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物語の結末は望んだものとは違っても

敵兵の皆さんもこんなひどい扱いに気が付いてもいいはずなのに誰も起きてこない辺り、既にこの戦いに参戦の意思表示がないと言う事だろうか。

必ずしも一枚岩じゃない。

こんなシーンによく使われる言葉だが、一枚岩どころか砂城の崩壊と言った感じで反乱の将のとりまき以外参戦する人が減って行き、それは目に見えて減っていた。

だけどそれでも狂乱のブルトランの下で将の最上位まで上り詰めた人物。

大きな魔石の付いた剣を取り出してむやみやたらと振り回すだけでも柱が次々に折れていくあまりの威力の高さに誰もが逃げ出す始末。


「あーーーーっははははははは!!!

 さすがのフリュゲールの化け物も我らがブルトランの秘宝中の秘宝、ギガントの剣にはなにも出来まい!」


気持ちよさそうに高笑いを響かせながら柱を叩き折り、崩れ落ちた柱にブルトランの兵士が巻き込まれていき、ひな壇の最下段から俺に向かって剣を振り下ろせば冗談のようにひな壇がパックリと割れてそこから水が下層へと零れ落ちて水の勢いが減る。


「マジかよ……」


シェムブレイバー並みの威力にどうするとジルを眺めるよりも先にジルは俺を抱えていて走り出していた。


「カヤ、オスヴァルトついて来い!」


逃げ遅れるカヤ達に声を掛ければすぐに追いかけてくれたさっきまでいた所にニ撃目が振り落とされていた。


「あぶねぇ……」


ジルの感に助けられたとはいえ冷汗は止まらない。

ニ撃目はひな壇の最上段まで届いており、逃げ出さなければ確実に餌食になっていただろう。

敵味方もなく混乱する状況の中でブレッドが叫ぶ。


「ブルトランもたまったもんじゃないな!

 狂王が倒れたと思ったら次に立ち上がったのは力任せに暴力の支配者だ!

 無事生き残ったとしてもあの剣の錆びになるだけだな!」


こんな時に大声で何挑発してるんだと思うもブルトランの兵士には効果があり次々に動きを止めて剣を放り出して玉座の間から逃げ出そうとしている。

土嚢ではないが、ブレッド達が隅っこに避難させていた人達が立ち上がり率先してドアを開け、外で遅ればせながらも乗り込もうとする部隊長に逃げるように指示を出し、怪我を負った者を担いで逃げ出そうとする様子にブレッドは尚も叫ぶ。


「フリュゲールの軍門に下ればこれからこの地の再興に力を貸してもらいたい!

 もちろんそれはブルトランの地にもだ!

 これから先は一つの民として共に暮らして行こう!

 とりあえず目標は腹いっぱいに飯を食う事だ!

 賛同するなら一階の広間で待機だ!」

「そんな話に誰が乗ると思ってる!!!」


敵将はブレッドの言葉に誑かされるなと言う様に剣を振るも、付いていけないと言う様に逃げ出す者と共にと言う言葉に二分される中、どう見ても身分の良さそうな者達だけがこの玉座の間に残っていた。

剣も魔剣で一振り一振り威力の半端ない属性魔法を纏いながら襲い掛かってくるこの場でも最も手ごわい武器を手にしていた者達だった。

ブレッドの声に大半の兵が居なくなって慌てる居残り組だったが、それでもギガントの剣の威力は脅威に変わりなく、エンバーとランがその隙間を潜って仕掛けるも触れればすぐに砕けてしまう効果なのかランの白い棍こそ無事であれどエンバーの大剣は既に罅が一面に入っていて使い物にならなくなっていた。


「代わりでもよければ使って!」

「ないよりはありがたい!」


ブレスレットのアイテムボックスから白銀の剣を投げ渡してエンバーは受け取っていたが、その瞬間力が抜けた様に膝から落ちそうになっていた。

と言うか、よく耐えたと言った物だろうか。

収納空間から高カロリー爆弾の非常食を慌てて口に放り込みながら


「魔剣なら魔剣って先に言え!

