掲げる旗の正義
進軍はついに始まった。
かつて門だった付近は瓦礫の山となり、外城門に向かって先頭を行くランとブレッドの後を周囲からの奇襲を警戒して俺達が続く。
ランと何故か気の合っているエンバーが隣同士で歩いているのには疑問が尽きないが、エンバー曰くなんか居心地がいいらしい。
口では言えないけど、なんか楽だと言うのだから相性というのはわけがわからないものだ。
肩から背中にアウリールをリュックサックの様に張り付かせた防衛の体制は取ってはいるようだが、すぐ後ろを歩かなくてはいけない……アウリールを見慣れている俺やルゥ姉はともかくクロームを始めみなさんの顔はかなり引きつっていた。
小さくなると結構可愛いぞと、ぴくぴくと動くしっぽはランとエンバーとブレッドの会話に反応をしているようだった。
やがて見えてきた外城門後地。
遥か後方に飛んでいった門ではなく、地面に突き刺さって傾いた状態では危ないから吹っ飛ばした本人に横に倒してもらっておいた。
「あれ鉄で出来てるんだぜー」
なんて言っていたハウオルティアの元騎士の人達は人の手で開けようとするにも5人は必要なのにと人型に戻った姿の片手でひょいと持ち運びしているのを見た時は新兵の時あれだけ苦労したのにと涙を流して語っていた。
無言で見守ってしまってたけどその人達を見て
「これが今のフリュゲールの日常だ。
んな事で一々泣くな!」
何て無情なまでのブレッドの叱咤が飛んだ。
滞在の期間みなさん一々口にしなかったが既に慣れ親しんだ後の様子と言うか、いつもの事だと既に開き直っての行動なのだろう。
だけど慣れろって無茶じゃねぇ?
いや、俺達も十分馴染んでたけど、改めて考えると随分おかしな国だよなと思わずにはいられない。
何で滞在してた時疑問に思わなかったんだよとルゥ姉にぽつりと言ってしまえば
「貴方が当たり前のように過ごしていたのでフリュゲールではこう言う物かと思って過ごしてました」
おかしいと思ってたけど一々気にする事ではないと思ってましたとルゥ姉でさえ言い切った言動に頭を抱える。
「これ、非常時の時の一番ダメな奴だからね。
火事の中でもみんな平然としてるから逃げなくてもいいかもなんて思っちゃう一番ダメな奴だからね」
「確かにそうですが……
悪意と言う物がないのでどうしても気にする事ではないと思ってしまうのですよ」
「まぁ、妖精や精霊の住処に人が住まわせてもらってるって言う国だからな」
冷静に考えれば一番びっくりな国がフリュゲールではないかと今更ながら考えてしまうもその外城門の前でブレッドが一度止まれの合図を出す。
「外城門を境に戦闘区域に突入する。
だが、その前に一般市民に通告をする!」
とりあえず読めとランに一枚の紙切れを手渡した。
ランは「またー?」と眉をひそめながらも何かの魔道具を片手に
「城門の内に住まう者、外に住まう者達全てに通告する!
これよりフリューゲル国はブルトラン王との戦闘に入る!
一般市民に被害は出さない事を約束するが、万一我々に攻撃のがあれば当然反撃をする!
先ほどのドラゴンを見ただろう!
この門内をドラゴンブレスで焼き尽くすのは容易!
一人の行動がこの門内総ての意志とみなす!
各自行動には気を付けるように!
なお、貴族諸侯の方々には武力の無力化をさせていただく!
この際も同様に門の内総ての命がかかっている事を理解してもらおう!
我々の指示の下門内に住む者は自宅の中で待機をし、我らの要求に従う事を要求する!
期限は明日の朝までとし、明日の早朝改めて次の指示を出す!
以上!!」
震える手と途中から額に青筋を立ててにやにやと笑うブレッドの顔を睨みつけながらも読み切ったランは思いっきり紙を丸めて地面に叩き付けて
「何で僕らがこんなひどい悪者にならなくちゃいけないんだよ!!!」
「ひゅー!悪役かっこいい―!」
ブレッドは口笛を吹いて笑いながらランの頭を撫でてもランは涙をちょちょぎらせて泣いていた。
と言うか、内容がドンビキだが俺達の顔を見回して真面目な顔をして
「何も間違った事言っちゃいないだろ?
