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ヴィブレッド・フォン・アレグローザ

長旅に疲れてぐっすりと眠ってしまった子供達をジルに任せて俺達はアルトを混ぜてこの国の新たな展開と法を話し合っていた。

勿論その中にはクロームを始めハウオルティア側もブルトラン側も居る。

既に畑作りは始まり、王都内で働ける人達全員集めて既に用意されていた区画整備済みの畑を一生懸命耕しております。

給料代わりに貰えるのがご飯なのでみんな必死だけど、病気の人達もシアーがやつれて行くにつれて快方へと向かい、原因の汚物による汚れまくった王都内もスライム部隊によってどんどん綺麗になって行って……

労力にならない子供達が立派なスライムマスターとして清掃活動に励んでいるのを見た時は誰もが無言で見守ると言う状況にセイジは立派になってと、リーダーの子の頭をなでると言う光景を素直にほっこり出来ないのは何故かと悩む羽目になっていた。

法については混乱するだろうと思っていたが、一通り新たな大綱を読み終えたアルトとブレッドは俺達の疑問に丁寧に答えて大半の意見を却下してこれでいいとのお墨付きを頂いた。

本来宰相としても手腕を振るえるアルトのバッサリと切り捨てるこういう部分は普段は全く見せない所か初めて見る所だが、最終的にブレッドでさえ意見を求めるあたり信頼はあるのだろう。

ノヴァエス以外に興味を持てない彼だがこの地が最愛の人の国となるのならばとその才能を発揮して次々にダメ出しをしていた結果に俺達の存在は……と言う空気がまた発生していたのは俺には関係ない話だと思っている。

もちろんそれはロンサール、ハウオルティア、ブルトランの三か国の法律を理解するブレッドとの話し合いの上でだが、その様子には各国の参謀達も舌を巻いていた。


「と言うか、国作りも二度目となると随分手を抜いてるな」


アルトが何度目かのダメ出しを言った後に


「まぁ、使える法は使いたいし、雁字搦めになるのも良くないしな。

 それに自国の柵とかないから好き放題食い込めれるから俺的には楽しいけど」


ブレッドが鼻歌交じりに俺の質問にダメ出しを追加した。

クロームとセイジ、ミハイロフ、オスヴァルト、フリーデルも新しい大綱と各国の大綱と見比べて妥協点に納得しながらも、自国よりの意見を通そうとしてアルトに叩き落とされると言う光景を見ながら


「どうしよう、ルゥ姉。アルトがかっこいいんだけど」

「困りましたね。こんな出来る人間だなんて知りませんでしたよ」


奥さんなのにこんなひどい言い草に室内は沈黙になるが


「これが生まれながらの四公八家の当主の育てられ方だ。

 フリューゲルの八地方は一つ一つが国だと思えば理解できるだろう。

 千年もその状態が続いているから他の家に乗っ取られないようにやって行くにはそれぐらいの能力がないとやってけれん。

 能力が無くても忠実な部下が居れば別だが……

 うちには幸いな事に家令を筆頭にブレッドとジルが居るからな。

 後は如何に俺が何にも出来んぼんくらで居ればいいかのさじ加減の問題だ」

「となると一番の仕事は後継者作りと後継者の保護なのかな?

 ユリウス殿の婚約者の見極めが仕事となるのでしょうか?」


大綱の最終的確認しながらのセイジの言葉に


「多分ノヴァエスでは婚約者は意味をなさんぞ」


溜息と共にブレッドが言えば頷きながらアルトも


「俺にも昔政略的な婚約者はいたのだが、家乗っ取りの時どさくさに紛れて死んでもらったからな」

「ああ、本当にやるとは思わなかったが、ノヴァエスの愛の為なら犠牲何てすべて些細な事な性格どうにかならんのか」

「古い家になるとそうでもしないと欲しい物1つ手に入らないからな。

 せっかくある権力を使わずにどうするって言うんだよ」


誰もが薄ら寒い会話に身体を抱きしめて震えていた。


さすがのルゥ姉も顔色を青くしていたのを見てブレッドが言う。


「ノヴァエスは代々当主が何かしでかしてるんだよ。

 こいつが当主の座を欲した為に同世代の候補者を一人のスペアを残して総て切り捨てて、件の嫁候補もノヴァエスの家の乗っ取りをたくらんだ貴族の娘だった為に、こいつは愛しのノヴァエスを守る為についでに言葉通り切り捨てたんだ。