 ごっそり魔力を喰われたぞ!」

「ごめん。僕達魔力ないから分からないんだ!」


何処かで見た事ある光景だぞと思い出しながらも自分で走った方が早いとジルに下ろしてもらいなんとかルゥ姉と合流ができた。


「ったく、あの剣が邪魔だ!」


イラつくエンバーに既にエンプティ状態のクレイはブリューグラードの所にいつの間にか退避していた。

ぐったりとした様子は不安になるもシアーが魔力切れを起こしただけだと状況を教えてくれる。


「あっちはあっちでなんか凄い結界を張ってるから大丈夫だけど……」

「仕方がない。あの剣以外の奴から武装解除をしていくぞ。

 ラン行け!」

「了解!」


駆けて行く後姿にオスヴァルトが丁寧に突っ込んでくれる。


「こういうのは王の仕事でないのでは?!」 


もう今さらと言う様に誰もがスルーする中ランはその白く輝く棍で一人一人の剣を叩き折っていた。

さすがに武器と援護がないと慌てて逃げ出そうとするも、先に出ていたブルトランの兵が飛び出して来た人達を捕まえ、無事縄抜けした時の縄を使って確保していた。

ジルが爽やかな笑みと共に


「さすがです!」


褒め称えれば俄然とやる気を見せるブルトラン兵にぼそりと


「天然たらしが」


とブレッドが呟いて居た。

うん。

この場合の深い意味は突っ込まないよ。

確かにジルはやたらと部下に慕われていたし、フリュゲール滞在時にいろいろ不穏な噂も聞いたけど、これはどう見ても頑張る人を誉めただけって言うケースだからね。

謎の信者を集めない事を信じてるよと心の中で願ってしまうのは何故かやたらと対抗心からかやる気を出してる彼の部下の様子を見てしまっただろうか。

この件についても考えないようにするよう努める事にしよう。

さっきからこればっかりだ……

いや、後回しできると言うのはそれだけ余裕があると言う事だろう。

目に見えて減って行く敵兵の数の問題はほぼ解消されていると言ってもよくって、後はランが破壊して行く魔剣を扱う人達を注意しなくてはいけない。

特に敵将の人が危険すぎて油断できなくて……


「まったく埒が厭きませんね!」


ルゥ姉も魔力切れよりも体力回復に一口大に切った携帯食を食べていた。

ふわりとただようチョコレートの甘い香りの菓子を手渡せる位置の者にこっそりと渡して体力回復を促していく。


「あの魔剣が厄介すぎでしょ!」


シアーさえ無駄に高い破壊力の剣のせいで短剣の一本を無駄にしていた。


「対抗できるのはおたくの王様の棒と貰った剣ぐらいか?」

「ああ、俺達の剣はみんなランが鍛えた剣だから何とか持っている状態だが、ストックがあるから取り換えるなら今の内に」

「ただし魔力をごっそり持ってかれるから自信のある奴だけにしとけよ」


追加の注意事項をエンバーが言えば代えて欲しそうな者達は難しい顔をする。

ただでさえ既に大分魔力を消費しているのだ。

ここまで来るのに温存させていた魔力はこの戦いで消費した事を考えると、今その剣に手を伸ばすのは自殺行為にも等しい。


「だったら私は貰うわ」


勇敢にもシアーはブレッドから剣を貰うも一瞬眩暈をしたかのように体が揺れたが辛うじて踏ん張って見せた。


「あはは……悪いけどみんな治癒魔法は期待しないでね」


想像以上に魔力を持っていかれたのだろう。

ルゥ姉から非常食を受け取り口へと放り込みながら水の魔法で水分の補充もしていた。

戦闘特化したシアーの様子に俺達はますます後がない方へと進んでいるように思えたが


「ディック……」


ルゥ姉の神妙な声に俺は視線を彼女へと向ける。


「あまり使いたくなかった手ですが、あの方にお願いいたしましょう」

「あの方って……」

「ガーネットです。

 彼女ならあんな剣も問題にならないでしょう。

 私達には地図があるのです。

 地図を、この場で地図を書き直してもらいましょう。

 今ここで地図からブルトランを消去します!」


あまりの発想にルゥ姉を見上げて息をのむ。

国は増えたり減ったりする事は知っている。

これが本物の地図なら確実に大陸中の地図の保持者にブルトランと言う国が敗戦した事を知らしめる事ができる。


「どのみち書き換えなくてはいけない物。

 だったら先に我々がブルトランの国を消します!」


ルゥ姉の決死の顔に俺も頷き、一つ呼吸をして


「ガーネット来てくれ!約束の時だ!」


叫ぶ名前にエンバーを始め紅緋もクローム筆頭の雌黄も俺へと視線が注目する。

でもすぐに注目する位置が変わった。

