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新たな旅立ちの為の選択はあまりない

まだまだぽんぽんと花火を上げてはしゃいでいる紅緋の人達を残してオスヴァルトを連れて戻ってきたブレッドは一度全員を連れて一階の大広間へと向かった。

途中何度か襲撃に会うもランによって取り押さえられ、その者達も文字通り引きずって大広間へと向かう。

地図を見て一階に総ての騎士を収める事のできる大広間がある事を地図に記載されていた為に知ってるブレッドはそこへの最短距離を選びながら一同を連れて向かう。

やがて明かりの広がるその広間へと向かえばブルトラン兵は武装を解除して身の置き場がなくて困ったと言わんばかりの顔で集まっていた。


「さて、招集に応じてくれてまずはありがとうと言っておこう。

 とりあえずお互い簡単に自己紹介だ。

 今朝の布告の場に居合わせた者は知っているだろう。

 こちらの赤い髪の方が我らフリューゲル国ランセン・レッセラート・フリューゲル王陛下だ。

 そしてお前達の新たなる主人になる。礼を失する事のないように。

 そして俺はフリューゲル国の総隊長ブレッド・アクセルだ。

 隊長と呼ばれる人間が多い為に俺の事はアクセル総隊長と呼ぶように。

 フリューゲル王陛下同様礼を失する事のないようにしていただきたいのがロンサール国クローム・リヴァ・ロンサール王子、クレイ・フェリウ・ロンサール王子、元ハウオルティア国リーディック・オーレオ・ハウオルティア王子。

 後はその都度紹介していくから今読み上げた名前の方々の顔と名前だけは一致するよう今覚える様に。

 そしてクローム王子、クレイ王子、リーディック王子、貴方方のお名前となりますが間違いはないでしょうか?」


クロームが少し逡巡するも黙って頷くのを見て、クレイ、ディックも頷く。

それを確認してから


「なければ今後このように呼ばせて頂きます」


断りを入れてからもう一度ブルトラン側と向き合い


「この場の貴殿らブルトラン側の代表は誰だろうか?」


ブレッドの一声に暫くしたのち、他の人とは違う少しだけボタンが多く装飾が施された男が一歩前に出た。


「ブラート・エゼクと申します。

 城壁警邏隊隊長を任せていただいてました。

 この場に私以上の上位の方が居ないようなので代表は私に一任させていただきたく存じます」


冷や汗がひどく顔色もよろしくない。

元々の地位もあまり高くないのだろう。

物凄い緊張に今にも殺されるつもりで名乗り出たのだろうが


「これからの予定を提案する。

 我々はこの城を制圧したいがお互い戦闘後の為、消耗を回避するために話し合いで解決したい。

 武力となると我らがフリュゲール陛下にもうひと頑張りしてもらわなくてはならないので、城の無事とブルトランの民の安全を考えると可能なら避けたいのでぜひ協力を願いたい」


それは脅迫ではと空気が殺気立つも、それを打ち消すようにエゼクが恐怖に声をひっくりかえらせて「承知いたしました」と頭を下げた所で反抗的な波は押しとどめられた。

ランの戦力を知る者と知らない者の反応の差は大きい。


「文官、女官、従者、侍女、使用人、偶然居合わせた客人商人にこれよりその旨を報告。

 今は安全を兼ねて城内に留まって話をしたいから三階の大広間に集まって待っててくれと連絡してくれ」


ブレッドの指示に顔を真っ青にしたままちゃんと話を聞いているのか不安なまでに頭をコクコクと頷くエゼクは一部隊に指示を飛ばして、指示された側は駆け足でこの広間から早々出て行ってしまった。


