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秘密基地へ

13歳の誕生日を迎え暫くしたある朝、俺の部屋にルーティアがやって来た。

ランとアルト達に子供達の世話を任せて神妙な顔で入って来たルーティアの言葉をなんとなく想像できてしまい


「いつ?」


思わず俺から聞いてしまう。

何処か呆れたような、でも泣き出しそうな何かを堪えて


「既に船のチケットは取ってあります。

 10日後、リズルラントからの出立になりますが、移動の時間とトラブルを考慮して5日後には王都を出立します」

「案外時間あるね」


明日出発すると思ったと笑って言えばルゥ姉も貴方はバカですか?と苦笑を零しながら呆れて見せた。

それから机を挟んで俺の正面の椅子に座り

空中から何かを取り出した。

一本のチェーンに絡まる指輪やネックレスやらごてごてといろんなものが絡みついている。

古い記憶に一度だけ見たそれを思い出し、あの日以降ルゥ姉の魔力空間の中に片づけてしまったそれを何かとルゥ姉を見上げれば


「ハウオルティアに居た頃の父を始め、親友やら尊敬する亡き師の形見だったり、あの地に残った同僚の心ですね」

「あの時は暗くてよく見えなかったが、こうやって見ると結構な物だな」

「ええ、あと別にですがこちらに逃げてくるときにお知り合いになった方々からの物、そしてフリュゲールで頂いたものと分けて在ります」

「フリュゲールで頂いた物ってほとんどアルトとランからの物ばっかりだな?!」

「ええ、母の形見のネックレスによく似た耳飾りを用意して下さったランと、指輪を用意してくれたアルトには本当に感謝しきれません」

「またランの耳飾りは手作りだからな……」

「相当練習されたとか」

「フェルスと一緒にお隣のウィスタリアにまで作り方を勉強に行ってたって言うんだから感心するよ」

「ええ、まさか魔石をご自分で採掘し、小さなものを捨て値で売ってそのお金で勉強なさってたなんて、聞いた時は何の冗談かと思いました」

「本人ばかりが悪巧み成功してご満悦だったがな」

「ブレッド達も気苦労で大変です」

「ハウオルティアからの船に乗ってたのも一人でブルグラントに来たのを迎えに行ったのが理由だったし」

「男の子はやんちゃぐらいがちょうどいいのですよ」

「ユリウスたちもすでにランに感化されてるしな」


既にヴィンやティルルの背に乗る事を覚えたお子様は要注意人物として警戒されている。


「随分経ったな」

「はい。あんな小さかったあなたが今では私とほぼ同じ視線になって」

「ルゥ姉は今や2児の母」

「時間は人を変えますね。貴方はいつの間にか中身が変わってしまいますし」

「ルゥ姉は今や人妻だ」


言って二人で静かに笑う。


「楽しかったですね」

「変な奴らばっかりでさ」

「毎日が事件だらけで」

「平和なんだけど、毎日濃い日々だったな」

「ええ、初日から大移動で、どうなるかと思いました」

「嘘つけ。あんたが一番楽しんでたくせに」

「そんな事もありましたね」


いけしゃあしゃあと言って


「寂しくなりますね」

「ああ、でも最初に戻っただけだ」


二人で山道を馬車で駆け抜けて、昔の名前に別れをつけての偽装生活の始まり。

ランに拾ってもらわなければどうなってたか考えれば、今頃きっと俺達は笑ってられるくらいの余裕はなく目的もいつのまにか失ってただろう。

家を出る時持たせてもらった宝石は船の中で必需品を購入した時に使ったぐらいで、今も俺のこの部屋の引き出しの中で並べて片づけられてある。これからの旅に十分な資金は一つも減らずに済んだのは本当にありがたかった。


