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光り輝く樹の下の誓い

久し振りに後書きにおまけがあります。

終わり間際ですがよろしくお願いします。

「ランにぃ~、エ~ンバ~や~っときたぁ~」


ドアを開ければ呂律と視点の定まってないディックが居た。

酒の匂いと彼の背後に並ぶ申し訳ない顔ぶれが半端なく並ぶ室内の扉を開けたアリシアが視線を彷徨わせたのちにドアを無言で閉めようとした所を風の魔法でドアを壊して


「俺の叫びを聞け―!」


と言ってエンバーに抱き着いていた。


「おま、くさっ!どんだけ飲んでんだよ?!」

「おぼえーてるわけないだろー?」

「もー、どれだけディに飲ませたの?」


その背後でジルがたったこれだけですと申し訳なさそうに酒瓶を3本ほど並べていた。

いやいやいや、十分飲み過ぎだって言うかその隣でご機嫌のガーネットがジョッキでワインを飲んでいた。


「ガーネットのペースに飲まれたな……」

「ええ、さすがに止めたのですが次にアリシア先生のペースに巻き込まれて止めを刺されました。

 さすがにまずいと思ったようでランを探しに行ったようでしたが、無事会えてよかったですね」


当の本人は素知らぬ顔をしてガーネットと酒を酌み交わし始めていた。


「シアー呼んでくるわ」

「向こうは向こうで酒盛りしてますよ。

 酔い覚ましの薬はもう盛ってあるので様子見で十分かと思います」


誰もが酔っ払いの顔を隠す事無く酒と料理に舌包みを打っていた。

因みにまだディックに絡まれている為にとりあえず片手で料理を引き寄せて俺もいただく事にする。

香ばしく焼けた魚や肉、ソースの絡んだ野菜炒めにフリューゲルの料理なのか見た事もない料理がテーブルの上を埋め尽くしていた。


「って言うか、みんなすごく酔っぱらってるけどいつから飲んでたんだ?」

「時間的にはまだ半刻も経ってないぞ。

 ガーランドの酒があったんだが、初めて見る酒だったからどうやって飲むのか酒のネタにして飲んでたんだが、ディが飲みかたを知ってたんで全員でゲームじゃないけどためしてたらもうな……」


何を思い出してかブレッドがくつくつと笑いだして止まらなくなった。

知り合って数日だけどいつも不機嫌な顔をしている男のご機嫌な様子に俺は逃げ腰になるけどガーネットがちーさなショットグラスを持ち出してきた。


「まぁまぁ、お前も一度試してみな」


珍しく酔っぱらったと言う顔で酒を進めるガーネットはその小さなグラスになみなみと酒を注いだ。

量にして一口分。

たったこれだけ?

なんて思うも


「これを一口で飲むんだとさ」

「ふーん……

 って言うか、すごいきつい匂いがしてるんだけど?」

「まぁまぁ試しにほら一口で一気にくいっと」


言われて強烈なアルコールの匂いを我慢して口の中に放り込むようにして飲む。


「くはっ!」


むせ返る酒の匂いを反射的に追い出そうとせき込みながらも既に胃の中の酒は強烈な酒精にカッと熱くなってくらりと目まえさえしてしまうも、辛うじて両足で踏ん張って椅子に座っていれば何故か拍手喝さいを頂いた所で気がついた。

クレイやセイジ、オスヴァルトそれからそれから……

ぶっ潰れたヤロー共が壁際に追いやられていた光景に今更気付いた。

此処は何て戦場ですか?