「次に破壊した城の掃除と修復を。

 物資が届くまでは何もできないが、廊下が歩ける程度でいいんだ。早急に頼むのと、この城の食事はどうなってる?兵士達の隊舎はどうなってる?」

「食事は西棟にかつてハウオルティア軍が使っていた隊舎がありまして、兵士達はそこに全員の部屋があり、西塔の食堂で食事をしております」

「空き部屋の状態は?」

「大変お見苦しいのですが一部屋を複数で使っている状況でして……」

「聞くんじゃなかった。

 まあいい。ブルトラン側は荷物の移動も面倒だから今後も今まで通りの部屋で生活を。

 後、騎士団の名簿で誰が死んだか逃げたか今日中に調べて提出する様に。

 悪いが今はとにかく人手が欲しいから全員下級兵士として働いてもらうぞ」


侵入してた時ジルがどこで見付けて来たのかブルトラン騎士団名簿をブレッドに渡していたが、それをぱらぱらと流し読みをした後にエゼクをブルトラン兵の隊長として任命して名簿をエゼクに渡した。


「新たにこの新しい国で騎士として働くのなら寝る場所と食事とわずかだが賃金も約束する。

 辞めたい者は出て行ってもらっても構わないが今日中に決断してほしい。

 当然それは文官側にもだ。

 最下級の文官、女官として在籍もしくは除籍するのかも確認だ。

 彼らもここに住んでいるのなら新しい部屋割りや食料の調達の問題も出てくるから引き伸ばしはしない事も伝えてくれ」


ブレッドの言葉にエゼクは兵士にしては何処か痩せ細った男を筆頭とした一部隊に任命していた。

彼らはすぐにこの場に居る人の顔と騎士団の名簿を見比べてチェックを入れていた。


「あとは王妃や王女が住まう場所の出入り口に警備を。

 一切の出入りは許さない。

 ルーティア、すまないが少ない女性陣を引き連れて後宮に説明と後宮で働く女官の管理を頼む。

 ただ既に国はない。

 王妃、王女、王妃付きの侍女達は貴族の娘だろうがすべて元王妃、元王女、元貴族の娘だ。国が滅んだ以上ただの流民としての取り扱いだから彼女らの妄言には無視する様に、でも彼女らには今後大切な役目がある。

