訪問者
痛恨のミスが発覚
アルトとルゥの二番目の子供の名前とガーランドの王様の名前が一緒だった件……
城を落として五日目。
この頃になると城を落とした当日と翌日のような忙しさは落ち着いてきた。
一部ではさらに混沌としていたが、辛うじてブレッドだけがまともに起動している辺りほかっておいた方がいいだろう。
下手に興味を持って巻き込まれるなんて嫌だと言う理由に今では誰も近寄らないようにしている。
俺だって一番忙しい人間の一人なのだ。
これ以上頭脳労働をさせてはいけない限界にまで来てるので避けれる物は避けなくてはいけない状況のそんな中でウードが早馬で城へと戻ってきた。
住民の大半が城と王都の復興の炊き出しをしながら清掃活動に励んでいる中その様子を横聞きしていれば
「やっと着いたか」
「既に馬車で出発をなされてます。
予定では本日の昼過ぎには着くかと……」
「早いなって言うか、連絡が遅いな?」
「申し訳ありません。
なんか妙に立派な道路が出来ていたので移動がスムーズだとか、連絡係の人がいつの間にかフリューゲルの方に代わっていたとかいろいろありまして……」
「あああ、あいつのやりそうな事だ。
疑って悪かったな。悪いがこちらからも迎えを行かせよう」
無駄なトラブルはしたくないからなとブレッドの言葉にラン兄が嬉しそうな顔をして「僕がお迎えに行ってくる」と言ってシュネルと二人で窓から飛び出して行ってしまった。
危ないと手を伸ばそうとするも、すぐに大きな赤い翼をもつ人の影が飛び立つのを見てその姿勢で固まってしまう。
「あのさブレッド、ラン兄っていつもあんな感じ?」
「最近はちょくちょく、いや前からああやって城から脱出してるな」
「脱出って何て言うか、羨ましい……」
「ああ、地面を歩くしかない人間には夢のような光景だな」
「夢でしたら寝てから見て下さいね。
と言うか、そろそろ寝ましょう。
ランが戻って来るまででいいので休憩も兼ねて寝ましょう。
いい加減にドクターストップです」
何処か表情の消えたジルがブレッドの背後で布を持って立っていた。
「一つ聞くがその布は……」
「ちょっとした睡眠を促す揮発性の薬が沁みているだけです。
安心してください、臭い匂いはありません。
ただ自分から眠ってもらえればこの薬が損しただけで済みますが、抵抗するなら頭痛とご一緒する最悪な目覚めをご用意いたします。
さすがに三徹目に突入するとあの方におしかりを受けますので」
「ああ、めんどくせーな……」
「何かあっても言い様にそこらへんで寝ていてください。
護衛はチェルニ達で十分でしょうから」
「ランが帰ったら起こしてくれ」
「帰って来なくってもトラブルがあればすぐに起こしますよ」
そんな会話をしながら本当に椅子を下りたすぐ横の壁にもたれるように眠り始めたブレッドはすぐに寝息を落していた。
「相変わらず無茶苦茶ですねぇ」
「って言うか、恐ろしい会話ですね」
「ええ、適当に寝かしつけないとストレス発散と言って森に逃げ出す習性をお持ちなので。
そうすると帰ってくるまで我々では捕獲できないので逃がさないように強制的でも休ませないと私達も苦労するのですよ。もっともみんな慣れましたけどね」
普段ならランって言う抱き枕が居るので寝かせるのも簡単なのですがと朗らかに笑うジルは
「やりがいがあって楽しんでいる証拠でしょう」
「だけど付き合わされる俺達はまぁ……」
ほとんど出来上がっている状態の大綱を頭に叩き込んでいる状態の俺としては今の内に一緒に休みたい気持ちがいっぱいだが、何やらそわそわし始めたルゥ姉の妙に落ち着きのなさににやにやと笑い
「準備して来たら?」
「そのような場合ではないでしょう」
「だけど櫛ぐらい通したら?