ひやりと汗が流れた側で、ランも俺と同じショットグラスを貰っていた。

待てと手を伸ばす前にひょいと一気に煽るも


「美味しくなーい……」


物凄く残念そうな顔のランに訳知り顔のアリシアはランの背中をバンバン叩きながら


「ランにはお酒よりもあまーいジュースにしようね」


そう言って机に並べられたオレンジのジュースに混ぜて飲ませてみた所


「美味しい!ナニコレ!お酒ってこんなにもおいしいの?!」


驚き顔でぐびぐびと飲みだす酒豪っぷりに周囲はテンションあがるも、まだ酔いが程よくしか回ってない理性の残る俺は正直引いていた。

何故にジュースのピッチャーに混ぜた酒を一気飲みとか、あの強烈にキックする酒を美味しくないの一言で済ませれるのかそっちをどうして誰もつっこまないんだよと思えば


「まぁ、ランはあたし達が散々鍛えたからねぇ。

 これぐらいのお酒も普段から良く飲ませてたから」

「絶対に身体によくないからダメだろ?」

「精霊騎士様の体ってこれぐらいでぶっ壊れるほど弱くわはないのよー?」

「そう言うもんかよ」


更につっこむも潰れなかった俺を面白くないと言ってランに色んなジュースにさっきの強烈な酒を更に注いだものを飲ませていた。


「普段は我々が良く飲むエールやワインを一緒に呑んでいたが、カクテルみたいな物は出してことがなかったからな」

「いやいや、それでもあんな風に飲めるもんじゃないだろ……」


見てるだけで酔っぱらってくるも、ランの為のカクテルの試飲が俺にも回ってきてそれを手にして夜風の心地いい所へと移動する。


「して、新たな名前を何という?」


ドラゴンでロンゲのにーさんが俺を見下ろして問う。

俺は肩をすくめて、紋章が刻まれた手の甲を見せて


「ラルヴァだそうだ。意味は信念とか?」

「そうか。ランが決めたのなら我々に反対の意見はない」

「そういやさ、あんたは俺が半妖って知ってたのか?」


会話のテンポを崩さないまま、何気を装っているように聞けば


「当然。

 我々は人と妖精が纏う魔力の質の違いや量の違いを見る事が出来る。

 お前は上手く隠しているようだが人よりもはるかに多く、そして漂う魔素を自然に取り込み操る事に長けていたそれは妖精の力だ」


グラスの中の氷の崩れる音を聞きながら


「あんた達はランにとって俺が危険だとは思わなかったのかよ」

「お前如きを危険視する事はない」

「あ、そ……」


言葉少なげに完結に言うこの男を無意識に苦手意識が生まれるも


「ああ見えて人見知りをする子だ。

 よかったら仲良くしてほしい」


それだけを言い残して去って行った男は酒樽を1つ手にした所でガーネットの絶叫が室内に響く。


「ドラゴンが酒を飲むんじゃないよ!

 笊が酒を味わずに飲むんじゃないのー!!!」


珍しく顔色を悪くして手を伸ばすもすでに遅く、ドラゴンのロンゲのにーさん事アウリールさんは樽ごと一気に煽り、そして飲み干してしまった……

って言うか、一体どこに酒が入って行ったんだろうかと思うも、表情一つ変えずに


「他にはないのか?」

「酒を楽しまないお前にくれてやるものなんざないよ!」


残りのワイン樽を抱え込み牙をむくガーネットにアウリールは少しだけ羨ましそうな目で樽を眺めていた。

そんなやり取りの合間に酔いが醒めたと言う面々は机の上に広がる料理に手を伸ばす。

これは死守しようと取り皿にてんこ盛りにするかのように各自取り分けていたが


「所でこれは何の飲み会なんだ?」


ソーセージに手を伸ばしてひょいと口へと放り込めば


「ランにぃーとブレッド達がフリューゲルに帰るんだよ。

 そのお別れ会」


少しだけ酔いの醒めだしたディックがこの酒宴の題目言う。

と言うか、主賓が居ない間にスタートするってどうよと考える中


「もうこっちに5日居るからね。

 王様がいつまでもふらふらしてるんじゃないってお迎えも来た所だし一度帰る事にしたんだ」

「だけどランにぃー、すぐに遊びに来てねー」


どうやらまだ酔ってるらしくってランにしがみついて泣きだすディックにさすがのランも困ったようだった。


「すぐ遊びに来るよ。まだ食糧問題が解決してないから当面は足りるけどすぐに足りなくなるからそれまでには来るよ」


その言葉にぶわっと涙を溢れさせて


「あーりーがーとーうー!!!」

「ああ、ほら、涙拭いて、鼻水拭いて」


その辺にあった布巾で拭ってやると言う暴挙に周囲は温かく見守っていた。


「フリューゲル王とお近づきになれたのにこれでお別れかと思うと寂しいですな」

「この料理をもっと普及させたいとかそう言う野望はお持ちでは?」


何か怪しげな事を言い出したプリスティア商人も容赦なく異国の料理と酒に舌包みをする始末。

商人根性って恐ろしいと思う中アリシアとガーネットが商人達に酒を注いでぐでんぐでん作戦を遂行していた。

簡単には酔っぱらった拍子でもランの側には近寄らせんと言う防壁としてはとてもよろしいのではなくてとさっさと潰れてしまえと心の中で呪いを吐いておく。


「所で前々から気になっていたのですが、ディック殿……」


暫く騒いでいるあいだに少し酔いが醒めて復活したオスヴァルトが一人渋く水を舐めるように飲みながらの質問にディックはきょとんとして


「玉座の間で言っていた異世界と言うのは?」


俺も気になると耳を澄ましていれば


「文字通りこことは異なる世界って所だよ。

 魔法もない世界だけどここよりは圧倒的に安全で便利な世界で、だけど川に流されて俺は死んで気が付いたらリーディックに生まれ変わってたんだよ」


『なー、小さい俺』と何もない空間に相槌を求めた物の口をとがらせて『最近顔を見せてくれないなんて寂しいよ』と少し泣きそうな顔で笑っていた。


「ディって時々独り言するから不気味だよね」

「害意はないから別に放っとけばいいだろ」


慣れているのか気にもしないフリューゲル組の言葉を無視して頼むから俺らにも見える相手と相手をしてくれ誰もが無言で突っ込んでいる。


「ランにぃー知ってる?

