エンダースの闇
評価ありがとうございます!
残酷な表現がありますのでご注意ください!
生まれて初めての露出系ドレス(?)を纏ったイゾルデの足はなかなかにして重い。
ルーティアに手を引かれてと言うか半分引っ張られながらなんとかマーダー家へとやって来た。
出発前に彼女の部下だろう通称副隊長さんが寒いでしょうからとストールを持ってきてくれたものの、彼女を一目見て考えるように言った一言はイゾルデさんを撃沈させた。
「隊長、斬新かつ、あなたの魅力を十分すぎるほど引き立てるそのお姿は我が隊の誇りでもあります。が、ただでさえ……なのにそのドレスはないでしょう……」
周囲から噴き出すような同級生の笑い声を聞きながら彼女は泣いた。
言った方もいつもの事だとそのままお見送りの体勢で見送ってくれた。
むしろ「このドレスのアイディアは素晴らしい。貿易都市と名乗る以上あのドレス以上の物を作って見せますよ」と、商人根性逞しく宣言してくれた。
やがて辿り着くクイーン・ファロメーラ号に乗船していた貴婦人の方々の姿を見てなお創作意欲に湧き上がるとは想像に容易いが、それでもこのリズルラントの主へのセクラハと言い扱いが雑すぎないだろうか。少々心配になる物の
「イゾルデは昔から弄りがいがあるからほっとけばいいんだよ」
アルトさんの言葉に元同級生達はそろって頷く。
とは言うがずっと背後で「私なんか……」とずっと泣かれているのは正直言って鬱陶しい。
鬱陶しいなんて言っちゃいけないんだろうが、下手に関わるとめんどくさくなりそうで遠慮したいと言う物だ。
そんな彼女もフェルスの空の旅ではカールとニコラと一緒に絶叫をし、マーダー家に着くころには四公の誇りも何もないただの疲れ切ったただの人になっていた。
バッシュさん達にニコラを預ければ早速花嫁修業を始めることになり、かつてこの屋敷で働いていたと言うメイド長を臨時で再雇用する事にしたらしい。
既にメイド服を着て待機していた辺りニコラは歓迎されているという事だろう。
「では、我々はエンダースに向かう事にしましょう。
向こうに到着したらカールとイゾルデ、セバスチャンも同行しなさい。
マーダー家の継承承諾とリズルラントが認証した事。
そしてさらりとヴィッキーとやらの情報収集を。
我々は二つに分かれて町でのエンダースの評判の収集と、ヴィッキーの救出、最悪そのお相手が屋敷の中で囚われている可能性を考えての捜査と行きましょうか」
突如名前の挙がったセバスチャンは驚いた顔をするものの
「旦那さまとリズルラントだけでエンダース家に送り込むわけにはいかないだろ」
バッシュさんのため息交じりの言葉に少しだけ青い顔をするセバスチャン。
「ひょっとして私も聖獣様の背中に乗らなくてはいけないのでしょうか……」
「当然でしょう」
何をいまさらと答えるルーティアはさあ行きますよと号令をかけて、マーダー家の庭でくつろいでいたフェルスに乗り、音もなく振動もなくまた空の旅を楽しむ事になった。
1時間後
遠くに赤い屋根のエンダースを眺める丘の上に居た。
そこにはマーダー家の避暑用の家があり、その車庫にはマーダー家の家紋入りの馬車が置いてあった。
当然管理する者達も居て、突然の訪問には驚いていたものの、すぐに馬車の準備をしてくれて、湖を眺める木立に囲まれた庭で休むようにとフェルスを案内していた。
さすがにフェルスと合わせて三時間の空の旅は疲れたものの、当のフェルスはランに次はどこに行くのかと言うようにしっぽをぶんぶんと振り回してご機嫌で居る。
その見事な首の周りのファーを撫でまわすルゥ姉はもうしばらくしたらまたマーダーのお屋敷までお願いいたしますねとご機嫌に話しかけていた。
執事の鏡のような名を持つセバスチャンは初めての空の旅で半分腰が抜けてる状態だったが、なんとか誤魔化すように背筋を伸ばして見せる。バレバレだけどね。
それから大急ぎでエンダースに使いを送り、遅れてカールとイゾルデは八家に相応しい馬車に乗って乗り込んでいった。
「さて、ラン。私たちは街に繰り出してエンダースのお家状況を聞きに行きましょうか」