いくら身ぎれいにしても誤魔化せないよ。
非常時とは言えお迎えの時ぐらい騎士服じゃなくてもいいんじゃないかな?」
「言う様になりましたね」
言いながらも大綱を読みながら気になる部分に疑問を書いてメモを挟む作業は止めない。
だけど途端に静かになる空間に暫くもしないうちに
「やはり少し休憩を頂きます」
立ち上がって部屋を後にしてしまった。
何処か可笑しなふうに見えた彼女の行動に
「何があったんですか?」
オスヴァルトの下で働く事になったミハイロフ元ブルトラン宰相の疑問に
「正式な妻じゃないけど今から旦那さんが来るんだよ」
俺の簡単な説明にミハイロフは目を見開き
「あのような美しい人を正式な妻にしないなんて、まともな人なのですか?」
そんな疑惑にその男に忠誠を誓うジルはうーんと唸る。
普段は良い所のお坊ちゃん。
でも俺の通算年齢と同じの男はやる時はやる男なので何とも言えない。
やる時は本当に従兄妹も殺ったのでまともとも思えない揚句その変愛性もまともとは言い難い。
ただ領民の為に、そしてあるべき家の姿の為にとは言え恐ろしく過激な性格は普段からは全くうかがえないのがまた恐ろしい。
「百聞は一見にと言う事で楽しみにしててください」
のほほんと言ってこの話題を終わらせるがそれが主に対する評価か?と思うも今やるべき事は確かにそれではない。
ブレッドが予測したように今別室では元ハウオルティア貴族の人達が続々と集まってきているのだ。
既に崩壊して消えた国なのに地図上にまだ記載されてるからと厚顔無恥とは彼らの事を言うのだろうか。
何様のつもりなのかふんぞり返って現れた姿に応対するのはロンサールの王族の衣装をまとうクロームに一任している。
俺の後見人の一人として応対してもらうも、既に砂漠に呑み込まれた国の王などと喚き散らかすからまともにお話しできない人には衛兵に檻付のお部屋にご案内してもらったり、それでも暴れる相手にはフリューゲル王にお出ましになってもらったりとなかなか落ち着かない。
ルゥ姉もいつの間にかハウオルティアやブルトランでははしたないと言われそうなフリューゲル風の品のある美しい光沢と優美なドレープが揺れる赤いドレスに身を包み、薄く化粧もして宝石で髪を飾ると言う、最近残念なくらいに騎士服を着尽くめだった為に忘れかけていた美しい出で立ちに誰もが二度身をしてすっころぶ光景ももうつっこめなくなった頃、何やら外の様子が騒がしくなった。
未だ鍋の並ぶ大通りの隅っこを馬車が列をなしてやって来た。
貴族が乗るような美しい馬車は一台もない。
代わりではないがどれも幌が付いていたり山のような荷物を載せていたりしている。
どの馬車にもフリューゲルの国旗が掲げられていて、先頭を走る馬車には国旗と四公八家と言う特殊な政治体制の東北を守護するノヴァエスの家紋の旗。
それを見て駆け出したルゥ姉を追いかけるように俺もジルにブレッドを起こしてと言い残して追いかける。
ヒールの高い、宝石が飾る靴でも全速力と言うその足の速さにたまたま居合わせたクロームもエンバー達も何事かと着いて来る。
というか、ルゥ姉の本気でドレスアップした姿を先頭に居合わせた者達は何事かと着いて来ていた。
大きく開かれた門の前まで来て足を止める。
人ごみに馬車の速度を馬の歩調に合わせるまで落としてやって来た馬車の屋根の上にはランが座っている。
嬉しそうな顔をしてぶんぶんと手を振るあたりあの馬車に乗っているのだろう。
ハウオルティアの城は王城に相応しく馬車のまま城の中に乗り込める設計がしてある。
さすがに荷物の大きさにそのまま入城する事は出来なかったが門をくぐってすぐに止まってドアが開いた中から一人の男が降りてきた。
聞いていた船旅と港からの休みの無い軍港に疲れた様子はもちろん、その姿も騎士服を纏ってるとは言え気品あふれる優雅な足取りで俺達の前にゆっくりと歩いていた。
誰もが自分の身なりを見て少し恥ずかしげに視線を彷徨わせる。
微かな香水が風に乗って鼻腔を擽る。
その貴族としたたたずまいと、実年齢以上の年齢を感じさせない顔立ちに飯炊きに手伝いに来ていた女性達が色めき立つ。
身なりは汚くないけど、暫く髪も切ってなく無精ひげも伸び始めた面々は隠せない無精に慌てて手を当てる。
誰もが俺だってちゃんとしていれば……そう言った嫉妬を滲み出す物の時すでに遅し。
恥ずかしげに急いで服の皺を伸ばす合間にランは馬車の屋根から飛び降りて俺立ち側へと回り、やたらと見物の多い中男はランへと膝まづいて頭を垂れた。
「ただ今陛下の指示に従いご要望の荷物をお届けに参りました」
「ありがとう。みんなも疲れているかもしれないけど、シアーだっけ。
彼女の指示に従って荷物を運んでくれると助かるよ」
「承りまして。
でしたらマロウ引き継ぎを。あちらの女性の指示に従う様に」
久し振りに見る顔はノヴァエス隊でもよく見た人だった。
懐かしげに俺を見て敬礼をしてすぐにシアーの下へと足を運び指示を受ける体勢に入っていた。
突然指名されたシアーはそれでも昔騎士として働いていただけにすぐにちょうどその場に居合わせた一部隊に銘じて馬車を場外をぐるりと回って荷物を運んでほしいと指示をすぐに出していた。
「アクセル総隊長は何所でしょう?
