魔法の基本はイメージが重要です
2話目よろしくお願いします。
結局風邪が治って、前世の記憶を取り戻した俺はベットから出て自分の勉強机に向き合った。
芹沢雪兎のホームポジションだったせいか自然に足が向かってしまい、そして散らかった机の上を見て愕然とする。
「まずはこのゴミの山から片づけるのかよ」
山積みになってる宿題の山。
貴族として読まなくてはならない本。
そして何やら木の枝とか、石とか、粘土とか。
とりあえず今の自分の記憶をさぐってもなぜ集めた?と思わしきものが多々とある。
とりあえずゴミ箱にそれをスライドするように捨てて、本の山などを覗いた場所を片付ける。
「ビバ☆ごみの無分別!」
プラスチックがどうのとか、燃えるごみ、アルミ缶が…などと言っためんどくさい分別がないなんてすばらしいと思うも、ごみ箱からあふれ出たごみを見てやっちまった感は半端ない。
でもまあ、それはメイドがそのうち片付けてくれるだろうと無視をして、適当に衣装部屋から取り出したハンカチで机の上を拭く。
何とか綺麗になった机を見て
「とりあえず見向きをしなかった教科書を読もうか」
悲しいボッチの習性から始める。
だが本は嫌いではない。
雪兎の行っていた学校には何故か多岐にわたるジャンルの本が、それこそ無差別に置いてあった。
辞書はもちろん、ライトノベルは当然として、マンガ、週刊誌まで置いてある始末。
おかげで読む物には困らなかった。
本を読むのは苦痛じゃなかったと振り返る物の、手に取った本を見て愕然とする。
『基礎魔法・入門編』
どれぐらいだろうか。
随分と長い間その本を眺めながら乾いた笑いが零れる。
「魔法なんてあるんだ」
長い間見つめていた割には大した感想が出てこない辺り雪兎の感性だなと他人に罪をなすりつけるように雪兎のせいにした。
雪兎もリーディックなのにねと言うツッコミは無視をして。
魔法を取り扱った児童書も読んだことある身としてはちょっと期待をしつつ、別に興味あるとかいうわけじゃないんだけどと自分自身に納得させながら表紙をぱらぱらめくる。
質の悪い紙は何度も人が読んだと言うように体指の跡が残っている。
これを歴史と言うのだろうかと読み進めるも
『まず体内の魔力を感じましょう。
魔力は総ての人に宿るエネルギーの一つです。
血が体中を巡るように魔力も体中を巡ります』
この幼稚園向けの内容は何だろうかと思わず閉じてしまった金糸で表紙を飾る本を睨みつけるも先に進まないからとページを開き直す。
このページに書いてある内容を一言で言えば、血液と共に体中を流れているという事か?と想像して血液が流れる行程を思い出す。
心臓から押し出されて体中をを巡って心臓に戻ってくると言う無限ループ。
その血液と一緒に魔力が巡ってるのかと思うと血小板や白血球、赤血球と同じものを想像してしまう。
そういう意味ではこの世界の人はそれに魔力まで受け入れるからだがあるのだから包容力が高いなと感心すれば、体の奥から何かじんわりしたものを感じる。
『体に魔力を巡らせる訓練の途中で何か暖かなものを感じればそれが魔力です。
毎日この訓練を続けて魔力を高めましょう』
ふざけた書き方だがさすが入門編だと自分を納得させる。
それからページを捲れば
『魔力を感じる事が出来たら魔力の操作をしましょ。
指先に明かりが灯るようにイメージをしながら魔力を指先に集中させてみましょう』
「イメージね」
指先に理科の実験でお世話になった豆電球をイメージしながら体中を巡る魔力を集めるように集中すれば
「うはっ!指が光った!!」
輝き方は懐中電灯ぐらい。
まさにイメージ通り!
