貿易都市リズルラント
賑わう街の中には大きな通路の両脇に露店が並ぶ。
新鮮な野菜と果物や花を始め魚も手作りのパンも、とにかく食べ物が並ぶ。
勿論食べ物以外にも衣類や食器、ありとあらゆるものが所狭しと並んでいた。
大きな声の客引きと威勢の良い商品の紹介。
込み合い、ぶつかり合い、だけどそれすら気にさせない賑わいがむしろ心地よい。
「リズルラントは相変わらず雑然としているな」
どこか祭りの日のような賑わいのある日常に、露天を覗いては見た事もない料理や菓子に目が奪われてしまえば歩く足も浮き足立つ。
「そういやもうお昼時だっけ?先に何か食べようか」
ランの提案にブレッドもそうだなと、適当に露店で済ます事にした。
「朝あれだけ食べてたけどディは何か食べたいものある?」
「あの肉料理がべたい」
長いパンにソーセージを挟んで赤いソースのかかっている料理。
どう見てもホットドックにしか見えないよなと懐かしい料理を指名してみれば
「サンドイッチか。手っ取り早いな」
ブレッドの言葉に思わず空色の瞳の彼を見上げる。
「パンにはさんで食べる料理をそう言うんだ」
「随分と俺の知ってるサンドイッチと違うから驚いたと言うか…」
誰にも理解できないギャップに頭を抱えてしまうも
「お二方もこれで構いませんか?」
「は、はひー。出来れば軽い物をお願いします」
「お、同じく。量も少なめにしてください」
カールとニコラは近くのベンチで寄り添いあうように座り込んでいた。
フェルスと言う名の対翼のウェルキィに乗って馬車なら3日かかる所を小一時間ほど出来たのだ。
ハウオルティアの東の港で姿を現したあのウェルキィのスピードはまるで飛行機の様な感覚で、だけど結界を貼って風圧とかそういった物から守られていた為に慣れているラン達や、逆にエキサイティングしているルゥ姉、そして飛行機のスピードを知っている俺からしたら楽しい道のりだったのだが、常識人の二人にはちょっときつい旅路のようだった。
顔色が少し悪い物の果物のジュースを飲んでいるあたりほかっておいても大丈夫だろう。
その合間にアルト達が適当にサンドイッチを買って持ってきてくれた。
せっかくだからいろいろな物を試してみてくださいと、フリュゲール初心者の俺の為にみんなのお奨めを選んできてくれた。
だけど、俺がまっさきに手を伸ばすのはホットドッグ。
まだ湯気の昇る焼きたてのソーセージに目にも鮮やかなトマトっぽい赤いソース。
良く知っている匂いも合わさって勢いよくかぶりつく。
ばくっ…… もぐもぐもぐもぐ…… もぐ……
心の中で盛大に涙があふれ出た。
粗挽きのソーセージの中に爽やかな香りのハーブが混ざり、噛むたびに溢れだす肉汁と絡まって、まるで爽やかなジュースのよう。
そして、酸味の利いたトマトが煮詰められた濃厚なソースの中にもハーブの香りが漂うも……
塩味が足りねえ!!!
ハウオルティアでも感じていたのだがこの世界は断然に料理に塩気が足りない!
どちらかと言えばどの国も海に面していて塩には苦労してないだろうに何て心の中で叫ぶも、ひょっとしてとある一つの仮定を思い出す。
まさかお約束の……
「ねえ、フリュゲールって塩が採れない国?」
聞けば
「当然だろ。
この大陸で塩はブルトランやディザグランドと言った北方の国々に岩塩の塩鉱がある。
この国は農耕に適した土地だが、塩にはとんと縁がないのが悲しいとこだ」
肩をすくめたブレッド先生の説明に涙が出そうになった。
岩塩頼りじゃ仕方ありませんよねー……と。
「どうして誰も海水から塩を採るって言う発想をしないんだよ」
「何を言ってるのです。いくらしょっぱいからと言って海水の中に岩塩の結晶があるわけないでしょ?」
ルゥ姉の真顔でそう言い放つ内容に本当に涙が出てくる。
「海の中に巨大岩塩でもあれば潜ってでもとりに行くのにな」
カールまで言うのだから、世界共通の知識とは困ったものだ。
まだ海が見える港町。
何でも揃うこの露店街で視線を見回せば金属製の鍋もある。
「俺は美味い料理が食べたいんだ。
減塩嗜好結構!