これから王の住まう国の王の住まう城に乗り込むんだ。
方や列記とした国の王の住む城の主と亡国の自称王族の末裔と国を失った者達」
「ブレッド!」
ルゥ姉が噛み付く様にブレッドの襟首を握りしめてその身長差を引きずり落とすように引き寄せるが
「なら『なぜ』を問うぞ?
戦争をふっかけるのなら国旗はどうした?
公爵家のガキなら、本物のリーディック・オーレオ・エレミヤなら紋章があるはずだ。
ロンサールの王族の参加ならロンサールの国旗は?彼の紋章は?
フリュゲールで散々叩き込んだ大陸共通の法でも記されてるはずだ。
騎士団の長に一時でも坐したお前が知らないわけがない。
ましてや王族として成人した者が知らないわけがない!
知っていなくてはいけないんだ!
戦争経験のある自称騎士団ならその旗を掲げる重要性をよく知ってるはずだ!
戦いの正当性を!そして掲げる正義を!命を捧げる忠義を!
旗がない?
作れるだけの資金もしくは技術も渡したはずだ!
なのに二年以上の時間があって何故用意してない?!
期日は決めてあったのに何故ここの何故どこにも見当たらない?!
道の整備、畑の整備、住居の提供、学問の習得なんざ国を得てからでも十分じゃないのか?!
ディータを本気で王にして国を取り戻すのなら法に基づき法に則った手順を踏むべきではないのかっ!!
生きて会おう!その約束はどうしたっ!!!」
「それは……」
言いよどむルゥ姉にブレッドは尚も畳み込む。
「お前はやる事には徹底的だが詰めが甘い!
例えばマーダーでのニコラの一件。
仕組んだとはいえ王族に怪我を負わせた。
フリュゲール国たった一人の唯一の、300年待ってやっと帰って来た王族の王をそう使うのなら極刑が前提だ!
それを許す?
ふざけるなっ!
国を力で乗っ取ったランが進む道は絶対王政の独裁者だ……
新フリュゲール国で法整備すら満足にも行き渡ってない中でそう言った詰めの甘さが後に混乱を生む事がどういう事か判ってるのか!
想像ぐらいはいくらでもできるだろ!!!」
「それは……」
更に言葉の見つからないルゥ姉に
「そんな中途半端なお前にこの城門を越える資格はあるのか?!
単なる復讐心で未来を描けないお前にここを越えて行く資格はどこにある?!」
今更だ。
城門を越えたランとブレッドとまだ越えてない俺とルゥ姉の間を描くかのようなラインに誰もがルゥ姉の答えを待っていた。
返せない言葉になんか言い返せと周囲は固唾をのむ様に視線でルゥ姉を応援する。
こんな若造に何を言い返せないでいるのだと言う無言の圧力にルゥ姉はだんだんと俯きがちになる。
ブレッドが言う通り一時とは言え騎士団の長に居たのだからブレッドの言葉の正論に打ち勝つだけの用意がなかったとしか言えないとしか言えない状況に
「資格がないのならお前はここまでだ。
だが、これはブルトランの前まで連れて行く」
そう言って俺の手をぐっと引っ張って門の内側へと入れられてしまった。
ぁ……
小さな声が耳に届いた。
置いて行かれた、切り捨てられた、そんな弱弱しい声。
こんな脆い彼女がいるなんてと驚きに目を見開く間もなく俺はブレッドに手を引っ張られてどんどん城の方へと連れて行かれる。
この状況は一体何なんだ。
何年もかけて走り回って俺達はこれだけの信頼を勝ち取ったのになんでランの力の一端でここまで来た道のりを台無しにされなくてはいけないんだと反抗心からブレッドの手を振り払おうとするも、悔しい事に彼の腕はびくりともしない。
どんどん離れて行く距離の中静かな声が響き渡る。
「何もルゥ姉の安全も考えてそんな言い方をしなくてもいいんじゃないかな?」
思わずランの顔を見上げる。
ブレッドなりの優しさだと思ったがそれはすぐに打ち消される。
「ルゥ姉に資格がどうのこうの言って本当に守ろうとしようとしてるのは何?