御客人を馬車で待たせしてますが」
「ああ、悪い。休憩中だったんだ」
少し寝癖の付いたブレッドだったけど、式典用のやたらと豪奢な服に袖を通しただけの隊服姿にノヴァエスは眉を片方跳ね上げて
「それよりも隊服もお持ちしました。
だらしがないので今すぐ着替えた方が良いかと」
「あー、そうだな。そっちの方が軽いしな」
威厳も何もないまだ何処か寝ぼけている状態のブレッドにジルも苦笑を零す。
少しだけ空気が和らいだが、神経質に頬が引きつっているのを俺は見逃さない。
そんな状態でも二台目、三台目からの馬車から正装をした男達が下りてきた。
何だと思うも男達はランを見れば膝まづき
「この度は商談の申し出ありがたく存じます。
見た眼とは違うこの乗り心地の良い馬車もまた商品として買い取りたく……いやいや、防犯上の仕様と聞いていたので見た目と違う素晴らしい居心地の提供をありがたく思います」
「わざわざプリスティアから我が儘行って来てもらいありがたく思う。
案内人を着けるのでまずは長旅の疲れを休めてください。
それと遠くに見えるあの城塞に今回の商品があります。
先に一度目を通すのなら案内させましょう。
交渉は明日からにしたく思うのでどうぞ今日はごゆるりとしてください」
「フリューゲル王自ら丁重なおもてなしありがたく存じます。
では休む前に商品を拝見させていただきましょう。
明日混乱しないようにあらかじめ皆とも相談が必要なので」
「でしたら先に案内いたしましょう。
城塞に案内を」
そう言って男達を立ちあがらせれば、ジルの部下の人が各一人ずつ対処できるように案内していた。
彼らの御付の人も一緒に移動したのを見送れば
ノヴァエスの馬車から降りてきたのはこれも懐かしい顔。
長距離移動用の少しゆったりとしたドレスに身を包みながらも肩には一羽の大きな猛禽類の鳥を乗せて現れた姿には誰もが驚いたものの、その猛禽類は彼女を決して傷つける事はない事を俺は知っている。
ただの鳥ではなくてハウオルティアならではの妖精なのだから暴れる事もなく、理性のともるその視線がランの頭の上に鎮座するシュネルに目礼をしていた。
さすが上下関係の厳しい精霊界の規律は場所を選ばないなあと感心してしまう。
「陛下にあられては健やかにお過ごしのようで。
マーダーの地を離れられない当主の代理でニコラ・マーダー参上いたしました。
リーディック様、ルーティア様。
念願が叶ったとのご報告を受けております。
おめでとうございます。
この度は主に代わりこの地に必要な物があればと商談に参りました。
必要な物があれば後ほどで十分ですのでなんなりとおっしゃって下さいませ」
「ニコラ、久しぶりです。
マーダー閣下の代理ありがとうございます」
「ティナも久しぶり。
ここは魔物も居て魔法もあるからあまり空を飛ばしてあげれないけどよく来てくれたね」
手を伸ばしてねぎらう様に喉元をさすってあげれば気持ちよさそうにきゅるるきゅるると嬉しそうに応えてくれた。
ちゃんと俺を覚えてくれていたみたいでつい頬が緩んでしまう。
「ニコラは後で相談したいから、今はマロウと一緒に物資の納品のチェックをお願いするよ」
「承りました。終わり次第マロウ殿と共に陛下の下へと参事ます」
そう言って数名のマーダーの兵士を連れて今もゆっくりと移動する馬車の向かう方へと進んで行った。
「そして最後のお客さんだ」