「旅立ちたくなくなりましたか?」


その言葉にさっきまでみたいにすぐ答える事が出来なかったが呼吸を一つ飲んで「いいや」と答える。


「あの時一緒に殺されなかっただけで、少しの間生き延びただけだ。

 もちろんランとの約束もある。

 生き延びる可能性を上げる為に毎日ランにぼこぼこにされたんだ。

 今は簡単に死ぬ気にならないね」


不思議とブルトラン王に勝つ気でいる自分に苦笑。

ルゥ姉も呆れているが、ルゥ姉も穏やかな顔をして「そうですね」と相槌を打ってくれた。


「実は私もシュネルに相談して魔法を教わっていたのです。

 もっとも精霊の使う魔法と人間程度の使う魔法では天と地ほどの差がありますが、それでも魔法の真理を覗き見たとまでは言いません。気配に振れたと言うか、今までは魔法によく似た魔術側に居た事だけが理解できただけでももうけものだと思っております」

「魔術って奥深いな」

「おかげで私の魔力も随分と底上げできたかと思いますし、ミュリエルとベーチェにもシュネルに預かっていただいただけあって随分と成長が出来たようです」

「ああ、手のひらサイズからいつの間にかお子様サイズになってた時はびびったな」

「オルトルートの中は精霊界に近いらしく、二人がこの世界に滞在していても問題が無いようで、その間にアリシアが二人にいろいろ課題を与えて成長させてくださったようです」

「やけに親切だなぁ」

「もちろん彼らとて総てフリューゲルに掛けられた呪いを解く為に必死ですので、出し惜しみなく私達を応援して下さってます」

「だよな。でなきゃブレッドやブルクハルトに国の運営や法律なんて覚えさせないだろうし」

「みなさん私達が生き残る事に希望を持っておいでのようです」

「ああ、簡単には死ねねぇよ」


沢山の事を学んで、たくさんの事を知って、たくさんの事を覚えた。

驚くほど鍛えられて、時にはガーランドまで行って魔物狩りまでやって来た。

ランに手を引かれるまま色んな人とも知り合いとなり、心残りとなるのはただ一つ。


「万が一の時、みんな悲しまないと良いな」

「何を無理な話を言っているのです」


贅沢な事を言うのは止めなさいと言うルゥ姉は静かな声で


「私達は幸せ者ですね」


その言葉を最後に席を立って部屋を出て行ってしまった。

静かな部屋で一人になった俺は誰ともなく宙に向かって呟く。


「別に死にに行くわけじゃない。

 堂々と生きる為の権利を奪いに行くだけだ」


かつてこの国の王は命の恩人ともなるべき人達を助ける為に二つの国を敵に回した。

彼と彼の家族達と総ての力を持ってねじ伏せて恩人を助け、二国を滅ぼしたと言ってもいい結果に彼は王となって今も責任を果たしている。

新米の王は右も左もまだわからない状態だけど慣れない王と言う立場と今もきちんと向き合っている。


「ガーランドを倒して、堂々と生きれるようになって……」


そしたらどうするか……


「そんなの王になってやる!