 こういうのを転生って言って、テンプレートが用意されてるはずなのに俺には一切テンプレがなかったんだよー?」


うぐうぐと涙を零すもランは酔っ払いの相手はめんどくさいと言わんとした顔をして果物を口に放り込むもディックは一口で飲み干して


「テンプレートって言うのはこの世界での生活を保障してくれるようなお約束かなー?

 この世界の神様からの取説から始まって、お詫びにチート能力、無限魔力、鑑定眼、お金ザクザクに美少女山盛りハーレム、料理革命、最強戦力が用意されているのに戦力だけで言えばエンバーはサ〇ヤ人になるし、ランにぃーは変身するだろ?魔法はルゥ姉にけちょんけちょんだしの上にエンバーの方が上だし、それどころか妖精や精霊の方が絶対的上だし、ステータスチートはもちろん鑑定眼さえ存在してないしお金はむしろマイナスな状況だし見渡せばヤローばかり集まってるし、異世界知識は好き勝手に発展させるし、ランにぃーを越えれる要素もないし、寧ろ主役にすらなれない俺って一体何なんだよっておもうし、寧ろここで王様なんて罰ゲームじゃんっておもうけど結構友達沢山できて嬉しいしリーナはカワイイし」


そう言いながらぐだぐだと机の上に突っ伏しながら「リーナはカワイイし」と何処かデレた顔でもう一度言うのを聞きながら薄気味悪い笑顔にこれは何かあったなと想像するのは容易い。


「まぁ、想像したような転生じゃなかったと言うのはよくわかったが、俺としては一国の王になって何の不満があるのかと聞きたいが、罰ゲームって言うのなら聞かない方がいいな……」


リーナと名前を呼んでは薄気味悪い笑みを浮かべるディックから逃れる様に机を移動すれば誰ともなく着いてくる始末。

逆にこの短時間でプリスティアの商人達を潰したアリシアとガーネットがディックに絡んで話を聞きだそうとする始末。

頑張れと心の中でエールを送っていればランが隣の席にやって来た。


「なかなか言うタイミングがなかったけど、剣の事なんだけど今師匠が金属の割合を調べてくれてるから少し時間をくれって。

 あれだけぼろぼろだから元通りにするのかそれとも別に誂えるのか希望も聞いて来いって言うんだけど?」

「ああ、借りてる剣ももう少し使い込みたいから、そうだな……

 剣を元通りはしない方向で新たに似たような重さの大剣を一本作って欲しいとお願いしたい」

「いいの?大切な剣だったんじゃないの?」


真摯に問う瞳のランに俺は肩をすくめて


「約束の地へと鍵ならどのみちあの剣を誰かに譲る時また壊さないといけなくなる。

 それは悲しい事だから、それなら別に剣を誂えてほしいんだ」


肉の切れ端に手を伸ばして口へと放り込む。

良く沁みたタレにもう一つ口へ放り込み


「とは言っても、使い慣れた大剣も手放したくないんだ」


数少ない思い出の形は大剣と首飾りのみ。

顔はもう思い出せなくて、数少ない会話と今も手に残る感触が総てだ。

だけど、最後の最後まで俺と母を探しに来てくれた男に、そして身を持って死が恐ろしい事を教えてくれた父親に今更恨み言は一つもなく、恨む物さえないと言えばそれまでだけなんだろうけどちゃんと俺達の所に来てくれた。

その事実だけで俺の家族への思いは満たされた。


「じゃあ、師匠にそう伝えるよ」

「よろしくお願いします」


分身のような剣の事を思い出して頭を下げればブレッドとクロームとクレイがやって来た。

何だ?と言う様に周囲は椅子を譲って何処かへ行ってしまえば少しだけ酔い潰されて顔色の悪いクロームが難しい顔をして


「私なりにいろいろ考えてみたんだよ」


何を?と聞かずに首をかしげて野菜の切れ端を口へと放り込む。

もごもごと咀嚼していれば


「今回のフリューゲル王の帰還と一緒にクレイをフリューゲルへと留学をさせる。

 学院の入学の季節まで準備期間として明日には共に行ってもらう事にした」


へー?なんて思いながらも一口大に切られている肉を口へと放り込めば


「そこで、お前に護衛として共にフリューゲルへと言ってもらう事にした」

「は?」


ポロリと口に入れたばかりの肉が机の上へと転がり落ちた。


「お前がただの紅緋の翼のエンバーならこんな事は言わなかったが、兄の子なら、ロンサールの第一王位継承者となれば話が別だ。

 あの程度の読み書きではなくもう少し知識を蓄えてこい」

「ちょっと待てよ、それって一体……」

「これはあたしからの提案でもあるのさ」


現れたガーネットは声を高らかに


「私が大切に隠し守っていたロンサールの第一王位継承者がこの程度なんてロンサールの民としては情けないと言うしかないだろ?