 ちなみにこいつの母親も愛しい人との子供を産むために書類上の父親と結婚して偽装も完璧で、こいつの二十歳の誕生日祝いに告白と言う惨い誕生日だったなぁ。

 まぁ、アルトは書類上の父親と血縁がなくって万々歳だが、書類上の父親には二度と小作りが出来ない体にしたり……

 それをノヴァエスの領地内の出来事だからと総て闇に葬ったこいつに正直政治はさせたらいけないって本気で思ったな。

 とはいえ、本気で愛した相手と子供が生まれてほっとしてる。

 拒絶されたらこいつまた何しでかすか判らないからってジルと警戒はしていたが、丸く収まって本当に良かった」


どうでもよさそうに言うブレッドだが俺は聞かずにはいられない。


「アルトってルゥ姉のどこに惚れたんだよ」


こんな話を聞いた後では是非とも聞いておきたい所だが彼は照れもせずに書類を見ながら平然と事務的に言う。


「全部だな。

 顔だったり、性格だったり、躰だったり、声だったり。

 殺しても死にそうにない所だったり死にそうでも生き延びそうな所だったり」

「何で最後がそんな物騒なんだよ……」

「決まってるだろ?

 ノヴァエスの年収はその辺の国ぐらい、10年前のロンサール以上はあるんだ。

 そんな家の当主の妻とするならそれぐらいそろってないと殺されるから、その程度は自力で回避してもらわなくてわな。

 その点ルーティアは最高に俺の理想を越えて行ってくれている。

 ちょっと甘い性格が不安材料だが、先代の母上と比べるとそれ以上はお目にかかった事はまだないからちょうどいいぐらいだろう?」

「ちょうどいいぐらいの具合が判りません」

「そうか?」


アルトは視線をブレッドに送るもブレッドは何が判らないか俺には分からないと不思議そうな顔をしていた。


「って言うか話を聞いてると本当にフリューゲルは豊かなんだって思っちゃいますね」


クレイも俺と同様に大綱を読みふけっていたが、1つの都市と自国の国が同レベルという話を聞かされてショックを受けるよりも何かすんなりと納得しているようだった。


「そういやお前とエンバーだったか?

 旗持ちのバイト代いい加減に決めろよ?」


宣戦布告の事を持ち出せば、クレイは少しだけクロームから視線を反らして


「エンバーは何か言ってました?」


何故かエンバーの様子を聞いていたが、それはブレッドがあっさりと


「ランに剣の修復と戦闘時に借りた魔剣を貰い受けるで話がまとまってたな。

 あとついでに靴とかグローブとか防具も都合してほしいとか言ってたからその辺だな」


軽くて丈夫で謎の加護が付いてくる防具は確かに一式そろえると相当な金額になるだろうと上手くやったなと心の中で褒め称えれば、クレイは少しだけ言い難そうに口をもごもごとしたかと思えば


