宿命と言う物があるとするなら
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城内戦は城に入ってすぐに始まった。
俺達の侵入はすぐには気づかれてなかったようだが、ジルが良い感じに戦力を分散させて偽情報をばらまいてくれていたおかげで混乱の極みの中の城内は数人に分かれての行動に俺達が押さえる前によく手にしていた純白の棍を持つランが一人で制圧をしてくれていた。
「王様って棍使いかよ。
てっきり剣でばっさばっさっていくかと思ってた」
「一応学院でも習ったんだけどね。
みんなが危ないから使っちゃいけませんって言うんだ」
「まぁ、刃物だしな。
って言うか、どんだけ過保護なんだよ……」
「確かに、戦場で先陣切らせるのに過保護の意味わかんないんだけど……」
通常のランの戦い方を見て感心しているエンバーとクレイはあまり周囲にいない棍使いを興味深げに観戦していた。
魔法対処要員としてブレッドに指名されたのだが、ランの棍は魔法すら叩き潰す謎効果が付いているようで二人は黙って見学しているだけだった。
そのすぐ横でジル達はすぐに昏倒した相手に武器を没収し簡単に反乱しないようにと下着以外の服も取り上げ縄で身動き取れないようにして空いていた部屋に放り込んで放置していた。
服を取り上げる意味が判らないけどジルは楽しそうにこうやって目の前に見える所に服を置いておくと律儀に着てくれるから時間稼ぎにちょうどいいのですよと笑って言う。
服って脱ぎやすいようにできているのでと言いながらご丁寧に裏表になってしまった服をそのまま置いていた。
脱がせる時間もどうよと思うが……
「地味だけど確実に嫌な嫌がらせだな」
ボタンばかり多いブルトランの騎士服にエンバーでなくても嫌だと思ってしまう。
その横でブレッドは何やら法律書を集中して読みながらも俺達に横道の注意や進む道を指示しながら玉座の間をまっすぐ目指している。
「オスヴァルト、これは本来お前の役目だ。
昔の住処ならちゃんと案内しろ」
言われてから慌てて誘導するも、やはり曖昧な記憶がありブレッドが口を出す回数は少なくなく、ブレッドの指示が重なるにつれてがっくりとうなだれるオスヴァルトに
「しっかりしてくださいよ。我々の命は貴方の指揮にかかってるのですから」
にっこりと追い打ちを掛けるジルは少なくとも前回の失態にまだまだお怒りのようだった。
玉座の間に近づくにつれて当然のように美しくなっていく城内の装飾と、次第に強くなっていくブルトランの騎士なのだがどれもこれもランが一人で制圧して行くのだ。
長い棍を使っての室内戦は相手の魔法もあり圧倒的に不利なはずなのに全くの狭さを感じさせないのびのびとした戦い方に絶対的な戦力差とはこんなにも余裕を生むのかと感心さえしてしまえる戦い方はエンバーでさえもこうなると魔法さえ必要ないのかと呻いていた。
俺やルゥはこうなると思ったとまでは言わないが、ブレッドの指示に体力と魔力の温存をするように言われて大人しくついて行く中、俺達の存在はと頭を悩ませているオスヴァルトに殿を務めるヴァレンドルフ隊の皆様は言う。
「そんなの後処理班に決まってるじゃないですか」
速やかな処理を済ます為には手数は多い方が良いに決まってるでしょうとにこやかに当然と言った顔で言う。
違うだろと言いたいが、何処か達観している視線の彼らには俺達には理解できない苦労をして来たんだねと同情するしかない。
と言うか、ここまで何度も奇襲も待ち伏せもされてきたと言うのに、まるでそこにいるのが判っているかのようにランが一人で処理をしてしまう。
何時ものように頭の上にはシュネルを、そしてアウリールを背に張り付かせたままで。
全く邪魔にならないようで懸命に張り付く後姿がかわいくてぼんやりと振り回されるしっぽを何故か生暖かい視線で追ってしまっていた。
戦い方の勉強をしろとブレッドに注意されてもあのしっぽが気になると訴えても知らんとしか答えてくれないのでアウリールを恨んでも仕方がないと思うのは当然だ。
「船上の時みたいな失敗はもうしない」
と言って張り切るランにこれはあの時のリベンジかと俺は無理やり納得する様にしていた。
王城とは言え広くない廊下で身の丈ほどの棍を振り回して次々に倒していく様はよくできた映画のようで、流れるように弧を描く棍の軌跡すら美しいと思えてしまう。
ちなみにトラップは総てルクス達が解除していたので所々城内は既に大惨事となっていた。
兵士の皆様があわただしく確認と後片付けと言う働いていた所を何度か背後から襲いかかると言う情けない話もいくつかあったが、その制圧には俺達も手伝わせてもらっていた。
ちゃんと仕事をした妖精を誉める参謀のブレッドは戦闘をランに任せて法律書を未だに読みふけって、ジルは時々敵に紛れ込んでいる部下を回収しては任務完了お疲れ様と騎士服を渡していた。
「何だこれ?