 丁重に扱う様に」

「不穏な言葉ですね」


どこか睨む視線にブレッドは感情を乗せずにそうでもないぞと言う。


「今プリスティアの奴隷商にこちらに向かってもらっている」


ざわりと空気が殺気立つ。


「それは女子供を売り払うと言う事ですか?」

「そうだ。

 王族の女子供をこの国に置いておくわけにはいかない。

 首を斬るのは簡単だが王族ならば王族として最善の役目を果たしてもらうだけだ」


淡々と告げるブレッドの言葉にルゥ姉だけでもなく誰もが殺気立ち、当然俺も


「だけど女子供を売るなんて!!!」


ブレッドに掴み掛かろうとするも身を反らすだけで俺の手を避け


「何を勘違いしてるか知らないが女の奴隷≠娼婦ではない事を知ってほしい。

 今から言う事を全員心に留めて話を聞いて欲しい。

 プリスティアの奴隷制度とは一つの家族と言う財産として大切に扱われる。

 ただし、彼女らが自らの処遇を不満に駆られて自分が置かれている状況を理解できなければ落ちるべき所に落ちるだけだが、それは自分で招いた事で我々の感知する所ではない。

 それを踏まえて彼女達にはこれから何処かの屋敷のメイド、もしくは家庭教師。

 運が良ければ後妻、妾として伴侶として身請けされるだろう。

 女しか産めない呪いは産まれた順番での後継者となるプリスティアでは意味はない。

 当然選択の余地は彼女達にもある。

 文武両道の王女達と、王女達を育て上げられた母親の技量はフリューゲルでは一般に埋もれてしまう程度だが、プリスティアでは必要される教養だ。

 王の妻、そして子供であれどあそこまで狂った王を諌めずにいた罪を彼女達にもきっちりと背負ってもらわなくてはいけない。

 この国での今までの暮し、もしくは準ずる暮らしをさせれるような金銭的な余裕はこの国には見ての通り一切ない。

 王妃王女に課する制裁はこの国、ハウオルティアとブルトランからの追放。

 そしてプリスティアの奴隷制度の監視下に置くほど彼女達の身の安全は保障され、自分で自分を養える最低限の保証もある。

 さて、この提案のどこに問題がある?」


ブレッドの切り替えしに俺は言葉が出なかったが


「ですが、その奴隷商は信頼できるのでしょうか?」


たとえ敵国の王妃王女だとしても不安だと言うルゥの言葉に


「さあな。

 だが少なからずプリスティアとの乏しい人脈の中から健全な奴隷商を幾つか紹介してもらって、貴族に人材を斡旋する事が出来る奴隷商にいくつか声を掛けてきた。

 俺の認知も半端だったが、話を聞く限り仕事の斡旋をし、得た給料から生活費を引き抜き僅かに残った給料を貯めて自分を買い戻せば奴隷解放も可能だと言うが、彼女達には生涯働いても気安く身請も出来ない金額を背負わせるつもりだ。

 精霊の力で潤うはずの資源を総て他国に流した程度には最低限背負わせるつもりだ。

 本音を言えばそれによって餓えにより死んでいった数、寒さに凍えて死んでいった数、数え上げても数えきれない犠牲者の命の分も上乗せしたいのだが、向こうの奴隷商と話をしたがさすがにそこまでの傷物だと何ともしがたいと言われたから通常の奴隷として取り扱ってもらって解放だけはしない事を追加条件に入れて考えてもらっている。

 まあ結婚も出来て子供も産めると聞かされ、更には有名人で知っているかもしれないが奴隷の身分でも騎士団の隊長の地位まで登れる者もいるのだから、何をもって奴隷って言う物か正直俺には分からん。

 そんなプリスティアの奴隷制度を俺達は信頼して任せるしかないし、山ほどの仕事がある俺達に王妃、王女達に一刻も時間を取られるわけにはいかない。

 ちなみにフリューゲル陛下は成人以上だったら問答無用で首を切り落とすつもりでいたから、十分温情はかけてると思うぞ」


もういいか?とルゥ姉に視線を向ければ納得したくないような、悔しそうな顔で無理やり首を縦にひとつ振っていた。


「次にオスヴァルトを中心にこの国の資産をすべて洗い出せ!

 俺も参加するから、徹底的に隠し資産を暴くぞ!

 対策として隠ぺいは不敬罪として独房に放り込む。期限は今のところ未定だが、協力的ではない人物にはなるべくかかわって欲しくない為に長期を予定していると思ってくれ。

 当然見ての通りこの国は金がないから食事も一日一度ぐらいで我慢してもらいたい。

 独房に入ってもらう以上魔力は封じさせてもらう。

 詳しくは文官共と合流し、セイジとフリーデルを回収しだい作戦開始だ。

 お前は確かエンバーだったな。

 エンバーにはアウリールが崩した城壁の代わりに王都周辺の警備にあたってもらいたい。

 警備に当たる人員は選出を許す。任せた。

 魔物も逆恨みする奴もいるが、今回の戦いで一番の腕と見込んで警備隊長と言う肩書で当面周囲を見回ってもらいたい」

「別にいいが、今回の戦いで剣ぶっ壊したから新しいのが調達できてからでもいいか?」

「いいかって、陛下に剣を頂いてなかったか?」

「借りはしたけど、あんなすげー剣幾らするか恐ろしくて聞けないからとても借りてられん」

「え?別に気に入ったのならあげるけど」


あっさりと言うランの言葉にエンバーは何度か瞬きするも


「悪いが借りておく程度にするよ。

 これは俺の恩人に貰った剣だから。

 これを直すまでの間は借りるけどな」


苦笑してボロボロの剣を少しだけ鞘から抜いて見せた。

根元からぽっきりいってないのが不思議なくらい無数に罅が走っているのを見て


「良ければ僕が打ちなおすよ。

 幸いな事に道具はあるから」

「だけど王様に剣を打ってもらうのはなぁ……」

「打ち直すのならついでに俺が使ってたやつも砥いでおいてくれ」


そう言ってひょいとブレッドは剣を渡し、ならついでにと牢屋から戻ってきたジルも剣を渡した所でエンバーは首をかしげる。

王様ってこういう仕事する人だっけ?