「というか、土地勘のないお前ら二人だと迷子になるぞ」
至極もっともな事を口にしたアルトの意見ももっともだが
「じゃあ、僕がランとお屋敷の探索するよ。体が小さい方が何かと便利だと思うし」
「なら俺もランと一緒に居よう」
そう言ったのはブレッド。
身体のサイズ的にはアルトとジルと同じサイズだが
「保護者代わりだ」
もっともな言葉に頷いてしまう。
「でしたら我々が情報収集に出ましょう。
陽が沈むころまたここで落ち合いましょう」
エンダースの屋敷の門が見える木立の中。誰にも姿を見られないようにと木陰の中を移動するのを見送ってから
「さて、どうやって乗り込むかだな」
言えばブレッドがにやりと笑う。
「四公八家どの家にも共通する事だが家の表側はああいった立派な門と柵が構えているが…
家の裏手は案外無防備に出来てるのさ」
既に柵はなく、屋敷もすでに木立と雑草に隠れて見えなくなっている。
「ラン、シュネルは?」
「すぐそこにいるよ」
さした指の先には小さな命の炎が具現したかのような色を纏う小さな鳥が羽を休めていた。
「この周辺に妖精達が警護に当たってるかもしれないから、騒がないように言ってくれ」
「うん。もうお願いしてあるみたいだよ」
苦笑紛れにそう言うラン。
あまりの手筈の良さにこれではまるで
「なんか俺達の話を聞いていたみたいだな」
なんとなく居心地の治まらない感じになるも
「シュネルと僕はね、お互いの見た物、聞いた声を共有できるんだ」
凄いでしょと笑うランの顔をぽかんと見てしまう。
「これは僕がシュネルと契約をしたからなんだ。
妖精、聖獣共にこういった特別な関係になれたりならなかったり千差万別だけどね。
それにそんなに心配する事はないよ」
言って俺に微笑む。
「共用する目と耳はお互いの意志が反映される。
僕が見せたくなかったり、シュネルが聞かせたくない言葉は伝わらないようになってるんだ」
思わずブレッドにそう言う事が起きているのか確認すれば
「こういうのを加護を貰うと俺達は言うんだ」
手入れのされてない林の中を俺達が進みやすいようにショートソードで枝を切り落としながら進みながら
「アルトとジルは自分のウェルキィと念話が出来るし、上位妖精のウェルキィ達が作り出した剣を貸してくれる。
俺のシェムブレイバー達は小さな妖精だからかな。そう言った加護を与えられるくらいの力はないものの、普通一人に一体の契約の所4体も契約してくれた。加護よりも俺にはありがたい」
そう言ってほほ笑む優しい顔にブレッドがどれだけあの小さな妖精達を愛してるかがうかがい知れる。
そんな愛おしい関係に思わず俺も羨ましくなる物の
「お前にはルーティアがいるだろ。最強の相手じゃないか」
ランと曰くありげに頬笑む二人に彼らがいかに何か勘違いをしていたかようやく理解できた。
「先に言っとくが、別にルゥとは恋人とかそういった類でもないし、そっち方面に発展する予定もないぞ」
思わずジト目で二人を見つめ返し
「最悪二人で共倒れか、ルゥが俺の盾になるかのどっちかだ。
もうこの契約はルゥの忠誠と共に遂行されてる。
ブルトランを打ち取った後の事を考えるなら、ルゥとは永遠の共犯者だ」
甘い関係はいらない。必要ない。
周りがそんな目で見るのはお好きにどうぞ。
だけど勘違いはしてほしくない。
こういうのを伝えるのは難しいなとどんな言葉で言えばいいかわからずにいれば
「そうなるとアルトの努力って……どうしよ?」
小首かしげるランに俺も聞きたい。
「アルトって本気でルゥに惚れてるのか?」
確かに美人で体つきも最高にやらしいし、それでいて正真正銘の処女だ。
処女大好物な人には格好の物件だが、アルトがそんな趣味だとちょっと残念な気もする。
「惚れてるかどうかは完全に惚れてる。
趣味に関しては普通の趣味だから安心してもいいが、手ごわい相手ほど燃え上がるのがあいつの悪い癖だ。
その証拠に珍しく自分を持て余す位に惚れ込んでいる。
実際船の上でルゥにドレスを贈ったり、指輪でもプレゼントしようとしたけど、港での結婚詐欺師居ただろ?