これで夜中にトイレに行くのも怖くない!!と緩みがちになる口元を取り繕う事なくページをめくる。
同じ要領で大気中の水分を集める方法、光の代わりに火を灯す方法、風を操る方法に、これは部屋の中ではできないけど地面を掘る魔法と言った事が書いてあった。
どれも大切なのはイメージで、窓から見える木の枝を窓のそばまで伸ばしてみた。
これで脱走も簡単だなと、リーディックにはできない田舎育ちの雪兎の身体能力に屋敷の外の世界を見てみたいと言う野望も膨れる。
「はっ!いやいや、俺、私生活を改めるんだろ」
早速リーディックの自由な心が脱走の計画を計っていて、雪兎がこらこらと窘めてるイメージが脳内で展開される事になった。
「あー、それにしても…」
紙が粗悪な分だけ本の厚みに比例しないページは簡単な実験を繰り返しながら一刻ほどで全部読み終えたしまったのだが
「この世界イメージに頼り過ぎだろ」
『魔法の基本はイメージが重要です』
一番最初と最後に書かれていたこの言葉を睨みつけながら思わずこの本を俺がまとめ直してやろうかという入門書のレベルにため息が零れた。
そして次に手にしたのは計算の本。
ぱらぱらとめくれば小学生レベルの計算式が並んでいた。
応用問題はなくただひたすら計算をすると言う…
「何だこの脳トレ…」
まだ数独の方がやる気が出るかもしれないと言うレベル。
ひょっとして雪兎の頭脳があるからこの計算は簡単に思うのかと思うも、よくよく考えるも兄達も掛け算、割り算に頭を痛めているのを眺めていた覚えがある。
別に分数とかをしているのも見た事ないし、数字の0もない。
とんだ文明に来てしまったと思うも、微分・積分など実際生活に使えるのかわからない勉強をしなくてもよいのはありがたい。
だけどだ。
「それでも俺この問題が分からなくって駄々捏ねてたんだよな…」
俺の頭どれだけゆるいんだとこれはかなり反省しなくてはいけないなと1ページ10分の目標時間を持って処理をする。
それから読み書きの本を開けば、文字の練習としてお手本の本を書き写していた名残がある。
机の上にあるガラス製のインク壺と鳥の羽の付いたペンで書いたのだろうか。ミミズがのたくった文字が連なるノートに失笑を零す。
ノートの書き写しは簡単だからと数少ない進んで勉強したのを覚えている。
見本を読みながら一緒にその言葉を書く。
ただし、どれも一回しか書いた形跡がない所からどんだけ勉強嫌いなんだよ俺と心の中で自分を馬鹿にする。
うん。
虚しい…
仕方がないからではないが、済ませなくてはいけない宿題だからとペンを持ってカリカリと紙をひっかきながら進める…進め……すす………まない。
「んな書きにくい物で文字か上手く書けるか!!!」
思わずペンを床に投げつけるも宙をふわりふわりとまって床にインクの染みを作るだけになった。
「信じられん。こんなぴらっぴらの服や全面彫刻入りの扉作るぐらいならもっと
生活に密着した便利さを追求しろよ」
言いながら頭痛いと添えた手の袖口に縫い付けられた刺繍やレースは総てお針子さん達による作品だ。
だしかに機械の文明は恐ろしいほど緩やかで、かといって魔法の文明も進んでいるようには見えない。
なんせ入門書ですら幼稚園児の読む本レベルだ。
「アナログすぎるだろ…」
取り戻してしまった前世の記憶からとんだ時代にやって来てしまったと頭を痛めていればふと視界に入ったのはゴミ箱へとスライドした山から転がり落ちた木の枝。
なかなかまっすぐで、太さも鉛筆ぐらい。いや、ちょっと太いかな?
まあいい。
引き出しを開ければごちゃごちゃとした謎のゴミの山が詰まっており、その中から何とかナイフを探し出して木の枝を削る。
ショリショリ…と削るは鉛筆削り。
出来上がった懐かしい形にインクを付けて試しに文字の練習を続けてみる。
うん。この感覚。
「やっぱり文字を書くにはこれぐらいの太さが必要だよな」
慣れ親しんだその感覚に口の端をにんまりと吊り上げるが…
「やっぱり紙の質が悪いんだよ」
鉛筆型にしたとは言え、ペン先が引っ掛かり周囲に染みを飛ばす藁半紙以下の紙質だけではなんともなる事はなかった。