 別に今更王族としての振る舞いを求めちゃいないが、せめて最低限の一般知識程度の知識は持ってほしいんだよ。

 まともに手紙のやり取りができるくらいにさ」


誰もがガーネットの言葉を聞いて目を点にしていた。

初耳の奴らもたくさん要る。

え?と言う様に誰もがエンバーを見つめる居心地の悪さに逃げ出そうかとするもガーネットは俺の首根っこを摑まえて捕獲されてしまった。


「どのみちお前がリンヴェルの隊長ってのは変わらないから、今は代理の大人達がいる間にフリューゲルで立派な隊長になる為に勉強してこいって言ってるんだよ」


ブレッドの言葉に


「無理だ!

 俺がいくら頑張ってあんたみたいになれるわけないだろ?!」


きっと俺も酔っていたのだろう。

クロームの提案に頭の中が真っ白になった俺は酷い勘違いさえ気づかずに顔を真っ青にして叫んでいた。

あれだけの人数を動かす指揮も法律も、そして剣術どれ一つ敵わない相手程度になれ何て無理だと訴える。


「こいつは何を言ってるんだ?

 誰もブレッドみたいになれ何て一言も言ってないだろ?

 って言うか、こんなのががもう一人いたらそれこそ頭痛の種だ」


アルトは苦々しい顔でブレッドを睨むも当の本人がうんうんと頷く始末。

何を思って頷くのかあえて聞きたくないと誰もが思っていた。


「クレイの留学の護衛でフリューゲルに行く間にお前ももう少し読み書きできるようになって来いと言っているんだ。

 さすがにこのような稀有な天才になって来い何て無慈悲な事は私からはとても言えないし、今後ディック殿の役に立つ為には最低限の知識は必要になる。

 それにこれは叔父として言わせてもらう。

 このようなフリューゲルに長期滞在する機会は今後はないだろう。

 お前はもっと見識を広げるべきだと私は思っている」


ほんのりと酔っぱらった顔だが眼差しは真摯で、背後で頷くセイジが暮すだけでも学ぶ事の多い国なので是非とも行ってみるといいですよと応援してくれる。


「お前には子供らしいことを一切させてなかったからねぇ。

 全く違う場所で別の生き方もあったかもと言う事を知って欲しいんだよ」

「と言っても6年の学院生活はあっという間だから、その間にガーランドにも行ってみるといい。

 フリューゲルの隣国だけどどちらかと言うと今のロンサールに似た所もある。

 見てくる価値はあるぞ」

「あと時々ウィスタリアにも行ってみない?

 エンバーの剣を直してくれる師匠が居るんだ。

 師匠も是非ともこの剣の使い手と話をしてみたいって言ってるんだ」

「僕は勉強をしに、エンバーは見聞にっていう事だね」


一人では心細かったのだろうか俺との旅立ちにクレイはニコニコとしていている姿にまあいいかとさえ思ってしまう。


「判ったよ。

 フリューゲルに行くよ。

 だけど聞くがまだまだここは人手不足だけどいいのか?」


一人二人ぐらいは意味はないだろうが、要らないと言われるのも寂しい。

なんとなく俺はいらない子なのではと心の中の昏い思いを隠して聞くも


「確かにまだ安定したとは全く言えない状況だからな、エンバーの戦力がないのは心もとないが……」

「代わりにあたしがこの城に残る事にしたんだ」


ガーネットの提案に室内が静寂に包まれた。

トラブルの予感しかしねぇ……


あのブレッドでさえ顎であしらうアルトの頭痛そうな顔はこの選択が間違ってないかという不安を隠さない顔……不安になるから隠してくれと願ってしまうも


「どのみち全力で飛べば一刻で着く距離なんだ。

 長期休暇とかこっちに戻ってきたりするだろうから逆にエンバーは忙しいと思うよ」


ランもにこにことフリューゲル行きを喜んでくれているようだったが……


「エンバーの戦力が無いって言うのは確かに心許無いけど、フリューゲルの体験は俺も一度してみる方がいいと確かに言えるんだけど……」


ディックは空のグラスに氷と水を自前で作って一口飲んで


「戦争ふっかけて終わるまでがすごく賑やかだったから。

 終わったらみんなといつまでも一緒で居られないとは判っててもバラバラになるのは寂しいよな」


だいぶ酒が抜けてきたのだろう。

しんみりとした言葉に国を飛び出してからの長い旅を終えた者の言葉には確かな思いが俺の心に、みんなの心に伝わって……

何処か寂しさを覚える笑みに誰もがここで俺達の繋がりが切れたわけではないと小突き合っていた。


「それでいつフリューゲルに行くんだよ」

「ランが食事を済ませればすぐに」


アリシアが至極当然と言う顔で俺達に別れの時間はすぐだと告げる。


「せめてクレイとエンバーの準備が終わったらにしてよ」

「終わってからにしてって言われても、どうせ生活用品は帰ったら一式そろえなくちゃいけないし、大切な物は肌身離さず持っている物で十分でしょ?

