれからだと言う男前さに何でこの世界の女の人ってこんなにもかっこいいのだろうと最後に差し出された紅茶を飲みながら店の隣に在るギルドへと向かうしょぼんとした四人組を見送れば、呆れたと言わんばかりにトリアはレツの隣に座る。
「まったく相変わらずレツも災難だったねぇ。
なまじヘンにいい石持ってる事知れ渡ってるからねぇ」
溜息を吐くトリアと呼ばれた女性に
「魔石にいい石とかあるの?」
何がどういいのか知らんが、確かにレツの工房の石は綺麗だと思ったがと思い出していれば半目のトリアが俺を眺めていた。
「な、なんだよ……」
美人に睨まれて思わず腰が引けてしまえば
「やっぱりあんたもレツのオトモダチだねぇ。
名前は?」
「ユキト」
「ユキト……聞かない名前だね。
まぁ、詳しい事は聞かないけどね。
せっかくウチでご飯食べてくれたんだからサービスで教えてあげるよ。
まず魔石って言うのは、簡単に言えば魔力を帯びた石だ。
大体がこう言った透明度の高い石の姿をしている。
陽に翳すとカゲロウみたいにぼやーと何かが揺れているのがわかるだろ?
魔力が肉眼で見えるくらい濃密となって結晶化しているのさ」
説明しながら隣のテーブルで食事をしていた男を引っ張ってきて、指に付けている指輪を手ごと俺達の目の前に持ってきた。
「普通出回ってる魔石って言うのはこいつが付けてるような一見宝石みたいな石ころで、魔力を込めると魔力に反応して石の持つ魔力が反応してその力を引き出す」
トリアの説明の隣の席の男は魔力を込めてくれればぼやーと光り輝いた指輪を見せてくれた。
「もともと人が持つ魔力と言うのは人が呼吸するように少なからず漏れている状態だから魔力を持つ人間が身につければ常時起動状態になってるんだけど、まあ微力すぎてこいつ程度だと起動しないって事もある。
勘違いするなよ?
これが一般的な状態だ。
誰もが彼もが魔石付ければそれだけで魔石の加護を貰えると思ったら大間違いだよ。
だから他からの魔力の供給を持っての魔石を得て魔石の加護を最大限に引き上げるのが私達魔力を扱う者の腕なんだけど、人も強い弱いとランク付けするように石にも宿す魔力の密度の高いと低いでランク付けされる。
例えば私のこの首飾りだ。
さっきの指輪と比べると見るからに宿す魔力が違うだろ?」
「なんか、陽炎みたいにうねりがあるね」
「そう。これでもかなりの金貨を積んで買った物なんだけど、このレツにもらった耳飾りを見てごらん?」
耳から取って掌に置かれた瞬間全身の毛穴からぶわっと何かが溢れだした気がした。
全身の毛が逆立つって言うよりも真夏のアスファルトに通り雨が作る蒸すような空気を作り出して居る感じ。
ただそれがなんだかわからなくて呆然と耳飾りを見つめていればトリアが俺の手から取り上げてしまった。
「なんだい、ユキトは魔力持ちだったか。悪かったね、レツの友達だから魔力なしかと思って考えなしに渡したけど、まあ、私の言いたい事はわかったかい?」
「ああ、逆に魔力を吸い取られたって言うか、全身から魔力が抜け出たって言うか」
「その感覚なら大丈夫だね。
下手に魔力の少ない奴に持たせると、魔力が増幅して溢れだして空っぽになって魔力欠乏を引き起こしぶっ倒れるのさ」
「危ないな。そんな危険なものを気軽に渡すなよ」
「だから、魔力なしだと思って渡したって言ってるだろ?
魔力が無けりゃ意味のないただの綺麗な石ころなんだからさ」
あぶねーなあと少しだけトリアから距離を取るように座れば、討伐した魔物の素材を売り渡した四人組が少し離れた席に座り食事を頼んでいた。
手と顔は洗ったのか少しだけ小ざっぱりした奴らをトリアは指を指して
「魔石の力を使うには少なからず魔力を提供しなきゃいけない。
強い敵を倒すのに強力な武器とそれを扱う体が必要とするように強力な魔石を扱うのにそれに呑まれないだけの強力な魔力を扱う精神力がなければいけない」
「分相応って奴だね」
「上手いこと言うじゃないか。
だけど世の中それを理解できなくて強い武器を持てば強くなった気がするように、強い魔石を持てば強力な魔術を扱えるようになるって勘違いする奴らが今も昔も当たり前のようにいる」
じろりと先ほどの四人を睨めば、かわいそうなくらい体を縮こめてしまい、居心地が悪そうだが黎明の月のギルドのメンバーだからか周囲は微笑ましくまだ未熟な彼らへの教育を見守っていた。
「まぁ、簡単に魔石のレクチャーをした所でだ。
石よりも宝石が高いのはその希少性からで、宝石よりも魔石が高いのは更なる希少性とさっきも言った恩恵が理由だ。
はっきり言うがこの首飾りはかなりの魔力防壁が展開できるだけの能力がある。
それに私の魔力を与えれば魔力防壁としてほぼ絶対防壁状態になる」
「魔力攻撃に関してだろ?物理攻撃は?」
「やなこと言うねぇ。まぁ、物理攻撃はからっきしだけど、それを補う腕ってもんがあるだろ?」
差し出された腕にはいくつもの剣の切り傷があり、美しく爪先を彩った手だが、その手には不釣り合いな剣だこがある。
ルゥ姉に似た手は傷だらけでも誇らしげに掲げていた。
「どちらかに集中できればいいのさ」
ひょいと肩を竦めながら今度はレツを睨む。
「まあ、この首飾りでそれだけの能力を持ってる石よりはるかに濃密な魔石をこの子供は価値を知らずにたった一食の食事の代金として渡して歩いてたんだよ」
失笑を零しながらレツは外の風景を眺めていた。
トリアと目を合わさずに震える肩は笑っているのか恐怖で震えているのかは聞かないで置く。
「一時突然こんな特上の魔石をごろつきまがいの奴らが持って酒場や娼館でやりたい放題暴れやがって大騒ぎした時があってね、誰が持ち込んだのか、どういうルートで流れているのか王都のギルド総出で捜査にあたったんだけど全くしっぽを掴めさせなくてね」
ふるふると震える後姿がかわいそうすぎてもう見ないよと言うように視線を外しておく。
自分が何をやったのかちゃんと理解してるのだろうから。
「そしたらレツがひょっこりうちに現れてこの石を持ってこれでご飯食べさせてって言うんだ。
原因はお前か?!この石ころ一粒で家が何件買えるか知ってるのかって言う事件だったんだよ!」
「フェルス、アリシア、アウリールは何やってんだよ!」
呻くトリアにつられるように保護者に向かって何やってんだと心の底からの感情を吐き出してしまう。
「えー?
だってさ、魔石を売れば石を加工する材料が買えるって聞いたし、ついでにご飯位食べれるだろうって教えてもらったからさ……」
レツが僕は悪くないと言うように反論するも
「あんな常識知らずな奴らの言葉を真に受けるからだ!」
俺もついにレツに指導する立場に立ってしまった。
うー……と呻くレツは何やら反論があるようだけど暫くしてコテンと机に頭を預けて「どうせ世間知らずですよー」と机に項垂れてしまった。
世間知らずと言う言葉が出るだけましか?
真剣に悩んでしまうがまあ、めんどくさいからほかっておこう。
気が付けば俺もかなりフリュゲール人的な人間になっていた。
ブックマークありがとうございます!
週刊ペースを目指して頑張っておりますのでどうぞお付き合いください。