あの一件を見てそこらで買った指輪をプレゼントできないと気づいたらしく鞄の底に隠してるぞ」
呆れたような事の顛末に俺もランも呆れかえってしまう。
「そう言えばルゥはうちの内部を俺より詳しく知ってたからな……」
あの家で生まれてあの家で育ったと言っても間違いでないくらい芸術方面にも精通していて、あの審美眼はそこで磨かれたと言ってもいい。
「そんなこったで、お前を立派にライバル視してるぞ」
「誰か真実を教えてあげて下さい」
「なに、それこそあいつの努力しだいだろ」
「でもさ、そう言った事を抜きにしてディはルゥ姉をどう思ってるのさ」
キョトンとした顔で聞くマセガキに俺は溜息を吐き出す。
「実際俺の兄貴の嫁さんになるもんだって思ってたんだ。義理の姉さんぐらいにしか思えないし、あの性格は俺には無理だ」
クラスに一人はいるリーダー系女子。
決して真面目な学級委員タイプではないものの、ムードメーカーと言うか、みんなを引っ張っていく存在と言うか体育会系女子と言うか……
俺の苦手なタイプで、今までの過去の間ずっと声をかけられない程度の距離を保ってきた、そんな相手だ。
たまたま側に居るのが日常化して兄弟と言う役を演じなくてはならなくなったために何とか仲良くなれたものの
「できたらさりげなく隣に座ってくれるような優しい人がいい」
会話がなくても微笑んでくれたり、慰めてくれたり。ただ側に居てくれるだけで温かな空気を作ってくれる相手がいいと思うもそんな優しい人が伝説の人だと理解していてもだ。
「側にルーティアがいるだけに無理な相手だな」
「そもそも無理な話だし、もし居たとしても相手の意志もあるしな」
まさに伝説の人。
何より忘れていけないのはあと数年で命を懸ける出来事が待っているという事だ。
雪兎の時もそうだが俺にはとことん彼女と言う存在に縁がないなと苦笑いをしてしまう。
それから暫くの間ブレッドによるアルトの女性遍歴を暴露してもらいながらやがて開けた場所に出る。
屋敷を裏手から見た位置に出たようで、使用人の作業場や色々な小屋が建っていた。
「ヴィッキーは館の北側に居るんだって。後この館には地下室がある。
使用人小屋の地下にあるらしいよ」
「らしい…… か」
「なんでも鎖でつながれた人が居るんだって」
「穏やかじゃないな」
シュネルに先導されながら腰をかがめてすばやく移動する。
使用人小屋の床の下あたりから鉄の柵で封じられた通気口があるものの、さすがにそこにはいる事は出来ない。
「室内に潜り込むしかないか」
ブレッドが何やら胸のポケットから小さな笛を出した。
こんな状況だと言うのに笛を吹くも音はしない。
何してるんだと思う間もなくすぐさま光が走って、小さな勇者がそこにそろっていた。
犬笛みたいなものかと理解するもブレッドはゼスチャーでシェムブレイバー達に指示を出していく。
二手に分かれた彼らはアウアーとプリムが通気口の中に潜り込み、チェルニとルクスが窓の中を覗いてから室内へと入る事の出来る通気口からもぐりこみ、外に続く扉の鍵を解除をした。
なるほど。
こう言う事を予想すればブレッドの潜入捜査能力の高さを理解できる。
それからどこかに地下室につながる扉を探すも、さすがに外につながるようなこんな場所にはなく、別の部屋へと向かう事になったが使用人が逃がしてしまう可能性のある小屋から入れるような場所はないはずだ。
「ブレッド、入口は多分館の方だ」
「気が合うな。面倒で考えたくなかったけど多分じゃなく普通に考えれば館だよな」
心底めんどくさそうに言うブレッドにランはぷっと小さく噴き出すも
「イゾルデ達のおかげで使用人達が館に集中している。
さっさともぐりこむぞ」
使用人達の作業場を覗き込むように作られた廊下を小走りで走り抜けて、館の裏方の方へと足を向ける。
おもに使用人達がうろうろしないような、それでいて表立った場所でないそんな場所を。
「アルトの家ならこのあたりの部屋からいけるんだけどな…」
あまり日当たりのいいとは言えない応接間。
その暖炉周辺や本棚辺りをがさごそと触る。
「アルトの家にも地下牢みたいな部屋あるの?」
何気ない質問だったが
「そりゃ四公八家のどの家にもあるはずさ。
当主は常に狙われる存在だからな。表立って処理できないような相手はそう言う所で確保するのさ」
「うわー。なんか血なまぐさい話だね」
「ま、俺はアルトがその部屋を使ってる所を見た事ないがな」
「その前にどれだけ入り浸ってるって話だよねー」
それも大問題でしょと笑うランに何となくブレッドの人間性を見たような気がしたが、突然柱時計が動いた。