視線で俺に質問してくるが、この国ではこれが普通なんだと心の中で伝えておく。

何処か達観したような俺の視線にエンバーも俺の言いたい事を察したようで諦めたかのように今にも罅が崩れてボロボロになるのではないかと言う剣をランに差出し


「魔剣でもない普通の、ちょっと頑丈なのが取り柄の剣なんだが、よろしくお願いします」


手から離れるのが寂しいと言う様に名残惜しそうに渡す姿にランも丁寧な手つきで剣を受け取って


「どこか水のある場所と火が使える場所を一部屋借りたいな」

「でしたら、食堂の隣の外ですが、食料庫はどうでしょう?

 お恥ずかしい話ですが既に空き部屋となっておりますので……」

「僕は水場が近ければいいからいいよ、案内して。

 ブレッド、ちょっと見てくる」


自嘲じみた笑いのエゼクにブレッドはジルの数名の部下とアウアー、プリム、シルバーをつけてエゼクに部下の一人に案内されて行ってしまった。


「正直助かった。

 陛下の役目はほとんど終わってやる事がないのだから、手持ちぶたさに妖精共と放っておくとろくな事が起きん。

 悪いな付き合わせて」


そう言う事をここで言うかと思うも、エンバーも歯切れが悪いもののそう言う事ならとこの話が終わったら打ち合わせしようと言って次の話しに移った。


「ブルトランの兵士の方々には陛下のアウリールが破壊した瓦礫の撤去、そして王都内の病人を一か所の集める様に。

 シアーだったな。

 貴女には病人の治療を。

 そしてジル、お前はヴァレンドルフ隊の半分を連れて病気の発生源を特定、対策と駆除だ」

「了解しました」

「あのね、なんか簡単に言っちゃってくれたけど魔法は万能じゃないの。

 直せない病気だってあるのよ?

 体力的な面とかないとどうにもならないのにどうするつもりなの?」

「そこはジルに一任してくれ。

 魔法で治せる者は魔法で、魔法で手に負えない者はジルに。

 エゼク、悪いが医療向けの一部隊があればジルに付けてほしい」

「承りました」


そう言ってやはり何処か痩せ細った一部隊を選出したのちにジルはすぐにフリーデルと一度合流しますと早々にこの場から出て行ってしまった。


「一部隊を市街戦でまだ降伏してない部隊があれば説得に回って欲しい。

 クローム王子、選出は任せますので貴方にお願いしたい。

 それと同時に町に住む人の様子も見て回って欲しい。

 明日の朝炊き出しをしようと思ってる。

 どんなものなら食べれるか、どれだけ量が必要か目測で十分なのでお願いしたい」

「炊き出しって、そんな食料何所に……」


ざわつく室内に


「そんなもんフリューゲルからに決まってるだろう。

 見返りを得られないこんな状態の国にどこが支援しようと思ってるんだ?」

 