空中に突如描かれた魔法陣とその輝きに誰もが手を止めて何が起こるのか注視していれば、森林のような木々の匂いと光が魔方陣と共にあふれ出た。

光はやがて人の形となり、ふわりとゆっくり着地をするような動きと共に光が飛び散った。

そして現れたのは場違いなまでの艶やかな赤いドレスと派手な顔立ちがにやりと笑う。


「私を呼んだとならば応えよう。

 あの日の礼に尽くそうぞ」


ルゥ姉とは違う迫力美人にブルトランの将もその豊満な胸と、足の付け根からあらわになってるスリットから覗く柔肌に釘付けになっていた。

その胸が、足が凶器な事を身をもって知っているロンサール側は今日もキワドイドレスを着てと呆れているが、視線を反らすハウオルティアの人達にも少々目の毒でもあるようだった。

因みにフリュゲール側はああいう奴って絶対危険な奴なんだぜー、ルゥでさえ相当だったから要注意人物なんだぜーとブレッドが注意を促していた。

一体彼女を何だと思っているのか聞きたかったがおおよそ間違いじゃないだけに否定の言葉も思い浮かばない。


「さて、私を呼んで何をさせたいんだい?」


舌なめずりするガーネットに二枚の地図を見せて


「ブルトランとハウオルティアの地図がある!

 この地図からブルトランを消してハウオルティアに統合してほしい!」

「なるほど。了承し……」


「ダメだ!それでは意味がない!」


ブレッドの叱咤におやおやと面白そうな視線をガーネットは彼へと流す。


「何で?!

 地図さえ書き換えれば!」

「その単純な考えが間違えなんだ!

 既に精霊の居ない二か国を纏めても現状は変わらないしお互いが潰し合うだけの結果になる!」

「だったらどうしろって言うんだよ!」


思わず横槍を入れたブレッドに掴みかかるもすぐ隣では一体どうするんだいとガーネットが腕を組んで楽しそうに俺達を眺めている。


「最初にフリュゲールの地図を書き直して欲しい!」

「結局それが目的かよ!」


思わずブレッドを突き放してしまうも、今度は逆にブレッドが俺を掴んで引き寄せて


「フリュゲールには精霊がいる!

 千年の呪縛から解き放たれた精霊の力ならこんな戦争すぐに終わらせれる!

 ランを精霊を俺達を信じてくれ!」


この世に面白い事がない。

常にそんな瞳の色で世界を馬鹿にしていたブレッドの初めて見る真剣な色に一瞬飲まれてしまうも


「保証は……」


聞かずにはいられない。

戦争は本当に終わるのか、そして本当に俺が願った結末に向かう事が出来るのかと……


「今までお前達に援助した出来事だけじゃ足りないか?!」


俺とルゥ姉を船に乗せた所から始まりブルトランの追手を振り切ってフリュゲールでの滞在。

その間の待遇やロンサールへの出国手続き、さらに言えばはハウオルティアでの紛れ込ませた人達からの保護からこの決戦への参入。

俺達よりも真剣にこの戦争の勝利を願っているのはフリュゲールなのは確かで……

周囲がいきなり参加した奴らの言う事を聞くなと訴えていた。

俺達の国を取り戻してくれと直接口に出す者もいる。

だけどだ…… 

俺は心の底にずっと滓のようにこびりついていた言葉があった。

何年前にも聞いて今もブレッドがくちにした


『千年の呪縛』


それがどれだけ苦しい物かロンサールで見て知った。

あんな小さな姿で無力となった偉大なる精霊の千年に比べたら俺達が国を失ってまだどれだけの月日だろうか。

月日の問題ではないかもしれない。

だけどその小さき者の為に化け物と呼ばれる事になった人が居る。

兄と尊敬して、甘えて、信頼して……


俺達を信じ続けてくれていたのにその信頼を俺は総て裏切ってしまった。


謝罪の機会はまだある。

この機会を失えば俺達を捨ててあの小さな鳥と共にまた千年の機会を待つのだろうかと考えれば急に襲われた寒気に顔を青くしてルゥ姉を見上げる。

俺にはとてもじゃないがそんな選択なんてできないと、でも周囲の期待を裏切る言葉を発する事が出来なくってただただ見上げていれば


「仕方がありません。

 私は貴方の共犯者です。恨みはすべて私が買いましょう。

 貴方の思う通りに致しなさい」


やれやれと吐く溜息を聞いて俺はブレッドを見上げ強く頷く。

それだけで理解してくれたブレッドは


「ラン!こっちだ!地図の用意を!」


その一言に落胆の悲鳴が広がった。

それからはブルトランに混ざりやめさせようとするハウオルティアの人達と阻止するフリュゲールの人達が絡み合う。

さすがに一緒の釜の飯を食った仲間と言うか共同戦線を張っただけに殺し合う真似はしないが


「シアー!エンバー!

