真実の審判
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エンダースの屋敷は白の壁に臙脂を基調とした屋敷になっていた。
毛足の長いカーペットも、風に優雅に舞うドレープのカーテンも、そして所々に飾られている壺や絵画も臙脂をカラーテーマにした物がならべられていた。
どれもまだ新しいのか埃臭さやくたびれた感じはなく、屋敷こそ年代物だが不釣り合いなくらいに新しい物が並んでいた。
ブレッドが地下室から運び出した男をそのカーテンでくるむ。
衣類ははぎとられ、下半身を中心に視線を合わせる事の出来ないその惨状に誰もが沈黙に陥ってしまう。
それほどまで娘に手を出した事が許せないのか、いっその事一思いに楽にしてあげたい状況にもかかわらず、やっと得た眠りの中で悪夢に追われるようにヴィッキーに逃げろと言う男にせめて一目彼女に合わせてあげたいと思ってしまう。
その結果更なる悪夢が待ち受けてる事となってしまっても、彼には必要な物だろう。
たとえそれが毒だとしてもだ。
「さて、これからどうする?」
ブレッドの静かな声に
「エンダースに会う。
アルト達を待ってられない。
イゾルデやカールも巻き込んで、エンダースを打ち取る」
そんなランの決意にブレッドは肩をすくめて「過激だな」と呟けば
「フリューゲルもこの家の住人をもう必要としていない。
エンダースの血を引く者はまだ山ほどいるし、フリューゲルの選定はもう始まってる。
選定が何かは僕は知らないけど、すでに次のエンダース候補はほぼ決まってるらしい。
使用人を逃がしてこの屋敷を焼き払おう。
この屋敷はあまりに血の匂いが溢れている……」
赤く脈動する瞳とシュネルの羽の色が同じように波打つのを見て何ががすとんと理解できてしまった。
ランはシュネルと呼ぶが、この鳥こそそれなんだと。
命の象徴としたその姿とこの少年の傲慢なまでの奔放さは決して一人の意見ではない事を理解する。
「この屋敷だけでいいのかい?」
思わずと言うように、逃げられたりでもしたら、どこかに隠れられたりしたらとかを想像する。
俺達がここまでやって来たようにだ。
だけどランは首を振り
「この屋敷だけで十分だ。
後は契約してる妖精達との契約を強制解除して力を奪う」
何で?と思ったのが顔に出たのかブレッドが理由を教えてくれた。
「契約中に主を失った妖精は相手を呪ったり、それこそ命を懸けて殺しに来るから。
契約がなければ妖精達は何事もなかったかのようにただ去るんだ」
「それはそれで寂しいな」
「だから妖精使いは死に際には妖精を解放する。
そうすれば妖精達は悲しむ事なく次の使い手を探したり、気ままに長い寿命をまっとうするのさ」
俺の事を忘れて幸せになってくれを実行すると言う妖精達を見てちらりとシュネルを見る。
俺の言いたい事を理解してか何故か上から目線で睨まれてしまった。
それはまるで、
そんな事でランの事を忘れると思っているのか?
といった所だろうか。
彼は妖精ではないのだからと考えれば深い情を持った生き物だと理解する。
当事者のランは俺とシュネルの間に何が起きているのかも知らないままブレッドと話を続ける。
「とりあえず、使用人の所に行こう」
「ああ、逃げてくれるならそれはそれでラッキーだが、向かって来たら俺も切り殺していくぞ」
「手を汚すのは僕だけでいいのに……」
「お前が汚れる必要はないさ。
それよりも出来る限り、ぎりぎりまで精霊騎士の剣は取るな。
頼むから俺を信じて任せてほしい」
「ブレッドのお願いなんてずるいな。
まぁ、可能な限りでお願いは聞いてあげるけど…… ランはどうする?」
あまりよくわからない会話をしていた二人だったが急に振られたために話を聞いていなくて小首をかしげる。
「人は殺せる?」
意味が分かってないと思ってかわかりやすいように言い直したランの言葉に俺は頷く。
「魔法でだけど何人か殺した事がある。
剣で勝負はまだ無理かもしれないけど、俺は魔法があるから……
命を弄ぶふざけた奴らを俺は許すつもりもない」
その言葉にブレッドは口笛を吹く。
よく言ったと言うより、おっかねーなんていう軽いノリで。
俺のその決意を聞いた二人は部屋に飾っていたサーベルをブレッドは手にし、電気スタンドじゃないけど、それに似た形状の背の高い燭台から棒を抜いて、ランは器用にくるくると振り回す。
「この人はとりあえず後で外に運ぼう。
それまではここに居てもらおう。アウアー、監視をお願いしてもいいかな?」
「そう言うのはまず俺に聞いてくれ」
言ってブレッドが再度アウアーとプリムにこの男の護衛と監視をお願いする。 そしてチェルニにアルト達に早く合流するように案内役をお願いして窓から彼女を送り出した。
ランは未だ魘される男に向かっておとなしくしていてくださいねと言葉を残して堂々と部屋を出た。
あまりに堂々とドアを開けて出て行くので、おいおいおたくの王様大丈夫?とブレッドを見上げるも余裕を湛えた口元でその後ろをついて行く。
謎の自信に着いて行けばすぐにこの屋敷で働いているメイドに出くわした。
「あっ!侵にゅ……」
多分侵入者と叫ぼうとしたのだろう。
だけどその前に一気に詰め寄ったランが手にした棒で鳩尾を叩き付ける。
空気が抜けた人形のように前のめりになって、血を吐きながらそのまま倒れたメイドを引きずってすぐそばの部屋に押し込める。
「えげつない……」
「力加減は苦手なんだ。訓練された人を上手く落とすだけなんて、無理な話なんだよ。
大体使用人何て最終防衛ラインの戦闘要員の仮の姿だ。 半端な攻撃をするとこっちが危ないよ」
相当な手練れだったという事か?