冷たい言い方にどれだけ手におえない状況かが嫌でも思い知らされ悔しさに握り拳を作り唇をかむ。

あれだけ頑張ったつもりでもほんの一握りでしかない事を突きつけられて自嘲めいた乾いた笑いしか口からこぼれなかった。


「ですが、明日の朝までになんて……

 城壁の中には1万人ほどいると言うのに……」


言いよどむエゼクの口調に


「大半が病人でまともに食事もできない。

 俺達の目測でも1万3千は居ない。問題は朝までに作ると言う時間だけだ。

 フリューゲルではここ数年備蓄の入れ替えの下りにはガーランドに援助をしていたが、ここ数年に渡る農業支援の結果、援助も段々必要にならなくなっている。

 今年はこんなイベントも起きる予定だったから、ガーランド側と前もって交渉してある。

 今年はそっちに回す備蓄はない。

 代わりにハウオルティアへの援助を頼むと陛下が交渉して下さった」


何て事もないように言うブレッドの説明にクロームは茫然とする横を妖精と騎士を引き連れて戻ってきたランがブレッドの手の中にある書類を覗き込みながら


「今アウリールに物資を取りに行ってもらってる。

 今夜までにアウリールが運ぶ手はずになってるから、そうしたらみんなでいっぱいご飯作らないとね」


にこにこと笑うランの顔を誰もが信じられないと言う目で見る。


「空腹の辛さは誰もが平等に辛いんだ。

 僕も良く知っている。

 ブルトランの人にはここに何を夢見て来たかも僕は理解できる。

 だけど、こんなにも荒れ果てた土地では復活させるのに最低三年はかかるだろうってイエンティのおじいちゃんは言ってた。

 だから最低三年。

 フリュゲールは無利息で援助する事を約束する。

 無償でって言いたいんだけど、それでは貴方方の為にならない。

 今回の事だって何も王だけが悪いわけじゃない。

 それを止めきれなかった貴方達にも責任がないとは言い切れない。

 フリューゲルからこの三年間の支援はいくらでもするつもりだ。

 だけどそれはきっちりと貴方方に買い取ってもらう事が前提だから、遠慮せずたくさん買ってもらいたい。

 あと、この三年の間に農業支援を始めとした指導者をフリューゲルは導入する。

 農業だけではなく政治にも法律にも。

 総ての組織形態に口を出させてもらう。

 文句は言わせない。

 貴方達は負けた国の人間で、フリューゲルは勝った国の人間だ。

 勝敗が付いた以上僕達の方針に従ってもらう」


しんと静まり返った中で改めてブルトランが負けた事をはっきりと告げられれば、さっきまでの交渉と言う雰囲気はどこにもない。


「ブレッド」


言いたい事は言い終わったとランはブレッドに次へと促す。

少しだけ視線を上げたブレッドは


「そんなわけで、今夜にも炊き出しをする為の食料が届く。

 期限は明日の朝まで。

 調理班を募集する。

 刃物を持った事のある者は全員強制参加だ」


腰に剣を佩く人物達にそう言えば戸惑いが広がる。

それはここに残った人物全員なのかと言う様に互いの顔を見合っている。


「それまでは全員治療だ。主だった怪我はないようだから治療は各自済ますように。

 その後呼び出しがあるまでは城内の清掃に当れ!