 貴方方でブルトランのお相手を!

 ハウオルティアは冷静になりなさい!

 これは今後我々が生き抜いて行く為の保証なのです!」


ルゥ姉も言葉とは裏腹に納得できないと言いたげな悔しそうな顔をしながら


「我々が死なずにここまでこれたのはフリューゲル王のお力添えがあっての事です!

 先に返礼をして何の問題がありましょう!」


涙ながらの訴え。

ランが居なければ既に死んでいた身。

そして二重に張り巡らされた罠とブルトランのこの戦力を見誤っていた事を考えてもまだ足りないと言うのに、彼らが来てくれた。それだけで戦場がひっくり返り、この場に居る者達はまだ誰ひとりとして欠けていないのだからルゥ姉の最初の作戦を考えると奇跡にも等しい生存率。

歯を食いしばっての説得に誰もが顔を俯かせていく。

こうやって新しい時代を掴みかけているのに……

言葉にならなくても心の叫びが俺に訴えて来るのを受け止めながら


「ガーネット、精霊地図のフリュゲールをフリューゲルに書き換えてほしい。

 これをあの日の礼として頼む」

「承知した」


シュネルと共にやってきたランはシュネルに地図を取り出してもらい、どうしてアイテムボックスの中に机があるのか疑問だったが用意された机の上にその地図を置いた。


「さあ地図の保持者よ、まずは契約の血を」


促されてランは手の平を豪快に剣で傷つけてその流れる血を宝石にかけてゆけば、宝石はまるで血を飲むかのように血を内側に取り込んだ。

何が起きているんだと言う様にブレッドも俺もルゥ姉も見ているがすぐに宝石と血が混ざって怪しげな輝きを始める。

こんな手順があるのかと、知らなかった地図の変更の仕方に俺達だけでやれば確実に間違えるだけだと思い知らされてぞっとする背筋の寒気に眩暈さえ起きてしまう。

辛うじてオスヴァルトが支えてくれたが、ただ魔力を使って書き直せばいいと言う間違いを起こす前に知る事が出来てそれだけでも感謝するべき事だと思い知らされる。


「大出血サービスだな、そんなにも血は要らないよ。

 さて、私が書き直してもいいのかい?

 ひょっとしたらわざと間違えるかもよ?」


かつてフリューゲルの最大の過ちを口にするガーネットにランはシュネルと頷いてその姿が一つになった。

ぱっと魔素で出来た羽が周囲に飛び散る光景はとても幻想的だが一部で化物と悲鳴が響く。

そんな中でもランは冷静に


「信頼するしかないと僕達は言う事しか出来ない」


精霊騎士となった姿に誰もが息を飲みながら見守る。


「だからじゃないけど、僕達もうっかり間違えるかもしれない」


首筋に刀身も柄も全て深紅の剣を置く。

気が付けば机を挟んだ目の前にはアウリールがランの背中から離れていて、中心が蒼く、やがて透明に変わる剣を眉間に突きつけていた。


「おっかないねぇ」


無駄口叩くんじゃなかったとガーネットは珍しく冷や汗を流しながらも余裕を繕うように口の端を釣り上げて始めるよと言う。


「そんな事させるかあああっっっ!!!」


その力があれば三国をブルトランの地に変えてやると喚く男にエンバーが


「シアー、後は頼む!」


魔力がほとんどないと言っていたと言うのに黄金の魔力が体を覆い、髪も瞳も金色に変えたエンバーは構えた剣すらエンバーの魔力に反応して黄金の剣へと変えて


「ギガントがなんだ!