 むしろ、そこら辺に置いていられるものは持って来る必要ないしぃ?」

「言われれば確かにそうだな」


エンバーはギルドで培った生活は確かにアリシアの言うとおりだった。

だけどクレイは机に手を置いておもむろに立ち上がったかと思えば


「荷物まとめてきます!」

「もう荷物は纏めただろう!」

「何か忘れ物があるかもしれないし!」

「セイジと共にチェックしただろう。他に必要な物はフリューゲルで購入する様にって話になってただろ?」

「だってー……」

「クレイの荷物は私が大切に預かるから落ち着きなさい」


慌てて走って荷物を作ろうとするクレイをクロームが慌てて待ったを掛ければ誰ともなく笑っていた。

何だかロンサールの紅緋の翼のギルドハウスのような空気にしんみりとなる心を誤魔化す為にボイルした腸詰を摘まんでいれば


「みなさんこちらにお揃いですか?」


ワインの瓶を片手にルゥ姉が女性陣一同をつれてやってきた。

向こうも出来上がってるなーとどこからともなく揃ってるぞーとの掛け声にルゥ姉は俺達が居るテーブルまでやってきて


「女性は女性で楽しむんじゃなかったのかよ?」


男は男同士楽しみなさいと料理だけは用意して去って行ったルゥ姉達だったはずだが、一通り楽しんでこっちに二次会にでも来たのかと思うも


「いろいろ話し合って女性的な話題に花も咲いたのですが、ネタが止まった所でいつ地図を書き直すのか話題に上がりそれなら今やろうと結論が出た所でこちらにやってきました」

「女同士のおしゃべりの内容ってそんな話題になのかよ?」


きゃっきゃ、うふふな盛り上がりだと思ってたのになんで地図の話題になるのかと思うも


「こんな楽しい夜なのです。

 男性陣もきっと楽しいお酒を楽しんでいるでしょうと思えばこのような日にこそふさわしいと思いませんか?」


誰もがお互いの顔を眺める。

隣には戦争で戦った者同士が並んでいたり、大自然の驚異に国を逃げ出した者が笑いながら酒を傾けていたり、遠く離れた国から助けに来た者達も乞われて商売に来た者達もこの場にはそろっている。

多国籍の面々が一つの部屋に集まり同じ酒と料理を分かち合いながら肩を並べて笑いあい、こんな日が来るのは夢のまた夢だと思っていた事だと思っていたが、もうその時だったのだと気が付けば俺は力強く頷いてランを見る。

ランも頷きシュネルに頼んでブルトランとハウオルティアの地図を取り出してもらった。


「確かに。

 こんな楽しい夜だからこそリンヴェルの国を立ち上げよう。

 ブレッド、異論は?」

「ない。

 寧ろ今やらずにいつやるんだ?」


確かに!


どこからか賛同する声が室内に響いた。

それを合図に周囲の机がガタガタと遠ざけられるように引っ張られていき、広い空間にポツンと置かれる事になった机の上には地図が二枚あるだけ。

よく見ればどちらの地図からもロンサールの文字は消えてセラファザードと新たな国の名前が書かれている事に驚きの声を上げていた。

酒も料理も片づけられて他には何もない。

机の横にはシュネル、ガーネット、ブリューグラードそして……


「では失礼します」


そう断りを入れたカヤはふわりと光に溶けて全く別の姿になった。

優しげな面立ちのカヤ事リンヴェル・ハァヲルティーアは二枚の地図をブリューグラードに渡した。

ブリューグラードは指を傷つけ、流れ落ちた血を石に吸い込ませたのちに地図に書かれているその名前をなぞる事で消してしまった。

その途端石から輝きは消えてしまうも、すぐさま指を傷つけたリンヴェルがブルトランの地図の石に血を注ぎ込んだ。

石の色がぱあっと光り輝き、白銀の色だった石は何処か可愛らしいとでも言うような、まるでリンゴのような色へと変る。

それを確かめた後にハウオルティアの地図にも血を注ぎ込み、まずハウオルティアの文字をなぞって消して、リンヴェルと書き直した。

これで終わったのかと思うもそれからハウオルティアの国境をなぞれば、ロンサール、ブルトラン、ウィスタリアとの国境が消え、改めて国境を指でなぞりながら、今度はブルトランを含む国境を描く。

リンヴェルは精霊の濃密な魔力を指先に込め、丁寧に国境を描ききながら始点と終点を結んでほっと息を零してから指を離した。

無言の静寂の中、その軌跡を俺達は息を呑んで見守っていた。

長い戦いのすえに勝ち取った国を、誰もがこれから暮す事になるこの地の成り立ちを真剣な眼差しで、でも喜びに浮かれそうになる口元にニヤニヤとしていれば、ブルトランの地図がぱっと光り、そしてリンヴェルの石に吸い込まれるように消えて行った。

どういう事だ?