その背後には地下へと続く階段があって、まるで映画のようなセットに感動するも
「さてと、行くか」
そういうからくりを常日頃から見てきただろう彼らは手をかけさせやがってと気だるげにつぶやく後姿にもっと感動していいんじゃね?と無言で訴えてみた。
湿気とカビ臭さが漂う石造りの階段を降りれば外から零れ落ちる陽の光だけが頼りの明るさだった。
衛生的なのかそうでないのかよくわからないけど、その漂う匂いにあまり清潔感は感じられない。
その際奥に四つの光が躍る。
ブレッドの妖精達だ。
ブレッドは頷き急ぎ足でそこへと駆けよればうめき声が漂っていた。
鎖に手足そして首を繋がれて強制的に立たされていた男からは悪臭が漂い、そして夢か現かという悪夢の世界を漂うように視線は虚ろだった。
見た目からたぶんカール達と同じ年のまだ子供と言っても差支えのないその人は、まともな食事どころか睡眠すら摂らせてもらえないようで随分とやつれた……いや、老齢とした姿をしていた。
人はどれだけ残虐になれるか。
その言葉を具現化した男の片目は抉り取られていた。
そして喉が渇いたのか半開きの口の中の歯はなく、戒められていた手の爪もない。
思わず叫び声を上げそうになる口に手を押さえれば込み上げる吐き気は止められず、壁に向かって吐き出す。
拷問
そんな言葉があり、そんな描写もこれまで幾度となく本やテレビの中で見てきたはずだ。
だけど、初めて見る拷問を受けた人を直視できるほど心の準備は出来ていなくて……
「ルクス、この格子を切り落とせ」
地を這うようなブレッドの声。
吐き気が止まらない俺の背中をさすってくれるランでさえ、ただ無言で。
小さな金属音が牢屋を壊して、次にブレッドが「鎖も切ってくれ」と出した指示に従い枷をすべて外す。
床に倒れ込まないように、牢屋から出した所で壁にもたれ掛けさせるように座らせれば、彼は何かを探すような目と呻くような声が血まみれの口から零れ落ちた。
「ヴィ…… キー……
逃げ…… ろ……」
彼の時間はいつから止まってしまったのか判らないが魘されるように繰り返すその言葉に俺は彼の、その汚れた体を綺麗にする。
そしてまだ所々塞がりきってない傷跡に治療を施し、ゆっくりと水を飲ます。
よほど喉が渇いていたのだろう。
喉が水を飲む事を拒むように何度も吐き出すも、ゆっくりとゆっくりと根気よく水を飲ませれば、人心地ついたのか彼は気を失うように眠りに就く姿に瞠目する。
ついさっきまであんなに笑って楽しい世界があったのに、そのすぐそばでこんなにも理不尽な目にあっていた人が居るとは考えもしてなくて、ただただ言葉を失うだけの俺のすぐ隣で
「こんなの許せない」
小さな声だったがランの怒りに満ちた声に俺でなくとも頷いてしまう。
「間違ってる。
四公八家はこんな事をする為の物じゃない。
こんな事を許されるための家じゃない!」
震えるほどに握りしめた手の上に命の色をした鳥が止まる。
ぴるるる……
こんな時でも美しいと思ってしまう鳴き声にランは小さく頷く。
「そうだね。僕等はこんな守り人を断罪する為に居るんだ。
四公八家の陣を穢すような守り人にはその命で償ってもらわなくちゃね」
可愛いと言う言葉が似合うランなのに、その口から出たのは空恐ろしい言葉。
ブレッドはランのこういった部分を知っているのかただ無言で耳を傾けるだけで
「行こう。
フリューゲルの名の下に精霊騎士は剣を取るよ」
まるで何かの誓いのような言葉はまるで呪文のようで、立ち上がり歩き出す彼の後姿はいつもの懐っこい姿でなく、戦争に赴く戦士の姿をしていた。
~おまけ~
ルゥ姉と旅を始めてから息をつく間もないくらいのめまぐるしい日々が続いた。
怒涛のイベント乞うご期待!
そんな煽り文句に流される日々の中で俺は転生者だと言う部分から何とかこの世界で優位になる方法を模索しなくてはならない。
何せ既にツミの人生を歩んでるんだからこれくらいしないとやってらんないし。
とりあえずお決まりのアレを試してみようと思う。
部屋の中には誰も居ない。
周囲に居ないのも確認済みだ。
それから呼吸を一つ深く吸い込んで俺は叫んだ。
「ステータスオープン!」
手を横に大きく振り払って大きく目を見開く。
そしてそこにはいつもの何の変哲もない日常がただ映されているだけだった……
「くそっ! オプションじゃないのかよっ!」
あまりの恥かしさに床の上で身悶えている姿を何故かタイミングよくやって来たルゥ姉にばっちりと見られ、意味ありげに笑われてしまった。