「フリューゲルに留学と言うのはお願いできましょうか?」

「まぁ、出来る事は出来るが入学試験は実力次第だからそこは面倒見てやれないぞ。家庭教師は提供してやれるが。

 家ぐらいならノヴァエスノ屋敷が余ってるし、ユーりとラフィのシッターのバイトも斡旋してもいいぞ」

「それは良いな。

 あの二人の魔法の先生になってくれるなら生活費と学費ぐらい全面持ってやる。

 留年ぐらいいくらでも大歓迎するぞ」

「お前、ランにも同じ事言ってたな」

「有能な人材はいくらでも家に長く置いて定着させるのが家を預かる長の判断だ」

「となるとだ。卒業するまでには宰相補佐辺りまで能力を引き上げよう」

「ランがノヴァエス私兵団隊長にできなかったのはもったいなかったな」

「別にクレイはユーリの執事候補にするわけじゃないからな」

「安心しろ。

 どうせ俺同様何処かで見付けてくるだろうからそれまでの代理が居てくれればいいさ」


何やら恐ろしい未来計画にクレイは早速俺なんか間違ったかなと顔を青ざめさせていたが


「むしろこれはチャンスですね。

 ブレッド閣下とノヴァエス閣下の下で数年ほどみっちり修行してもらえればこのリンヴェルに不安はありませんね」


セイジの意見にフリーデルもオスヴァルトもミハイロフも頼もしいですねと笑う。

急にプレッシャーを背負う事になったクレイは空笑いするしかなく、なぜか涙を流していた。


「そうだ。折角だからアレグローザとも接触して来てよ」


言えばいくつかのキョトンとした顔が俺を見る。


「アレグローザと申しますと確か今のフリューゲルの体制をほとんど一人で作り上げたと言う北の四公の方でしたね?」


フリーデルがアルトに確認を取ろうとするよりもアルトは先に席を立ちあがっていた。


「悪いが、子供達の様子が気になるから、ルーティア、見に行こう」

「ジルが居るからよろしいではありません……」


折角ノリに乗ってる状態で法律を作っているのになぜ席を立たなくてはと言うものの、アルトは強引にルゥ姉を連れて行ってしまう。


「なんだ?」


首をかしげている合間に、フリューゲルの人は一人、また一人と席を外す姿を見送りながら


「ブレッド、アレグローザにこの法律と自分で考えた法律見比べさせたらなんていうかな?

 よくできたって言うかな?」


クレイは初めての法律関係の仕事に触れて少し誇らしげな顔をし、


「ブレッドだったらアレグローザの顔知ってるだろ?

 何とか連れて来てこの仕事手伝ってもらいたいよな」


体が弱いらしいので無茶ですよ。

だけどめっちゃ頭いいって話しじゃん。

優しそうな方だからって甘えてはいけませんよ。

でも有能な方なら一度お会いして討論してみたいですね。


何て一度も会った事もないアレグローザに凄い良い人と言うイメージを俺達の中では作りあげれば


「でよ、実際アレグローザってどんな奴なんだよ?」


ブレッドに聞けば、彼は全くの無表情の能面になっていた。


「そういや言った事なかったな。

 そろそろちゃんと知っといた方がいいかもな。

 実は俺の今の名前がな……」









「まさかブレッドがあのアレグローザだなんて……」

「正しくはヴィブレッド・フォン・アレグローザで、一応ブレッド・アクセルの戸籍もある。

 俺も出会った時は気付けなかったが、先代の妾の子供で唯一の直系だ。

 さらに言うと、実父とは折り合いが悪いなんて半端なもんじゃなく、出会って三秒で剣を取って斬り合いを始めたり、アレグローザの名前を聞くだけでアレルギーのごとく凶悪小僧になるんだよ」


ったくいつまでガキ何だかと呆れるアルトにあのブレッドがとルーティアは自分の耳を疑う。


「ですが、軍部、騎士団の長がブレッドで、元老院側のトップがヴィヴレッドって……」

「ランの一言で決定したんだ。

 あの時他に任せられる奴もいなかったし、あれ以上の人材もいない。

 もちろん随時立候補を待ってる状態だけど、見ての通りあれ以上の人材は今の所でてこないんだよ」

「アルが立候補して差し上げればいいではないですか」


先程のように宰相程度の手腕を発揮する姿を見れば元老院側ぐらい預かってあげてもいいでしょうと言うも


「悪いが正直俺はノヴァエスさえよければいいと言う小さい人間なんだ。

 ブレッドのようにランの為になんて動く事は出来ないからな。

 多少の手は貸したりはするが、今回みたいに他国の事まで面倒見ようなんて俺には無理だ。

 他国の法律に精通するってどれだけ化け物なんだっていうんだよ。

 三十年かけて俺はやっとこの程度なのに、あいつは出会った時には既に今とほぼ同じ能力はあったんだぞ」


忌々しげに言う。

でも口とは違い顔は何所までも楽しそうで彼と親友な事に誇らしげにしている。


「俺はヴィンでさえジルとブレッドの手助けが無ければ契約できなかったって言うのにブレッドは既に四体のシェムブレイバーと契約してるし、ジルはあっさりとティルルを口説き落としてやがったし!」

「おや珍しい。貴方が愚痴を言うなんて」

「珍しかったら慰めてくれ」


すっとその肩口に顔をうずめる。

アルトゥールの香りと、肌に触れる吐息にへその下の辺りからふるりとルーティアの体が女を思い出してしまう。


「ですが、その……」


思わずしどろもどろになってしまう彼女の少女のような部分を見付けてアルトはそっと首筋に唇をはわし


「子供達に会いに行くまでに少し休憩したい。

 さすがにこの長距離移動は疲れたからな」


ですがと言おうとしたものの、耳元にそっと届く声で「慰めてくれ」何て懇願すればあっさりとルーティアは落ちて


「でしたら子供達の所に行くまでに私の部屋でお茶でも召し上がりませんか?」

 