誰もが寸でまで言葉が出そうになるもそれより先に


「ディック様、お約束です。

 責任を取ると言うのならその血をこの石に」


ここから先はラン兄がしてくれた事をなぞればいい。

俺は小さなナイフを取出して指を傷つけてその石に俺の血を吸わせる。

石の中に俺の血がじわりと石の色と混ざり合うのを見守る中リンヴェルがもう一度地図のリンヴェルをなぞって消してからもう一度書く。

なぞれば消えて、消えた所に新たに精霊の名を刻む。


リンヴェル


新たな国の名前を俺達は誇らしく見守る中、リンヴェルは塞ぎかけた傷口とは別に新たに傷を作って流れ落ちる血をリンゴのような色の石へと注ぎこんだ。

石の中で精霊とこの地の精霊と契約する者の血が混ざりあい、光りが柱のように、天井に当って窓からあふれ出たそれは城を包み、まるで光の巨大な樹のように闇夜の中で輝いていた。


「これにて精霊地図の製図は完了となります。

 恙無く終えた事を喜び申し上げます」


あの戦いの日に居た総てが集まる室内で誰が合図を送ったわけでもなく拍手が沸き起こり、それは雨のような優しい祝福となって部屋中に城中に響き渡る。

部屋の片隅では生まれ育った国の消失に涙を流す者もいたが、国と国が滅ぼし合い共に破滅する物語の終わりには残された二国の者達が新たな国が生まれ共に手を取り合って行くと言う結末に文句は言わせない。

俺は地図を手に取って一同の顔を見回す。

ブルトランの王を討つまでが俺の物語ではなかった事を改めて噛みしめて、すぐそばで祝福してくれるリーナの笑顔に確かな幸せを覚える。

その向こうではやれやれと言わんばかりに呆れるアメリアがいたが、初対面だった頃の俺を毛嫌いする視線はもうどこにもない。

どうやら、彼女には最後まで俺が直接人を手にかける事が出来なかった事が好評価につながったらしい事をリーナからこっそりと聞いた。


何だ俺、今これ以上とないくらい幸せじゃん。


アメリアはどうでもいいとは言わないが、リーナの数少ない女の子の友達でもあるアメリアとの仲が良いのはリーナの為にも素晴らしい事だからと俺も二人が笑いあう事で笑う事も出来る事に驚いた。

そしてラン兄と向かい合って


「俺達リンヴェルの民がこの出来事を忘れないように、そしてこの国を、リンヴェルを愛し続ける事をどうか見守ってください」


両手で丁寧にラン兄へと地図を差し出す。

途端に静寂が広まるも


「約束だから地図は受け取るよ。

 もしディ達リンヴェルの民がこの日を忘れ、そしてまたお互いに滅ぼし合う日が来たとしよう。

 この日を思い出すように僕は僕の総ての力を持ってこの国を滅ぼしに来よう」


とても冷酷な宣言だけど


「そんな日は二度と来ない。

 約束するよ」


俺の言葉に頷いてラン兄は地図を受けとり、シュネルに預けるのだった。

確かな約束と永遠とも言える友との約束。

名残惜しそうに地図を見送る視線はやがてどこか諦めたような色に染まるも、その顔は吹っ切れたと言わんばかりに晴れ晴れとした顔へと変り、部屋の隅に片づけられたテーブルから酒瓶をもって新たなる国リンヴェルに乾杯!とガラスがぶつかる音楽を奏でるのだった。




これが俺達リンヴェル国の始まりの日の出来事。


その日の内にラン兄を始め、この地図と精霊達は新たな国から立ち去るも直ぐに気になってとしょっちゅう様子を見に来る事になったのは割愛。

おかげで目標としていた夏至の日に無事に各国にお披露目が出来るくらいの修復(表だった所のみ)は完了し、俺は正装したフリューゲル王と彼が従える総ての精霊、聖獣、そして四公八家も見守る中でフリューゲル王から黄金に輝く美しい宝石をちりばめた王冠を頂くと言う各国の王が見守る中、厳かに戴冠式を執り行った。