国?正義?法律?
自分だけの正義に国も法律なんて関係ないじゃないか」
一国の王の空恐ろしい言葉に誰もが耳を疑う。
「だって国旗が必要なら僕達の1つだけで十分だろ?」
その国旗を背負う王は俺よりも小さな体の背筋をぴんと伸ばし
「これから起こる責任があるとするなら唯一挙げた国旗の主が背負えばいいだけだ。
たとえ、ブルトランの王が殺した数を押し付けられる事になってもそれがどうした。
僕は僕の正義の為にブルトランと言う国を滅ぼす覚悟でここに立っている。
法がなんだ。
最終的に法に則っていればいいんだから。
順序がどうした。
最後に辻褄を合わせればいいだけじゃないか」
「そのようなわけにはいきません!
ラン一人に我々の責任を負わせるなんて!」
ルゥ姉の悲鳴に
「どのみち始まったこの戦争に掲げられた旗はフリュゲールのみだ。
各国にも書簡を送りつけたから偵察に来てるだろう各国の諜報員の持ち帰る報告の意図がどこにあれどフリュゲール国がブルトラン国に戦争を仕掛けたと言う見解には変らない」
そこまで言われれば俺にでもわかる。
勝っても負けてもフリュゲールがランが総ての責任を負う事になる事を。
「だから、ルゥ姉達の思惑とはかなり違った方向に向かってしまったけど、僕は約束する。
この戦いに勝って、ディを王に据える。
この国はルゥ姉達の準備不足でハウオルティアもロンサールももう名乗る事は出来ないから、新たな国となる事ぐらいは覚悟してほしい。
二つの国の精霊と地図は切り離され、二つの国の精霊はその国を見放したのだからこれから歩む先は厳しいかもしれないけど、それでもよければ城門を越えて勝利と未来を信じて僕に着いて来てほしい」
そう言い残して歩き出したランの小さな背中を追うように俺はブレッドに引きずられて城へとどんどん向かう。
ランにそこまで責任を押し付けれるか!ふざけるな!とブレッドの手を振り払おうとしながらも置いて来てしまったルゥ姉を探すように後ろを向けば当然のような顔をしてエンバーがいつものどこか気楽な足取りで着いて来ていた。
「まぁ、そう言った難しい話はよくわからないけど……
俺はガーネットと約束しちまったんだ。
この戦いの結末までを俺の目と耳で確かに見届けて伝えるって。
リタイアなんてできないんだよ」
その一言に、紅緋とロンサールの王族の叔父と甥が一つ頷いてそれに従う様に雌黄が付いてきた。
さっきまで突然現れたランとブレッドをどこか胡散臭げに見ていたのに
『勝利と未来を信じて僕に着いて来てほしい』
俺達が言えなかったたったその一言でエンバーが動けば彼を筆頭とした一団がその背について行くように城門をあっさりと超えて来てしまった。
越えれば死ぬとまで言われていたラインを躊躇わずに超えて行く姿に外城門を越える事を躊躇う一団が目を見開いて見守る中
「どのみち城に行ってブルトランの奴が要らん事したせいでロンサールにも莫大な被害を被った。
ブルトランが悪いわけじゃないが魔族に入り込まれるような隙を作った責任ぐらいとらせないとな」
クロームが言えば雌黄も紅緋も確かにと笑みを浮かべる。
「となると我々も進まないわけにもいきませんか」
やれやれとフリーデルがルゥ姉の横を通り過ぎて行った。
「もともと我々が王女を説得できなかった責任が一番重い。
我々の意志の象徴とする旗がなく、集う旗すらないのではたとえブルトランを討ちとっても罪人として断罪されるしかない結末。
確かにこのままでは我々のした事はただのむごたらしい仕返しをしただけにしかなりませんね。
宰相補佐として30年務めてきたと言うのに、なんて無様な失態を……」
「確かに。