 そして堂々とランを友達と呼べる立場になって目の前に立ってやる!!!」


一人静かに、でも力を込めて決意をする。

ブルトランの国民をハウオルティアの国民とし、二国を統合して、ブルトランの王族を総て廃嫡させる。

残されているのは今では女子供ばかり。

話しに聞いていたが生まれる子供は女ばかりと言う呪いは今も続いているらしく、現ブルトラン王が亡くなった後にはもう男児は居ない。

ブルトランも精霊と契約している国。

契約内容は知らないが、女児しか生まれないと言う事は男児にしか王位継承が認められない、歴代の王が総て男性なので契約の1つにそんな条件のある国と見ている。

滅びるのは時間の問題で、極寒の国でも国が成り立つのは精霊の恩恵があるからだろう。

ブレッドは何も言わないけど、日々仕事を手伝わさせられる資料の中に周辺各国はもちろんブルトランの事ももちろんある。

ブルグラント王の父が亡くなった事、小父、弟、甥と男性が謎の病で次々に倒れてる事。

ハウオルティア城に居城を移して以来不幸な出来事が次々と重なり、ブルトランの重鎮達はハウオルティア王の呪いという噂に次々と逃げ出している情報が書かれていた。

どう考えても意図的な策略だよなと思う反面、誰がそれをやっているかなんて、精霊と契約した国だ。

ハウオルティア国は今でも地図には記載された国でもある。

精霊ハウオルティアの呪いかと二体の精霊に呪いをかけられて生きて行けるのだろうかと、その恐ろしさにぞわりと鳥肌がたった。

だがこれを考えれば地図の名前の書き換えが難航していると言う事もよくわかる。

ハウオルティアから逃げ出して既に4年が経っている。

なのに地図の書き換えができておらず、未だを以て精霊地図にはハウオルティアは現存している。

ラン達は地図の書き換えに莫大な魔力を必要とするような事を言っていたが、魔力が足りなくて失敗したのだろうかと顔が引きつりそうになるも、ひょっとしてとハウオルティアの精霊地図が見つかってないと言う事もある。

ルゥ姉も精霊地図何て見た事なさそうだったし、本当に紛失しているかもしれない。

あるのはブルトランの地図だけで、相互間系が伴う地図の書き換えには二国の地図が必要なのかもしれないと考えながらメモに認めていく。

読まれて困らない様にユキトの国の文字で、疑問を一つ一つ並べて書く。

関係ないけどハウオルティアの紙はここ数年で見違えるほど質が良くなり、そしてペンも改良されて書きやすくもなった。

羽ペンだったものをいわゆるつけペンと言う物を開発した。

開発したと言ってもユキトの国でも文房具屋でよく見るブラスチックのペン軸といかにもペンですと言う形のいわゆるかぶらペンの先っぽのセットをガーランドの職人達に作らせてみた結果、思わぬ良品としてが出来上がった。

どんなものかはユキトが良く知っていた。

ユキトの字は汚いからとばーちゃんの知り合いの書道教室に通わされて毛筆とこのペン習字を習わされた。

揚句に練習になるからと毎年年賀状にペン習字で書かされる羽目になって……

ユキト頑張ったな。

自分で自分を褒め称えた。

使い心地はブレッドが賞賛してすぐに騎士団内に配布したらすぐに元老院からもよこせとの受注が入り、それを見たルゥ姉が勉強用にと子供達と、魔法教室を開いている生徒さん達に強制的に使わせれば、学院からの要請も入り、ここまで広まれば貴族さんがたや街中でもすぐに広まった。

多分ものの数年で羽ペンからつけペンに変っただろう。

最初こそガーランドの製鉄所の方達に作ってもらったが、一度物が出来てしまえば多少鉄を携わった事の在る職人さんなら誰でも作れるものだ。

後はペン軸がいかに趣向を凝らすかになって……俺は何故かランがどこかで見つけてきた石で出来たペン軸を愛用している。

あほかって言うくらいに凄く贅沢だけどインクの付ける側には石にインクがしみ込まない様にオークみたいな味わいのある木だったり、ブレッドが面白半分で作らせてみた金属で出来たカバーを取り付けてある。

いつの間にかそれが改良されてニコイチのペン軸になったが緑色から青色にグラデーションのかかる……多分緑柱石かな?こんな綺麗なの博物館で見た事あるけど類似した別の物だよな?俺の勘違いで水晶だと思いたいな。そうならまだ気が楽だよな。と言いつつ、結構気に入って職場でも使わせてもらっている。

ちなみにブレッド達も俺とお揃いの、まあ、天然ものなので色はまちまちだがお揃いで使っている。

ったく、この王様は一体どこでこんな人を喜ばせるような事を考えるんだと感動して涙が出そうになる。

俺も年取ったな……なんて、中身は23歳だ。

まだ感慨にふけるには早すぎる。

このペン軸セットも高級な箱に布を張って納められた物が海外輸出向け産業に一石を投じている。

ガーラントでも優先的に輸出をし、コルネリウスの周辺でも王侯貴族の嗜みとしてペン習字を流行らせ、学問を学ばせるチャンスにとゼゼットが善戦していた。

なんせ、やっぱりランがコルネリウスに贈った宝石のペン軸の美しさにただ指をくわえている貴族は誰もおらず、どうやって作ったか知らないが金をレースのように仕立て宝石を包んだペン軸は度々人の目にも触れ、瞬く間に城中に噂が広まって、職人気質のガーランド人は瞬く間にそれと類似する技術を身に着けて行った。