とは言っても女性の人にも躊躇いなく殴りつけるなんて、逞しいなと感心していいのか軽蔑していいのかと思うも
「まずは炊事場を制圧しよう。そこに使用人の大半がいるはずだ」
ブレッドがそう言いながら、まるで知ったる他人の家と言うように迷いなく足を進める。
これがゲームだとするなら部屋を一つ一つ調べて目ぼしい物を頂いて行くのだが、現実はまっすぐ目的地に向かわなくてはいけないようだ。
と言うか、本当に他人の家なのに我が家のように迷いなく炊事場へと向かっていく。
お城のように大きな家なのだが、間違いなくそこは賑やかで、夕食時を目の前に突然やって来た客人という予想もしない訪問者に炊事場は混乱に期している。
「ひょっとしたら客人の夕食も必要だ!肉をもっと切り出して来い!」
「ワインはどうします?」
「ビンテージがあっただろ!執事にセラーの鍵を貰ってこい!
四公が来てるんだ!旦那様に恥をかかせるな!」
「ついでにデザートワインも選んでください!
デザートは密桃のコンポートです!」
俺達が入口に立っていても誰も気づかないその炊事場には料理長を始めとした三人のシェフ、ソムリエにパティシエと、まるでレストランの厨房とでもいうようなその光景を別次元の光景のようにみてしまうも、ブレッドが壁にかれられていたフライパンを床に落とせば全員の手が止まり、注目を浴びる。
「誰だ……」
手に持つ包丁やバッドで戦闘態勢を整える厨房の人達に
「ランセン=レッセラート=フリューゲルだ。
逃げるなら追わない。
かかって来るなら皆殺しだ」
すげー悪役なセリフに思わず再度おたくの王様大丈夫?!とブレッドを再度見上げるも彼はかっこいいと言うように口笛を吹いていた。
この国の重鎮ダメだ……
なんて思うも厨房の人達は誰ひとり逃げ出そうともせず、戦闘態勢を構えて襲ってきた。
誰一人も逃げないと言う事実に少しだけ悲しそうな顔をしたラン。
少しは自分の持つ名前に期待したのだろうけど、見事裏切ってくれた彼らに俺は一歩足を前に出す。
「こんな相手にランは戦う必要ない」
間に現れた最年少の俺を一番のターゲットとしてシェフを始めとした人たちは襲い掛かってくる。
子供相手にも全力とは…… 大人げないなんて思いながらも浮かべるイメージは森の中の出来事の再生。
『水球』
決して乾く事のないこの大気に含まれる水分が膜となりシェフ達にまとわりつき、水の匂いを嗅ぎ取れたかと思えば瞬く間に丸い形になる。
地につかなくなった足は水球の中でバランスを崩し、供給されない酸素に誰もがもがく。
突然の理解不能な出来事にパニックになり、水球の中に閉じ込められた悲鳴さえ俺達には届かない。
そして数分もしないうちに誰もが動かなくなった頃俺はこの魔法を解除した。
正直、背後で言葉もなくこの光景を一緒に見守っていたランとブレッドの顔を見るのが怖い。
だけど真に倒すのはこの人達じゃなくて、でもカールとイゾルデさんが心配で
「行こう」
短い一言で二人を見ないように床だけを見ながら振り返れば不意に頭の上に手が置かれた。
「よくやったとは言わない。
だが、他の奴らに気づかれないようにやったのは上出来だ」
ブレッドの誉め言葉ではないものの小さな感謝。
二、三回と頭を撫でて行ったのは慰めたつもりだったのか?