こんな重要な事ができなくてよくぞ宰相補佐など務めれたな」
「家名だけの何人かいるうちの一人でしたので」
「ハウオルティアの法にどれだけ精通している?」
「法律書を見ながらではないと」
呆れたようなブレッドにフリーデルはまだ躊躇ってるオスヴァルトを大声で呼びつける。
少し顔を青ざめながらもラインを越えて辿り着いたオスヴァルトに
「この者オスヴァルトと申しますが、私よりもよっぽど使えます」
「あー、ここに来て配置転換だ。
フリーデルはセイジと共に市街戦の方に、オスヴァルトは俺達と着いて来い。
フリュゲールの戦い方を見せてやる」
「戦争経験がないのでぜひよろしくお願いします」
青い顔のまま言いながら俺と反対側のブレッドの隣を歩き出せば、一人、また一人とハウオルティアの元騎士団の人が付いてくる。
次々にルゥ姉の横を通り過ぎていく騎士団の人達を無言で立ちすくんで見送るルゥ姉の姿はもうランについてきた人達で見えなくなってしまった。
ブレッドの手を振り払おうとする俺をクレイは何か言いたげな顔をして眺めているも、フリーデルやオスヴァルトを始めとした人達も沈黙を保ったまま。
クロームが何度かブレッドに向かって口を開こうとするも直ぐに閉ざす。
何で誰も言わないのかなんて理由は俺が一番知っている。
何時までも俺がルゥ姉だのみなのと、ルゥ姉の指揮では勝利が見えないのとではついてく価値が違い過ぎる言った所。
ブレッドではらちが明かないと言う様に「ラン兄!」と叫ぶも
「ディだって本当はわかってるでしょ?
ルゥ姉じゃブルトランには勝てない。
生き残る事も、生きる事も出来ない。
誕生日が来たら死ねなんて僕は納得しないね!
ディがここまで仲間を集めてきた経緯はシルバーから聞いている。
ここに至るまでの道のりも何をして来たかもみんなシルバーから、そして村人の中に紛れ込ませたみんなからも報告は届いている。
だから余計にディに死んでもらうわけにはいかない」
思わぬ暴露にクロームもフリーデルさせ驚きを隠さない顔でランとブレッドを見ていれば
「潜入捜査何て情報調達の基本の基本だろ」
呆れたように当然と言う言葉に確かにそうだけど誰がなんて顔を思い浮かべてももともと知らない顔ばかり。
誰かなんてわかるわけがない。
「お前のやる事なす事にイエンティの所から今までの借りを総て返させてもらったぞ。
それと海辺の村の人達の避難が遅れて申し訳ないってキュプロクスから連絡も来ている」
伝えたぞと言う言葉にどれだけフリュゲールが侵入しているのか、どれほどの規模で混ざっているのか全く気付いてなくてフリーデルやオスヴァルトの顔がますます青くなっている背後から
「シュネル様、陛下、総隊長遅くなりました。
フリューゲル騎士団ヴァレンドルフ隊コンラーディ副隊長以下すべて集結しました」
「ご苦労」
見た事ある顔が、良く見知った顔がそろいの赤い隊服を着て俺達の隣に駆け足で追いかけてきた。
にこやかに、いたずらに成功したと言う顔で
「ディータ殿もお久しぶりです」
「イエンティの奴らは?」
「いつもの通り村に待機して村人に農業の指導をしています。
各村総て何時もの通り農業に従事させています。
後、各国からもぐりこんでる諜報部には王都にフリューゲル王がお出ましになる事は伝えておきました」
「ご苦労」
残してきた村の事が不安だったが、いつもと変わりない様子が続いている事に安堵してしまう。
と言うか、物凄い不穏な言葉を聞いた気がして冷や汗が流れた。
「いいか、作戦とは勝つ為に、その先の未来の為に立てる物だ。
一矢報いる為にブルトランの前に行って終わりじゃない。
ここまで道を描いているのに、後の事は知らないよろしくじゃ残された奴らはやってられんぞ」