だけどこんな塩をケチった料理で満足できるかって話だ!」
「何言ってるの?こんなおいしいのに」
もぐもぐとホットドッグを頬張るランの口の周りにはトマトソースが付いている。当然俺も付いているが、ハーブで味を誤魔化したトマトソースなんて俺は納得しない。
「あの鍋買って港に行くぞ」
全員が何を言ってるの?と言う顔をするも、歩き出した俺にみんなは黙ってついてきてくれた。
ジルに鍋を買ってもらって、歩いて5分もしない港へとやって来た。
朝降りたばかりのクイーン・フィロメーラ号の整備に追われている光景を横目に、側に居た漁師の人にバケツを借りて海水をくみ上げる。
それを鍋に入れて
「まず海水を沸騰させる!」
ふーん。なんて食べ終えたサンドイッチの他にもここに来る合間に何やら買っていたようで食べながら見学をしていた。
女性陣は近くのカフェで甘味を楽しんでいる始末。
お前らな……なんて思いながらも高火力の魔法で海水をドンドン蒸発させていく。
半分ほど減った鍋にまた新たに海水を入れて煮詰めて、また繰り返して。
それほど量は必要ないからと三度ほど繰り返した所で海水の追加を止めた。
やがて水分が減り、白い結晶が現れる頃にはぐらぐらと煮立てる鍋の中を誰もが覗きこんでいて、
「ラン、そのソーセージにこの白いのをかけて食べてみてよ」
串に刺さった巨大ソーセージにランは不思議そうな顔をして鍋の中の塩を触ろうとするも、そこはついさっきまで沸騰地獄の鍋の中。
ちょっとためらって、ソーセージごと突っ込むと言う暴挙をしてくれた。
そして王様だと言うのに周囲の奴らは止める事もせず、また当の本人は他の誰かに毒見をさせる事無くぱくりと食べて……
「か、辛っしょっ!なにこれ!み、水っ!」
飲み干していたジュースのコップの中に俺は水を入れてあげれば一気にそれを飲み干す。
「そりゃ海水はしょっぱいもんだろ?」
言いながら皆さん手にしていた棒などで白い物体を口にして盛大に眉間を狭める。
「確かに塩ですね。多少物足りないですが」
冷静にルゥ姉は言うも、アルトやブレッド、ジルと言った国の重役の方達は真剣な顔をして鍋の中を覗き込んでいた。
「そこが岩塩との違いだよ。
岩塩なら高級品だけど、これだけある海水なら高級でもなく誰でも手に入れる事が出来る」
何せ人は砂糖がなくても生きていけるが塩がなくては生きていけない。
過剰摂取すればまた毒にもなるが、これだけ塩のない世界だ。
多量に使うという発想は早々にはないだろう。
「だけど、今回は魔法で海水を蒸発させただけだけど、薪を使うと大量の木を使う事になるから。
調子乗るとすぐ森は丸坊主になるから火を使っての方法はやめた方がいいぞ。
お奨めは塩田だけど、その土地は使い物にならなくなるし、雨の具合も判んないからな」
「海水の被害で使い物にならない土地など海沿いのこのリズルラントではいくらでもあります。
雨は雨季と乾季に分かれてますが、その塩田と言う物の話を聞かせてもらいたいですわ。
ですがその前に、どうしてこの場に陛下と隊長一行。そしてマーダー家が居るのかお話し願いましょう」
ふとかけられた声に振り向けば薄い水色の髪をゆったりとした三つ編みに結わえた美貌の男装の麗人がそこに居た。
もとい、ブレッド曰くこのリズルラント領の領兵の制服だと言う。男装でもなんでもなかったらしい。
「ようイゾルデ。ちょうど会いに行こうと思ってたんだ」
「ノヴァエス…… だったらさっさと会いに来なさい。
こっちは陛下の乗った船が魔物に襲われたと言う情報から、マーダー領の港で降りたとか、対翼のウェルキィの目撃情報やら、港で怪しげな実験をしてる輩がいるとか、昨晩から徹夜でそんな情報に振り回されている方の身にもなりなさい!」
「お疲れ」
あっさりとブレッドが労えばイゾルデと呼ばれた彼女はあまりの扱いに目元にうっすらと涙を溜めて
「ヴィブレッド! いくら上司でもそんな言葉はあんまりでしょう!」
きーっと喚くも今のブレッド様には風の音程にしか聞こえないようだ。
「と言うかヴィブレッドって誰?」
「ブレッドの正しい名前。
お父さんがつけてくれた名前だけど親子関係上手くいってなくって、お母さんが愛称でブレッドって呼ぶから、その名前で公式、一般書類全部登録しちゃうと言う暴挙をして勝ち取った名前なんだ。馬鹿だよね」