どうとればいいのかわからなくてほけっとしていれば急に手を引っ張られた。
その手がなんだか暖かくて視線が少し上に向く。
少し困りがちな表情に胸が一瞬ギュッと締め付けられたが
「助かったよ。
だけど何も一人で背負う必要はないんだから」
手を引いてくれたその暖かさとその言葉に呼吸が止まる。
「一人じゃないんだから、ね。
さあ、行こう」
予想もしなかった優しさに止まった呼吸をゆっくりと動かすように飲み込む。
「うん」
やっとできた小さな返事。
先行していたブレッドが足を止めて待っててくれて、だけど笑ってくれていて、繋いでくれていたランの手を握り返す。
もう怯えないと。
周囲に使用人が他に居ないか確認して賑やかな声のする方へと足を運ぶ。
途中、茶器を下げてきた使用人に出会うも魔法を組み立てるよりも先にブレッドが手にしていたサーベルが躍る。
瞬く間に絶命した使用人と砕け散るティーカップ。
その音に集まる使用人が俺達を見つけて大きな声で騒ぐ。
「曲者―っ!!!」
炊事場方面は全滅させたはずなのにどれだけ使用人を抱えているのか知らないが、次々人が湧いてきてさすがにブレッド一人では対応できない。
そこで再度
「ランセン=レッセラート=フリューゲルだ。
そこをどけ!」
名を名乗るも誰もどこうとしないどころかフリュゲール王に向かってくる。
なのにブレッドは「やっぱりそうなったか」なんてつぶやいていて、余裕だなと感心さえしてしまう。
「フリュゲール王がこの屋敷に居るわけない!
そいつは偽物だ! 切り捨てろ!!」
言っちゃいけないよそのフラグと思った瞬間何かがひゅんひゅんと耳元でなる。
横を振り向いた瞬間ランが駆け出していた。
身の丈ほどの棒を棍のように振り回し、回転を利用してメイドさんの顎を下から叩き上げる。
そのまま勢いに乗せて体を回転させてた反動を利用して別の男の脇腹に叩き付ける。
あっという間に二人を撃沈させれば、崩れた包囲網にブレッドが切り込んでいく。
サーベルを軽々と振り回して一人、二人と切り付けて行き、ランが棍を振り下ろして止めを刺す。
いや、多分生きて入るんだろうが、容赦なく叩きのめされて当分意識は戻る事はないだろう。
「ランおっかねー」
思わず呟いた言葉にブレッドは笑う。
「知らないと思うがフリュゲール一の武闘派は我らが王様なんだぜ」
「ちょっと、まるで僕が戦闘狂みたいないい方やめてよ!」
「ははは!」
笑いながら使用人を一人、また一人と倒しながらサロンへと向かう。
ブレッドの懐から出てきたルクスに何か言ったかと思えば、彼は屋敷の二階へと飛んで行った。
それに目を向けないブレッドは彼らを信頼してるんだなと感心さえしてしまえば、食事を用意していたからダイニングへと向かってるかと思ったものの聞き覚えのある声はサロンから聞こえる。
何処かヒステリックな声と慌ただしい叫び声。
使用人達の相手をしながら初めて人を殺した時の呪文を思い出して解き放つ。
『風よ、鋭利な刃となり、敵を切り裂け!』
目標の部屋へと続くドアを風の刃で切り刻めばその先に居たイゾルデさんとカールの見開いた目をしていた。
そして豚が服を着ていると言う言葉を実行しているかのような音楽室の壁にかかっている肖像画風のヅラを付けた男とやたらと宝石をジャラジャラとつけて着飾った妙齢のおばさ…… 女性。
何故か意味もなく睨みつけられてしまった。
何この人と思うも羽根の付いた扇子で目から下を隠す。
是非ザマスとか言って欲しいキャラだなと思うも執事らしい人が豚とおばさんを守っていた。
「ランセン=レッセラート=フリューゲルだ。
久しぶりだエンダース。僕が誰だとか言うなよ」
何でこの子はこんなにもかわいい顔してるのに男前の発言を連発するんだろうと18歳のお兄さんとしてはいつもの穏やかな状態でずっといてほしいと願ってしまうのは仕方がないだろう。
「これはこれは、誰かと思いましたらフリュゲール王。
わざわざ王都からこのような田舎までようこそおいでくださいました。
ひょっとしてマーダーとリズルラントがこの場に居るのも王のご指示で?」
膝をついて頭を下げる男の行動に思わずブレッドにどう言う事だと視線を投げてしまうが
「いいや、それとは関係ない。
僕がここに居るのはフリューゲルの意志だ」
どうしてと驚く男の表情は全く意味を理解しない物。
ソファに座ったままのイゾルデさんもカールも眉間を寄せてこの展開についてこれてないようだが
「フリューゲルが説明を求めている。
なぜこのエンダースの屋敷は血の匂いに満ちているのか。
この土地から腐臭が漂うのは何があっての事かと聞いているんだ!」
これでもかと目を見開いた男に何も知らないのかと思ったものの、その後ろに隠れるおばさんの扇子がより顔を隠す。
「理由を知っているのは後ろのおばさんのようだな」
おばさん呼ばわりすれば視線で人を殺せるのではないかと言うような勢いで睨まれてしまった。
「いったい何の話でしょう」
目を細めて知らぬ存ぜぬを貫き通すはずの様子だったけどそんな余裕さえどこからか聞こえてきた爆音に吹き飛ばされてしまった。
ドゴーンっ!!!