確かにと身に沁みる言葉とブレッドの溜息は誰もの心に突き刺さる。
ブレッドの言葉に俺達は如何に身勝手な事をして来たのかと思い知らされると同時に住居と身を立てる術さえあれば何とかなるなんて楽天的な考えだけで置いて来てしまった人達に申し訳なく思う。
人を導く。
恐ろしく時間のかかる事だし、根気の居る事だと改めて痛感する。
教えて終わりでは決してない事を知っていたはずなのに何で放り投げて来たのかと遠い共に過ごした地のある方を眺めて身勝手で申し訳ないと心の中で頭を下げるのだった。
「で、あんたは何時までこんな所でいじけてるの?」
シアーの言葉に頭があげられず、地面にぽたぽたと雫の落ちた模様を眺めていた。
「あんな風に言われて何も言い返さなくていいの?」
らしくないじゃないと言うが、本当に何も言い返せなくて完全に言い負かされた挙句に認めてしまって心が立ち直れないままだ。
「ルーティア様……」
リーナもカヤも心配げに私の側から離れないでいてくれるが一人にしてほしいと思う事こそさらに負けを増やす事になるのだろうからと唇を噛んで吐き出しそうになる言葉を押しとどめる。
「で、あんたはどうするのさ?」
「わ、私が、これだけの人の命を盾にブルトランの前に突き進もうとした私が、着いて行くなんて……」
許されない。
希望を与えれない。
ただ盾となって散れとだけの命令。
未来はない。
そんな残酷な命令しか与えずに貧困と苦労で麻痺した兵士の心理を利用した作戦はブレッドの未来という希望によって一瞬で解けてしまった。
これもあの精霊の魔法なのかと思うも違うと言える。
私だって……
「私だって生き残ってもう一度……」
会いたい顔がある。
抱きしめたい存在がある。
かけがえのない愛しい存在がある!
「もう一度あの子達を抱きしめれるならなんだって!」
「だったら行くわよ。
あの男の言う資格なんてそれで充分じゃない」
あっけらかんとした顔で言うシアーはさらに
「王様だって言ってたでしょ?
最後に辻褄を合わせればいいって。
あんたが自分の子供にもう一度会いたいって言うならそれで十分ここを通り過ぎる権利になるんじゃないかな」
そう言ってなぜかアメリアやリーナによってグイッと腕を掴んで引っ張って城門後地をあっけなく通り過ぎる事になってしまった。
「さあ残ってる奴らもみんな行くわよ。
次の新しい国で胸を張って生きて行くのならいこんな所でさぼってるんじゃないよ!
人手が足りないんだからぼさっとしない!」
シアーの逞しい掛け声に慌てて追いかけて着いて来るのは残っていた僅か全員。
元聖女様の掛け声こそ民衆を動かす力だと、さっきまで俯いていた顔が母親の後ろを着いて来るように追いかけてくる姿すらおかしくて笑えて……
「私は今まで何をしていたのでしょうか」
「ん?
たぶんあのウィスタリアの魔導師どもの悪い魔法にかかってたんじゃない?」
どうでもよさ気に自分自身にしか導き出せない答えにあえてどうでもいいことを言うシアーの横に自らの足で並び
「大分後れを取りました。
先頭集団に合流します!」
遅れて着いてきた者達に声をかけて急ぎ足で一つの隊列を組む様に命じ、シアーとリーナ、アメリア、カヤを連れて先頭を歩くランの隣へと駆け足で向かえば
「よう、遅かったな」
当然やってくると判っていたような顔でブレッドは一瞬私をちらりと見るも、ランはそのまま進行方向に背中を向けたまま歩いてにこにことした顔で私を見て
「待ってたよ。
やっぱりルゥ姉はこうでなくちゃね」
何を持ってこうでなくちゃねと聞きたい所だけど
「何でここにフリューゲル騎士団が居るのです?
