そうだ。学校へ行こう!
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昨夜の事件から夜が明け、花の城の中はやけに静かだった。
ブレッドもアルトもジルも通常勤務となり既に仕事に向かっていると言う。
ランとルゥ姉と俺の三人の食事となったのだが随分寂しいなと未だに旅をしていた時の賑やかな食事の光景ばかりを思い出してしまう。
「フェルスとかは食事はどうしてるの?」
昨日ちゃっかり同じ食卓を囲んでいた彼はこの場に居ないのかと探すも
「フェルスもだけどアウリール達聖獣はそんなにも食べ物を必要としてないんだ。
大気中の魔素を食べたり、太陽の光だったり、風だったり、そう言う物で十分なんだって。
だけどおかしとかお酒とかを嗜好品みたいな感覚で口にすることもあるんだって。
アウリールなんか戦って倒した相手を一口かじるのが最高だっていうし」
「あの人見た目綺麗系なのになんと言う肉食なんだか」
「聖獣の食生活は本当に気になりますね」
ルゥ姉と一緒にドラゴンの謎の食生活の話題に花を咲かせるが
「所で今日の予定は?」
「特にないですが…… そうですね。あればですがこの国の歴史と妖精に関する書物を見ることは可能ですか?」
「それだったら最適な場所があるけど、城の外だから何か適当に見繕ってもらおうか?」
「できればよろしくお願いします」
「で、ディは?」
ニコニコと何かやりたい事ない?と聞くランに
「俺も外出れないの?」
聞けば少し困った顔をして
「できればまだみんなに紹介する前だから出ない方が安全かも」
思い出すのはやはり昨夜の出来ごと。
疲れ果てて眠りに就いても飛び起きるくらいの火と風の強烈な魔力の発動の波動。
窓の外の火柱の熱量はもちろんその凶暴な輝きと唸る音にフェルスさえ部屋に飛び込んできて何故か一緒に寝ていたランの確認、そしてよく知ったルーティアの魔力に慌てて駆けつけるも、当の本人はつまらなさそうな顔でへたり込んでいた人達を眺めていただけで。
「そう言うランは?」
「僕?僕はこれから学院に行くんだ」
「学院?」
どっかで聞いたワードだなと思えば
「フリュゲール王立学院。ブレッドもアルト、ジル、カールとかも卒業したいろいろ話題に上がった学校だよ。
ハウオルティアに行ってたから休学してたけど、とりあえず今日から復学するんだ」
ぱくぱくと勢いよくご飯を掻き込む姿に時間があまりないのがなんとなくわかるが、正直この世界の学校が興味ないとは言えない。
寧ろ何をどうすればあの算数の程度の世界になるのか、興味は尽きない。
ここはひとつ正しい九才児にもどり
「俺も学校行きたい!ルゥ姉学校行きたいよ!
ランと一緒に学校行きたい!この世界の学校に行きたいんだってばぁ!!!」
お子様らしく思いっきりのわがまま。
え?と目が点になるランはきっと今その鳥の巣のような頭の中はフル活動をしているもののルゥ姉は何処か知らん顔。
だけどくるりと振り向いた顔は
「そうですね。学校なんて行った事が無いどころか学校と言う施設すら見た事もない貴方ですから。
誰か護衛についてもらうと言う条件で社会勉強の一環としてご一緒させてもらえないかお願いできないですかね?」
勿論私は今更学校なんて興味ないのでこの城で待たせていただきますがと付け加えるのを忘れない。
「じゃあ、ブレッドに聞いてみようか。
だけどみんなの邪魔は絶対しちゃダメだよ」
「うん!」
清く正しい(?)九才児効果と言うか、可愛い弟キャラが通じるチョロ過ぎるぜランと心の中でガッツポーズをしつつまだ残る減塩志向の食事を平らげて学校に向かうランの後ろをくっついて行ってきますと外郭へと足を向けた。
ただし荷物を取りに戻った後何やら羽の生えた子猫のような子犬のような何かを連れて来て、俺の頭の上に置き「絶対一緒にいる事が条件だよ」と約束をさせられたが、まぁ、これぐらいならいいかと「はーい」とかわいこぶってみた。