どこかぐったりと言う様に紹介するよりも早く飛び出して来たのは
「ティルシャル!」
ジルが手を広げて駆け出せば右側だけ翼の生えた虎のような狼のような、でもどこか猫のような愛嬌のある白銀のウェルキィの妖精。
馬車から降りたと思ったらそのまままっすぐ猛スピードでジルの下へと駆けつけて両前足を上げて抱きしめる様にジルの肩に前足を乗せていた。
しっかりと待ち構える体勢でジルはティルシャルを全身で受け止めればすぐにその大きな口から延びた舌がべろんべろんと顔を舐めていた。
背後からはのそのそと申し訳なさそうに左側だけ翼のあるヴィンシャーのどこか情けない姿があった。
「どうしたの?」
こっそりと聞けば
「ティルルのストレスの発散相手になってたんだ。
後で褒めてやってくれ……」
半年間主と別れ別れになっていたストレスの反動を受け止めていたどこかやつれた姿の耳の後ろに手を伸ばして
「ヴィンシャーもお疲れ様、来てくれてありがとう。
また会えてうれしいよ」
ティルルが出てきて反射的に逃げようとしたシルバーをむんずと捕まえ、それをヴィンに差し出せば彼はむんずとシルバーを踏みつけていた。アウリールと言い扱い酷くね?と心の中で同情してしまう。
キャウンキャウンと泣きわめくシルバーだったが少しヴィンが唸っただけで沈黙したシルバーを見て誰もがご愁傷さまでしたとそっと視線を反らすのだった。
やっと城内に案内しようかと思うも、少し視線を彷徨わせる男は馬車に向かって出てきていいぞと声を掛けていた。
まだ中に誰か居るのかと馬車から出てくるのを待っていればまだ幼いと言っても構わない男の子が現れた。
5歳と4歳になっただろうか。
仕立てのいい服を着て現れた子供に周囲が首を傾げる中、年上の男の子はまだどこか歩くのが下手な弟の手を取って馭者の力も借りて馬車から降ろし、その手をつないだまま俺達の前まで歩いてきた。
そして、当然ながらラン兄に
「お久しぶりです。この異国の地で陛下にお会いできる喜び至上にあります」
なんて舌っ足らずでたどたどしい口ぶりに周囲も微笑ましく眺めるも、俺達を見て年上の男の子は涙ぐんでいた。
大人に囲まれて緊張しているのかと思うも
「ディ兄様、ルーティア先生お久しぶりです」
「ユリウス!ラフィウス!二人とも遠くからよく来たね。
大変だっただろう?」
本当に遠い所からよくこの小さな体でよくこの軍行についてきたと誉めるように頭を撫でてあげるも弟の方は俺の顔を忘れてしまったのか兄の後ろに隠れてしまった。
何処か和やかな笑い声が響く中
「ルーティア先生!」
子供ながらも凛とした空気が響く。
「何でしょう?」
上の子、ユリウスに視線を合わせる様に身を屈めれば
「念願成就おめでとうございます!」
「お父上に聞いていましたのでしょうか?
ありがとうございます」
ニコリと笑うルーティアだがその声は何処か涙ぐんでいた。
もう2度と会えないと思っていた息子に、一度も母として抱きかかえる事もせず、家庭教師として過ごしてきたルゥ姉の姿を思い出していれば
「ラン兄様からお話を聞きました」
「陛下からですか?」
何をと小首をかしげるルゥ姉に
「この戦争に勝てばルーティア先生をお母様と呼んでもいいって聞きました!
だからお母様と呼んでもよろしいでしょうか!」
既にボロボロと涙を流しながら懸命に声を上げるユリウスの叫びに応えるよりも先にルーティアはユリウスを抱きしめていた。
「もちろん当然です!