それにこの徽章はヴァレンドルフ隊ではありませんか」
何処かで聞いた事のある名前に冷や汗を流してブレッドを見上げればオスヴァルトは有名な隊なのですかと首を傾ける顔に頷いて
「僕の直属の騎士団の9番隊の隊で、四公八家の長が1番から8番に並んでいるから最後のシングルナンバーを勝ち取った実質のエリート集団なんだよ」
「実はだな……
ジルにはどうもブルトランの血が入っているらしく侵入捜査をさせている」
「は?」
「え?」
耳を疑うような言葉に呆然としていれば
「シュネルが言うのだから本当だろうってアルトが……ノヴァエスが侵入捜査を命じて潜り込ませている」
「アルがですって?!」
声をひっくり返して驚くルゥ姉に「なるほど。二人の時はアルなんだ」とブレッドがニヤニヤと笑っていたが
「それでノヴァエスは大丈夫なのですか?!
ジルが居なければ領地運営やらどうなっているのか……」
ブツブツと周囲もえ?そこ???と聞き直すような様子とオスヴァルトがノヴァエスって実質フリュゲールの四公八家の長じゃないのですかと聞いて来るも俺には曖昧にしか答える事が出来ない。
てっきり3人一組な扱いだったから周囲の評価まではそこまで気にした事がなかったが
「おや?私はてっきり四公のアレグローザだと思ってましたが?」
フリーデルはブレッドに確認する様に聞いたが
「アレグローザが名目上のトップだが体が弱くて空気の綺麗な領地から出てこれない。
だから代理でノヴァエスが仕切ってるから実質のトップはノヴァエスだな」
そんな説明に何故かフリュゲール騎士団の皆さんは咳き込み出した様子を胡散臭げにエンバーが眺めながら本当はどうなんだと言う様子に俺も苦笑。
「多分本当だと思う。
俺も結局一度もアレグローザには会えなかったからな」
領地から出れないんじゃしょうがないよとそれでも事務面の仕事を引き受けてくれているのだからいい人だよねと言えば数人の騎士の人が躓いていた。
「アウリールのせいで道が悪いんだから気を付けろよー」
何てブレッドの注意に騎士団の人は下を俯くばかり。
確かに騎士団の人が躓いてるんじゃ恥ずかしいしねとやがて辿り着いた城をぐるりと囲む城壁の門を見上げながら内城門の前に立つ。
当然閉ざされた大きな門を見上げ
「どうするブレッド。
門を壊すか?」
ランの背中に張り付いたままのアウリールの提案にブレッドはそれには及ばないと言って制服のボタンをいくつか外し
「さあお前ら仕事の時間だ。
ジルを探せ」
隊服の内側から現れた小さな4体の妖精達に
「アウアー!プリム!ルクス!チェルニ!」
呼ばれた妖精は俺とルゥ姉を見て驚きながらも喜んでくれた可愛らしい姿を周囲の人達はこれが妖精かと謎のテンションで可愛いとはしゃいでいた。
おっさんがはしゃいでもかわいくない様子にブレッドは溜息を零して
「ほら仕事だ。行け」
そんな命令にあっという間にキラキラした魔力の残滓を残して姿を消した4体に
「何でずっとふところに入れてたのです?