ベキッ!!!
バキッツ!!!
ドゴッ!!!
ガシャーンッ!!!
俺達でさえ振り向くその容赦ない音にはもう嫌な予感しかない。
恐る恐ると言うように振り向けば破壊音と共にやって来たのは目にも鮮やかな髪を揺らし、俺達の反応を期待通りと薄い唇が愉快と言いたげな笑みを浮かべてやって来たルーティアがいた。
「ふう、ようやく合流できました」
ふう、とか言いながらも疲れた様子を一切見せない彼女の背後には目の前の出来事を一切信じられない、止める事さえできなかったんだと言う顔をしたアルトとジルがいた。
そしてその背後は外の森まで見通しのいい扉が開いていて…
扉……だったと思いたいな……
「ルゥ姉……」
思わず指をさしてそちらへと振り返させれば
「ああ、あれですか。
他人の家の間取り何て興味ないので、とりあえずあなたの魔力に向かって真っすぐ進んできただけです」
当たり前の事を聞かないでくださいと言うようなその言葉に思わず俺でなくとも項垂れる。
「ははは…… まぁ、無事合流できてよかったよ」
冷や汗を流しながら笑みを浮かべるランの胸元からちょこんと頭を出しただけのシュネルの視線も呆れた目をしていたが
「さて、魔女裁判の時間です。
そこのエンダース領主夫人。貴女には総てを吐いてもらわなくてはいけないのでね」
魔女裁判……
魔女をあぶりだす裁判だと思ったら魔女が主導権を握った裁判のようだ。
弧を描く唇が薄っすらと開き
『我求めるは真の口
汝紡ぐ言葉、紛える得る事なき音
我が言葉に偽る事決して許さぬ、真実の審判』
ルーティアを中心に光の輪が広がった。
あっという間に光は部屋を突き抜けて、この屋敷の外まで駆け抜けて行った。
何が起きたかわからないけど、ただ空気中に雑然と漂う魔力が総て規則正しく整えられている…… ような感じがしてる。
ただ理解したのはその中心にルーティアがいて、俺達はその支配下に居るという事だ。
「今ここは私の魔法によって支配させていただきました。
さあ、真実だけの世界です。
皆さん一緒に腹を割ったおしゃべりしましょう」
敵も味方も巻き込んでの本音の暴露大会が今始まった……
~おまけ~
「ねえ、ルゥ姉。
ルゥ姉はベーチェとミュリエルとどうやって知り合ったの?
精霊って滅多に出会えないんだよ」
紅玉の瞳を持つ少年の突然の質問に読んでいた本を閉じてその美しい瞳を見る。
どう答えようかと思うも、その真実を見抜くようなまっすぐな瞳に偽りはゆるされない。
そんな印象を持つ幼い少年を敬して大した事でもない真実を話す事にした。
「ただの偶然ですよ。
その日、はるか上空で目にも美しい青色のドラゴンと、それはそれは鮮やかな緑色のドラゴンが真っ白の巨大な獅子の様な鳥の様な何かを相手に、それは派手な戦闘を行っていましてね。
あまりの莫大な魔力のせいか空に歪みのような物が出来たかと思ったらそこからベーチェとミュリエルが流されてきたのです。
二人とも今よりももっと幼く、そしてその戦闘に巻き込まれてそれはひどいけがをしていましてね、私の魔力を与えながら何とか精霊の国まで帰れるようにと看病してあげたのです。
とりあえず呼ぶ名前がないのも不便なので名前を付けたところ、それが契約のきっかけになってしまいましてね」
「あああ、あのバカ蜥蜴とアホ猫め……」
苦笑交じりに話す私の言葉に少年は呻きながら頭を抱えて蹲っていた。