とは言え、コルネリウスに贈ったような宝石はなかなか見つからず、そこは別の物で代用するのだが、それでも素晴らしいペン軸、そしてそれは宝飾技術として発展していくのだから世の中どう転がるかなんてわからない。

返せないほどの恩に少しは何か返せたとは思う物の、ほとんどが物と言う形でしか返していない。

ルゥ姉の幸せと言うかけがえのない物もこの句の人達は与えてくれて、俺は本当に何か返せてるのだろうかと考えていればひょっこりといつものように当然とした顔でランがやってきて、俺のこの悩みを聞いた途端笑い飛ばしてくれた。


「ディはほんとまじめだなぁ!

 そんなの比べる物じゃないだろ?

 大体ディは気づいてないかもしれないけど僕はたくさんの物をディから与えてもらっている。

 それは形じゃない物で、目に見えなくて、それを思い出すだけで幸せな気分になれる。

 ね?これはすごい事じゃないか!」


両手を広げて教えてくれたランに思わず涙が零れそうになる。

でも言わずにはいられない。


「それでも俺は、何か形になる思い出が欲しかったんだ」


達成するかわからなくても、俺達に預けられた悔しい思いは晴らさなくてはいけないこの旅は生きて再会できる可能性の方が低く、数年前に体験した死の思いが残された人達の為に何かしなくてはと何かを掻きたてる。

だけど、ランには上手く伝えれなくて、少し考えた後に


「じゃあ、秘密基地に連れてってあげるよ」


そう言ってオルトルートの一階に立ち、ランはアウリールを呼び出した。


「ねえアウリール、僕達を作業場に連れてって」

「……いいのか?」

「秘密はそのうち漏れていく物だってブレッドも言ってたし」

「自らばらしては秘密も何もないだろう」

「でも『秘密基地』って自慢したいじゃないか!」


むきになってランが言い返すのをアウリールは苦笑紛れに頭を一つ撫で


「仕方がない。

 フェルス、今からランとディータを『秘密基地』に連れて行く。

 ブレッド達が来たら出かけたと伝えておけ」

「承知」


いつの間にかアウリールの後ろでフェルスが控えていた。


「多分今日中には帰れないだろう。

 遅くとも明日の夕食までには戻る」

「承知」


それだけを言ってアウリールは俺とランの肩に手を回したかと思えば、そのまま光に包まれ、気が付けばオルトルートの遥か上空に居た。

ぴゅるる……ぴゅるる……とシュネルがいつの間にかランの服から顔をだし、俺はドラゴンの姿のアウリールの頭の上で目を白黒とさせていた。

山の方に向かってるとは言え、フェルスとは比べ物にならない速さと、フェルスよりもはるか上空、雲海を見下ろすように飛ぶのはさすがにビビッてアウリールの鬣を必死に掴んでしまう。

目も回るような速さとはこの事を言うのだろうか。

フェルスが飛行機ならアウリールは戦闘機だ。

しかも安全ベルトどころか席もない超危険な乗り物。

スピードの割にそよそよとだけ感じる風に魔力障壁を張ってくれてて安全なんだろうが、流線のように変わっていく景色に風景は楽しめた物じゃなく、やがて人の営む景色が見えた所でスピードを落としての低空飛行に変った。


「人に見つかるんじゃないか?」


漸く会話ができるくらいに俺は落ち着いたと自分に言い聞かせながらの質問に


「見つからない様に姿はくらましてある。

 まず人には見破られないだろうし、見破られたとしても全力で逃げる」


遥か先の城まで壊したドラゴンから出た逃げると言う言葉に思わず声を上げて笑ってしまえば


「声は聞こえるからなるべく静かに」


何故かいつもの表情のない顔を思いだせばそれこそ腹がよじれるくらい俺は笑っていた。


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