何このイージーモード……」
決死の思いで乗り込もうとしていたはずなのにこうも容易く玉座の間の前の廊下に来てしまった。
「こんな馬鹿な……」
ルゥ姉でさえ項垂れる頃、やっと法律書を読み終えたブレッドが本をアイテムボックスの中に片づけて
「これが準備をした結果というやつだ」
事前に部下をもぐりこませて城内の把握、状況の混乱、指揮系統の乱れの誘発、戦力を削るのは当然と言う様にオスヴァルトに向かって言ってはいたが、こんな事あるわけないと既に目が死んでる彼に
「今回は特異な例ですので容易く真似してはいけません。
もっとも、死にもの狂いなら可能性にかけて本来は貴方達がこの混乱を誘発する役目を負わなくては行けなかったのに、先日の騎士の方を送り込むのに脱出を手伝う仲間をもぐりこませてない不手際さを見てブレッドの部下で本当に良かったと思いましたね」
とジルがどうでもよさ気にオスヴァルトを窘める言葉には俺も反省してもしきれない結果。
唇を噛みしめて後悔するしかないのだが、今は簡単に玉座の間に来てしまうとここが戦場って言う感覚が無くて困る。
とは言ってもさすがにこの廊下に対して多すぎるとも言ってもいい人数を配置していたが……
「うわーっ!」
「何だお前っ!」
「裏切るのか?!」
配置していた最奥の人が俺達を注視する人達の背後から襲っていた。
と言うか、すぐ横に立っていた隊長格の人をあっさりと瞬殺していたので一瞬にして烏合の衆と化した。
え?本当にそれでいいのと目が点になってしまう中、それでも数が多いからこの混戦に飛び込むも、既に参戦していたランによって半数近くを叩きのめした後だったので本当に俺達は役立たずだった。
ほら、混乱している室内戦って間違って仲間を巻き込みそうだから魔法使えないからね。
使えるのは補助効果の魔法ぐらいだからね。
使ってもいいけどすぐに壁が壊れたり天井や廊下が落ちたり建物が燃えたりうっかりまきこんじゃったりするから、ルゥ姉みたいに窓に向かって風で押し出してお終いなんてアホな技術がある人位じゃなきゃ魔法を使っての室内の魔法戦って難しいからね。
だから腕の立つのを選りすぐって来たはずなのに、この人数は本当に必要だったかと思うも戦闘処理班は玉座の間を目の前にしても黙ってサクサクと働き出していた。
「シュネル様、陛下、総隊長お待ちしておりました」
玉座の間の前を預かる地位までのし上がった男はブルトランの隊服を脱いでフリュゲールの騎士服を纏い久しぶりの挨拶をする姿を俺達は横目に同僚の人達は最後にと言う様にやっぱり服を脱がして縛り上げていたのを俺達はもう無言で見守るしかない。
こんな国とやり合うのは嫌だ!
負けたら下着姿で放置されるなんて絶対嫌だ!