 あとエゼク、一部隊に城内で死んだ奴らの回収を。 

 炊き出しの後ブルトラン式で埋葬するぞ」


そう言って最後に部屋中に響く声で解散と言った。

蜘蛛の子が塵尻となる様に動き出した場所から俺達はランとブレッドを筆頭にエゼクも連れて文官達に会う事になった。

三階の広間にはすでに召集された人達が不安げな顔を隠さずに俺達を待っていた。

ブルトラン王のやり方に国が疲弊して行くのを数字で見ていた人達ばかりだから、俺達はどちらかと言うと歓迎されたが、総てにと言うわけではない。

反論する人もいたし、敵将の人のような身勝手な事を言う人もいる。

それらの人はすぐに独房に入れられるのを流れ作業のような当然の出来事を見る様にながめ、一部の良識ある文官達によってこの国の現状を目の当たりにする事になった。


「金がないとは判っていたとは、ここまでないとは……

 あー、エゼク、ここの代表は誰だ?」


部署も違えば交流もない相手にエゼクは早々に代表者を聞いてくれている後ろで、すでに総てこの数字として出された書類の束を眺めながらブレッドは眉間に皺を寄せていれば


「アクセル総隊長紹介したい方が……」


小さな声で呼ばれて顔を上げれば


「こちら財務大臣のエブノ・ゴディナ大臣とレム・クリムク法務大臣になります。

 そしてシメオン・ミハイロフ宰相にあらせられます」


身なりと集められた中では恰幅のいい三人だが、それでも苦労がしのばれるその皺の数にブレッドは


「こちらがランセン・レッセラート・フリューゲル王陛下にあらせる。

 この度の戦争の勝利者にあたります。

 そして私がフリューゲル軍、騎士団の長のブレッド・アクセル総隊長です。

 隊長はお互い数がいるからアクセル総隊長と呼んでください。

 さて、これは大問題だな」


手渡された書類をぱらぱらと目を通してから閉じて溜息を零す。


「そんなにお金ないの?」


ランの言葉に頷いて


「辛うじてマイナスになってないだけましって言うぐらい。

 むしろ良く耐えてくれたって感謝するべきかってぐらいだ」

「ふーん」


あまりお金に興味がないランにブレッドは溜息を落して


「俺達はこの負の遺産事総て貰い受けるつもりで来たんだ。

 興味がないでは済まされないぞ。

 リーディック王子も覚悟してください。

 フリューゲルはそこそこ立ち直ったら王子に継続してもらうつもりなのだからな」

「そこまでひどいのかよ……」

「オスヴァルトはセイジとフリーデルと合流しだいエブノ・ゴディナ大臣から引き継ぎを。

 リーディック王子はレム・クリムク法務大臣から法律について勉強しながら参加。

 クリムク大臣は当面リーディック王子の補佐役になってもらいたい。

 私の方は一通りブルトランの法律書は丸暗記したから、具体例とか特殊例を纏めておいてくれ。

 ブルトラン王家の血筋の能力はともかくブルトランの法律はフリューゲルでも法律を改変する時は見本にさせてもらってるぐらいだからな。

 フリューゲルの本隊が到着するまでに大綱を決めて行くぞ」


そう言えばこの場に居た大臣達を始めとしたブルトランの人達は目を丸くしていた。

何か言いたげに俺達を見ていたから何?と聞いてしまう。


「あの、我らの処分は……」


固唾をのんで俺達を待っていたのだろう。

今にも殺される、そんな覚悟で……

最初に牢に放り込まれた人達を見送った後、大人しく素直に従ったのにはブルトランの今までのやり方がそれだけの恐怖を植え付ける事が多々あった証拠だろう。


「ブルトラン側の処分は既に通達したと思うが、貴族としての爵位、地位の剥奪。

 下級士官としてこれからのこの地を支える基盤になってもらう。昇進はないと思ってもらいたい。

 フリューゲルで国を再編した事あるから先に伝えておくぞ。

 ここから先は元ハウオルティアの自称貴族がわんさか来る。それに繋がる商人もだ。

 金や血縁や友好関係を利用して貴族の下らん戯言を聞く羽目になる。

 それまでに下らん貴族のお話を遮断する為にも総て先に固める。

 いいか、戦争でこの国はフリューゲルに奪われ、フリューゲルの物になったんだ。

 他国の奴らに支持されるいわれはない。

 そしてこの場に居る者達は下級士官として雇用された者達だ。

 嫌なら今からでも出て行ってもらって構わん。

 士官としてのプライドがあるのなら民をこのまま放置しないように尽せ。

 それがお前達の処分だ」


ブレッドはこの場を当面の事務室とすると言って用意させた机に紙の束を広げて


「ブルトランもハウオルティアも大綱はほぼ同じ内容だ。

 だがいくつか問題もあるとフリューゲルは思う。

 三カ国重なる所は無視して相違点のある場所の改変をして大綱としようと思う」


俺達の顔を覗く。


「真っ先に決めるのは国の名前だが、ここは後回しにする。

 なんせこの地には守護者となる精霊が居ない。

 知り合いに精霊はいないか?」