 こっちは王様が鍛えた剣があるんだ!」


どっちが強いか勝負だと言わんばかりに方やその名が表わす通りの巨大な剣と、方や能力は不明だがエンバーの魔力をごっそりと食い尽くす剣の凶悪さにエンバーの本気を上乗せした細身ともいえる剣は見た目通りだと思ってはいけない。なめてかかると絶対痛いだけじゃすまない思いをするはずだと見守っていれば、剣が交わった瞬間、ギガントの名を頂く剣が真っ二つに斬れていた。

斬った本人も驚きに目を見開きながらも切られた方はそれ以上に驚いていて、百戦錬磨ではないが戦いの中で生きているエンバーはすぐに驚きを隠してニ手目でその使い手を切り倒していた。

吹き出す鮮血を浴びるも、剣には血のり一つ無く美しい黄金の輝きを保ったまま。

肩で荒く息をして立つ勝者の姿にブルトランの兵は一部は怯えて逃げ出し、一部はなら次は俺がとおめでたい奴がエンバーに切りかかる。

けどそこはシアーがエンバーを守る様に叩き伏せて行く背後で俺やルゥ姉も横から見守る中ガーネットは指先に魔力を最大に高めて光輝く指先で書かれていた文字をなぞっていた。

なぞった場所から文字は消えて行き、フリュゲールの地には何も書かれてない真っ白の状態になったが再度文字が書かれていた場所にガーネットは指先で文字を書く。


フリューゲル


一番古く、大陸共通の文字として使われるウィスタリア文字で書かれた文字はフリュゲールでも使われていた物の為に違和感はない。

ほんの少し綴りが変わった文字を満足そうに眺め


「さあ、フリューゲル。

 今度はお前の番だ」


今度はって何をさせるのかと思えば一つの姿は二つにほどけ、ランは剣を構えたままに、シュネルはその小さな嘴で自分の羽を毟ってむき出しになった肌を更に嘴で傷つけて行き、地図の上をちょこちょこと歩いてその宝石にこすり付けていた。

ジワリと宝石の色とランの血の色が混じり合う中にシュネルの精霊の血が混ざり、それが契約と言う様に途方もない光が柱となって部屋を埋め尽くした。

それは瞬間の出来事。

誰もが目をくらませる中、ランが用意した机を満足そうに見たガーネットは笑みを浮かべて


「精霊フリューゲルの血と契約者の血を持って契約は完了とする!」


凛とした声が響けば喜びと悲嘆の声が混じり合う中涼やかな声が広がる。


「ロンサール、なぜおまえがここに来るのかは知らないが感謝する」


小さな鳥が光に溶ける。


「フリューゲルの知らない所でいろいろあったんだよ。

 それと感謝するのは私の方だ。

 チビ共を充てがえてくれてありがとうと言っておくよ」


ロンサールと呼ばれて否定をしなかったガーネットに紅緋も雌黄も驚きにガーネットを見上げて、エンバーは不思議そうに、でもどこか興奮しているのかのように顔を赤らめて見つめていた。

そのすぐ横では光が溢れて毎度ながら質量保存の法則はどうなってるのかと思わず睨みつけてしまう現象の中一人の男が姿を現す。

幾重にも服を重ね、地まで着かんとする命の輝きを持つ長い髪は背中でゆらりと輝きと共に揺られながら現れた姿に俺もランも誰もが見上げていた。

骨格が男らしいから男と意識したが、ガーネットはもちろん美しい造形は精霊ならではなのだろうか。

男に美しいは一部の方への褒め言葉だから使うのは躊躇われがちになるも、それでも言わずにはいられない。

美しい、と。

優雅な動きで満足そうに机の上に置かれた地図を手にして満足げな顔で眺め


「ようやく念願成就と言った所だ。

 我が騎士よ、これにて盟約は果たされた。

 これより先、共にランの運命と最後まであろう」


ランの口を借りての声とは違う声色にもっとおじいさんだと思っていたが、想像を超えた若い姿にあの鳥の姿となかなか一致しない。

そして当のランもぼーっと見上げるだけで驚きに思考が着いて来ておらず立ちすくんでいれば


「どうした?」


シュネルがその癖のある髪を恐る恐ると言う様に大きな掌で撫でれば、何かが決壊したかのようにぽろぽろと涙を零し始めた。


「ラン、私からも礼を。

 あの日我らが守らなければいけなかった事を千年の時を経て取り戻してくれてありがとう」


アウリールも剣をガーネットから離して既に光に溶けて消してしまっていた。

だけどランはさっきよりも勢いよくボロボロと涙を零しているのを苦笑しながらシュネルが涙を拭って行けば


「シュネル!ねえシュネル!!!