窮屈だったでしょうと言うか、良く潰れませんでしたね」
「ああ見えて妖精は人間が怖い事を知ってる生き物だし、信頼を置く相手しか姿を見せないんだ。
仕事だから出てきたけど、初めて見る人間に慣らすのに何日もかかるか知ってるか?」
と言ってる間ににも意外にも直ぐ近くで4体分の光がくるくると回りながら上昇する合図が見えた。
と言うか……
ガラガラと鎖が滑車を回す音が聞こえる。
一枚岩を二枚使っての30センチ以上の厚さのある天然の素材の扉がゆっくりと開いて行く。
休む間もなく滑車の回る音を聞いていれば扉の隙間からチェルニが姿を現せてせっつく様にブレッドに早く内に入れと言う様に前髪を引っ張るものの、さすがに人一人分通るにはまだ無理で苦笑を零していた。
そんな様子のチェルニにメロメロのおっさん達もすっかりと和んで見守って待っている中、ついに門が開け切って
「ブレッド随分早い到着ご苦労様です。
陛下もお待ちしてました」
数名の門番が地面に転がり、城門を開けさせられたブルトラン兵と門を開ける様に背中に剣を突きつけている顔に息をのむ。
「ジル……」
「隊長御無事で!」
「隊長心配しておりました!」
「隊長!!!」
ヴァレンドルフ隊の皆様が一斉に心配を口にするもこの場の制圧と言う様に転がってる人を縄で縛り、門を開けさせられた人を引き受けて縛り上げていた。
「ディもルゥもお久しぶりです」
言いながら来ていた新兵が纏う簡易的な隊服を脱ぎ棄てれば剣を突きつけられていた男が
「ブルトランを裏切るのか?!」
隊服を脱ぎ棄てたジルに縛られた男は叫ぶも
「裏切るも何も、私の忠誠は陛下とアルトゥール様だけの物ですが?」
当然と頷く王様と平然な顔でジルはブレッドから隊服を受け取って身に纏っていた。
式典ような見た目重視のキラキラとした物ではないもののひざ下までのロング丈の騎士服は副隊長以下が着るショート丈の服とは一目で見た目も美しさも違う為にそれだけで地位の高さがうかがい知れる。
因みにエンバーもクレイも温かいからという理由で未だに脱いでいない。
この場での式典用の隊服と言うだけで偽物感満載なのだが、ジルはこれはこれは可愛らしいと穏やかな目で見守っていた。
「所で貴方も式典用の隊服で乗り込むつもりですか?」
「総隊長の服持ってくるの忘れたからな」
「わざとはいけませんね」
「誰かが後で持ってくるさ。
それよりも他のブルトラン兵の姿は?」
拍子抜けするぐらいあっさりと門を潜れた事にブレッドも疑問を口にすれば
「いくら突撃しても対魔法が施されるこの門が突破される事はないだろうからと、他の門や壁の低い所に人員を配置しておきました。
あんまりに皆さん素直に従ってくれたので戸惑ってるくらいですよ」
何てにこやかに笑うジルにフリーデルさえ引いていた。
「半年ほどの準備期間があればこの程度の情報操作ぐらい当然でしょう。
陛下に戦っていただくまでもない連中です。
さあ、他の部下達の回収に行きましょう。
随分と内部にまで潜り込ませているので出会って三秒でいきなり殲滅だけはやめてくださいね。
それとブレッド、頼まれていた法律書とこの城の地図です。
部下が潜り込んでトラップの配置などを調べてくれました」
「悪いな」
そう言って4体の妖精にこの地図を覚えさせてトラップの解除に行かせる様子を俺達はただ見守るだけ。
「オスヴァルトいいか、こうやって侵入捜査は内部崩壊へと導くように進めるんだ。
フリーデル達とは一旦ここでお別れだ。
いざとなったら門をぶち破る方法はいくらでもあるから俺達の脱出ルートの確保はもちろん俺達が勝戦いだから城内への侵入ルートの確保何て考える必要はない。
ただ逃げようとする奴の確保、もしくは殺しても構わん。
何持ち出されるか判らないから出入りの商売人も全員城内から逃すな。
城なら王族の抜け道とかがあるだろうが……」
「それも記入済みです」
「ならこの地図を見ながら配置を」
そう言ってジルが作らせた城の地図をあっさりとセイジに渡してしまう。
「よろしいのですか?」
王の住まう城の地図何て貴重ですよと言えば覚えたからもういらないとあっさりと言うブレッドにオスヴァルトは慌ててもう一度見て記憶をしていた。
「じゃあ行こうか」
そう言って城内に進む扉を開けて進んでいくランの後を当然と言う様について行くブレッドとジルを追いかけるようにエンバー達も小走りで駆けて行く中に俺もルゥ姉も居た。クロームにクレイ、シアーそしてオスヴァルトとレオン、ジーグルトに何人かのハウオルティアの騎士団にリーナ、カヤ、アメリアにヴァレンドルフ隊の皆さんと行動の制限される狭い城内戦が始まった。