自室へ誘い込むには安い口上しか出せないルーティアを可愛いと思うのは惚れた弱みと言う物だろうかと、誘われるままに「いただこう」と返せば耳まで真っ赤になる後姿を改めて愛おしいと思うのだった。





そんな事をしてると知らない裏側では凍てついた空気を放置してカミングアウトしたばかりのブレッドは別室でランと数名の立会人の下で休憩も挟まずに客人と会っていた。

商人達とその補佐と護衛を一室に招き、商品を並べての商談をしていた。

王妃、王女、未成年の王女も含めてプリスティアの奴隷商に売る際、向こうは当然の様にふっかけられるとして最低限の値段を提示して妥協点を見出していくつもりのようだったが、ブレッドもランもその最低ラインの値段で一発で売り渡したのだった。

平均にして一人頭金貨10枚ほど。

立会人として見守っていたミハイロフ元宰相やクロームやフリーデルさえその安さに驚きに目を瞠り、そんなはした金でと何故か怒る王妃王女へとランは言う。


「貴方達に値段が付いただけでも奇跡なんだ。

 僕達は最初から彼らの言い値で売るつもりでいたからこれで売買は契約されたんだよ」


ブレッドが机の上に並べられた書類の金額を確認してサインを書きこんでいく。

奴隷商もそうならそうとと言ってはいたが


「この形式をとったのは貴方達を紹介してくれた人達へ報告しなくてはいけないからね。

 紹介者でもある彼らの顔に泥を塗るわけにもいかない。

 そしてこのような時期にリンヴェルが容易く人を売買るような国ではあってもいけない事を貴方方にも理解してもらわなくてはいけない。

 そう言う事もあってただで売るわけにはいかない。

 いくら安くてもこのリンヴェルを立て直すお金にしなくてはいけないからね。

 僕は奴隷商の方々が付けた価格が貴女達の適正価格だと思っている。

 何せ国を滅ぼした男の妻子だ。

 こんな現の悪い彼女達を引く取ってくれるだけでもこのリンヴェルにはありがたく思っている」


文字通りの厄介払いと言う迷惑料金価格だと言う言葉に奴隷商ですら苦笑を隠せずにいた。


「契約が終わり次第馬車で国までお送りしましょう」

「いえ、それには及ばず。

 我々には転移魔法が有るのですが、約束の日時が決められているので馬車代の代わりに宿の提供をお願いしてもよろしいでしょうか?

 あと彼女らの保護も今までと同じ環境でお願いします。

 今を持っての契約ですので出立までの食事代は我々が支払いましょう」

「彼女らの件は承知しました。

 貴方方には申し訳ないですがこういう情勢なので行動制限と食事は最低限と言う条件が付きますがそれでよければ。

 もしなんでしたらウィスタリアに宿を取ってもよろしいですが?」


総ての書類にサインを書きこんだブレッドの提案だったが


「折角なのでもう少しこの国の王都内で十分ですので行方を見たいと思っております。

 一応商人なので国に戻り次第同じ商人仲間に商機ありの報告をしなくてはいけないし、あの炊き出しも興味あります。

 ああ、奴隷商人仲間ではありませんよ。

 物資が不足でしょう。お近づきにではありませんが我々も協力出来る事があればと思っております。

 あと我々も炊き出しをごそうばんに預かりましたが、なかなかにどうして。

 絶妙な塩加減とライスでしたか?

 ドヴォーから出た出汁と絡まってシンプルなのに何と美味しい料理だったか。

 と言うか、あのドヴォーがこんな美味しい料理に化けるなんて、わが国にも蔓延る厄介な魔物に新たな価値を見付けて感謝しなくてはいけないくらいですよ」


ぺらぺらと楽しそうに喋る商人の目は口ほど楽しそうではなく、商人らしく商機を伺っているそんな視線。

人のそんな視線に敏いランが居心地悪そうにしているのを見てブレッドは言葉少なげになっていけば

 

「ドヴォーの件ならガーランドからの品なので我々は何とも」

「そうでしたか。

 そうでしたね、フリューゲルは魔物の居ない国でしたので」


納得いったと言う様に頷く商人だったが別の商人がこの空気を察してか席を立ち


「早々にですが商品を一度城塞に戻してもらっても良いですか?