誰もの顔に書かれていた言葉には俺も頷くしかない。
負けた上に身ぐるみはがされて縄で縛られて放置だなんて瞬く間に世間の皆様の耳に届く事になるだろう笑い話に生きてけないと思ってしまう。
無言のままこの行為を止めようかどうしようかと最後まで止めようかどうしようかと悩むクロームにオスヴァルトも見ないふりをして考える事を放棄していた。
と言うか関りたくないと言う表情だった。
「所で中の状況は?」
ブレッドの質問に
「ブルトラン王を始め、親衛隊が詰めております。
戦力は、まあ、陛下が居るのなら問題はないでしょうが……」
「開けた途端矢とか魔法が飛んでくるか」
「だったら僕が先頭だね。
じゃあ行こう」
公園に遊びに行こうかというノリで玉座の間へと続く美しい彫刻の施された扉を俺達の心の準備を待つ間も無くあっさりと開け広げられていくのを俺達はそろって間抜けな顔で見守るしか出来なかった。
「シアー!防壁を!」
「対魔対物防壁展か……」
仲間にすら意表を突く様に開け放たれた扉にオスヴァルトは慌てて扉の影に入ったり、カヤはリーナとアメリアを柱の陰に引き込んだり、一応戦闘態勢だったエンバー達も剣を構え直す前に矢が飛んできたが……
しゅぼ……
そんな音を立てて次々に矢が燃え尽きて灰になっていた。
魔法も途中から分解されたと言う様にキラキラとした光に分解されて空気に溶けて行く。
驚く間もなく何時の間に玉座の間に入り込んだのだろうかブレッドの四体の妖精がブルトランの弓兵の弓を破壊し、魔導師兵団の魔武器も破壊していた。
いきなり壊れてしまった武器に驚いてパニックになるブルトランの兵は荘厳なまでのきらびやかな玉座の間であたふたとするみっともない姿を披露する隣でも当然と言う様に剣を構えていた人達の剣も破壊していて、不可視の早さで飛び回る妖精が残す魔力の残滓を目で追いながらこの展開をただ俺達は眺めているしかなく、ここに来てもやっぱり役立たずだった。
本当にただついてきただけの役立たずだった。
今朝までの決死の覚悟はどこに行ってしまったのか是非とも教えてほしい位役立たずな俺達はただただ呆然とフリュゲールの戦いを見てるだけの傍観者だった。
ブルトラン側も次々に破壊されていく武器に空手になった人達は後ろに下がってわずかになってしまった武器を持つ人と入れ替わって行く様子の中、玉座の間にランが俺を引いて連れ入って行く。
見上げるはひな壇の最上段にある黄金の椅子に座る一人の男。
氷の瞳と真冬を纏う黒い鎧を着た精悍な男がそこにはいた。
「やあブルトラン王。宣言通り会いに来たよ」
「予想より早いお出ましだなフリュゲールの王」
お互いをけん制し合うよな視線の挨拶から始まった会話に室内は爆発寸前の緊張をはらんでいた。
「貴方が会いたがっていた人を連れて来た。
彼がリーディック・オーレオ・エレミヤだ」
そう言って俺を置いてランは俺から一歩下がる。
「貴方に彼と国を駆けた一騎打ちを申し込む」
暫くの静寂の後
「お前はあの男に本当によく似ている。
憎たらしい顔だ」
ブルトラン王の怒りに満ちた顔が、声が、視線が不可視の剣となって俺を切りつけて行く。
「憎たらしい上に我妻を穢した男の、その顔は似すぎて切り刻みたくなる」
ぞっとするような妄想に取りつかれた言葉に鳥肌を立ててるのは俺だけではないはず。
ブルトランの王の背後で俯き加減の青い顔の質の良い服装から想像するに宰相だろう男はありえないと言う様に首を横に振る様にブルトラン王の狂う様子を言い表しているようだった。
玉座から立ち上がり隣に立たせていた若い騎士が恭しく持つブルトラン王の剣を抜き取り剣の先を床に向けて突き立てて
「ハウオルティア最後の王族よ。」
負けた暁はどうなるか判ってるのならかかってこい」
誘う言葉に俺も剣を抜いて一歩出るもぴゅるるるると場違いな美しい声が室内に響いた。
そこでようやくランの頭の上に居る鳥のさえずりかというように視線を集めていたが
「ブルトランの王よ」
ランの声がこの一騎打ちの場に割り込み
「どういう意図かは知らないが、この場に仕掛けて在った魔法はすべて解除させてもらった。
王同士の戦いに『罠』なんて無粋な物で邪魔はされたくないだろう?」
睨みつける視線の先でブルトランの王の近くに侍る魔導師の動揺するする姿に
「そこの魔導師達には大人しくしてもらおう」
言えばぴゅるるるると鳴くシュネルの美しい声に何故か魔導師達はその場に崩れ落ちた。
突然倒れた為に何が起きたんだとランを見れば
「魔力回路を混乱させたから暫く魔法は使えない。
何日かすれば回復するか二度と使えないのどちらかだからそのまま大人しく寝てろ」
ぴゅるるぴゅるると囀るシュネルの言葉を伝えるランは小さな声で卑怯だねと言うも手を出さないスタンスは変えずに背後に控えたまま。
面白くなさそうな顔のブルトランは雛段状に高くなっている玉座から下りてきて剣を構えるのを見て俺も剣を構える。
「来い」
その発した言葉に俺は剣を中段に構えてブルトラン王へと走りながら剣を振りかざして切りつける様に駆け出した。