昨日はあまり意識はしていなかったが、外郭と呼ばれる区域では似たような色違いの制服を着た人達があちらこちらと目につかなかったのが不思議なくらい溢れていた。
そんな中ランが通ればみんな会話を止めて通路を開けて頭を下げる。
改めて王様なんだなと感心する中ランは全く周囲を見ないまま駆け足で目的の場所へと向かう。
扉の前には二人の男が立っていた。
いわゆる衛兵だろう。ここまで来る合間に一番よく見た軍服を着ていた。
「ブレッドいる?」
カッと踵を鳴らして敬礼した男達二人はしばらくの間面白いくらい目を見開いて俺の頭の子犬猫ちゃんを眺めた後
「ただ今会議中ですが」
「悪いんだけど時間がないからすぐ呼び出してもらえる?」
言えばどこか困ったかのような顔のまま了承し、ノックをして返事と共に内側から扉が開いた。
ドアの隙間から中を伺えば長いテーブルの最奥にブレッドがいて、左右をアルトと昨晩居た人が両脇を抑えていた。
そしてずっと手前の所にジルがいて思わず目が合った瞬間手を振ってしまった。
奥に居るアルトがどこか呆れた顔をしているもジルはニコニコと手を振りかえしてくれる辺り大人だなーなんて思ってしまうが
「みんな忙しい時間にごめん。ブレッド」
ちょっと来てくれると言うも
「申し訳ありませんが時間が押しているので何も問題なければその場仰って下さい」
「うわー丁寧な言い方の裏にめんどくさいからさっさと言ってくれだって」
子供らしく正直に感想を言えばブレッドのこめかみに血管が浮き上がるのが見えた。
やり過ぎたか?と思うもランは隣で苦笑するだけで
「僕ブレッドのこう言う所好きなんだけどやっぱりまずいんじゃないかなって思うんだけど……
じゃなくて、ブレッド悪いんだけど僕今から学院に行くんだけどディも一緒に連れて行くから内郭に残したルゥ姉の方よろしく?」
「まて。昨日内郭から出るなって言ったばかりだよな?」
こめかみを抑える姿が様になるブレッドに
「一応フェルスから護衛を借りてるし、学校行った事ないって言うから見せてあげたいんだ」
フリュゲールで学校に行った事のない子供って問題あるよね?なんて半ば脅迫的な言い方に
「どうせだめだと言っても連れて行く気だろ。
会議が終わり次第すぐにジルに迎えに行かせる。それまでの約束だ」
だってと言うランに
「約束だー」
と、かわいこぶって拳を釣り上げてご機嫌に喜べば俺を知らないおっさん達はにこやかに笑みを零すもブレッド、アルト、ジルと言った俺の見た目と中身の違う人間を知っている三人はものすごく胡散臭い目をされてしまった。
やっぱりやり過ぎたか?
まあいいと、ランの「お邪魔しました」と言う声に合わせて復唱してまた駆け足で城の中を駆け抜けていけば城を出たすぐ近くに学校は在った。
一般的にもよく見るお城。
これぞお城の正しい形と言う建物を見上げ
「お城だー……」
「うん。絶対こっちの方がお城だよね」
たとえ規模が呆れるぐらい小さくてもお城はお城。
見た目の通りの立派なお城が学校だと言うのだから世の中の価値観何て全く理解できない。
騎士団の制服を模した服装が制服らしく、ランはもちろん一同みんな同じ服装をしていた。
そんな中で年齢はもちろんフリュゲールでは見慣れない服を着ている俺は浮きまくっていて早速注目を浴びる事になっていた。
周囲の目なんて気にしないと言うようにランが俺の手を引いて学校の中を案内してくれる。
そして……
「学院長おはようございます!」
ランは一際豪華な装飾の施された扉をノックしたのち開ければ元気よく挨拶をする。
ただいきなり学院長って言うラスボスかよと思うも
「おお、陛下もうお帰りでしたか。
ご旅行はどうでした?」
「ただ今!
ハウオルティアは凄く自然が豊かな綺麗な国だったよ!
城に近い東の港からじゃなく西の港から見て回ったきたんだ。
治安はあんな時だからちょっと怖かったけど、それでもましだったんじゃないかな?