 逃げられたり連れ去られたりしては叶わないので。

 あと我々にも立ち入り制限の許可と、城塞の警備の許可も同時にお願いします」

「承知した。

 だが、帯剣は勘弁してくれ。

 一応城内の帯剣は一部の許された者だけの権利なので」

「もちろん当然」

「あと、悪いが今強制的に王都内は魔法が使えない状態になっている。

 そこだけは注意して警備にあたってくれ」

「なるほど。道理でここに来てから魔法が使えないと思いました」

「悪いな。

 なんせ、過保護な精霊が防衛の為にと張り切ってくれている。

 悪いが諦めてくれ」


全く悪びれない顔で言うから商人は少し何やら謀をする顔をするが


「外側の城塞からなら魔法は使い放題だ。

 とはいっても、内側に魔法を使うような事があれば陛下のドラゴン達が何しでかすか判らないから、使う場所だけは吟味してもらいたい」

「なるほど……」


ランがドラゴン使いという有名な話に神妙な顔をしながらこの場を去って行った一行を見送り


「疲れたね」

「だな。そろそろフリューゲルが懐かしいな」


ぐでんと机に突っ伏し足り、椅子の背もたれに体重を預けるブレッドとランの様子に


「お二方も少しお休みください。

 特にブレッド殿はフリューゲルの方々がお見えになる前の数時間しかお休みになってないでしょう?」

「大綱はもう出来上がっているので後は肉づけをしていく作業ですので」

「ああ、いい物は拾って時代に合わない物は捨てて。

 難しいかもしれないが三か国の法を比べて行けばおのずとどれがいいか妥協点は何処か見えてくるはずだから見つけ出して決めればいい。

 最後には俺もアルトも意見を述べさせてもらうから、自国の未来はその民で作り上げてくれ」


言いながらも席を立ち


「ラン悪いけど少し体動かしたいから相手してくれ」

「背中ばっきばきになってるね」

「セイジ、悪いが休憩と気分転換を兼ねて少し席を外す」

「ごゆっくりと、明日の朝にお会いしましょう」


そんな返答に苦笑しながら剣を取出し、剣を肩に担ぎながら軽く身体を解して部屋を出ていった。

何所へ行くのだろうかと疑問はあるが、休憩まで縛る事はない。

此処にいる人間は彼らよりも年上ばかりなのだから、若者ばかり頑張らせるわけにはいかない。

年上の意地を見せなくてはと、まだまだ始まったばかりの国作りの道のりの長さに頑張らなくてはと改めて意気込みを確認した。


そんなやる気を見せるおっさん達を置いてランとブレッドは人が横切るだけの中庭を拝借する事にした。

入口には危険が及ばないようにそこら辺にあったゴミを障害物に置いてからブレッドの持つ剣の剣先とランがいつも手にしている白の棍をカチンと重ねた。


一歩距離を置いてからブレッドはランに向かって剣を打ち込んでいく。

金属がぶつかり合う甲高い音が周囲に囲まれた壁に反射して響く中、通り過ぎる人が足を止める。

ランの白い棍の素材がなんなのかは不明だが、ブレッドの持つ剣とのぶつけ合いは金属疲労にもつながるし刃零れもする。

とは言え、ランが鍛えた謎の素材を使っての剣なので刃こぼれもしなければ金属疲労する様子もなく甲高い音を奏でながら容赦なくぶつけ合っていた。

所詮は20歳と25歳。

まだまだ遊びたい盛りの二人は周囲の視線も気にせずに剣と棍をぶつけ合っている。

やがて足を止めた数の中に


「おやおや、二人とも楽しそうですね」


軽く汗ばんだと言う顔の二人が見た相手はジルを筆頭のヴァレンドルフ隊の皆様。


「久しぶりに稽古付けてもらってる、ジルもどうだ?」


額に汗で張り付いた髪をかき上げて聞けばにっこりとした顔で


「ヴァレンドルフ隊に告ぐ!