リンヴェル国始まりの王となったフリューゲル王により国を託すとリンヴェル国王の地位を与えられた俺は各国にフリューゲルとの友好国ぶりも共にお披露目する派手な式典になったのだが、その中に敵国のブルトランの臣、そして地図から名前が消えて滅んだと思われたロンサールの王族がリンヴェル国の臣として混ざっていた事には大層驚かれていた。

この日の為にラン兄はその謎の行動力をフルに活用して西や南の大陸からの珍しい食材を集めてカヤ自ら料理の腕を振るい、料理人にも指揮をしながら俺の記憶の故郷の料理ろハウオルティアのふんだんにりんごを使った料理が所狭しと並べてリンヴェルの活気を大陸中に印象付けるには十分すぎるとも言える成功を収めるのだった。










そっと目を閉じればそこには懐かしいエレミヤの屋敷のリーディックの部屋だった。

シンプルながら質の良い柔らかな色合いは子供部屋と言うには贅沢な一室だった。

小さな時のリーディックの心休まるはずの部屋はほんの一刻の合間に一番の恐怖の場所へと変貌してしまった。

とても口に出せない恐怖の出来事を秘めたままその部屋でで過ごす事は心を削る行為ともいえ、大切に育てられている事は理解しても本当に欲しい物は一切与えられない心がすれ違う生活はその事すら伝える事が出来ずにいた。

食事を食べては吐き戻し、誰にも気づかれないようにと好き嫌いをする偏食家で繕い誰かにこの悲鳴を気付く事を願いながら我が儘を繰り返すのだった。

そしてリーディック最大の恐怖の日がやって来た。

子供に容赦なく手を上げる変態野郎が行動に移すのは時間はかからなかった。

身体に残る傷跡は着替えを手伝うメイドは雇い主と上司には一切報告をせず、いい気味と言う様に傷跡に触れては笑っていた。

悪意と悲鳴で埋め尽くされた部屋での生活はリーディックの心の内から破壊して行き、あの日、何があったか一目で理解したメイドはいつもの通り雇い主や上司に報告は一切せずに子供のくせに男を手玉に取るなんて恐ろしいねぇとあざ笑う言葉が止めとなって生きる事を止めた心は瞬く間に体調を崩してそのまま起き上がる事はなく、次に意識を取り戻した時には別の誰かがこの体を動かしていた。

それどころかふと気づけば周囲は見た事もない物で埋め尽くされていた。

見た事のない文字の本なのにまるで良く知っている文字としてすらすらと読む事が出来、正方形のくるくると回るカラフルなおもちゃや四角い箱の中で絵が動く不思議な絵本があったり、窓の外は見た事もない意識だけの山々や畑が広がり、使い古された机の引き出しには見た事もないような筆箱や上質な紙が溢れかえっていた。

色とりどりのペンの使い心地の良さと、愉快痛快な絵本にすぐにとりことなってしまったリーディックは時間が過ぎるのを忘れて読みふけるようになった。

その中に一冊のノートが隠してあったのを見つけた。

きっとこの部屋の住民の物だろう。

好奇心を抑える事が出来ずにパラリと捲って中を見てしまえば後悔をしてしまう。

そこに書かれていたのは死に別れた父と母を思う気持ちと孤独を訴える言葉で埋め潰されていた。

慣れない環境と心安らぐ友すら得る事が出来ずに日々息を殺して過ごしている日記の内容に思わずこのノートの持ち主は自分と同じ状況なのだと涙を止める術さえ知らずに孤独なノートの主に共感するのだった。


次にふと気づいた時はまたエレミヤの自室だった。


そこには見知らぬ大人が机の引き出しを覗いて唸っていた。

何を見てるのかと思うも抽斗に隠した窓から見える木の枝を伝って抜け出した折りの戦利品を睨みつけて……ごみ箱に捨てていた。

そりゃないよと思うも別にそこまで大切な品ではないので、ごみ箱から外れて落ちた物をどうするのだと言う方が気にはなったが、ふとその男と視線が合い、俺達は友達になった。

男はユキトと言って、ユキトの記憶の部屋なのだろう場所へと案内して散らかしまくった見た事のない物を質問しまくって好奇心を満たしていた。

ユキトはエレミヤの自室を好きに使わしてもらうと言って俺の代わりにリーディックを演じてくれることになった。

それは危険だからと意地悪なメイドと酷い家庭教師の話をするもいつの間にか家庭教師とメイドが変わっていて、それは酷い目に合わせたような奴ではない為に警戒するも様子を見守るようにしていた。