そうそう!学園長おすすめの林檎のパイ食べてきたよ!すごくおいしかった!!」
「気に入っていただけてなにより。
時に質問なんですがそちらの子供は?」
「この子はディータって言うんだ。
ハウオルティアからの帰り道に知り合ったの。
なんでも学校に通った事ないって言うからどう言う所か見せてあげたいんだけど……
ジルがお迎えに来るまででいいんだ」
上目使いにダメかな?なんてかわいい効果出しまくりの視線に好々爺とした風情の学院長は少しだけ笑みを零しながら
「学校に通った事が無いとは不幸の一言じゃな。
先生達には私から話をしておきましょう。
ディータ君じゃったな?」
「はじめまして!ディータ・グレゴールです」
ちゃんと挨拶をすれば皺の深い顔がニコリとほほ笑む。
「ちゃんと挨拶できるのは感心だ。
学校に居る間はラン君を始め、同じ教室のクラスメイトの勉強の邪魔をしないようにいい子にする約束じゃよ?」
「約束します!」
はーいと手を上げて言えば城からずっと頭にしがみついている謎の子犬猫に目が止まる。
「して、この子は?」
「あー、護衛と言うか、迷子になった時の為にもフェルスが眷属の子を貸してくれました」
少し頭が重いものの首筋は柔らかな腹毛が気持ちいいのだが正直暑い。
だけどこの子犬猫もとい、フェルスの眷属はぴったりと俺の頭にしがみついたままの姿勢をキープしている。
走ってもぶれないクオリティにもはや重いだけの被り物状態だ。
おかげですれ違う人みんなランに頭を下げた後俺の頭を凝視すると言う光景を何度か見る羽目になったが。
「そんなわけで、あまり気にしないでください」
「気にはなるが、そう言う事なら目を瞑るしかないのぅ」
ほうほう、と楽しげな視線でこの眷属を眺めていた。
「して名前は?」
「名前は?」
学院長と二人してランに聞くもさあと首をかしげるだけ。
「とりあえず何か呼びやすいように名前を付けようか」
「こういうのはルゥ姉がセンス良いんだけどな。
まぁ、見た感じからシルバーでいいんじゃね?」
「単純だって言われそうだね」
「なにもないよりいいさ」
返事ではないけど頭上で欠伸を零したシルバーに拒否がられているわけじゃないと理解して
「そろそろ先生方も全員集まっているころじゃろ。
面通しだけは先にしておこうかの?」
「はーい!」
俺は元気よく返事を返してランも一緒に職員室のような先生方の待機場所に連れられて紹介をされたのち先生とラン一緒に教室と向かう事になった。
案内された教室の最前列で紹介される事となった。
担任のビスコーサ先生の紹介に全員の何故に?と言う視線を全身で浴びながら俺はただただニコニコと微笑んでいた。
あえて空気読まないって大切だよな。
全力でこの状況をスルーし笑顔を振りまきながらランの席の隣へと特別に席を用意してもらってそこにおとなしく座って何やら今日一日の連絡事項を聞いた後先生は何処かへと行ってしまった。
「ちょっとラン!いきなり休学にも驚かされたけどこの子供は一体なんなの?!」
はちみつを垂らしたような柔らかな金の髪の少女が先生がいなくなった途端にかみついてきた。
若葉を思い出させる碧の瞳の少女の背後には何故か彼女の護衛ですかと言わんばかりの四人のクラスメイトを引き連れていたが、ランは俺の為にノートとペンを用意しながら
「さっき紹介したとおりディータっていうんだ。
出かけた先で知り合った子だけど、当分うちに住んでもらう事になったんだ」
随分大雑把な紹介だと思うも確かに間違っちゃいないとニコニコとしながら聞いている。
「ディ、彼女はオリヴィア・レオンハルト。
東の領主レオンハルト家の直系で、昨日会ったイゾルデさんと同じ四公の家の人なんだ」
「って言う事は領主様?」
コテンと首をかしげて聞けば
「領主様は彼女が未成年だから形式上はお兄さんが仮で引き継いで居るんだ」
「ふーん」
と言うしかない。
彼女のお兄さんならさぞ若い領主様なんだろうなと普通に考えればこれもたびたび聞いていた戦争関連の流れなのかと考える中
「ちょっと、私が話しかけてるのに勝手に話を変えないで!」
「そう言いたい気持ちはわかるが授業は既に始まっているのだよ。
席について待機しなくてはいけない時間ではないのかなオリヴィア・レオンハルト」
席の周囲に集まった生徒が振り向けば教卓には既に教師が教科書を開いていた。
全員慌てて席に戻るのを確認したのち
「今日は可愛らしいゲストがいると言うのに、歴史ある王立学院の生徒として情けない」
やれやれと言うしぐさに名指しされたオリヴィアと言う少女は後ろから見てても判るくらい屈辱と言う空気を醸し出しながら教師の言葉に恥じていた。