 シュネルだよね!!!」


しがみつく様にその体を抱きしめてただ何かを喪失したと言う様に何度も確認する言葉にシュネルは瞠目して


「私は何も変わらない。

 ランだけのシュネルだ。

 ただ、服が一枚増えた姿だと思えばいい。

 この恩にはランが生き抜く時を総て私は私を捧げると契や……」

「僕は契約や盟約が欲しいわけじゃないんだ!

 ただ、シュネルがずっと僕の家族で居てくれる事を僕は望んでいてっっっ!!!」


まるで血を吐くような必死の願いにシュネルも強く抱き返し


「今までと何も変わらんよ。

 私もアウリールもアリシアもフェルスもお前の家族のままだ」


名前を貰った時に約束しただろうと笑うシュネルはランを抱き寄せてなだめて静かに、だが人の顔がこんなにも見た事もないほどの柔らかな笑みを浮かべれるのだと思うくらいの笑みで精霊はランに語りかけていた。


だけどそれは一瞬で、ランがシュネルの胸に顔をうずめて泣いている間にちらりとアウリールへと視線を向ければ総てを承知したと言う様に頷く。

瞬間的に姿がぶれたと思ったら一陣の風が吹いた。

何が起きたか判らない。

だけど何が起きたか結果だけが残されていた。

アウリールの姿を見つけた時にはその手には先ほどの青い剣が握られていて、一呼吸の後に次々とブルトランの兵士が崩れ落ちて横たわっていた。


「ランのやり方に則って命までは取ってない。

 ジル、今の内に縛って牢にでも放り込んでおけ」

「あああ、縄が足りるでしょうか……ではなくって。

 各隊員、城内にはまだ終戦を知らない者達の襲撃の可能性がある!

 第一班は私と共に第二次警戒体制のまま牢を制圧する!

 第二班はブレッドの指示の下第一次警戒態勢のまま警戒を怠らないように!」


ジルの指示の後に


「ブレッド、終戦宣言だ。

 城にフリューゲルとランの旗を上げろ」


あまりのあっけなさにブレッドは静かに頷いてオスヴァルトに旗を上げる場所を案内させる。

当然この中で戦力も魔法も強い紅緋を引き連れてフリューゲルの騎士と共に駆けあがっていく。

その姿は開け放れた扉の先にある廊下の窓から様子は見えた。

全力で階段を駆け上げるブレッド達はやがてブルトランの国旗が掲げられる城の塔に辿り着き、ブルトランの旗を焼き落として新たに人と精霊が一つになった精霊騎士をモチーフとしたフリューゲルの国旗と聖獣を従え武力によって国を立ち上げた証とした剣と四公八家の長と言う様に王冠を頂くランの徽章が描かれた旗を掲げた。

それから何やら遠くからでも楽しそうに騒いでいるのが見えたかと思えば窓越しでさえ耳に響く音の花火を上げていた。


ユキトの世界のような美しい花火ではない。

だけど懐かしい笛の音と遥か上空で炸裂する爆発音と弾け出した真っ白の煙。

さらに何かの魔道具だろうか。

ブレッドが旗を掲げた場所から身を乗り出すように終戦宣言を叫んでいた声が、ここまではっきりと届いた。


「ブルトランの民よ!ハウオルティアの民よ!

 二つの国の地に立つ総ての民に次ぐ!

 ブルトラン王は倒れ今を持ってフリューゲル国フリューゲル王の勝利を宣言をする!

 ブルトラン軍は武装解除し我々フリューゲル軍の指示に従う事を要請する!

 城内の者はすぐに武器を放棄しフリューゲル軍の指示に従う様に!

 国民の方々には安全が確認できるまで、約束の明日の朝まで自宅待機をするように!

 以上!」


城のこの位置から街の様子は全く見えない。

だけど誰もが希望に湧いた喜びの声が城の中心と言える玉座の間まで聞こえた。

ブレッドと一緒について行った人達は喜びに花火をまだまだ上げている。

花火にも負けない喜びの悲鳴を聞きながら俺はきっとこの先、ずっと生涯忘れる事の出来ない出来事の中心に居たんだと、この光景を忘れないようにと家から逃げ出した日からの出来事を思い出しながら煙だらけの青空を眺め喜びに満ちた歓声を聞いていた。




まだまだ続くよ

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