「うわー」
ですよね。
いくらなんでもパンなんて名前はありえないですよねとランの回答の何とも言えない暴露にブレッドは胸を張っているものの、そう言う人が騎士団と軍を纏める総隊長になっていい物かと頭を抱えたくなるが
「それよりここでは周囲で働く者達の邪魔になります。
すぐ近くの私の仕事場まで移動をお願いします」
何処か目が血走った状態の彼女にこっちに異論は当然なく、塩を煮詰めた鍋を持っての珍妙な移動となった。
それからほどなくしてイゾルデが案内してくれた屋敷へとたどり着いた。
仕事場と言うかどう見ても
「なんかの事務所みたい」
「港に近いと言う点では都合がいいですわね」
「実家はリズルラント領主として相応しくあの丘に建っておりますが、今はリズルラント家の汚点として形としてだけ残しています」
青い屋根の屋敷を遠くに眺めながら思わずと言うようにつぶやいた俺とルゥ姉の言葉にイゾルデさんは無表情で教えてくれた。
フリュゲールの人達は訳知り顔で視線を反らすあたり、あまり良い話じゃないと理解ぐらいできる。
「詳しくはまたノヴァエスあたりにでも聞いなさい」
それだけ言って、事務所と言うか、リズルラント兵の待機所として使っているだろうこの屋敷の二階の一室に案内されて、部下だろう人にお茶を貰う。
だけど、さっきからたらふく食べていた俺達にはお茶の入る余地すらなく、ただ冷えて行くのを眺めているだけだったのだが……
「ようこそ貿易都市リズルラントへと言いたい所ですが、やはり裏切りの家の茶など口にもできませんか」
「いや、単に食い過ぎて茶すら入れる余地すら今の俺達にはないだけだ」
アルトが真顔でそんな残念な真実を口にすればイゾルデさんは頬をひきつらせて
「ならそう理解させていただきます」
言ってようやく落ち着いて向かい合う。
「さて、陛下がここに居る理由はともかくマーダー家の後継者がここにいると言う理由から察するに、カール殿がマーダー家を引き継ぐという事でよろしいのでしょうか?」
「はい。さしあたって彼女、我が領のターク男爵家嫡子ニコラと婚約をした事をご報告にまいりました」
言えばイゾルデさんは眉を顰め
「貴方にはエンダースの娘と言う婚約者がいたのでは?」
世間に広まっている約束を思い出して口にする。
「その事だが……」
一連の話をアルトが説明する。
話の内容にイゾルデさんの顔はどんどんと厳しくなり、話が終わった頃にはどこかやつれていると言ってもいい表情になっていた。
「まだ家の為に犠牲を支払う、そんな事をして地位を守ろうとするものが居るとは……」
思いっきりお家騒動の匂いをまき散らさないでくれと思うも
「所でみんな知り合いっぽいけどどういった関係?」
貴族同士のつながりや上司と部下としての繋がりにしてはフランクすぎる。
それなりの美人さんだ。ルゥ姉あたりならもしかして元カノとかそう言う修羅場を期待してしまう所だが
「同じ王立学院の同級生です」
「その割には皆さん年齢がバラバラすぎない?」
俺の直球の質問に誰もが視線を反らす。
「何か面白い理由がありそうですね。素直に白状しなさい」
ルゥ姉の尋問がカール達にも手が伸びるが
「簡単な話ですよ。
我が国きっての天才問題児さんが7歳で王立学院に入学してきて、6年かけて卒業する所を飛び級制度を利用して3年で卒業してしまったんですよ。
その際私とアルトがその馬鹿げた話にお付き合いした所、学年首席で卒業する所だったイゾルデを蹴落とし上位を我々で占めてしまった為に逆恨みをされると言う可笑しな話が起きてしまいましてね」
昔を懐かしむようなそんな楽しそうな顔で語るジルに和む空気と顔を真っ赤にして屈辱に耐える顔。
だけどそれにしてはひどい話だ。
「なんでブレッドはそんな逆恨みされても仕方がないような無茶苦茶な事をしたのです?」
子供ならもっと子供らしく学校で友達と馬鹿やってればいいのですよ?と、窘めてるのか貶しているのかわからないような言いぐさに
「あまり親父に援助とかしてもらいたくなかったから、効率よく学校卒業して早く職にありつこうとして考えたら手っ取り早く学院に入る事を思いついて、卒業すれば軍にも入れるからそれでいいんじゃないと気が付いて……な?」
「ふざけた話だろ?