「さて、ディータ君だったな。私はスコット・ドレフェス、担当は数学だ。
学校に通った事が無いと聞いてはいたが、文字とかは大丈夫かい?」
尋ねられた言葉に頷き
「勉強はルゥ姉に教えてもらってます」
元気よく返事をすれば
「ルゥ姉?」
「ドレフェス先生、ディータのお姉さんでルーティアって言います」
「なるほど。
だがディータ君。そう言う時は“僕は姉に勉強を教えてもらってます”って言わないとルゥ姉を知らない人が聞いても理解できないぞ?」
「はーい」
丁寧な先生だと好印象を持つ。
ユキトの通っていた学校だったらまずこういった会話は成り立たなかったよなとあの寒々しい教室に思いを巡らせていれば
「ディータ君はハウオルティア出身だったね。
だが数学は世界共通だ。
もし判るようなら参加してくれても構わないし、判らなかったら簡単な問題を先生が作ってあげよう」
「ありがとうございます!」
一応いい子の見本と言うようにはきはきと返事を返せばドレフェスと言う先生は機嫌よく教科書を見ながら数字を書いて行く。
二桁同士の乗算。
学問が遅れたこの世界でどういう計算をするのだろうかと興味は尽きない。
同じように紙に式を書いてどういう展開式かと思えば謎の石が現れ、同様に似たような石をラン達は取り出した。
どういう素材なのか黒板に張り付く謎の石には一の単位、十の単位、百の単位、千の単位と書かれていてその石を動かしながら説明が始まり……
「おいちょっと待て……」
思わず声が出てしまったのは仕方がないだろう。
幾らでもありえないだろう。
それって小学生一年生の足し算の考え方じゃないかとツッコミが口から飛び出してしまうのはしかたがないものだと俺は思う。
そしてクラス中の視線を集める中隣のランがあわわと何処か慌てる様子も理解できる。
授業の邪魔をしたのだからしょうがないと思うが、だからと言ってそれはないんじゃないだろうかとのツッコミの方が俺には大きい。
「あのね、ディ、今は授業中で判らないなら……」
「っていうか、この計算の仕方の方が逆にわからなくしてるだろ」
思わずランに突っ込んだままお互い視線をぶつける。
パチパチと赤い瞳が何度か瞬きするのを眺めたあと
「とりあえずこの教材の石ころなんてまず要らん!
こんなものを頼ること自体が間違いだ!」
「ええー?!」
ランの抗議を軽く無視して机の上の石を片付けていた袋にまたしまい込む。
「二桁の計算って言うのはまず横に書いた数式を縦につむ。
大切なのは位事にかけ合わせる事。
そして一桁目から計算。次に計算した二桁目をこうやって積んで最後は積み重なった答えを足し算して出た数字がこの式の答えになる」
雪兎の世界で一般的に教えられた方法で展開していく。
位事に縦線を入れて最後の足し算の時にせっかく出した答えが迷走しないようにきちんと整列させておくことは基本以前の問題だと注意を加える。
「そうすればこの計算式に石はいらないだろ?」
ランに説明していたはずなのになぜか先生を中心にクラスメイトが全員集まっていた。
「君は一体どこでこの計算方法を学んだのかね……」
恐ろしくゆっくりとドレフェス先生が確認するように尋ねるも内心早まったと焦りながら
「ルゥ姉に……」
困った時のルゥ姉だ。
全部押し付けてしまえとするも教室の外からのノックの音。
その音に全員が顔を上げて慌てて席に着いてから先生がドアを開ければそこにはジルとブレッドが並んで立っていた。
「申し訳ありません。ディータを引き取りに来ました」
本当にお邪魔しましたと頭を下げる二人だが、教室の中では騎士団のしかも有名な二人が並んでいる姿が見えて歓喜の、でも小声での叫びがさざ波のように広まっていた。
「ディ、約束した時間だ。授業の邪魔になるから帰るぞ。
それにいくつか話も聞きたいんだ。勉強したいなら見てやるから……」
「ねえ、ブレッド、この計算式の方法って知ってる?」
ランが縦書きの計算式を見せて訊ねちゃったりしてくれるから仕方ないとブレッドは教室に失礼しますとジルを連れてやってくる。
「見た事ない計算式ですが掛け算ですよね?」
「ふーん、二桁の掛け算を今やってるのか」
興味深げにジルは縦書きの計算式が書かれた紙を興味深げに読み解くも
「ブレッドも石を使って計算してたの?」
フリュゲール一の頭脳を持つと言われているブレッドの石をちょこちょこ積み足しての計算する光景をどこか微笑ましく想像すれば
「俺は大体見れば答えが判るぞ?」
「数学脳かよ」
チッ、と思わず悪態をついてしまうが仕方がないだろう。
世の中そんな特異体質と言うには語弊があるが、天才と言うには十分な素質に嫉妬するのは当然の事だから。