だけどユキトについに知られたくないヒミツを知られてしまった。

俺は悲鳴と共に逃げ出して、長い事ユキトの部屋の小さな物入れの中に隠れる事になった。

折角できた初めての友達に誰にも知られたくない事を知られ恥ずかしさと消えたい思いにうっすらと姿が消えてきたようにも思えた。

だけどふと見つけたノートが床に広がっていて、そこに書かれたユキトの悲鳴が目に飛び込んできた。

彼にも誰にも言えない悲鳴がある事を知る俺は周囲にユキトが居ない事を確かめながら、立ち上がる。


この不思議な空間では望む事は大概叶えられる事を俺はこの頃には知っていた。

髪の色をユキトと同じ色に変える事はもちろん、ユキトの幼い頃の写真と言う物を見てその頃の顔立ちや目つき口元へと変化させて、テレビと言う動く絵本の箱には幼い頃のユキトの記録が収められているのを学んで言葉遣いを学び、タンスと言う服を収納する箱からユキトの服を真似る事もお手の物だった。

暫くして悪ふざけしすぎてるかなとドキドキするも、ユキトは俺の事を小さい頃のユキトだと思い込んでくれて、懐かしそうな視線で俺の頭を撫でてくれるのだった。

父や母にしてもらえなかった温もりに初めて触れた。

不満に対してもきちんと事情を説明してくれたりちゃんと一人の人間として向き合ってくれる姿勢に何度も言葉を失って、学ぶと言う事を始めて理解できた。

知識と言う物はこれまでいくらでも学んできたつもりだ。

判らなくても俺の事情なんて気にも留めずにさっさと仕事をするだけの家庭教師達への不満もあったが、あれはただの仕事をしただけだと言う言葉に理解力が乏しくて公爵家の子供としてふがいないと言われ続けた言葉さえ払拭できる魔法の言葉を始めてくれたのもユキトだった。


だから


ユキトがブルトランの王の前に立ち震える手で剣を向けて斬り付ける瞬間、俺は全力で心の内から叫んでその手を止めるのだった。


「ユキトがそこまでする必要はないんだ!

 ユキトがやっちゃいけないんだ!!!」


ユキトと入れ替わって、ユキトの思い出の中で暮していたから知っている。

ユキトの世界では人を殺すと言う事ほどの禁忌はないと言う事を。

だから俺は声が嗄れるまで叫んでユキトの心を守る様に、俺のように恐怖に潰されないように叫んで訴えかければ、ちゃんとユキトはギリギリの所で自分を守ってくれた。

涙を流して一見自暴自棄にも見えるくらい叫んで喚いて、誰もが見守る中情けない姿をさらしてしまったけど、俺だけがほっとしていた事は後で聞いたら怒るかなと考えながらも


「これは俺がすべきことなんだ!

 だからユキトが背負う事はないんだ!」


ユキトの子供時代の姿の魔法が解けた。

ユキトと向かい合って立つ俺に驚く彼を抱きしめて、今まで使った事のない言葉を彼に捧げる。


「ごめんなさい!

 俺が弱くてごめんなさい!立ち向かう勇気がなくてごめんなさい!逃げる事しか出来なくてごめんなさい!責任を押し付ける事しか出来なくてごめんなさい!戦う事が出来なくてごめんなさい!愛してほしいばかりで愛する事が出来なくてごめんなさい!

 だから最後まで直接人の命に手を掛けなかったユキトの勇気が俺は一番誇らしく思ってます!」


総てユキトの部屋で学んだ事だった。

ユキトは俺が見てもぼろぼろの状態を表すかのようにその存在が薄くなってしまっていたけど、俺の告白が切っ掛けかはわからないが、ユキトは俺を抱きしめてくれて、そして崩れ落ちる様に蹲り、俺の腹にその頭を押し付けて


「ありがとう。

 リーディックが応援してくれたから俺は頑張れたんだ!

 リーディックがいつも側にいてくれたから一人じゃないって頑張れたんだ!

 沢山間違えて、思い通りの事も出来ない事もいっぱいあったけど、リーディックの手だけは守りたかったんだ!

 守る事が出来たんだ!」


嗚咽と共にただその言葉を繰り返し叫んで、俺はユキトの心が壊れそうになった瞬間でもにこんなにも大切に守られていた事を知る。


ああ、本当にこの人は……


兄のような人。

父のような人。

守るべき人。

愛すべき人。


俺の肉体と運命をすべて受け入れて乗り越えてくれたかけがえのない人。




だから、俺はもう総てを託していいんだと理解した。


身体が光に溶ける。


まるで精霊達が姿を変える様に、だけど再度形にはならなく溶けるように、ほつれて行って……







魂の記憶と言っていただろうか。

産まれる前の記憶を覚えていると言うのなら一つだけ覚えていたい事がある。

ユキトを忘れずにいたい。

願わくばユキトの近しい所で、隣で、彼の役に立つ事が出来ればと願ってしまう。

もう少しだけ我が儘言えば……

何も覚えていなくてもいい。

生まれ変わる事が出来ると言うのなら……




ユキトの子供としてもう一度貴方と出会いたい。




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