真面目な顔をしてブレッドが尋ねるが精霊なんているわけないと言うブルトラン側に俺もルゥ姉の精霊ぐらいしか知らないと返す程度。


「悪いがフリューゲルはあの地以外手は貸さないって言ってるから諦めろ。

 って言うか、やっぱり野良精霊はいないか」

「野良精霊って犬猫と一緒にするなよ……」

「えー?でも、一人ぼっちで寂しそうにしてたら可哀想じゃない……」

「見付けても拾って帰って来るなよ。

 拾った場所にちゃんと戻せよ」

「えー?」

「お前の小遣いが減るだけだ」

「えー!あー、でも……」


悶々というふうに考え込みだしたランにブレッドはそのまま部屋の隅に机と椅子を用意してどこからか取り出したおやつを並べて椅子に座らせていた。

ブレッドの妖精達とシルバーもいるから大丈夫だろうが、扱い酷くないか?と言う無言の視線にいつの間にか入り口付近で待機していたカヤを見付けて何かと呼べば


「ルーティア様より後宮の掌握は完了しましたと伝言になります。

 こちらが後宮の王妃王女と侍女女官達の名簿になります。

 読んだらすぐに返してくださいと言ってましたが……」


カヤの言葉にブレッドはぱらぱらと流し読みしてふと手が止まる。


「テレンティア・ミハイロフ?」


宰相へと目を向ければ


「娘になります。

 以下は孫に……」


ブレッドは名簿をぱたんと閉じて


「俺のやり方に不満はあるか?」


娘を売り飛ばそうとする男に親として意見はあるかという所だろう。

だけど宰相は首を横に振って


「娘を王家に嫁がせる時に王を諌めるのも妃の役目として送り出しました。

 その役目もまっとうせず、ただ言いなりになった人形を娘とは呼びません」


思わぬ厳しい親の言葉だが、表情は苦しむただの親の顔の言葉に葛藤を見付ける事が出来る。

部下の人が肩を優しくさすっているが心配するなとその手を振り払い


「ブルトランの成人はとても早いのです。

 10歳の娘はよほどの家ではない限り嫁ぎ先が決まってます。

 男手を手放したくないのと同時に家を守る女の手の数を必要としています。

 幸いと言うか我が家はあの厳しい土地でも貴族の地位を賜り16歳までゆっくりと子供を身ごもれる体を作る事が出来ました。

 王家に差し出す為に外の世界をあまり教えず、家族以外の男と言う生き物を知らずに嫁がせてしまいました。

 今思えばいくら生きるのに厳しい土地だからとはいえ子供を早々に嫁がせると言う風習は終わらせたく思います。

 無知なまま嫁いで人形のように言いなりになるくらいなら親も同等に罰を背負わなくてはなりません。

 罪を犯して売られていく娘に手を伸ばす事も許されずに見送るのもまた親の務めかと思います」


そう言ってぺこりと頭を下げた宰相に周囲はただ静かに涙を流していたが、ブレッドはただ首をかしげて感情もなく


「俺がしてやれることは男女の成人を16歳にすると言う事ぐらいだ。

 悪いが譲歩するつもりは一切ない」


部下の人達がものすごい目でブレッドを睨みつけるが、ミハイロフはそれを片手で制して


「当然です。

 お前達もだ。

 我々は感情で動いてはいけない仕事をしている身だと言う事を忘れるな。

 アクセル総隊長は今この時間も本来ならフリューゲル王の為に使われる時間を我々の為にお使いになってくれている。

 感謝が出来ないのならこの場から去れ」


冷たいと言うまでの冷静な感情を横にブレッドはものすごいスピードで大綱をしたためていたが、そのすぐ後ろでフリューゲル王は妖精達と楽しそうにカヤの入れたお茶を飲みながらお菓子を食べていた。

時折妖精達がブレッドの口の中にも放り込んでいたが……どこか忠誠を誓いきれない光景に戸惑いは大きい。


「ブレッド、ランを借りてもいいか?」


別の扉からシュネルが現れた。

共にガーネットとブリューグラードも一緒に現れたが、あまりに美しい三人だったので室内が一瞬の静けさの後にざわめき立つ。

一人は千年の時を経てやっと精霊の姿を取り戻した神々しいまでに美しい男の姿のフリューゲル。

一人はビスクドールのような顔立ちに悲しみの影を落とすも冬の川のような長い髪を床に滑らせるブリューグラード。

そして婀娜っぽく胸元や太ももが露わなドレスを纏う豪快美女のガーネット事ロンサール。

三者三様の美を体現する精霊がいるだけでこの場が華やかになる物の


「ランなら後ろだ。

 晩飯が食べれなくなるからおやつをほどほどにするように注意してくれ」


視覚的な美にはあまり興味のない男は紙面から視線を反らさずに大綱を書き綴り続けていた。


「お前凄いな。

 あのフリューゲルに対してこんなぞんざいな扱いするなんて」

「まぁ、慣れだな」


ぞんざいすぎる答えにフリューゲルは静かに笑いながらランにもう終わりにしようかと言えばすぐさまごちそうさまをしてカヤに三人の分と新たなお茶を用意させていた。



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