「まぁ、でもこれなら計算ミスが減りそうだな。
一度軍の奴らに試させようか」
経理辺りが泣いて喜びそうだと言いながらその紙をたたんで当然と言うようにポケットに入れてしまう。
「それじゃあこれを回収してきますんであとよろしくお願いします」
「というかその紙を返せアクセル!」
「ドレフェス先生久しぶり。ランの入学式以来ですかねー」
しれっとした顔でドレフェス先生の伸ばした手を避けて頭に乗るシルバーごと俺をつまみ上げ、荷物のように肩に抱え上げる。
昨日までのラフな格好と、今日の騎士団の服を着込んでいる姿しか知らないけど、その下には意外にも筋肉質な体がある事を理解すれば抵抗も逃げる事は出来ないと早々に降参する。
「じゃあねー」
バイバイと手を振ってそのまま教室を退場する事になった。
あんな事をしでかした後じゃここが最良のタイミングだろうし。
その後職員室に寄って理事長に俺の回収の事を報告してそのまま手荷物のまま帰る事になった。
「そろそろおろしてくれると胃袋が助かるんだけど」
「逃げるなよ」
「逃げないってば」
苦笑紛れに言えばようやくおろしてくれた。
「と言うか、早速しでかしてくれたな」
ぱさりとポケットから取り出した紙切れをどこか興味深げに見て
「ユキトの知識か?」
「そうだよ。ちなみにその程度雪兎の世界じゃ9才児ならだれでもできる程度だよ」
いきなり掛け算で躓いた奴らにはもう追いつけない世界だという事は臥して言えば
「学問が発展してるんだな」
「有名な所でミレニアム懸賞問題って言う賞金を懸けられた問題って言うのがあるらしくって、今もその答えを求めて研究に励む世界だけどね」
「それは答えが出る問題なのですか?」
「さあ?だけどいくつかあるうちの一つが解明されたって一時期新聞をにぎわしてたけど」
「一体何のための研究何ですか……」
「それがいくら記事を読んでもさっぱり何にも理解できなかったから何だか」
清々しいまでに何が何だかわからなかった事を言えば二人も苦笑。
「三次元がどうたらこうたら、宇宙がどうたらこうたらって、頭のよすぎる人達の話は理解できないって言う事だけははっきり分かったけど」
「三次元とは?」
ブレッドではなくまさかのジルの質問に
「一般的にしか知らないけど0次元が点の世界、一次元は線の世界で、二次元が面の世界、
三次元が立体の世界、いわゆる俺達が今生きているこの世界の状況の事だね。
四次元が三次元の世界に時間を組み合わせた世界、五次元とか六次元とかもっと何かあるらしいんだけど立証できてるのは三次元まで。
そもそも三次元の住人である俺達が四次元を立証する事はまず無理だろうし」
「なんでです?時間ならこうやって流れてますし」
小難しそうな顔でそう言うが
「時間は常に一方方向にしか流れない。
過去、現在、未来それを自由自在に扱えることを立証しない限りこの世界は三次元のままなんだ。
だから……
俺が別の世界で魂の記憶を持って転生したって言う可笑しな状況がむずがゆくて仕方がない」
解明できないこの現象をあまり考えないようにしている。
何処かクラスからはみ出された存在のようなものだと考えてた自分がまさか世界からもはみ出されるとは思ってもなかったことで……
「だけどディはこんな幼いのにたくさん勉強したんですね」
無理に話を捻じ曲げてまで話題を終わらせ、頑張りましたねとジルは何処か励ますように頭を撫でてくれるが
「言っておくけど雪兎は18才で死んだんだぞ?」
「待て、俺とタメか?」
ブレッドの待ったにジルも目が点になっている。
「言う機会を失くして黙ってたけど……ルゥ姉に殺されたくないから内緒の方向でお願いします」
この年齢がばれた時何か恐ろしい事が起きる予感がする。
直感と言うか動物的な感と言うかよくわからないが、墓場まで持っていかなくてはならないようなこの事実をお願いだから黙っててくださいと頭を下げて言えば頭上で二人が謎のアイコンタクトをしていた。
うん。この事は間違っても口に出して言うんじゃなかったと盛大に汗をかきながらポンと両肩に乗せられた二人の手にもう涙を流すしかない。
「知ってるか?
フリュゲールでは18才と言う年齢は既に労働で自分を養わなきゃならん年齢だ」
「体は小さいですからね。私と一緒に事務的な仕事を覚えて行きましょう。
大丈夫です。部外者が見ても全く判らない内容から、誰が見ても全く問題ない内容まで幅広く取り扱っているので。
慣れればすぐに覚える事の出来るお仕事ですよ」
恐ろしくて二人の顔が見れない俺の頭上で「わふ……」とシルバーが欠伸を零した音だけがやけに耳に響いた。