栄えある王立学院に最年少で入学したのに親もつれずに一人でやってきたからどんな親だと思ったら、親はまさか王立学院に入学してるとは思わず、近くの街の学校に入学してると思ってた始末。
揚句に飛び級した事も教えてなくって、こいつの実態を知った時は軍の入隊式の日の制服を着た日と言うひどい話さ」
「いやいや、その前に何で親が気付かなかったって言う話だよ」
「こいつ家が遠くにあるんだとか嘘ついて学校の寮に住みついてたからな。学校と家も割と近くて夕方親が仕事に行く前にちょろっと顔を合わるだけで安心させてたらしい。
俺だって卒業するまで同じノヴァエス出身だとは知らなかったんだよ」
「今となっては懐かしい話だ」
あまりにめちゃくちゃな話に俺でなくてもルゥ姉でさえ白い目でブレッドを見るも、彼はそんな事慣れっこだと言う顔で全く動じる事もなかった。
「おかげで私は四公家なのに八家に劣り、ましてや子供と庶民にすら追い抜かれてと散々両親から嫌味を言われて……」
「そんな他人と比べるようなクズな親に褒められて貴方は嬉しいのですか?」
話の途中だと言うのにルゥ姉がその先を遮るように言葉を重ねた。
伏し目がちになるイゾルデは一瞬体を強張らせるもゆっくりと視線を上げてルゥ姉を見る。
「大体あなたの魅力は親で在ろうと図る存在ではありません。
ましてや他人と比べるなんて物として見て、子供として見ていない証拠ではありませんか。
そんなものに親を名乗る資格なぞ在りません!」
凛と言い放つ彼女の存在に
「お名前を伺ってないようなのでお聞きしても?」
「ルーティア・グレゴール、弟のディータです。お見知りおきを」
「なるほど。あの頭の固いハウオルティアで紅蓮の魔女と呼ばれるだけの存在ですね」
「当然でしょう。力社会の中でなぜこの私が私より惰弱な存在より下に見られないのかさっぱり理解できないですからね」
正体がばれてるとかそう言う以前に、彼女のその逞しさに心の中で拍手を送る。
主に、そんな彼女と結婚を望もうとした兄に。
紅蓮の魔女と言う二つ名はこちらでも知れ渡っているようで、カールもニコラも今更ながらに驚くも
「ルゥ姉ってひょっとして有名人?」
「いいえ?ただ過去にいくつかの戦場で大量虐殺に近い状態の勝利をいくつか挙げた事で悪目立ちしすぎただけです」
「だけかよ」
ブレッドのツッコミと言うか、それを爽やかな笑顔で説明する辺り背筋に冷や汗が流れる中
「私もブレッドほどではありませんですが、手っ取り早く実績が欲しかったので多少の無茶と無謀を繰り返しただけです」
そう言って冷え切ったお茶を一口口に含んで
「それも全て無駄になってしまいましたが」
どこか悲しそうにその話を締めくくった。
兄ハウゼルが彼女に恋したようにルゥ姉も兄に恋をしていたのは確かだ。
だが公爵家と男爵家と言う身分の違い。
その差を埋めるべく、ルゥ姉はその力を持って公爵家に嫁ぐにふさわしい実績と戦力を作り上げたのだろう。
公爵家で管理するべき相応しい存在として。
血なまぐささでは俺の知る中では最悪レベルではないかと思うも意外に健気だなと今更ながらに彼女の愛情の深さを知る事になったが、それでも最悪すぎる話だ。
「当分この国でランにお世話になる予定なのでお茶の相手ぐらいならいつでもお相手いたしましょう。
それよりもお茶が冷めてしまいましたわ。新しいお茶貰えるかしら?」
言えばイゾルデが秘書らしき人を呼んで新たにお茶を淹れ直させる。
その合間にイゾルデは何かの木箱を用意してふたを開ければ、そこには一枚の凝ったつくりの羊皮紙が治められていた。
「こちらが先代マーダー家当主よりお預かりさせていただいてますカール殿の当主後継の証文になります。