その為に戦ってきたのですから!」
初めて見せる母親の顔にユリウスはついに声を上げて泣き出していた。
一歳違いとは言えラフィウスの方は全く覚えてないのかポカンとした顔で兄を眺めた後「ランにぃー」と何故かつられて涙ぐんでランにだっこをせがんでいた。
そりゃそうだ。
別れた時はまだ一歳だったし、半年ほど別れていたジルの顔すら覚えてない様子。
しかもティルルに押し倒されながらももふも付している光景はこれが襲われてるわけではないのを理解しているから見守ってられる事であって、ぼちぼち飽きてきたティルルは鼻っ面でジルの手を頭に乗せるように誘導していた。
もっと耳の後ろを撫でてくれとの催促に仕方がないですねと言わんばかりにカキカキとしてあげている始末。
こっちもこっちで他なんてかまってあげられない様子だった。
周囲もこの親子の対面を微笑ましく見守っている中、泣き止んだユリウスが見守っていただけの男に向かって抱き着いて
「父上!
お母様からのお許しが出たのでお母様ってお呼びしますね!」
「約束だからな。
だけど、まだまだ戦争の後で忙しい上にルーティアはこの地で仕事をしなくてはいけないんだ。
早々には会えないぞ」
え?!
驚愕の瞳で父と母を交互に見上げる子供は
「お母様と一緒にいるんだー!」
なんて泣き喚く始末。
頭の痛い展開になったなと思うも
「ユリウス、あまりお父様を困らせてはいけません。
それにこの戦争が終わったばかりのこの地はとても危険な場所です。
もし母に会いたければ王立学院を卒業してノヴァエスの後継者に相応しくなって自分でお金を稼ぐ様になってからになさいまし。
ちゃんとお勉強をした証としてお会いいたしましょう」
約束ですよと笑いながらもこっそりと耳元に不埒な事を言う。
「もしそれまでにお会いしたければ、陛下にお願いしてごらんなさい。
ひょっとしたらこっそり連れて来てくれるかもしれませんよ」
やだーと言いたい表情だったけどラン兄の顔を見て何故か口ごもる。
「大切なノヴァエスの後継をこのような遠く離れた地で何かあればそれこそアルトゥール様に、ノヴァエスの民の皆様にも顔向けできません。
この母の願いをどうか聞いてくださいませ」
そんな懇願に納得しないままでもコクンと頷いた頭を抱き寄せ
「少し見ない間に随分と立派になられました」
そう言いながらユリウスを抱き上げる。
ユリウスは嬉しそうにルーティアの頭にしがみついて、ニコニコとした顔で父親の顔を見ていた。
因みに父親は子供を抱き上げない。
理由はまだ任務中だから。
かといって一国の王が子守りするのはどうかと思うも、ご機嫌になったユリウスを見てラフィウスもご機嫌なのだ。子供のご機嫌を取るのは難しい面々、関らないようにとただ見守るだけと言う様に距離を取っている。
「それよりの残りの報告も聞きたい。
一度中に入ろう」
「だな。
陛下の髪が長いままとか、シュネルだよな?人型になってるとか、当面の食糧問題とかあるしな」
「ああ、そこはディのおかげで冬までには目途が立ちそうだ。
あとうちの王様がどこぞの国で魔物を狩ってきてもらって、どこぞの国の王女様お手製の収納バッグにそれを詰めて運んできてくれてるから、毛皮産業は発展してるぞ」
どこか疲れた様に遠い目をしているブレッドにアルトは「そうか」とだけ呟いてそっぽを見る。
この件に関してもあまりかかわりたくないと言う所だろう。
アルトはユリウスを抱くルーティアの腰に手を回し、ご機嫌なユリウスにニヤニヤと笑ってからかって遊ぶのを見て溜息を吐いてるのは俺達だけではない。
ランにだっこされてご機嫌だったはずのラフィウスが対抗心を燃やしてアルトにだっこをせがんで、仕事中だけどと断って珍しくリクエストに応えてるのだからだらしがないとジルが厭きれるのももっともだと思う。
そして少し離れた所でクロームが笑顔のまま心の中で涙を流しているのが不憫でたまらない。
密かにと言うか、周囲にも丸わかりの好意はたった一人と二人の子供の出現で無残にも砕け散ったのだから仕方がない。
って言うか、ルゥ姉が子持ちの人妻だったのを何で教えなかったんだよ、何で今頃知ってるんだよとクレイに突っ込むも一時でも夢を見せてあげようとみんなで黙っていたと言う……
親切心で悪夢になったなと後は知らんぞーと結果的にはラフィウスにもフラれてしまってしょんぼりとしているランと一応叔父としての立場をすっかりスルーされている俺と言うふたりで幸せ家族の後ろをついて歩くのだった。