 今より陛下の剣の稽古に参加だ!」


言いながらジルが取り出したのは木刀。

それを見てブレッドも愛用の剣から木刀に変える。

混戦でうっかりは禁物だからと言う様に全員が木刀を片手に中庭に乗り込んできた。

一人に向かって十数名を相手にしなくては行けなくなったその様子に驚くも、すぐに一人二人とふっとばされて床に次々に転がって行く様子にも目が点になっている。


「あー、これじゃあ休憩にもならないか」

「仕方ありませんよ。

 私達は長い事陛下に稽古をつけてもらってなかったのですから」


そう言いながらもジルはランへと向かって剣を振りかざすよりも棍が飛んできて、紙一枚で躱せたのはジルの実力だ。

ニ撃、三撃と切り結ぶ中にブレッドも混ざるも瞬く間に吹き飛ばされていた。

だけど、その間に呼吸を整えたヴァレンドルフ隊の復活にすぐさまブレッドもジルも体勢を整える。


見ていた人は思った。

何この強さ。

って言うかどんだけ気持ちよく吹っ飛ぶんだよ……

うわ、立ち上がってまた行ったぞ……

それより王様強すぎだろう……

玉座の間でもめちゃくちゃ強かったけど、こうやって見ると別次元だね。

魔法なしでもあんな動き出来るんだ。

人間の動きじゃねぇ……


あっけにとられる観客の中に


「うわー、王様マジ強かったのかよ……」


エンバーがクラウスや紅緋を連れて通りかかった所で足を止めた。


「エンバーか、魔法なしで木刀使って参加するか?」


顔面からすっころんで頬に傷を負っていても笑っているブレッドからの誘いに少し悩むも


「挑戦してみる」


戦線離脱した部下からの木刀を拝借して渡した所でエンバーが中庭に混ざる。

ざわりと空気がさざめくも、ランは新たな挑戦者の顔を見てぱあと笑顔を浮かべた。


「エンバーか!」

「王様、悪いけど俺も参加させてもらうな」


そう断ってエンバーはランに向かって剣を振り下ろすも、振り下ろすよりも先に吹っ飛んでいる事に気が付いて「あれ?」なんて疑問と同時に背中に痛みが走った。


「おかえり」


ブレッドの隣から駆け出したのにいつの間にかすぐ隣にブレッドが居た。

何が起きたか判らなかった。


「えーと、何が起きたのか見てたか?」

「大きく振りかぶって振り下ろそうとした所でランの突きが来たんだ。

 モーションはコンパクトに、そして瞬発的に早くだ。

 一言で言えば隙だらけだぞ」

「いやいやいやいや、おかしいだろ?」


普通それで力が乗るかと言えば、それをやってのけるんだようちの王様はとの返事。

うーんと考えてよいしょと立ち上がり


「王様、悪いけど魔法は使わないけど魔力解放していいか?」

「解放って、この間のあのキラキラした奴?」


キラキラって……

そんな風に見られてたんだと少し考え込むも


「ちょっと実験って事でダメか?」

「うーん、いいけど、魔法は怖いから使わないでね?」

「りょ―かい。では!」


魔力を解放して黄金の魔力を纏う。

魔力が一瞬つむじ風をうみ出して、中庭から砂埃を舞い上げる中エンバーは剣を構えて足のばねを最大限に発揮して打ち込んでいけばランの棍がエンバーの木刀を受け止めていた。


「ははは、嘘だろ?

 これを受け止めるのはガーネットぐらいだぞ?」


まさか他にもいたのかと余計な事を考えた瞬間、体が浮いて腹部に激痛が走った。


「よう、早かったな」

「ただ今……」


すぐ横にはブレッドが居た。

って言うか、


「容赦ないなおたくの王様」

「いやいや、魔法に頼り過ぎて隙があり過ぎる方が悪いんだろ」

「あー、おたくらから見ると俺らって魔法に頼り過ぎているように見えるのかよ?」

「剣を切り結べない所でそう言う結果って言うんだよ」


言いながらブレッドは立ち上がり先ほどのエンバーよりもはるかに遅いスピードでランに斬りかかっていた。

それからニ撃、三撃とそれからも次々へ切り結ぶ数を重ねて行く。

エンバーは見ていてブレッドの言う事を理解する。

身体を中心に無駄に溜めをせず、踏込だだけで瞬間的にその問題をクリアする。

呼吸の仕方一つとっても切り替えが早く、そしてお互い足元を気にする割には相手の視線にはあまり意識してない。

こんな戦い方をする相手は知らなかった。

いや、知ってたかもしれないけど、そこまで気付けなかった。


強いな……


そう認めてしまったら目の前で切り結ぶ光景が少し羨ましくなった。









ブレッドはアレグローザって名前を聞くだけで拒絶反応が出るらしいですよ。

って言う一文を言ってくれるジルが居なくて断念。

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