婚約者も決まったとなればもう心配はありませんね。
どうぞお受け取りください」
差し出された証文をカールは受け取り
「こちら一枚は陛下にお預かしてもらってもよろしいでしょうか」
カールは何処か震える手でそれをランに差し出していた。
「いいの?」
澄んだ赤い瞳でどこか子供らしさの残る線の細い青年を見上げながら言うも、彼はどこかはにかんだように笑い
「これは僕の犠牲とか、幸せとか、そう言う次元の話じゃなかったのです。
僕に勇気がなかったからだけの話で、だけどニコラが僕のお嫁さんになってくれるって言う選択をしてくれたように僕も足を一歩踏み出さなきゃいけない所に居るんです。
ヴィッキーが今どんな状態になってるか心配ですが、それでも僕を助けてくれる兄さんだっています。この状況を打開して下さった皆様もいます。
長年マーダー家に仕えてくれていたバッシュを始め、みんなにこの状況を誤魔化すためにいろいろ演技までしてくれて。
だから僕は決心しなくちゃいけないんです。
マーダー家の当主として、この数百年かけて作り上げられた結界の守り人として」
初々しいまでの決意を誰もが眩しく目を細めて耳を傾ける。
俺もそんな希望に満ちた決意を感動してその勇気を胸に刻みつけながら、いつの日か、この復讐の旅路が終わった時にはディータでもなくリーディックでもなく、そして雪兎でもなく、新たにこの殺伐とした生活を忘れて何かしたいなとカールの希望につられるように俺もまだ漠然としたものだけど夢を持ち始めてしまう。
雪兎の世界に居た時でも描かなかった未来に思いを馳せていれば
「よろしい。
決意したのなら早速マーダーに戻り、そしてエンダースに乗り込みましょう。
そちらのイゾルデさんも四公なら少しお付き合いしなさい。
仕事ばかりしてると無能になりますよ?
ランも早々にフェルスを呼びなさい。港あたりなら場所は十分でしょう。
さあ時間は有限で貴重ですよ。一分一秒とて無駄にする暇はありません」
いきますよ!と号令をかけるも
「少し待ってください!ちょっと持ってきたいものがあるので」
イゾルデさんはそう言って部屋を飛び出してさらに上の階へと続く階段を上がっていった。
「ああ、四公の紋章とかそれなりの身だしなみだろう」
言えば
「四公の紋章は必要かもしれませんが身だしなみなぞに構うあたりまだまだですね。
私が連れてくるのでホールで待っていてください」
そう不吉な事を言い残してルゥ姉はイゾルデさんを追って階段を上がっていった。
大丈夫かしら?なんてのんきに心配しているニコラとカールを連れてホールへと向かえば予想通りイゾルデさんの絹を裂くような悲鳴。
ホールに居たイゾルデさん達の部下がざわめき立つも暫くしてルゥ姉に手を引っ張られて階段を下りてきたイゾルデさんの四公らしい姿に俺達は乾いた笑いを零すのみ。
たとえこの国のドレスが多少の素肌を曝しても構わないという常識とは言えだ。
四公当主に相応しい豪奢なドレスを身に纏ってるとは言え。
ドレスを切り裂いて取り繕っただけのその姿にイゾルデさんの部下は行動不能に陥ってしまった。
バストから上はなく、長い髪はざっくりと結い上げられ、普段隠れている背中は大きく素肌を晒し、Aラインのドレスの下にはきっと幾重にも重ねたレースのスコートを穿いて、スカートの隙間からその美しいレースの模様をちらちらと見せる為のスリットなのだろうが、そこから見えるのはただの生足で…
「これまたなかなかどうして扇情的な格好になったんだか」
アルトのどこか呆れた様な言葉に彼女はただただ純粋な恥ずかしさから涙を流すのみだった。
ブックマークありがとうございます!
どうぞお付き合いくださいませ。




